(令和6年9月26日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税等の確定申告に当たり本則課税制度により控除対象仕入税額を計算したことについて、請求人は消費税簡易課税制度選択届出書を提出していることから、簡易課税制度を適用して控除対象仕入税額を計算すべきであるとする原処分庁からの指摘に従い修正申告をしたところ、原処分庁が過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、確定申告書を提出した際に、原処分庁が上記指摘をするなどの行政指導を行わずに過少申告加算税を賦課したことは不当であるなどとして、原処分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき納付すべき税額に100分の10の割合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、100分の5の割合)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
ロ 通則法第65条第2項は、同条第1項の規定に該当する場合において、同項に規定する納付すべき税額がその国税に係る期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、同項の過少申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、同項の規定により計算した金額に、その超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額(以下「加重分」という。)を加算した金額とする旨規定している。
ハ 通則法第65条第5項柱書及び第1号は、同条第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、同条第1項又は第2項に規定する納付すべき税額から、その正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 なお、消費税及び地方消費税(以下、併せて「消費税等」という。)の課税期間については、各個別の終了年月をもって表記する(例えば、令和2年10月1日から令和3年9月30日までの課税期間は、「令和3年9月課税期間」などと表記する。)。また、令和5年9月課税期間を「本件課税期間」という。

イ 請求人は、平成15年10月○日に設立された一般労働者派遣事業などを目的とする法人である。
ロ 請求人は、平成16年11月30日、原処分庁に対し、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定により、適用開始課税期間を平成18年9月課税期間とし、その基準期間である平成16年9月課税期間の課税売上高が5,000万円以下であるとして、同項の規定(以下、同項に規定する計算方式を「簡易課税制度」という。)の適用を受ける旨を記載した消費税簡易課税制度選択届出書を提出した。
ハ 請求人の本件課税期間の基準期間である令和3年9月課税期間の課税売上高は○○○○円であったため、本件課税期間の消費税等については、簡易課税制度の適用を受ける要件を満たしていた。
 なお、請求人は、本件課税期間の初日の前日までに、消費税法第37条第1項の規定の適用を受けることをやめようとする旨を記載した届出書(同条第5項)を原処分庁へ提出していない。
ニ 請求人は、本件課税期間の消費税等について、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項に規定する計算方式(以下、同項に規定する課税仕入れに係る消費税額を「控除対象仕入税額」といい、控除対象仕入税額の控除を「仕入税額控除」といい、同項の規定による仕入税額控除の計算方式を「本則課税制度」という。)により計算し、課税標準額を○○○○円、控除対象仕入税額を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円(納付すべき消費税額○○○○円及び納付すべき譲渡割額○○○○円の合計額)とした確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ホ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、令和6年1月26日、令和3年9月課税期間から本件課税期間までの各課税期間の消費税等に係る調査(以下「本件調査」という。)を開始し、同日、請求人の顧問税理士であるE税理士に対し、本件課税期間に係る仕入税額控除について、簡易課税制度が適用される旨の指摘をした。
ヘ 請求人は、令和6年2月20日、上記ホのとおり、本件調査担当職員から指摘を受けて、課税標準額を○○○○円、控除対象仕入税額を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円(納付すべき消費税額○○○○円及び納付すべき譲渡割額○○○○円の合計額)とした本件課税期間の消費税等の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を原処分庁に提出した。本件修正申告書の提出により、請求人が新たに納付すべき税額は、本件修正申告書における納付すべき税額○○○○円から本件確定申告書における納付すべき税額○○○○円を差し引いた○○○○円であった。
 なお、本件修正申告書の提出は、通則法第65条第1項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しないものであった。
ト 原処分庁は、令和6年3月26日付で、請求人に対し、通則法第65条第1項及び第2項の各規定に基づき、本件課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 なお、本件賦課決定処分には、加重分として○○○○円が加算されて賦課されていた。
チ 請求人は、令和6年4月4日、本件賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。

2 争点

 原処分庁が行政指導を行わずに本件調査を行い課した本件賦課決定処分は、不当か否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
以下のとおり、本件賦課決定処分は、不当ではない。 以下のとおり、本件賦課決定処分は、不当である。
(1) 原処分庁に対し、調査を行う前に行政指導の実施を義務付ける法令上の規定はない。
 申告納税方式の下では、納税者は自己の責任と判断の下に行動すべきであるから、請求人が本則課税制度を適用して作成した本件確定申告書を提出したことについては、請求人自身がその責めを負うべきである。
 また、加算税の賦課決定処分は法令の規定に基づき当然に行われるものであり、原処分庁の裁量で行われるものではない。
(1) 請求人が本件確定申告書を提出した際に、原処分庁から当該確定申告書の様式が本則課税制度を適用するものであり誤っている旨の行政指導があれば、過少申告加算税が課されることはなかった。
 したがって、原処分庁が、請求人に対し、当該行政指導を行わずに本件調査を行い、本件賦課決定処分をしたことは不当である。
(2) 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則として、その違反者に対して課されるものである。
 そして、通則法第65条第2項に規定する過少申告加算税の加重分は、同条第1項の規定により過少申告加算税が課される場合において、修正申告により納付すべき税額が、期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときに必然的に課されるものであって、過少申告となった原因事実によって加重分が不適用となる旨の規定はないから、本件賦課決定処分は不当なものではない。
(2) 仮に、原処分庁が請求人に対し行政指導を行わずに過少申告加算税を課したことが不当でなかったとしても、課税売上高に変動がなく、仕入税額控除の計算方式を本則課税制度から簡易課税制度へと変更するのみの修正申告で、納付すべき税額が本件調査を開始する前から確定しているような場合には、原処分庁の主張する「過少申告による納税義務違反」に該当しないから、過少申告加算税に加重分が加算されることは不当である。

4 当審判所の判断

(1) 検討

請求人は、上記1の(3)のホ及びヘのとおり、本件調査を受け、本件調査担当職員からの指摘に従い、本件修正申告書を提出していることから、請求人には、原則として、通則法第65条第1項及び第2項の各規定に基づく過少申告加算税が課されることとなるところ、請求人は、本件賦課決定処分は不当である旨主張するため、本件において処分の不当性が認められるか、以下検討する。

イ 処分の不当とは、処分を行うにつき、法の規定から処分行政庁に裁量権が付与されていると認められる場合において、処分行政庁の行った処分が、裁量権の逸脱又は濫用により違法であるとまではいえないが、当該処分の基礎となる法や制度の趣旨及び目的に照らして不合理であることをいうと解されるから、処分が不当といえるためには、その前提として、法の規定から処分行政庁に裁量権が付与されていることを要するものと解される。
ロ これを本件についてみると、通則法第65条第1項及び第2項は、上記1の(2)のイ及びロのとおり規定しているところ、これらの規定において、過少申告加算税の賦課決定やその額の計算について、原処分庁に裁量権が付与されたものとは解されず、ほかにそのように解すべき法律上の根拠もない。
ハ したがって、本件賦課決定処分をするに当たり、原処分庁に裁量権が付与されていたとはいえず、処分の不当性を検討する前提が欠けるから、本件賦課決定処分は不当ではない。

(2) 請求人の主張について

イ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、原処分庁が行政指導を行わずに本件調査を行い、本件賦課決定処分をしたことは不当である旨主張する。
 しかしながら、本件賦課決定処分をするに当たり、原処分庁に裁量権が付与されたものでないことは、上記(1)のロにおいて説示したとおりであり、また、原処分庁が、調査を行う前に行政指導を行うべきとする法令等の規定又は定めは存在しない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のとおり、仮に、原処分庁が行政指導を行わずに過少申告加算税を課したことが不当でなかったとしても、課税売上高に変動がなく、仕入税額控除の計算方式を本則課税制度から簡易課税制度へと変更するのみの修正申告で、納付すべき税額が本件調査を開始する前から確定しているような場合には、原処分庁の主張する「過少申告による納税義務違反」に該当しないから、過少申告加算税に加重分が加算されることは不当である旨主張するため、以下検討する。
(イ) 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である(最高裁平成18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁参照)。
 そして、通則法第65条第2項に規定する過少申告加算税の加重分は、同条第1項の規定に該当する場合において、修正申告により納付すべき税額が期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときに一律に課されるものであり、法令上、加重分のみが不適用となる場合に関する規定は存在しない。
(ロ) 本件においては、上記1の(3)のヘのとおり、請求人が本件修正申告書を提出したことにより、新たに納付すべき税額が生じたのであるから、請求人には、「過少申告による納税義務違反」の事実があったと認められるのであり、請求人の主張するような事情は、この判断を左右するものではない。
 また、同へのとおり、本件修正申告書の提出による新たに納付すべき税額(○○○○円)は、期限内申告税額に相当する金額(○○○○円)を超えている。
 そうすると、請求人には、通則法第65条第1項及び第2項の各規定に基づき、加重分を加算した過少申告加算税が賦課されることとなるのであり、この点について原処分庁に裁量権が付与されたものではないことは、上記(1)のロで説示したとおりである。
 したがって、請求人の主張は採用できない。

(3) 本件賦課決定処分の適法性について

以上のとおり、本件賦課決定処分は、通則法第65条第1項及び第2項の各規定の要件を充足し、また、本件修正申告書の提出により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、当該修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第5項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所においても、請求人の本件課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の額は、本件賦課決定処分における額と同額であると認められる。
 また、本件賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(4) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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