(令和6年10月28日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、請求人が所有する不動産について参加差押処分をしたのに対し、請求人が、当該参加差押処分は滞納国税を徴収するために必要な範囲を超えた違法な処分であるとして、その一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

イ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第47条《差押の要件》第1項第1号は、徴収職員は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
ロ 徴収法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》第1項は、国税を徴収するために必要な財産以外の財産は、差し押さえることができない旨規定している。
ハ 徴収法第82条《交付要求の手続》第1項は、滞納者の財産につき強制換価手続が行われた場合には、税務署長は、執行機関に対し、滞納に係る国税につき、交付要求書により交付要求をしなければならない旨規定している。
ニ 徴収法第86条《参加差押えの手続》第1項は、税務署長は、徴収法第47条の規定により差押えをすることができる場合において、滞納者の財産で不動産につき既に滞納処分による差押えがされているときは、当該財産についての交付要求は、徴収法第82条第1項の交付要求書に代えて、参加差押書を滞納処分をした行政機関等に交付してすることができる旨規定している。
ホ 徴収法第87条《参加差押えの効力》第1項第2号は、参加差押えをした場合において、その参加差押えに係る不動産につきされていた滞納処分による差押えが解除されたときは、その参加差押えは、参加差押通知書が滞納者に送達された時に遡って差押えの効力を生ずる旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ 原処分庁は、請求人が別表1記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を同表の「納期限」欄記載の令和4年3月15日までに完納しなかったことから、同表の「督促年月日」欄記載の令和4年5月17日に、国税通則法第37条《督促》の規定に基づき、請求人に対し、督促状を発してその納付を督促した。
ロ 原処分庁は、請求人が所有する別表2記載の各不動産(以下「本件各不動産」という。)についてB税務署長が既に差押えをしていたところ、本件滞納国税を徴収するため、令和5年12月8日付で、徴収法第86条第1項の規定に基づき、当該税務署長に参加差押書を交付して参加差押処分(以下「本件参加差押処分」という。)をし、同条第2項の規定に基づき、請求人にその旨を通知するとともに、同条第3項の規定に基づき、本件参加差押処分の登記を嘱託した。
ハ 請求人は、本件参加差押処分のうち、別表2の順号1及び2に記載の各不動産に係る参加差押処分は取り消されるべきであるとして、本件参加差押処分の一部の取消しを求めて令和6年2月6日に審査請求をした。

2 争点

 本件参加差押処分は本件滞納国税を徴収するために必要な範囲を超えた違法な処分か否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
徴収法第87条第1項は、参加差押えをした場合において、その参加差押えに係る財産についてされた滞納処分による差押えが解除されたときは参加差押通知書が滞納者に送達された時等まで遡って差押えの効力が生ずる旨規定していることから、参加差押えは、先行の差押えが存在する限りにおいては差押えの執行機関に対する交付要求としての効力を有するにとどまる。
 そして、徴収法第48条第1項は、国税を徴収するために必要な財産以外の財産は、差し押さえることができない旨規定しているところ、同項の規定は参加差押えに準用されていないから、本件参加差押処分に同項の規定は適用されない。
 したがって、本件参加差押処分は、本件滞納国税を徴収するために必要な範囲を超えた違法な処分とはいえない。
本件各不動産の価額は、周辺地域における不動産の取引状況からすると、1坪当たり約○○○○円であり、本件滞納国税の金額を徴収するために必要な不動産の面積は約100坪で足りるはずである。
 したがって、本件参加差押処分は、本件滞納国税を徴収するために必要な範囲を超えた違法な処分であり、その必要な範囲を超えた部分に相当する財産である別表2の順号1及び2に記載の各不動産に係る参加差押処分は取り消されるべきである。

4 当審判所の判断

(1) 検討及び請求人の主張について

イ 請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、本件各不動産の価額は、周辺地域における不動産の取引状況からすると、1坪当たり約○○○○円であり、本件滞納国税の金額を徴収するために必要な不動産の面積は約100坪で足りるはずであるから、本件参加差押処分は本件滞納国税を徴収するために必要な範囲を超えた違法な処分である旨主張する。
 上記1(2)ロのとおり、徴収法第48条第1項は、国税を徴収するために必要な財産以外の財産は、差し押さえることができない旨を規定しているところ、請求人の上記主張は、本件参加差押処分は同項が規定する超過差押えに当たるというものであるといえる。
ロ このような請求人の主張を踏まえ、徴収法第48条第1項の規定が参加差押えにも適用又は準用されるかについて検討すると、上記1(2)ニ及びホのとおり、参加差押えは、滞納者の財産について、既に強制換価手続である滞納処分による差押えがされている場合に、その差押えをした行政機関等に対して交付要求をするものであり、その先行する差押えが解除されたときは、参加差押通知書が滞納者に送達された時に遡って差押えの効力が生ずるものであるから、参加差押えは、先行する差押えが解除されない限り、その先行する差押えをした行政機関等に対して配当を求める交付要求としての効力を有するにすぎないというべきである。
 このような参加差押えの効力からすると、参加差押えは、強制換価手続である滞納処分による差押えが先行し、これが進行している限り、滞納者に処分制限等の新たな負担を課すものではないし、交付要求及び参加差押えの規定をみても、徴収法第48条第1項の規定が準用されるとした規定もない。
 したがって、徴収法第48条第1項の規定は、参加差押えには適用又は準用されないと解するのが相当である。
ハ 上記ロからすれば、本件参加差押処分には、超過差押えに係る徴収法第48条第1項の規定は適用又は準用されないから、本件各不動産の具体的な価額にかかわらず、本件参加差押処分が本件滞納国税を徴収するために必要な範囲を超えた違法な処分であるということはできない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 本件参加差押処分の適法性について

上記(1)のとおり、本件参加差押処分は、違法な処分であるということはできない上、上記1(3)イ及びロによれば、本件参加差押処分は徴収法第86条の要件を充足していると認められる。
 また、本件参加差押処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件参加差押処分は適法である。

5 結論

 よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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