(令和6年10月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続税の申告をしたところ、原処分庁が、特定贈与者である被相続人よりも先に死亡した当該被相続人の長女(相続時精算課税適用者)の相続人である当該長女の配偶者は相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継するにもかかわらず、当該長女が相続時精算課税の適用を受けた贈与により取得した財産の価額が当該相続税の課税価格の合計額に算入されていないとして、更正処分をしたのに対し、請求人が、当該長女の配偶者は所在不明であり、原処分庁は当該長女の配偶者が当該長女の相続人であることを立証していないから、当該長女が有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を当該長女の配偶者は承継しないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

イ 相続税法第11条《相続税の課税》は、相続税は、同法第2章《課税価格、税率及び控除》第1節《相続税》(同法第11条から同法第20条の2《在外財産に対する相続税額の控除》まで)及び第3節《相続時精算課税》(同法第21条の9《相続時精算課税の選択》から同法第21条の18まで)に定めるところにより、相続又は遺贈により財産を取得した者の被相続人からこれらの事由により財産を取得した全ての者に係る相続税の総額を計算し、当該相続税の総額を基礎としてそれぞれこれらの事由により財産を取得した者に係る相続税額として計算した金額により、課する旨規定している。
ロ 相続税法第13条《債務控除》第1項柱書及び同項第1号は、相続又は遺贈により財産を取得した者が同法第1条の3《相続税の納税義務者》第1項第1号又は同項第2号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で相続開始の際現に存するものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定している。
ハ 相続税法第14条第1項は、同法第13条の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る旨規定している。
ニ 相続税法第21条の9(平成25年法律第5号による改正前のもの。以下同じ。)第1項は、贈与により財産を取得した者がその贈与をした者の推定相続人(その贈与をした者の直系卑属である者のうちその年1月1日において20歳以上であるものに限る。)であり、かつ、その贈与をした者が同日において65歳以上の者である場合には、その贈与により財産を取得した者は、その贈与に係る財産について、同法第2章第3節の規定(以下、同節の規定による贈与税の課税方法を「相続時精算課税」という。)の適用を受けることができる旨規定している。
ホ 相続税法第21条の9第2項は、同条第1項の規定の適用を受けようとする者は、政令で定めるところにより、同法第28条《贈与税の申告書》第1項の期間内に同法第21条の9第1項に規定する贈与をした者(以下「特定贈与者」という。)からのその年中における贈与により取得した財産について同項の規定の適用を受けようとする旨その他財務省令で定める事項を記載した届出書(以下「相続時精算課税選択届出書」という。)を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定している(以下、相続時精算課税選択届出書を提出した者を「相続時精算課税適用者」という。)。
ヘ 相続税法第21条の16(令和5年法律第3号による改正前のもの。以下同じ。)第1項は、特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者については、当該特定贈与者からの贈与により取得した財産で同法第21条の9第3項の規定の適用を受けるものを当該特定贈与者から相続(当該相続時精算課税適用者が当該特定贈与者の相続人以外の者である場合には、遺贈)により取得したものとみなして同法第2章第1節の規定を適用する旨規定している。
ト 相続税法第21条の17《相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継等》第1項本文は、特定贈与者の死亡以前に当該特定贈与者に係る相続時精算課税適用者が死亡した場合には、当該相続時精算課税適用者の相続人は、当該相続時精算課税適用者が有していた同法第2章第3節の規定の適用を受けていたことに伴う納税に係る権利又は義務を承継する旨、同項ただし書は、当該相続人のうちに当該特定贈与者がある場合には、当該特定贈与者は、当該納税に係る権利又は義務については、これを承継しない旨規定している(以下、同項に規定する当該相続時精算課税適用者が有していた相続時精算課税の適用を受けていたことに伴う納税に係る権利又は義務を「相続時精算課税の適用に伴う権利義務」という。)。
チ 民法第25条《不在者の財産の管理》第1項前段は、従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる旨規定している。
リ 民法第30条《失踪の宣告》第1項は、不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる旨規定している。
ヌ 戸籍法第41条第1項は、外国に在る日本人が、その国の方式に従って、届出事件に関する証書を作らせたときは、3か月以内にその国に駐在する日本の大使、公使又は領事にその証書の謄本を提出しなければならない旨規定している。
ル 戸籍法施行規則第36条第1項は、死亡によって、婚姻が解消した場合には、生存配偶者の身分事項欄にその旨を記載しなければならない旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ Fに係る相続について
 F(以下「本件被相続人」という。)は令和2年5月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、同人に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
 本件相続に係る相続人は、本件被相続人の養親である請求人のみである。
ロ 本件被相続人が同人の長女であるG(以下「本件長女」という。)に贈与した財産と贈与税の申告について
(イ) 本件被相続人は、平成24年1月20日、本件長女に、d県e市f町○−○の土地及び当該土地の上に存する家屋の各2分の1の持分を贈与した(以下、この贈与により本件長女が取得したこれらの土地及び家屋の各持分を併せて「本件贈与財産」という。)。
(ロ) 本件長女は、本件贈与財産について、贈与税の申告書に、特定贈与者を本件被相続人、相続時精算課税分の課税価格の合計額を○○○○円、特別控除額を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円と記載して、法定申告期限までに、平成24年分の贈与税の申告をした。
 また、本件長女は、本件被相続人から平成24年中に贈与を受けた財産(本件贈与財産)について、相続税法第21条の9第1項の規定の適用を受けることとした旨記載した相続時精算課税選択届出書を上記の贈与税の申告書に添付して、原処分庁に提出した。
ハ 本件長女に係る相続等について
(イ) 本件長女は、平成29年8月○日頃(以下「本件長女相続開始日」という。)に死亡し、同人に係る相続(以下「本件長女相続」という。)が開始した。
(ロ) 本件長女は、平成4年5月11日に○○○○のH(○年○月○日生)と○○○○の方式で婚姻し、平成4年5月12日、戸籍法第41条第1項の証書を○○○○に対して提出した。本件長女とHは、平成4年5月に、○○○○において同居を始めた。
 令和2年6月23日付の本件長女に係る除籍の謄本(以下「本件除籍謄本」という。)の身分事項欄には、Hとの婚姻に関する記載はあるが、その他に、Hに関する記載はない。
(ハ) 本件長女は、平成10年7月2日に○○○○からd県g市へ住所を移し、その後、死亡するまで、d県内で住民登録をしていた。
 一方、Hについては、日本国に居住していた事実は確認できず、消息は不明である。
(ニ) 本件長女の出生から死亡に至るまでの除籍謄本には、本件長女の子に関する記載はない。
(ホ) 本件被相続人の配偶者であり本件長女の実父であるJは、昭和47年10月○日に死亡した。
(へ) 本件長女の養親である請求人は、本件長女相続に係る相続放棄の申述を行い、同申述は、令和元年8月20日、K家庭裁判所に受理された。
ニ Hの不在者財産管理人の選任と本件長女の遺産に係る遺産分割協議について
(イ) 本件被相続人は、K家庭裁判所に対し、Hを不在者とする不在者の財産管理人選任の申立てをし、同裁判所は、令和2年3月11日、不在者財産管理人としてL(以下「本件不在者財産管理人」という。)を選任する審判をした。
(ロ) 本件不在者財産管理人は、令和2年3月23日にK家庭裁判所から権限外行為許可を受けて、同月24日付で、本件被相続人と、本件長女相続について、要旨以下の内容の遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)をした。
A 相続財産中、相続財産目録に記載の土地、建物、株式、預貯金及び外貨預金については、本件被相続人が相続する。
B 本件被相続人は、上記Aの遺産を取得した代償として、将来、不在者であるHが出現し、同人から請求があった場合には、同人に対して代償金(以下「本件代償金」という。)を支払う。なお、各相続財産に対する代償金は以下のとおりとする。
(A)  相続財産目録記載の預貯金は、Hの法定相続分相当額金○○○○円を代償金とする。
(B)  上記Aの預貯金を除く相続財産は、本件遺産分割協議の成立後速やかに売却し、その売却代金から売却に要する一切の費用(債務の弁済を含む。)を控除した残額を法定相続分に従ってあん分し、Hの法定相続分相当額をHへの代償金とする。

(4) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、相続税の申告書に別表の「期限内申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに相続税の申告をした。
ロ 請求人は、本件相続税について、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、相続財産の申告漏れがあったなどとして、令和5年6月14日、相続税の修正申告書に別表の「修正申告」欄のとおり記載して、修正申告をした。
ハ 原処分庁は、Hは相続時精算課税適用者である本件長女の相続人として相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継するにもかかわらず、上記ロの修正申告において、上記(3)のロの(ロ)の贈与税の申告に係る本件贈与財産の価額○○○○円が請求人の納付すべき相続税額の計算の基礎となる全ての相続人に係る課税価格の合計額に算入されていなかったとして、令和5年6月28日付で、別表の「更正処分」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件更正処分に不服があるとして、令和5年7月4日に再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年9月22日付で棄却の再調査決定をし、その決定書謄本を請求人に対して同月26日に送達した。
ホ 請求人は、令和5年9月16日に住所をh市i町○−○から肩書地へ異動した。
ヘ 請求人は、令和5年10月23日、再調査決定を経た後の本件更正処分に不服があるとして、審査請求をした。

2 争点

(1) Hは相続時精算課税適用者である本件長女の相続人として相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、本件贈与財産の価額は本件相続税の課税価格に加算されるか否か(争点1)。

(2) 本件代償金相当額を、本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することができるか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(Hは相続時精算課税適用者である本件長女の相続人として相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、本件贈与財産の価額は本件相続税の課税価格に加算されるか否か。)について

原処分庁 請求人
  • 以下のとおり、Hは、本件長女の相続人であり、本件相続開始日に不在者として生存していたと認められるから、Hは本件長女の相続人として相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、本件贈与財産の価額は本件相続税の課税価格に加算される。
  • イ 本件長女とHは、平成4年5月11日、○○○○の方式によって婚姻したと認められるところ、同日において、両者のいずれかに相続が発生した場合には、両者は互いに相続人になるものと認められる。
  • ロ K家庭裁判所が、令和2年3月11日に本件不在者財産管理人を選任したことからすると、Hは同日において不在者であったと認められる。
     また、Hは、なお生存していたものとして、令和2年3月24日に本件遺産分割協議に本件長女の相続人として参加したものと認められる。
  • ハ 原処分庁及び再調査審理庁の調査の結果によっても、本件相続開始日において、Hが不在者ではなくなったとする事実又はその死亡が証明された事実をそれぞれ認めることはできない。
  • 以下のとおり、Hは、本件長女の相続人であるか否かや生存していたか否かが不明であるため、Hは本件長女の相続人として相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継せず、本件贈与財産の価額は本件相続税の課税価格に加算されない。
  • イ 原処分庁は、Hの1正式な氏名(○○○○による氏名)、2住所地、3婚姻後の生死の有無及び4婚姻後の離婚の有無を○○○○に調査し、明確にHが本件長女の相続人であることや生存していたことを立証すべきであるが、これを立証していない。
  • ロ 原処分庁は、Hを不在者として取り扱い、Hの生存の有無も確認せず本件長女の相続人であると主張しているが、本件不在者財産管理人の選任に係る審判をしたK家庭裁判所は、本件長女相続開始日においても、本件相続開始日においても、Hが生存又は死亡している事実を証明したわけではなく、不在者が真に相続人であるかどうかを判断しているわけではない。

(2) 争点2(本件代償金相当額を、本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することができるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件長女相続に係る遺産分割協議書には、「本件被相続人は、前各号の遺産を取得した代償として、将来、Hが出現し、同人から請求があった場合には、同人に対して本件代償金を支払う。」との記載がされており、本件相続開始日以前において本件被相続人がHから本件代償金の請求を受けたとする事情も見当たらないことから、本件代償金に係る債務は、本件被相続人の債務で本件相続開始日において現に存するものとはいえず、確実と認められるものにも該当しない。
 したがって、本件代償金相当額を、本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することはできない。
本件代償金は、令和2年3月23日、K家庭裁判所で遺産分割協議書の内容について認められ、許可される審判により確定しているものであるから、相続税法第13条及び同法第14条の要件を備えており、本件相続税の課税価格の計算上控除すべき債務に該当する。
 したがって、本件代償金相当額を、本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することができる。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(Hは相続時精算課税適用者である本件長女の相続人として相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、本件贈与財産の価額は本件相続税の課税価格に加算されるか否か。)について

イ 認定事実
 当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) Hは、K家庭裁判所に対し、本件長女相続に係る相続放棄の申述をしていない。
(ロ) K家庭裁判所は、Hの失踪宣告をしていない。
ロ 検討
(イ) 上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、本件長女は、相続時精算課税選択届出書を提出した相続時精算課税適用者であり、本件被相続人は、当該相続時精算課税選択届出書の提出に係る相続時精算課税制度における相続税法第21条の9第1項に規定する贈与をした特定贈与者である。
 相続時精算課税適用者である本件長女は、上記1の(3)のイ及び同ハの(イ)のとおり、本件被相続人が死亡する前に死亡していることから、相続税法第21条の17第1項の規定により、本件長女の相続人がいる場合には、同人が、本件長女が有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、同法第21条の16第1項の規定により、相続時精算課税の適用に係る財産を特定贈与者から相続により取得したとみなされて、本件贈与財産の価額が本件相続税の課税価格に加算されることとなる(なお、本件被相続人は特定贈与者であるから、当該相続時精算課税の適用に伴う権利義務は承継しない(相続税法第21条の17第1項ただし書)。)。
 そして、上記1の(3)のハの(ロ)及び(ハ)のとおり、平成4年に本件長女と婚姻したHは、現在その消息が不明であるところ、Hが、本件長女の相続人として本件長女が有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、相続税法第21条の16第1項の規定により相続時精算課税の適用に係る財産を特定贈与者から相続により取得したとみなされるというには、Hが、本件長女の相続人(本件長女相続開始日(平成29年8月○日頃)において、1生存し、また、2本件長女の配偶者であったこと)であり、かつ、3本件相続開始日(令和2年5月○日)に生存していたことを要すると解される。
(ロ) そこで以下では、Hが、本件長女相続開始日及び本件相続開始日において生存していたか(上記(イ)の1及び3)並びに本件長女相続開始日において本件長女の配偶者であったか(同2)について検討する。
A まず、本件長女相続開始日及び本件相続開始日においてHが生存していたか否かについてみると、上記1の(3)のニの(イ)のとおり、K家庭裁判所は、令和2年3月11日、本件被相続人を申立人、不在者をHとする不在者の財産管理人を選任する審判をしていることが認められるところ、上記イの(ロ)のとおり、K家庭裁判所が不在者であるHについて失踪宣告をした事実は認められない。
 この点、民法が、生死不明かどうかを問わず、一方で不在者の生存を推定してその者の財産管理制度を用意し(民法第25条ないし第29条《管理人の担保提供及び報酬》)、他方で生死不明者を一定の要件の下で死亡したものと確定する失踪宣告制度を用意していること(民法第30条ないし第32条《失踪の宣告の取消し》)に鑑みると、不在者が生死不明の場合でも、失踪宣告がなされない限り生存が推定されると解するのが相当であり、上記のとおりK家庭裁判所がHについて失踪宣告をした事実が認められないことからすると、Hは、本件相続開始日において生存していたものと推定される。そして、配偶者が死亡した場合には、配偶者の死亡による婚姻の解消が戸籍に記載される(戸籍法施行規則第36条第1項)ことになるところ、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、本件除籍謄本には、Hとの婚姻が解消された旨の記載は見当たらず、その他当審判所の調査によっても、同推定を覆す証拠はない。
 以上のことから、Hは本件長女相続開始日及び本件相続開始日において生存していたと認められる。
B 次に、Hが本件長女相続開始日において本件長女の配偶者であったか否かについてみると、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、本件除籍謄本には離婚の事実が記載されていないことから、本件長女及びHとの間において日本法上の離婚は成立していないことが認められる。
 また、○○○○の方式において離婚が成立した場合のほか、外国に所在する日本人がその国の方式に従って離婚した場合には、3か月以内にその国に駐在する日本の大使等にその証書の謄本を提出しなければならない(戸籍法第41条第1項)こととなっているが、本件除籍謄本に離婚をしたことの記載は見当たらないことからすると、外国の方式に従って本件長女とHの離婚が成立した事実もないと推認するのが相当である。
 以上のことからすると、Hは、本件長女相続開始日において、本件長女の配偶者であったと認められる。
(ハ) 以上のとおりであるから、Hが、本件長女の相続人(本件長女相続開始日(平成29年8月○日頃)において、1生存し、また、2本件長女の配偶者であったこと)であり、かつ、3本件相続開始日(令和2年5月○日)に生存していたことが、いずれも認められる。また、上記イの(イ)のとおり、Hは本件長女相続に係る相続放棄の申述をしていない。
 したがって、Hは、相続時精算課税適用者である本件長女の相続人として相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、相続税法第21条の16第1項の規定により相続時精算課税の適用に係る財産を特定贈与者から相続により取得したとみなされることから、本件贈与財産の価額は本件相続税の課税価格に加算される。
ハ 請求人の主張について
 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、1原処分庁はHの㋑正式な氏名(○○○○による氏名)、㋺住所地、㋩婚姻後の生死の有無及び㊁婚姻後の離婚の有無を○○○○に調査し、明確にHが本件長女の相続人であることや生存していたことを立証すべきである旨(同欄イ)、並びに2本件不在者財産管理人の選任に係る審判をしたK家庭裁判所は、本件長女相続開始日においても、本件相続開始日においても、Hが生存又は死亡している事実を証明したわけではなく、不在者が真に相続人であるかどうかを判断しているわけではないから、Hが本件長女の相続人であることや生存していたことが立証されたとはいえない旨(同欄ロ)主張する。
 しかしながら、失踪宣告がなされていないHについて、生存が推定されることは上記ロの(ロ)のAのとおりであるし、仮にこの点を措くとしても、Hが、○年○月○日生まれであり(上記1の(3)のハの(ロ))、本件長女相続開始日において満○歳であって、本件相続開始日においても満○歳であることを鑑みると、一般的に死亡している蓋然性は低く、Hは不在者であり日本に居住していた事実は認められないものの、当審判所の調査の結果によっても、個別具体的な死亡の原因となるような危難に遭遇した事実も認められないこと、その他死亡を合理的に疑われる状況も認められないことに照らせば、これらの時点において、Hが生存していたものと推認するのが相当である。
 また、Hが、本件長女相続開始日において、本件長女の配偶者であったと認められることは、上記ロの(ロ)のBのとおりであり、Hの生存や離婚等について、請求人の主張する○○○○における調査が、通常必要とされる調査であるとまでは認められず、原処分庁が上記1の㋑ないし㋥の事項を明らかにできていないことは、同ロの(ロ)の判断を左右するものではない。
 よって、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件代償金相当額を、本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することができるか否か。)について

イ 法令解釈
 相続税法第13条第1項柱書及び同項第1号並びに同法第14条第1項は、相続税の課税価格の計算上、相続により取得した財産の価額から控除する債務は、被相続人の債務で相続開始の際現に存するもののうち、相続人の負担に属する部分の金額とし、その控除すべき債務は「確実と認められる」ものに限る旨規定している。
 そして、「確実と認められる」債務といい得るためには、相続開始の時点までに、当該債務が成立し、かつ、当該債務に基づき具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していることが必要であり、停止条件付債務については、特段の事情のない限り、相続開始の時点までに当該条件が成就していることが必要であると解すべきである。
ロ 検討
(イ) 本件代償金は、上記1の(3)のニの(ロ)のBのとおり、本件被相続人と本件不在者財産管理人との本件遺産分割協議に基づき、将来、不在者であるHが出現し、同人から請求があった場合に支払うこととされているものであり、本件被相続人はHに対し停止条件付の支払債務を負っていたといえる。
 しかしながら、Hについては当審判所の調査の結果によっても、本件相続開始日までに出現し、不在者ではなくなった事実は認められないし、Hから本件被相続人に対して本件代償金の請求があった事実も認められない。
 したがって、本件代償金に係る債務の停止条件(Hが出現し、同人から請求があったこと)は成就していなかったものと認めるのが相当であり、上記特段の事情も見当たらないから、当該債務は、本件相続開始日において、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められる」ものに該当しない。
(ロ) 以上から、本件代償金相当額を、本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することはできない。
ハ 請求人の主張について
 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、本件代償金は、令和2年3月23日、K家庭裁判所で遺産分割協議書の内容について認められ、許可される審判により確定しているものであるから、相続税法第13条及び同法第14条の要件を備えており、本件相続税の課税価格の計算上控除すべき債務に該当する旨主張する。
 しかしながら、K家庭裁判所が本件遺産分割協議を相当であると認める審判をしたとしても、上記イのとおり、停止条件付債務については、特段の事情のない限り、相続開始の時点までに当該条件が成就していることが必要である。
 本件の場合、Hが出現し、Hから請求があった場合には本件代償金を支払うとした停止条件が成就していないのであるから、相続税法第14条第1項の「確実と認められる」債務とは認められず、本件代償金相当額が本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することができないことは、上記ロの(ロ)で述べたとおりである。
 よって、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件更正処分の適法性について

上記(1)のロの(ハ)のとおり、Hは、相続時精算課税適用者である本件長女の相続人として相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継するから、本件相続税に係る課税価格の合計額の計算に当たり本件贈与財産の贈与の時の価額を加算し、本件相続税に係る相続税の総額を計算して請求人の納付すべき税額を計算することとなり、上記(2)のロの(ロ)のとおり、本件代償金相当額を、本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することはできず、これらに基づき、請求人の本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、本件更正処分の各金額と同額であると認められる。
 また、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件更正処分は適法である。

(4) 結論

よって、請求人の審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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