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(令和6年9月25日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、原処分庁が納税者G社所有の土地を公売に付するため、公売公告処分をしたところ、当該土地に借地権を有すると主張する審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該公売公告処分は、違法又は不当であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、不服申立てをすることができる旨規定している。
ロ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第50条《第三者の権利の目的となっている財産の差押換》第1項は、賃借権その他第三者の権利の目的となっている財産が差し押さえられた場合には、その第三者は、国税局長(徴収法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読替え後のもの。以下同じ。)に対し、滞納者が他に換価の容易な財産で他の第三者の権利の目的となっていないものを有し、かつ、その財産によりその滞納者の国税の全額を徴収することができることを理由として、その財産の公売公告の日までに、その差押換えを請求することができる旨規定している。
ハ 徴収法第55条《質権者等に対する差押えの通知》柱書及び第1号は、賃借権その他の第三者の権利の目的となっている財産を差し押さえたときは、国税局長は、これらの権利を有する者のうち知れている者に対し、その旨その他必要な事項を通知しなければならない旨規定している。
ニ 徴収法第95条《公売公告》第1項は、国税局長は、差押財産を公売に付するときは、公売の日の少なくとも10日前までに、以下の同項各号に掲げる事項を公告しなければならない旨規定している。
(イ) 公売財産の名称、数量、性質及び所在(第1号)
(ロ) 公売の方法(第2号)
(ハ) 公売の日時及び場所(第3号)
(ニ) 売却決定の日時及び場所(第4号)
(ホ) 公売保証金を提供させるときは、その金額(第5号)
(ヘ) 買受代金の納付の期限(第6号)
(ト) 公売財産の買受人について一定の資格その他の要件を必要とするときは、その旨(第7号)
(チ) 公売財産上に質権、抵当権、先取特権、留置権その他その財産の売却代金から配当を受けることができる権利を有する者は、売却決定の日の前日までにその内容を申し出るべき旨(第8号)
(リ) 前各号に掲げる事項のほか、公売に関し重要と認められる事項(第9号)
ホ 国税徴収法基本通達(昭和41年8月22日付徴徴4−13ほか5課共同「国税徴収法基本通達の全文改正について」(法令解釈通達)による国税庁長官通達。以下「徴収法基本通達」という。)第89条関係9《用益物権等の存続》は、換価財産が不動産であって、その不動産上に差押えの登記前に第三者に対抗できる賃借権がある場合には、その賃借権は、換価によっては消滅しない旨定めている。
ヘ 徴収法基本通達第89条関係10《賃借権等の消滅》は、差押え前に換価財産上に賃借権(徴収法基本通達第89条関係9に定める換価によって消滅しない賃借権を除く。)が設定されている場合においても、換価による買受人に対抗できないから、賃借権は消滅する旨定めている。
ト 徴収法基本通達第95条関係17《重要と認められる事項》の(5)は、徴収法第95条第1項第9号の「公売に関し重要と認められる事項」として、買受人に対抗することができる公売財産上の負担がある場合は、その負担である旨定めている。
(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 納税者G社(以下「本件滞納会社」という。)とHは、a市d町○−○の土地の一部(○○uのうち○○u)について、賃貸人を本件滞納会社、賃借人をHとし、建物所有を目的とする賃貸借契約(以下、当該賃貸借契約に基づく借地権を「本件借地権」という。)を交わしていたところ、平成○年○月○日付で、新たな賃貸借期間を平成○年○月○日から平成○年○月○日までとして契約を更新した。
Hは、本件借地権の対象となっている土地に別表1記載の各建物(以下「本件各建物」という。)を所有し、本件各建物は、いずれも昭和46年までに所有権保存の登記が経由された。
Hは、本件借地権の対象となっている土地に別表1記載の各建物(以下「本件各建物」という。)を所有し、本件各建物は、いずれも昭和46年までに所有権保存の登記が経由された。
ロ Hは、平成25年11月○日に死亡した(以下、当該死亡に係る相続を「本件相続」という。)。本件相続に係る相続人は、Hの子らである請求人及びJの二人であった。
ハ 請求人は、平成26年5月14日、本件各建物について、本件相続を原因として、請求人を単独所有者とする所有権移転登記を経由した。
ニ 上記イの本件借地権の対象となっている土地は、平成27年5月15日にa市d町○−○の土地に合筆され、更に同日に同○、同○及び同○の各土地に分筆された。
ホ 原処分庁は、平成28年5月2日付で、本件滞納会社の滞納国税を徴収するため、別表2記載のa市d町○−○の土地(以下「本件土地」という。)を差し押さえた(以下、当該差押えを「本件差押処分」という。)。
なお、原処分庁は、本件差押処分につき、徴収法第55条の規定による通知(以下「差押通知」という。)を、請求人に対してしていない。
なお、原処分庁は、本件差押処分につき、徴収法第55条の規定による通知(以下「差押通知」という。)を、請求人に対してしていない。
ヘ 請求人及びJと本件滞納会社は、平成28年10月4日、請求人及びJが本件各建物を本件借地権とともに本件滞納会社に売却する旨の借地権付建物売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
本件売買契約に係る契約書の第5条《引渡し、登記及び代金支払》は、売主は、本件各建物及びその敷地の引渡し並びに本件各建物に係る所有権移転登記の申請手続を平成28年10月31日までに行い、買主は、登記申請完了と同時に売買代金を支払う旨、第7条《所有権の移転》は、本件各建物の所有権及びその敷地の賃借権は、売買代金の支払が完了した時に、買主に移転するものとする旨、第14条《特約事項》は、本件各建物の解体完了後の取引とする旨を、それぞれ定めている。
本件売買契約に係る契約書の第5条《引渡し、登記及び代金支払》は、売主は、本件各建物及びその敷地の引渡し並びに本件各建物に係る所有権移転登記の申請手続を平成28年10月31日までに行い、買主は、登記申請完了と同時に売買代金を支払う旨、第7条《所有権の移転》は、本件各建物の所有権及びその敷地の賃借権は、売買代金の支払が完了した時に、買主に移転するものとする旨、第14条《特約事項》は、本件各建物の解体完了後の取引とする旨を、それぞれ定めている。
ト 本件各建物は、平成28年12月12日付で、原因を「平成28年10月21日取壊し」とする閉鎖登記がなされた。
チ 請求人及びJは、本件売買契約の約定に従い、平成28年10月31日までに本件各建物を解体したにもかかわらず、本件滞納会社が売買代金を弁済しないとして、令和2年1月22日付で、本件滞納会社に対し、本件売買契約の取消し又は解除をする旨の通知書面を送付し、同書面は同月24日に本件滞納会社に到達した。
リ 原処分庁は、令和○年○月○日付で、本件滞納会社の滞納国税を徴収するため、本件土地について、徴収法第95条第1項の規定に基づき、公売の開始及び締切りの日時を○月○日から○年○月○日まで、売却決定の日時を○月○日○時○分、買受代金の納付の期限を○日○時○分などとする公売公告兼見積価額公告を行ったが、入札者がなく、公売は成立しなかった。
ヌ 原処分庁は、令和○年○月○日付で、本件滞納会社の滞納国税を徴収するため、本件土地について、徴収法第95条第1項の規定に基づき、公売の開始及び締切りの日時を○年○月○日○時○分から○月○日○時○分まで、売却決定の日時を○年○月○日○時○分、買受代金の納付の期限を○日○時○分などとする公売公告兼見積価額公告(以下、当該公売公告兼見積価額公告のうち、公売公告を「本件公売公告処分」という。)を行った。
当該公売公告兼見積価額公告に記載された見積価額、財産の表示及び特記事項の要旨は、以下のとおりである。
当該公売公告兼見積価額公告に記載された見積価額、財産の表示及び特記事項の要旨は、以下のとおりである。
(イ) 見積価額 ○○○○円
(ロ) 財産の表示
A 所在 a市d町○丁目
B 地番 ○○○○
C 地目 ○○
D 地積 ○○u
(ハ) 特記事項
A 動産あり。
B ○○○○○○○○○○。賃貸借契約の内容は、公売公告の別紙3のとおり。
なお、上記別紙3として、上記イの本件借地権に係る賃貸借契約書の写しが添付されている。
なお、上記別紙3として、上記イの本件借地権に係る賃貸借契約書の写しが添付されている。
ル 請求人は、令和5年10月10日、本件公売公告処分に不服があるとして審査請求をした。
2 争点
(1) 請求人は、本件公売公告処分について、不服申立てをすることができる者に該当するか否か(争点1)。
(2) 本件公売公告処分は、違法又は不当であるか否か(争点2)。
3 争点についての主張
(1) 争点1(請求人は、本件公売公告処分について、不服申立てをすることができる者に該当するか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
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(2) 争点2(本件公売公告処分は、違法又は不当であるか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
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本件公売公告処分は、次のイ及びロの理由から、適法であり、不当でもない。 | 本件公売公告処分は、次のイ及びロの理由から、違法又は不当である。 |
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4 当審判所の判断
(1) 争点1(請求人は、本件公売公告処分について、不服申立てをすることができる者に該当するか否か。)について
イ はじめに
請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロのとおり、本件公売公告処分によって、本件借地権が消滅することから不服申立適格があると主張するため、本件公売公告処分に係る請求人の不服申立適格の有無の判断に当たっては、以下、本件公売公告処分により本件借地権が消滅するか否かの点から検討し、さらに、請求人が差押通知を受けるべき者に該当するか否かの点について検討する。
請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロのとおり、本件公売公告処分によって、本件借地権が消滅することから不服申立適格があると主張するため、本件公売公告処分に係る請求人の不服申立適格の有無の判断に当たっては、以下、本件公売公告処分により本件借地権が消滅するか否かの点から検討し、さらに、請求人が差押通知を受けるべき者に該当するか否かの点について検討する。
ロ 認定事実
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 請求人及びJは、平成26年5月13日付で、本件相続に係る相続財産中、本件各建物については、請求人を単独所有者とする旨の遺産分割協議書を作成し、これを上記1の(3)のハに係る本件相続を原因とする請求人への所有権移転登記の申請において、添付書類として提出した。
(ロ) 請求人及びJは、平成26年1月15日付で、本件相続に係る相続財産は個別の財産ごとに均等に分配するものの、本件各建物については、老朽化のため取り壊す予定であることから、便宜上、請求人の名義とする旨の「念書」を作成した。
(ハ) 上記1の(3)のチの本件売買契約の取消し又は解除をする旨の通知書面は、請求人及びJの連名で送付されており、同書面には、本件土地について請求人及びJが「借地権を有していた」旨記載されている。
(ニ) 本件土地に、借地権の登記はされていない。
(ホ) 原処分庁は、遅くとも上記1の(3)のリの公売公告処分がされた令和○年○月○日までに、同イの本件借地権に係る契約書の写し、同ヘの本件売買契約に係る契約書の写し並びに同ハ及びトの事実が記載された閉鎖事項証明書を収集していた。
ハ 法令解釈
(イ) 不服申立てをすることができる者について
通則法第75条第1項は、上記1の(2)のイのとおり、国税に関する法律に基づく処分について不服がある者は、不服申立てができる旨規定しているところ、不服申立てをすることができる者とは、処分について不服申立てをする法律上の利益がある者、すなわち、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきである。
通則法第75条第1項は、上記1の(2)のイのとおり、国税に関する法律に基づく処分について不服がある者は、不服申立てができる旨規定しているところ、不服申立てをすることができる者とは、処分について不服申立てをする法律上の利益がある者、すなわち、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきである。
(ロ) 公売財産上に設定された借地権と公売の買受人による借地権の引受けについて
滞納処分による土地の差押えがなされた場合、同土地の借地人は、差押処分時に登記を備え又は土地に借地権者が登記されている建物を所有するときは、その借地権を国に対抗することができるところ(民法第605条《不動産賃貸借の対抗力》、借地借家法第10条、建物保護に関する法律(平成3年法律第90号により廃止)第1条)、不動産公売における買受人による所有権の取得は、国の有する換価権の実現にすぎず、新たな物権変動ではないため、公売時点での対抗問題は生じない。そのため、公売によって不動産の所有権を取得する場合に買受人が借地権を引き受けるかどうかは、借地権が国に対抗できるかどうかで定まると解される(民事執行法第59条《売却に伴う権利の消滅等》第2項の類推適用。徴収法基本通達第89条関係9及び10参照。)。
また、対抗要件の意義とは、目的物に借地権が存することを認識させることにあるのであるから、仮に、差押え後に建物が滅失する等して対抗要件が消滅しても、差押えの登記が経由された時点において国が対抗要件の存在によりその借地権を認識し、これを基に差押物件の換価価値を把握した以上、対抗要件が消滅しても既にされた換価価値の把握の内容に変化は生じないため、借地権者は、借地権が存続する限り、国との関係においては、その対抗力を維持すると解するのが相当である。
滞納処分による土地の差押えがなされた場合、同土地の借地人は、差押処分時に登記を備え又は土地に借地権者が登記されている建物を所有するときは、その借地権を国に対抗することができるところ(民法第605条《不動産賃貸借の対抗力》、借地借家法第10条、建物保護に関する法律(平成3年法律第90号により廃止)第1条)、不動産公売における買受人による所有権の取得は、国の有する換価権の実現にすぎず、新たな物権変動ではないため、公売時点での対抗問題は生じない。そのため、公売によって不動産の所有権を取得する場合に買受人が借地権を引き受けるかどうかは、借地権が国に対抗できるかどうかで定まると解される(民事執行法第59条《売却に伴う権利の消滅等》第2項の類推適用。徴収法基本通達第89条関係9及び10参照。)。
また、対抗要件の意義とは、目的物に借地権が存することを認識させることにあるのであるから、仮に、差押え後に建物が滅失する等して対抗要件が消滅しても、差押えの登記が経由された時点において国が対抗要件の存在によりその借地権を認識し、これを基に差押物件の換価価値を把握した以上、対抗要件が消滅しても既にされた換価価値の把握の内容に変化は生じないため、借地権者は、借地権が存続する限り、国との関係においては、その対抗力を維持すると解するのが相当である。
(ハ) 差押通知と不服申立適格について
徴収法第50条第1項は、上記1の(2)のロのとおり、賃借権等の第三者の権利の目的となっている財産が差し押さえられた場合において、一定の要件の下に、その第三者に法的な権利として差押換請求権を認めているところ、その趣旨は、滞納処分においては滞納者の財産を全て調査してから差押えをすることが義務付けられているわけではないため、差押えに当たって第三者の権利のある財産が差し押さえられることがあり、そのような場合において、差押換請求及び同条第3項に規定する換価申立てによって、結果的に第三者の権利の目的となっている財産の差押えは最後に行われることを制度的に保障し、差押手続における第三者の権利の保護を図ろうとするものであると解される。
また、徴収法第55条は、上記1の(2)のハのとおり、賃借権等の第三者の権利の目的となっている財産を差し押さえたときは、国税局長は、これらの権利を有する者のうち知れている者に対し、その旨その他必要な事項を通知しなければならない旨規定しており、その趣旨は、差押えに係る国税に優先する権利者及び差押換えを請求できる第三者に対し、滞納処分が開始されたことを了知させ、権利行使の機会を与えることにあると解される。
以上のとおりの徴収法第50条及び第55条の趣旨等に鑑みると、差押換えを請求できる機会を与えられなかった者が差押通知を受けるべき者に当たる場合には、公売公告処分の取消しを求める不服申立適格が認められると解するのが相当である。
徴収法第50条第1項は、上記1の(2)のロのとおり、賃借権等の第三者の権利の目的となっている財産が差し押さえられた場合において、一定の要件の下に、その第三者に法的な権利として差押換請求権を認めているところ、その趣旨は、滞納処分においては滞納者の財産を全て調査してから差押えをすることが義務付けられているわけではないため、差押えに当たって第三者の権利のある財産が差し押さえられることがあり、そのような場合において、差押換請求及び同条第3項に規定する換価申立てによって、結果的に第三者の権利の目的となっている財産の差押えは最後に行われることを制度的に保障し、差押手続における第三者の権利の保護を図ろうとするものであると解される。
また、徴収法第55条は、上記1の(2)のハのとおり、賃借権等の第三者の権利の目的となっている財産を差し押さえたときは、国税局長は、これらの権利を有する者のうち知れている者に対し、その旨その他必要な事項を通知しなければならない旨規定しており、その趣旨は、差押えに係る国税に優先する権利者及び差押換えを請求できる第三者に対し、滞納処分が開始されたことを了知させ、権利行使の機会を与えることにあると解される。
以上のとおりの徴収法第50条及び第55条の趣旨等に鑑みると、差押換えを請求できる機会を与えられなかった者が差押通知を受けるべき者に当たる場合には、公売公告処分の取消しを求める不服申立適格が認められると解するのが相当である。
ニ 検討
(イ) 本件公売公告処分により本件借地権が消滅するか否か等について
上記ロの(イ)及び1の(3)のハのとおり、請求人及びJは、本件各建物を請求人の単独所有とする旨の遺産分割協議書を作成し、これに基づき本件各建物は請求人の単独名義で相続登記がなされているが、一方で、請求人とJは、上記ロの(ロ)のとおり、相続財産は均等に分配するが、本件各建物は老朽化のため取り壊す予定であることから、便宜上、請求人の名義とする旨の念書を作成しており、また、上記1の(3)のヘのとおり、双方が売主として本件売買契約を締結し、上記ロの(ハ)のとおり、本件売買契約の取消し等の通知も連名で行い、当該通知書面に請求人及びJが「借地権を有していた」旨記載していることに照らすと、本件借地権については、請求人とJで2分の1ずつ相続する旨の合意が成立していたと認められる。
そのため、本件差押処分時において、請求人は、本件土地の借地人であるといえ、その後に本件借地権を本件滞納会社に対して売却したものの、令和2年1月には本件売買契約の取消し又は解除をしているから、本件公売公告処分時においても、本件借地権を有していたと認められる。
また、上記ハの(ロ)のとおり、公売の買受人が借地権を引き受けるかどうかは、借地人がその借地権を国に対抗できるかどうかで判断されるところ、請求人は、本件差押処分時において、上記1の(3)のハのとおり、本件各建物につき、本件相続を原因とする所有権移転登記を経由していた。
したがって、請求人は、その借地権を国に対抗できるから、買受人は借地権を引き受けることとなり、公売によって本件借地権は消滅しない。
上記ロの(イ)及び1の(3)のハのとおり、請求人及びJは、本件各建物を請求人の単独所有とする旨の遺産分割協議書を作成し、これに基づき本件各建物は請求人の単独名義で相続登記がなされているが、一方で、請求人とJは、上記ロの(ロ)のとおり、相続財産は均等に分配するが、本件各建物は老朽化のため取り壊す予定であることから、便宜上、請求人の名義とする旨の念書を作成しており、また、上記1の(3)のヘのとおり、双方が売主として本件売買契約を締結し、上記ロの(ハ)のとおり、本件売買契約の取消し等の通知も連名で行い、当該通知書面に請求人及びJが「借地権を有していた」旨記載していることに照らすと、本件借地権については、請求人とJで2分の1ずつ相続する旨の合意が成立していたと認められる。
そのため、本件差押処分時において、請求人は、本件土地の借地人であるといえ、その後に本件借地権を本件滞納会社に対して売却したものの、令和2年1月には本件売買契約の取消し又は解除をしているから、本件公売公告処分時においても、本件借地権を有していたと認められる。
また、上記ハの(ロ)のとおり、公売の買受人が借地権を引き受けるかどうかは、借地人がその借地権を国に対抗できるかどうかで判断されるところ、請求人は、本件差押処分時において、上記1の(3)のハのとおり、本件各建物につき、本件相続を原因とする所有権移転登記を経由していた。
したがって、請求人は、その借地権を国に対抗できるから、買受人は借地権を引き受けることとなり、公売によって本件借地権は消滅しない。
(ロ) 差押通知について
上記(イ)のとおり、請求人は、その借地権を国に対抗できるから、徴収法第50条の差押換請求をすることができる第三者に当たり、かつ、徴収法第55条第1号の賃借権を有する者に当たる。また、上記1の(3)のイ、ハ及びトのとおり、本件差押処分時において、本件各建物の登記上の所在が本件土地の登記上の地番と異なっていることや、平成28年10月に本件各建物が取り壊され、同年12月に閉鎖登記がなされたことを考慮しても、上記ロの(ホ)のとおり、原処分庁は、遅くとも令和○年○月○日までに、本件借地権に係る契約書の写し、本件売買契約に係る契約書の写し及び本件各建物に係る閉鎖事項証明書を収集していたことからすれば、原処分庁は、本件公売公告処分に先立つ遅くとも同日の時点において、本件借地権の存在及び本件借地権が国に対する対抗要件を具備していたことを把握できる状態にあったといえるから、請求人は、徴収法第55条に規定する賃借権を有する者のうち知れている者に該当するといえる。
上記(イ)のとおり、請求人は、その借地権を国に対抗できるから、徴収法第50条の差押換請求をすることができる第三者に当たり、かつ、徴収法第55条第1号の賃借権を有する者に当たる。また、上記1の(3)のイ、ハ及びトのとおり、本件差押処分時において、本件各建物の登記上の所在が本件土地の登記上の地番と異なっていることや、平成28年10月に本件各建物が取り壊され、同年12月に閉鎖登記がなされたことを考慮しても、上記ロの(ホ)のとおり、原処分庁は、遅くとも令和○年○月○日までに、本件借地権に係る契約書の写し、本件売買契約に係る契約書の写し及び本件各建物に係る閉鎖事項証明書を収集していたことからすれば、原処分庁は、本件公売公告処分に先立つ遅くとも同日の時点において、本件借地権の存在及び本件借地権が国に対する対抗要件を具備していたことを把握できる状態にあったといえるから、請求人は、徴収法第55条に規定する賃借権を有する者のうち知れている者に該当するといえる。
(ハ) まとめ
以上のとおり、差押換えを請求できる機会を与えられなかった請求人は差押通知を受けるべき借地権者であり、かつ、差押換請求権を有する者であることから、本件公売公告処分について、不服申立てをすることができる者に該当する。
以上のとおり、差押換えを請求できる機会を与えられなかった請求人は差押通知を受けるべき借地権者であり、かつ、差押換請求権を有する者であることから、本件公売公告処分について、不服申立てをすることができる者に該当する。
ホ 原処分庁の主張について
原処分庁は、上記3の(1)の「原処分庁」欄のロのとおり、請求人は、その借地権を公売による買受人に対抗できず、対抗要件を具備していない請求人は、そもそも権利を保護するに値しないから、請求人は不服申立てをすることができる者には当たらない旨、また、同(2)の「原処分庁」欄のイのとおり、差押通知を受けるべき者に当たらない旨主張する。
しかしながら、請求人の本件借地権が対抗要件を具備していることは上記ニの(イ)のとおりであり、また、請求人が差押通知を受けるべき者に当たることは上記ニの(ロ)のとおりであることから、原処分庁の主張には理由がない。
原処分庁は、上記3の(1)の「原処分庁」欄のロのとおり、請求人は、その借地権を公売による買受人に対抗できず、対抗要件を具備していない請求人は、そもそも権利を保護するに値しないから、請求人は不服申立てをすることができる者には当たらない旨、また、同(2)の「原処分庁」欄のイのとおり、差押通知を受けるべき者に当たらない旨主張する。
しかしながら、請求人の本件借地権が対抗要件を具備していることは上記ニの(イ)のとおりであり、また、請求人が差押通知を受けるべき者に当たることは上記ニの(ロ)のとおりであることから、原処分庁の主張には理由がない。
(2) 争点2(本件公売公告処分は、違法又は不当であるか否か。)について
イ 法令解釈
(イ) 差押通知は、差押処分の効力要件ではなく、差押えの後に事後的に行われるものであるが(徴収法第55条、第68条《不動産の差押の手続及び効力発生時期》第1項ないし第4項)、上記(1)のハの(ハ)のとおり、その目的は、利害関係人に滞納処分が開始されたことを了知させ、権利行使の機会を与えることにあるのであって、利害関係人の権利を保護するための重要な意義を有しているといえる。このような差押通知の趣旨及び意義に鑑みると、法令上求められる事前手続である差押通知を欠いたまま、後続処分である公売公告処分がされた場合には、当該公売公告処分には、取り消し得べき瑕疵があると解される。
(ロ) 徴収法第95条第1項は、上記1の(2)のニのとおり、公売財産の名称、数量、性質及び所在やその他公売に関し重要と認められる事項等、第1号ないし第9号に規定された事項を公売に先立って公告しなければならない旨規定しているところ、その趣旨は、公売に先立って、公売財産を特定し、かつ、現況を把握できるようにするとともに、売却決定日時や公売保証金の要否、買受代金の納付の期限及び公売財産の権利関係などの買受人の負担等を広く周知することによって、公売財産の需要を喚起し、高価での買受申込みを誘引するとともに、買受希望者に対して入札するか否かの判断資料を提供することにあると解される。
そして、公売対象の土地上に買受人が引き受けるべき借地権が存在する場合には、買受人は、公売によって取得する土地について利用等の制限を受けることになるから、上記趣旨に鑑みると、公売公告においては、「公売に関し重要と認められる事項」(第9号)として、借地人が対抗要件を備えている場合にはその旨等を記載することを要すると解するのが相当である(徴収法基本通達第95条関係17参照)。
そして、公売対象の土地上に買受人が引き受けるべき借地権が存在する場合には、買受人は、公売によって取得する土地について利用等の制限を受けることになるから、上記趣旨に鑑みると、公売公告においては、「公売に関し重要と認められる事項」(第9号)として、借地人が対抗要件を備えている場合にはその旨等を記載することを要すると解するのが相当である(徴収法基本通達第95条関係17参照)。
ロ 検討
(イ) 差押通知の欠缺について
上記(1)のニの(ロ)のとおり、請求人は、遅くとも令和○年○月○日の時点において、徴収法第55条に規定する賃借権を有する者のうち知れている者に該当するといえるところ、上記1の(3)のホのとおり、原処分庁は、請求人に対し、本件公売公告処分に先立ち差押通知をしなかった。そのため、本件公売公告処分には、取り消し得べき瑕疵があると認められる。
上記(1)のニの(ロ)のとおり、請求人は、遅くとも令和○年○月○日の時点において、徴収法第55条に規定する賃借権を有する者のうち知れている者に該当するといえるところ、上記1の(3)のホのとおり、原処分庁は、請求人に対し、本件公売公告処分に先立ち差押通知をしなかった。そのため、本件公売公告処分には、取り消し得べき瑕疵があると認められる。
(ロ) 公売公告の記載誤り等について
上記(1)のニの(イ)のとおり、請求人は、本件公売公告処分時においても、本件借地権を現に有していた。また、請求人は、本件差押処分時において、上記1の(3)のハのとおり、本件各建物について所有権移転登記を経由していたことから、請求人の本件借地権には対抗力が認められ、上記(1)のハの(ロ)のとおり、差押え後に建物が滅失する等して対抗要件が消滅しても、差押えの登記が経由された時点において国が対抗要件の存在によりその借地権を認識し、これを基に差押物件の換価価値を把握した以上、対抗要件が消滅しても既にされた換価価値の把握の内容に変化は生じないため、借地権者は、国との関係においては、その対抗力を維持すると解するのが相当であるから、請求人の本件借地権の対抗力は維持される。そして、上記1の(3)のヌの(ハ)のBのとおり、本件公売公告処分では、特記事項として、○○○○○○○○○○旨を記載するのみで、請求人の本件借地権が国との関係で対抗力を維持していることが記載されていない。そうすると、本件公売公告処分には、買受人が引き受けるべき公売財産上の負担である請求人の借地権という「公売に関し重要と認められる事項」の記載が漏れているという瑕疵が認められ、本件公売公告処分の公告事項は、公売の買受希望者に対して入札するか否かの判断資料を提供するという公売公告の趣旨に沿うものではないというほかない。
したがって、本件公売公告処分は、公売に関し重要と認められる事項の記載が漏れていることにより取り消し得べき瑕疵があると認められる。
上記(1)のニの(イ)のとおり、請求人は、本件公売公告処分時においても、本件借地権を現に有していた。また、請求人は、本件差押処分時において、上記1の(3)のハのとおり、本件各建物について所有権移転登記を経由していたことから、請求人の本件借地権には対抗力が認められ、上記(1)のハの(ロ)のとおり、差押え後に建物が滅失する等して対抗要件が消滅しても、差押えの登記が経由された時点において国が対抗要件の存在によりその借地権を認識し、これを基に差押物件の換価価値を把握した以上、対抗要件が消滅しても既にされた換価価値の把握の内容に変化は生じないため、借地権者は、国との関係においては、その対抗力を維持すると解するのが相当であるから、請求人の本件借地権の対抗力は維持される。そして、上記1の(3)のヌの(ハ)のBのとおり、本件公売公告処分では、特記事項として、○○○○○○○○○○旨を記載するのみで、請求人の本件借地権が国との関係で対抗力を維持していることが記載されていない。そうすると、本件公売公告処分には、買受人が引き受けるべき公売財産上の負担である請求人の借地権という「公売に関し重要と認められる事項」の記載が漏れているという瑕疵が認められ、本件公売公告処分の公告事項は、公売の買受希望者に対して入札するか否かの判断資料を提供するという公売公告の趣旨に沿うものではないというほかない。
したがって、本件公売公告処分は、公売に関し重要と認められる事項の記載が漏れていることにより取り消し得べき瑕疵があると認められる。
ハ 原処分庁の主張について
(イ) 差押通知について
原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のイのとおり、請求人は、本件差押処分を行うのに際して氏名等を知ることができた者に当たらず、また、請求人には、差押換えの権利行使の機会を与える必要がないことから、請求人に差押通知をしなかったことに瑕疵はない旨主張する。
しかしながら、請求人が徴収法第55条に規定する賃借権を有する者のうち知れている者に該当することは上記(1)のニの(ロ)のとおりであり、原処分庁が請求人に対し差押通知をしなかったことは上記1の(3)のホのとおりであることから、原処分庁の主張には理由がない。
原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のイのとおり、請求人は、本件差押処分を行うのに際して氏名等を知ることができた者に当たらず、また、請求人には、差押換えの権利行使の機会を与える必要がないことから、請求人に差押通知をしなかったことに瑕疵はない旨主張する。
しかしながら、請求人が徴収法第55条に規定する賃借権を有する者のうち知れている者に該当することは上記(1)のニの(ロ)のとおりであり、原処分庁が請求人に対し差押通知をしなかったことは上記1の(3)のホのとおりであることから、原処分庁の主張には理由がない。
(ロ) 公売公告の記載誤り等について
原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のロのとおり、本件公売公告処分には、徴収法第95条第1項各号の所定の事項が不備なく公告され、○○○○に関しても特記事項に記載している旨主張する。
しかしながら、本件公売公告処分には、公売に関し重要と認められる事項の記載が漏れているという瑕疵が認められることは上記ロの(ロ)のとおりであることから、原処分庁の主張には理由がない。
原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のロのとおり、本件公売公告処分には、徴収法第95条第1項各号の所定の事項が不備なく公告され、○○○○に関しても特記事項に記載している旨主張する。
しかしながら、本件公売公告処分には、公売に関し重要と認められる事項の記載が漏れているという瑕疵が認められることは上記ロの(ロ)のとおりであることから、原処分庁の主張には理由がない。
(3) 本件公売公告処分の適法性について
本件公売公告処分は、上記(2)のロのとおり、差押通知をしなかったことにより取り消し得べき瑕疵があり、また、本件公売公告処分による公告事項においても取り消し得べき瑕疵があるから、その全部を取り消すべきである。
(4) 結論
よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。
別表1 本件各建物の表示(省略)
別表2 本件土地の表示(省略)