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(令和6年4月22日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、源泉徴収選択口座である特定口座内で保有していた上場株式等の一部を譲渡した審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該譲渡に係る上場株式等の取得費について、実際の取得価額に基づく金額と概算による取得費との差額に相当する金額を特定口座年間取引報告書に記載された金額に加算して確定申告をしたところ、原処分庁が、当該差額に相当する金額は取得費に加算すべき金額ではないなどとして所得税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
関係法令等は、別紙のとおりである。
なお、別紙で定義した略語については、以下、本文及び別表においても使用する。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
- イ 請求人は、国内に住所を有する居住者であるところ、平成24年7月19日、金融商品取引業者等であるD社(以下「本件取引業者」という。)に特定口座を開設し(以下、請求人が開設したこの特定口座を「本件特定口座」という。)、併せて、同日、特定口座源泉徴収選択届出書を提出した。これにより、請求人による平成31年及び令和元年中の本件特定口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による所得については、措置法第37条の11の4第1項に規定する源泉徴収の特例の適用があった。
- ロ 請求人は、平成○年○月○日、E社(以下「本件法人」という。)の株式100,000株を本件特定口座に預け入れた。
- ハ 本件法人は、平成○年○月○日、金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所であるF証券取引所が開設するGに上場した。
- ニ 本件法人の株式は、平成○年○月○日付で、○株につき○株の割合で株式分割された。
- ホ 請求人は、本件取引業者に売委託をした上で、平成31年○月から同年○月までの間に、本件特定口座に保管の委託等がされていた本件法人の株式の一部を439,539,580円で譲渡した(以下、この譲渡した本件法人の株式を「本件譲渡株式」という。)。
- ヘ 本件取引業者は、令和元年12月31日付で作成した本件特定口座に係る特定口座年間取引報告書(以下「本件年間取引報告書」という。)を請求人に交付した。
なお、本件年間取引報告書には、本件特定口座における譲渡に係る年間取引損益及び源泉徴収税額等について、別表1のとおり記載されていた。
(4) 審査請求に至る経緯
- イ 請求人は、令和元年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告書に、別表2の「確定申告」欄のとおり記載し、法定申告期限までに申告した。
なお、請求人は、上記確定申告書に添付した株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書の「1 所得金額の計算」の「上場株式等」の各欄において、「譲渡による収入金額」の欄に本件年間取引報告書の「譲渡の対価の額(収入金額)」欄に記載された○○○○円、「取得費(取得価額)」の
欄に本件年間取引報告書の「取得費及び譲渡に要した費用の額等」欄に記載された○○○○円、
欄を「みなし取得費と取得原価との差額」とした上で、16,642,279円(以下「本件差額」という。)とそれぞれ記載し、令和元年分の上場株式等の譲渡所得の金額を計算した。また、本件差額は、上記(3)ホの本件譲渡株式の譲渡価額(439,539,580円)を基礎として算出した概算取得費から本件譲渡株式の実際の取得価額を控除した後の金額である。
- ロ 原処分庁は、令和5年3月29日付で、請求人の令和元年分の上場株式等の譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、本件年間取引報告書に記載された金額により計算することになるから、これと異なる取得費により申告することはできないなどとして、別表2の「更正処分等」欄のとおり、令和元年分の所得税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
- ハ 請求人は、上記ロの各処分に不服があるとして、令和5年5月15日に審査請求をした。
2 争点
源泉徴収選択口座である本件特定口座内で保有していた本件譲渡株式の譲渡所得の金額を申告するに当たり、概算取得費を本件譲渡株式の譲渡所得に係る取得費とすることが可能か否か。
3 争点についての主張
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
次の(1)及び(2)のとおり、源泉徴収選択口座である本件特定口座内で保有していた本件譲渡株式の譲渡所得の金額を申告するに当たり、概算取得費を本件譲渡株式の譲渡所得に係る取得費とすることはできない。 | 次の(1)及び(2)のとおり、源泉徴収選択口座である本件特定口座内で保有していた本件譲渡株式の譲渡所得の金額を申告するに当たり、概算取得費を本件譲渡株式の譲渡所得に係る取得費とすることができる。 |
(1) 措置法第37条の11の3第1項、同法第37条の11の4第1項、同条第3項及び措置法施行令第25条の10の2第1項の各規定によれば、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算は、他の株式等の譲渡による譲渡所得の金額等と区分して、個々の特定口座ごとに行い、その計算を行う場合の取得費の計算は、金融商品取引業者等が行うこととなる。また、源泉徴収選択口座においては、源泉徴収の計算も、特定口座内の株式等の譲渡をした日を基準とした取得費等の額に基づいて計算した上で、増加又は減少をした所得に対して年間を通じた徴収、還付税額の調整を可能とする仕組みとなっており、源泉徴収選択口座内における上場株式等の譲渡所得は、申告を不要とする特例制度が設けられていることから、当該所得における課税関係は、金融商品取引業者等による計算及び源泉徴収によって完結するものと解される。 そして、特定口座制度を利用することを選択した者は、特定口座内において金融商品取引業者等が収入金額及び取得費の計算を行うことを前提に同制度を選択したものと解される。加えて、源泉徴収選択口座を利用することを選択した場合には、金融商品取引業者等の計算に基づき、当該金融商品取引業者等が株式等の譲渡に係る所得税を源泉徴収することを前提に同制度を選択したものと解される。 そうすると、特定口座制度を前提とした源泉徴収選択口座においては、金融商品取引業者等の計算と異なる内容による申告をすることは予定されていないというべきである。 本件においても、請求人は、特定口座制度を前提とした源泉徴収選択口座において本件譲渡株式を譲渡しており、本件特定口座内における上場株式等の譲渡所得に係る課税関係は、金融商品取引業者等である本件取引業者による計算及び源泉徴収により完結し、本件譲渡株式に係る譲渡所得の金額は、本件取引業者が本件特定口座内の令和元年分の取引を計算した金額となるから、本件差額を控除することはできず、概算取得費を本件譲渡株式の譲渡所得に係る取得費とすることはできない。 |
(1) 措置法第37条の11の3第1項が特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算について、他の株式等の譲渡による譲渡所得の金額と区分して計算する旨規定したのは、特定口座制度創設の背景、趣旨、制度の位置付けなどに照らせば、投資家の所得計算の負担を軽減するために金融商品取引業者等が計算を代行するとしたにすぎず、それを超えて納税者の所得計算において税額が軽減されるといった恩典的な制度ではなく、特定口座により計算された所得に基づいて、納税者が確定申告において取得費等を含めて譲渡所得の金額を再計算することを妨げるものではない。 加えて、「平成17年度税制改正の解説」中、「租税特別措置法等(所得税の金融税制関係)の改正」の「特定口座内保管上場株式等の譲渡等に係る所得計算等の特例の改正」において、特定口座に受け入れた特例上場株式等の取得価額及び取得の日が実際のものと異なっていた場合でも、金融商品取引業者等に帰責性がなければ、その特定口座において計算された源泉徴収税額等は、その特例上場株式等を受け入れた際の取得価額及び取得の日を基礎として計算されたものとみなされる。そして、その異なったことにより、居住者の所得税の負担を減少させる結果となるときは、申告不要の特例の適用はなく、確定申告が必要となる旨の説明がある。また、その注書では、この申告不要制度の不適用の特例は、居住者の所得税の負担を減少させる結果となる場合についてのみ定められているが、所得税の負担が大きくなる場合には、もともと自ら確定申告を行うことができる旨の説明がある。 これらの説明からも、特定口座の計算を担う金融商品取引業者等の責任の範囲には限度があるため、納税者が確定申告によって特定口座の計算内容を再計算することも予定されているといえ、言い換えれば、特定口座の計算と確定申告による再計算とは、全く次元の異なる事柄であると解するべきである。 したがって、請求人は、確定申告において、本件譲渡株式の譲渡所得の金額の計算上、本件差額を控除し、概算取得費を本件譲渡株式の譲渡所得に係る取得費とすることができる。 |
(2) 特定口座内保管上場株式等の譲渡所得の金額の計算に関する定めである措置法通達37の11の3−14は、株式等の取得価額における概算取得費の取扱いを定めた措置法通達37の10・37の11共−13を準用していないことから、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算において、概算取得費を本件譲渡株式の譲渡所得に係る取得費とすることはできない。 |
(2) 原処分庁の解釈を前提とすると、措置法通達37の11の3−14は、概算取得費を取得費とすることを認める措置法通達37の10・37の11共−13(所得税基本通達38−16も同旨)や負債利子の控除に関する措置法通達37の10・37の11共−15を準用していない以上、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算において、概算取得費を取得費とし、負債利子を控除することは認められないことになる。 しかしながら、特定口座における株式等の譲渡と、いわゆる一般口座(以下「一般口座」という。)における株式等の譲渡について、これらの譲渡所得の金額の計算に本質的な相違はなく、その相違点は、計算主体が金融商品取引業者等なのか、納税者なのかという点に求められる。 そして、円滑な税務行政の実現という観点からすると、措置法通達37の11の3−14は、金融商品取引業者等の負担を考慮して、金融商品取引業者等が計算代行者として果たすべき計算方法や責任の範囲を定めたものにすぎないというべきである。 したがって、措置法通達37の11の3−14は、計算代行者である金融商品取引業者等の計算に関する定めであって、納税者が確定申告において、概算取得費を本件譲渡株式の譲渡所得に係る取得費として譲渡所得の金額を計算することは妨げられない。 他方で、原処分庁の解釈を前提とすると、特定口座で保有していた上場株式等を譲渡の直前に一般口座に移管するという単なる事務手続だけで、概算取得費を取得費とすることや負債利子を控除することが可能となるが、特定口座における株式等の譲渡についてはこれらが認められず、税負担が異なることになり、このような結論は、適正公平な課税の実現等に照らして妥当でない。 |
4 当審判所の判断
(1) 検討
上記1(3)イからハ及びホによれば、本件譲渡株式は、金融商品取引所に上場し、本件特定口座に保管の委託等がされていた株式であるから、その譲渡は、「特定口座内保管上場株式等の譲渡」(措置法第37条の11の3第1項(別紙の2(2)))に該当する。そして、措置法第37条の11の5第1項(別紙の2(8))の規定からすれば、請求人は、その選択により、源泉徴収選択口座に係る本件譲渡株式の譲渡による譲渡所得の金額を除外せずに確定申告をすることもでき、上記1(4)イの申告は、これに従ったものといえる。
このような請求人の申告における本件譲渡株式の譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額について、概算取得費を取得費とすることの可否に関しては、特定口座制度創設の経緯及び当該制度に関する法令等の各規定等を踏まえた検討が必要になる。
- イ 特定口座制度が創設された経緯等
特定口座制度は、株式等の譲渡益課税について、平成15年1月1日以降、源泉分離選択課税制度が廃止され、申告分離課税に一本化されたことに伴い、申告分離課税になじみのなかった個人投資家の申告事務の負担軽減の観点から創設された制度であり、金融商品取引業者等に開設した特定口座を通じて行われる一定の上場株式等の譲渡に係る所得金額の計算・源泉徴収・申告不要等の各特例から構成されている。 - ロ 特定口座制度に係る各規定
特定口座は、居住者が金融商品取引業者等との間で上場株式等保管委託契約を締結して開設する口座であり(措置法第37条の11の3第3項第1号(別紙の2(3)))、既に開設された特定口座に新たに受け入れることのできる上場株式等は、原則として、その特定口座において行われた取引により取得した上場株式等に限られるものとされている(同項第2号イ(別紙の2(4)))。その例外の一つとして、上場株式等以外の株式等で、その株式等の上場等の日の前日において居住者が有する当該株式等と同一銘柄の株式等の全てを、その上場等の日に特定口座に受け入れるもの(ただし、当該居住者が当該株式等の取得の日及び取得に要した金額を証する書類その他の書類を提出した場合に限る。)についても、既に開設された特定口座に新たに受け入れることができるとされている(同号ハ及び措置法施行令第25条の10の2第14項第17号(別紙の2(4)及び(10)))。
そして、金融商品取引業者等が特定口座で受け入れた上場株式等である特定口座内保管上場株式等を、居住者が同口座内で譲渡した場合には、その譲渡による譲渡所得の金額は、当該特定口座内保管上場株式等以外の株式等の譲渡による譲渡所得の金額と区分して計算し(措置法第37条の11の3第1項(別紙の2(2))。以下、この計算方法を「区分計算」という。)、居住者が特定口座を複数有する場合には、それぞれの特定口座ごとに計算することとされている(措置法施行令第25条の10の2第1項前段(別紙の2(9)))。その上で、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額の計算に当たっては、2回以上にわたって取得した同一銘柄の株式等の取得費については、所得税法施行令第105条第1項第1号(別紙の1(3))に掲げる総平均法に準ずる方法により計算するとされているところ(所得税法第48条第3項及び所得税法施行令第118条第1項(別紙の1(2)及び(4)))、同一銘柄の上場株式等のうちに特定口座内保管上場株式等と当該特定口座内保管上場株式等以外の上場株式等とがある場合には、これらの上場株式等については、それぞれその銘柄が異なるものとするほか(措置法施行令第25条の10の2第1項第2号(別紙の2(9)))、一の特定口座において一の日に2回以上にわたって同一銘柄の特定口座内保管上場株式等の譲渡があった場合には、当該一の日におけるこれらの譲渡については、これらの譲渡のうち最後の譲渡の時にこれらの譲渡があったものとみなして、所得税法施行令第118条の規定を適用するとされている(措置法施行令第25条の10の2第1項第3号(別紙の2(9)))。
また、特定口座内の取引に係る所得については、居住者において、源泉徴収を選択することも可能であり(措置法第37条の11の4第1項(別紙の2(6)))、源泉徴収を選択した場合には、上場株式等に係る譲渡所得の金額の計算上、源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額を除外して申告をすることができるとされている(措置法第37条の11の5第1項(別紙の2(8)))。 - ハ 特定口座制度に係る各規定の解釈
上記イ及びロからすると、特定口座制度は、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額に係る区分計算の特例と、特定口座においてした上場株式等の譲渡による所得に係る源泉徴収や申告不要の特例等とが相まって、個人投資家の所得計算や申告手続に係る負担軽減の基礎となっている制度であるといえ、このような特定口座制度の下においては、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、その特定口座内における上場株式等の受入れに係る記録を基礎として、金融商品取引業者等において、特定口座内保管上場株式等に関する固有の計算方法により一元的に計算することが予定されているというべきである。
そして、居住者が特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得について源泉徴収を選択し、源泉徴収選択口座において生じた譲渡所得の金額を申告することを選択した場合における取得費の計算方法に関して法令が上記ロ以外に別段の規定を設けていない以上、上記解釈はかかる場合にも妥当し、上記ロの各規定と異なる方法による取得費の計算は予定されていないもの、換言すれば、法は、源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額を申告するに当たり、居住者において同所得の金額の計算上取得費に算入する金額の計算をすることを予定していないものと解するのが相当である。 - ニ 措置法通達等の定めについて
以上の解釈を踏まえれば、措置法通達37の11の3−14(別紙の2(14))が、概算取得費による取得費を認める旨を定めた措置法通達37の10・37の11共−13(別紙の2(12))を準用していないことは、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算に当たり、概算取得費を取得費とすることを認めない趣旨であると解するのが相当であって、この理は、上記ハで述べた、法は、源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額を申告するに当たり、居住者において同所得の金額の計算上取得費に算入する金額の計算をすることを予定していないとの解釈に沿うもので、当審判所においても相当と認められる。
また、所得税基本通達38−16(別紙の1(5))は、措置法通達37の10・37の11共−13(別紙の2(12))と同様に、土地建物等以外の資産の譲渡による譲渡所得の金額の計算上、概算取得費による取得費を認める旨定めているが、措置法通達における準用についての上記検討によれば、上記所得税基本通達の定めが源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得について申告をする場合において適用されると解することはできないというべきである。 - ホ 本件における当てはめ
上記各検討によれば、本件譲渡株式についても、その譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、本件特定口座内における本件譲渡株式の受入れに係る記録を基礎として、本件取引業者において、特定口座内保管上場株式等に関する固有の計算方法により一元的に計算された金額となるのであって、概算取得費を取得費とすることはできない。
(2) 請求人の主張について
- イ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、措置法第37条の11の3第1項が特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額に係る区分計算の特例を規定したのは、特定口座制度創設の背景、趣旨、制度の位置付けなどに照らせば、投資家の所得計算の負担を軽減するために金融商品取引業者等が計算を代行するとしたにすぎず、それを超えて納税者の所得計算において税額が軽減されるといった恩典的な制度ではなく、特定口座により計算された所得に基づいて、納税者が確定申告において取得費等を含めて譲渡所得の金額を再計算することを妨げるものではない旨主張し、加えて、「平成17年度税制改正の解説」中、「租税特別措置法等(所得税の金融税制関係)の改正」の「特定口座内保管上場株式等の譲渡等に係る所得計算等の特例の改正」における説明内容からすれば、納税者が確定申告によって特定口座の計算内容を再計算することも予定されている旨主張する。
確かに、措置法第37条の11の3第1項は、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額に係る区分計算の特例を規定しており、その制度趣旨には、上記(1)イのとおり、個人投資家の申告事務の負担を軽減するという点も含まれる。
しかしながら、上記(1)ハからすれば、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、金融商品取引業者等において、固有の計算方法により一元的に計算することが予定されており、これと異なる別段の規定も設けられていない以上、法は、源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額を申告するに当たり、居住者が、その金額の計算上取得費に算入する金額を概算取得費により計算することを予定していないというべきである。
また、請求人が引用する税制改正の解説の該当部分は、平成17年改正令附則第11条第4項及び同条第5項(別紙の2(11))に関するものであるが、これは、平成17年4月1日から平成21年5月31日までの間の特定口座への上場株式等の保管の委託に関する経過措置に係る規定であり、上記1(3)ロ及びホのとおり、本件譲渡株式はその適用対象となるものではない。 - ロ さらに、請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のとおり、措置法通達37の11の3−14(別紙の2(14))は計算代行者である金融商品取引業者等の計算に関する定めであって、納税者が概算取得費を譲渡所得に係る取得費として譲渡所得の金額を計算することは妨げられないと主張した上で、原処分庁の解釈を前提とすると、特定口座で保有していた上場株式等を譲渡の直前に一般口座に移管するという単なる事務手続だけで、概算取得費を取得費とすることや負債利子を控除することが可能となるが、特定口座における株式等の譲渡についてはこれらが認められず、適正公平な課税の実現等に照らして妥当でない旨主張する。
しかしながら、措置法通達37の11の3−14が、金融商品取引業者等が果たすべき計算方法や責任の範囲を定めたものであるという請求人の主張を踏まえたとしても、措置法通達37の11の3−14が概算取得費による取得費を認める旨を定めた措置法通達37の10・37の11共−13を準用していないのは、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算に当たり、概算取得費を取得費とすることを認めない趣旨であると解すべきことは、上記(1)ニのとおりであって、納税者が源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額を申告するに当たり、概算取得費を取得費とすることはできない。
また、特定口座から一般口座への上場株式等の移管後に当該上場株式等を譲渡した場合に概算取得費を取得費とすることができること及び特定口座における株式等の譲渡と一般口座における株式等の譲渡とで負債利子の控除に関する取扱いが異なることは、法令等の適用の結果にすぎない。 - ハ 上記各検討によれば、請求人の上記主張にはいずれも理由がない。
(3) 本件更正処分の適法性について
上記(1)ホによれば、本件譲渡株式の譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、本件取引業者において一元的に計算された金額となるところ、これを前提に請求人の令和元年分の上場株式等の譲渡所得の金額及び所得税等の還付金の額に相当する税額を計算すると、いずれも本件更正処分の金額と同額であると認められる。
また、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件更正処分は適法である。
(4) 本件賦課決定処分の適法性について
上記(3)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条(令和4年法律第4号による改正前のもの)《過少申告加算税》第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所において、請求人の令和元年分の所得税等に係る過少申告加算税の額を計算すると、本件賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額となる。
したがって、本件賦課決定処分は適法である。
(5) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 令和元年分の特定口座年間取引報告書(本件年間取引報告書)(省略)
別表2 審査請求に至る経緯(省略)