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(令和6年2月13日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得税等については、未経過固定資産税等相当額を譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入せずに申告をし、
消費税等については、課税売上割合が100パーセントであるとして申告をしたところ、原処分庁が、
当該未経過固定資産税等相当額は、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべきであるとして所得税等の更正処分等を行い、
課税売上割合の計算において非課税売上額を資産の譲渡等の対価の合計額に含めるべきであるとして消費税等の更正処分等を行ったことに対し、請求人が、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
- イ 所得税法
- (イ) 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨、同条第3項は、譲渡所得の金額は、その年中の資産の譲渡による所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨それぞれ規定している。
- (ロ) 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定している。
- ロ 地方税法
- (イ) 地方税法第343条《固定資産税の納税義務者等》第1項は、固定資産税は、固定資産の所有者に課する旨、同条第2項は、同条第1項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録がされている者をいう旨それぞれ規定している。
- (ロ) 地方税法第359条《固定資産税の賦課期日》は、固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とする旨規定している。
- (ハ) 地方税法第702条《都市計画税の課税客体等》第1項は、市町村は、当該市町村の区域で都市計画法第5条《都市計画区域》の規定により都市計画区域として指定されたもののうち同法第7条《区域区分》第1項に規定する市街化区域内に所在する土地及び家屋に対し、当該土地又は家屋の所有者に都市計画税を課することができる旨、地方税法第702条第2項は、同条第1項の所有者とは、当該土地又は家屋に係る固定資産税について同法第343条において所有者とされる者をいう旨それぞれ規定している。
- (ニ) 地方税法第702条の6《都市計画税の賦課期日》は、都市計画税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とする旨規定している。
- ハ 消費税法
- (イ) 消費税法(令和5年10月1日施行の平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第6条《非課税》第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない旨規定し、別表第一第13号は、住宅の貸付けを掲げている。
- (ロ) 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項柱書及び同項第1号は、事業者が、国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している(以下、課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額を「控除対象仕入税額」という。)。
- (ハ) 消費税法第30条第2項は、同条第1項の場合において、同項に規定する課税期間における課税売上高が5億円を超えるとき、又は当該課税期間における課税売上割合が100分の95に満たないときは、控除対象仕入税額は、同項の規定にかかわらず、同条第2項各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める方法により計算した金額とする旨、同項第2号は、同項第1号に掲げる場合以外の場合は、当該課税期間における課税仕入れに係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算する方法による旨それぞれ規定している。
- (ニ) 消費税法第30条第6項は、同条第2項に規定する課税売上割合とは、事業者が同条第1項に規定する課税期間中に国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計額のうちに当該事業者が当該課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合として政令で定めるところにより計算した割合をいう旨規定している。
(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
- イ 請求人は、令和3年2月25日に、D社(以下「本件法人」という。)との間で、d県e市f町○丁目に所在する土地及び建物(以下「本件土地建物」という。)について、売主を請求人、買主を本件法人とする不動産売買契約(以下、この契約を「本件契約」といい、本件契約に係る契約書を「本件契約書」という。)を締結した。
なお、本件契約書第12条《公租公課等の分担》には、本件土地建物に対して賦課される固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)は、1月1日を起算日として、引渡完了日の前日までの分を売主の負担とし、引渡完了日以降の分を買主の負担として、引渡完了日において清算する旨が定められている。 - ロ 請求人は、令和3年4月5日に、本件法人から本件契約に基づく売買代金を受け取って、本件法人に対し、本件土地建物の所有権を移転するとともに、本件土地建物を引き渡した。
また、請求人は、令和3年4月5日に、本件法人から、本件契約書第12条に基づき、同日から同年12月31日までの期間に対応する固定資産税等に相当する額として〇〇〇〇円(以下「本件未経過固定資産税等相当額」という。)を受領した。 - ハ 請求人は、令和3年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告書に、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
- ニ 請求人は、令和3年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「令和3年課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書に、別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
- ホ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員による調査を受け、令和5年2月22日に、令和3年分の所得税等及び令和3年課税期間の消費税等について、別表1及び別表2の各「修正申告」欄のとおり記載した各修正申告書を原処分庁に提出した。
なお、請求人は、上記の各修正申告書の作成に当たり、所得税等については、譲渡所得の金額の計算上、本件未経過固定資産税等相当額を総収入金額に含めず、
消費税等については、非課税売上額を零円、課税売上割合を100パーセントとして、控除対象仕入税額を計算していた。
- ヘ 原処分庁は、令和5年4月21日付で、
令和3年分の所得税等については、本件未経過固定資産税等相当額は譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべきであるとして、別表1の「更正処分等」欄のとおり、所得税等の更正処分(以下「本件所得税等更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件所得税等賦課決定処分」という。)を行い、
令和3年課税期間の消費税等については、課税売上割合の計算において非課税売上額を資産の譲渡等の対価の額の合計額に含めるべきであるとして、別表2の「更正処分等」欄のとおり、消費税等の更正処分(以下「本件消費税等更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件消費税等賦課決定処分」という。)をした(以下、「本件所得税等更正処分」、「本件所得税等賦課決定処分」、「本件消費税等更正処分」及び「本件消費税等賦課決定処分」を併せて「本件各更正処分等」という。)。
- ト 請求人は、本件各更正処分等を不服として、令和5年7月21日に審査請求をした。
2 争点
本件未経過固定資産税等相当額は、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入されるか否か。
3 争点についての主張
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
固定資産税等は、各年ごとに、その賦課期日である当該年度の初日の属する年の1月1日における土地又は家屋の所有者を納税義務者として課されるものであり、当該年度の賦課期日後に所有者の異動が生じたとしても、新たに所有者となった者が、当該賦課期日を基準として課される固定資産税等の納税義務を負担するものではない。 そうすると、本件法人の請求人に対する本件未経過固定資産税等相当額の支払は、本件法人が本件土地建物の固定資産税等の納税義務を負うことに基づいて支払われたものではなく、本件契約の締結の際になされた合意に基づくものであるから、本件未経過固定資産税等相当額は、実質的には、本件土地建物の購入の代価の一部というべきである。 したがって、本件未経過固定資産税等相当額は、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入される。 |
固定資産税等は、当該年度の1月1日現在の所有者が当該年度の固定資産税等を支払うものとされていることから、不動産の売買においては、当該不動産の譲受人が譲渡人に未経過期間に対応する固定資産税等を支払うことによって清算するのが常識となっているのであって、本件未経過固定資産税等相当額は税金であり、税金に税を課すことはできない。 また、譲渡人には未経過期間に対応する固定資産税等の納税義務はなく、不動産の売買契約において、未経過期間に対応する固定資産税等は、本来譲受人が負担すべきものを譲渡人が立て替えているにすぎず、売買代金には含まれないところ、本件契約においても、本件未経過固定資産税等相当額は売買代金には含まれていない。 したがって、本件未経過固定資産税等相当額は、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額には算入されない。 |
4 当審判所の判断
(1) 争点について
- イ 法令解釈
所得税法第33条第1項及び第3項は、上記1(2)イ(イ)のとおり規定しているところ、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものと解すべきであり、売買等によりその資産の移転が対価の受入れを伴うとき、その資産の増加益が対価のうちに具体化されることから、これを課税の対象として捉えたものと解すべきである。
そして、このような譲渡所得に対する課税の趣旨からすると、資産の譲渡の対価として収入すべき金額については、その名目いかんにかかわらず、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入されるべきであると解するのが相当である。 - ロ 当てはめ
地方税法第343条第1項及び第2項、同法第359条、同法第702条第1項及び第2項並びに同法第702条の6は、上記1(2)ロ(イ)から(ニ)のとおり規定しているところ、これらの規定によれば、固定資産税等は、その賦課期日である毎年1月1日現在における固定資産の所有者に対して課されるものであって、その所有期間に対応して課されるものではなく、賦課期日後に当該固定資産の所有者に異動が生じたとしても、新たな所有者が当該固定資産のその年の固定資産税等の納税義務を負担するものではない。
したがって、上記1(3)ロのとおり、固定資産税等の賦課期日以後の令和3年4月5日に本件法人に本件土地建物の所有権が移転し、本件土地建物の所有者に異動が生じたとしても、本件法人が本件土地建物の令和3年度の固定資産税等の納税義務を負担するものではないから、上記1(3)イの本件契約における固定資産税等の負担及び清算に関する定めは、新たな債権債務関係を発生させる合意内容の一つというべきである。
そうすると、本件未経過固定資産税等相当額は、本件契約の合意内容に基づいて支払われた、本件土地建物の譲渡の対価の一部であると認められるから、資産の譲渡の対価として収入すべき金額となる。
そして、上記1(3)ロのとおり、請求人は本件未経過固定資産税等相当額を令和3年4月5日に現に受領しているから、本件未経過固定資産税等相当額は、所得税法第33条第3項及び同法第36条第1項の各規定に基づき、請求人の譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入される。 - ハ 請求人の主張について
請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、本件未経過固定資産税等相当額は税金であり、税金に税を課すことはできない旨、また、譲渡人には未経過期間に対応する固定資産税等の納税義務はなく、不動産の売買契約において、未経過期間に対応する固定資産税等は、本来譲受人が負担すべきものを譲渡人が立て替えているにすぎず、売買代金には含まれないところ、本件契約においても、本件未経過固定資産税等相当額は、売買代金には含まれていない旨主張する。
しかしながら、本件未経過固定資産税等相当額は、本件土地建物の譲渡の対価の一部と認められ、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入されることは上記ロのとおりであるから、税金に税を課すものとはいえない。
また、固定資産税等は、その賦課期日である毎年1月1日現在における固定資産の所有者に対して課されるものであって、その所有期間に対応して課されるものではなく、賦課期日後に当該固定資産の所有者に異動が生じたとしても、新たな所有者が当該固定資産のその年の固定資産税等の納税義務を負担するものではないことは、上記ロのとおりであるから、不動産売買において譲渡人と譲受人がその所有期間に応じて固定資産税等を負担すべきものともいえず、本件未経過固定資産税等相当額は、資産の譲渡の対価として収入すべき金額となる。
したがって、請求人の上記主張には理由がない。
(2) 消費税等に係る請求人の主張について
請求人は、本件消費税等更正処分について、国税に関する法律に基づいて実施された処分であることを認める一方、住宅の貸付け等による非課税売上額があり、課税売上割合の計算において分母に非課税売上額を含めると、課税仕入れに係る消費税額が全額控除できず、事業者が消費税を購買者に代わって負担する結果となるから、分母に非課税売上額が含まれることを前提に計算された課税売上割合を用いる現行の法律には不備がある旨主張する。
しかしながら、当審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であって、その処分の基となった法令自体の適否又は合理性を判断することはその権限に属さないことであるので、請求人が主張する法律に不備があるか否かについては、当審判所の審理の限りではない。
(3) 本件各更正処分等の適法性について
- イ 本件所得税等更正処分について
上記(1)ロのとおり、本件未経過固定資産税等相当額は、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入される。これに基づき、請求人の令和3年分の譲渡所得の金額及び納付すべき税額を計算すると、いずれも本件所得税等更正処分の額と同額となる。
また、本件所得税等更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件所得税等更正処分は適法である。 - ロ 本件所得税等賦課決定処分について
上記イのとおり、本件所得税等更正処分は適法であり、本件所得税等更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件所得税等更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条(令和4年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)《過少申告加算税》第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所においても、請求人の令和3年分の所得税等に係る過少申告加算税の額は、本件所得税等賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
したがって、本件所得税等賦課決定処分は適法である。 - ハ 本件消費税等更正処分について
上記1(2)ハの各規定に基づいて、請求人の令和3年課税期間の消費税等の課税標準額及び納付すべき税額を計算すると、いずれも本件消費税等更正処分の額と同額となる。
また、本件消費税等更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件消費税等更正処分は適法である。 - ニ 本件消費税等賦課決定処分について
上記ハのとおり、本件消費税等更正処分は適法であり、本件消費税等更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件消費税等更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所においても、請求人の令和3年課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の額は、本件消費税等賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
したがって、本件消費税等賦課決定処分は適法である。
(4) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 審査請求に至る経緯(所得税等)(省略)
別表2 審査請求に至る経緯(消費税等)(省略)