(令和6年10月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得税等の期限後申告書を提出したことから、原処分庁が無申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、期限内申告書を提出できなかったのは国税電子申告・納税システムに誤操作を生じさせる問題があったためであり、正当な理由があるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

イ 国税通則法(令和4年法律第4号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項本文及び同項第1号は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、当該期限後申告書の提出により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、同項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない旨規定している。
ロ 通則法第66条第7項は、同条第1項の規定は、期限後申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について通則法第25条《決定》の規定による決定があるべきことを予知してされたものでない場合において、期限内申告書を提出する意思があったと認められる場合として政令で定める場合に該当してされたものであり、かつ、法定申告期限から1月を経過する日までに行われたものであるときは、適用しない旨規定している。
ハ 情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律第6条《電子情報処理組織による申請等》第3項は、同条第1項の電子情報処理組織を使用する方法により行われた申請等は、当該申請等を受ける行政機関等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル(以下「受付ファイル」という。)への記録がされた時に当該行政機関等に到達したものとみなす旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ 国税庁ホームページには、国税電子申告・納税システム(以下「e-Taxシステム」という。)を利用して、所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告等を行う者(以下「利用者」という。)が、当該確定申告等に係る申告書等のデータ(以下「申告等データ」という。)を送信した場合、その送信結果が、次のとおり表示される旨掲載されている。
(イ) 申告等データの送信が完了した直後、申告等データが正常に受信されたか否かの判定、申告等データに係る受付番号及び受付日時などが利用者のパソコン等の画面上に表示される(以下、この表示による通知を「即時通知」という。)。
(ロ) 上記(イ)の即時通知の後、申告等データについての審査結果(必須項目にデータが入力されているか、添付された電子証明書が有効期間内で、かつ、登録された電子証明書と一致するかなどの審査結果)が表示される「受信通知」と題する通知(以下、単に「受信通知」という。)が利用者のメッセージボックス(利用者ごとに用意されるもので、利用者はe-Taxシステムにログインすることでメッセージボックスの内容を確認することができる。)に格納される。
ロ また、国税庁ホームページには、上記イの(イ)の即時通知又は同(ロ)の受信通知にエラー情報が表示されている場合、利用者は、当該エラーの内容を確認し、訂正等を行った上で再送信等する必要がある旨掲載されている。
ハ 利用者は、e-Taxシステムにより申告等データ及び財産債務調書のデータの両方又はどちらか一方を送信する場合、「送信内容選択」画面において、送信する帳票に応じ、次の項目のラジオボタンから該当するものを選択した上で、データを送信する。
(イ) 申告書等、財産債務調書を送信する。既に申告書等を送信済みの場合、「財産債務調書を送信する」を選択してください。
(ロ) 申告書等を送信する。
(ハ) 財産債務調書を送信する。

(4) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、令和5年3月1日、国税庁ホームページの確定申告書等作成コーナーを利用して、令和4年分の所得税等の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)のデータ(以下「本件申告データ」という。)並びに令和4年12月31日分財産債務調書及び令和4年12月31日分財産債務調書合計表の各データ(以下「本件財産債務調書等データ」という。)を作成した。
ロ 請求人は、令和5年3月1日、e-Taxシステムを利用して本件財産債務調書等データを送信することにより、令和4年12月31日分財産債務調書及び令和4年12月31日分財産債務調書合計表を提出した。
ハ 請求人は、令和5年3月2日、消費税及び地方消費税の納付書を利用して、本件申告データにより算出した令和4年分の所得税等の納付すべき税額に相当する金額(○○○○円)を納付した。
ニ 請求人は、令和5年6月29日、e-Taxシステムを利用して本件申告データを送信することにより、総所得金額を○○○○円(内訳、事業所得の金額○○○○円、給与所得の金額○○○○円、一時所得の金額○○○○円(所得税法第22条第2項第2号の規定による2分の1に相当する金額))、一般株式等の譲渡所得等の金額を○○○○円及び所得税等の納付すべき税額を○○○○円とする本件確定申告書を提出した。
 なお、本件確定申告書の提出は、請求人の令和4年分の所得税等について調査があったことにより当該所得税等について決定があるべきことを予知してされたものではなく、かつ、当該所得税等についての調査通知がある前に行われたものである。
ホ 原処分庁は、令和5年10月27日付で、請求人に対し、通則法第66条第1項及び第6項の規定に基づき、無申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ヘ 請求人は、令和5年11月2日、本件賦課決定処分に不服があるとして再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、令和6年1月26日付で棄却の再調査決定をした。
ト 請求人は、再調査決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、令和6年2月21日に審査請求をした。

2 争点

(1) 期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か(争点1)。

(2) 請求人の本件確定申告書の提出について、通則法第66条第7項の規定が適用されるか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。)について

請求人 原処分庁
次のことから、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する。

イ 請求人は、本件申告データ及び本件財産債務調書等データを送信するつもりであったが、結果として、本件財産債務調書等データしか送信されなかった。それは、e-Taxシステムの「送信内容選択」画面において、「申告書等、財産債務調書を送信する」ではなく「財産債務調書を送信する」を選択したものとして送信処理がされたことに起因するのではないかと思われ、このような請求人の意思に反する誤操作が生じてしまうe-Taxシステムには、システム上の問題があるといわざるを得ない。

ロ 上記イのような誤操作があったにもかかわらず、本件財産債務調書等データの送信後に完了画面が表示されたために、請求人が、本件申告データをも正常に送信できたと認識したことはやむを得ない。

ハ 原処分庁は、確定申告書の提出がないままに納付された税額があるにもかかわらず、法定申告期限までに請求人に対して何ら確認等をしなかったのであるから、請求人の期限内申告書の提出がなかったことについて、正当な理由があると認められるべきである。

次のことから、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。
 すなわち、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、期限内申告書が提出されなかったことについて、例えば、災害、交通や通信の途絶等、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、納税者に無申告加算税を課することが不当又は酷になる場合をいうものと解されるところ、請求人が期限内申告書を提出しなかったのは、当時、本件申告データをe-Taxシステムにより正常に送信していなかったにもかかわらず、それが正常に送信されているものと誤認したことが原因であり、請求人自身の主観的な事情によるものにほかならない。

(2) 争点2(請求人の本件確定申告書の提出について、通則法第66条第7項の規定が適用されるか否か。)について

請求人 原処分庁
次のことから、請求人に「期限内申告書を提出する意思があった」ことは明らかであるから、本件確定申告書が、法定申告期限から1月を経過した後に提出されたものであったとしても、本件確定申告書の提出について、通則法第66条第7項の規定が適用されるべきである。

イ 請求人は、法定申告期限の2週間前である令和5年3月1日に本件申告データを作成していた。

ロ 請求人は、令和5年3月2日、上記イで算出した令和4年分の所得税等の税額を納付していた。

ハ 請求人は、令和5年6月29日、原処分庁から指摘を受ける前に、自ら確定申告書が提出されていないことを確認して、自主的に本件確定申告書を提出した。

本件確定申告書は、令和5年6月29日に提出されているから、通則法第66条第7項が規定する「法定申告期限から1月を経過する日までに行われたもの」に該当せず、同項の要件を満たさない。
 したがって、本件確定申告書の提出について、通則法第66条第7項の規定は適用されない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。)について

イ 法令解釈
 通則法第66条に規定する無申告加算税は、納税者に期限後申告書を提出したという事実があれば、原則として、その納税者に課されるものであり、これによって当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的な不公平の実質的な是正を図るとともに、無申告による納税義務の違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 このような無申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、期限内申告書が提出されなかったことについて、例えば、災害、交通や通信の途絶等、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) e-Taxシステムに係る受付ファイルには、令和5年3月1日から法定申告期限である同月15日までの期間(以下「本件期間」という。)に、本件申告データを受け付けた記録は存在しない。
(ロ) 請求人のメッセージボックスには、本件財産債務調書等データに係る令和5年3月1日の受信通知及び本件申告データに係る同年6月29日の受信通知は格納されているが、本件期間において、本件申告データの受信通知は格納されていない。
(ハ) 本件期間において、利用者から送信された申告データが正常に受信されなかったといったe-Taxシステム上の障害は生じていない。
ハ 検討
(イ) 納税者が、e-Taxシステムを利用して送信した申告等データは、上記1の(2)のハの規定により、受付ファイルへの記録がされた時に提出があったものとみなされる。
 これを本件についてみると、上記ロの(イ)のとおり、e-Taxシステムに係る受付ファイルには、本件期間に本件申告データを受け付けた記録は存在せず、また、同(ロ)のとおり、請求人のメッセージボックスには、請求人が令和5年3月1日に送信した本件財産債務調書等データ及び同年6月29日に送信した本件申告データに係る受信通知は格納されていたものの、本件期間における本件申告データに係る受信通知は格納されていなかったことからすれば、請求人は、本件期間において、e-Taxシステムにより本件申告データを送信していなかったものと認められる。そうすると、請求人が、令和4年分の所得税等に係る確定申告の法定申告期限までに、本件確定申告書を提出したとは認められない。
 また、請求人は、上記1の(4)のニのとおり、法定申告期限後である令和5年6月29日に、e-Taxシステムを利用して本件申告データを送信し、本件確定申告書を提出したことから、本件確定申告書は期限後申告書に該当し、単に期限後申告書を提出したという客観的な事実のみにより、原則として、請求人に無申告加算税が課されることとなる。
(ロ) これに対し、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイ及びロのとおり、請求人の意思に反する誤操作が生じてしまうe-Taxシステムには、システム上の問題があるといわざるを得ないし、また、本件財産債務調書等データの送信後に完了画面が表示されたために、請求人が本件申告データをも正常に送信できたと認識したことはやむを得ないから、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記1の(3)のハのとおり、e-Taxシステムにおいては、利用者が財産債務調書のみを提出する場合も想定し、「財産債務調書を送信する」という項目が用意されていることからすれば、請求人が操作を誤って「財産債務調書を送信する」を選択して送信したからといって、そのことをもってe-Taxシステムに、システム上の問題があるとはいえないし、また、同イ及び上記ロの(ロ)のとおり、e-Taxシステムにおいては、申告等データが正常に受信された場合にはその受信後に受信通知が利用者のメッセージボックスに格納されるところ、本件期間において、請求人のメッセージボックスには本件申告データの受信通知が格納されなかったことからすれば、このことにより、請求人は本件申告データを正常に送信できていなかったことを容易に確認できたのであるから、請求人が本件申告データを正常に送信できたと認識したことは、送信したデータに本件申告データが含まれていないことを確認しなかったために生じた事情にすぎない。
 そして、上記ロの(ハ)のとおり、本件期間において、e-Taxシステムには、申告等データが正常に受信されないといったシステム上の障害は確認されていないことを踏まえると、結局のところ、請求人が期限内申告書を提出しなかったのは、請求人が、e-Taxシステムの操作を誤って本件財産債務調書等データの送信しか行っていなかったにもかかわらず、本件財産債務調書等データの即時通知を見て、本件申告データも送信されたと誤って認識したという請求人自身の主観的な事情によるものにほかならないというべきである。
(ハ) また、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のハのとおり、原処分庁は、確定申告書の提出がないままに納付された税額について、法定申告期限までに請求人に対して何ら確認等をしなかったのであるから、期限内申告書の提出がなかったことについて、正当な理由があると認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、所得税法は申告納税制度を採用しており、この制度の下では、納税者は、自己の判断と責任において、課税標準等及び税額等を法令の規定に従い計算し、法定申告期限内に適正な申告をすることが求められるのであるし、また、法定申告期限内に納税がされ、申告書の提出がない場合に、税務署長が当該納税者に対し申告書の提出の有無を法定申告期限までに確認しなければならないという法令の規定はないのであるから、原処分庁が請求人の主張するような確認等をしなかったとしても、そのことをもって、期限内申告書が提出されなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があることとはならず、上記イのような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を課することが不当又は酷になる場合に当たることとはならない。
(二) 以上のとおり、請求人が主張する事情により、期限内申告書の提出がなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があったとはいえず、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるとはいえないから、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」には該当せず、また、当審判所の調査の結果によっても、ほかに同項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められない。

(2) 争点2(請求人の本件確定申告書の提出について、通則法第66条第7項の規定が適用されるか否か。)について

イ 通則法第66条第7項の規定は、本来、無申告加算税は、上記(1)のイのとおり、納税者に期限後申告書を提出したという事実があれば、原則として、その納税者に課されるものであるが、無申告加算税の趣旨からすれば、期限内申告書を提出する意思があったと認められる場合で、かつ、その法定申告期限後速やかに申告書が提出されたような場合にまで行政上の制裁を課すことになれば、誠実な納税者の適正な申告納税の意欲をそぐ結果ともなりかねないことから、その例外として、同条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する場合とは別に、同条第7項に規定する一定の要件を満たす場合に限り、無申告加算税を課さないとするものである。
ロ これを本件についてみると、本件確定申告書の法定申告期限は令和5年3月15日であるところ、上記1の(4)のニのとおり、請求人は、本件確定申告書を同年6月29日に提出しているから、本件確定申告書の提出は、通則法第66条第7項に規定する「法定申告期限から1月を経過する日までに行われたもの」に該当しない。
 そうすると、本件確定申告書の提出は、通則法第66条第7項所定の要件を満たさないことから、同項の規定の適用は認められない。
ハ この点、請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、法定申告期限までに、本件申告データを作成し、令和4年分の所得税等の納付も済ませていたところ、原処分庁から指摘を受ける前に、自ら本件確定申告書を提出したことから、法定申告期限から1月を経過したものであっても期限内申告書を提出する意思があったと認められる場合に該当するので、通則法第66条第7項の規定が適用される旨主張する。
 しかしながら、本件確定申告書の提出が、通則法第66条第7項に規定する「法定申告期限から1月を経過する日までに行われたもの」に該当しないことは、上記ロのとおりであり、このことをもって同項所定の要件を満たさないこととなるところ、当該判断は、請求人の主張する事情によって左右されるものではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(1)のハの(二)のとおり、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当せず、また、上記(2)のロのとおり、請求人の本件確定申告書の提出について、同条第7項の規定の適用は認められない。
 そして、当審判所においても、請求人の本件確定申告書の提出に係る無申告加算税の額は、本件賦課決定処分における無申告加算税の額と同額であると認められる。
 また、本件賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(4) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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