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(令和6年1月29日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が納税者Gから振込みによる送金を受けたところ、当該送金は無償による譲渡に当たるとして、原処分庁が、当該納税者の死亡後に、請求人に対し、国税徴収法に基づく第二次納税義務の納付告知処分をしたのに対し、請求人が、無償による譲渡には該当しないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
- イ 国税徴収法(令和3年法律第11号による改正前のものをいい、以下「徴収法」という。)第32条《第二次納税義務の通則》第1項は、税務署長は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない旨規定している。
- ロ 徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足する(以下、滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足することを「徴収不足」という。)と認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下、これらの処分を「無償譲渡等の処分」という。)に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他滞納者と特殊な関係のある個人又は同族会社で政令で定めるものであるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
- ハ 国税徴収法施行令第14条《無償又は著しい低額の譲渡の範囲等》第2項柱書及び第1号は、徴収法第39条に規定する滞納者の親族その他滞納者と特殊な関係のある個人とは、滞納者の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹である旨規定している。
- ニ 国税徴収法基本通達(昭和41年8月22日付徴徴4−13ほか国税庁長官通達。以下「徴収法基本通達」という。)第39条関係3《譲渡》は、徴収法第39条の「譲渡」とは、贈与、特定遺贈、売買、交換、債権譲渡、出資、代物弁済等による財産権の移転をいう旨定め、また、その注3は、滞納者が、例えば、生計を一にする親族(徴収法基本通達第37条関係6《生計を一にする》及び民法第725条《親族の範囲》)の生活費、学費等に充てるためにした社会通念上相当と認められる範囲の金銭又は物品の交付は、徴収法第39条に規定する「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」には当たらない旨定めている。
- ホ 国税通則法(以下「通則法」という。)第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項は、相続があった場合には、相続人又は民法第951条《相続財産法人の成立》の法人は、その被相続人に課されるべき、又はその被相続人が納付し、若しくは徴収されるべき国税を納める義務を承継する旨規定している。
(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
- イ 請求人は、平成12年1月18日に、G(以下「本件亡滞納者」という。)と婚姻した。
- ロ 請求人は、H銀行○○支店(現、J銀行○○支店)の本件亡滞納者名義の普通預金口座(口座番号○○○○及び口座番号○○○○。以下、それぞれ「本件亡滞納者口座1」及び「本件亡滞納者口座2」という。)から、
K銀行○○支店(現、L銀行○○支店)の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「請求人口座1」という。)、
M銀行○○支店(現、L銀行○○支店)の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「請求人口座2」という。)又は
N銀行の請求人名義の口座(○○○○。以下「本件請求人口座」という。)への振込みによる方法で、それぞれ別表1のとおり送金を受けた(以下、別表1の各送金のうち、順号21の送金を「本件金銭交付」といい、順号17及び順号18の各送金を併せて「本件金銭交付前送金」という。また、本件金銭交付及び本件金銭交付前送金を併せて「本件金銭交付等」といい、本件金銭交付等を除く別表1の各送金を併せて「本件各送金」という。)。
- ハ 本件金銭交付がされた平成30年5月9日時点において、請求人と本件亡滞納者との間の子は、長男(平成○年○月○日生まれ)及び長女(平成○年○月○日生まれ)の2人(以下、請求人、長男及び長女を併せて「請求人親子」という。)であり、請求人親子はa市内に居住していた。
- ニ 本件亡滞納者は、令和2年6月26日に、原処分庁に対し、平成30年中に株式の譲渡に係る所得等があったとして、納付すべき税額を〇〇〇〇円とする平成30年分の所得税及び復興特別所得税の期限後申告(以下「本件期限後申告」という。)をした。
- ホ 本件亡滞納者は、令和2年7月6日に、原処分庁に対し、上記ニの納付すべき税額〇〇〇〇円について、新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律第3条《納税の猶予の特例》により読み替えて適用する通則法第46条《納税の猶予の要件等》第1項の規定に基づき、納税の猶予申請(以下「本件猶予申請」という。)をした。
- ヘ 原処分庁は、令和2年8月14日付で、本件亡滞納者に対し、平成30年分の所得税及び復興特別所得税に係る無申告加算税の賦課決定処分をした。
- ト 原処分庁は、本件猶予申請について、換価の猶予申請として処理を行い、令和3年1月19日付で猶予期間を令和2年7月6日から令和3年7月5日までとする換価の猶予をした。
- チ 請求人と本件亡滞納者は、令和3年5月14日に離婚した。
- リ 本件亡滞納者は、令和3年6月○日頃に死亡し、本件亡滞納者の相続人全員が相続の放棄をしたため、民法第951条の規定により相続財産法人(以下「本件相続財産法人」という。)が成立し、本件亡滞納者の滞納国税の納付義務は、通則法第5条第1項の規定に基づき、本件相続財産法人に承継された(以下、本件相続財産法人に承継された別表2の各滞納国税を併せて「本件各滞納国税」という。)。
- ヌ 原処分庁は、請求人に対し、本件各滞納国税に徴収不足が生じているところ、本件金銭交付は、本件亡滞納者から請求人に対する徴収法第39条に規定する無償による譲渡に該当し、本件金銭交付がなければ本件各滞納国税の徴収不足は生じなかったとして、同法第32条第1項の規定に基づき、令和4年11月14日付兼同日発送の納付通知書(以下「本件納付通知書」という。)により、納付すべき限度の額を本件金銭交付に相当する額である〇〇〇〇円として納付告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)をした。
なお、本件納付通知書の「納税者」欄の「氏名(名称)」欄には、本件相続財産法人の名称を記載すべきところ、誤って本件亡滞納者の氏名が記載されていた(以下、この誤りを「本件記載誤り」という。)。 - ル 請求人は、令和5年2月3日に、本件納付告知処分に不服があるとして、審査請求をした。
2 争点
(1) 本件金銭交付は、徴収法第39条に規定する無償による譲渡に該当するか否か(争点1)。
(2) 本件各滞納国税の徴収不足は、本件金銭交付に基因するか否か(争点2)。
3 争点についての主張
(1) 争点1(本件金銭交付は、徴収法第39条に規定する無償による譲渡に該当するか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
本件亡滞納者は、請求人に対し、平成29年1月から令和3年4月までの間、請求人口座1及び請求人口座2に月額平均352,942円を送金しており、本件金銭交付後も、別表1のとおり送金を続けていたこと及び本件金銭交付に先立ち、本件金銭交付前送金をしていたことからすると、請求人親子の将来の生活のために本件金銭交付を行う必要があったとはいえない。 また、本件金銭交付が、生活費や学資などの支出を賄えるよう請求人に貯蓄をさせる目的で行われたものであるとしても、そのような支出は納税後の資産で賄うべきものであって、社会通念上相当なものとはいえないし、発生することが不確実な将来の支出に備えた貯蓄としての金銭交付行為が納税義務の履行に優先すると認めることは、容易に第二次納税義務の追及を逃れることを可能とし、徴収法第39条の立法趣旨を没却することになる。 したがって、本件金銭交付は、無償による譲渡に該当する。 |
本件金銭交付が行われた時点において、本件亡滞納者は請求人と別居しており、本件亡滞納者は、民法上、請求人に対して将来の生活費及び学資等である婚姻費用の支払義務を負っていた。 そして、本件亡滞納者には、平成24年から平成30年頃にかけて給与や株式の売却による相当程度の金額の収入があった一方、請求人は、同期間において無収入であり、請求人と本件亡滞納者との間の子は、平成30年3月当時、長男が○歳、長女が○歳であったことから、本件亡滞納者の請求人に対する婚姻費用の金額は月額350,000円程度が相当である。 そうすると、請求人が本件亡滞納者から本件金銭交付等により受け取った20,000,000円は、当時の婚姻費用の約57か月(4年9か月)分に相当し、将来の婚姻費用の前払として相当なものである。なお、本件亡滞納者が医師の家系であり、長男及び長女が6年制の医学部に進学した場合には、支払義務の終期は、更に24か月長くなるから、この点でも本件金銭交付等は相当なものである。 したがって、婚姻費用の約57か月分に相当する本件金銭交付等は、社会通念上相当と認められる範囲の金銭の交付であり、無償による譲渡に該当しない。 |
(2) 争点2(本件各滞納国税の徴収不足は、本件金銭交付に基因するか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
本件亡滞納者は、令和2年7月から令和3年3月までの間に、10,000,000円以上の給与収入を得ていたが、振り込まれた給与の大半を送金又は出金により費消していたため、本件期限後申告がされた令和2年6月26日から本件納付通知書が発送された令和4年11月14日までの間、本件各滞納国税を充足するだけの預金残高が形成されたことはなかった。 また、本件亡滞納者は、令和2年1月10日に株式の譲渡代金3,593,810円を得ているところ、当該譲渡代金は、本件亡滞納者口座1に振り込まれたその日のうちに本件亡滞納者口座2に送金され、更に本件亡滞納者口座2から同日中に出金及び支払が行われ残高は数千円となっていた上、令和2年当時、本件亡滞納者が債務整理をしなければならないほど多額の債務を負担していたことからすると、当該譲渡代金は、本件期限後申告時点で既に散逸しており、本件納付通知書の発送時点でも当該譲渡代金によって本件各滞納国税を充足することはできなかった。 したがって、本件亡滞納者が本件金銭交付後に本件各滞納国税の総額を徴収できる財産を取得したとはいえず、本件金銭交付がなかったならば、本件各滞納国税の徴収不足は生じていなかったといえるから、かかる徴収不足は、本件金銭交付に基因する。 なお、原処分庁は、本件亡滞納者から本件猶予申請がされたことを受け、本件亡滞納者の財産及び収入の状況を調査した上、換価の猶予をしており、漫然と本件亡滞納者の財産の散逸を見過ごしたものではない。 |
本件亡滞納者は、令和2年7月から令和3年3月までの間に、10,000,000円以上の給与収入を得ており、本件各滞納国税を納付するのに十分な資力を有していた。 また、本件亡滞納者は、令和2年1月10日に、株式の売却代金約3,600,000円を得ており、このうち2,900,000円を引き出して現金化している上、令和2年1月から同年7月までの間、請求人に対して生活費を支払っていないから、本件亡滞納者が上記期間中に上記2,900,000円を全額費消したとは考えられない。 そうすると、原処分庁が本件期限後申告直後の令和2年7月の時点において、本件亡滞納者に対し、遅滞なく滞納処分を行っていれば、徴収不足を生じることはなかった。 それにもかかわらず、原処分庁は、本件亡滞納者に対し、滞納処分を行うどころか、換価の猶予を行い、漫然と本件亡滞納者の財産の散逸を見過ごした。 したがって、本件各滞納国税の徴収不足は、本件金銭交付に基因するとはいえない。 |
4 当審判所の判断
(1) 争点1(本件金銭交付は、徴収法第39条に規定する無償による譲渡に該当するか否か。)について
- イ 法令解釈
徴収法第39条に規定する第二次納税義務の制度は、滞納者である本来の納税義務者が、その国税の法定納期限の1年前の日以後にその財産について無償譲渡等の処分を行ったために、本来の納税義務者に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められるときに、当該無償譲渡等の処分により権利を取得し、又は義務を免れた第三者に対し、本来の納税義務者の滞納に係る国税の納付義務を補充的に負わせることにより、租税徴収の確保を図ろうとする制度であると解される。
このような第二次納税義務の制度の趣旨に鑑みれば、上記1(2)ニの徴収法基本通達第39条関係3の定めは、無償譲渡等の処分のうち、「無償による譲渡」にいう「譲渡」とは、贈与、特定遺贈、売買、交換、債権譲渡、出資、代物弁済等による財産権の移転をいうことを明らかにしたものであって、当審判所も相当であると認める。
また、上記1(2)ニの徴収法基本通達第39条関係3の注3の定めは、滞納者が生計を一にする親族の生活費、学費等に充てるためにした社会通念上相当と認められる範囲の金銭又は物品の交付は、親族間の扶養義務等の趣旨に鑑み、徴収法第39条に規定する「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」には当たらないことを明らかにしたものであって、当審判所も相当であると認める。 - ロ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。- (イ) 請求人の申述について
請求人は、原処分庁所属の徴収担当職員に要旨以下のとおり申述しているところ、このような請求人の申述は、住民票の記載、本件亡滞納者の申述内容並びに請求人口座1、請求人口座2及び本件請求人口座における資金移動の状況と整合する部分が多く、その申述内容も具体的であることから、いずれも採用できる。- A 請求人親子は、平成19年に、a市内に転居したが、本件亡滞納者は、令和元年7月から令和2年2月までの間を除き、d県内における居住を継続し、請求人親子と別居していた。
- B 請求人は、本件亡滞納者との婚姻期間中に収入を得ておらず、本件亡滞納者と別居していた期間、本件亡滞納者から、請求人口座1への振込みにより請求人親子の生活費の送金を受けていたが、生活費の金額については特に決めていなかった。
- C 請求人は、請求人口座1に振り込まれた金額の範囲内で請求人親子の生活費をやりくりしていた。
- D 請求人は、請求人口座1に振り込まれた生活費のほかに、子2人の教育資金として本件金銭交付等により20,000,000円を受け取ったが、これは、長男が受験に失敗したことを知った本件亡滞納者が、長男に対し、志望校への入学だけが重要ではなく、様々な経験を積むことも必要であると述べた上で、金銭面を理由にそのような機会を断念することがないようにする趣旨で送金したもので、今後、子供たちが留学するなど教育資金として幅広く利用できるよう振り込まれたものである。
- (ロ) 本件各送金について
本件各送金のあった期間は、別表1のとおり、平成29年1月から令和3年4月までの52か月間であり、このうち、平成30年11月、令和元年7月、同年9月から令和2年1月までの間及び同年3月から同年6月までの間に送金はなかった。また、本件各送金の総額は、18,353,026円であり、1か月当たりの平均送金額は、352,942円であった。 - (ハ) 本件亡滞納者の申述等について
本件亡滞納者は、原処分庁所属の徴収担当職員に対し、本件猶予申請に係る添付書類として、生活費(請求人親子の生活費を含む。)として毎月800,000円を要すること等を内容とする収支の明細書を提出し、その後、同職員に対し、請求人親子に対して学費等を含めて毎月400,000円から500,000円を送金している旨を申述した。
- (イ) 請求人の申述について
- ハ 検討及び請求人の主張について
- (イ) 本件各送金の趣旨及び請求人親子の生活状況について
上記ロ(ハ)のとおり、本件亡滞納者は、生活費として毎月800,000円を要し、請求人親子に学費等を含めて毎月400,000円から500,000円を送金している旨を申述等していること、上記ロ(イ)Bのとおり、請求人は、本件亡滞納者からの請求人口座1への振込みは生活費の送金である旨申述していることからすれば、本件各送金は、生活費の趣旨で請求人に送金されていたものと認められる。
そして、上記ロ(イ)Cのとおり、請求人は、本件亡滞納者から振り込まれた金額の範囲内で請求人親子の生活費をやりくりしていた旨申述していること、請求人が生活費及び学費等の捻出のために借入れをしたといった事情も認められないことからすれば、請求人は、本件各送金で生活費及び学費等を賄っていたと認められる。 - (ロ) 本件金銭交付が徴収法第39条に規定する無償による譲渡に該当するか否かについて
上記(イ)の認定判断によれば、本件金銭交付は、請求人親子の生活費及び学費等を賄うのに必ずしも必要ではなく、本件亡滞納者から請求人に対する財産権の移転であるといえることから、徴収法第39条に規定する無償による譲渡に該当するようにも考えられる。この点について、請求人は、上記3(1)の「請求人」欄のとおり、長男及び長女の将来における学資等を踏まえると、本件金銭交付は婚姻費用の前払として相当なものであり、無償による譲渡には該当しない旨主張するため、かかる主張も踏まえて、本件金銭交付が徴収法第39条に規定する無償による譲渡に該当するか否かを検討する。
上記1(3)ロ並びに別表1の順号17及び順号18のとおり、本件亡滞納者は、請求人に対し、本件金銭交付に先立ち、合計〇〇〇〇円という相当程度に高額な本件金銭交付前送金をし、本件金銭交付後も別表1のとおり送金を継続していること、
本件金銭交付に係る金員が、将来的には、長男及び長女の学資等の原資となるとしても、上記ロ(イ)Dによれば、本件金銭交付の時点においては、学資等として具体的な支払の予定があったとはいえないことからすると、上記ロ(イ)A及びBのとおり、請求人親子と本件亡滞納者が別居し、請求人には収入がなかったために、本件亡滞納者において婚姻費用あるいは生活費及び学資等を負担する必要があったとしても、その前払として本件金銭交付をすべき必要があったとは認められない。
そうすると、本件金銭交付は、徴収法基本通達第39条関係3の注3に定める「生活費、学費等に充てるためにした社会通念上相当と認められる範囲の金銭又は物品の交付」とは認められず、この点に関する請求人の上記主張は採用できない。
このように、本件金銭交付が、本件亡滞納者から請求人に対する財産権の移転であり、また、生活費、学費等に充てるためにした社会通念上相当と認められる範囲の金銭又は物品の交付に該当しない以上、本件金銭交付は、徴収法第39条に規定する無償による譲渡に該当する。
- (イ) 本件各送金の趣旨及び請求人親子の生活状況について
(2) 争点2(本件各滞納国税の徴収不足は、本件金銭交付に基因するか否か。)について
- イ 法令解釈
徴収不足が認められる場合とは、第二次納税義務に係る納付告知処分時の現況において、本来の納税義務者の財産で滞納処分により徴収することのできるものの価額が、同人の滞納国税の総額に満たないと客観的に認められる場合をいうものと解され、また、徴収不足が無償譲渡等の処分に基因すると認められるときとは、当該無償譲渡等の処分がなかったならば当該納付告知処分時の徴収不足を生じなかったであろうということができる場合をいうものと解するのが相当である。 - ロ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
- (イ) 本件亡滞納者は、令和2年1月10日に、証券会社から本件亡滞納者口座1に3,593,810円の振込入金を受け、同日、本件亡滞納者口座1から3,593,800円を本件亡滞納者口座2に送金するとともに、本件亡滞納者口座2から2,900,000円を現金で引き出した。
- (ロ) 原処分庁所属の徴収担当職員は、本件猶予申請があったことを受け、本件亡滞納者に対し、財産及び収支の状況を確認したところ、本件亡滞納者は、同職員に、新型コロナウイルス感染症の影響で仕事に就けなかったが、令和2年7月に就職し、同年9月9日時点で、資産は現金20,000円、負債はクレジット会社等に対して合計9,072,342円、1か月当たりの給与収入の見込額(社会保険料及び源泉所得税控除後のもの)は933,000円、1か月当たりの支出の見込額は生活費800,000円、債務弁済50,000円の合計850,000円であり、余裕資金はない旨報告し、令和2年12月18日時点で、所持金及び預金残高は零円、国債、株式、不動産及び車両の所有はなく、1か月当たりの給与収入は約900,000円、生活費、交通費等の支払をすると手元に資金が残らず、債務整理に関しては個人再生を行う手続を進めている旨を報告した。
- (ハ) 本件相続財産法人は、本件納付告知処分がされた令和4年11月14日時点において、本件各滞納国税の総額を徴収することができる財産を有していなかった。
- ハ 検討及び請求人の主張について
- (イ) 本件各滞納国税の徴収不足の有無について
上記1(3)リ及び上記ロ(ハ)のとおり、本件亡滞納者の滞納国税の納付義務を承継した本件相続財産法人は、本件納付告知処分がされた令和4年11月14日時点で、本件各滞納国税の総額を徴収することができる財産を有していなかったから、第二次納税義務に係る納付告知処分時の現況において、本来の納税義務者の財産で滞納処分により徴収することのできるものの価額が、同人の滞納国税の総額に満たないと客観的に認められ、本件各滞納国税について徴収不足であったことが認められる。 - (ロ) 本件各滞納国税の徴収不足が本件金銭交付に基因するか否かについて
上記(イ)のとおり、本件各滞納国税について徴収不足であったことが認められるところ、上記1(3)ロ、別表1及び別表2のとおり、本件金銭交付に係る金額は、本件各滞納国税の金額を上回ることからすると、本件金銭交付がなかったならば本件納付告知処分時の徴収不足を生じなかったであろうということができる。
したがって、本件各滞納国税の徴収不足は、本件金銭交付に基因すると認められる。
なお、上記ロ(ロ)における本件亡滞納者の財産及び収支の状況に関する報告内容によれば、本件亡滞納者は、少なくとも令和2年9月9日時点及び同年12月18日時点において、滞納国税の総額を支払うことができるだけの資力を有していたとはいえず、令和2年12月18日の報告以後、本件亡滞納者の死亡時までに、滞納国税の総額を支払うことができるだけの財産を取得したという具体的な事実も認められないことからすると、本件各滞納国税の徴収不足と本件金銭交付との間の基因関係を遮断する事情があるともいえない。 - (ハ) 請求人の主張について
- A 請求人は、上記3(2)の「請求人」欄のとおり、本件亡滞納者は令和2年7月から令和3年3月までの間に10,000,000円以上の給与収入を得ていたこと、本件亡滞納者は令和2年1月10日に株式の売却代金約3,600,000円を得ており、このうち2,900,000円を現金化していた上、令和2年1月から同年7月までの間、請求人に生活費を支払っていないから、本件亡滞納者がこの期間中に上記2,900,000円を全額費消したとは考えられないことからすると、原処分庁が遅滞なく滞納処分を行っていれば、徴収不足を生じることはなかったにもかかわらず、原処分庁が換価の猶予を行って本件亡滞納者の財産の散逸を見過ごしたために徴収不足となったのであり、徴収不足は本件金銭交付に基因しない旨主張する。
- B しかしながら、上記(イ)のとおり、本件各滞納国税について徴収不足であったことが認められる以上、本件金銭交付がなかったならば本件納付告知処分時の徴収不足を生じなかったといえることは上記(ロ)のとおりである。
- C また、上記(1)ロ(イ)A、上記(1)ロ(ロ)、上記ロ(イ)及び(ロ)のとおり、本件亡滞納者は、令和2年1月10日に、2,900,000円を現金で引き出しているものの、同年7月の就職までの間、相当程度の期間にわたってd県内に居住しており、無職の期間もあったことからすると、本件亡滞納者が令和2年1月及び同年3月から同年6月までの間、送金をしていないとしても、d県内に居住するための支出も相当程度あったということができ、上記2,900,000円の大半が本件亡滞納者の手元に残っていたとは考え難い。
加えて、給与の点についてみると、本件亡滞納者が令和2年7月から令和3年3月までの間に10,000,000円以上の給与収入を得ていたとしても、上記ロ(ロ)の財産及び収支の状況に照らせば、本件亡滞納者が滞納国税を納付するのに十分な資力を有していたとはいい難い。
そして、上記ロ(ロ)のとおり、原処分庁所属の徴収担当職員は、本件猶予申請があったことを受け、本件亡滞納者の財産及び収支の状況を確認していることをも踏まえれば、原処分庁が本件亡滞納者の財産の散逸を見過ごしたとは認められない。 - D 以上からすれば、請求人の上記主張は採用できない。
- (イ) 本件各滞納国税の徴収不足の有無について
(3) 本件納付告知処分の適法性について
上記(1)のとおり、本件金銭交付は徴収法第39条に規定する無償による譲渡に該当し、上記(2)のとおり、本件各滞納国税の徴収不足は本件金銭交付に基因すると認められる。そして、請求人は、本件金銭交付時に本件亡滞納者の親族であったから、本件金銭交付により受けた利益である〇〇〇〇円の限度で第二次納税義務を負う。
また、本件納付告知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件納付告知処分は適法である。
なお、本件納付通知書には、原処分庁が国税徴収法施行令第11条《第二次納税義務者に対する納付通知書等の記載事項》所定の本来表示すべき納税者の確認を怠った結果、上記1(3)ヌの本件記載誤りのとおり、その表示が適正に記載されていないという瑕疵があるものの、徴収法第32条第1項の規定に基づく納付通知書による告知は、第二次納税義務者に対し、租税債権を具体的に確定し、その税額の納付を請求するとともに、処分の理由を知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨で行われるものであるから、本件納付通知書は、かかる趣旨を充足したものといえ、本件記載誤りをもって、本件納付告知処分の適法性に関する上記判断は左右されない。
(4) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 本件亡滞納者から請求人に対する送金の明細(省略)
別表2 本件各滞納国税の明細(令和4年11月14日現在)(省略)