ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 令和5年10月分から12月分 >>(令和5年12月21日裁決)
(令和5年12月21日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、発注者の依頼により部品を製造するために使用する金型等の製作費用相当額として発注者から支払われた金銭について、部品の量産開始日を含む月から24か月の分割で益金の額に算入していたところ、原処分庁が、請求人が発注者から製作費用相当額を受け取った時点で全額益金の額に算入すべきであるとして法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
- イ 法人税法第22条の2第1項は、内国法人の資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供(以下「資産の販売等」という。)に係る収益の額は、別段の定めがあるものを除き、その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨規定している。
- ロ 法人税法第22条の2第2項は、内国法人が、資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下「公正処理基準」という。)に従って当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の前項に規定する日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合には、同項の規定にかかわらず、当該資産の販売等に係る収益の額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨規定している。
- ハ 消費税法第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定している。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
- イ 請求人について
請求人は、昭和〇年〇月○日に設立された株式会社であり、N社を主たる取引先として、〇〇部品の製造及び販売等の事業を営んでいる。 - ロ 請求人とN社との間の取引関係等について
- (イ) 請求人は、設立以来N社から注文を受けた部品を製造して同社に販売しており、同社との間で、部品に係る購買基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結していた。
- (ロ) 請求人は、N社から注文を受けた部品の製造を開始するに当たって、専らその部品を製造するために使用する金型、治具及び検具(以下「金型等」という。)を都度製作していた。
- (ハ) 請求人とN社は、平成11年9月30日付で、本件基本契約に関する覚書を取り交わし、請求人が所有権を有する金型等について、請求人とN社が合意した製作費用相当額(以下「金型等相当額」という。)をN社が負担することができること、その支払方法を、部品の量産開始日を含む月又は金型等相当額の合意がされた月のいずれか遅い月の翌月から24回の月額均等分割払とすること(以下、当該支払方法を「均等分割払方式」という。)を合意した。
なお、請求人とN社は、平成30年9月27日付で「購買基本契約書(部品関係)」(以下「本件基本契約書」という。)を取り交わし、均等分割払方式による金型等相当額の支払開始を、部品の量産開始日を含む月の翌月からとすることを合意した。
- ハ 金型等相当額の支払方法の変更について
- (イ) N社は、請求人を含めた取引先に対し、令和2年4月23日付「〇〇〇〇」と題する書面を送付し、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急支援策として、N社が支払を終えていない、均等分割払方式による支払が継続中の金型等相当額の残額について、一括払を希望する取引先には、同月30日に一括して支払う旨の案内をした。
- (ロ) 請求人は、上記(イ)の書面を受けて、均等分割払方式による支払が継続中の金型等相当額の残額について、一括払を受けることを希望し、N社に対し、令和2年4月24日付で、当該残額の合計672,112,352円(税抜金額。以下「本件残額一括払費」という。)に、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の額67,211,235円を加えた739,323,587円の一括払を希望する旨の要望書及び請求書を提出した。
- (ハ) 請求人は、N社から、令和2年4月30日に、上記(ロ)の739,323,587円を受領した。
- (ニ) N社は、請求人を含めた取引先に対し、令和2年6月2日付「〇〇〇〇」及び同月4日付「〇〇〇〇」と題する書面を送付し、コロナ禍により経営に影響を受けた取引先の支援策として、令和2年度については、取引先が特に均等分割払方式による支払の継続を希望する場合以外は、新規に契約が成立した金型等に係る金型等相当額(以下「新機種金型等費」という。)を一括払する旨の案内をした。また、上記書面には、生産試作部品の納入が完了し、金型等相当額の合意が成立したものについて、令和2年4月度ないし同年6月度の新規契約分は同年7月27日に、以後、令和2年度中は、毎月末までの新規契約分は翌月25日(金融機関が休業日に当たる場合は翌営業日)に一括払をする旨記載されていた。
- (ホ) 請求人は、N社から、次表のとおり、各入金日に新機種金型等費に消費税等の額を加えた金額を受領した(以下、次表の「新機種金型等費(税抜き)」欄の合計金額1,849,918,334円を「本件新規一括払費」といい、本件残額一括払費と併せて「本件一括払費」といい、本件一括払費をN社が支払った行為を「本件一括払」という。)。
- ニ 請求人の会計処理について
- (イ) 均等分割払方式による金型等相当額
請求人は、金型等相当額の支払方法が均等分割払方式であったときは、部品の量産開始日を含む月から24回にわたり、各月の翌月に支払われる金額を収益に計上していた。 - (ロ) 本件残額一括払費
請求人は、本件残額一括払費について、令和2年4月30日の入金日に、均等分割払方式の際と同様に均等に分割して収益に計上し、残りは前受金勘定又は長期前受金勘定に計上した上で、同年5月以降、本件残額一括払費を均等に分割した額を、毎月末日に金型売上勘定に振り替えて収益に計上していた。 - (ハ) 本件新規一括払費
請求人は、本件新規一括払費について各入金日に前受金勘定及び長期前受金勘定に計上した上で、24回で均等分割した額を、部品の量産開始日を含む月から24回にわたり、毎月末日に金型売上勘定に振り替えて収益に計上していた。 - (ニ) 金型等の製作費用
請求人は、金型等の製作費用を棚卸資産として計上し、部品の量産開始の時点で固定資産に振り替えた後、量産開始日を基準に法定耐用年数(金型2年、治具3年、検具5年)で定額法により算出した減価償却費を製造原価に含めて計上しており、本件一括払費を受領してからも、その会計処理を継続していた。
- (イ) 均等分割払方式による金型等相当額
入金日 | 新機種金型等費(税抜き) | 入金額(税込み) |
令和2年7月27日 | 91,808,334円 | 100,989,167円 |
令和2年8月25日 | 88,540,000円 | 97,394,000円 |
令和2年10月26日 | 1,057,800,000円 | 1,163,580,000円 |
令和2年11月25日 | 611,770,000円 | 672,947,000円 |
合計 | 1,849,918,334円 | 2,034,910,167円 |
(4) 審査請求に至る経緯
- イ 請求人は、令和2年4月1日から令和3年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税、令和2年4月1日から令和3年3月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の地方法人税及び令和2年4月1日から令和3年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等について、別表1ないし3の各「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(法人税及び地方法人税については青色の確定申告書)を、いずれも提出期限(法人税については法人税法第75条の2(令和2年法律第8号による改正前のもの)《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの、地方法人税については地方法人税法第19条(令和2年法律第8号による改正前のもの)第5項の規定により1月間延長されたもの、消費税等については消費税法第45条の2(令和2年法律第8号による改正前のもの)《法人の確定申告書の提出期限の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの)までに提出した。
- ロ 原処分庁は、本件一括払によって収益が実現したものとして、本件一括払費から、本件事業年度の売上げとして計上されている金額(請求人が、上記(3)のニの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件事業年度に前受金勘定又は長期前受金勘定から金型売上勘定に振り替えた金額)を除く金額(以下「本件差額」という。)について、本件事業年度の法人税の所得の金額の計算上、益金の額に算入され、また、本件課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額に該当するとして、令和4年10月28日付で、別表1ないし3の各「更正処分等」欄のとおり、本件事業年度の法人税についての更正処分(以下「本件法人税更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件法人税賦課決定処分」という。)、本件課税事業年度の地方法人税についての更正処分(以下「本件地方法人税更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件地方法人税賦課決定処分」という。)並びに本件課税期間の消費税等の更正処分(以下「本件消費税等更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件消費税等賦課決定処分」という。)をした。
- ハ 請求人は、上記ロの各処分に不服があるとして、令和4年12月23日に審査請求をした。
2 争点
(1) 本件差額は、本件事業年度の法人税の所得の金額の計算上、益金の額に算入され、また、本件課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額となるか否か(争点1)。
(2) 仮に、本件差額を本件事業年度の益金の額に算入した場合、本件一括払の対象とされた金型等に係る固定資産の未償却残高及び棚卸資産の計上額を売上原価として本件事業年度の損金の額に算入すべきか否か(争点2)。
3 争点についての主張
(1) 争点1(本件差額は、本件事業年度の法人税の所得の金額の計算上、益金の額に算入され、また、本件課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額となるか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
次のとおり、本件差額は、本件事業年度の法人税の所得の金額の計算上、益金の額に算入され、また、本件課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額となる。 | 次のとおり、本件差額は、本件事業年度の法人税の所得の金額の計算上、益金の額に算入されず、本件課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額とならない。 |
イ 収益計上時期に係る法令解釈 法人税法上、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、公正処理基準に従うべきであり、収益は、その実現があった時、すなわち、収入すべき権利が確定した時の属する事業年度に計上すべきものと解される。法人が、契約の相手方から金員を収受した場合において、これを自己の管理支配下に置き、所得の実現があったとみることができる状態が生じた時は、その時期の属する事業年度の益金の額に算入すべきである。 |
イ 収益計上時期に係る法令解釈 収益の計上時期は、その実現(権利の確定)の時とするのが原則であるが、法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を唯一の基準とするのは相当でなく、当該法人が、取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる収益計上の基準を選択し、継続してその基準によって収益計上している場合には、その会計処理を正当なものとして是認すべきである。 |
ロ 本件一括払費の性質
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ロ 金型等相当額の性質 金型等に関するN社と請求人との契約は、部品の製作物供給契約に付随するものである。 また、金型等に係る契約は、金型等の製作物供給契約又はこれに準ずるものであり、 ![]() ![]() |
ハ 本件一括払費を収益に計上すべき時期
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ハ 金型等相当額を収益に計上すべき時期 請求人は、部品の量産開始日の翌月から均等分割払方式により支払われる金型等相当額について、従前から部品の量産開始日を含む月から24回にわたり収益計上してきたところ、これは、金型等相当額について、上記ロの ![]() ![]() 毎月の履行義務の充足に係る進捗度が24分の1であることは、金型等相当額が一括払となった後も変わるものではなく、請求人が行っている本件一括払費を24か月にわたり収益計上する会計処理は正当である。 |
ニ 原処分庁の主張に対する反論 | |
(イ) 左記ロの(イ)の![]() |
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(ロ) 左記ロの(ロ)について、本件一括払の時点において、その対象となった金型等の多くは、部品の量産が開始しておらず、金型等として完成すらしていないものもあった。 N社は、本件一括払費について、請求人が事後に返還を要するものではないと明言していない。本件一括払費は、国からの要請を受けて、通常の商取引ではなされない取引について入金されたものであり、本件一括払の時点で、 ![]() ![]() |
(2) 争点2(仮に、本件差額を本件事業年度の益金の額に算入した場合、本件一括払の対象とされた金型等に係る固定資産の未償却残高及び棚卸資産の計上額を売上原価として本件事業年度の損金の額に算入すべきか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
金型等は請求人が所有し、使用する固定資産であり、法人税法第2条《定義》第22号所定の減価償却資産であるため、金型等の製造原価のうち、本件事業年度の損金の額に算入できる金額は、請求人が本件事業年度においてその償却費として損金経理した金額のうち、償却限度額に達するまでの金額となる。 また、金型等に係る棚卸資産の計上額についても、本件一括払費に対応するどのような原価が含まれているか不明である。 よって、本件事業年度の損金の額に算入すべき、本件一括払費に係る売上原価(金型等の製造原価)はない。 |
金型等の製作に要した費用としてN社が負担した本件一括払費をその支払時点で収益と認識するのであれば、請求人が金型等の取得原価として固定資産に計上した、金型等を製作するために要した金額も本件一括払の時点で売上原価として認識すべきである。 本件一括払費と売上原価との対応関係が不明確であることや、減価償却費は償却限度額に達するまでの金額しか損金の額に算入できないことをもって、収入に対応する費用を一切認容することなく課税処分を行うことは、所得の概念を軽視するものであり到底容認できない。 よって、本件一括払の対象である金型等に係る固定資産の未償却残高及び棚卸資産の計上額が、本件事業年度の損金の額に算入すべき本件一括払費に係る売上原価である。 |
4 当審判所の判断
(1) 争点1(本件差額は、本件事業年度の法人税の所得の金額の計算上、益金の額に算入され、また、本件課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額となるか否か。)について
- イ 法令解釈
- (イ) 法人税法は、資産の販売等に係る収益の額は、その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の益金の額に算入することを原則としつつ(同法第22条の2第1項)、公正処理基準に従ってその資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の引渡し又は役務の提供の日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合には、当該事業年度の益金の額に算入するものとしている(同条第2項)。そして、公正処理基準によれば、収益の額は、その実現があった時、すなわち、その収入の原因となる権利(収入すべき権利と同義。以下同じ。)が確定したときの属する年度の益金の額に算入すべきであり(最高裁平成5年11月25日第一小法廷判决・民集47巻9号5278頁参照)、また、その収入の原因となる権利が確定する時期は、それぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきである(最高裁昭和53年2月24日第二小法廷判决・民集32巻1号43頁参照)。
- (ロ) 消費税法には、課税標準の計算の基礎となる課税資産の譲渡等の時期についての明文の規定はないが、消費税法第28条《課税標準》第1項が、課税資産の譲渡等の対価の額について、対価として収受し又は収受すべき一切の金銭等の額とする旨規定していることからすると、課税資産の譲渡等の時期については、法人税法における益金の額に算入すべき時期と同様に解するのが相当である。
- ロ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。- (イ) 本件基本契約書について
本件基本契約書には、要旨次のとおりの定めがある。なお、本件基本契約書に記載の契約条項は、本件一括払の後も変更されていない。- A 第3条第1項
N社が請求人から購入する部品(以下「本件部品」という。)は、次の各号に適合したものでなければならない。- (A) N社が請求人に貸与し、又は開示した本件部品に関する図面、仕様書類、資料並びに検査規格、技術規格及びこれらに準ずる規格等
- (B) 請求人がN社に提出した本件部品に関する図面、仕様書類、資料並びに検査規格及びこれに準ずる規格等
- (C) 本件部品に適用される環境に関する法令・規則及びN社が公開又は請求人に開示する環境に関する調達ガイドラインで定められたアスベスト等の環境負荷物質の使用制限に関する規定
- (D) その他N社と請求人が協議の上決定した事項
- B 第4条第1項
請求人は、本件部品が第3条第1項に定める仕様に適合し、瑕疵のない品質であることを保証し、かつ、この契約の定めに従って品質に関する責任を負うものとする。 - C 第4条第2項
請求人は、N社が定める「〇〇〇〇」に基づき、本件部品の品質管理を行うものとする。 - D 第7条
N社は、検収した本件部品の代金を、毎月末日に締め切り、N社と請求人との合意により別に定める支払条件により、請求人に支払うものとする。 - E 第24条第1項
N社及び請求人は、協議の上、請求人が所有する本件部品の製造又は加工に使用する金型等について、その製作費を本件部品の価格に含めないことを条件として、貸与品とせず、当該金型等の金型等相当額を本条に定めるところに従ってN社の負担とすることができる(以下、本条によりN社が金型等相当額を負担する金型等を「N社負担金型等」という。)。 - F 第24条第2項
金型等相当額の支払条件は、別段の定めがある場合を除き、N社負担金型等により製造又は加工された本件部品の量産開始日を含む月の翌月から無金利の24回の月額均等分割払とする。なお、金型等相当額が分割回数(24回)をもって円単位で除し切れない場合の端数金額については、最終の支払日に支払うものとする。 - G 第24条第3項
N社は、毎月25日までに、当月分の金型等相当額を当月に請求人に支払うべき本件部品の代金と合算して請求人に支払う。 - H 第24条第4項
請求人は、N社負担金型等を善良な管理者の注意をもって保管するものとし、N社負担金型等を廃却若しくは転用しようとする場合、又は第三者に譲渡若しくは貸与等しようとする場合、N社の事前の承認を得なければならない。万一、請求人がN社の事前の承認を得ないでN社負担金型等を廃却若しくは転用した場合、又は第三者に譲渡若しくは貸与等した場合、N社は、未払の金型等相当額の支払を全額免除されるとともに、当該N社負担金型等が本件部品の製造又は加工に使用できないことによって生じる一切の追加費用及び損害を請求人に請求することができる。 - I 第24条第5項
本件部品の取引条件等についてN社と請求人で協議するも合意に至らず本件部品の取引の継続が困難となった場合、請求人が第34条第1項若しくは同条第2項に定める解除事由に該当した場合、又はこの契約若しくは本件部品の取引が理由のいかんを問わず終了した場合、請求人は、N社からの要求に基づいて、次の各号の条件により、N社負担金型等を直ちにN社に引き渡さなければならない。なお、引渡しに必要となる費用は請求人の負担とする。- (A) N社が請求人への金型等相当額の支払を完了したN社負担金型等については、無償とする。なお、この場合のN社負担金型等の所有権は、N社が請求人に引渡しを要求した時に請求人からN社に移転する。
- (B) N社が請求人への金型等相当額の支払を完了していないN社負担金型等については、N社は、合意した支払期日までに、未払の金型等相当額を一括して請求人に支払うものとする。なお、この場合のN社負担金型等の所有権は、N社が未払の金型等相当額を請求人に支払った時、又は当該N社負担金型等が請求人からN社に引き渡された時のいずれか早い時期に請求人からN社に移転する。
- J 第24条第6項
請求人は、第4条で定める品質の本件部品が製造又は加工できるように整備された状態のN社負担金型等をN社に引き渡さなければならず、当該状態とするために修繕等が必要となる場合の費用は、全額請求人の負担とする。
- A 第3条第1項
- (ロ) 金型等の取引の概要
N社と請求人との間で行われる金型等に関する取引の概要は、以下のとおりである。- A N社は、請求人に本件部品の見積りを依頼し、請求人が本件部品及び金型等の見積書をN社に提出する。N社が請求人に本件部品を発注すると決めた場合、請求人に対し、「〇〇〇〇」を交付し、その後「〇〇〇〇」にて、正式に発注する。
- B 請求人は、N社に対し「〇〇〇〇」を送り、N社から「〇〇〇〇」が送付された後、本件部品を製造するために必要な金型等を手配し、N社に対し、金型等の製作費用の見積書を提出する。
- C 請求人は、金型等が一旦成型したら、金型等の写真を撮影してN社に送る。また、本件部品の試作を開始する。
- D 請求人とN社との間で、本件部品の代金及び金型等相当額を幾らにするか交渉し、それぞれ金額を決定する。
- E 請求人は、N社から本件部品の量産について了解を得るまで、本件部品の試作や金型等の改修を行い、N社の了解を得たら、本件部品の量産を開始する。
- F 上記Dの金型等相当額の決定は、本件部品の量産開始前までには行われる。
- (イ) 本件基本契約書について
- ハ 検討
- (イ) 金型等相当額の負担に係る契約の法的性質
- A 金型等相当額の負担に係る請求人とN社との契約(以下「本件金型等契約」という。)は、下記(A)ないし(C)のとおり、請求人からN社に対して、
N社から本件部品の製造に係る準備として金型等の製作を依頼された請求人がこれに応じて金型等を製作するという物の引渡しを伴わない請負契約、
N社が請求人に委託した金型等の維持、管理に係る準委任契約及び
請求人が製作した金型等についてN社に一定の権利を付与する権利設定契約に係る各役務(以下「本件各役務」という。)を提供し、N社から請求人に対して本件各役務の対価として金型等相当額を支払うことを内容とする混合契約と解される。
- (A) 上記
(物の引渡しを伴わない請負契約)について
上記ロの(イ)のAないしCのとおり、本件基本契約書により、請求人は、本件部品をN社が請求人に開示等した図面、検査規格、技術規格及び本件部品に適用される環境に関する法令及び環境に関するガイドラインで定められたアスベスト等の環境負荷物質の使用制限に関する規定等に適合させ(第3条第1項)、本件部品がこれらに適合する瑕疵のない品質のものであることを保証し、かつ、本件基本契約書の定めに従って品質に関する責任を負い(第4条第1項)、N社が定める「〇〇〇〇」に基づき、本件部品の品質管理を行わなければならない(同条第2項)。
また、上記ロの(ロ)のAのとおり、金型等の製作に当たって、請求人がN社から〇〇〇〇の送付を受けていることからすれば、N社から請求人に対し金型等の製作依頼があったものと認められる。
以上のとおり、請求人は、N社から、N社が求める規格(品質)に適合した本件部品を製造することを求められているとともに、本件部品の製造を行う前に、N社の依頼に基づいて金型等を製作する必要があるところ、上記ロの(イ)のEのとおり、本件基本契約書により、本件部品の価格に含めないことを条件として、金型等の製作費に相当する金型等相当額をN社が負担するものとなっていることからすれば、本件金型等契約は、N社から本件部品の製造に係る準備として金型等の製作を依頼された請求人がこれに応じて金型等を製作することで仕事が完成し、その仕事の結果に対する報酬としてN社が請求人に金型等相当額を支払うという一面があるから、本件金型等契約は、物の引渡しを伴わない請負契約(民法第632条《請負》)としての性質を含むものと認められる。 - (B) 上記
(金型等の維持・管理に係る準委任契約)について
上記ロの(イ)のH及びJのとおり、本件基本契約書により、請求人は金型等を善良な管理者の注意をもって保管しなければならず(第24条第4項)、請求人が金型等をN社に引き渡す場合は本件基本契約書の第4条で定める品質の本件部品を製造又は加工できるように整備された状態の金型等を引き渡さなければならず、そのような状態を維持するために金型等の修繕等が必要となる場合は請求人が全額その費用を負担しなければならない(同条第6項)。
これらはN社が請求人に金型等の維持、管理及び保管等に係る事務を委託したものとみられるところ、法律行為でない事務を委託したものとして準委任契約(民法第656条《準委任》)に該当すると認められる。
以上によれば、本件金型等契約は、N社が請求人に委託した金型等の維持、管理に係る準委任契約としての性質を含むものと認められる。 - (C) 上記
(権利設定契約)について
上記ロの(イ)のHないしJのとおり、本件基本契約書により、請求人は、所有する金型等を廃却、転用及び第三者への譲渡又は貸与等をしようとする場合は、事前にN社の承認を得なければならず(第24条第4項)、金型等を使用した部品製造に係る取引が終了した場合、N社からの要求に基づいて、金型等を直ちにN社に引き渡さなければならず(同条第5項)、引渡しの際は、本件基本契約書の第4条に定める品質の部品が製造又は加工できるように整備された状態の金型等をN社に引き渡さなければならない(同条第6項)。
これらは、請求人がN社に対し、請求人が金型等を廃却等しようとする場合に事前承認を求める権利及び本件部品の製造に係る取引が終了した場合に金型等の引渡しを求めることができる権利を設定したものとみられ、本件金型等契約にはこれらの権利を設定する契約としての性質を含むものと認められる。
- (A) 上記
- B 以上のような本件金型等契約の性質を総合すると、本件各役務は、請求人が、専らN社の発注する本件部品を製造するために使用する金型、治具及び検具(金型等)を製作・取得し、N社から金型等の廃却等を許されるまで、製作した金型及び治具を使用して日々本件部品を製造し、製作した検具により本件部品を瑕疵のない品質とするために日々検査をし続けるとともに、日々金型等の維持管理を継続するというものであって、継続的に日々提供されるという特質を有するものである。
- A 金型等相当額の負担に係る請求人とN社との契約(以下「本件金型等契約」という。)は、下記(A)ないし(C)のとおり、請求人からN社に対して、
- (ロ) 金型等相当額の支払請求権の確定時期
上記(イ)のBのとおり、本件金型等契約の目的は、継続的に日々提供される特質を有する本件各役務の提供であって、典型的な請負契約にみられるような物又は仕事の「完成」自体を給付の目的としたり、「一定の出来上がり量」を給付の目的としたりするものではない。このような本件金型等契約に係る給付(業務)の内容、性質及び上記ロの(イ)のD、F及びGのとおり、本件基本契約書において金型等相当額は本件部品の量産開始日を含む月の翌月から24回の月額均等分割払と定められ、前月末日に締め切られる本件部品の代金とともに毎月25日までに当月分を支払う旨定められていること等を総合すると、本件金型等契約の実態は、継続的に日々提供される役務に応じて、1か月を単位として対価が支払われる約定に基づいて、役務の提供が継続し、各月末日の経過ごとに、24回にわたり、過去1か月分の役務に対する代金額が確定し、その支払期日を翌月25日とする契約と認められ、上記ロの(イ)のとおり、金型等相当額の支払に関する本件基本契約書の条項は本件一括払の後も請求人とN社との間で変更されていないことからすれば、上記の本件金型等契約の実態は、本件一括払の後も変わるものではない。
以上によれば、金型等相当額は、均等分割払方式で受領したか一括払で受領したかにかかわらず、本件部品の量産開始日を含む月から24回にわたり、毎月末日の経過でその支払請求権(収入の原因となる権利)が順次確定するものと認められ、上記1の(3)のニの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人が、本件一括払費を均等分割払方式の際と同様に、本件部品の量産開始日を含む月から24回にわたり、毎月末日に収益計上した会計処理は、公正処理基準に適合するものと認められる。 - (ハ) 小括
よって、本件差額は、本件事業年度の法人税の所得の金額の計算上、益金の額に算入されず、また、本件課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額となるとはいえない。
- (イ) 金型等相当額の負担に係る契約の法的性質
- ニ 原処分庁の主張について
- (イ) 原処分庁は、上記3の(1)の「原処分庁」欄のロの(ロ)のとおり、本件一括払費は事後に返還を要するものとはいえない旨主張する。
この点、N社と請求人との間に金型等相当額の返還に関する明示の合意は見当たらないものの、本件一括払の後間もなく請求人がN社負担金型等を廃却等した場合、N社は請求人から本件部品を調達することができなくなるし、上記1の(3)のハの(ニ)のとおり、本件一括払の時点ではいまだ本件部品の生産試作部品が納入されたのみで量産開始に至っていないものもあったことからすれば、N社と請求人との間で、本件一括払費について一切返還を要しないとする合意があったとするのは合理的でない。
むしろ、上記ロの(イ)のHのとおり、本件基本契約書の第24条第4項は、請求人がN社の事前の承認を得ないでN社負担金型等を廃却等した場合、N社は未払の金型等相当額の支払を全額免除される旨定めており、ここにいう「未払の金型等相当額」とは、本件部品の量産開始日を含む月以降毎月末日の経過により各月の支払請求権が確定し同条第2項の定めに基づき24回の月額均等分割払される金型等相当額のうち、いまだ支払請求権が確定していない部分の金額を意味するものと解されることからすれば、請求人がN社から得られる金型等相当額は、支払請求権が確定した範囲に限られ、支払請求権が確定していない金型等相当額を請求人がN社から受領した後に請求人が金型等を廃却等した場合には、請求人は支払請求権が確定していない金型等相当額をN社に返還するというのが、本件基本契約の合理的な解釈である。
よって、本件一括払費が返還不要であるとは言い切れず、原処分庁の主張には理由がない。 - (ロ) 原処分庁は、上記3の(1)の「原処分庁」欄のハの(イ)のとおり、金型等相当額を請求人がN社から受領した時点で所得の実現があったとみることができるから、本件一括払費は、請求人がN社から受領した日の属する事業年度において、その全額を益金の額に算入すべきである旨主張する。
しかしながら、原処分庁は本件一括払費が返還不要であることを上記主張の理由の一つとして挙げるところ、上記(イ)のとおり、本件一括払費は、返還不要とは言い切れない。また、上記主張によれば、いまだ本件各役務が日々継続的に提供され続けている本件残額一括払費の受領時や、本件部品の量産が開始していない本件新規一括払費の受領時において、これらの金額を益金の額に算入すべきこととなるが、これらの金額の受領時においては、本件各役務の全てが請求人からN社に提供されているとはいえないことから、当該受領時において、これらの金額の全てにつき収入すべき権利が確定しているとはいえず、所得の実現があったとみることもできない。
よって、原処分庁の主張には理由がない。 - (ハ) 原処分庁は、上記3の(1)の「原処分庁」欄のハの(ロ)のとおり、本件一括払費について、その権利確定時期を一義的に確定するのは困難であり、本件一括払費を期間の経過に応じて収益計上することは許されない旨主張する。
しかし、上記ハの(ロ)のとおり、金型等相当額に係る支払請求権は、均等分割払方式か一括払かにかかわらず、本件部品の量産開始日を含む月から24回にわたり、毎月末日の経過により確定するものであるから、原処分庁の主張には理由がない。
- (イ) 原処分庁は、上記3の(1)の「原処分庁」欄のロの(ロ)のとおり、本件一括払費は事後に返還を要するものとはいえない旨主張する。
(2) 本件法人税更正処分の適法性について
上記(1)のハの(ハ)のとおり、本件差額は、本件事業年度の法人税の所得の金額の計算上、益金の額に算入されないことから、本件法人税更正処分は違法であり、争点2(仮に、本件差額を本件事業年度の益金の額に算入した場合、本件一括払の対象とされた金型等に係る固定資産の未償却残高及び棚卸資産の計上額を売上原価として本件事業年度の損金の額に算入すべきか否か。)について判断するまでもなく、その全部を取り消すべきである。
(3) 本件法人税賦課決定処分の適法性について
上記(2)のとおり、本件法人税更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件法人税賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。
(4) 本件地方法人税更正処分の適法性について
上記(2)のとおり、本件法人税更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件地方法人税更正処分についてもその全部を取り消すべきである。
(5) 本件地方法人税賦課決定処分の適法性について
上記(4)のとおり、本件地方法人税更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件地方法人税賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。
(6) 本件消費税等更正処分の適法性について
上記(1)のハの(ハ)のとおり、本件差額は、消費税の計算上、本件課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額には含まれないことから、当該更正処分は違法であり、本件消費税等更正処分は、その全部を取り消すべきである。
(7) 本件消費税等賦課決定処分の適法性について
上記(6)のとおり、本件消費税等更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件消費税等賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。
(8) 結論
よって、審査請求には理由があるから、原処分はいずれもその全部を取り消すこととする。
別表1 審査請求に至る経緯(法人税)(省略)
別表2 審査請求に至る経緯(地方法人税)(省略)
別表3 審査請求に至る経緯(消費税等)(省略)