(令和6年3月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、飲食業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得税等及び消費税等の期限後申告をしたところ、原処分庁が、請求人に隠蔽又は仮装の事実があり、その隠蔽又は仮装に基づき期限後申告をしたなどとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、請求人には隠蔽又は仮装の事実はないなどとして、原処分の全部又は原処分のうち無申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》(令和4年法律第4号による改正前のもの。ただし、平成29年1月1日前に法定申告期限が到来した国税については、平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第1項本文及び同項第1号は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、その申告に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、同項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、無申告加算税を課さない旨規定している。また、通則法第66条第2項は、同条第1項の規定に該当する場合において、同項に規定する納付すべき税額が50万円を超えるときは、同項の無申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、同項の規定により計算した金額に、その超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
  • ロ 通則法第68条《重加算税》(令和4年法律第4号による改正前のもの。ただし、平成29年1月1日前に法定申告期限が到来した国税については、平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第2項は、同法第66条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
  • ハ 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第5項柱書及び同項第1号は、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税に係る加算税についての賦課決定は、同条第1項の規定にかかわらず、加算税の賦課決定に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まで、することができる旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、屋号を「H」とするラーメン店に係る飲食業(以下「本件事業」という。)を営む個人事業者である。
  • ロ 請求人は、平成21年9月○日、本件事業をa市d町○−○に所在する店舗(以下「旧店舗」という。)において開業した。
  • ハ 請求人は、平成30年10月○日頃をもって、旧店舗における本件事業を終了した。
  • ニ 請求人は、平成31年1月○日、a市b町○−○に所在する店舗(以下「新店舗」という。)において本件事業を再開し、現在まで新店舗において本件事業を営んでいる。
  • ホ 請求人は、J県知事に対し、K県感染拡大防止対策協力金(以下「本件協力金」という。)の申請を行い、令和3年4月○日から同年10月○日までの間に、L銀行○○支店の「H F」名義の口座に入金された、第2弾ないし第13弾に係る本件協力金合計○○○○万円を受領した(以下、令和3年中に請求人が受領した本件協力金合計○○○○万円を「本件各受取協力金」という。)。
     なお、本件協力金は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、K県からの営業時間短縮要請に応じた飲食店等を運営する事業者等に対して、一律の又は事業規模に応じた協力金を支給するものであり、事業規模に応じた協力金の額は、事業者等の前年度又は前々年度の一日当たりの売上高を基に算定される。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、原処分庁に対して、所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、以下の各確定申告書をいずれも法定申告期限までに提出していなかった。
    • (イ) 所得税等
       平成27年分、平成28年分、平成29年分、平成30年分、令和元年分、令和2年分及び令和3年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税等の各確定申告書
    • (ロ) 消費税等
       平成27年1月1日から平成27年12月31日まで、平成28年1月1日から平成28年12月31日まで、平成29年1月1日から平成29年12月31日まで、平成30年1月1日から平成30年12月31日まで、平成31年1月1日から令和元年12月31日まで、令和2年1月1日から令和2年12月31日まで及び令和3年1月1日から令和3年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成27年課税期間」、「平成28年課税期間」、「平成29年課税期間」、「平成30年課税期間」、「令和元年課税期間」、「令和2年課税期間」及び「令和3年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等の各確定申告書
  • ロ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、令和4年4月22日、平成29年分ないし令和3年分の所得税等及び平成29年課税期間ないし令和3年課税期間の消費税等を対象とする調査を開始し、令和4年5月10日、平成27年分及び平成28年分の所得税等並びに平成27年課税期間及び平成28年課税期間の消費税等を対象とする調査を追加した(以下、本件調査担当職員による本件各年分及び本件各課税期間を対象とした上記調査を「本件調査」という。)。
  • ハ 請求人は、令和4年7月7日、本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等について、別表1及び別表2の各「確定申告」欄のとおり記載した上記イの各確定申告書を原処分庁に提出した(以下、当該各確定申告書による各申告のことを「本件各期限後申告」という。)。
     なお、請求人は、本件各期限後申告において、本件各受取協力金を本件事業に係る雑収入として事業所得の総収入金額に算入した。
  • ニ 原処分庁は、令和4年7月29日付で、別表1及び別表2の各「賦課決定処分」欄のとおり、無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ホ 請求人は、本件各賦課決定処分を不服として、令和4年10月24日、別表1及び別表2の各「再調査の請求」欄のとおりの再調査の請求をするとともに、本件各期限後申告の撤回を求める旨の再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、令和5年3月14日付で、本件各賦課決定処分に係る再調査の請求については、別表1及び別表2の各「再調査決定」欄のとおり、いずれも棄却の再調査決定をし、本件各期限後申告の撤回に係る再調査の請求については、いずれも却下の再調査決定をした。
  • ヘ 請求人は、再調査決定を経た後の本件各賦課決定処分に不服があるとして、令和5年4月12日、本件各賦課決定処分のうち、平成27年分及び平成28年分の所得税等並びに平成27年課税期間及び平成28年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分については、それぞれ全部の取消しを求め、その他の各賦課決定処分については、それぞれ無申告加算税相当額を超える部分の取消しを求める旨の審査請求をした。

2 争点

(1) 請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か(争点1)。

(2) 請求人に、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
請求人には、以下のことからすれば、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があった。
  • イ 請求人は、本件事業の開始当初に個人事業の開廃業等届出書及び所得税の青色申告承認申請書を税務署に提出し、税理士の指示の下、売上金額のメモ及び領収書等の保存を行っており、店舗移転後の令和2年にも個人事業の開業・廃業等届出書及び所得税の青色申告承認申請書を提出しており、税務手続、税の仕組み、帳簿書類の保存の必要性について相応の知識があったから、本件事業に係る所得税等及び消費税等に係る確定申告並びに帳簿書類の作成及び保存等の必要性を十分認識していた。
  • ロ 請求人は、顧客から注文があった際にテーブルごと(カウンターはグループごと)に会計伝票(以下、作成した各会計伝票を「本件各会計伝票」という。)を作成し、これを集計することで本件事業に係る日々の売上金額を正確に把握していた。
     また、請求人は、本件事業に係る人件費について、営業日別に個々の人件費を集計し、レジの現金の増加分の額と本件各会計伝票の売上合計額から人件費の合計額を控除した額が一致するか照合するなど、日々の人件費を正確に把握し、人件費以外の必要経費として1か月に支出する金額及び毎月の生活費として1か月に支出する金額についてもおおむね把握していた。
     そして、請求人の収入が本件事業から得られる現金のみで、その日の売上げが各経費の支払及び生活費の原資となるところ、請求人が収支及び生活費の金額を把握していたこと、請求人の現金残高は釣銭5万円に不足したことがないこと、請求人が本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等に係る各期限後申告書を提出したこと並びに本件事業が本件各年分に至るまで継続していることからすると、請求人は、本件事業から相当程度の利益が生じている状態が継続していることについて十分認識していた。
  • ハ 上記イ及びロからすると、請求人は、本件事業に係る所得金額等を容易に把握できたにもかかわらず、所得税等及び消費税等に係る確定申告を行っていなかった。
  • ニ 請求人は、本件各受取協力金が本件事業に関連して支給された収入であることを理解し、本件各受取協力金について本件事業から得られる収入金額と同様に所得税等に係る確定申告が必要であることを認識していた。
  • ホ 請求人は、本件事業の売上金額及び必要経費に係る帳簿書類を一切作成せず、本件各会計伝票、本件各受取協力金に係る支払決定通知書、本件事業に係る経費の領収書等を破棄する行為を継続していた。
請求人には、以下のことからすれば、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はなかった。
  • イ 請求人は、自らの知見に基づいて個人事業の開廃業等届出書及び個人事業の開業・廃業等届出書並びに所得税の青色申告承認申請書を提出したものではなく、簿記や記帳の知識も持ち合わせていなかったところ、本件調査担当職員から指摘されて初めて、売上げや支払等を記録して保管する必要があるという税務に関する相応の知識に触れた。
  • ロ 請求人は、本件事業に係る売上金額について、本件各会計伝票の集計を行うことなく、丼の数により概算で把握しており、感覚により大まかな増減を確認していたにとどまる。
  • ハ 請求人は、本件事業の売上げだけでは生活ができず借金をしていたのであり、本件事業において利益があったという認識はなかった。
  • ニ 本件協力金は、前年あるいは前々年の売上金額に応じて一律、あるいは売上金額に対して一定の割合で支給されるものであり、請求人には一律の額のものとして本件各受取協力金が支給された。
     本件各受取協力金は、本人名義の口座に入金され、請求人は、当該入金があったことを本件調査担当職員にうそ偽りなく申述している。また、請求人は、本件各受取協力金について、一律に支給された「見舞金」と認識していたのであり、所得税等に係る申告が必要であることを認識していなかった。
  • ホ 請求人は、かさ張ってしまうから本件各会計伝票などを捨てていた。請求人が帳簿書類を作成せず、本件各会計伝票及び本件各受取協力金に係る支払決定通知書を保管せずに廃棄して、所得税等及び消費税等に係る確定申告をしなかったことは、ひとえに請求人の無知が招いた結果であり、意図的に当該申告をしなかったのではない。

(2) 争点2(請求人に、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
上記(1)の「原処分庁」欄の請求人の各行為は、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為に該当することから、請求人に、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があった。 上記(1)の「請求人」欄と同様の理由により、請求人に、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実はなかった。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 通則法第68条第2項は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったときは、当該納税者に対して、重加算税を課する旨規定している。この隠蔽又は仮装に基づく無申告に対して重加算税を課する制度は、納税者が無申告について隠蔽、仮装という不正手段を用いていた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
    • (ロ) したがって、重加算税を課するためには、納税者が法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったこと(無申告行為)そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた無申告がされたことを要するものである。
    • (ハ) また、上記(イ)で述べたことからすれば、通則法第68条第2項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽、仮装行為を原因として無申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、納税者において無申告の認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。
    • (ニ) そして、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠匿しあるいは故意に脱漏することをいい、「仮装し」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかもそれが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものと解される。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 青色申告承認申請書の提出等について  
      • A 請求人は、平成21年10月19日、原処分庁に対し、本件事業に係る個人事業の開廃業等届出書を提出し、同年12月10日、原処分庁に対し、平成22年分以後の所得税の申告は青色申告書によりたい旨の所得税の青色申告承認申請書を提出した。なお、上記の青色申告承認申請書には、青色申告のための簿記の方式として「複式簿記」とする旨、並びに青色申告のために備え付ける帳簿名として「現金出納帳」、「経費帳」、「預金出納帳」及び「総勘定元帳」とする旨の記載があり、関与税理士欄には、税理士法人M税理士N(以下「本件税理士」という。)の記名がある。
      • B 請求人は、上記Aの青色申告承認申請書に係る申請により、本件各年分の所得税につき青色申告の承認を受けていたが、本件事業に係る本件各年分の青色申告に係る帳簿の備付け、記録及び保存を所得税法第148条《青色申告者の帳簿書類》第1項に規定するところに従って行っていなかった。
    • (ロ) 本件事業に係る収支について  
      • A 請求人は、本件事業の売上金について全て現金で受領していた。
      • B 請求人は、本件事業の開業(平成21年9月)から2か月程度の期間は、本件税理士の指導の下、本件各会計伝票を集計し、毎日の来店者人数と売上金額をノートに記載し、領収書等を保管していた。
      • C 請求人は、遅くとも平成21年12月頃には本件税理士の関与を断り、それ以降は売上金額等の記録を止めて、各営業日に作成した本件各会計伝票については、各営業日又はその翌日のうちに旧店舗又は新店舗のほかのゴミと一緒に捨てていた。
      • D 請求人は、本件各年分の本件事業に関する支払に係る各証ひょう書類のうち、麺玉及び肉の仕入れに係る請求書については、その支払に係る振込みが終わると捨てており、現金で支払って受け取ったレシートその他本件事業に関する支払に係る領収書等についても、捨てていた。
      • E 請求人は、令和4年4月、本件調査担当職員による調査での指示に基づき、本件各会計伝票及び領収書等の保管を開始し、その保管した本件各会計伝票から算定した実額の売上金額と麺の仕入れに基づいて推計された本件各年分の売上金額を基にするなどして、本件各期限後申告をした。
    • (ハ) 本件協力金について
       請求人は、令和3年中に受領した第2弾ないし第13弾の本件各受取協力金に係る支払決定通知書につき、保管することなく捨てていた。
    • (ニ) 本件調査における請求人の言動について
       請求人は、令和4年5月20日、本件調査担当職員から、本件事業に係る売上金額及び必要経費を確認できる資料について質問されたが、本件各会計伝票及び本件事業に関する支払に係る領収書等は捨てており、当該資料はない旨回答した。
       また、請求人は、令和4年6月17日、本件調査担当職員から、本件各受取協力金について確認できる資料等の提示を求められたが、本件各受取協力金に係る支払決定通知書を捨てているため、当該資料等はない旨回答した。
  • ハ 当てはめ
    • (イ) 請求人は、上記ロの(イ)のBのとおり、本件各年分において、青色申告に係る帳簿の備付け、記録及び保存をしていなかった上、同(ロ)のA、C及びD並びに同(ハ)のとおり、本件各年分及び本件各課税期間において、本件事業に係る各営業日の売上金額等を記録せず、本件各会計伝票、本件各受取協力金に係る支払決定通知書及び本件事業に関する支払に係る領収書等を保管することなく全て捨てており、これによって、本件各年分の本件事業に係る売上金額(雑収入を含む。以下同じ。)及び必要経費の金額を不明にしている。
    • (ロ) そして、上記(イ)の行為をしたのは請求人自身であること、上記ロの(ロ)のBのとおり、請求人が、本件事業の開業から2か月程度の間は、本件税理士の指導の下、本件各会計伝票を集計する等して各営業日の売上金額等をノートに記載し、領収書等を保管していたことがあり、本件事業に係る売上金額等を把握するには、これらの集計や保管などの行為が必要であることを認識していたはずであったこと、並びに同(ニ)のとおり、請求人が、本件調査において、本件事業に係る売上金額及び必要経費や本件各受取協力金について確認できる資料等の提示を求められたものの、当該資料等はない旨の回答をしたことからすれば、請求人自身、本件各会計伝票、本件各受取協力金に係る支払決定通知書、本件事業に関する支払に係る領収書等を捨てることで、本件各年分の本件事業に係る売上金額及び必要経費の金額が不明になることを認識していたというべきである。
       そうすると、請求人は、本件各会計伝票、本件各受取協力金に係る支払決定通知書、本件事業に関する支払に係る領収書等を捨てることで、故意に真実の本件各年分の本件事業に係る売上金額及び必要経費を隠匿し、かつ、故意に真実の本件各課税期間に係る課税売上高を隠匿したというべきであり、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイないしハ及びホのとおり、請求人には税務に関する相応の知識がなく、本件事業に係る売上金額は概算で把握していたにとどまり、本件事業に利益があったとは認識しておらず、請求人が帳簿書類等を作成せず、本件各会計伝票等を保管せずに廃棄していたのは、ひとえに請求人の無知が招いた結果である旨主張する。
       しかしながら、上記ハのとおり、請求人は、本件各会計伝票、本件各受取協力金に係る支払決定通知書、本件事業に関する支払に係る領収書等を捨てることで、本件各年分の本件事業に係る売上金額及び必要経費の金額が不明になることを認識しており、また、請求人が故意に真実の本件各年分の本件事業に係る売上金額及び必要経費を隠匿し、かつ、故意に真実の本件各課税期間に係る課税売上高を隠匿したといえる。そして、上記イの(ハ)で述べたことからすれば、通則法第68条第2項の重加算税を課すためには、請求人において、本件事業に利益が生じており当該利益に係る事業所得及び課税売上高について申告しなければならないのに無申告とすることの認識を有していることまでを必要とするものではないというべきであるから、請求人に対する重加算税の賦課要件は充足する。
       したがって、請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のニのとおり、本件各受取協力金について、本人名義の口座に入金され、入金があったことを請求人は本件調査担当職員にうそ偽りなく申述しており、また、一律に支給された「見舞金」と認識していたのであって、所得税等に係る申告が必要であることを認識していなかった旨主張する。
       しかしながら、上記ハの(イ)のとおり、請求人は、本件各受取協力金に係る支払決定通知書を捨てることで、本件各年分の本件事業に係る雑収入の金額を不明にしている。敷延すると、同(イ)のとおり、請求人が帳簿の備付けなどをしていなかった上、当審判所における調査及び審理の結果によっても、本件事業に関して本件各受取協力金として支給された金額があったことを端的に示す資料は、本件各受取協力金に係る支払決定通知書以外にあったとは認められないから、請求人が当該支払決定通知書を捨てることで、本件各年分の本件事業に係る雑収入の金額が不明になっていたというべきである。そして、請求人が帳簿の備付けなどをしていなかった上に、本件各受取協力金に係る支払決定通知書を捨てることで、本件各年分の本件事業に係る雑収入の金額を不明にする行為をしている以上、請求人が無申告行為そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為をし、これに合わせた無申告がされたというべきであるから、通則法第68条第2項の規定する重加算税の賦課要件を充足する。したがって、請求人が本件調査において本件各受取協力金について任意に回答をしたことをもって、上記要件を欠くことにはならない。
       また、請求人が本件各受取協力金に関して所得税等に係る申告が必要であるとは認識していなかった旨を主張している点についていえば、当該支払決定通知書のほかに、本件各受取協力金として支給された金額があったことを示す資料がないことは、本件各受取協力金を受領した請求人自身も認識していたはずであるし、現に、上記ロの(ニ)のとおり、本件調査においては、当該支払決定通知書を捨てたため、本件各受取協力金について確認できる資料等を提示できない旨の回答をしている。そうすると、請求人自身、帳簿の備付けなどをしなかった上に、本件各受取協力金に係る支払決定通知書を捨てることで、本件各年分の本件事業に係る雑収入の金額が不明になることを認識していたというべきである。加えて、上記ハの(イ)のとおり、請求人が、本件各受取協力金に係る雑収入のみならず、本件事業に係る売上金額及び必要経費の金額を把握するための資料を保管することなく全て捨てていたことからすれば、請求人が本件各受取協力金に係る雑収入について確定申告をしなかったのは、当該雑収入が「一律に支給された『見舞金』」であることをもって、その確定申告が必要であることを認識していなかったからではなく、単に請求人が本件事業に係る全ての収入について確定申告をするつもりがなかったからであるというほかない。そうすると、請求人の上記主張を踏まえても、通則法第68条第2項の規定する隠蔽又は仮装の故意を欠くことはないというべきである。
       したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(請求人に、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第70条は、国税の更正、決定等の期間制限を定めているところ、同条第5項において「偽りその他不正の行為」によりその全部又は一部の税額を免れた国税についての更正決定等の除斥期間を7年と規定し、それ以外の場合よりも長い除斥期間を規定している。これは、偽りその他不正の行為によって国税の全部又は一部を免れた納税者がある場合に、これに対して適正な課税を行うことができるよう、より長期の除斥期間を規定したものである。
     このような通則法第70条第5項の趣旨からすれば、同項が規定する「偽りその他不正の行為」とは、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為をいうものと解するのが相当である。
  • ロ 当てはめ
     上記(1)のハのとおり、請求人は、本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等について、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽し、又は仮装したと認められる。そして、これらの請求人の行為は、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような偽計その他の行為ということができるから、請求人に、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったというべきである。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、同(1)の「請求人」欄と同様の理由から、請求人に通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実はなかった旨主張するが、請求人の行為が同号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当することは、上記ロのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(3) 原処分の適法性について

  • イ 本件各年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分の適法性について
     上記(2)のロのとおり、請求人は通則法第70条第5項第1号に規定する偽りその他不正の行為によりその全部の税額を免れ、上記(1)のハのとおり、本件各年分において、請求人に通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為が認められる。
     そして、本件各年分の所得税等に係る重加算税の額については、その計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において重加算税の額を計算すると、原処分の額といずれも同額となるから、本件各年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
  • ロ 本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分の適法性について
     上記(2)のロのとおり、請求人は通則法第70条第5項第1号に規定する偽りその他不正の行為によりその全部の税額を免れ、上記(1)のハのとおり、本件各課税期間において、請求人に通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為が認められる。
     そして、本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の額については、その計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において重加算税の額を計算すると、原処分の額といずれも同額となるから、本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。

(4) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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