(令和6年3月11日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、請求人が所有する各動産について公売公告処分をしたのに対し、請求人が、当該公売公告処分に先行する差押処分に違法があるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項は、国税局長は、必要があると認めるときは、その管轄区域内の地域を所轄する税務署長からその徴収する国税について徴収の引継ぎを受けることができると規定している。
  • ロ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》第2項は、差し押さえることができる財産の価額がその差押えに係る滞納処分費及び徴収すべき国税に先立つ他の国税、地方税その他の債権の金額の合計額を超える見込みがないときは、その財産は、差し押さえることができない旨規定している。
  • ハ 徴収法第89条《換価する財産の範囲等》第1項は、差押財産は、同法第5章第3節《財産の換価》の定めるところにより換価しなければならない旨規定している。
  • ニ 徴収法第94条《公売》第1項は、税務署長は、差押財産等を換価するときは、これを公売に付さなければならないと規定している。
  • ホ 徴収法第95条《公売公告》第1項は、税務署長は、差押財産等を公売に付するときは、公売の日の少なくとも10日前までに、1公売財産の名称、数量、性質及び所在、2公売の方法、3公売の日時及び場所、その他同項各号に掲げる事項を公告しなければならない旨、第2項は、前項の公告は、税務署の掲示場その他税務署内の公衆の見やすい場所に掲示して行う旨規定している。
  • ヘ 徴収法第136条《滞納処分費の範囲》は、滞納処分費は、国税の滞納処分による財産の差押え、交付要求、差押財産等の保管、運搬、換価及び同法第93条《修理等の処分》の規定による処分、差し押さえた有価証券、債権及び無体財産権等の取立て並びに配当に関する費用とする旨規定するとともに、通知書その他の書類の送達に要する費用を除く旨規定している。
  • ト 徴収法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》は、通則法の規定により国税局長が徴収の引継ぎを受けた場合における徴収法の規定の適用については、「税務署長」又は「税務署」とあるのは、「国税局長」又は「国税局」とする旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成28年2月○日に設立されたトナーカートリッジの販売等の事業を目的とする会社の代表者であり、同法人を設立するまでは個人で同事業を営んでいた者である。
  • ロ 原処分庁は、平成27年11月30日から平成28年9月30日までの間、請求人の滞納国税(地方消費税を含む。以下同じ。)について、順次、D税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
  • ハ 原処分庁は、納期限が平成28年4月5日までの請求人の滞納国税について、同年8月10日付で、同年4月27日から平成29年4月26日まで、申請による換価の猶予を許可し、平成29年6月2日付で、同年4月27日から平成30年4月26日まで、申請による換価の猶予に係る猶予期間の延長を許可した。
  • ニ 原処分庁は、納期限が平成28年8月31日までの請求人の滞納国税について、平成30年7月5日付で、同年5月1日から平成31年4月30日まで、職権による換価の猶予をし、令和元年8月2日付で、同年5月1日から令和2年4月30日まで、職権による換価の猶予に係る猶予期間の延長をした。
  • ホ 原処分庁所属の徴収職員は、令和3年11月29日、請求人の滞納国税本税○○○○円、加算税○○○○円等を徴収するため動産18点について、また、同年12月16日、請求人の滞納国税本税○○○○円、加算税○○○○円等を徴収するため動産37点について、各動産の処分予定価額に関しては「換価価値あり」と評価し、滞納処分費を○○○○円、徴収すべき国税に先立つ他の国税、地方税その他の債権の金額(以下「優先債権額」という。)を零円と見込んで、それぞれ差押処分をした。
  • ヘ 原処分庁は、請求人の別表の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、上記ホの差押処分に係る動産55点のうち別紙物件目録記載の各動産(以下「本件動産」といい、上記ホの差押処分のうち本件動産に係る部分を「本件差押処分」という。)15点について、他の滞納者の差押動産4点とともにインターネット公売による期間競り売りを実施することとし、令和○年○月○日付で、公売の買受申込期間を「令和○年○月○日(○)午後1時00分から令和○年○月○日(○)午後1時00分まで」、動産等の売却決定の日時を「令和○年○月○日(○)午前11時00分」、買受代金の納付期限を「令和○年○月○日(○)午後2時00分」等と記載して、原処分庁が所在するE合同庁舎○棟の掲示板に掲示するのと併せて国税庁ホームページの「公売情報」に掲載する公売公告処分(当該公売公告処分のうち本件動産に係る部分を以下「本件公売公告処分」という。)をするとともに、請求人に公売通知書を送付し、公売財産の名称等及び本件滞納国税を通知した。また、原処分庁は、本件動産の見積価額(合計額)を○○○○円と決定し、令和○年○月○日付で、上記公売公告に併せて掲示及び掲載する方法で、見積価額の公告をした。
  • ト 請求人は、本件公売公告処分当時、本税が完納となっており、また、自身の判断で分割して毎月10万円ずつ納付し、加算税滞納額が○○○○円、延滞税滞納額が○○○○円となっていた。
  • チ 請求人は、令和5年5月20日、本件公売公告処分に不服があるとして、審査請求をした。
  • リ 原処分庁は、令和○年○月○日から同月○日まで、本件公売公告処分に係るインターネット公売を実施し、別紙物件目録1ないし9、11及び15記載の各動産については買受申込みがあったが、別紙物件目録10及び12ないし14記載の各動産(以下「本件不成立動産」という。)については買受申込みがなかった。
  • ヌ 原処分庁は、令和○年○月○日、別紙物件目録1ないし9、11及び15記載の各動産について、最高価申込者決定処分をし(次順位買受申込者の決定はない。)、インターネット画面に表示する方法により、その氏名及び価額並びに期間競り売りの終了を告知した。
  • ル 請求人が本件公売公告処分について審査請求を行っていたことから、原処分庁が当該最高価申込者に対して売却決定処分の続行を停止していたところ、別紙物件目録3、6、11及び15記載の各動産(以下「本件取消動産」という。)の各最高価申込者が買受申込みの取消しをしたため、原処分庁は、令和○年○月○日、本件取消動産に係る各最高価申込者決定処分の取消しをした。
     なお、別紙物件目録1、2、4、5及び7ないし9記載の各動産(以下「本件決定動産」という。)の各最高価申込者は買受申込みの取消しをしておらず、原処分庁は、本件決定動産に係る各最高価申込者決定処分の取消しをしていない。

2 争点

(1) 審査請求のうち本件不成立動産及び本件取消動産に係る部分について、請求の利益があるか否か(争点1)。

(2) 本件公売公告処分に先行する本件差押処分に、無益な差押えの禁止に違反する違法があるか否か(争点2)。

(3) 本件公売公告処分に、租税公平主義に反する違法があるか否か(争点3)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(審査請求のうち本件不成立動産及び本件取消動産に係る部分について、請求の利益があるか否か。)について

請求人 原処分庁
審査請求のうち本件不成立動産及び本件取消動産に係る部分についても、本件決定動産と合わせた見積価額合計額○○○○円が毎月の分割納付額10万円にも満たず、本件公売公告処分に先行する本件差押処分に無益な差押えの禁止に違反する違法があるから、請求の利益がある。 審査請求のうち本件不成立動産及び本件取消動産に係る部分については、請求の利益がない。

(2) 争点2(本件公売公告処分に先行する本件差押処分に、無益な差押えの禁止に違反する違法があるか否か。)について

原処分庁 請求人
無益な差押えとは、差押時における対象財産の処分予定価額が滞納処分費及び優先債権額の合計額を超える見込みのないことが一見して明らかであるときをいう。
 本件差押処分当時、同処分に係る各動産の処分予定価額に関しては「換価価値あり」と評価し、滞納処分費を○○○○円、優先債権額を零円と見込んでいたから、本件公売公告処分に先行する本件差押処分に無益な差押えの禁止に違反する違法はない。
徴収法は目的として私法秩序との調整を規定しているから、無益な差押えとは、差押時における対象財産の処分予定価額が滞納処分費及び優先債権額の合計額を超える見込みがない場合だけでなく、差押財産の見積価額が分割納付額に満たない場合も含むと広く解釈されるべきである。
 本件動産の見積価額合計の○○○○円は、自主的に分割して毎月納付している額である10万円にも満たないから、本件公売公告処分に先行する本件差押処分に無益な差押えの禁止に違反する違法がある。

(3) 争点3(本件公売公告処分に、租税公平主義に反する違法があるか否か。)について

請求人 原処分庁
徴収法に差押え及び公売をしなければならない旨の規定があるが、実際にそのとおりに行われているわけではないから、本税が完納で延滞税等も完納の目途が立っている場合には差押え及び公売をしないという基準があるはずである。
 本件差押処分を受けた時点では本税が完納でなかったため本件差押処分は仕方ないが、本件公売公告処分の時点では本税が完納となっており、延滞税等も最長でも6年以内の完納の目途が立っていたから、この基準に反し、本件公売公告処分に租税公平主義に反する違法がある。
公売実施の判断については、滞納整理の経緯、納付状況等を踏まえた上での税務署長等の合理的な裁量に委ねられている。
 本税が完納となっており延滞税等も完納の目途が立っている場合には、差押え及び公売をしないという基準はないから、本件公売公告処分に租税公平主義に反する違法はない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(審査請求のうち本件不成立動産及び本件取消動産に係る部分について、請求の利益があるか否か。)について

公売公告処分に係る公売が実施され、買受申込みがないまま買受申込期間が満了した財産又は買受申込期間満了後に最高価申込者が買受申込みの取消しをした財産については、再び公売するには改めて買受申込期間を定めて公売公告以下の公売手続を踏まなければならないから、公売公告処分のうち当該財産に係る部分はその法的効果を失い、その取消しを求める法律上の利益は消滅すると解すべきである。
 これを本件についてみると、上記1の(3)のリないしルのとおり、原処分庁が本件公売公告処分に係る公売を実施したところ、本件不成立動産に対する買受申込みがないまま買受申込期間が満了した事実及び買受申込期間満了後に本件取消動産に対する各最高価申込者が買受申込みの取消しをした事実が認められる。そうすると、本件公売公告処分のうち本件不成立動産及び本件取消動産に係る部分はその法的効果を失い、その取消しを求める法律上の利益は消滅したものというべきである。
 したがって、審査請求のうち本件不成立動産及び本件取消動産に係る部分は、審査請求の利益を欠き、不適法なものである。
 審査請求のうち本件決定動産に係る部分は、審査請求の利益があり、適法なものであるから、以下、本件公売公告処分のうち本件決定動産に係る部分(以下「本件公売公告処分(本件決定動産部分)」といい、本件差押処分のうち本件決定動産に係る部分を以下「本件差押処分(本件決定動産部分)」という。)の取消原因の有無を検討する。

(2) 争点2(本件公売公告処分(本件決定動産部分)に先行する本件差押処分(本件決定動産部分)に、無益な差押えの禁止に違反する違法があるか否か。)について

滞納処分を組成する各行政処分は、租税債権の強制的実現を図ることを目的として行われる一連の手続であるから、先行処分の違法性はそれに続く処分に承継され得るところ、請求人は、本件差押処分(本件決定動産部分)は違法でありそれに続く本件公売公告処分(本件決定動産部分)は取り消されるべきである旨を主張するので、以下検討する。

  • イ 法令解釈
     徴収法第48条第2項は、財産の価額が滞納処分費及び優先債権額の合計額を超える「見込がないときは、その財産は、差し押えることができない。」旨規定しており、差押時における見込額を基準としていると解されるから、同項の「差し押えることができる財産の価額」とは差押えをしようとする時における差押えの対象となる財産の処分予定価額を、「差押に係る滞納処分費」とは差し押さえようとする財産に係る滞納処分費の見込額を、「徴収すべき国税に先だつ他の国税、地方税その他の債権の金額」とは差押時における優先債権の差押時における債権額を、それぞれいうものと解するのが相当である。
     そして、差し押さえることのできる財産の価額や優先債権額の正確な評価は実際上必ずしも容易ではなく、その厳密な評価を要するとすると滞納処分の円滑な遂行が期待できないこと、優先債権額は弁済などによって減少する可能性があること等から、差押えの対象となる財産の価額がその差押えに係る滞納処分費及び優先債権額の合計額を超える見込みのないことが一見して明らかでない限り、直ちに当該差押えが違法となるものではないと解するのが相当である。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件決定動産は、請求人が購入したものである。
    • (ロ) 本件決定動産は、テレビアニメや歌手のDVD等であり、同様の動産は、インターネットオークションでも売られている。
    • (ハ) 本件決定動産には、多少の傷や汚れはあるものの、破損等はない。
    • (ニ) 本件公売公告処分(本件決定動産部分)における本件決定動産の見積価額は○○○○円ないし○○○○円であった。
    • (ホ) 本件公売公告処分(本件決定動産部分)に係るインターネット公売において、本件決定動産に買受申込みがあった。
    • (ヘ) 原処分庁は、本件差押処分(本件決定動産部分)当時、インターネット公売を実施しておらず、通常の公売を実施する予定であり、その場合、差押財産は原処分庁所属の職員が運搬し、庁舎内の保管庫に保管し、また、公売は庁舎内の会議室等で実施することから、運搬費用、保管費用及び会場使用料は発生しない。
    • (ト) 本件決定動産は、本件差押処分(本件決定動産部分)当時、請求人が占有しており、質権等の設定も見込まれず、請求人から優先債権の言及もなかった。
  • ハ 当てはめ
     本件差押処分(本件決定動産部分)当時、上記ロの(イ)ないし(ホ)の事実から、本件決定動産の処分予定価額は換価価値がないことが一見して明らかではなかったと認められ、同(ヘ)の事実から、本件決定動産に係る滞納処分費の見込額は○○○○円であったと認められ、同(ト)の事実から、本件決定動産に係る優先債権額は零円であったと認められる。
     したがって、本件差押処分(本件決定動産部分)当時、本件決定動産の処分予定価額が滞納処分費及び優先債権額の合計額を超える見込みのないことが一見して明らかではないから、本件公売公告処分(本件決定動産部分)に先行する本件差押処分(本件決定動産部分)に、無益な差押えの禁止に違反する違法はない。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、徴収法は目的として私法秩序との調整を規定しているから、徴収法第48条第2項の無益な差押えとは、差押時における対象財産の処分予定価額が滞納処分費及び優先債権額の合計額を超える見込みがない場合だけでなく、差押財産の見積価額が分割納付額に満たない場合も含むと広く解釈されるべきである旨主張する。
     しかしながら、徴収法第48条第2項は、無益な差押えについて、本来、財産の差押えは、その強制換価により租税債権を満足させるために行われるものであるから、それに必要な範囲に留められるべきことは当然という理を明らかにしたものであると解され、差押財産の見積価額が分割納付額に満たない場合も含むと広く解釈することはできない。
     したがって、請求人の主張は、徴収法第48条第2項の趣旨に沿わない独自の見解であるから、採用することができない。

(3) 争点3(本件公売公告処分(本件決定動産部分)に、租税公平主義に反する違法があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 公売実施の判断については、滞納整理の経緯、納付状況、差押財産の換価の見込額等を踏まえた上での税務署長等の合理的な裁量に委ねられていると解するのが相当であり、その判断が違法となるのは、それが当該事案の事実関係に照らして許容される限度を超え、社会通念上著しく合理性を欠くと認められる場合に限られるというべきである。
    • (ロ) 換価事務の取扱いについて国税庁長官が定めた換価事務提要(平成20年6月13日付徴徴3−9ほか1課共同「換価事務提要の制定について」(事務運営指針)の別冊。以下「換価事務提要」という。)のうち、公売実施の判断基準に関する部分は、次のとおりである。
      • A 換価事務提要第1章《換価に当たっての基本的な考え方》1《対象事案の適切な選定》は、差押財産等の換価は、一連の滞納処分の締めくくりとして実施するものであるが、滞納者などの権利・利益に重大な影響を及ぼすことから、他に適切な滞納整理の方法がある場合にはその方法によるべきであるため、換価に当たっては、画一的に実施するのではなく、滞納者の個々の実情を踏まえた上で、対象事案を適切に選定する必要がある旨定めている。
      • B 換価事務提要第2章《換価の事前準備》第4節《差押手続等の確認》13《法令の規定による換価の制限の有無》は、法令の規定による換価を制限すべき事項を定めている。
      • C 換価事務提要第2章第4節14《特に換価をしないことを適当とする場合》は、特に換価をしないことを適当とする場合は、1通則法第55条第1項第3号の規定により納付委託を受けたとき、2賦課交渉中等の場合で特に換価をしないことが適当と認められるとき、3その他特に換価をしないことを適当とするときである旨定めている。
    • (ハ) 公売実施については、税務署長等の裁量的判断に委ねられているが、納税者間の負担の公平を図り、税務行政の適正妥当な執行を確保するためには、一定の基準ないし運用方針に基づいて、公売実施の判断がされることが望ましいところであり、換価事務提要は、このような趣旨の下に定められたものと解される。このような換価事務提要が定められた趣旨に鑑みると、換価事務提要の定めが合理性を有するものである場合には、公売実施に関する税務署長等の判断がその定めに従っている限り、その判断は、租税公平主義に反し裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の違法があるとの評価を受けることはないというべきである。
       他方、換価事務提要の上記趣旨を前提にすると、換価事務提要において納税者間の負担の公平を図るために画一的な基準が設けられている部分について、その定めが合理性を有するものである場合には、税務署長等の判断が当該基準に合致しないときは、当該基準によらないことについて合理的な理由がない限り、租税公平主義に反し裁量権の範囲の逸脱の違法があると評価することが相当である。
    • (ニ) 公売実施の判断については、上記(ロ)のBの定めにある法令の規定により換価を制限される場合を除き、上記(イ)の税務署長等の合理的な裁量に委ねられており、換価事務提要の上記(ロ)のAの定めは、換価に当たっての基本的な考え方について、また、同Cの定めは、特に換価をしないことを適当とする場合について、そのことを明示したものであるから、合理性を有する。
       そして、上記(ロ)のCの3の「換価をしないことを適当とするとき」の判断に当たっては、差押財産の換価が滞納者の権利・利益に法律上及び事実上の重大な影響を及ぼす効果を有することに鑑みれば、同1及び2に例示として掲げられた事情のほか、更に滞納者の個々の実情を踏まえ、国税の効果的な徴収に向け、個々の滞納事案における自主納付の見込み、公売による換価額、差押財産の公売による滞納者への影響等諸般の事情をも考慮するものと解するのが相当である。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 請求人の月々の分割納付額は、平成28年5月分から平成30年3月分までは13万円(ただし、平成28年8月分及び同年11月分は納付がない。)、平成30年4月分から令和2年7月分までは7万円、同年8月分から令和4年9月分までは9万円(ただし、令和3年12月分は納付がない。)、令和4年10月分以後は10万円であった。
    • (ロ) 請求人には、本件公売公告処分(本件決定動産部分)当時、納税の猶予、換価の猶予等、法令の規定による換価を制限すべき場合に当たる事情はなかった。
    • (ハ) 請求人は、本件公売公告処分(本件決定動産部分)当時、自身の判断で毎月10万円ずつ納付していたが、請求人と原処分庁との間に、納付誓約、納付計画書の提出、自身の判断で分割して納付していれば換価しないとの合意等はなかった。
    • (ニ) 本件決定動産は、テレビアニメや歌手のDVD等である。
  • ハ 当てはめ
    • (イ) 上記ロの(イ)のとおり、請求人の分割納付額は、換価の猶予を受けていた令和2年4月分までを含め、一定していなかったこと、換価の猶予期間が経過した後の令和2年5月分以降は、同(ロ)及び(ハ)のとおり、原処分庁が適正と認めたものではなく、請求人と原処分庁との間に合意等もなかったことから、自主納付の見込みが確実とはいえなかった。また、上記(2)のロのとおり、公売により相応の換価代金を滞納国税に充当することができる。さらに、上記ロの(ニ)のとおり、本件決定動産は趣味性が高く、かつ、請求人の事業と関係のない動産であり、公売により請求人の生活の維持や事業の継続に重大な影響を及ぼすとはいえない。
       したがって、本件公売公告処分(本件決定動産部分)は、国税の効果的な徴収に向け、諸般の事情をも考慮してされた処分と評価でき、上記イの(ロ)のCの定めに従ったものである。
    • (ロ) 上記1の(3)のハ及びニのとおり、請求人はこれ以上換価の猶予を受けることができない状況であり、他に適切な滞納整理の方法があるとはいえなかったこと、上記(イ)のとおり、原処分庁は、画一的に実施するのではなく、請求人の個々の実情を踏まえた上で対象事案を適切に選定していることから、本件公売公告処分(本件決定動産部分)は、上記イの(ロ)のAの定めに従ったものである。
    • (ハ) したがって、本件公売公告処分(本件決定動産部分)に関する原処分庁の判断は、換価事務提要の公売実施の判断基準に関する合理性を有する定めに従ったものであるから、租税公平主義に反する違法があるとはいえない。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(3)の「請求人」欄のとおり、1徴収法に公売をしなければならない旨の規定があるが、実際にそのとおりに行われているわけではない、2本税が完納で延滞税等も完納の目途が立っている場合には公売をしないという基準があるはずである、3本件公売公告処分(本件決定動産部分)の時点では本税が完納となっており、延滞税等も最長でも6年以内の完納の目途が立っていたから、この基準に反し、本件公売公告処分(本件決定動産部分)に租税公平主義に反する違法がある旨主張する。
     しかしながら、1公売実施の判断については、法令の規定により換価を制限される場合を除き、上記イの(イ)のとおり、滞納整理の経緯、納付状況、差押財産の換価の見込額等を踏まえた上での税務署長等の合理的な裁量に委ねられているから、差押財産について公売が一律に実施されるわけではない。また、2換価事務提要において、上記イの(ロ)のとおり、本税が完納で延滞税等も完納の目途が立っている場合には公売をしないという基準は存在しない。そして、3本件公売公告処分(本件決定動産部分)に関する原処分庁の判断は、上記ハのとおり、換価事務提要の合理性を有する定めに従ったものであるから、租税公平主義に反するものではない。
     したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 本件公売公告処分(本件決定動産部分)の適法性について

本件公売公告処分(本件決定動産部分)は、上記1の(3)のヘのとおり、差押財産である本件決定動産について、公売の日の10日前までに徴収法第95条第1項各号に規定する事項を公告したのであるから、本件公売公告処分(本件決定動産部分)は、同項所定の要件を充足している。
 また、本件公売公告処分(本件決定動産部分)のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件公売公告処分(本件決定動産部分)は適法である。

5 結論

 以上によれば、本件審査請求のうち、別紙物件目録3、6及び10ないし15記載の各動産に係る部分は不適法であるから却下することとし、その他の部分は理由がないから棄却することとする。

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