(令和6年2月26日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が受領した死亡保険金について、原処分庁が、被保険者の死亡日の属する事業年度の益金の額に算入すべきであるとして法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該死亡保険金は保険会社からの支払通知日の属する事業年度の益金の額に算入すべきであり、請求人の処理は是認されるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 法人税法第22条第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨規定し、同条第4項は、同条第2項に規定する当該事業年度の収益の額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定している。
  • ロ 法人税法第130条《青色申告書に係る更正》第2項は、税務署長は、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合には、その更正に係る国税通則法第28条《更正又は決定の手続》第2項に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、建築、土木工事請負業等を目的として設立された法人である。
     なお、請求人の代表取締役は、令和3年12月○日までE(以下「本件前代表者」という。)が務めていたが、同日に死亡により退任し、同月○日にBが就任した。
  • ロ 請求人は、F社及びG社(以下、F社と併せて「本件各保険会社」という。)との間で、保険契約者を請求人、被保険者を本件前代表者、死亡保険金の受取人を請求人とし、別表1の「保険契約の内容」欄の各項目を契約内容とする順号1から5までの各生命保険契約(以下「本件各保険契約」という。)を締結した。
  • ハ 本件各保険契約に係る各約款及び各特約条項の内容等は、要旨次のとおりである。
    • (イ) 支払事由が生じたときは、本件各保険会社は保険金(別表1の「保険金額」欄の各金額)を支払う。
       支払事由とは、被保険者の保険期間中の死亡である。
    • (ロ) 支払事由が生じたときは、保険金受取人は遅滞なく本件各保険会社に通知し、速やかに必要書類を提出して保険金を請求する。
       なお、F社における必要書類とは、同社所定の請求書、同社所定の様式による医師の死亡証明書、被保険者の住民票、受取人の戸籍抄本及び印鑑証明書並びに保険証券であり、G社における必要書類とは、同社所定の請求書、同社所定の様式による医師の診断書、被保険者の住民票、受取人の戸籍抄本及び印鑑証明書並びに保険証券である。
       また、別表1の順号5の保険契約においては、支払事由が生じた場合のG社に対する通知時期に関する定めはない。
    • (ハ) 保険金は、上記(ロ)の必要書類が本件各保険会社に到着した日の翌日又は翌営業日からその日を含めて5営業日以内に支払うが、保険金を支払うために確認が必要な場合やその確認のために特別な照会や調査が不可欠な場合には保険金の支払期限が延長される。
    • (ニ) 上記(イ)の支払事由が生じても、免責事由に該当するときは、本件各保険会社は保険金を支払わない。
       免責事由とは、1責任開始の日から3年以内の自殺、2保険契約者又は保険金受取人の故意、3戦争その他の変乱のいずれかによる被保険者の死亡である。
    • (ホ) 上記(イ)の支払事由が生じた後でも、保険契約者又は被保険者に告知義務違反があったときは、本件各保険会社は保険契約を解除することができ、当該保険契約に係る保険金を支払わない。
    • (ヘ) 上記(イ)の支払事由が生じた後でも、重大事由に該当するときは、本件各保険会社は保険契約を解除することができ、当該保険契約に係る保険金を支払わない。
       重大事由とは、1保険契約者又は保険金受取人が保険金を詐取する目的で事故招致をした場合、2保険金の請求に関して保険金受取人に詐欺行為があった場合、3保険契約者、被保険者又は保険金受取人が暴力団等に該当する場合、41から3までと同等の重大な事由がある場合などである。なお、別表1の順号5の保険契約においては、上記3の定めはない。
  • ニ 本件前代表者は令和3年12月○日にH県立J病院において死亡し、同病院は、同日、同人の直接死因を「○○○○」、死因の種類を「病死及び自然死」と診断した。なお、死亡診断書の死因の種類欄には、「病死及び自然死」以外に、交通事故等の「不慮の外因死」、自殺等の「その他及び不詳の外因死」及び「不詳の死」という項目があったが、本件前代表者の死因の種類としては、「病死及び自然死」のみが選択されていた。
  • ホ 請求人は、別表1の順号1から4までの各生命保険契約について、F社に対して、令和4年3月8日付で、必要書類を提出して保険金の請求を行った。
     また、請求人は、別表1の順号5の生命保険契約について、G社に対して、令和4年5月31日付で、必要書類を提出して保険金の請求を行った。
  • ヘ 請求人は、別表1の順号1から4までの各生命保険契約について、F社から、いずれも令和4年3月16日付の「お支払のご案内」と題する各書面を受領し、また、別表1の順号5の生命保険契約について、G社から、同年6月6日付の「お支払明細書」と題する書面を受領した。
     当該各書面には、別表1の「支払金額」欄の各金額を令和4年3月17日付で支払手続を行う旨又は同年6月8日に支払う旨が記載されていた。
  • ト 令和4年3月17日及び同年6月8日に、上記ヘの各書面に記載された別表1の「支払金額」欄の各金額が、請求人名義の銀行口座に入金され、請求人は、それぞれ同日付で、同入金額について保険積立金等を差し引いた金額を雑収入に計上した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、令和3年1月1日から令和3年12月31日までの事業年度(以下「令和3年12月期」といい、他の事業年度も同様に表記する。)の法人税及び令和3年1月1日から令和3年12月31日までの課税事業年度(以下「令和3年12月課税事業年度」という。)の地方法人税について、青色の確定申告書に別表2及び別表3の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
     なお、請求人は、令和3年12月期の確定申告に当たり、本件各保険契約に基づく死亡保険金請求権(以下「本件各請求権」という。)に係る保険金の額(以下「本件各保険金の額」という。)を益金の額に算入しなかった。
  • ロ 原処分庁は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、請求人は本件前代表者の死亡日において、本件各請求権を取得するとともに、当該権利の行使が可能となったことから、本件各保険金の額は請求人の令和3年12月期の益金の額に算入すべきとして、令和4年12月16日付で、別表2の「更正処分等」欄のとおり、令和3年12月期の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに別表3の「更正処分等」欄のとおり、令和3年12月課税事業年度の地方法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
     なお、原処分庁は、本件更正処分に当たり、本件各保険金の額を、別表1の順号1から3まで及び5については同表の「保険金額」欄の各金額とし、順号4については5,184,000円(商工会議所の団体割引が適用された月払保険料288,000円×18か月)と算定し、本件更正処分に係る通知書(以下「本件更正通知書」という。)に、当該各金額が本件各保険契約に係る保険金相当額である旨を記載した。
     また、本件更正通知書には、本件各保険金の額が令和3年12月期の益金の額に算入される理由として、要旨次の記載がある。
    • (イ) 請求人は本件各保険会社と本件各保険契約を締結しており、本件各保険契約に係る各約款において、本件各保険契約に基づく保険金は、免責事由に該当する場合を除き、被保険者の死亡を支払事由として支払われるものとされている。
    • (ロ) 本件前代表者は令和3年12月○日に○○○○のため死亡し、そのことは上記(イ)の免責事由に該当しないから、請求人は同日に本件各請求権を取得するとともに、当該権利の行使が可能になったものと認められる。
    • (ハ) 本件各保険金の額は、法人税法第22条第2項に規定する「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」に該当するから、収入すべき権利が確定した令和3年12月期の益金の額に算入すべきものと認められる。
  • ハ 請求人は、上記ロの各処分を不服として、令和5年3月10日に審査請求をした。

2 争点

(1) 本件更正処分の理由付記に不備があるか否か(争点1)。

(2) 本件各保険金の額は令和3年12月期の益金の額に算入されるか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件更正処分の理由付記に不備があるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件更正通知書には、上記1(4)ロのとおり、原処分庁が認定した事実及び判断が記載されており、理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示されているから、本件更正処分には法人税法第130条第2項に規定する理由付記の不備はない。
 なお、原処分庁は別表1の順号4の保険金の額を、契約支払金額として定められた方法により算定したまでであり、請求人が通知を受けた額と異なるからといって理由付記に不備があることにはならない。
本件更正通知書には、本件前代表者の死亡日において収入すべき権利が確定した旨が唐突に記載されているだけであり、原処分庁は、請求人による権利の行使が可能になったことが権利の確定であると結論付けた過程や、本件各請求権の取得と収入すべき権利が確定する時点が同一となる理由を具体的に記載しておらず、また、原処分庁がどのような事実関係により、どのような思考過程を経て課税要件を適用したのかも記載していない。
 さらに、別表1の順号4の保険金の額の算定誤りもあるから、本件更正処分には法人税法第130条第2項に規定する理由付記の不備がある。

(2) 争点2(本件各保険金の額は令和3年12月期の益金の額に算入されるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件各保険金の額は、以下の理由から、本件前代表者の死亡日である令和3年12月○日において収入すべき権利が確定したといえるから、請求人の令和3年12月期の益金の額に算入される。 本件各保険金の額は、以下の理由から、本件各保険会社からの支払通知日において収入すべき権利が確定したといえる上、法人税法第22条の2に照らしても、本件各保険金の額を当該支払通知日の属する事業年度である令和4年12月期の益金の額に算入した請求人の処理は是認されるべきであるから、令和3年12月期の益金の額に算入されない。
イ 法人税法第22条第2項及び第4項の解釈からすると、本件各請求権が確定したと認められるか否かは、請求人が令和3年中に本件各保険金の額を請求することができたか否かではなく、本件各請求権の発生及び実現の可能性を認識できたか否かで判断すべきである。
 本件前代表者は令和3年12月○日に死亡し、同日において死因が「病死又は自然死」と診断されているところ、これは本件各保険契約に係る保険金の支払事由に該当するとともに、免責事由のいずれにも該当しない。
 そうすると、請求人においては、本件前代表者の死亡の事実及び本件各保険契約に基づいて、保険金を請求することができる状態が整っており、本件前代表者の死亡日から本件各請求権の実現可能性を客観的に認識でき、その行使が可能となったといえる。
 また、既に確定した収入すべき権利を現金の回収を待って収益に計上するなどの会計処理が一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するとはいえないことに照らすと、本件において、本件前代表者の死亡日に収入すべき金額が確定した本件各保険金の額を、支払通知を待って益金の額に算入することは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するとは認め難い。
 さらに、法人税法第22条の2第4項及び法人税基本通達2−1−1の10《資産の引渡しの時の価額等の通則》に照らせば、本件各保険金の額が確定していることは、権利の確定の要件とはならない。
イ 保険金は、請求があったからといって単純無制約に支払われるものではなく、請求書の不備の有無、免責事由への該当の有無等の審査も含め、保険会社の審査後に支払われることが常識である。また、収益の認識に関しては実現主義が採用され、その採用根拠として客観的な測定が必要とされるところ、本件各保険金の額は、原処分庁がその算定を誤っていることに照らしても、死亡時点においては請求人による主観的な測定にすぎず、保険会社からの支払通知をもってはじめて客観的な測定が可能となり、収益の実現があったものといえる。
 なお、保険会社からの支払通知日を収益計上の時期とする文献等が存在するのは、当該支払通知日をもって収益の実現とすることが実務上広く一般的に採用されている証拠であり、また、法人税法第22条が設けられた後の法改正によって同条第4項が追加され、法人が一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った処理をしていた場合に、当該処理が法人税法上否認されないようにしたという経緯等を踏まえても、当該支払通知日を保険金の収益計上の時期とするのは一般に公正妥当と認められる会計処理である。
 また、本件各保険金の額の請求に必要な書類等の準備状況等からすると、客観的にみて、請求人においては、令和3年中に本件各請求権の発生及び実現の可能性を認識し行使することは不可能であったから、この点からも収益の実現があったとはいえない。
ロ 法人税法第22条の2第2項は従来の取扱いを明確化したものであり、権利の確定に関する解釈を変更したものではないから、上記イの主張に誤りはないし、本件各保険金の額を令和3年12月期の益金の額に算入すべきことは、法人税基本通達9−3−4《養老保険に係る保険料》の(1)及び所得税基本通達36−13《一時所得の総収入金額の収入すべき時期》といった他の法令解釈通達の定めとも整合するものである。 ロ 法人税法第22条の2にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」には、企業会計原則、慣習、判例等が包含されており、いわゆる権利確定基準と整合しない場合であっても、電気業等のように、役務の提供等の日のみならず、契約等の効力が生じる日等にも収益の実現が認められているにもかかわらず、死亡保険金の収益実現の時期を死亡時点のみとする原処分庁の主張には無理がある。
ハ 死亡退職金の支払は、死亡保険金の使途であって、その支払に基因して死亡保険金が支払われるものではないから、これらが費用・収益として対応していないことをもって、費用収益対応の原則違反の問題が生じるものではない。 ハ 本件各保険金の額を令和3年12月期の益金の額に算入すべきとするなら、本件各保険契約が本件前代表者の死亡退職金の支払に備えたものである以上、かかる死亡退職金も令和3年12月期の損金の額に算入されなければ、費用収益対応の原則に反し、著しく不公平である。
ニ 本件各保険金の額について、本件前代表者の死亡日において、請求人が益金の額に算入し、本件各保険会社が損金の額に算入していないとしても、同一の課税物件に対する課税が重複しているとはいえず、二重課税の問題が生じるわけではない。 ニ 支払事由が生じてもその旨の報告を受けていない場合、保険会社は当該支払事由に係る保険金の額を見積もり、支払備金として負債に計上するにとどめ、損金の額には算入しない。本件各保険金の額について、本件前代表者の死亡日において、本件各保険会社が損金の額に算入していないにもかかわらず、請求人が益金の額に算入することになると、請求人と本件各保険会社の二重課税となる。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件更正処分の理由付記に不備があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     法人税法第130条第2項が、青色申告に係る法人税について更正をする場合に更正通知書に更正の理由を付記すべきものとしているのは、法が、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるとの趣旨に出たものというべきであるから、更正通知書に記載された更正の理由が、理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正の理由付記として欠けるところはないと解するのが相当である。
  • ロ 検討
     本件更正通知書には、上記1(4)ロのとおり、請求人が本件各保険契約を締結した事実及びそれらの約款で定められた各保険金の支払事由を示した上で、1原処分庁が、請求人が本件前代表者の死亡日において本件各請求権を取得しその行使が可能となったと判断した理由、2本件各保険金の額を請求人の令和3年12月期の益金の額に算入すべきと判断した理由が記載されている。このような記載は、本件前代表者の死亡が本件各保険契約上の免責事由に該当せず、その死亡日に本件各請求権に係る収入すべき権利が確定したことを示しており、本件更正処分における原処分庁の判断過程を省略することなく記載したものということができ、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保するという点について欠けるところはなく、当該理由の記載の程度は、原処分庁の恣意を抑制し、請求人に不服申立ての便宜を与えるという理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示されているといえる。
     したがって、本件更正処分の理由付記に不備はない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3(1)の「請求人」欄のとおり、本件更正通知書には本件更正処分を行うまでの判断等の過程や、その過程において適用した事実関係が具体的に記載されておらず、別表1の順号4の保険金の額の算定誤りもあるから、本件更正処分には理由付記の不備がある旨主張する。
     確かに、上記1(3)ト及び同(4)ロのとおり、別表1の順号4の保険契約に係る原処分庁の算定額と死亡保険金の実際の支払金額とが異なっている上、請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、別表1の順号4の保険契約については、上記1(4)ロのとおり、原処分庁は当該保険契約に基づき、月払保険料を保険証券に記載されている商工会議所の団体割引が適用された288,000円で算定しているが、別表1の順号4の「支払金額」欄のとおり、実際に支払われた保険金の額は、割引前の月払保険料312,400円で算定されているから、原処分庁が当該保険契約に係る保険金の額の算定に用いた月払保険料の額に誤りがあったことが認められる。
     しかしながら、保険金の額の記載に上記の誤りがあったとしても、上記ロのとおり、本件更正通知書には、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保して恣意を抑制するとともに、請求人に不服申立ての便宜を与えるという理由付記制度の趣旨目的を充足する程度にその理由が具体的に明示されているのであるから、かかる誤りは理由付記の不備には当たらない。
     したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件各保険金の額は令和3年12月期の益金の額に算入されるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     上記1(2)イの法人税法第22条第2項及び第4項の規定からすれば、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと解される。
     もっとも、法人税法第22条第4項は、現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解されるから、権利の確定時期に関する会計処理を、法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を唯一の基準としてしなければならないとするのは相当でなく、取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる収益計上の基準の中から、当該法人が特定の基準を選択し、その基準によって収益を計上している場合には、法人税法上もその会計処理を正当なものとして是認すべきである。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) F社は、令和3年12月21日に、請求人に対して、別表1の順号1から4までの各保険契約に係る保険金の請求に必要となる書類を送付する旨電話連絡し、令和4年1月7日に当該書類の発送手続を行った。
       なお、G社の請求人に対する必要書類の交付時期は不明である。
    • (ロ) 本件各保険会社においては、一般的な取扱いとして、保険金の支払請求を受けてから、免責事由その他保険金を支払わない事由の有無を審査することとしている。
  • ハ 検討
    • (イ) 本件各保険金の額が令和3年12月期の益金の額に算入されるか否かについては、上記イを踏まえると、本件各保険金の額を入金日の令和4年3月17日付及び同年6月8日付でそれぞれ雑収入等に計上する会計処理(上記1(3)ト)、すなわち、本件各保険会社からの支払通知日の属する令和4年12月期の収益として計上するという請求人の会計処理が、取引の経済的実態からみて合理的なものであり、法人税法上正当なものとして是認されるか否かによることになるため、この点について、以下検討する。
    • (ロ) 本件各保険契約の各約款及び各特約条項の内容等は、上記1(3)ハのとおりであり、保険金の支払時期に関し、請求に係る必要書類が本件各保険会社に到着した翌日又は翌営業日から保険金の支払がされるまでに、少なくとも5営業日の期間が設けられ、追加での確認が必要な場合などには保険金の支払期限が延長されることとなっている。このような保険金の支払に至る過程からすれば、保険金の支払は、その請求後、書類不備等の形式面のほか、免責事由その他保険金を支払わない事由の確認調査の必要性を検討した上で行われるものである。
       そうすると、上記1(3)ニのとおり、本件前代表者の死亡診断書に記載された死因の種類が「病死及び自然死」のみであり、その記載上、直ちには免責事由の存在を疑わせる記載がないとしても、本件各保険会社の上記検討の結果次第では、本件各保険契約に基づく保険金が支払われないこともあり得たといえる。
    • (ハ) また、本件各保険契約に基づく保険金の請求に係る請求人の事情について検討するに、上記1(3)ハ(ロ)のとおり、本件各保険契約に基づく保険金の請求に当たっては、F社所定の様式による医師の死亡証明書又はG社所定の診断書を提出する必要がある上、本件各保険会社が保険金の請求のための所定の様式を請求人に交付するためには一定の時間を要することをも踏まえれば、かかる死亡証明書等の取得にはある程度の時間を要すると認められる。
       実際にも、上記1(3)ホ及び上記ロ(イ)のとおり、F社は、令和3年12月21日の段階では、請求人に対し、保険金の請求に必要となる書類を送付する旨の電話連絡をしたにとどまり、実際に当該書類の発送手続を行ったのは令和4年1月7日であり、請求人のF社に対する保険金の請求は同年3月8日付であった。また、上記ロ(イ)のとおり、G社の請求人に対する必要書類の交付時期は明らかではないが、上記1(3)ホのとおり、請求人のG社に対する保険金の請求は令和4年5月31日付であった。
       これらの事情からすると、本件各保険会社に対する保険金の請求の時期は、本件前代表者の死亡日である令和3年12月○日(上記1(3)イ)から最長で5か月以上が経過した時点であると認められる。しかしながら、本件前代表者の死亡後に、請求人が事業を継続しつつ、本件前代表者の葬儀や、会社法所定の期間内に代表取締役の変更及びこれに伴う所定の手続等を行う必要性を踏まえると、請求人が行った本件各保険契約に基づく保険金の請求手続が特段遅延したとは認められず、本件前代表者の死亡時点から本件各保険会社に対する保険金の請求時点の間には、不自然又は不相当な間隔があるとはいえない。そうすると、請求人が、恣意的に本件各保険金の額の収益計上時期を令和4年12月期に繰り延べようと企図したとは認められない。
    • (ニ) 上記(ロ)及び(ハ)のとおり、本件における具体的な事実関係の下での検討を踏まえれば、本件各保険金の額を令和4年12月期の雑収入等に計上した請求人の会計処理は、取引の経済的実態からみて合理的な収益計上の基準に則したものであるということができ、法人税法上も正当なものとして是認すべきと認められることから、上記3(2)の「請求人」欄のロからニまでにおける請求人の各主張の当否について検討するまでもなく、本件各保険金の額は令和3年12月期の益金の額に算入されない。
  • ニ 原処分庁の主張について
    • (イ) 原処分庁は、上記3(2)の「原処分庁」欄のイのとおり、請求人は本件前代表者の死亡日から本件各請求権の実現可能性を客観的に認識でき、その行使が可能となったといえる旨や、本件各保険金の額を支払通知を待って益金の額に算入することは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するとは認め難い旨主張する。
       確かに、保険契約上の支払事由が生じ、免責事由に該当しないことが見込まれる場合に、死亡日に収益計上する会計処理も法人税法上正当なものとして是認され得る。
       しかしながら、上記ハのとおり、本件各保険金の額を令和4年12月期の雑収入等に計上した請求人の会計処理も、取引の経済的実態からみて合理的な収益計上の基準に則したものと認められ、法人税法上も正当なものとして是認すべきである以上、原処分庁の主張は採用できない。
       したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
    • (ロ) 原処分庁は、上記3(2)の「原処分庁」欄のロのとおり、本件各保険金の額を令和3年12月期の益金の額に算入すべきことは、法人税基本通達9−3−4の(1)及び所得税基本通達36−13といった他の法令解釈通達の定めとも整合する旨主張する。
       しかしながら、法人税基本通達9−3−4の(1)は、保険契約が終了する時までは養老保険に係る支払保険料の額を資産に計上する旨の取扱いを定めたものであって、本件各保険金の額を令和3年12月期の益金に算入すべきことの根拠とはならない。
       また、所得税基本通達36−13との関係でみると、上記ハの判断は、本件各保険金の額を令和4年12月期の雑収入等に計上した請求人の会計処理が法人税法上も是認すべきことを判断したものであって、そのような判断により、直ちに所得税基本通達36−13との間に矛盾が生じるともいえない。
       したがって、この点に関する原処分庁の主張にも理由がない。

(3) 本件更正処分の適法性について

上記(2)ハのとおり、本件各保険金の額は令和3年12月期の益金の額に算入されない。これに基づき、請求人の令和3年12月期の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表2の「確定申告」欄と同額となるから、本件更正処分はその全部が違法であって取り消すべきである。

(4) 令和3年12月課税事業年度の地方法人税の更正処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであり、これに基づき、請求人の令和3年12月課税事業年度の課税標準法人税額及び納付すべき税額を計算すると、別表3の「確定申告」欄と同額となるから、標記の更正処分はその全部が違法であって取り消すべきである。

(5) 上記1(4)ロの各賦課決定処分の適法性について

上記(3)及び(4)のとおり、本件更正処分及び令和3年12月課税事業年度の地方法人税の更正処分は、いずれもその全部を取り消すべきであるから、標記の各賦課決定処分は、いずれもその全部が違法であって取り消すべきである。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。

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