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(令和5年11月9日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続により取得した市街化調整区域内の土地の価額について、財産評価基本通達の定める評価方法に基づく評価額により相続税の申告をした後、当該土地には建築制限等があるため当該評価額の2分の1に相当する金額で評価すべきとして更正の請求をしたのに対し、原処分庁が、財産評価基本通達の定める評価方法によらないことが正当と是認されるような特別の事情はないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、請求人が、その一部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
- イ 相続税法
相続税法第22条《評価の原則》は、同法第3章において特別の定めがあるものを除くほか、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。 - ロ 財産評価基本通達
- (イ) 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成29年9月20日付課評2−46ほかによる改正前のもの。以下「評価通達」という。)1《評価の原則》の(2)は、財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による旨定めている。また、同(3)は、財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべき全ての事情を考慮する旨定めている。
- (ロ) 評価通達7《土地の評価上の区分》は、土地の価額は地目の別に評価し、地目は、課税時期の現況によって判定する旨定めている。
- (ハ) 評価通達11《評価の方式》の(2)は、市街地的形態を形成する地域にある宅地以外の宅地については、倍率方式により評価する旨定めている。
- (ニ) 評価通達21《倍率方式》は、倍率方式とは、固定資産税評価額(地方税法第381条《固定資産課税台帳の登録事項》の規定により土地課税台帳等に登録された基準年度の価格又は比準価格をいう。以下同じ。)に国税局長が一定の地域ごとにその地域の実情に即するように定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する方式をいう旨定めている。
- (ホ) 評価通達21−2《倍率方式による評価》は、倍率方式により評価する宅地の価額は、その宅地の固定資産税評価額に地価事情の類似する地域ごとに、その地域にある宅地の売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額、精通者意見価格等を基として国税局長の定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。
- ハ 都市計画法
都市計画法第43条《開発許可を受けた土地以外の土地における建築等の制限》は、同法第7条《区域区分》第3項に規定する市街化調整区域のうち開発許可を受けた開発区域以外の区域内においては、都道府県知事の許可を受けなければ、同法第29条《開発行為の許可》第1項第2号又は第3号に規定する建築物以外の建築物を新築してはならず、また、建築物を改築し、又はその用途を変更して同項第2号若しくは第3号に規定する建築物以外の建築物としてはならない旨規定している。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
- イ 請求人の父であるD(以下「本件被相続人」という。)は、平成28年6月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
- ロ 本件被相続人の相続人は、長男である請求人及び長女であるEの2名であったところ、遺産分割協議の結果、請求人が本件相続に係る相続財産の全てを取得することとなり、請求人及びEは、平成29年4月18日にその旨の遺産分割協議書を作成した。
上記相続財産には、別表1の順号1ないし3の各土地(以下、それぞれ「本件土地1」、「本件土地2」及び「本件土地3」といい、これらを併せて「本件各土地」という。)が含まれていた。 - ハ 本件各土地の状況は以下のとおりである。
- (イ) 本件各土地は、いずれも本件相続開始日において、市街化調整区域内に所在し、登記上の地目は「田」であり、その位置関係は別図のとおりであるところ、本件各土地は、東側の幅員約7.2mの県道d線(主要地方道e線。以下「本件道路」という。)に接面していた。
- (ロ) 本件土地1及び本件土地2は、本件相続開始日において、本件被相続人が所有する工場(昭和49年築)、物置(昭和54年築)及び倉庫(昭和58年築)等の敷地として利用されていた。なお、本件被相続人は、上記の工場、物置及び倉庫等を、本件被相続人が代表取締役を務めていたF社に無償で貸し付けていた。
- (ハ) 本件土地3は、本件相続開始日において、本件被相続人と請求人とが共有する居宅(平成7年築)等の敷地として利用されていた(以下、当該居宅等と上記(ロ)の各建物等を併せて「本件各建物」という。)。
- ニ G市長は、本件各土地の平成28年度の固定資産税評価額について、現況地目をいずれも宅地として、別表2の「
固定資産税評価額」欄のとおり、その評価額を決定した。
- ホ H国税局長は、評価通達の定めるところに基づき、平成28年分の財産評価基準書において、本件各土地の所在する地域について、いずれも倍率方式により評価する地域に指定し、当該地域の宅地の固定資産税評価額に乗ずる倍率を、別表2の「
倍率」欄のとおり、1.1倍と定めた。
(4) 審査請求に至る経緯
- イ 請求人は、本件相続に係る相続税について、別表3の「申告」欄のとおり記載した申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
その際、請求人は、本件各土地の価額を、それぞれ評価通達の定めに基づいて評価した価額(別表2の「通達評価額」欄の各金額。以下「本件各通達評価額」という。)とした。
- ロ 請求人は、平成30年5月10日に、請求人が相続した財産のうち、本件土地2について租税特別措置法第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》(平成30年法律第7号による改正前のもの)の規定の適用に誤りがあったなどとして、本件相続に係る相続税について、別表3の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を原処分庁に提出した。
- ハ 請求人は、令和4年4月21日に、上記ロの修正申告書における本件各土地の価額に誤りがあったなどとして、本件相続に係る相続税について、別表3の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をした。
- ニ 原処分庁は、本件更正請求に対し、令和4年12月7日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
- ホ 請求人は、令和5年3月3日に、本件通知処分の一部に不服があるとして審査請求をした。
2 争点
本件各通達評価額には、相続税法第22条に規定する時価を上回る違法があるか否か。
3 争点についての主張
請求人 | 原処分庁 |
---|---|
本件各土地には、次の(1)及び(2)のとおり、評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情があり、次の(3)の事情からすれば、本件各土地の価額は、高く見積もっても本件各通達評価額の2分の1に相当する金額となるから、本件各通達評価額には、相続税法第22条に規定する時価を上回る違法がある。 |
評価通達の定める評価方法は、適正な時価を算定する方法として合理性を有していると一般に認められており、本件各土地には、次の(1)及び(2)のとおり、評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情はないから、本件各土地の価額は、評価通達の定める評価方法に従い算定すべきである。 また、次の(3)のとおり、請求人が主張する本件各土地の価額は、時価とはいえず、本件各通達評価額には、相続税法第22条に規定する時価を上回る違法はない。 |
(1) 本件各土地は、市街化調整区域内に所在し、かつ、いわゆる既存宅地(市街化調整区域に関する都市計画が決定等された際、既に宅地であった土地で現在まで継続しているもの)でない土地であるから、都市計画法や農地法による建築制限や売買制限がある。そのため、本件各土地は、J市の許可を得なければ、不特定多数の者が購入することができない土地であるから、その価値が大幅に減少する。 |
(1) 本件各土地には、固有の制限はなく、市街化調整区域内に存する宅地としての制限(原則として建築物を建築することができない制限)のみがあるところ、本件各土地に係る固定資産税評価額においては、![]() ![]() |
(2) 本件各土地の上には、昭和40年代から昭和50年代に本件被相続人等が建築した本件各建物が存在しており、本件各土地を売却しようとすると、本件各建物の取壊しを求められるため、取壊し費用や整地費用等の負担が生じることとなる。 | (2) 本件各建物を取り壊す際に、取壊し費用等の負担が生じるとしても、評価通達には、当該費用の発生をもって、本件各通達評価額が減額される定めはない。 |
(3) 複数の不動産業者に、本件各土地と同じく市街化調整区域内にあり、本件各土地と本件道路を挟んだ向かい側に所在する請求人の伯母が所有するa市f町○−○の土地(以下「本件伯母所有地」という。)を査定してもらったところ、いずれも1坪当たり5万円程度又はそれ以下の査定額であった。 また、令和5年2月に、改めてK社(○○店)に本件各土地の査定を依頼したところ、対応した店員から、役所でいろいろと調査をした結果を踏まえると、1坪当たり2万円か3万円でも買い手がつかない旨説明を受けた。 |
(3) 請求人は、本件伯母所有地又は本件各土地について、不動産業者による査定額が、本件各通達評価額を下回っている旨主張するのみであり、請求人が主張する本件各土地の価額を導き出す過程における、具体的かつ客観的な数値及びその根拠を明らかにしていない。 また、本件更正請求に対する調査においても請求人が主張する価額の根拠となる事実は何ら把握されていない。 |
4 当審判所の判断
(1) 法令解釈
- イ 相続税法第22条にいう「時価」について
相続税法第22条は、同法第3章において特別の定めがあるものを除くほか、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨を規定しているところ、ここにいう時価とは、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。
ところで、相続税法は、地上権及び永小作権の評価(同法第23条)、定期金に関する権利の評価(同法第24条及び第25条)並びに立木の評価(同法第26条)を除き、財産の評価方法について規定を置いていないところ、課税実務においては、評価通達において財産の価額の評価に関する一般的な基準を定めて、画一的な評価方法によって相続等により取得した財産の価額を評価することとされている。このような方法が採られているのは、相続税等の課税対象である財産には多種多様なものがあり、その客観的な交換価値が必ずしも一義的に確定されるものではないため、相続等により取得した財産の価額を上記のような画一的な評価方法によることなく個別事案ごとに評価することにすると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により異なった金額が時価として導かれる結果が生ずることを避け難く、また、課税庁の事務負担が過重なものとなり、課税事務の効率的な処理が困難となるおそれもあることから、相続等により取得した財産の価額をあらかじめ定められた評価方法によって画一的に評価することとするのが相当であるとの理由に基づくものと解される。このような課税実務は、評価通達の定める評価方法が相続等により取得した財産の取得の時における適正な時価を算定する方法として合理的なものであると認められる限り、納税者間の公平、納税者の便宜、効率的な徴税といった租税法律関係の確定に際して求められる種々の要請を満たし、国民の納税義務の適正な履行の確保(国税通則法第1条《目的》、相続税法第1条《趣旨》)に資するものとして、相続税法第22条の規定の許容するところであると解される。
そして、評価対象の財産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有する場合においては、評価通達の定める評価方法が形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いられることによって、基本的には、実質的な租税負担の公平を実現することができるものと解されるのであって、相続税法第22条の規定も租税法上の一般原則としての平等原則を当然の前提としていることに照らせば、特定の納税者あるいは特定の財産についてのみ、評価通達の定める評価方法以外の評価方法によってその価額を評価することは、原則として許されないものというべきである。
その上で、評価対象の財産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであり、かつ、当該財産の相続税の課税価格がその評価方法に従って算定された場合には、相続財産の価額は、評価通達の定める評価方法を画一的に適用することによって、当該財産の時価を超える評価額となり、適正な時価を求めることができない結果となるなど、評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情がない限り、評価通達の定める評価方法によって評価するのが相当であり、評価通達の定める評価方法に従い算定された評価額をもって当該財産の適正な時価を上回るものではないと事実上推認することができるものというべきである。 - ロ 評価通達の定める評価方法の合理性について
- (イ) 評価通達7は、土地の価額は現況の地目の別に評価する旨定めているところ、同通達は、現実の土地利用の実態に即した評価方法を定めるものであり、当審判所もかかる取扱いは相当なものと認める。
- (ロ) 評価通達11の(2)は、市街地的形態を形成する地域にある宅地以外の宅地の評価は、原則として、倍率方式によって行う旨定めているところ、評価通達21は、倍率方式による宅地の評価は、固定資産税評価額に国税局長が一定の地域ごとにその地域の実情に即するように定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。そして、倍率方式により評価する宅地の価額は、評価通達21−2の定めにより、その宅地の固定資産税評価額に地価事情の類似する地域ごとに、その地域にある宅地の売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額、精通者意見価格等を基として国税局長の定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する旨定められている。これらの評価の基準、根拠や計算の過程等に照らせば、かかる倍率方式については、一般的に合理性を有するものであり、当審判所もこれを相当と認める。
(2) 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
- イ J市が、固定資産税における土地の評価事務の基本的事項を定めた「平成27年度評価替 土地評価事務取扱要領」(以下「J市土地評価要領」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
- (イ) J市土地評価要領の第2章《宅地》の第3節《標準宅地の選定》の3《標準宅地の鑑定評価》は、標準宅地の適正な時価は、不動産鑑定士の行う鑑定評価により決定するものとする。
- (ロ) J市土地評価要領の第2章の第8節《市町村長所要の補正》の3《所要の補正の種類》の17は、都市計画法第7条の規定に基づく市街化区域と市街化調整区域との線引き(以下、単に「線引き」という。)以降に登記上宅地となった土地について、宅地利用に関する公法上の規制を考慮し、「線引き後宅地補正」として10パーセントの減価修正を施すものとする。
- ロ J市では、昭和45年11月24日に、市街化区域と市街化調整区域との線引きがされているところ、上記1の(3)のハの(ロ)及び(ハ)のとおり、線引き後に本件各土地の上に本件各建物が建築されていることから、本件各土地は線引き以降に宅地となったものと認められ、本件各土地は、上記1の(2)のハのとおり、都市計画法第43条により建築物の建築制限を受ける土地となる。なお、請求人が主張する「いわゆる既存宅地でない土地」とは、線引き以降に宅地となった土地をいうものと解される。
- ハ G市長は、本件各土地の平成28年度の固定資産税評価額の算定に当たり、固定資産評価基準及び上記イのJ市土地評価要領に基づいて、次の手順に従って決定した。
- (イ) 本件各土地と状況が類似する市街化調整区域内にある標準宅地を選定し、上記イの(イ)のとおり、不動産鑑定士による市街化調整区域の市場の特性等を考慮した鑑定評価を行い、これを基に本件道路の固定資産税評価における路線価(以下「固定資産税路線価」という。)を算定した。
- (ロ) 本件各土地について、本件道路の固定資産税路線価を基に画地補正を行った上で、線引き後宅地補正(上記イの(ロ))として本件道路の固定資産税路線価に10パーセントの減価修正を行い、別表2の「
固定資産税評価額」欄の各欄のとおり、本件各土地の平成28年度の固定資産税評価額を決定した。
- ニ H国税局長は、上記(1)のロの(ロ)のとおり、評価通達11の(2)、21及び21−2の定めに基づいて、本件各土地が存するa市g町の市街化調整区域を地価事情の類似する地域として、この類似地域内に宅地の標準地を選定して評定し、別表2の「
倍率」欄のとおり、平成28年分の固定資産税評価額に乗ずる倍率を決定した。
(3) 検討
- イ 本件各通達評価額について
本件各土地の本件相続開始日における現況は、上記1の(3)のハの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件各建物の敷地として利用されている宅地であったことから、本件各土地の価額については、上記(1)のロの(イ)のとおり、地目を宅地として評価することとなるところ、上記(2)のハのとおり、市街化調整区域内に所在する本件各土地の評価の基礎となる平成28年度の固定資産税評価額は、J市土地評価要領等に従い決定されており、また、上記(2)のニのとおり、本件各土地に適用される固定資産税評価額に乗ずる倍率は適正に評定されたものであり、いずれもその算定過程等に不合理な点は認められないから、本件各土地については、評価通達の定める評価方法により評価することが相当である。
そして、本件各通達評価額は、評価通達の定める評価方法に従って算定されており、当審判所の調査の結果によれば、いずれも算定過程に誤りは認められない。
そうすると、上記(1)のイのとおり、本件各土地について、評価通達の定める評価方法を画一的に適用することによって、本件各土地の時価を超える評価額となり、適正な時価を求めることができない結果となるなど、評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情がない限り、本件各通達評価額は本件各土地の適正な時価を上回るものではないと、事実上推認することができることになる。
そこで、本件各土地に評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情が存在するか否かについて、以下検討する。 - ロ 特別の事情の存否について
- (イ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、本件各土地について評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情として、本件各土地が市街化調整区域内に所在し、かつ、線引き以降に宅地となった土地であることを主張する。
確かに、本件各土地は、上記(2)のロのとおり、市街化調整区域内に所在し、線引き以降に宅地となった土地であるため、都市計画法第43条により建築物等の建築等を制限されるものと認められる。
しかし、上記(2)のハのとおり、本件各土地に係る平成28年度の固定資産税評価額の算定においては、不動産鑑定士による市街化調整区域の市場の特性等を考慮した鑑定評価に基づき、本件道路の固定資産税路線価を算定した上、本件各土地について線引き後宅地補正(上記(2)のイの(ロ))として建築制限等を考慮した減価修正がされたものと認められることから、請求人が主張する事情は、本件各通達評価額を算定する前提となる固定資産税評価額の算定において既に考慮されているものと認められる。
また、本件各土地は、上記1の(3)のハの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件相続開始日より前から工場(昭和49年築)、物置(昭和54年築)、倉庫(昭和58年築)等及び居宅(平成7年築)等の敷地の用に供され宅地として利用されていること、固定資産税評価額の算定においても現況の地目は宅地とされていること、別図のとおり市街化区域に隣接して主要地方道沿いの建物が連続して立ち並ぶ地域に存することからすれば、本件各土地について、登記上の地目が「田」であることから売買に当たり農地法関連の諸手続の費用が掛かるという意味での売買制限があるとしても、このような制限が本件各土地の価額に影響を及ぼすべき事情となるとは認められない。
したがって、請求人が主張する事情は、評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情に該当しない。 - (ロ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のとおり、本件各土地の上には本件各建物があり、売却しようとすると取壊しを求められ取壊し費用等を負担することとなるから、評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情がある旨主張する。
しかしながら、上記1の(3)のハの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件相続開始日において本件各土地の上には本件各建物が存在し、F社の工場等及び本件被相続人と請求人との居宅等として使用されている状況にあって、本件各建物の取壊し費用等を本件各土地の価額に反映させるべき事情は見当たらず、本件各建物の存在は本件各土地の客観的交換価値に影響を及ぼす事情といえない。
したがって、本件各建物の存在は、評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情に該当しない。
- (イ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、本件各土地について評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情として、本件各土地が市街化調整区域内に所在し、かつ、線引き以降に宅地となった土地であることを主張する。
- ハ 小括
- (イ) 上記ロの各事情は、本件各土地について評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情とは認められず、その他当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件各土地について評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情は認められないことから、本件各通達評価額は、いずれも適正な時価を上回るものではないと事実上推認することができる。
- (ロ) よって、本件各通達評価額に、相続税法第22条に規定する時価を上回る違法があるとは認められない。
(4) その他の請求人の主張について
請求人は、上記3の「請求人」欄の(3)のとおり、本件各土地の価額は、本件各通達評価額ではなく、高く見積もっても本件各通達評価額の2分の1に相当する金額となることの根拠として、複数の不動産業者に本件各土地又は本件伯母所有地の査定を依頼したところ、その査定額は1坪当たり5万円程度又はそれ以下であった旨、及び令和5年2月に、改めて別の不動産業者に本件各土地の査定を依頼したところ、1坪当たり2万円か3万円でも買い手がつかないなどと説明を受けた旨を主張する。
しかしながら、上記(3)のロ及びハのとおり、本件各土地について評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情は認められないことに加えて、当審判所の調査及び審理の結果によっても、請求人が本件各土地の時価の根拠として主張する上記各査定額については、客観的な数値及び具体的な算定根拠が明らかではないから、そのような査定額をもって、本件相続開始日における本件各土地の客観的交換価値たる時価と認めることはできない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(5) 本件通知処分の適法性について
上記(3)のとおり、本件各土地について、評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情があるとは認められない。
そして、当審判所において、本件各通達評価額を基に請求人の相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表3の「修正申告」欄の「課税価格」欄及び「納付すべき税額」欄と同額となるから、国税通則法第23条《更正の請求》第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。
また、本件通知処分のその他の部分について請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件通知処分は適法である。
(6) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 本件各土地の明細(省略)
別表2 本件各土地の価額(省略)
別表3 審査請求に至る経緯(省略)
別図 本件各土地の位置関係(省略)