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(令和6年4月23日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、電気通信工事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税等の確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁が、請求人には当該申告書を提出する義務があり、また、請求人が基準期間の課税売上高を隠蔽し、又は仮装したところに基づき当該申告書を提出しなかったとして消費税等の決定処分及び重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の事実はなかったなどとして原処分の一部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
- イ 国税通則法(令和4年法律第4号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第68条《重加算税》(平成29年1月1日より前に法定申告期限が到来するものについては、平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第2項は、通則法第66条《無申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しないときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
- ロ 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第5項第1号は、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税(当該国税に係る加算税を含む。)についての更正決定等は、同条第1項の規定にかかわらず、同項各号に定める期限又は日から7年を経過する日まですることができる旨規定している。
- ハ 消費税法第2条《定義》第1項第14号は、個人事業者の基準期間について、その年の前々年である旨規定している。
- ニ 消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》(令和5年10月1日施行の平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第1項は、課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である事業者(以下「免税事業者」といい、免税事業者以外の事業者を「課税事業者」という。)については、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨規定し、同条第2項第1号は、個人事業者の基準期間における課税売上高とは、基準期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額(消費税法第28条《課税標準》第1項に規定する対価の額をいう。以下同じ。)の合計額から、売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した残額である旨規定している。
- ホ 消費税法第9条の2《前年又は前事業年度等における課税売上高による納税義務の免除の特例》第1項は、個人事業者のその年の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、当該個人事業者のその年に係る特定期間(個人事業者においてはその年の前年1月1日から6月30日までの期間をいう。以下同じ。)における課税売上高が1,000万円を超えるときは、当該個人事業者のその年における課税資産の譲渡等については、同法第9条第1項本文の規定は適用しない旨規定している。また、消費税法第9条の2第3項は、同条第1項の規定を適用する場合においては、同項の個人事業者が同項の特定期間中に支払った所得税法第231条《給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書》第1項に規定する支払明細書に記載すべき同項の給与等の金額に相当するものとして財務省令で定めるものの合計額をもって、特定期間における課税売上高とすることができる旨規定している。
(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
- イ 請求人の事業の概要等
- (イ) 請求人は、電気通信工事業(以下「本件事業」という。)を営む個人事業者である。
- (ロ) 請求人は、本件事業に係る請負代金を、F銀行○○支店の「G 代表 D」名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件預金口座」という。)において受領し、請負代金に係る手形についても同様に本件預金口座において取り立てていた。
- ロ 請求人の確定申告の状況等
- (イ) 請求人は、平成23年10月4日に、平成24年1月1日から平成24年12月31日までの課税期間(以下「平成24年課税期間」といい、他の課税期間も同様に表記する。)に係る基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるとして、消費税法第57条《小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出》第1項第1号の規定による消費税課税事業者届出書(以下「本件課税事業者届出書」という。)を原処分庁に提出した。
- (ロ) 請求人は、平成23年12月16日に、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定による消費税簡易課税制度選択届出書(以下「本件簡易課税届出書」という。)を原処分庁に提出した(以下、この規定による仕入れに係る消費税額の控除の特例を「簡易課税」という。)。
- (ハ) 請求人は、平成25年3月29日に、平成25年課税期間に係る基準期間の課税売上高が1,000万円以下になったとして、消費税法第57条第1項第2号の規定による消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書(以下「本件免税事業者届出書」といい、本件課税事業者届出書及び本件簡易課税届出書と併せて「本件各届出書」という。)を原処分庁に提出した。
- (ニ) 請求人は、所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、平成25年分から平成30年分まで及び令和3年分は法定申告期限までに、令和元年分及び令和2年分は国税庁長官が定めた期限までに、本件事業に係る上記各年分の事業所得の総収入金額を、確定申告書及び収支内訳書に別表1の「収支内訳書の収入金額」欄のとおり、いずれも1,000万円以下の金額を記載し、原処分庁にそれぞれ提出した。
なお、平成25年分から令和3年分までの所得税等の確定申告書及び収支内訳書は、いずれも国税庁ホームページの確定申告書等作成コーナー(以下「作成コーナー」という。)を利用して作成されたものである。 - (ホ) 請求人は、平成27年課税期間から令和3年課税期間まで(以下「本件各課税期間」といい、本件各課税期間に係る各基準期間を「本件各基準期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、いずれも確定申告書を提出しなかった。
- ハ 原処分庁による調査の状況等
- (イ) 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、令和4年8月1日に請求人宅へ臨場し、請求人の平成27年分から令和3年分まで(以下「本件各年分」という。)の所得税等及び本件各課税期間の消費税等の調査(以下「本件調査」という。)を開始した。
請求人は、本件調査担当職員に対し、本件事業に係る本件各年分の事業所得の総収入金額につき、本件預金口座に入金等された金額を年分別・取引先別に整理した表(以下「本件各売上集計表」という。)を提出した。なお、本件各売上集計表は、本件調査担当職員の求めに応じて請求人が作成したものであり、本件各売上集計表に記載された本件事業に係る本件各年分の事業所得の総収入金額は、別表1の「本件各売上集計表の集計額」欄のとおりである。 - (ロ) 請求人は、令和5年3月23日に、本件調査の調査結果の内容の説明を受け、同月28日に、平成30年分から令和3年分までの所得税等の各修正申告書をそれぞれ提出したが、本件各課税期間に係る消費税等の各確定申告書はいずれも提出しなかった。
なお、原処分庁は、令和5年4月28日付で、平成27年分から平成29年分までの所得税等について、「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」を請求人へ送付するとともに、上記の所得税等の各修正申告により納付すべき税額に対して過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
- ニ 審査請求に至る経緯
- (イ) 原処分庁は、令和5年3月30日付で、別表2の「決定処分等」欄のとおり、本件各課税期間の消費税等の各決定処分及び重加算税の各賦課決定処分(以下、当該各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)をした。
- (ロ) 請求人は、上記(イ)の各決定処分のうち、平成27年課税期間から令和元年課税期間までに係る消費税等の各決定処分(以下「本件各決定処分」という。)及び本件各賦課決定処分を不服として、
本件各決定処分の全部の取消し、及び
本件各賦課決定処分のうち、平成27年課税期間から令和元年課税期間までの各賦課決定処分については、主位的にはそれらの全部の、予備的にはそれぞれ無申告加算税に相当する金額を超える部分の取消しを、令和2年課税期間及び令和3年課税期間の各賦課決定処分については、それぞれ無申告加算税に相当する金額を超える部分の取消しを求めて、令和5年5月6日に審査請求をした。
2 争点
(1) 請求人は、平成27年課税期間から令和元年課税期間までにおいて課税事業者に該当するか否か(具体的には、請求人の上記各課税期間に係る各基準期間における課税売上高が1,000万円を超えるか否か。)(争点1)。
(2) 請求人は、本件各課税期間の消費税等の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」たものである(通則法第68条第2項)か否か(争点2)。
(3) 本件各賦課決定処分は、平等原則に違反しない処分であるか否か(争点3)。
(4) 請求人に、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か(争点4)。
3 争点についての主張
(1) 争点1(請求人は、平成27年課税期間から令和元年課税期間までにおいて課税事業者に該当するか否か(具体的には、請求人の上記各課税期間に係る各基準期間における課税売上高が1,000万円を超えるか否か。)。)について
原処分庁 | 請求人 |
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消費税法上、個人事業者の場合の基準期間における課税売上高とは、原則として、基準期間(その年の前々年)中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭の額から売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した残額とする旨規定されている。 そして、請求人の平成25年課税期間から平成29年課税期間までの本件事業に係る課税売上高は、別表1の「原処分庁主張の課税売上高」欄のとおりであるから、平成27年課税期間から令和元年課税期間までに係る各基準期間における課税売上高は、いずれも1,000万円を超え、請求人は、これらの各課税期間において課税事業者に該当する。 |
事業所得の総収入金額は、確定申告により第一次的に確定し、税務署長の処分がない限り異動しない。本件で、原処分庁は、平成25年分から平成29年分までの所得税等を更正しておらず、請求人の本件事業に係る事業所得の総収入金額は、平成25年分から平成29年分までについては、収支内訳書の収入金額と同額の金額(別表1の「収支内訳書の収入金額」欄の金額)で第一次的に確定している。 そして、「消費税及び地方消費税の確定申告の手引き 個人事業者用(簡易課税用)」(以下「本件手引」という。)は、簡易課税を選択している事業者の課税売上高を、確定申告及び修正申告において作成した収支内訳書の収入金額に基づいて計算することとしているところ、このような計算方法は一般の納税者に配布され、国・企業・個人等が何らかの拘束感を持ちながら従っている規範(いわゆるソフトロー)であり、本件ではこれに従うべきでない事情もないから、課税売上高は、収支内訳書の収入金額に基づいて計算すべきであり、平成27年課税期間から令和元年課税期間までに係る各基準期間における課税売上高は、別表1の「請求人主張の課税売上高」欄のとおりである。 なお、平成27年課税期間から令和元年課税期間までに係る各特定期間における課税売上高は、いずれも1,000万円以下であるから、消費税法第9条の2の規定の適用もない。 したがって、平成27年課税期間から令和元年課税期間までに係る各基準期間における課税売上高は、いずれも1,000万円以下であり、また、平成27年課税期間から令和元年課税期間までに係る各特定期間における課税売上高も、いずれも1,000万円以下であることから、請求人は、これらの各課税期間において、課税事業者には該当しない。 |
(2) 争点2(請求人は、本件各課税期間の消費税等の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」たものである(通則法第68条第2項)か否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
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次のイからハまでのとおり、請求人は、本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装した。 | 次のイからハまでのとおり、請求人は、本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装していない。 |
イ 請求人は、本件各届出書を提出し、平成24年課税期間の消費税等に係る確定申告をする一方、平成25年課税期間の消費税等の確定申告をしていないことからすると、消費税法における基準期間と課税期間の仕組みを理解していたといえる。 これに加え、請求人は、毎年売上げが1,000万円を超えていたのを知りながら消費税等の納税を免れるために、平成25年分以降収入金額が1,000万円を下回るように売上げの一部を集計せずに収支内訳書を作成していた旨申述しているだけでなく、請求人の本件事業に係る事業所得の総収入金額と収支内訳書記載の金額の差額は、平成25年分から令和3年分までの間において、いずれも500万円から1,000万円であり、請求人が計算を誤ったとしても、通常は誤りに気付くことができる金額である。 これらによれば、請求人は、故意に収入金額を過少にする収支内訳書を作成して所得税等の確定申告をしていたといえる。 |
イ 「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した者が常に消費税等の納税義務を負うことになるわけではないから、本件簡易課税届出書の提出は、請求人が消費税等の納税義務を認識していたことの根拠とはならない。仮に、請求人が消費税等の納税義務を認識していたとしても、消費税等の認識ある無申告は無申告行為そのものであって、無申告行為とは別個の「隠蔽」又は「仮装」と評価すべき行為には該当しない(平成26年4月17日裁決(以下「平成26年裁決」という。)参照)。 そして、事実の「隠蔽」とは、事実を隠匿又は脱漏することを、事実の「仮装」とは、所得、財産あるいは取引の名義を装うなど事実をわい曲することをいい、何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を収支内訳書に記載することは、所得税等においては過少申告行為そのものであって隠蔽又は仮装行為に該当しない(平成27年7月1日裁決(以下「平成27年裁決」という。)参照)。本件でも、請求人が、請求書や銀行通帳等、本件事業に係る事業所得の総収入金額の計算の基礎となる原始資料を隠蔽し、又は仮装した事実はない。 また、請求人が、平成25年分から令和3年分までの本件事業に係る事業所得の総収入金額が1,000万円を超えないように収支内訳書を作成していたとしても、収支内訳書には、所得税法上の免税所得等や消費税法上の非課税取引等の金額は記載されず、収支内訳書の記載から課税売上高を計算することはできないことから、本件各基準期間における課税売上高を1,000万円以下に見せかけることはできず、そもそも、収支内訳書は、消費税法上、添付を義務付けられた書類でもないのであるから、収支内訳書の作成は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の「隠蔽」又は「仮装」に該当する行為ではない。 さらに、課税要件事実とは、税法の適用以前に既に客観的に存在する個々の取引等に係る具体的事実であり、請求人が本件各課税期間において免税事業者であるか課税事業者であるかは、消費税法に照らして法的評価した事実であり、通則法第68条第2項の課税要件事実ではなく、請求人が本件事業に係る事業所得の総収入金額を1,000万円以下とする収支内訳書を作成して所得税等の確定申告をした行為は、「隠蔽」又は「仮装」に該当する行為ではない。 |
ロ また、消費税等の納税義務者に該当するか否かという消費税等の課税要件事実は、通則法第68条第2項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実」に含まれるから、基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者に該当するか否かは、消費税等の納税義務者に該当するか否かという課税要件事実そのものである。 そうすると、本件各基準期間における請求人の本件事業に係る事業所得の総収入金額が1,000万円以下であることは、通則法第68条第2項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実」である。 |
ロ 加えて、平成27年裁決に照らせば、請求人の上記収支内訳書の記載に関する行為は、所得税等の過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動ともいえないから、消費税等においても同様に評価すべきである。 |
ハ 以上からすれば、請求人が本件事業に係る事業所得の総収入金額を1,000万円以下とする収支内訳書を作成して所得税等の確定申告をした行為は、消費税等の納税義務がないかのように見せかけるものであるから、請求人は、本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装した。 | ハ 以上からすれば、請求人は、本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装していない。 |
(3) 争点3(本件各賦課決定処分は、平等原則に違反しない処分であるか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
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国税庁長官発遣の「消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(平成12年7月3日付課消2−17ほか5課共同。以下「本件事務運営指針」という。)は、通則法第68条第2項の規定を前提とした上で、重加算税を賦課する場合の取扱いを定めたものにすぎない。そして、本件事務運営指針第2のWの3《重加算税を課す消費税固有の不正事実》は、消費税の重加算税を賦課するに当たっての消費税固有の不正事実を例示的に列挙したものであって、通則法第68条第2項に規定する重加算税の課税要件、すなわち、いかなる場合に重加算税を賦課するかを同項とは別に定めたものではない。 そうすると、本件事務運営指針に掲げる例示に該当しない場合であっても、通則法第68条第2項に規定する課税要件を充足する場合には、当然に重加算税を賦課するのであり、本件事務運営指針の定めに該当しないことをもって重加算税を賦課することができないことにはならない。 したがって、本件各賦課決定処分は、平等原則に違反しない。 |
本件事務運営指針は、所得税等の所得金額には影響しないが消費税固有の不正事実により消費税が過少申告となった場合には消費税等の重加算税を課する旨定めている(第2のWの3)が、本件では、本件事務運営指針第2のWの3が定める消費税等固有の不正事実はないから、本件事務運営指針に沿って判断した場合、本件各課税期間の消費税等に重加算税が賦課されることにはならない。 そして、通達に反する処分を行う際には合理的な理由が必要であるところ、原処分庁が主張する本件事務運営指針によらずに本件各賦課決定処分をした理由は、本件事務運営指針の定めに反する処分を行う合理的な理由とはならない。 したがって、本件各賦課決定処分は、本件事務運営指針によらない合理的な理由のない処分であり、平等原則に違反する。 |
(4) 争点4(請求人に、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
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上記(2)のとおり、請求人の行為は、課税期間に係る基準期間の課税売上高を外形的に1,000万円以下とすることにより本件各課税期間の消費税等の納税義務がないかのように見せかける行為であるから、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような偽計その他の工作を伴う不正な行為であるといえ、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する。 したがって、請求人には、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があった。 |
通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいい、単なる無申告行為はこれに含まれないところ、上記(2)のとおり、請求人が本件事業に係る事業所得の総収入金額を1,000万円以下とする収支内訳書を作成して確定申告した行為は「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」たものには該当せず、仮に請求人に消費税等の納税義務があっても、請求人が平成27年課税期間及び平成28年課税期間の消費税等の確定申告をしなかったことは、単なる無申告行為である。 したがって、請求人には、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実がない。 |
4 当審判所の判断
(1) 争点1(請求人は、平成27年課税期間から令和元年課税期間までにおいて課税事業者に該当するか否か(具体的には、請求人の上記各課税期間に係る各基準期間における課税売上高が1,000万円を超えるか否か。)。)について
- イ 認定事実
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。 - (イ) 本件各売上集計表における請求人の経理方法
請求人は、本件各売上集計表において、各年の1月に請求人の取引先から振り込まれた請負代金を前年分の売上げとして経理していた。 - (ロ) 本件事業に係る平成25年分から平成29年分までの事業所得の総収入金額
請求人の取引先から本件預金口座に振り込まれた請負代金の金額は、別表3−1の「本件預金口座の入金額」欄のとおりである。そして、上記(イ)の請求人の経理方法に基づいて各年分の総収入金額を計算すると、別表3−1の「請求人の経理方法に基づく総収入金額」欄のとおりとなる。
- ロ 検討
上記イ(ロ)のとおり、請求人の本件事業に係る平成25年分から平成29年分までの事業所得の総収入金額は、別表3−1の「請求人の経理方法に基づく総収入金額」欄のとおりであるところ、当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件事業に係る平成25年分から平成29年分までにおける請負代金には、消費税法第6条《非課税》、第7条《輸出免税等》及び第8条《輸出物品販売場における輸出物品の譲渡に係る免税》の各規定が適用されるものが含まれるという事実やそれに関する証拠は認められず、かつ、売上げに係る税抜対価の返還等の金額も認められない。
これらを踏まえ、当審判所において請求人の平成25年課税期間から平成29年課税期間までの課税売上高を計算すると、別表3−1の「課税売上高」欄のとおりであり、いずれも1,000万円を超えるから、特定期間における課税売上高を検討するまでもなく、請求人は、平成27年課税期間から令和元年課税期間までにおいて、課税事業者に該当する。 - ハ 請求人の主張について
- (イ) 請求人は、上記3(1)の「請求人」欄のとおり、原処分庁が平成25年分から平成29年分までの所得税等について更正しておらず、これらの年分の請求人の本件事業に係る事業所得の総収入金額は、いずれも請求人の上記各年分の所得税等の確定申告書に記載された1,000万円以下の金額(すなわち、別表1の「収支内訳書の収入金額」欄の金額)で第一次的に確定しているとした上で、平成27年課税期間から令和元年課税期間までに係る各基準期間(平成25年課税期間から平成29年課税期間まで)における課税売上高についても、一般の納税者に配布されソフトローとしての規範性を有する本件手引により、所得税等の収支内訳書の収入金額に基づいて計算される結果、収支内訳書の収入金額を踏まえた上記各申告に基づく事業所得の総収入金額と同額となるから、請求人は、平成27年課税期間から令和元年課税期間までについては課税事業者に該当しない旨主張する。
- (ロ) 確かに、原処分庁は、上記1(3)ハ(ロ)のとおり、平成27年分から平成29年分までの所得税等について、「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」を請求人に送付しており、これらの年分並びに平成25年分及び平成26年分の所得税等について更正又は決定をしていない。
しかしながら、上記1(2)ニの規定からすれば、消費税等の課税事業者であるか否かの判定は、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかでされるものであって、所得税等の収支内訳書に記載された収入金額のみで判断されるべきものではない。そして、当審判所の調査によっても、請求人の平成27年課税期間から令和元年課税期間までに係る各基準期間(平成25年課税期間から平成29年課税期間まで)における課税売上高は、別表3−1の「課税売上高」欄の金額となり、請求人は平成27年課税期間から令和元年課税期間までにおいて課税事業者と認められるから、請求人の主張には理由がない。
なお、本件手引がソフトローであるとの請求人の主張によっても、本件においては、下記(2)ハ(ロ)のとおり、請求人が作成した収支内訳書には実際の金額よりも過少な金額が記載されていた以上、上記判断は左右されない。
(2) 争点2(請求人は、本件各課税期間の消費税等の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」たものである(通則法第68条第2項)か否か。)について
- イ 法令解釈
通則法第68条第2項に規定する重加算税の制度は、納税者が申告をしないことについて隠蔽、仮装という不正手段を用いていた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
そして、ここにいう事実の隠蔽とは、故意に事実を隠匿し、あるいは脱漏することをいい、事実の仮装とは、架空取引の申告や他人名義の利用を行い、あたかもそれが真実であるかのように装うなど、故意に事実をわい曲することをいうと解される。 - ロ 認定事実
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。 - (イ) 本件各届出書の記載内容
本件課税事業者届出書及び本件簡易課税届出書には、平成24年課税期間に係る基準期間(平成22年課税期間)の課税売上高が○○○○円と記載されており、その金額は、平成22年分の所得税の確定申告書における事業所得の収入金額欄及び同年分の収支内訳書の売上(収入)金額欄と同額であった。
また、本件免税事業者届出書には、平成25年課税期間に係る基準期間(平成23年課税期間)の課税売上高が○○○○円と記載されていた。 - (ロ) 本件調査の経過
本件調査担当職員は、請求人に対する本件調査の事前通知の時点では、令和元年分から令和3年分までの所得税等の確定申告書の記載内容の確認を予定していたが、本件調査の初日である令和4年8月1日に、請求人から1,000万円を超えないように売上げを集計していた旨の申述があったことを受け、上記確認予定に加えて、更に本件各課税期間に係る消費税等及び平成27年分から平成30年分までの所得税等についても質問検査を実施することとした。 - (ハ) 請求人による所得税等の確定申告書等の作成態様等
- A 請求人は、本件調査において、平成19年又は平成20年頃からは税理士に依頼することなく一人で所得税の確定申告書と収支内訳書を作成していたが、売上げが1,000万円を超えると消費税の申告が必要になると認識していたことから、消費税の納税義務を負わないようにするために、平成25年頃から事業所得の総収入金額が1,000万円を超えないように集計し、その集計に当たっては、一部の売上げに係る収入を加算しないことがあった旨自ら認めた。
請求人は、そのような収入金額の集計後に、又は集計と並行して、作成コーナーの売上金額の明細欄に、その金額が1,000万円を超えないように数字を入力して、所得税等の確定申告書や収支内訳書を作成していた。 - B 具体的な収入金額の集計方法は、本件預金口座に振り込まれた本件事業に係る請負代金及び手形取立額を取引先ごとに電卓で前年の1月から12月の期間で集計するというものであるが、集計の際には、集計金額を記載したメモを作成することもあった。
また、金額集計の際、収入金額の一部を足さずに飛ばしながら集計を行ったものもあるし、
メモを作成せずに直接作成コーナーに収入金額を入力していた際は、取引先二・三社からの収入金額を入力し、収入金額の合計金額が1,000万円を超えそうな場合は、それ以外の取引先の集計を行わず、1,000万円を超えないように収入金額を入力していたこともある。
- C 請求人が本件事業に係る事業所得の総収入金額について1,000万円を超えないように集計し始めた時期は、請求人の配偶者が○○のためパートを休んでいた平成25年頃からであるが、このような集計をするようになった理由は、請求人の配偶者が○○のためにパートを休業し、その収入が減少したこと、子供にお金がかかること(令和4年10月時点では子供が大学生、高校生)に加え、将来、請求人自身の仕事がなくなるかもしれないという不安から、消費税等を申告しても納税できないと考えたこと等である。
- ハ 検討
- (イ) 請求人は、上記ロ(ハ)Aのとおり、平成19年又は平成20年頃以降、税理士に依頼することなく一人で所得税又は所得税等の確定申告書と収支内訳書を作成していたほか、上記1(3)ロ(イ)から(ハ)まで及び上記ロ(イ)の各事実からすれば、平成24年課税期間に係る消費税等の確定申告を行っていたものと推認され、平成25年課税期間については、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下となったとして本件免税事業者届出書を平成25年3月29日に原処分庁に提出しており、自己の判断で消費税等の納税に関する各手続を行っていた。
これらによれば、請求人は、遅くとも本件免税事業者届出書の提出時点で、課税期間に係る基準期間の売上げが1,000万円以下となれば、法律上、消費税等の申告納税義務を負わなくなるという認識を、自らの経験によって有していたと認められる。 - (ロ) 上記1(3)イ(ロ)のとおり、本件事業に係る売上げは、全て本件預金口座に入金されることから、請求人は、本件預金口座の通帳を集計することで、容易に年間の売上金額を把握することができたものである。そして、請求人は、平成25年分以降の本件事業に係る事業所得の総収入金額がいずれも1,000万円を超えていたことを認識していたにもかかわらず、上記ロ(ハ)C及び上記(イ)のとおり、請求人の配偶者の○○による収入減少などの将来への不安から、消費税等を納税することができないとの考えの下、基準期間の課税売上高が1,000万円以下となれば消費税等の申告納税義務を負わないと認識した上で、少なくとも同年を含めて9年間という比較的長期間にわたり、本件事業に係る事業所得の総収入金額を1,000万円を超えないように集計等した上で、上記1(3)ロ(ニ)のとおり、平成25年分、平成26年分及び本件各年分の所得税等の確定申告書及び収支内訳書に事業所得の総収入金額をいずれも1,000万円以下とし、実際の金額よりも過少に記載していた。
また、そのような過少記載の態様は上記ロ(ハ)Bのとおりであるところ、上記ロ(ロ)及び(ハ)Aのとおり、請求人が本件調査において売上げが1,000万円を超えると消費税の申告が必要となることから、消費税の納税義務を負わないようにしようとしていた旨自ら認めていることをも踏まえれば、請求人による継続した過少記載行為は、消費税の納税義務を免れることを目的とした意図的な集計違算というべきである。
これらによれば、請求人は、平成25年以降比較的長期間にわたって、消費税等の申告納税義務を免れることを積極的に意図し、故意に本件事業に係る事業所得の総収入金額が1,000万円を超えないように所得税等の確定申告書及び収支内訳書に過少な収入金額を記載して原処分庁に提出することで、課税標準等の計算の基礎となるべき事実である、基準期間中における課税資産の譲渡等の対価の額を故意に脱漏し、課税期間において消費税法上の免税事業者であることを装い続け、本件各課税期間の消費税等の確定申告をしなかったものと認められる。 - (ハ) 以上によれば、請求人には、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽」又は「仮装」に該当する事実があったといえ、重加算税の賦課要件が充足される以上、請求人の行為が所得税等の過少申告の意図及び消費税等の無申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動といえるか否かを検討するまでもない。
- ニ 請求人の主張について
- (イ) 請求人は、平成26年裁決に照らせば、本件において請求人が消費税等を申告すべきことを知りながらこれをしなかったこと(認識ある無申告)は、無申告行為そのものであり、事業所得の総収入金額の計算の基礎となる請求書や銀行通帳等の原始資料を隠蔽したり仮装したりした事実はないことからしても、無申告行為とは別の隠蔽又は仮装と評価すべき行為には該当しない旨主張する。
しかしながら、収支内訳書に1,000万円以下の金額を記載して免税事業者であることを装った行為が隠蔽又は仮装行為に該当することは上記ハ(ロ)のとおりであるから、請求人の上記主張は採用することができない。 - (ロ) また、請求人は、平成27年裁決に照らしてみても、何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を収支内訳書に記載することは、過少申告行為そのものであって、隠蔽又は仮装行為に該当しないことはもとより、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たるとも評価できない旨主張する。
しかしながら、本件において請求人は、平成27年裁決のように「何ら根拠のない」収入金額及び必要経費の額を収支内訳書に記載したのではなく、消費税等の申告納税義務を免れることを継続的かつ積極的に意図して所得税等の事業所得の総収入金額が1,000万円を超えないようにした上で、
所得税等の確定申告書及び収支内訳書に事業所得の総収入金額をいずれも1,000万円以下と過少に記載することを継続していたのである。そうだとすれば、上記ハ(ロ)のとおり、かかる請求人の行為は隠蔽又は仮装と評価すべき行為であり、単なる過少申告行為そのもの(消費税等との関係では単なる無申告行為そのもの)と評価することはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。 - (ハ) さらに、請求人は、所得税等の収支内訳書には所得税法上の免税所得等や消費税法上の非課税取引等の金額は記載されないことから、本件各基準期間における課税売上高を1,000万円以下に見せかけることはできず、そもそも、収支内訳書は、消費税法上、添付を義務付けられた書類でもないのであるから、収支内訳書の作成は、隠蔽又は仮装に該当する行為ではない旨主張する。
しかしながら、上記ハ(イ)のとおり、請求人は、課税期間に係る基準期間において売上げが1,000万円以下となれば消費税等の申告納税義務を負わなくなるという認識を、自らの経験により有しており、その認識の下に本件事業に係る事業所得の総収入金額が1,000万円を超えないよう仮装し続けていたのであるから、収支内訳書に消費税法上の非課税取引等の金額が記載されていないことや、収支内訳書が、消費税法上、添付を義務付けられた書類でもないからといって、収支内訳書の作成に係る請求人の行為が隠蔽又は仮装に該当する行為であることが否定されるものではなく、請求人の上記主張は採用することができない。 - (ニ) 加えて、請求人は、請求人が本件各課税期間において免税事業者であるか否かは、消費税法に照らして法的評価した事実であって、重加算税の賦課に係る課税要件事実にはならない旨主張する。
しかしながら、上記ハ(ロ)のとおり、請求人は、基準期間中における課税資産の譲渡等の対価の額を故意に脱漏していたというべきであり、重加算税の賦課要件である「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」を充足したものと認められるから、請求人の上記主張は採用することができない。
(3) 争点3(本件各賦課決定処分は、平等原則に違反しない処分であるか否か。)について
本件事務運営指針は、第2のWの3において、所得税等の所得金額には影響しないが、消費税額に影響する不正事実(消費税固有の不正事実)により、消費税が過少申告となった場合については、消費税の重加算税を課することとし、この場合の不正事実として、課税売上げを免税売上げに仮装すること、不課税又は非課税仕入れを課税仕入れに仮装すること等、5つの事由を定めている。
そして、請求人は、上記3(3)の「請求人」欄のとおり、本件各賦課決定処分が平等原則に違反する旨主張し、その根拠として、本件各賦課決定処分が本件事務運営指針の上記5つのいずれの事由にも該当しないこと、本件事務運営指針によらない合理的な理由がないことを挙げる。
しかしながら、本件事務運営指針第2のWの3が掲げる5つの事由について、同項の本文には、「例えば、次のような不正事実が該当する」と定められていることからすれば、当該5つの事由は例示にすぎないものである。そして、上記(2)ハ(ロ)のとおり、請求人は、本件各課税期間において課税事業者であったにもかかわらず、意図的な集計違算に基づいて収支内訳書に1,000万円以下の売上金額を記載することにより、消費税等の免税事業者であるかのように装ったものと認められるところ、当該事由に基づき消費税等の重加算税を課することは、本件事務運営指針第2のWの3の定めに反するものではない。
したがって、請求人の上記主張はその前提を欠くものであり、理由がない。
(4) 争点4(請求人に、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について
- イ 法令解釈
通則法第70条第5項第1号は、「偽りその他不正の行為」によって国税の税額の全部又は一部を免れた納税者がある場合に、これに対して適正な課税を行うことができるよう、それ以外の場合よりも長期の除斥期間を定めたものである。そして、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」は、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行うものと解するのが相当である。
- ロ 検討
本件では、上記(2)ハのとおり、請求人の行為について通則法第68条第2項の規定の要件を充足していたものと認められるところ、同行為は、税額を免れる意図の下にされた、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行ったものということができるから、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する。
- ハ 請求人の主張について
請求人は、上記3(2)の「請求人」欄に記載した理由と同様の理由から、請求人に通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実はない旨主張するが、請求人の行為が同号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当するのは上記ロのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。
(5) 本件各決定処分の適法性について
上記(4)のとおり、請求人は、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」により税額を免れていたと認められる。そして、請求人の本件各基準期間の課税売上高はいずれも1,000万円を超えるのであるから、請求人は本件各課税期間において課税事業者であり、また、本件事業は、消費税法施行令第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第5項第6号(平成27年課税期間については、平成26年政令第141号による改正前の消費税法施行令第57条第5項第5号)に規定する第四種事業に該当すると認められる。これらに基づき、当審判所において請求人の平成27年課税期間から令和元年課税期間までの課税売上高並びに本件各課税期間の課税標準額及び消費税等の納付すべき税額を計算すると、別表3−1及び3−2のとおりであり、平成28年課税期間から令和元年課税期間までについては、当該各課税期間に係る各決定処分の金額といずれも同額となるが、平成27年課税期間の消費税等の納付すべき税額については、平成27年課税期間に係る決定処分の金額を下回る。
なお、本件各決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、平成28年課税期間から令和元年課税期間までの各決定処分はいずれも適法であるが、平成27年課税期間に係る決定処分は、その一部を別紙の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
(6) 本件各賦課決定処分の適法性について
上記(4)のとおり、請求人は、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」により税額を免れており、また、上記(2)のとおり、請求人には通則法第68条第2項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽し、又は仮装し」た行為が認められることから、重加算税の賦課要件を満たしている。
そして、請求人が本件各課税期間の消費税等の各確定申告書を法定申告期限までに提出しなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないところ、本件各課税期間の消費税等の重加算税の額については、その計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において重加算税の額を計算すると、本件各賦課決定処分の額と同額となるから、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
(7) 結論
よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。
別表1 本件事業に係る事業所得の総収入金額及び課税売上高(主張額)等(省略)
別表2 審査請求に至る経緯(省略)
別表3-1 審判所認定額(課税売上高等)(省略)
別表3-2 審判所認定額(課税標準額及び消費税等の納付すべき税額)(省略)
別紙 取消額等計算書(省略)