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(令和6年4月11日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続により取得した協同組合の出資持分等の価額について、売買実例価格を基に評価して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、財産評価基本通達の定める方法に基づき評価すべきとして、相続税の更正処分等を行ったことから、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
- イ 相続税法
相続税法第22条《評価の原則》は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。 - ロ 中小企業等協同組合法
- (イ) 中小企業等協同組合法(以下「中協法」という。)第3条《種類》は、同法の適用を受ける中小企業等協同組合として、第1号において事業協同組合を掲げている。
- (ロ) 中協法第10条《出資》第1項は、組合員は、出資1口以上を有しなければならない旨、同条第2項は、出資1口の金額は均一でなければならない旨それぞれ規定している。
- (ハ) 中協法第16条第1項は、死亡した組合員の相続人で組合員たる資格を有する者が中小企業等協同組合に対し定款で定める期間内に加入の申出をしたときは、相続開始の時に組合員になったとみなす旨、また、この場合は、相続人たる組合員は、被相続人の持分について、死亡した組合員の権利義務を承継する旨規定している。
- (ニ) 中協法第17条《持分の譲渡》第1項は、組合員は、中小企業等協同組合の承諾を得なければ、その持分を譲り渡すことができない旨規定している。
- (ホ) 中協法第53条《特別の議決》の柱書及び第1号は、定款の変更は、総組合員の半数以上が出席し、その議決権の3分の2以上の多数による議決を必要とする旨規定している。
- ハ 財産評価基本通達
- (イ) 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成29年9月20日課評2−46ほかによる改正前のもの。以下「評価通達」という。)185《純資産価額》の本文は、評価通達179《取引相場のない株式の評価の原則》の「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」は、課税時期における各資産を評価通達に定めるところにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額及び評価通達186−2《評価差額に対する法人税額等に相当する金額》により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とする旨定めている。
- (ロ) 評価通達196《企業組合等の出資の評価》は、企業組合、漁業生産組合その他これに類似する組合等に対する出資の価額は、課税時期におけるこれらの組合等の実情によりこれらの組合等の評価通達185の定めを準用して計算した純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を基とし、出資の持分に応ずる価額によって評価する旨定めている。
- (ハ) 評価通達204《貸付金債権の評価》は、貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する旨定めている。
- A 貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額
- B 貸付金債権等に係る利息(評価通達208《未収法定果実の評価》に定める貸付金等の利子を除く。)の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
- イ G協同組合について
- (イ) G協同組合(以下「本件組合」という。)は、組合員の取り扱う水産物の共同購買及び分割並びに組合員のためにする日用諸雑品の共同購買等を事業とする、中協法に基づき設立された事業協同組合である。
- (ロ) 本件組合は、組合員に対して下記AないしDの4種類の証書を発行しており、組合員は、当該証書に記載された各権利(以下「本件各権利」という。)を保有していた。
- A 出資証券
本件組合の規約に従って出資したことを証する旨、出資の口数が○○○○口で、金額が○○○○円である旨が記載されている。
なお、本件組合への出資は1口当たり1,000円で、○○○○口を1単元としていた(以下、本件組合に出資したことにより組合員が保有し、出資証券に表章される出資持分を「本件持分」という。)。 - B 店舗権利証
本件組合の定款(以下「本件定款」という。)に従い店舗の使用権利(以下「店舗使用権」という。)を認める旨が記載されている。 - C 預り証
本件組合の出資充当金として本件組合が○○○○円を預かった旨が記載されている(以下、本件組合に対する当該預け金を「本件出資充当金」という。)。 - D 預り証
本件組合の共同施設整備改修資金として本件組合が○○○○円を預かった旨が記載されている(以下、本件組合に対する当該預け金を「本件施設整備金」という。)。
- A 出資証券
- (ハ) 請求人の父であるH(以下「本件被相続人」という。)は、昭和28年12月21日に、本件組合に1単元分の出資をして本件組合の組合員となり、本件組合が所有するJビル内において、鮮魚類の卸売業等を営んでいた。
- (ニ) 請求人の配偶者であったK(以下「本件元妻」という。)は、平成27年6月10日に、本件組合の組合員であったLから、出資2単元分の本件各権利を、出資1単元当たりの代金○○○○円(合計○○○○円)で譲り受け、本件組合の組合員となった。
また、本件元妻は、平成27年10月19日に、本件組合の組合員であったM及びNから、それぞれ出資1単元分の本件各権利を代金○○○○円(合計○○○○円)で譲り受けた。
- ロ 相続について
- (イ) 本件被相続人は、平成29年4月○日に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
- (ロ) 本件相続に係る相続人は、本件被相続人の配偶者であるP、長男である請求人、請求人の子であり被相続人の養子となったQ及びR並びに本件被相続人が認知した子であるSの5名であった。
- (ハ) 請求人は、本件被相続人の公正証書遺言により、本件被相続人が保有していた出資1単元分の本件各権利を、単独で相続した。
- (ニ) 請求人は、本件組合に加入の申出をして本件組合の組合員となり、本件組合は、本件被相続人が保有していた権利番号○○○○に係る出資証券、店舗権利証、本件出資充当金及び本件施設整備金の預り証を、平成29年6月26日付で請求人を名宛人として発行した。
(4) 審査請求に至る経緯
- イ 請求人は、本件相続に係る相続税について、別表の「申告」欄のとおり記載した申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した。その際、請求人は、当該申告書に本件被相続人から相続した本件組合に対する出資の価額を○○○○円と記載した。
- ロ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、評価通達196及び204の定めにより、本件持分の価額を○○○○円、本件出資充当金の価額を○○○○円、本件施設整備金の価額を○○○○円とそれぞれ評価した上で(以下、原処分庁が認定した本件各権利の評価額を「本件各通達評価額」という。)、令和5年2月16日付で、請求人に対して、別表の「更正処分等」欄のとおり、本件相続に係る相続税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
- ハ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分に不服があるとして、令和5年5月9日に審査請求をした。
2 争点
本件各通達評価額に、相続税法第22条に規定する時価を上回る違法があるか否か。
3 争点についての主張
原処分庁 | 請求人 |
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(1) 本件各権利の評価の視点について 請求人が本件相続により取得した本件各権利は、本件持分、本件出資充当金及び本件施設整備金に分けてそれぞれ評価すべきである。 |
(1) 本件各権利の評価の視点について 請求人が本件相続により取得したのは、店舗使用権を中心とした直接店舗を営業するという制限付きの組合員たる資格(以下、単に「組合員資格」という。)であるから、本件持分、本件出資充当金及び本件施設整備金に分割して評価すべきものではない。 |
(2) 本件各権利の評価額について
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(2) 本件各権利の評価額について
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4 当審判所の判断
(1) 法令解釈
- イ 相続税法第22条に規定する「時価」の意義について
相続税法第22条は、同法第3章において特別の定めがあるものを除くほか、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨を規定しているところ、ここにいう時価とは、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
ところで、相続税法は、地上権及び永小作権の評価(同法第23条)、定期金に関する権利の評価(同法第24条及び第25条)並びに立木の評価(同法第26条)を除き、財産の評価方法について規定を置いていないところ、課税実務においては、評価通達において財産の価額の評価に関する一般的な基準を定めて、画一的な評価方法によって相続等により取得した財産の価額を評価することとされている。このような方法が採られているのは、相続税等の課税対象である財産には多種多様なものがあり、その客観的な交換価値が必ずしも一義的に確定されるものではないため、相続等により取得した財産の価額を上記のような画一的な評価方法によることなく個別事案ごとに評価することにすると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により異なった金額が時価として導かれる結果が生ずることを避け難く、また、課税庁の事務負担が過重なものとなり、課税事務の効率的な処理が困難となるおそれもあることから、相続等により取得した財産の価額をあらかじめ定められた評価方法によって画一的に評価することとするのが相当であるとの理由に基づくものと解される。このような課税実務は、評価通達の定める評価方法が相続等により取得した財産の取得の時における適正な時価を算定する方法として合理的なものであると認められる限り、納税者間の公平、納税者の便宜、効率的な徴税といった租税法律関係の確定に際して求められる種々の要請を満たし、国民の納税義務の適正な履行の確保(国税通則法第1条《目的》、相続税法第1条《趣旨》)に資するものとして、相続税法第22条の規定の許容するところであると解される。
そして、評価対象の財産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有する場合においては、同通達の定める評価方法が形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いられることによって、基本的には、実質的な租税負担の公平を実現することができるものと解されるのであって、相続税法第22条の規定も租税法上の一般原則としての平等原則を当然の前提としていることに照らせば、特定の納税者あるいは特定の財産についてのみ、評価通達の定める評価方法以外の評価方法によってその価額を評価することは、原則として許されないものというべきである。
その上で、評価対象の財産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであり、かつ、当該財産の相続税の課税価格がその評価方法に従って算定された場合には、相続財産の価額は、評価通達の定める評価方法を画一的に適用することによって、当該財産の時価を超える評価額となり、適正な時価を求めることができない結果となるなど、同通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情がない限り、同通達の定める評価方法によって評価するのが相当であり、同通達の定める評価方法に従い算定された評価額をもって当該財産の適正な時価を上回るものではないと事実上推認することができるものというべきである。 - ロ 評価通達196の合理性について
評価通達196は、企業組合等の出資の価額は、評価通達185の定めを準用して計算した純資産価額を基とし、出資の持分に応ずる価額によって評価する旨定めているところ、この取扱いは、企業組合等の出資の価額を評価するに当たり、当該企業組合等の事業遂行により蓄積された資産の価値を反映させることが公平にかなうとの趣旨によるものと解され、当審判所においても相当と認める。 - ハ 評価通達204の合理性について
評価通達204は、貸付金債権等の価額は、原則として、元本の価額と利息の価額との合計額により評価する旨定めているところ、この取扱いは貸付金債権等の客観的な交換価値を評価する取扱いとして合理性を有するものであり、当審判所においても相当と認める。
(2) 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
- イ 本件組合の決算書類の記載内容
本件組合の、平成28年9月30日時点における貸借対照表の負債の部には、組合員出資充当金科目に○○○○円、預り金科目に○○○○円がそれぞれ計上されているところ、平成27年10月1日から平成28年9月30日までの事業年度の勘定科目内訳明細書の「借入金及び支払利子の内訳書」に、借入金の期末現在高○○○○円は組合員からの本件出資充当金(122口分)である旨が記載され、「仮受金(前受金・預り金)の内訳書」に、預り金の期末現在高○○○○円には組合員122口分の本件施設整備金(出資1単元当たり○○○○円)が含まれる旨が記載されていた。
なお、上記「122口」は、出資122単元を意味するものと解される。 - ロ 本件定款の内容
本件相続の開始日における本件定款には、要旨次のとおり定められていた。- (イ) 相続加入(第11条)
死亡した組合員の相続人で組合員たる資格を有する者の1人が相続開始後30日以内に加入の申出をしたときは、相続開始の時に組合員になったものとみなす(第1項)。 - (ロ) 脱退者の持分の払戻し(第14条)
組合員が脱退したときは、次のA及びBの金額の合計額(本件組合の財産が当該合計額より減少したときは、当該合計額から当該減少額を減少した額)につき、その出資口数に応じて算定した額を限度として、持分を払い戻すものとする。- A 当該事業年度末の決算貸借対照表における出資金、法定利益準備金、資本準備金及びその他の積立金の合計額に、当期未処分利益のうち本件組合に留保した金額又は当期未処理損失を加減した額
- B 上記Aの決算貸借対照表における総資産に関する相続税法に基づく相続税評価額の2分の1に相当する額が当該決算貸借対照表の当該総資産の評価を上回る場合には、その上回る額
- (イ) 相続加入(第11条)
- ハ 本件組合と脱退者との合意内容
本件組合が、平成28年12月21日に、本件組合からの脱退者との間で作成した合意書には、要旨以下のとおり記載されている。
なお、下記(ロ)の払戻金の金額は、本件定款第14条に定める算定方法に基づいて算定されたものである。- (イ) 本件組合は、脱退者が平成28年9月末日をもって本件組合を脱退することに合意した。
- (ロ) 本件組合と脱退者は、本件組合の脱退に係る本件持分の払戻金(出資1単元当たり)が、○○○○円であることを確認する。
- (ハ) 本件組合は、上記(ロ)の払戻金について、源泉所得税等の税務処理を行い、源泉徴収後の○○○○円(出資1単元当たり)を支払うものとする。
- (ニ) 本件組合は、脱退者に対して、本件組合の脱退に伴い本件出資充当金○○○○円及び本件施設整備金○○○○円(いずれも出資1単元当たり)を支払うものとする。
- ニ 本件組合の解散
本件組合は、令和元年11月○日に解散して清算手続を行い、本件組合の残余財産に対する各組合員への分配額として、出資1単元当たり○○○○円(残余財産の額である○○○○円を、当時の組合員の出資の総数である108単元で除した額)を支払い、請求人もこの支払を受けた。
(3) 検討
- イ 本件各権利の評価の視点について
- (イ) 本件持分及び店舗使用権について
本件組合は、上記1の(3)のイの(ロ)のBのとおり、組合員に店舗権利証を発行して店舗使用権を付与していたものであるところ、中協法第10条第1項が、組合員は出資1口以上を有しなければならない旨規定していることからすると、本件持分は、店舗使用権の必須の前提であって、分離できないものであるから、これらを併せて、本件持分として評価するのが相当である。 - (ロ) 本件出資充当金及び本件施設整備金について
上記(2)のイのとおり、本件組合の貸借対照表には、組合員からの本件出資充当金及び本件施設整備金が負債として計上されていること、同ハの(ロ)及び(ニ)のとおり、本件組合の脱退者に、本件定款第14条の規定に基づき算定された本件持分の払戻金とは別に、本件出資充当金及び本件施設整備金が支払われたことなどからすれば、本件出資充当金及び本件施設整備金は、本件持分の払戻しとは別に、本件組合が各組合員に対して返還する義務を負っているものであるから、本件持分とは別に評価するのが相当である。 - (ハ) 請求人の主張について
請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、請求人が本件相続により取得したのは、店舗使用権を中心とした直接店舗を営業するという制限付きの組合員資格であり、本件持分、本件出資充当金及び本件施設整備金に分割して評価すべきでない旨主張する。
しかし、上記(ロ)のとおり、本件出資充当金及び本件施設整備金は、本件持分とは性質を異にするものであるから、本件持分とは別に評価するのが相当であって、請求人の主張には理由がない。
- (イ) 本件持分及び店舗使用権について
- ロ 本件各権利の評価について
- (イ) 本件持分の評価について
- A 本件持分の価額は評価通達196を適用して評価するのが相当であること
評価通達196は、出資の価額について純資産価額を基として評価する旨定めており、上記(1)のロのとおり、この定めは当審判所においても相当と認められるところ、本件組合の純資産価額を基礎とした持分の価額が払込済出資額を上回っていれば、その差額は本件組合の内部に留保された状態であり、最終的に解散して清算することになれば、純資産価額に基づく財産が分配されることになる(中協法第69条《会社法等の準用》、会社法第481条《清算人の職務》第3号及び同法第502条《債務の弁済前における残余財産の分配の制限》)。また、上記(2)のロの(ロ)のとおり、本件定款第14条によれば、本件組合を脱退した際の本件持分の払戻額は、本件組合の純資産価額を基に算定することとはされていないものの、中協法第53条第1号によれば事業協同組合の定款の変更は特別の議決によりいつでも可能であり、本件定款を変更して脱退の際の払戻額を純資産価額とすると改めれば、純資産価額に基づいて計算した払戻額が得られるのであるから、本件持分は、究極的には本件組合の純資産価額を体現しているものと考えられる。
なお、本件組合は、上記(2)のニのとおり、令和元年11月○日に解散し、本件組合の残余財産に基づいて算出された出資1単元当たり○○○○円が各組合員に分配されており、このことからも、本件持分は、究極的には本件組合の純資産価額を体現したものといえる。
そうすると、本件持分の価額は、評価通達196を適用して評価するのが相当である。 - B 評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情はないこと
- (A) 上記Aのとおり、本件持分の価額は評価通達196を適用して評価するのが相当であるから、上記(1)のイのとおり、評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情がない限り、同通達の定める評価方法に従い算定された評価額をもって、当該財産の適正な時価を上回るものではないと事実上推認することができる。そこで、本件持分に上記「特別の事情」が存在するか否かについて以下検討する。
- (B) この点、請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のイのとおり、本件組合が所有していた建物について数億円単位の修繕費用が必要と見積もられていたが、本件各通達評価額にはそれが考慮されていない旨主張する。
しかしながら、本件組合が所有建物の大規模な修繕について契約を締結する等、具体的に数億円単位の修繕費用について債務を負っていたとは認められず、また、建物の経年劣化は本件組合の純資産価額の算定過程において考慮されるものであることからすれば、請求人の主張をもって本件持分につき評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情があるとは認められず、その他、当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件持分につき同通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情があるとは認められない。
- C まとめ
以上によれば、本件持分につき評価通達196の定める評価方法に従い算定された評価額は、本件持分の適正な時価を上回るものではないと事実上推認することができる。
- A 本件持分の価額は評価通達196を適用して評価するのが相当であること
- (ロ) 本件出資充当金及び本件施設整備金の評価について
- A 本件出資充当金及び本件施設整備金の価額は評価通達204を適用して評価することが相当であること
評価通達204は、貸付金債権等の価額は、原則として元本の価額と利息の価額の合計額により評価する旨定めており、上記(1)のハのとおり、この定めは当審判所においても相当と認められるところ、上記イの(ロ)のとおり、本件出資充当金及び本件施設整備金が、本件組合が各組合員に対して返還する義務を負っているものであることからすれば、これらは評価通達204にいう「貸付金債権等」に含まれるものとして、同通達を適用して評価するのが相当である。 - B 評価通達の定める評価方法によるべきでない特別の事情はないこと
当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件出資充当金及び本件施設整備金につき評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情があるとは認められない。 - C まとめ
以上によれば、本件出資充当金及び本件施設整備金につき評価通達204の定める評価方法に従い算定された評価額は、本件出資充当金及び本件施設整備金の適正な時価を上回るものではないと事実上推認することができる。
- A 本件出資充当金及び本件施設整備金の価額は評価通達204を適用して評価することが相当であること
- (ハ) 小括
よって、本件各権利を評価通達196及び204により評価した本件各通達評価額に、相続税法第22条に規定する時価を上回る違法はない。 - (ニ) 請求人の主張について
請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のロのとおり、本件元妻が組合員資格を取得した時の売買代金は、出資1単元当たり○○○○円であるところ、これは本件定款に定める組合員の脱退時の払戻金の計算を根拠とするものであり、組合員間でも適正価額として流通していたものであるから、出資1単元に対応する本件各権利は○○○○円と評価すべき旨主張する。
しかしながら、本件定款第14条が本件組合を脱退した際の本件持分の払戻額を定めていることを前提としても、本件持分は究極的には本件組合の純資産価額を体現したものといえ、本件持分の評価に当たり評価通達196を適用するのが相当であることは、上記(イ)のAのとおりであり、また、本件出資充当金及び本件施設整備金の評価に当たり評価通達204を適用するのが相当であることは、上記(ロ)のAのとおりである。
また、本件持分の譲渡には本件組合の承諾が必要であり(中協法第17条第1項)、市場を通じた不特定多数の当事者間における自由な取引が行われるものではないから、本件組合の組合員間において、本件各権利の価額が出資1単元当たり○○○○円と認識されていたとしても、その価額は限定的な当事者間において形成されたものであり、これを時価と認めることはできない。
よって、請求人の主張には理由がない。
- (イ) 本件持分の評価について
(4) 本件更正処分の適法性について
上記(3)のとおり、本件各通達評価額に、相続税法第22条に規定する時価を上回る違法はない。
そして、当審判所において、本件各通達評価額を基に請求人の本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表の「更正処分等」欄の課税価格及び納付すべき税額と同額となる。
また、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件更正処分は適法である。
(5) 本件賦課決定処分の適法性について
上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条(令和4年法律第4号による改正前のもの)《過少申告加算税》第4項第1号に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、本件更正処分により納付すべき税額を基礎として請求人に係る相続税の過少申告加算税の額を計算すると、別表の「更正処分等」欄の過少申告加算税の額と同額となる。
したがって、本件賦課決定処分は適法である。
(6) 結論
よって、審査請求には理由がないから、これを棄却することとする。
別表 審査請求に至る経緯(省略)