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(令和6年7月3日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、外国法人から支給を受けた給与に係る所得を確定申告したところ、原処分庁が、給与所得の金額等の計算に誤りがあるとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、給与所得の計算に誤りはないなどとして更正処分の一部の取消しを求めるとともに、過少申告となったことについて正当な理由があるとして、過少申告加算税の賦課決定処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
国税通則法(以下「通則法」という。)第65条(令和4年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、更正があったときは、当該納税者に対し、その更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定し、同条第2項は、同条第1項に規定する納付すべき税額がその国税に係る期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、同項の過少申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、同項の規定により計算した金額に、その超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
また、通則法第65条第4項柱書及び同項第1号は、同条第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する旨規定している。
(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯
当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
なお、通則法第11条《災害等による期限の延長》及び国税通則法施行令第3条《災害等による期限の延長》第2項の各規定に基づき、令和元年分の所得税等に係る法定申告期限は令和2年4月16日に、令和2年分の所得税等の法定申告期限は令和3年4月15日に延長されていた。
2 争点
(1) 本件国外給与に係る給与所得の収入金額は、本件総支給額を円換算すべきか否か(争点1)。
(2) 令和2年分及び令和3年分の各確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があるか否か(争点2)。
3 争点についての主張
(1) 争点1(本件国外給与に係る給与所得の収入金額は、本件総支給額を円換算すべきか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
本件国外給与の支給については、本件台湾税額計算書に、本件総支給額が新台湾ドルで記載されており、本件台湾税額計算書に記載された支給日に本件国外給与が本件請求人口座に日本円で入金されていることから、いわゆる外貨建て円払い取引に該当する。 そうすると、本件国外給与に係る給与所得の収入金額は、所得税基本通達57の3-2《外貨建取引の円換算》注書きの5の定めに基づき、外貨建取引に準じた方法で本件台湾税額計算書の本件総支給額を円換算した金額となる。 |
本件国外給与の支給については、本件雇用契約において、本件外国法人が本件国外給与を日本円で支払うことを合意している。そして、本件所得明細においても本件国外給与が日本円で算定され、支給日に本件請求人口座に日本円で送金されている。 したがって、本件国外給与に係る給与所得の収入金額は、日本円である本件所得明細の本件総支給額となるから、円換算を行う必要はない。 |
(2) 争点2(令和2年分及び令和3年分の各確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があるか否か。)について
請求人 | 原処分庁 |
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イ 令和2年分及び令和3年分の各確定申告が過少申告となったのは、本件作成コーナーにおいて、給与所得の入力画面上、「源泉徴収税額」欄のエラーメッセージに、「【源泉徴収税額】が入力されていません。確認してください。源泉徴収税額がない場合には「0」を入力します。」と表示されるのみで、外国の所得税は入力対象でない旨の補足説明が表示されないこと、また、「社会保険料等の金額」欄において、外国の社会保険料については、社会保険料控除の対象とならない旨の補足説明が表示されないことに起因するものである。 |
イ 本件作成コーナーにおいて入力時に表記されるエラーメッセージの内容に誤りは認められない。 また、本件作成コーナーの給与所得の入力画面上における源泉徴収税額には外国の源泉徴収税額が含まれないこと及び同画面上における社会保険料控除には外国で支払った社会保険料は含まれないことの説明がないことは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情には該当しない。 |
ロ 請求人がした令和元年分の所得税等の確定申告の誤りについて、原処分庁が遅くとも令和2年分の所得税等の確定申告の期限までに指摘していれば、請求人の令和2年分及び令和3年分の所得税等の各確定申告の内容に誤りは生じなかったのであるから、原処分庁は令和2年分の所得税の確定申告の期限までに請求人に対し誤りを指摘すべきであったのに、これをしなかった。 |
ロ 原処分庁は、請求人に係る令和元年分の所得税等について、法定申告期限から5年を経過する日までに更正処分をしたのであるから、原処分庁が本件各更正処分を行った時期に問題はない。 また、原処分に係る調査において原処分庁が請求人の所得税等の誤りを指摘するまでの間、原処分庁がその誤りを指摘しなかったことは、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情には該当しない。 |
ハ したがって、請求人には、令和2年分及び令和3年分の各確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」がある。 | ハ したがって、請求人には、令和2年分及び令和3年分の各確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があったとは認められない。 |
4 当審判所の判断
(1) 争点1(本件国外給与に係る給与所得の収入金額は、本件総支給額を円換算すべきか否か。)について
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
本件所得明細に記載された差引支給額を、本件外国法人が本件請求人口座に振り込む場合の円為替取扱手数料の金額は、別表5の「②円為替取扱手数料」欄のとおりであり、被仕向送金取扱手数料との合計額(以下「本件手数料」という。)は、別表5の「③本件手数料」欄のとおり、いずれも○○○○円となる。
上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、本件外国法人は、本件雇用契約の定めに従って請求人に本件国外給与を支払うため、別表3の各欄のとおり、本件総支給額、台湾所得税及び差引支給額などを日本円で算定した本件所得明細を作成したことが認められる。
また、別表1及び別表5によれば、本件請求人口座に入金された各月の金額(別表1の「入金額」欄)が、令和2年10月15日入金分を除き、本件所得明細に記載された差引支給額(別表5の「①本件所得明細記載の差引支給額」欄)から、本件手数料(同表の「③本件手数料」欄)を差し引いた金額(同表の「④差引金額」欄)と一致していることから、本件外国法人は、本件所得明細に記載された差引支給額を、本件請求人口座に送金したものと認められる。実際に、上記イの(ハ)並びに別表3の順号1及び2によれば、本件外国法人は、本件国外給与の支払に当たり、本件所得明細に記載された差引支給額を、本件請求人口座宛てに送金していることが認められる。
以上のことから、本件国外給与は、日本円で算定され、日本円で支払われたと認められる。
原処分庁は、上記3の(1)の「原処分庁」欄のとおり、本件台湾税額計算書には、本件総支給額が新台湾ドルで記載されており、本件請求人口座には日本円で入金されているから、本件国外給与の支給はいわゆる外貨建て円払い取引に該当する旨主張する。
しかしながら、上記イの(ホ)のとおり、本件台湾税額計算書は、本件外国法人が本件国外給与から源泉徴収した税額を台湾の国税当局に納付するために作成したものであり、本件台湾税額計算書に記載された本件総支給額は、本件所得明細に記載された本件総支給額を、本件国外給与の支給日の為替レートで日本円から新台湾ドルに換算したものであること、同(ロ)のとおり、請求人に本件国外給与を支給するために作成されたものは、日本円で算定された本件所得明細であることからすれば、本件国外給与は円建てというべきであって、本件国外給与の支給はいわゆる外貨建て円払い取引に該当しない。
以上のとおり、本件国外給与の支給はいわゆる外貨建て円払い取引には該当せず、本件国外給与の各月の収入金額は、日本円で算定された本件所得明細に記載の本件総支給額であるから、本件国外給与の収入金額を算定するに当たり、円換算の必要はない。
(2) 争点2(令和2年分及び令和3年分の各確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があるか否か。)について
過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば、過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として通則法第65条第4項第1号に定めた「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解される(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁、最高裁平成18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁参照)。
しかしながら、所得税等は申告納税制度を採用しており、申告納税制度の下においては、納税者自身が自己の判断と責任において、法令の規定に従って適正な申告をしなければならないところ、本件作成コーナーは、飽くまで行政サービスの一環として、納税者による自力での確定申告書等の作成を手助けするために設けられているものにすぎず、過少申告となった責任の所在が本件作成コーナーの説明不足にある旨の請求人の主張を採用することはできない。
そうすると、請求人の過少申告は、請求人自身の税法の不知又は誤解によるものというほかなく、かかる事情をもって、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があり、請求人に過少申告加算税を賦課することが、不当又は酷になる場合に当たるとはいえない。
しかしながら、税務署長が、誤った申告をした納税者に対し、翌年分の確定申告の期限までにその誤りを指摘しなければならないとする法令の規定はなく、また、申告納税制度の下においては、確定申告は、納税者自身が自己の判断と責任において、法令の規定に従って適正にしなければならないのであるから、請求人が令和元年分の確定申告と同様に令和2年分及び令和3年分の各確定申告を誤ったことをもって、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があり、請求人に過少申告加算税を賦課することが、不当又は酷になる場合に当たるとはいえない。
(3) 本件各更正処分の適法性について
上記(1)のニのとおり、本件国外給与の各月の収入金額は、本件所得明細に記載の本件総支給額(別表3の「③本件総支給額」欄の金額)であるから、これを基に本件各年分の本件国外給与に係る給与所得の収入金額を計算すると、別表6の「本件国外給与」欄の各「審判所認定額」欄のとおりとなり、これを基に計算すると、請求人の本件各年分の給与所得の金額は、別表6の「給与所得の金額」欄の各「審判所認定額」欄のとおりとなる。
上記イの給与所得の金額を基に、所得税法第95条《外国税額控除》第1項の規定及び東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第14条(令和元年分及び令和2年分については、令和2年法律第46号による改正前のもの)《外国税額の控除》第1項の規定に基づき計算すると、請求人の本件各年分の外国税額控除の額は、別表7の「⑩外国税額控除の額」欄の各「審判所認定額」欄のとおりとなる。
上記イ及びロを基に、請求人の納付すべき税額を計算すると、別表8の「納付すべき税額」欄の各「審判所認定額」欄のとおりとなり、本件各更正処分の金額を下回るから、本件各更正処分は、いずれもその一部を別紙1ないし別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
また、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
(4) 本件各賦課決定処分の適法性について
上記(2)のロの(ニ)のとおり、令和2年分及び令和3年分の各確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
そして、請求人の令和2年分及び令和3年分の所得税等に係る過少申告加算税の額は、当審判所においても、本件各賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額と認められる。
したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
(5) 結論
よって、本審査請求は、本件各更正処分については理由があるから、いずれもその一部を別紙1ないし別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すこととし、本件各賦課決定処分については理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 本件請求人口座(省略)
別表2 本件台湾税額計算書(省略)
別表3 本件所得明細(省略)
別表4 審査請求に至る経緯(省略)
別表5 G銀行○○支店における外国送金の手数料等(省略)
別表6 給与所得の金額(省略)
別表7 外国税額控除の額(省略)
別表8 納付すべき税額等(省略)
別紙1から3 取消額等計算書(省略)