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(令和5年12月14日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、納税者J1社が、審査請求人(以下「請求人」という。)に不動産及び生命保険契約の契約上の地位等を役員退職慰労金として支給したことについて、原処分庁が、当該支給の額は役員退職慰労金として相当と認められる金額と比較して対価的均衡を著しく欠くものであるから、当該支給は著しく低い額の対価による譲渡に該当するとして、請求人に第二次納税義務の告知処分を行ったのに対し、請求人が、当該不動産は請求人に帰属する財産であって譲り受けた財産ではないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
- イ 国税徴収法(令和3年法律第11号による改正前のものをいい、以下「徴収法」という。)関係
- (イ) 徴収法第32条《第二次納税義務の通則》第1項は、国税局長(同法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読替え後のもの)は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない旨規定している。
- (ロ) 徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下、これらの処分を「無償譲渡等の処分」という。)に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他滞納者と特殊な関係のある個人又は同族会社で政令で定めるもの(以下「親族その他の特殊関係者」という。)であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
- (ハ) 国税徴収法施行令第14条《無償又は著しい低額の譲渡の範囲等》第2項柱書は、徴収法第39条の親族その他の特殊関係者は、同項各号に掲げる者とする旨規定し、同項第1号は、滞納者の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹を、同項第5号は、滞納者が法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社である場合には、その判定の基礎となった株主又は社員である個人及びその者と国税徴収法施行令第14条第2項第1号ないし第4号のいずれかに該当する関係がある個人をそれぞれ掲げている。
- (ニ) 国税徴収法基本通達(昭和41年8月22日付徴徴4−13ほか国税庁長官通達。以下「徴収法基本通達」という。)第39条関係11《親族その他の特殊関係者》は、徴収法第39条の親族その他の特殊関係者に該当するかどうかの判定は、原則として、無償譲渡等の処分の基因となった契約が成立した時の現況によるものとする旨定め、同通達第39条関係11−5《判定の基礎となった株主又は社員である個人》は、国税徴収法施行令第14条第2項第5号の同族会社の株主又は社員の1人又は2人の有する株式又は出資が、発行済株式又は出資の総数又は総額の50%を超える場合等においては、同号の「判定の基礎となった株主又は社員である個人」は、その1人又は2人の株主又は社員のうちの個人に限る旨定めている。
- (ホ) 徴収法基本通達第39条関係16《特殊関係者の場合の納税義務の範囲》の(1)は、徴収法第39条の「受けた利益」の額は、無償譲渡等の処分により、滞納者から受けた利益が金銭であるときはその額を、金銭以外のものであるときは無償譲渡等の処分がされた時の現況によるそのものの価額から同通達第39条関係12《受けた利益が金銭以外のものである場合》の(6)のイ及びロに掲げる額、すなわち、そのものを譲り受けるために支払った対価の額(無償譲渡等の処分があった時の対価の額)及びそのものの譲受けのために支払った費用及びこれに類するもののうち、そのものの譲受けと直接関係のあるものの額(例えば、契約に要した費用、不動産取得税、登録免許税(これらの租税に係る附帯税を除く。)、源泉徴収された所得税等がある。以下「譲受けに係る直接費用」という。)を控除した額を算定する旨定めている。
- ロ 法人税法関係
- (イ) 法人税法第2条第15号は、役員とは、法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるものをいう旨規定している。
- (ロ) 法人税法第34条《役員給与の損金不算入》第2項は、内国法人がその役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。
- (ハ) 法人税法施行令第7条《役員の範囲》柱書は、法人税法第2条第15号に規定する政令で定める者は、法人税法施行令第7条各号に掲げる者とする旨規定し、同条第1号は、法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限る。)以外の者でその法人の経営に従事しているものを掲げている。
- (ニ) 法人税法施行令第70条《過大な役員給与の額》(令和3年政令第39号による改正前のもの。以下同じ。)第2号は、法人税法第34条第2項に規定する政令で定める金額は、内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するもの(以下「同業類似法人」という。)の役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額とする旨規定している。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
- イ 当事者等について
- (イ) 滞納会社について
- A 納税者J1社(以下「本件滞納会社」という。)は、昭和50年7月○日に商号を「J2社」として設立された法人である。
本件滞納会社の設立時の本店所在地は、e市f町○−○であったが、その後、平成8年8月にg市h町○−○に移転した。 - B 本件滞納会社の令和2年7月31日(下記ハの(イ)の臨時株主総会)時点の株式は、請求人が32,200株、本件滞納会社の代表取締役であり請求人の長男であるG2氏(以下「本件代表者」という。)が27,800株、請求人の妻であるG3氏(以下「請求人妻」という。)が6,000株、G4氏が4,000株及び本件滞納会社が10,000株をそれぞれ保有しており、本件滞納会社は、請求人及び本件代表者が自己株式を除く発行済株式総数の50%を超える数を保有することから、法人税法第2条第10号に規定する同族会社であった。
- C 本件滞納会社は、令和3年12月○日、商号を「J2社」から「J1社」に変更した。
- D 本件滞納会社は、令和○年○月○日、K地方裁判所により破産手続開始の決定を受け、同年○月○日に破産手続廃止の決定を受けた。
- A 納税者J1社(以下「本件滞納会社」という。)は、昭和50年7月○日に商号を「J2社」として設立された法人である。
- (ロ) 請求人について
- A 請求人は、平成17年7月31日まで本件滞納会社の代表取締役に就任しており、同日、代表取締役及び取締役を辞任した。
また、本件滞納会社は、平成17年7月31日の臨時株主総会において、請求人に対し、役員退職慰労金として〇〇〇〇円を支給する旨の決議をした。 - B その後、請求人は、平成23年9月12日に本件滞納会社の取締役に再度就任し、令和2年7月31日に取締役を辞任した(以下、請求人が本件滞納会社の役員に就いていなかった平成17年7月31日の翌日から平成23年9月12日の前日までの期間を「本件役員退任期間」という。)。
- A 請求人は、平成17年7月31日まで本件滞納会社の代表取締役に就任しており、同日、代表取締役及び取締役を辞任した。
- (イ) 滞納会社について
- ロ 請求人及び本件滞納会社の不動産の売買等について
- (イ) 請求人は、昭和46年9月28日、別表1記載の土地(以下「本件土地」という。)を売買により取得し、昭和47年2月20日、本件土地上に建物(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件不動産」という。)を建築して取得した(なお、上記の請求人による本件土地に係る所有権移転及び本件建物に係る所有権保存は、それぞれ登記されている。)。
- (ロ) 本件不動産に係る平成23年7月20日付の土地建物売買契約書(以下、この契約書を「本件売買契約書」といい、本件売買契約書に係る売買契約を「本件売買契約」という。)には、要旨次のとおり記載されている(なお、本件売買契約による所有権移転登記はされていない。)。
- A 売主 請求人
- B 買主 本件滞納会社
- C 売買代金 〇〇〇〇円(本件土地〇〇〇〇円、本件建物零円)
- D 対象財産 本件不動産
- (ハ) 本件建物に係る平成23年7月20日付の建物賃貸借契約書(以下、この契約書を「本件賃貸借契約書」といい、本件賃貸借契約書に係る賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
- A 賃貸人 本件滞納会社
- B 賃借人 請求人
- C 賃料 1か月81,000円
- ハ 請求人に対する役員退職慰労金の支給について
- (イ) 本件滞納会社は、令和2年7月31日、臨時株主総会を開催し、請求人に対し、役員退職慰労金を支給する旨の決議をした(以下、同決議のことを「本件支給決議」といい、本件支給決議により請求人に支給された役員退職慰労金のことを「本件支給」という。)。
- (ロ) 本件支給に係る退職金支払明細書の内容は、次表のとおりであり、内訳欄に記載の「土地」は、上記ロの(ロ)のとおり、本件建物(売買代金零円)を含む本件不動産を指す。
なお、本件不動産に係る本件支給決議時の時価は、○○○○円であった。 - (ハ) 請求人が本件滞納会社の取締役を辞任する直前に支給された役員報酬の月額は、〇〇〇〇円であった。
- (ニ) 本件滞納会社は、本件支給に係る「未収入金(貸付金利息)」として、請求人への役員貸付金に対する利息相当分〇〇〇〇円について、債務免除をした。
- (ホ) 本件滞納会社は、令和2年8月3日、J3社に対し、別表2の生命保険契約(以下「本件保険契約」という。)の契約者を本件滞納会社から請求人に変更することを請求し、同日、本件保険契約の契約者は変更された。
なお、本件保険契約の契約者変更時(契約上の地位の譲渡時)の解約返戻金に相当する額は、〇〇〇〇円であった。
支給額 役員退職金 〇〇〇〇円 <内訳> 土地 〇〇〇〇円 未収入金(貸付金利息) 〇〇〇〇円 保険解約返戻金 〇〇〇〇円 現金 〇〇〇〇円 合計 〇〇〇〇円 控除額 源泉所得税(復興特別所得税含む) 〇〇〇〇円 市民税 〇〇〇〇円 県民税 〇〇〇〇円 合計 〇〇〇〇円 差引支給額 〇〇〇〇円
(4) 審査請求に至る経緯
- イ 本件滞納会社は、令和2年5月29日、同年4月分の源泉所得税及び復興特別所得税(以下「源泉所得税等」という。)に係る納税の猶予申請書をL税務署長に提出し、同年7月3日にL税務署長から納税の猶予の許可を受けたが、その後も納税が困難な状況は変わらず、さらに、同年12月8日、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)○○○○円に係る納税の猶予申請書をL税務署長に提出し、下記ロの徴収の引継ぎを受けた原処分庁から、令和3年1月5日から同年9月30日までの間の納税の猶予の許可を受けた。
- ロ 原処分庁は、本件滞納会社が納付すべき滞納国税について、令和3年2月4日から令和4年6月2日まで順次、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、L税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
- ハ 本件滞納会社の令和4年6月20日現在における滞納国税は、別表3のとおりである。
- ニ 原処分庁は、本件滞納会社の財産に滞納処分を執行してもなお別表3の滞納国税(ただし、法定納期限の1年前の日前に無償譲渡等の処分が行われたこととなる番号5、6及び31ないし40を除く。以下「本件滞納国税」という。)に不足することから、本件滞納国税を徴収するため、本件支給のうち本件不動産及び本件保険契約の契約上の地位の譲渡時の価額の合計〇〇〇〇円(内訳は、本件不動産〇〇〇〇円、本件保険契約の契約上の地位〇〇〇〇円)が、請求人に対する役員退職慰労金として相当と認められる金額〇〇〇〇円と比較して著しく低い額の対価による譲渡であり、その差額の○○○○円について徴収法第39条に規定する著しく低い額の対価による譲渡に該当するとして、令和4年6月20日付で、請求人に対し、同法第32条第1項の規定に基づき、納付通知書により告知した(以下、この納付通知書による告知を「本件告知処分」という。)。
なお、本件告知処分において、請求人に対する役員退職慰労金として相当と認められる金額を〇〇〇〇円と算定した根拠については、平均功績倍率法(同業類似法人の役員退職給与の支給事例における功績倍率の平均値に退職する役員の最終報酬月額(法人の役員を辞任又は退任する直前の役員報酬の月額)及び勤務年数を乗じて役員退職給与として相当な額を算定する方法)を用いて、本件滞納会社の同業類似法人の平均功績倍率を2.45倍、請求人の最終報酬月額を〇〇〇〇円、請求人の役員勤務年数(以下、請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額の計算において用いる請求人の役員勤務年数を「本件役員勤務年数」という。)を9年として算定したものであった。 - ホ 請求人は、本件告知処分を不服として、令和4年9月8日に再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年11月30日付で棄却の再調査決定をした。
- ヘ 請求人は、再調査決定を経た後の本件告知処分に不服があるとして、令和4年12月30日に審査請求をした。
2 争点
(1) 本件不動産は、本件支給決議によって本件滞納会社から請求人に譲渡された財産か否か(争点1)。
(2) 本件支給は、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当するか否か(争点2)。
3 争点についての主張
(1) 争点1(本件不動産は、本件支給決議によって本件滞納会社から請求人に譲渡された財産か否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
次のことからすれば、本件不動産は、本件支給決議によって請求人に譲渡された財産である。 | 次のことからすれば、本件不動産は、本件支給決議によって請求人に譲渡された財産ではない。 |
イ 本件売買契約について | イ 本件売買契約について |
(イ) 本件滞納会社及び請求人は、平成23年7月20日付で、本件売買契約書を作成した。 | (イ) 平成23年7月20日に本件不動産を本件滞納会社に売却したことにしたのは、本件滞納会社の使途不明金を請求人に対する貸付金に振り替えた残高が100,000,000円近くにも膨れ上がり、その金額を消し込むための便法として、帳簿上、本件滞納会社から請求人に対する売買代金の支払を発生させ、請求人の貸付金と消し込んだものであり、飽くまで本件滞納会社の帳簿上の処理にすぎない。 |
(ロ) 本件売買契約に基づく売買代金については、本件滞納会社が請求人に対して有する貸付金と相殺されることにより精算された。 | (ロ) 請求人は、本件滞納会社から本件不動産の売買代金を全くもらっていない。 |
(ハ) 請求人及び本件代表者は、本件売買契約に基づく本件不動産の請求人から本件滞納会社への所有権移転が実際にあったと認識している。 | (ハ) 本件不動産の登記名義は請求人のままであった。また、原処分庁は、請求人と本件滞納会社との間の本件売買契約については、「第三者」の立場にあるから、民法第177条により、所有権の登記を有する請求人に対して、本件滞納会社が所有権を取得したことを対抗し得ず、請求人と原処分庁との間では、本件不動産の所有権は請求人が有したままであったことになる。 |
(ニ) 本件不動産の登記簿上は、請求人が所有者として登記されているが、物権の設定及び移転に関する登記は、民法第177条《不動産に関する物権の変動の対抗要件》に基づく第三者対抗要件にすぎず、本件売買契約に基づく所有権移転及び本件支給決議に基づく所有権移転について、それぞれ登記がされていないことは、これらの所有権移転の不存在を基礎づけるものではない。 | |
ロ 本件賃貸借契約について 本件滞納会社及び請求人は、平成23年7月20日付で、本件賃貸借契約書を作成した。また、本件滞納会社は、月額81,000円の賃料を請求人の報酬から控除し、賃貸料収入として同額を計上するという処理をしており、平成23年7月20日から本件支給決議に基づく所有権移転までの間、本件賃貸借契約によって、本件不動産の所有者として収益を得ていた。 |
ロ 本件賃貸借契約について 本件滞納会社の帳簿上は本件不動産を所有していることから、つじつまを合わせるために、本件賃貸借契約を締結したことにして、賃料収入を計上していたものにすぎず、その支払は請求人に対する報酬から充当された形で経理処理されていただけで、実際には請求人は本件滞納会社に賃料を支払っていない。 |
ハ 固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)について 本件不動産の固定資産税等は、少なくとも、本件支給時前の2年分については、本件滞納会社名義の預金口座の残高から出金した資金又は現金により納付され、本件滞納会社の総勘定元帳上も、本件滞納会社が納付したものとして費用計上されており、本件滞納会社が負担していた。 |
ハ 固定資産税等について 本件不動産の固定資産税等は、本件売買契約の後も引き続き請求人が負担していた。 |
ニ 小括 上記イないしハからすれば、本件不動産の所有権は、本件売買契約に基づき、請求人から本件滞納会社に移転し、その後、本件支給決議によって請求人へ移転したから、本件不動産は、本件支給決議によって請求人に譲渡された財産である。 |
ニ 小括 上記イないしハからすれば、本件不動産の所有権は、本件売買契約が仮装の取引であったので、請求人から本件滞納会社に移転しておらず、請求人が有したままであったから、本件不動産は、本件支給決議によって請求人に譲渡された財産ではない。 |
(2) 争点2(本件支給は、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当するか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
次のとおり、本件支給は、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当する。 | 次のとおり、本件支給は、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当しない。 |
イ 請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額の算定方法について 法人の役員の役員退職給与のうち過大な部分がある場合に、その過大な部分について、徴収法第39条の無償譲渡等の処分に該当するか否かは、当該法人と同業種、類似規模の法人の役員退職給与の支給事例から功績倍率の平均値を算定し、その平均値に、過大な役員退職給与を支給されたか否かが問題とされている役員の最終報酬月額及び勤務年数を乗じて算定した金額をもって、その役員に対する相当な役員退職給与の金額とする平均功績倍率法によって求めた相当とされる役員退職給与の金額と、実際に支給された役員退職給与の金額の乖離の程度に加えて、当該役員の職務又は功労の内容、程度、勤務年数のほか当該役員退職給与が支給されるに至った具体的事情等をも考慮して判断するのが相当であると解される。 |
イ 請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額の算定方法について 本件は、請求人の適正な役員退職慰労金の金額を算定するという問題ではなく、役員退職慰労金としては認められない過剰な部分については、役員退職慰労金ではなく、「資産の譲渡」に該当すると判断して、その部分について第二次納税義務を課すというものであるから、他社では認められる高い功績倍率が請求人について適用できないのは不公平になるため、請求人の役員退職慰労金として認められる最高金額を算定する必要がある。 |
ロ 請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額について 次のことから、請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額は〇〇〇〇円である。 |
ロ 請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額について 次のことから、請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額は〇〇〇〇円である(仮に、請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額が上記金額ではないとしても、〇〇〇〇円である。)。 |
(イ) 本件滞納会社の同業類似法人の選定及び功績倍率について
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(イ) 本件滞納会社の同業類似法人の選定及び功績倍率について 請求人の役員退職慰労金の算定に当たっては、少なくとも原処分庁が提示している最高功績倍率である法人(原処分庁が原処分時に平均功績倍率の算定に当たり選定した、別表6の本件滞納会社の同業類似法人2社(以下「本件当初2社」という。)のうちの1社)の功績倍率である3.09倍を適用するべきである。 仮に、平均功績倍率法による場合でも、本件類似4社の選定に当たり、本件滞納会社の売上高と比較して10分の1から10倍の売上高の範囲の法人に対象を広げ、あえて功績倍率が低い企業を意図的かつ恣意的に選択しており不当であるから、本件当初2社の平均功績倍率である2.45倍が妥当である。 |
(ロ) 本件役員勤務年数について 請求人は、平成17年7月31日に代表取締役を辞任した後、本件代表者の意思決定について相談に乗っていたものの、主に従業員教育を担当しており、決算説明の内容はよく把握しておらず、本件代表者に任せていたのであり、取締役に就任していない平成17年8月1日から平成23年9月11日までの期間において、請求人が実質的に本件滞納会社の経営に従事していたとは認められないから、この期間は本件役員勤務年数に算入できず、請求人の本件役員勤務年数は9年である。 |
(ロ) 本件役員勤務年数について 請求人は、登記上の取締役に就任していなかった平成17年8月1日から平成23年9月11日までの6年間も、実質的には役員であったから、役員退職慰労金を計算する上ではこの期間も本件役員勤務年数に算入すべきであり、請求人の本件役員勤務年数は15年である。 |
(ハ) 請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額について 上記(イ)の平均功績倍率1.09倍に、請求人の最終報酬月額〇〇〇〇円及び上記(ロ)の本件役員勤務年数9年を乗じて算定した金額は、〇〇〇〇円である。 |
(ハ) 請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額について 上記(イ)の最高功績倍率3.09倍に、請求人の最終報酬月額〇〇〇〇円及び上記(ロ)の本件役員勤務年数15年を乗じて算定した金額は、〇〇〇〇円である。仮に、平均功績倍率法による場合でも、上記(イ)の本件当初2社の平均功績倍率2.45倍に、請求人の最終報酬月額〇〇〇〇円及び上記(ロ)の本件役員勤務年数15年を乗じて算定した金額は〇〇〇〇円である。 |
ハ 本件支給の額について 請求人が本件滞納会社から役員退職慰労金として受け取った本件支給の額は、〇〇〇〇円(本件不動産の時価の価額〇〇〇〇円、本件保険契約の契約上の地位の譲渡価額〇〇〇〇円、未収入金(貸付金利息)〇〇〇〇円及び現金〇〇〇〇円)である。 |
ハ 本件支給の額について 請求人が本件滞納会社から役員退職慰労金として受け取った本件支給の額は、〇〇〇〇円(本件保険契約の契約上の地位の譲渡価額)だけである。上記(1)のとおり、本件不動産は本件支給決議によって譲渡されておらず、また、未収入金(貸付金利息)〇〇〇〇円及び現金〇〇〇〇円は、仕訳上において請求人が役員退職慰労金として受け取ったとされている財産である。 |
ニ 徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当すること 次の事情を考慮すると、本件支給は、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当する。 |
ニ 徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当しないこと 請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額は〇〇〇〇円(仮に、平均功績倍率法による場合は〇〇〇〇円)であり、本件支給の額は〇〇〇〇円であるから、本件支給は、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当しない。 |
(イ) 請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額は〇〇〇〇円であることから、本件支給の額〇〇〇〇円は対価的均衡を著しく欠いている。 | |
(ロ) 請求人は、本件滞納会社の経営に主体的に関与していない。 | |
(ハ) 請求人は、平成17年7月に本件滞納会社から、役員退職慰労金〇〇〇〇円の支給を受けており、現金支給がほとんどないとしても、請求人の本件滞納会社に対する借入金債務と役員退職慰労金債権が相殺されていることから、役員退職慰労金〇〇〇〇円相当の利益を受けている。 | |
(ニ) 本件支給決議は、請求人の取締役としての職務執行及び功労に応じることよりも、本件不動産を本件滞納会社から請求人に戻すこと及び請求人を被保険者とする本件保険契約の契約者を本件滞納会社から請求人に変更することを主な目的として行われた。 |
4 当審判所の判断
(1) 争点1(本件不動産は、本件支給決議によって本件滞納会社から請求人に譲渡された財産か否か。)について
- イ 認定事実
- (イ) 本件不動産の固定資産税等は、平成22年度第2期分ないし平成23年度第4期分は請求人名義の普通預金口座から支払われ、平成24年度第1期分ないし平成29年度第3期分のうち納付状況が確認できるものは、本件滞納会社名義の普通預金口座から支払われている。
- (ロ) 本件滞納会社は、令和元年8月ないし令和2年7月の各月に請求人に対して支払った役員給与の計算において、本件不動産の賃料月額81,000円を「社宅・寮費」として控除した。
- (ハ) 請求人が平成元年12月21日に売買により取得したi市j町○−○所在の区分所有建物(建物の名称、○○○○。以下「Pマンション」という。)には、請求人を債務者、抵当権者をJ4社、債権額を60,000,000円とする抵当権が設定されているところ、当該抵当権に係る被担保債権については、毎月、請求人の預金口座から引き落とされて弁済されているが、その直前に、本件滞納会社が当該預金口座に引落し相当額の金員を振り込んでいる。
- ロ 本件不動産に関する関係人の申述及び答述内容とその信用性について
- (イ) 本件代表者の令和4年3月30日付の質問応答記録書及び令和5年6月12日付の陳述書における各申述、同年7月25日付の質問調書における答述の要旨
- A 本件売買契約について
- (A) 本件滞納会社は、平成23年当時、本件滞納会社の関与税理士であったG5税理士からの提案を受けて、それまでに発生した本件滞納会社の使途不明金などを一括処理して整理するために、一旦、当該使途不明金を請求人への役員貸付金として計上しつつ、請求人が所有していた本件不動産及びPマンションを買い取ったことにした。
- (B) 本件滞納会社は、本件不動産及びPマンションの売買代金を上記(A)の役員貸付金と相殺して処理し、G5税理士に、本件不動産及びPマンションを本件滞納会社に売却した形で会計処理をしてもらった。この際、本件代表者は、G5税理士から、数年後にまた本件滞納会社から請求人に本件不動産を戻す会計処理をする旨の提案を受けていた。
- (C) 本件滞納会社には、請求人が平成17年に代表取締役を退任した当時、本件滞納会社の使途不明金を請求人への役員貸付金として計上した金額が140,000,000円超あり、請求人の役員退職慰労金から80,000,000円を相殺して当該役員貸付金の一部を処理したが、平成23年7月31日時点でも、同役員貸付金が60,261,519円以上あった。
- (D) 本件滞納会社の使途不明金は、G5税理士の税理士事務所の事務員が辞めたタイミングで、G5税理士が直接確認した際に発覚したものであったが、使途不明金の用途や内訳については分からなかった。
- (E) 本件不動産及びPマンションの所有権を登記上移転しなかった理由は、G5税理士からいつか戻すと言われていたからである。
- (F) 本件売買契約は、帳簿上の処理にすぎず、本件不動産の所有権は移転していないと思う。
- B 本件支給決議について
- (A) 本件代表者は、令和2年4月頃、請求人の代理人、弁護士法人J5(旧商号、弁護士法人J6)の代表社員であるG6弁護士から、請求人名義の本件不動産等が本件滞納会社の決算書上に計上されている理由を質問されたが、その原因が分からなかったので、その旨を伝えた。
- (B) また、本件代表者は、令和2年7月期から本件滞納会社の関与税理士であったG7税理士から、原因不明のまま請求人名義の本件土地が本件滞納会社の帳簿に載っている状態を訂正するためには、役員退職慰労金として支給処理をすればよいとアドバイスを受けた。
- (C) 本件代表者は、上記(B)のアドバイスを受け、請求人を本件滞納会社の取締役から退任させ、本件土地を請求人に対する役員退職慰労金として支給して、本件土地が本件滞納会社の帳簿に載っている状態の是正処理をする決断をした。
- (D) 請求人は、平成29年3月頃から、本件代表者に対し、本件不動産を請求人に戻す手続をしてほしい旨を日常会話の中で述べていた。
また、請求人は、新たに保険に加入できる年齢ではないので、本件滞納会社が請求人に掛けている本件保険契約の名義変更をしたい旨も日常会話で述べていた。
- A 本件売買契約について
- (ロ) 本件滞納会社の総務部長を務めていたG8氏の令和5年6月12日付の陳述書における申述
- A 本件売買契約について
- (A) 平成23年になって、本件滞納会社の請求人に対する貸付金の処理が問題となった。当該貸付金は、請求人が実際に本件滞納会社から借りたわけではなく、本件滞納会社の使途不明金を請求人に対する貸付金に振り替えて、それが数年にわたって溜まってしまったものであり、おおよそ100,000,000円程度に膨れ上がっていた。
- (B) 本件滞納会社では、G5税理士の指示により、本件不動産を買い取ったことにして、その代金を請求人に支払わずに、上記(A)の貸付金に充当して貸付金を消すことになった。請求人は、本件不動産を売却することに抵抗していたが、G5税理士から、当該売却が帳簿上のものであり、将来また帳簿上も元に戻すと言われて、しぶしぶG5税理士の指示どおりに処理することにした。
- (C) 本件売買契約の時、請求人は売買代金をもらっておらず、本件不動産の登記名義も変更していないから、本件売買契約は帳簿上の処理にすぎず、所有権は移転していないと思う。
- B 本件支給決議について
- (A) 本件売買契約の後、G5税理士が亡くなったため、本件滞納会社の帳簿上、請求人に本件不動産を戻すことは実現していなかった。
- (B) 本件滞納会社では、令和2年7月期決算に当たって、税理士を交代すること、請求人が取締役を退任することが決まり、帳簿上、請求人に本件不動産を戻すことを先延ばしすることができなくなり、新たに依頼した税理士と相談した結果、本件不動産を役員退職慰労金として支給した形をとった。
- (C) 本件支給は、計算上は高額な役員退職慰労金になったが、元々、本件不動産は帳簿上、本件滞納会社に売却した形になっていただけで、請求人は売買代金をもらっていなかったので、請求人の役員退職慰労金が高額すぎるという評価は酷であると思う。
- A 本件売買契約について
- (ハ) 請求人の令和4年4月20日付の質問応答記録書及び令和5年6月12日付の陳述書における各申述
- A 本件売買契約について
- (A) 請求人は、G5税理士から、使途不明金があるので本件不動産及びPマンションを本件滞納会社に売却する必要があると言われて、G5税理士に言われるまま本件売買契約書を作成した。請求人は、本件不動産を本件滞納会社に売却した認識はあったが、帳簿上の処理であり、売買代金は受け取っていない。
請求人は、本件不動産を取られるのではないかと不安であったが、帳簿上のことであり、将来また請求人に戻すと言われて、しぶしぶG5税理士に言われたとおりにした。 - (B) 請求人は、G5税理士から言われた上記(A)の使途不明金について、内容はよく分からなかった。また、請求人は、本件売買契約の当時、本件滞納会社の代表取締役ではなかったのに、請求人の自宅である本件不動産やPマンションを売却して使途不明金を弁済しなければならない理由について、どのような説明を受けたか記憶にない。
- (C) 請求人は、G5税理士から、本件不動産及びPマンションを後で請求人に戻すと言われたので、本件不動産及びPマンションの所有権移転登記をせず、請求人名義のままにしていた。
- (A) 請求人は、G5税理士から、使途不明金があるので本件不動産及びPマンションを本件滞納会社に売却する必要があると言われて、G5税理士に言われるまま本件売買契約書を作成した。請求人は、本件不動産を本件滞納会社に売却した認識はあったが、帳簿上の処理であり、売買代金は受け取っていない。
- B 本件支給決議について
本件支給をすることは、本件代表者が決めたもので、請求人は、本件不動産を戻す旨の説明を受けた。
- A 本件売買契約について
- (ニ) 関係者の申述等の信用性について
- A 上記(イ)ないし(ハ)の関係者の申述等の内容は、本件売買契約及び本件支給決議の経緯等について、おおむね符合しており、下記Bの点を除き、特段、不自然・不合理な点も見当たらないから、信用できる。
- B ただし、本件代表者及びG8氏の申述等のうち、本件売買契約について帳簿上の処理であり、本件不動産の所有権が本件滞納会社に移転していないと思う旨、すなわち、本件売買契約が仮装売買であったと思う旨の法的評価に関する認識を述べる部分については、下記ハにおいて別途検討する。
- (イ) 本件代表者の令和4年3月30日付の質問応答記録書及び令和5年6月12日付の陳述書における各申述、同年7月25日付の質問調書における答述の要旨
- ハ 検討
- (イ) 本件滞納会社の請求人に対する役員貸付金については、上記ロの(イ)のAの(C)のとおり、元々、請求人が本件滞納会社の代表取締役を務めていた時期に140,000,000円を超える使途不明金が発生していたものを役員貸付金とし、請求人が平成17年に代表取締役を辞任した際の退職慰労金から80,000,000円を相殺して当該役員貸付金の一部を処理したが、本件売買契約の当時も当該役員貸付金の残額が60,000,000円以上あったとされているところ、このような経緯で発生し処理されてきた使途不明金及び役員貸付金については、単に本件滞納会社の帳簿上に計上されていただけのものとは言い難く、実体のあるものであったというべきである。このことは、上記イの(ハ)のとおり、請求人個人が所有していたPマンションに係る債務の弁済のための資金を本件滞納会社が負担し、本件滞納会社から請求人に対し、役員報酬とは別に利益供与がされて、本件滞納会社から理由なく資金が流出していたとうかがわれることからも、裏付けられているといえる。そうすると、本件滞納会社の請求人に対する役員貸付金と相殺された本件売買契約に基づく売買代金についても、実体があったというべきである。
- (ロ) また、上記イの(イ)のとおり、本件不動産の固定資産税等は、本件売買契約がされた平成23年度分までは請求人名義、その翌年度分以降は本件滞納会社名義で支払われていること、上記1の(3)のロの(ハ)のとおり、請求人と本件滞納会社の間では本件賃貸借契約が締結され、請求人の役員報酬から本件不動産の賃料が控除されていることからすれば、本件滞納会社が本件売買契約に沿って、本件不動産の所有権を取得した買主として振る舞っていたといえる。
- (ハ) 以上のとおり、上記(イ)及び(ロ)からすれば、本件売買契約は、仮装売買ではなく、実体のあるものであったと認められる。
- (ニ) 他方で、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、本件不動産については、本件売買契約に基づく所有権移転登記がされず、本件売買契約の後も請求人名義のままとなっており、通常の不動産売買とは異なる不自然とも言い得る点はあるものの、本件滞納会社は請求人、本件代表者及び請求人妻らが株式を保有する同族会社であり、通常の独立当事者間の売買とは異なり、本件売買契約による本件不動産の所有権移転登記をしないことによるデメリットも想定し難いことからすれば、上記登記がされていないことのみをもって、本件売買契約に実体がないとはいえない。
- (ホ) また、上記ロの(イ)のAの(F)及び同(ロ)のAの(C)のとおり、本件代表者及びG8氏は、本件売買契約が仮装売買であったと思う旨の法的評価に関する認識を述べているものの、具体的な根拠に乏しいものであり、上記(イ)ないし(ハ)で述べたとおりの状況について合理的な説明のないものであるから、上記申述等をもって、本件売買契約に実体がないということもできない。
- (ヘ) 以上のとおり、本件不動産の所有権は、本件売買契約によって、請求人から本件滞納会社に移転し、その後、本件支給決議によって、本件滞納会社から請求人に移転したと認められる。
したがって、本件不動産は本件支給決議によって本件滞納会社から請求人に譲渡された財産である。
- ニ 請求人の主張について
- (イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄に記載のとおり、平成23年7月20日に本件不動産を本件滞納会社に売却したことにしたのは、本件滞納会社の帳簿上の処理にすぎず、請求人が本件不動産の売買代金を全くもらっていないこと、本件賃貸借契約についても、本件滞納会社の帳簿上は本件不動産を所有しているから、つじつまを合わせるために締結したこと、本件不動産の固定資産税等は、本件売買契約の後も請求人が負担していたことなどを挙げて、本件売買契約が仮装売買であったという旨の主張をしている。
しかしながら、上記ハの(イ)ないし(ハ)のとおり、本件滞納会社の請求人に対する役員貸付金及びこれと相殺された本件売買契約に基づく売買代金には、いずれも実体があったというべきであること、本件滞納会社が本件売買契約に沿って、本件不動産の所有権を取得した買主として振る舞っていたことなどの事情に鑑みれば、本件売買契約が実体のない仮装売買であったとはいえない。
したがって、請求人の主張には理由がない。 - (ロ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(ハ)のとおり、原処分庁が本件売買契約については民法第177条の「第三者」の立場にあるから、所有権の登記を有する請求人に対して対抗できず、請求人と原処分庁の間では、本件不動産の所有権は請求人が有したままであった旨主張する。
しかしながら、原処分庁は、本件不動産の所有権に関して、請求人と民法第177条に規定する対抗関係にないことは明らかであるから、請求人の主張には理由がない。
- (イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄に記載のとおり、平成23年7月20日に本件不動産を本件滞納会社に売却したことにしたのは、本件滞納会社の帳簿上の処理にすぎず、請求人が本件不動産の売買代金を全くもらっていないこと、本件賃貸借契約についても、本件滞納会社の帳簿上は本件不動産を所有しているから、つじつまを合わせるために締結したこと、本件不動産の固定資産税等は、本件売買契約の後も請求人が負担していたことなどを挙げて、本件売買契約が仮装売買であったという旨の主張をしている。
(2) 争点2(本件支給は、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当するか否か。)について
- イ 法令解釈
- (イ) 徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分等について
- A 第二次納税義務の制度は、形式的には第三者に財産が帰属しているものの、実質的には、なお滞納者にその財産が帰属していると認めても公平を失しないような場合には、その形式的な権利の帰属を否認することにより私法秩序を乱すことを避けて、形式的に財産が帰属している第三者に対し補充的に滞納者の納税義務を負担させることによって租税徴収の確保を図る制度である。このような第二次納税義務の制度の趣旨に鑑みれば、無償譲渡等の処分に該当するか否かは、当該財産の種類、数量の多寡、時価と対価の差額の大小等を総合的に考慮して、当該取引価額が、通常の取引額に比して、社会通念上著しく低いと認められるか否かにより判断すべきである。
- B また、徴収法第39条の「受けた利益」の額の計算については、上記1の(2)のイの(ホ)のとおり、徴収法基本通達第39条関係16は、無償譲渡等の処分により滞納者から受けた利益が金銭以外のものであるときは無償譲渡等の処分がされた時の現況によるそのものの価額から、譲受けに係る直接費用を控除した額を算定すると定めているところ、これらの定めは、上記Aのとおり、形式的に財産が帰属している第三者に対し補充的に滞納者の納税義務を負担させる第二次納税義務の制度の趣旨に沿うものであるといえ、当審判所においても相当と認められる。
- (ロ) 役員退職給与の不相当に高額な部分と徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分の関係について
- A 上記1の(2)のロの(ロ)及び(ニ)のとおり、法人税法第34条第2項及び法人税法施行令第70条第2号は、内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した役員退職給与の額のうち不相当に高額な部分の金額(当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する役員退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する役員退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額)は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定しているところ、法人が退職する役員に対して支出した役員退職給与の額が、その相当であると認められる金額を超え、法人税法第34条第2項に規定する「不相当に高額な部分の金額」を含むか否かを判断するためには、当該退職役員がその法人の業務に従事した期間及びその退職の事情を考慮するとともに、その法人と同業類似法人の役員に対する役員退職給与の支給の状況等と比較して検討するのが相当であると解される。
そして、役員退職給与の適正額の算定方法については、一般に、平均功績倍率法や最高功績倍率法などがあるところ、平均功績倍率法は、同業類似法人の役員退職給与の支給事例における功績倍率の平均値に退職する役員の最終報酬月額及び勤務年数を乗じて役員退職給与として相当な額を算定する方法である。同業類似法人における功績倍率の平均値を算定することにより、同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象され、より平準化された数値が得られるものといえることからすれば、このような最終報酬月額、勤務年数及び平均功績倍率を用いて役員退職給与の適正額を算定する平均功績倍率法は、その同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り、法人税法第34条第2項及び法人税法施行令第70条第2号の趣旨に最も合致する合理的な方法というべきである。 - B この点、法人税法第34条は、法人税の算定の基礎となる所得の金額の計算上、過大な役員退職給与が損金の額に算入されない旨規定しているにすぎないものであり、会社と役員の間の役員退職給与の支給に関する法律関係の効力を否定するものではないことはもちろん、それが当該役員の職務の執行及び功労に対する対価であることを否定する趣旨まで含むものでもない。
したがって、平均功績倍率法を用いて算定した過大な役員退職給与の額の全てが当該役員の職務の執行又は功労と全く無関係に支給されたものと即断することはできず、それが、職務の執行又は功労と無関係に支払われたもので、徴収法第39条の第二次納税義務が成立するための要件として規定する、無償譲渡等の処分に該当するかどうかは、上記(イ)のAを踏まえて、当該役員の職務又は功労の内容、程度、勤務年数等と対比して別途に判断されるべきものである。 - C そこで、役員退職給与の不相当に高額な部分が、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当するか否かの判断においては、平均功績倍率法によって求めた相当とされる役員退職給与の金額と実際に支給された役員退職給与の金額の乖離の程度に加えて、当該役員の職務又は功労の内容、程度、勤務年数のほか当該役員退職給与が支給されるに至った具体的事情等を考慮し、その役員退職給与の支給が無償譲渡等の処分に該当するか否かを判断するのが相当である。
- A 上記1の(2)のロの(ロ)及び(ニ)のとおり、法人税法第34条第2項及び法人税法施行令第70条第2号は、内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した役員退職給与の額のうち不相当に高額な部分の金額(当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する役員退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する役員退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額)は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定しているところ、法人が退職する役員に対して支出した役員退職給与の額が、その相当であると認められる金額を超え、法人税法第34条第2項に規定する「不相当に高額な部分の金額」を含むか否かを判断するためには、当該退職役員がその法人の業務に従事した期間及びその退職の事情を考慮するとともに、その法人と同業類似法人の役員に対する役員退職給与の支給の状況等と比較して検討するのが相当であると解される。
- (ハ) 平均功績倍率法において用いる退職役員の勤務年数について
役員退職給与の適正額の算定における平均功績倍率法において用いられるべき退職役員の勤務年数は、原則として、役員の在任期間と一致するものであるが、その法人内における地位や行う職務等からみて、その者が他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事している期間があった場合には、当該期間も通算し勤務年数を算定すべきであると解される。
- (イ) 徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分等について
- ロ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
- (イ) 本件支給の額について
本件支給がされた時点における本件支給に係る各財産の価額は、次表のとおり、合計〇〇〇〇円であった(その内訳は、上記1の(3)のハの(ロ)の本件不動産の価額、同(ホ)の本件保険契約の価額、同(ニ)の「未収入金(貸付金利息)」に係る債務免除の価額、同(ロ)の「現金」の価額である。)。 - (ロ) 本件滞納会社における請求人の職務について
- A 請求人は、本件滞納会社の設立時から10年間は、本件滞納会社が営む喫茶店で、皿洗いなどの業務を行っていた。その後、請求人は、平成17年7月31日までの間は、本件滞納会社の営む各店舗を1週間に1回程度回って、社員教育を行っていた。また、請求人は、本件滞納会社の関与税理士から決算説明を受けるため、1年に1度、取締役会に出席したほか、臨時株主総会が開催されれば出席していた。
- B 請求人は、本件滞納会社の取締役に就任していなかった平成17年8月1日から平成23年9月11日までの間は、会長職に就いていた。会長職の業務は、本件代表者の教育や本件滞納会社の営む店舗回りを行って各店舗の管理を行うことであった。請求人は、会長職に就いてから、あまり現場で働くことはなくなったが、本件滞納会社の事務所に午前10時頃から午後3時又は午後4時頃までは出勤していた。また、本件滞納会社では、店長と役職のある従業員を集めた朝礼を店長会議と呼称して開催しており、請求人は、この店長会議にも出席していた。請求人は、会長職に就いていた頃は、主に社員教育を行っており、本件滞納会社の決算状況の管理や経理面は、本件代表者に任せていた。
- C 請求人は、本件滞納会社の取締役に就任していた平成23年9月12日から令和2年7月31日までの間も、主な業務は社員教育で、本件滞納会社の決算状況の管理や経理面については、あまり関与しないようにして、本件代表者に任せていた。
- (ハ) 本件滞納会社について
- A 本件滞納会社は、a県内において、喫茶店「Q」、寿司店「R」及び「S」、カラオケ店「T」の各店舗を営業するほか、「U」という名称で法要料理・仕出し料理を提供する事業を行っていた。
なお、上記カラオケ店については、令和2年9月に店舗を閉鎖している。 - B 本件滞納会社の平成30年7月期ないし令和2年7月期の各売上金額等は別表4のとおりであった。
- C 本件滞納会社の事業種目は、上記Bの各事業年度の法人税の確定申告書の別表一の「事業種目」欄に、「飲食業」と記載されている。
- D 本件滞納会社は、令和3年4月1日、J7社に対し、上記Aの「U」に係る事業を譲渡した。また、本件滞納会社は、令和3年10月1日、J8社に対し、上記Aの「R」を譲渡し、同年11月15日、同社に対し、上記Aの「Q」及び「S」をそれぞれ譲渡した。
- A 本件滞納会社は、a県内において、喫茶店「Q」、寿司店「R」及び「S」、カラオケ店「T」の各店舗を営業するほか、「U」という名称で法要料理・仕出し料理を提供する事業を行っていた。
- (ニ) 原処分庁が選定した同業類似法人について
- A 原処分庁は、次の抽出基準に基づき、同業類似法人として、別表5の本件類似4社を抽出した。
- (A) N国税局管内に納税地を有する法人
- (B) 業種が日本標準産業分類の「大分類M−宿泊業、飲食サービス業」の「中分類76−飲食店」及び「中分類77−持ち帰り・配達飲食サービス業」に該当する法人
- (C) 平成30年ないし令和2年に役員退職給与(死亡役員退職給与を除く。)を支給した法人
- (D) 売上3年平均額で比較したときに、その法人の売上3年平均額が本件滞納会社の売上3年平均額(○○○○円)の10分の1ないし10倍の範囲に収まる法人
- (E) 退職役員の役職が取締役である法人
- B 本件類似4社の役員退職給与の支給を受けた者の役職、役員退職給与の額、最終報酬月額、勤務年数及び功績倍率は、別表5のとおりであり、その平均功績倍率は、1.09倍であった。
- A 原処分庁は、次の抽出基準に基づき、同業類似法人として、別表5の本件類似4社を抽出した。
- (ホ) 本件滞納会社における本件支給の算定根拠及び本件支給の経緯について
- A 本件滞納会社の定款において、取締役の役員退職慰労金は株主総会の決議をもって定める旨定められており、退職金給付規定はなく、個別に決定されている。
- B 本件滞納会社の令和4年1月17日付の原処分庁に対する回答によれば、本件滞納会社における本件支給の算定根拠は、基本的には、請求人の自宅である本件不動産が本件滞納会社の帳簿上計上されていた不整合を解消する会計処理のために役員退職慰労金を支給することとしたというものであり、具体的な算定根拠についての回答はなかった。
- C 本件支給決議における本件支給の額は、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、「土地」〇〇〇〇円、「未収入金(貸付金利息)」〇〇〇〇円、「保険解約返戻金」〇〇〇〇円及び「現金」として〇〇〇〇円を支給する旨のものであるところ、この「現金」の金額は、本件支給決議における本件支給の額から控除される源泉所得税(復興特別所得税を含む。)、市民税及び県民税の合計○○○○円(以下、これらを併せて「本件源泉所得税等」という。)と一致していることからすれば、上記「現金」は、請求人に本件不動産、本件保険契約の契約上の地位及び「未収入金(貸付金利息)」を支給することで控除することとなる本件源泉所得税等の相当額から算定され、その相当額を「現金」として支給することとしたものであったと認められる。
- D 上記Aに加え、本件支給決議により実際に請求人に支給されるのは、請求人に本件不動産及び本件保険契約の地位のみであることから、本件支給決議は、請求人に本件不動産及び本件保険契約の地位を得させるためのものであるといえる(なお、このことは、本件代表者の上記(1)のロの(イ)のBの(D)の申述とも符合している。)。
- E 令和2年7月31日付でされた本件支給決議の前後の状況をみると、本件滞納会社の総売上金額は、別表4のとおり、令和元年7月期から令和2年7月期にかけて130,000,000円以上も減少しており、上記1の(4)のイのとおり、令和2年5月29日及び同年12月8日に納税の猶予をL税務署長に申請していずれも許可され、本件支給決議の後に法定納期限が到来した消費税等、源泉所得税等(別表3の番号1ないし6、13ないし40)も滞納し、上記(ハ)のDのとおり、令和3年4月1日から同年11月15日にかけて、その事業を全て譲渡し、上記1の(3)のイの(イ)のDのとおり、令和○年○月○日に破産手続開始決定、同年○月○日には破産手続廃止決定を受けている。
内 訳 価 額 本件不動産 〇〇〇〇円 本件保険契約 〇〇〇〇円 「未収入金(貸付金利息)」 〇〇〇〇円 「現金」 〇〇〇〇円 合 計 〇〇〇〇円 - (イ) 本件支給の額について
- ハ 検討
- (イ) 請求人に対する役員退職慰労金として相当と認められる金額について
原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のロのとおり、平均功績倍率法によって請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額を算定しているので、その算定の当否について検討する。
- A 同業類似法人の抽出基準について
原処分庁が用いた同業類似法人の抽出基準は、上記ロの(ニ)のとおりであるところ、当該抽出基準の合理性の有無については、以下のとおりである。
- (A) 地域の類似性
同業類似法人を抽出するに当たっては、一般に退職した役員が勤務していた法人の所在地と近接した経済事情が類似すると認められる地域に存する法人を対象とすることが最も適当であるというべきである。
そして、上記1の(3)のイの(イ)のAのとおり、本件滞納会社の本店所在地がg市であり、上記ロの(ハ)のAのとおり、本件滞納会社が営んでいた各店舗もa県内であることからすれば、同(ニ)のAの(A)のとおり、原処分庁がa県を管轄するN国税局管内に納税地を有する法人から同業類似法人を抽出したことには合理性が認められる。 - (B) 業種の類似性
業種を同業類似法人の抽出基準とすることは、同業性の判断には必要不可欠であり、また、日本標準産業分類は、統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的として設定された統計基準であり、全ての経済活動を産業別に分類したものであることからすれば、同業性の判断に際して、日本標準産業分類を使用することは合理的であるといえる。
そして、上記ロの(ハ)のA及びCのとおり、本件滞納会社は、喫茶店、すし店等の事業を営んでいたから、請求人の主たる事業は飲食業であり、同(ニ)のAの(B)のとおり、原処分庁が日本標準産業分類の「大分類M−宿泊業、飲食サービス業」の「中分類76−飲食店」及び「中分類77−持ち帰り・配達飲食サービス業」に該当する法人を同業類似法人として抽出したことは合理的である。 - (C) 事業規模の類似性
売上金額は、法人の事業規模を示す最も重要な指標の一つであるといえることに照らせば、法人の売上金額を同業類似法人の抽出基準とすることは合理的であるといえる。
そして、上記ロの(ニ)のAの(C)及び(D)のとおり、原処分庁は、売上金額を事業規模の抽出基準とし、平成30年ないし令和2年に役員退職給与(死亡役員退職給与を除く。)を支給した法人のうち、売上3年平均額が、本件滞納会社の平成30年7月期から令和2年7月期の売上3年平均額(○○○○円)の10分の1ないし10倍の範囲に収まる法人を抽出しているところ、本件滞納会社の総売上金額は、令和元年7月期から令和2年7月期にかけて130,000,000円以上も減少しているように、単一事業年度の売上金額によると、必ずしも事業規模を適切に反映しない法人を抽出するおそれがあるが、原処分庁の抽出基準では、3事業年度の売上金額の平均値で比較することで、事業規模をより適切に反映した法人を抽出できる基準となっているといえること、退職役員に役員退職給与を支給できなかった、あるいは、支給しなかった法人を除外することで、請求人に役員退職慰労金を支給した本件滞納会社に類似した法人を抽出できるようにするとともに、請求人により有利な基準としていること、売上金額が本件滞納会社の10分の1ないし10倍の法人を抽出する基準とした結果、本件滞納会社の売上規模を上回る法人と下回る法人の両方が抽出され、その数(4社)も各社の個別性を捨象するに足りるといえるものであること等を勘案すれば、合理性が認められる。 - (D) 退職役員の役職及び退職事由の類似性
請求人が本件滞納会社を退職した日(令和2年7月31日)の役職は、取締役であり、一般に代表取締役に支給される役員退職給与は取締役に支給される役員退職給与に比して高い額となるなど、役職の違いにより異なり得るものであることを考慮すれば、原処分庁が、請求人の役職と同じ取締役に対して役員退職給与を支給した法人を同業類似法人の抽出基準としていることには、合理性が認められる。
また、原処分庁が同業類似法人の抽出基準として、退職事由が死亡退職である法人を除外している点でも、請求人の退職事由と同じ退職事由により役員退職給与を支給した法人を抽出する合理的な基準であると認められる。
- (A) 地域の類似性
- B 平均功績倍率について
上記Aのとおり、本件類似4社を同業類似法人として抽出することには合理性が認められるから、平均功績倍率は、別表5のとおり、1.09倍と認められる。 - C 最終報酬月額について
上記1の(3)のハの(ハ)のとおり、請求人が本件滞納会社の取締役を辞任する直前に支給された役員報酬の月額は〇〇〇〇円であり、同金額を請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額の算定において用いる最終報酬月額とすることについて、原処分庁及び請求人の間に争いはなく、当審判所においても、請求人の最終報酬月額は〇〇〇〇円と認められる。 - D 勤務年数について
- (A) はじめに
上記イの(ハ)のとおり、役員退職給与の適正額の算定における平均功績倍率法において用いられるべき退職役員の勤務年数は、原則として、役員の在任期間と一致するものであるが、その法人内における地位や行う職務等からみて、その者が他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事している期間があった場合には、当該期間も通算し勤務年数を算定すべきである。
そして、請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額の算定において用いる本件役員勤務年数に、上記1の(3)のイの(ロ)のBのとおり、請求人が取締役に再度就任してから辞任するまでの期間(平成23年9月12日から令和2年7月31日)を請求人の役員勤務年数に含めることについては、請求人及び原処分庁の間に争いはなく、当審判所においても、当該年数を本件役員勤務年数に含めるのが相当であると認められる。
そこで、本件役員勤務年数については、上記役員勤務年数に加えて、請求人が役員として登記されていなかったものの本件滞納会社において勤務していたという本件役員退任期間の年数をも通算して算定すべきか否かが問題となる。 - (B) 本件役員退任期間の通算の可否について
上記ロの(ロ)のとおり、本件役員退任期間における請求人の職務は、主に社員教育であり、本件滞納会社の決算状況の管理等については本件代表者に任せていたことから、請求人が本件滞納会社の経営を担っていたとは認められない。
したがって、請求人が本件役員退任期間に実質的に本件滞納会社の経営に従事していたとは認められず、本件役員退任期間を本件役員勤務年数に加算することはできない。
以上からすれば、本件役員勤務年数は9年とするのが相当であると認められる。
- (A) はじめに
- E 小括
以上で述べた平均功績倍率1.09倍、最終報酬月額〇〇〇〇円、本件役員勤務年数9年を基に平均功績倍率法により請求人に対する役員退職慰労金として相当であると認められる金額を計算すると、〇〇〇〇円となる。
この金額と上記ロの(イ)の本件支給の金額(〇〇〇〇円)を比較すると、本件支給の金額は、平均功績倍率法により相当であると認められる役員退職慰労金の金額の7倍を超え、その差額は○○○○円となる。
- A 同業類似法人の抽出基準について
- (ロ) 本件支給が無償譲渡等の処分に該当するか否かについて
上記イの(ロ)のCのとおり、平均功績倍率法を用いて算定した過大な役員退職給与の額が、徴収法第39条の無償譲渡等の処分に該当するかどうかは、平均功績倍率法によって求めた相当とされる役員退職給与の金額と実際に支給された役員退職給与の金額の乖離の程度に加えて、請求人の職務又は功労の内容、程度、勤務年数のほか当該役員退職給与が支給されるに至った具体的事情等をも考慮して判断するのが相当であるところ、上記(イ)のEのとおり、本件支給の額は、平均功績倍率法により求められる請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額の7倍を超え、その乖離の程度は大きい。
また、請求人の職務又は功労の内容、程度、勤務年数についてみると、上記ロの(ロ)のとおり、請求人の主な業務は社員教育であり、本件滞納会社の決算状況の管理等については本件代表者に任せていたというものであり、本件滞納会社の経営を担っていたとはいえない。
加えて、本件支給がされた具体的事情については、上記ロの(ホ)の本件支給の経緯や同(ロ)の請求人の職務内容からすれば、本件滞納会社は、本件支給決議の当時、その総売上金額が減少し、滞納国税を納付する見込みも乏しかったにもかかわらず、重要な資産であった本件不動産及び本件保険契約を、合理的な算定根拠のない請求人に対する役員退職慰労金として流出させるに至ったものであるといえ、本件支給がされたのは、本件滞納会社が滞納国税の徴収などを回避するためであり、本件支給の額は、本件不動産及び本件保険契約を請求人に得させるために設定されたもので、請求人の職務及び功労と役員退職慰労金の金額との対価的均衡を考慮した上で決定されたものではなかったと認められる。
したがって、本件支給の額は、請求人の本件滞納会社における役員としての職務執行及び功労との対価的均衡を著しく欠くものであり、本件支給は、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当する。
- (イ) 請求人に対する役員退職慰労金として相当と認められる金額について
- ニ 請求人の主張について
- (イ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のイ及び同欄のロの(イ)のとおり、請求人の役員退職慰労金としては認められない過剰な部分については、請求人の役員退職慰労金として認められる最高金額を算定する必要があり、その金額の算定方法として適用するべき功績倍率は、他社で最も高い功績倍率を採用するべきである旨主張する。
しかしながら、上記イの(ロ)のAのとおり、平均功績倍率法は、法人税法第34条第2項及び法人税法施行令第70条第2号に規定する損金の額に算入することができない過大な役員退職給与の額を算定する際に用いる方法の一つで、同業類似法人の抽出が合理的に行われている限り、法人税法第34条第2項及び法人税法施行令第70条第2号の趣旨に最も合致する合理的な方法というべきであるところ、上記ハの(イ)のAのとおり、同業類似法人の抽出は合理的に行われている。
そして、上記イの(ロ)のとおり、徴収法第39条の第二次納税義務が成立するための要件として規定する無償譲渡等の処分に該当するかどうかは、平均功績倍率法を用いて算定した過大な役員退職給与の額の全てが職務の執行又は功労と無関係に支給されたものと即断することなく、平均功績倍率法によって求めた相当とされる役員退職給与の金額と実際に支給された役員退職給与の金額の乖離の程度に加えて、当該役員の職務又は功労の内容、程度、勤務年数のほか当該役員退職給与が支給されるに至った具体的事情等をも考慮し、その役員退職給与の支給が無償譲渡等の処分に該当するか否かを判断するものである。
そうすると、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当するか否かの判断において、他社で最も高い功績倍率を採用しなければならない理由はないというべきである。
したがって、請求人の主張には理由がない。 - (ロ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のロの(イ)のとおり、仮に、平均功績倍率法による場合でも、本件類似4社の選定に当たり、本件滞納会社の売上高と比較して10分の1から10倍の売上高の範囲の法人に対象を広げ、あえて功績倍率が低い企業を意図的かつ恣意的に選択しており不当である旨主張する。
しかしながら、別表5のとおり、同業類似法人を抽出する売上高の範囲を本件滞納会社の売上高と比較して10分の1から10倍としたことで抽出された本件類似4社をみても、必ずしも売上規模に功績倍率が比例しているわけではなく、また、本件滞納会社の売上規模を大きく上回る法人(B社)も抽出されたことからすれば、本件滞納会社の売上高と比較して10分の1から10倍の売上高の範囲の法人を抽出することで、功績倍率が低い企業を意図的かつ恣意的に選択することにはならない。
したがって、請求人の主張には理由がない。 - (ハ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のロの(ロ)のとおり、登記上の取締役に就任していなかった平成17年8月1日から平成23年9月11日までの6年間も、実質的には役員であったから、役員退職慰労金を計算する上ではこの期間も本件役員勤務年数に算入すべきであり、請求人の本件役員勤務年数は15年である旨主張する。
しかしながら、上記ハの(イ)のDのとおり、請求人が本件役員退任期間に本件滞納会社の経営を担っていたとは認められず、本件役員退任期間を本件役員勤務年数に通算することはできない。
したがって、請求人の主張には理由がない。 - (ニ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のハのとおり、請求人が本件滞納会社から役員退職慰労金として受け取った価額は、〇〇〇〇円(本件保険契約の契約上の地位の譲渡時の価額)であり、本件支給決議にある「未収入金(貸付金利息)」〇〇〇〇円及び「現金」〇〇〇〇円は、請求人が受け取ったものではない旨主張する。
しかしながら、上記1の(3)のハの(ニ)のとおり、請求人は、本件支給に係る「未収入金(貸付金利息)」として、請求人への役員貸付金に対する利息相当分の債務免除を受けたところ、上記(1)のハの(イ)のとおり、本件滞納会社の請求人に対する役員貸付金には実体があるといえ、これに対する利息相当分の債務免除にも実体があるというべきであるから、上記ロの(イ)のとおり、当該利息相当分の債務免除の価額は、本件支給の額に算入される。
また、役員退職給与の不相当に高額な部分が、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当するか否かの判断において、平均功績倍率法によって求める相当とされる役員退職給与の金額を算定にするに当たり、抽出された同業類似法人の取締役の最終報酬月額として用いる金額とこれに基づく功績倍率の算定上、源泉所得税等の金額は控除されていないから、請求人が本件滞納会社から受け取った役員退職慰労金が無償譲渡等の処分に該当するか否かを判断するに当たっても、当該役員退職慰労金に対する本件源泉所得税等の相当額である上記「現金」の金額を控除すべきではない。
なお、上記(1)のハで述べたとおり、本件不動産は本件支給決議によって本件滞納会社から請求人に譲渡された財産であるから、本件支給の額に算入されるものであり、本件支給の額は、上記ロの(イ)のとおり、〇〇〇〇円である。
したがって、請求人の主張には理由がない。
- (イ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のイ及び同欄のロの(イ)のとおり、請求人の役員退職慰労金としては認められない過剰な部分については、請求人の役員退職慰労金として認められる最高金額を算定する必要があり、その金額の算定方法として適用するべき功績倍率は、他社で最も高い功績倍率を採用するべきである旨主張する。
(3) 本件告知処分の適法性について
上記(1)のハの(ヘ)のとおり、本件不動産は本件支給決議によって本件滞納会社から請求人に譲渡された財産であり、上記(2)のハの(ロ)のとおり、本件支給は徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当する。
そして、本件滞納会社は、上記1の(3)のイの(イ)のBのとおり、法人税法第2条第10号に規定する同族会社に該当し、請求人は、国税徴収法施行令第14条第2項第5号に規定する同族会社の判定の基礎となった株主であるから本件滞納会社の親族その他特殊関係者に該当し、本件支給により受けた利益の限度で本件滞納国税につき第二次納税義務を負うこととなる。
徴収法第39条の「受けた利益」の額の計算においては、請求人が、本件支給により、その職務執行及び功労に対する対価として相当と認められる役員退職慰労金の金額と本件支給の額(無償譲渡等の処分がされた時の現況によるそのものの価額)との差額分について利益を得たといえ、また、上記1の(2)のイの(ホ)のとおり、源泉徴収された所得税等の譲受けに係る直接費用を控除することとされているところ(徴収法基本通達第39条関係16)、同(3)のハの(ロ)の控除額の合計○○○○円は、本件源泉所得税等であり、いずれも本件支給を受けるために支払った直接関係のある費用であるから、これを譲受けに係る直接費用として控除する必要がある。そうすると、請求人が第二次納税義務を負う「受けた利益」は、本件支給の額(無償譲渡等の処分がされたときの現況によるそのものの価額)である〇〇〇〇円(上記(2)のロの(イ)の合計額)から、請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額〇〇〇〇円及び本件源泉所得税等○○○○円を控除した○○○○円であり、上記1の(4)のニのとおり、本件告知処分において請求人が第二次納税義務を負うとされた○○○○円を上回る。また、本件告知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件告知処分は適法である。
(4) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 本件不動産(省略)
別表2 本件保険契約(省略)
別表3 滞納国税の明細(令和4年6月20日現在)(省略)
別表4 本件滞納会社の売上金額等(省略)
別表5 本件類似4社の平均功績倍率等の要旨(省略)
別表6 本件当初2社の平均功績倍率等の要旨(省略)