(令和6年1月10日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の従業員が工事業者と通謀して作成した虚偽の工事完了日を記載した納品書等に基づき、工事費用の額を課税仕入れに係る支払対価の額に含めて消費税等の申告をしたことから、原処分庁が、消費税等の更正処分を行うとともに、当該従業員による上記納品書等の作成行為は、事実の仮装と認められ、請求人の行為と同視することができるとして、消費税等に係る重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該従業員による上記納品書等の作成行為は請求人の行為と同視することができないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
    • (イ) 請求人は、主に○○等の製造販売を目的とする法人である。
    • (ロ) 請求人のe市f町○−○に所在する工場(以下「本件工場」という。)の技術課の保全チーム(以下、本件工場の技術課を単に「技術課」といい、技術課の保全チームを単に「保全チーム」という。)は、主に本件工場内の建物、構築物及び附帯設備の営繕管理等を行っている。
       また、E(以下「本件工場長」という。)は本件工場の工場長であり、F(以下「本件課長」といい、本件工場長と併せて「本件工場長ら」という。)は技術課の課長であった。
  • ロ 請求人の従業員の行為等について
    • (イ) 請求人は、令和3年2月22日及び同年3月29日付で、G社(以下「本件工事業者」という。)との間で、工事名を「e工場○○○○棟北側パレット置き場拡張工事の件」及び「e工場○○○○棟北側パレット置き場拡張工事の件(安全ポール設置)」(以下、これらの工事を併せて「本件各工事」という。)とする工事請負契約をそれぞれ締結した。
    • (ロ) 本件各工事の契約上の完成・引渡日はいずれも令和3年3月31日であるが、本件各工事は、同日後も引き続き行われており、実際の完成・引渡日はいずれも同年4月3日であった。
    • (ハ) 保全チームに所属するH(以下「本件従業員」という。)は、本件各工事の完成・引渡日がいずれも令和3年4月3日であったにもかかわらず、同年3月31日に本件各工事が完成・引渡しされたとする内容の各「検査・検収願書」(以下「本件各検査等願書」という。)、各「工事完了報告書」及び各「納品書」(以下、本件各検査等願書とこれらの書類を併せて「本件各納品書等」という。)を本件工事業者の現場管理員及び営業担当者と通謀して作成した(以下、本件各納品書等の作成行為を「本件行為」という。)。
    • (ニ) 請求人は、本件各納品書等に基づき、本件各工事に係る支払金額13,178,000円の税抜金額11,980,000円を、令和3年3月31日付で構築物勘定などに計上した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、令和2年4月1日から令和3年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、別表の「確定申告」欄のとおり記載して提出期限(消費税法第45条の2《法人の確定申告書の提出期限の特例》(令和2年法律第8号の第7条の規定による改正前のもの)第2項の規定により課税期間の末日の翌日から3月以内とされたもの)までに申告した。
     なお、請求人は、当該申告における課税仕入れに係る支払対価の額に、上記(3)のロの(ニ)の本件各工事に係る支払金額を含めていた。
  • ロ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、上記(3)のロの(ニ)の支払金額は、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含まれないなどとして、また、本件行為は請求人による事実の仮装に該当するとして、令和4年7月26日付で、請求人に対し、別表の「更正処分等」欄のとおり、本件課税期間の消費税等の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、当該各賦課決定処分のうち重加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ 請求人は、令和4年10月25日、本件賦課決定処分を不服として、再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、令和5年1月20日付で棄却の再調査決定をし、その決定書謄本は、同月24日に請求人に対し送達された。
  • ニ 請求人は、令和5年2月22日、再調査決定を経た後の本件賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めて、審査請求をした。
     なお、本件従業員による本件行為が国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の仮装に該当することについては、請求人と原処分庁との間に争いはない。

2 争点

 本件従業員による本件行為は、請求人の行為と同視することができるか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
次の理由から、本件従業員による本件行為は、請求人の行為と同視することができる。 次の理由から、本件従業員による本件行為は、請求人の行為と同視することができない。
(1) 本件従業員による本件行為は、本件従業員が請求人から付与された権限に基づく業務に関連する行為であると認められ、原則として、本件従業員が仮装行為を行った場合であっても、請求人の行為と同視することができる。
 そして、仮に、請求人が主張するように、本件従業員の地位・権限が限定的であるとしても、下記(2)のとおり、本件行為を請求人の行為と同視することができない特段の事情はない。
(1) 従業員の行為を納税者本人の行為と同視することができるか否かについては、1その従業員の地位・権限、2その従業員の行為態様、3その従業員に対する管理・監督の程度等を総合考慮して判断することが相当であるところ、次の事情を総合考慮すると、本件行為を請求人の行為と同視することには合理性が認められない。
  • イ 本件従業員は、部下のいない技術課員にすぎず、請求人の経営に参画することや、経理業務に関与することはない。また、請求人からその他特別に付与された権限はなく、請求人の一使用人として限定的な地位・権限を有していたにすぎない。
  • ロ 本件従業員は、本件行為の目的を、事業年度をまたがることによる、稟議の再申請という自身の業務負荷の増大を避けることであった旨申述していることから、請求人は、本件行為は本件従業員の独断的な不正行為であったと認め、本件従業員のみを懲罰規定に基づき、「出勤停止1日」と決定した。
  • ハ 請求人は、適切な申告納税を行うため、社内規定を整備の上、定期的な研修の実施や社員向けの情報発信などによる従業員の指導、監督を行っていた。
     一方、本件工場長らによる現場管理については、実行計画の承認の後は、現場の監督及び検収は各担当者が実施した上で、適宜、書面に基づく承認を行っており、検収等の過程において課題、問題がある場合は、適宜、担当者から上長に報告、相談することとなっているなど、本件工場においても、一定の管理体制が確立され、かつ、有効に機能していた。
     したがって、請求人は、本件従業員に対して一定の管理・監督を行っていた。
(2) 本件工場長らは、1本件各工事が、本件課税期間の末日である令和3年3月31日までに完了すべきものであることを認識し、また、2同日までに完了していないことは、本件各工事が本件工場長らの席から見える範囲で行われたことや同年4月1日付ないし同月3日付の「〇〇〇〇」(以下「本件日誌」という。)の記載内容から容易に確認できた。それにもかかわらず、3本件工場長らは、現場の確認等を本件従業員に漫然と任せ、本件課長は本件各納品書等に、本件工場長は本件各検査等願書及び本件日誌に、それぞれ押印している。
 そうすると、請求人においては、本件工場長らをして、本件従業員が本件各工事の完了日を仮装した本件各納品書等を作成したことを容易に認識することができ、法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず、これを行わなかったから、本件従業員による本件行為が請求人の行為と同視することができない特段の事情はない。
(2) 本件工場は、年間を通して多数の営繕管理が実施されているところ、本件各工事の費用は約12,000,000円であり、主要な工事ではなく多くの経常的な工事の一つにすぎないから、本件工場長らは、本件各工事の実行計画を承認した後は、本件各工事の実質的な管理は本件従業員に任せ、書面による確認によりその実行管理を行っていた。このような事前承認、事後の書面管理対応を行うことは管理上重大な問題があるとはいえない。
 また、本件工場長の席からは本件各工事の現場がよく見えないこと及び本件課長も本件各工事の現場が席の背中の向きであることなどから、実際の工事が4月になってからも実施されていることについて、本件工場長らは容易に確認できたとはいえない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 通則法第68条第1項は、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」と規定し、隠蔽又は仮装する行為の主体を納税者としているのであって、本来的には、納税者自身による隠蔽又は仮装する行為の防止を企図したものと解される。
 しかし、納税者以外の者が隠蔽又は仮装する行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる。
 したがって、納税者が法人である場合、法人の従業員など納税者以外の者が隠蔽又は仮装する行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができる場合には、納税者本人に対して重加算税を賦課することができると解するのが相当である。
 そして、従業員の行為を納税者本人の行為と同視することができるか否かについては、1その従業員の地位・権限、2その従業員の行為態様、3その従業員に対する管理・監督の程度等を総合考慮して判断するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件工場における工事完了の手続について
    • (イ) 技術課の担当者は、工事完了後に工事業者から「検査・検収願書」、「工事完了報告書」及び「納品書」の提出を受け、その後、当該担当者が現場を確認し、現場の写真を撮って「工事完了報告書」に貼付するとともに、上記各書類のうち、「検査・検収願書」及び「工事完了報告書」に検査確認の日付の記入及び押印をする。
    • (ロ) 技術課の課長は、上記(イ)の各書類の回付後に当該各書類の日付、件名、金額等の整合性を確認し、当該各書類に押印する。
    • (ハ) 工場長は、「検査・検収願書」及び「工事完了報告書」の回付後に「工事完了報告書」に貼付されている写真並びに技術課の課長及び担当者の印をもって工事の完成を確認し、「検査・検収願書」に押印する。
    • (ニ) 上記(イ)の各書類は、上記(ハ)の工場長の決裁を受けた後に本件工場の経理課に提出される。
  • ロ 本件従業員の業務等について
    • (イ) 本件従業員は、平成5年に本件工場に採用され、保全チームに在籍していた。本件従業員に職制上の地位や肩書はなく、本件課税期間を通じて部下はいなかった。
       また、本件従業員が請求人の経営に参画することはなく、経理業務に関与することもなかった。
    • (ロ) 本件従業員は、保全チームの担当者として、本件工場の営繕管理等の業務に従事しており、具体的には、工場の建物及び設備並びに敷地内の補修について、工事業者との交渉、工事の管理等の業務を行っていた。
       また、本件従業員は、これらの業務の実施を請求人から任されていたものの、それ以外に、請求人から特別な権限を付与されることはなかった。
  • ハ 本件各工事に係る本件従業員の行為等について
    • (イ) 技術課は課内で週間ミーティングを行っており、そこで課内の各人が担当している案件を報告することがあるところ、本件従業員は、本件各工事について工期内に終わらない旨の報告はしなかった。
    • (ロ) 本件従業員が本件行為に至った理由は、当初、本件各工事の完了日を令和3年3月31日と申請していたことから、当該申請どおりに同日に完了したことにしたかったためであり、また、工事完了が同年4月にずれ込むと稟議を再申請しなければならず、それを避けるためであった。
  • ニ 本件工場長の本件各工事への関与等について
    • (イ) 本件各工事は、計画外であったが本件工場長から技術課に急ぎで行うよう指示した工事であった。そして、本件工場長は、本件各工事の発注に関して、上記1の(3)のロの(イ)の各工事請負契約に係る各「民間建設工事請負契約書」に、それぞれ令和3年2月19日付又は同年3月26日付で電子署名した。
    • (ロ) 本件工場長は、発注後の工事に関しては関与せず、また、工事完了に関しては、上記イの(ハ)の確認及び押印をしていたが、通常、工事の現場を確認することはなく、本件各工事についても、令和3年3月31日に本件各検査等願書に押印したものの、現場の確認はしなかった。
    • (ハ) 本件工場長は、「〇〇〇〇」については、本件工場の担当者のいない業者が無断で出入りしていないか、異常な時間の入退場がないかなどを確認の上、押印していた。そして、本件日誌には、各「業者名」欄にいずれも本件工事業者の名称が、各「工事名称」欄に「〇〇〇〇北側パレット置場拡張」又は「パレット置場拡張工事」といずれも本件各工事に該当する工事名称が、また、本件工場の担当者として各「担当」欄にいずれも本件従業員の名字が記載されているほか、本件工場長の押印がある。
  • ホ 本件課長の本件各工事への関与等について
    • (イ) 本件課長は、本件各工事の発注に関して、部下に仕様書等を作成させた上で、本件工場長に稟議の申請をした。
    • (ロ) 本件課長は、発注後は大型案件等以外の工事の進捗管理等に関しては担当者が行うため関与せず、また、工事完了に関しても、上記イの(ロ)の確認及び押印をしていたが、現場の確認は、大型案件等以外の工事については基本的に担当者に任せており自ら確認することはなかった。そして、本件各工事についても、令和3年3月31日に本件各納品書等に押印したものの、進捗管理等や検査・検収の現場確認は全て本件従業員に任せていた。
  • ヘ 本件各工事の概要について
     本件各工事は、いずれも本件工場長らの事務室がある厚生棟から私道を挟んだ反対側の緑地内において行われていたところ、その工事位置は、本件工場の敷地内のおおむね中央付近に位置する。また、本件各工事は、空パレット置き場として、当該緑地を伐採・整地し、400平方メートルのアスファルト舗装をする工事とパレットの転倒防止用の安全ポールを設置する工事であった。
  • ト 従業員に対する請求人の管理・監督について
    • (イ) 請求人は、経理規程において、税務に関する会計処理及び関連処理については、税務関係法令を適正に解釈適用しなければならない旨を定めている。
    • (ロ) 請求人は、令和2年2月6日付で、全従業員に対し、件名を「〇〇〇〇」と題する業務連絡を発信した。当該業務連絡には、要旨、大部分の委託業務が完了していることを理由に、業務完了報告書等の発行を依頼し、委託業務の一部が未完了の状態で費用化する行為を厳禁とし、これらの行為が発見された場合は社内規定に従い厳正に対処する旨記載されている。

(3) 当てはめ

上記1の(4)のニのとおり、本件従業員による本件行為が事実の仮装に該当することについては、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを認めるのが相当である。また、上記(1)のとおり、納税者以外の者である法人の従業員が事実を仮装する行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができる場合には、納税者本人に対して重加算税を賦課することができると解されるから、以下、本件従業員による本件行為を納税者たる請求人の行為と同視することができるか否かについて、上記(1)の法令解釈に従って検討する。

  • イ 本件従業員の地位・権限について
     上記(2)のロの(イ)のとおり、本件従業員は、職制上の地位や肩書はなく、また、請求人の経営に参画することはなく、経理業務に関与することもなかったところ、同(ロ)のとおり、本件従業員は、本件工場の営繕管理等の担当者として、工事の管理等の業務の実施を請求人から任されていた以外に請求人から特別な権限を付与されることはなかったことが認められる。
     以上によれば、本件従業員の地位・権限は、請求人の一使用人として限定されたものであったと認められる。
  • ロ 本件従業員による本件行為の行為態様について
    • (イ) 上記(2)のハのとおり、本件従業員は、技術課内のミーティングにおいて、本件各工事が工期内に終わらない旨の報告をしておらず、かつ、本件従業員が本件行為に至った理由は、稟議の再申請を回避するためなどであったことからすれば、本件行為は、本件従業員が自身の業務負荷の増大を避けることなどを目的として独断で行った行為であったと認められる。
    • (ロ) 一方、上記(2)のイの(イ)のとおり、技術課の担当者は、工事完了後に現場を確認し、現場の写真を撮って「工事完了報告書」に貼付するとともに、「検査・検収願書」及び「工事完了報告書」に検査確認の日付の記入及び押印をする業務を行うこととされていたことから、本件行為は、本件従業員が本件各工事の担当者として請求人から付与された権限の範囲内において行われた行為であったと認められる。
    • (ハ) また、上記(2)のニの(ハ)及び同ヘのとおり、本件日誌には本件工事業者の名称や本件各工事の工事名称などが記載されており、本件工場長は、本件日誌を確認した上で押印していること並びに本件各工事の本件工場の敷地内での位置や事務室がある厚生棟との位置関係及び400平方メートルの規模の舗装工事であったことを併せ考慮すると、本件工場長らは、本件各工事がいずれも令和3年3月31日までに完成していないことを認識することができたものと認められる。
    • (ニ) 以上によれば、本件行為は、本件従業員が独断で行ったものではあるものの、請求人から付与された権限の範囲内において行われた行為であると認められる。また、本件工場長らは、本件各工事が令和3年3月31日までに完成していないことを認識することができたものと認められ、そうすると、本件工場長らをして、本件行為による不正の事実を把握し、申告期限までにその是正措置を講ずることが可能であったといえる。
  • ハ 本件従業員に対する請求人の管理・監督について
    • (イ) 上記(2)のトのとおり、請求人は、経理規程において、税務関係法令を適正に解釈適用しなければならない旨を定め、業務連絡により全従業員に向け、本件行為と同様の行為を厳禁とする旨、及びそのような行為が発見された場合は社内規定に従い厳正に対処する旨周知するなど、本件行為の防止措置として、本件従業員に対して一定の管理・監督は行っていたことが認められる。
    • (ロ) その一方、上記(2)のニの(イ)及び(ロ)のとおり、本件工場長は、通常は工事の現場を確認することはなく、本件各工事についても、自ら技術課に本件各工事を急ぎで行うように指示した上で、完成・引渡日が記載された各「民間建設工事請負契約書」に電子署名し、加えて、令和3年3月31日に本件各検査等願書に押印していたことから、本件工場長は、本件各工事が同日までに完成すべきことを認識していたといえるところ、本件各工事の現場を確認しなかったことが認められる。
    • (ハ) さらに、上記(2)のホのとおり、本件課長は、大型案件等以外の工事に係る進捗管理等や現場の確認は基本的に担当者に任せており、本件各工事についても、本件工場長に稟議の申請をし、加えて、令和3年3月31日に本件各納品書等に押印したことから、本件課長は、本件各工事が同日までに完成すべきことを認識していたといえるところ、本件各工事の現場確認を全て本件従業員に任せ、自ら現場を確認しなかったことが認められる。
    • (ニ) 以上によれば、請求人は、本件行為の防止措置として、本件従業員に対して一定の管理・監督は行っていたものの、上記ロの(ハ)のとおり、令和3年3月31日までに完成していないことを認識できた本件各工事について、工事完了の際の現場の確認を本件従業員に任せ、本件行為による不正の事実を把握して是正措置を講ずることができなかったことからすると、請求人における管理・監督が、本件行為のような不正を防止する上で十分であったとは認められない。
  • ニ 小括
     上記イのとおり、本件従業員の地位・権限は、請求人の一使用人として限定されたものであったと認められるものの、上記ロの(ニ)のとおり、本件行為は、本件従業員が請求人から付与された権限の範囲内において行われた行為であり、また、本件工場長らは、本件各工事が令和3年3月31日までに完成していないことを認識することができたことからすれば、本件工場長らをして、本件行為による不正の事実を把握し、申告期限までにその是正措置を講ずることが可能であったと認められる。加えて、上記ハの(ニ)のとおり、請求人における管理・監督が、本件行為のような不正を防止する上で十分であったとは認められないものであり、これらの点を総合考慮すれば、本件従業員による本件行為は、納税者たる請求人の行為と同視することができると判断するのが相当である。

(4) 請求人の主張について

  • イ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、1本件従業員は一使用人として限定的な地位・権限を有していたにすぎないこと、2本件行為は本件従業員の独断的な不正行為であったこと、3請求人は本件従業員に対して一定の管理・監督を行っていたことから、本件行為を請求人の行為と同視することには合理性が認められない旨主張する。
     しかしながら、本件従業員による本件行為を請求人の行為と同視することができると判断するのが相当であることは上記(3)のニのとおりであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
  • ロ また、請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のとおり、本件各工事は、多くの経常的な工事の一つにすぎないから、事前承認及び事後の書面管理対応を行うことは、請求人の管理上重大な問題があるとはいえず、また、本件工場長らは、実際の工事が4月になってからも実施されていることを容易に確認できたとはいえない旨主張する。
     しかしながら、請求人における管理・監督が、本件行為のような不正を防止する上で十分であったとは認められないことは上記(3)のハの(ニ)のとおりであり、また、本件工場長らは、本件各工事が令和3年3月31日までに完成していないことを認識することができたものと認められることは同ロの(ハ)のとおりであるから、この点に関する請求人の主張にはいずれも理由がない。

(5) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(3)のニのとおり、本件従業員による本件行為は請求人の行為と同視することができ、請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められることから、同項に規定する重加算税の賦課要件を満たしている。
 そして、当審判所において本件課税期間の消費税等に係る重加算税の額を計算すると、本件賦課決定処分の額と同額になる。
 また、本件賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(6) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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