(令和6年10月28日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁に対し、売上げの減少により納税資金を捻出することが困難であるとして換価の猶予の申請を行ったところ、原処分庁が、請求人は申請に係る国税を一時に納付することができないとは認められないとして不許可処分をし、また、請求人の滞納国税を徴収するため、債権の差押処分をしたのに対し、請求人がこれらを不服として原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
イ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第151条の2第1項は、税務署長は、滞納者がその国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあると認められる場合において、その者が納税について誠実な意思を有すると認められるときは、その国税の納期限から6月以内にされたその者の申請に基づき、1年以内の期間を限り、その納付すべき国税につき滞納処分による財産の換価を猶予することができる旨規定している。
ロ 徴収法第152条《換価の猶予に係る分割納付、通知等》第1項は、税務署長は、換価の猶予をする場合には、その猶予に係る金額(その納付を困難とする金額として政令で定める額を限度とする。)をその猶予をする期間内の各月に分割して納付させるものとする旨規定している。
ハ 国税徴収法施行令(以下「徴収法施行令」という。)第53条《換価の猶予の申請手続等》第3項は、徴収法第152条第1項に規定する政令で定める額は、滞納者が個人の場合には、次の(イ)に掲げる額から(ロ)に掲げる額を控除した残額とする旨規定している。
(イ) 納付すべき国税の金額
(ロ) 税務署長が換価の猶予をしようとする日の前日において滞納者が有する現金、預貯金その他換価の容易な財産の価額に相当する金額から滞納者及び滞納者と生計を一にする配偶者その他の親族の生活の維持のために通常必要とされる費用に相当する金額(滞納者が負担すべきものに限る。以下、当該生活の維持のために通常必要とされる費用に相当する金額を「生活維持費」という。)並びに滞納者の事業の継続のために当面必要な運転資金(以下、当該事業の継続のために当面必要な運転資金を単に「運転資金」といい、生活維持費と併せて「生活維持費等」という。)の額を控除した残額
ニ 納税の猶予等の取扱要領(平成27年3月2日付徴徴5−10ほか1課共同「納税の猶予等の取扱要領の制定について」(事務運営指針)の別冊。以下「猶予取扱要領」という。)21《申請による換価の猶予の対象となる国税及び猶予をする金額》は、申請による換価の猶予の対象となる国税については猶予取扱要領17《職権による換価の猶予の対象となる国税及び猶予をする金額》(1)、猶予をする金額については同(2)と同様である旨、それぞれ定めている。
ホ 猶予取扱要領17(2)は、職権による換価の猶予をすることができる金額は、納付を困難とする金額として、以下の(イ)の額から(ロ)の額を控除した残額を限度とし、具体的には、猶予取扱要領第7章《納付能力調査》第2節《現在納付能力調査》(63《当座預金》から66《現在納付能力調査表を作成する場合》まで)に定める現在納付能力調査によって判定した納付困難と認められる金額とする旨定めている。
(イ) 納付すべき国税の額
(ロ) 滞納者が個人の場合には、滞納者の納付能力を判定した日において滞納者が有する現金、預貯金その他換価の容易な財産の価額に相当する金額から、生活維持費等の額を控除した残額
ヘ 猶予取扱要領22《申請による換価の猶予をする期間等》(2)は、猶予期間の始期は、換価の猶予の申請書が提出された日とし、ただし、その日が申請に係る国税の法定納期限以前の日であるときは、法定納期限の日の翌日とする旨定めている。
ト 猶予取扱要領第7章は、納付能力調査は、原則として、納税者からその納付すべき国税につき換価の猶予の申請があった場合において、その者の現在及び将来における納税の能力又は猶予後における資金繰りの状況等を調査し、猶予する金額等を判定するために行うものである旨定めている。
チ 猶予取扱要領61《調査日》は、調査日とは、ある一定時点において納税者の納付能力を判定した日をいい、換価の猶予の申請においては、その申請に係る猶予期間の始期の前日とする旨、また、調査日現在における状況の調査が困難であるときは、調査を行った日の状況から、適宜その調査日現在の状況を推定するものとする旨、それぞれ定めている。
リ 猶予取扱要領63は、当座資金の額は、調査日現在における現金、預貯金その他換価の容易な財産であって、直ちに支払に充てることのできる資金(以下、当該資金を単に「当座資金」という。)の合計額とする旨定めている。
ヌ 猶予取扱要領64《つなぎ資金》は、つなぎ資金の額については、以下のとおりとする旨定めている。
(イ) つなぎ資金の額は、納税者が個人の場合には調査日からおおむね1月以内の期間(以下「計算期間」という。)における生活維持費等の額とする(なお、計算期間において、資金繰りが最も窮屈になると見込まれる日が明らかである場合は、調査日からその日までの期間を計算期間として差し支えない旨、また、注意書きの1において、個人のつなぎ資金は、納税者の個別事情をよりよく反映させるために、複数月分の資金をつなぎ資金に含めることが可能とされていることに留意する旨の定めがある。)。
(ロ) 生活維持費等のうち、運転資金の額は、計算期間における納税者の事業の継続のために必要不可欠な支出の額から計算期間における事業収入その他の収入に係る金額を控除した残額をいい、さらに、運転資金については、見込納付能力調査において算出した納税者の事業等による収入などの状況を踏まえ、商品の仕入れから販売までの期間が長期にわたる場合、事業維持に必要不可欠な資産の買換えのための資金の積立てを要する場合その他支出が収入を超過するため収支状況にそごを来す時期があると見込まれる場合等において、計算期間後のために資金手当てをしておかなければ、事業を継続することができなくなると認められるときは、必要最小限度の所要資金を算定して、運転資金の額に加算することができる。
(ハ) 生活維持費等のうち、生活維持費の額は、計算期間に支出する納税者及び納税者と生計を一にする配偶者その他の親族の生活費として、納税者が実際に支払った食費、家賃、水道光熱費などの金額を把握している場合において、それらの金額のうち、計算期間の生活費として通常必要と認められる金額を積算する方法により算出した金額をいい、さらに、生活維持費については、見込納付能力調査において算出した納税者の事業等による収入などの状況を踏まえ、納税者の生活を維持することができなくなるおそれが生じないよう、計算期間を超える期間における納税者の生活の維持のために、通常必要とされる資金の額をつなぎ資金として留保する必要がある場合は、その所要資金(以下、上記(ロ)の運転資金において加算が認められている所要資金と併せて、単に「所要資金」という。)の額を生活維持費の額に加算することができる。
ル 猶予取扱要領65《現在納付可能資金額及び納付困難な額の算定》は、納付すべき国税のうち、直ちに納付することができる額(以下「現在納付可能資金額」という。)は、当座資金の額からつなぎ資金の額を控除した金額とする旨、納付困難な額は、換価の猶予の申請に係る国税の額から、現在納付可能資金額を控除した金額とする旨、それぞれ定めている。
(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人は、老人介護施設の訪問美容を主な業とする自営業者である。
ロ 請求人は、令和5年4月7日、原処分庁に対し、別表1記載の国税(以下「本件国税」という。)について、徴収法第151条の2の規定に基づき、換価の猶予申請書を提出し、換価の猶予の申請(以下「本件猶予申請」という。)をした。
請求人が本件猶予申請に係る添付資料として提出した「財産収支状況書」等には、請求人の財産及び収支の状況について、別表2の「記載額」欄、別表3及び別表4のとおり記載されていた。
ハ 原処分庁は、令和5年5月26日付で、本件国税について、国税通則法第37条《督促》第1項の規定に基づき、請求人に対し、督促状によりその納付を督促した。
ニ 原処分庁は、令和5年8月22日付で、本件猶予申請について、請求人が本件猶予申請に係る国税を一時に納付することができないとは認められないとして、不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。
ホ 原処分庁は、令和5年9月27日付で、本件国税を徴収するため、徴収法第47条《差押の要件》第1項第1号の規定に基づき、徴収法第62条《差押えの手続及び効力発生時期》第1項に規定する手続により、請求人がD社に対して有する別表5記載の債権(以下「本件債権」という。)を差し押さえ(以下「本件差押処分」という。)、本件差押処分に係る債権差押通知書は、同年10月2日に第三債務者であるD社に送達された。
ヘ 請求人は、令和5年11月11日、本件不許可処分及び本件差押処分を不服として審査請求をした。
ト 原処分庁は、令和5年11月16日、徴収法第67条《差し押えた債権の取立》第1項の規定に基づき、本件差押処分に係る本件債権のうち○○○○円を取り立てた上で本件国税に充当し、同月17日付で国税通則法第63条《納税の猶予等の場合の延滞税の免除》第5項に基づき延滞税○○○○円の免除決議をしたことにより本件国税の全額が消滅したことから、徴収法第79条《差押えの解除の要件》第1項第1号の規定に基づき、同日付で、本件債権のうち、取立て後の残額○○○○円に係る差押えを解除した。
2 本件差押処分の取消しを求める審査請求の適法性について
審査請求によって行政処分の取消しを求めるには、当該処分の取消しによって回復すべき法律上の利益が存在していることが必要であるから、処分の法的効果が消滅し、処分の取消しによって回復すべき法律上の利益が存在しなくなったときは、当該処分の取消しを求める審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものとなる。
上記1の(3)のトのとおり、原処分庁は、本件差押処分に係る本件債権について、差し押さえた債権の一部を取り立てるとともに残額に係る差押えを解除していることから、本件差押処分は、その目的の完了又は差押えの解除により既にその効力が消滅している。よって、請求人には本件差押処分の取消しによって回復すべき法律上の利益は存在しないから、本件差押処分の取消しを求める審査請求は不適法なものである。
3 争点
請求人は、本件猶予申請において、納付すべき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあったと認められるか否か。
4 争点についての主張
請求人 |
原処分庁 |
請求人は、本件猶予申請において、次のとおり、納付すべき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあったと認められる。
(1) 請求人の収支状況は、月額○○○○円のマイナスで、資産は、現金及び預貯金○○○○円のみである。同資産は、資金収支のマイナスを補填するための借入金を原資とするもので、請求人は、銀行に対して○○○○円の債務を抱えている。そのため、請求人は、事業が好転しなければ○か月後には返済不能となる。
このような請求人の状況を斟酌すれば、金銭納付が困難であるか否かの判定は、猶予取扱要領の定めを画一的に適用するのではなく、相続税法第38条《延納の要件》で申請者の債務が財産から控除され、純資産で判定されるのと同様に、本件猶予申請時における債務額を財産から控除した純資産で判定すべきである。
猶予取扱要領1《納税者の個々の実情に即した処理》においても、「滞納整理に当たっては、画一的な取扱いをすることなく、納税者の個別的、具体的な実情に即して適切に対応する必要がある。」とされている。
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請求人は、本件猶予申請において、次のとおり、納付すべき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあったとは認められない。
(1) 徴収法第152条第1項に規定する納付を困難とする金額は、徴収法施行令第53条第3項で、滞納者が個人の場合には、納付すべき国税の金額から、換価の猶予をしようとする日の前日において滞納者が有する現金等から生活維持費等の額の合計額を控除した残額であると定められており、借入金を含む債務は、換価の猶予の適否に係る判断に影響を与えない。
(2) 請求人は、本件猶予申請時において、 合計○○○○円の現金及び預貯金を有し、 本件猶予申請時から1月以内の収支状況は、支出金額が○○○○円、収入金額が○○○○円であり、 生活維持費等に必要となる臨時支出等はなかった。
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(2) 上記に基づき、請求人の本件猶予申請時における純資産を算定すると、財産が○○○○円である一方、債務が○○○○円であるから債務が財産を上回り、マイナスである。
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(3) 以上の事実に基づき、猶予取扱要領に従って計算すると、以下のとおり、請求人の納付困難な額は算定されない。
イ 当座資金の額
○○○○円
ロ つなぎ資金の額
(イ) |
生活維持費等の額 ○○○○円 (○○○○円−○○○○円) |
(ロ) |
所要資金の額 0円 (イ)+(ロ)=○○○○円 |
ハ 現在納付可能資金額(イ−ロ)○○○○円
ニ 本件猶予申請に係る国税の額○○○○円及び未確定延滞税
ホ 納付困難な額(ニ−ハ)
0円
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(3) よって、請求人が本件猶予申請時において金銭納付することができる金額はない。
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(4) 仮に、個人のつなぎ資金を1年分として計算しても、請求人の納付困難な額は算定されない。
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5 当審判所の判断
(1) 法令解釈
イ 徴収法第151条の2が規定する換価の猶予の制度は、滞納者につき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあると認められる場合において、その者が納税について誠実な意思を有すると認められるときは、税務署長が納付を困難とする金額を限度として、その申請に基づき、1年以内の期間を限り、原則毎月の分割納付を条件として、その納付すべき国税につき滞納処分による財産の換価を猶予することができるというものである。これは本来、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、納付の督促を経て滞納処分が行われることになるところ、納税者の負担の軽減を図るとともに、早期かつ的確な納税の履行を確保する観点から、申請によって換価を猶予できるとしたものであり、納税者を救済するための例外的な制度であるということができる。
ロ そして、納税者が個人であるときにおいて、上記イのおそれがあると認められる場合とは、

事業に不要不急の資産を処分するなど事業経営の合理化を行った後においても、なお国税を一時に納付することにより事後の決済資金に不足を生じ、その結果、滞納者がその事業を休止若しくは廃止せざるを得ない又はこれと同等の状態に至るおそれがあると認められる場合、又は

国税を一時に納付することにより、滞納者の必要最小限の生活費程度の収入が確保できなくなると認められる場合のいずれかに該当する場合をいうものと解される。
ハ このように申請による換価の猶予が納税者救済のための例外的な制度であることからすると、同制度の適用に当たっては、納税者間において不公平が生じることを回避し、税務行政の適正妥当な執行を確保する必要があるところ、猶予取扱要領が一定の判断基準及び運用方針を定めているのは、かかる趣旨によるものであると解される。このような猶予取扱要領が定められた趣旨に鑑みると、猶予取扱要領の定めが合理性を有するものと認められる場合には、これを当該事案に適用することが不合理であるという特段の事情がない限り、当該定めに従った判断は相当であるというべきである。
この点、上記1の(2)のニないしルに記載の猶予取扱要領の各定めは、いずれも、徴収法第151条の2及び第152条の規定に基づき、税務署長が換価の猶予をする場合に、その猶予に係る金額、すなわち、納付を困難とする金額を算定するために委任された徴収法施行令第53条の規定に沿うものであるから、合理性を有するものであると認められ、当審判所においてもその取扱いは相当であると認められる。
(2) 認定事実等
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件猶予申請の始期及び調査日について
上記1の(3)のロのとおり、請求人は令和5年4月7日に本件猶予申請を行っていることから、同(2)のヘの定めによれば、本件猶予申請に係る始期は同日であり、同チの定めによれば、本件猶予申請に係る調査日は同月6日であったと認められる(以下、本件猶予申請に係る調査日を「本件調査日」という。)。
ロ 現金及び預貯金について
本件調査日現在における請求人の現金及び預貯金の額の合計は、別表2の「審判所認定額」欄の「合計」欄のとおり、○○○○円であった。
ハ 請求人の収支の状況について
(イ) 収支の周期について
請求人の事業に係る売上げは、現金によるものと振込みによるものがあり、現金によるものについては、訪問した当日に集金し、振込みによるものについては、毎月20日又は月末に各老人介護施設から請求人名義の預金口座へ振り込まれる。請求人の事業及び生活費の支出については、特に月の一定の時期に偏ることなく、毎月、月初から月末のうちに支払が行われている。
(ロ) 平均的な収支について
本件猶予申請に際し、請求人が原処分庁に提出した平均的な収入及び支出の毎月の見込金額は、別表3のとおり、収入が○○○○円、支出が○○○○円であり、当該支出は事業支出及び生活費の合計額であるところ、当該収支に原処分庁と請求人の間に争いはなく、毎月の収支として特段不自然な点は認められないから、請求人の毎月の収入見込金額は○○○○円、支出見込金額は○○○○円であると認められる。
(ハ) その他の支出について
請求人は、上記(ロ)の毎月の支出以外に生活維持費等として必要となる支出に関する主張や証拠資料の提出をせず、当審判所の調査及び審理の結果によっても、そのような支出をうかがわせる事情は認められない。
(ニ) 請求人の滞納国税について
本件調査日現在における本件猶予申請に係る国税の額の合計(未確定延滞税を含む。)は、別表1のとおり、○○○○円であった。
(3) 検討
上記(1)のハのとおり、猶予取扱要領の定めが合理性を有し、特段の事情がない限り、当該定めに従った判断は相当であるというべきであるところ、猶予取扱要領は、納付困難な額を限度として猶予ができる旨定めているから、以下、猶予取扱要領65の定めに基づき、換価の猶予の申請に係る国税の額から、現在納付可能資金額を控除した納付困難な額が算定されるか否かを検討する。
イ 当座資金について
当座資金の額は、上記1の(2)のリのとおり、調査日現在における現金、預貯金その他換価の容易な財産であって、直ちに支払に充てることのできる資金の合計額であるところ、上記(2)のロのとおり、本件調査日現在における請求人の現金及び預貯金の額は計○○○○円であったことが認められるから、当座資金の額は同額となる。
ロ つなぎ資金について
つなぎ資金の額は、上記1の(2)のヌの(イ)のとおり、納税者が個人の場合には計算期間における生活維持費等の額であり、また、上記(2)のハの(イ)の事実を前提とすると、原則として、請求人の収入及び支出は1月単位で入金又は支払がされているものと認められ、計算期間は1月とすることが相当である。
つなぎ資金の算定に当たっては、上記1の(2)のヌのとおり、まず、計算期間における納税者の事業の継続のために必要不可欠な支出の額から計算期間における事業収入その他の収入に係る金額を控除した残額及び計算期間の生活費として通常必要と認められる金額を算定するところ、上記(2)のハの(ロ)のとおり、請求人の毎月の収入見込額は○○○○円、支出見込額は○○○○円であるから、つなぎ資金の額は○○○○円となる。
そして、上記(2)のハの(ハ)のとおり、請求人には、1月の平均的な支出の見込金額以外に生活維持費等として支出が必要であることをうかがわせる事情は認められないことからすると、所要資金は算定されないから、本件調査日現在におけるつなぎ資金の額は○○○○円となる。
ハ 納付困難な額
以上のことを踏まえ、本件猶予申請について納付困難な額を算定すると、次のとおりである。
(イ) 本件調査日現在における当座資金の額(上記イ)
○○○○円
(ロ) つなぎ資金の額(上記ロ)
○○○○円
(ハ) 現在納付可能資金額(上記(イ)−同(ロ))
○○○○円
(ニ) 本件猶予申請に係る国税の額(上記(2)のハの(ニ))
○○○○円
(ホ) 納付困難な額(上記(ニ)−同(ハ))
0円
なお、仮に、上記(2)のハの(ロ)のとおり、請求人の収支がマイナスであることをもって、上記ロにおいて算定された○○○○円に、所要資金の額として更に当該金額の2月分の○○○○円を加算して、つなぎ資金を○○○○円とした場合であっても、納付困難な額は算定されない。
ニ まとめ及び請求人の主張について
以上によれば、本件猶予申請においては、納付困難な額が算定されない。また、当審判所に提出された証拠資料等によっても、請求人につき、猶予取扱要領の定める基準を適用することが不合理であるといえる事情もない。したがって、徴収法第151条の2第1項に規定する国税を一時に納付することによりその事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあったとは認められない。
なお、請求人は、上記4の「請求人」欄の(1)のとおり、要旨、請求人の毎月の収支等に鑑みると、本件猶予申請における金銭納付することができる金額の算定に当たっては、猶予取扱要領第7章の納付能力調査によらず、相続税の延納と同様に、債務額を財産から控除し、純資産で判定すべきである旨主張する。
しかしながら、上記1の(2)のハのとおり、国税徴収法施行令第53条第3項は、国税徴収法第152条第1項に規定する納付を困難とする金額の算定に当たっては、滞納者が有する現金、預貯金その他換価の容易な財産から生活維持費等を控除した残額を、納付すべき国税の額から控除する旨規定しているから、金銭納付が困難であるか否かについて、債務額を財産から控除した純資産で判定すべきとの請求人の主張は採用できず、また、本件猶予申請に猶予取扱要領を適用することが不合理であるという特段の事情も認められないことは上記のとおりである。
また、請求人は、上記4の「請求人」欄の(1)のとおり、収支は毎月○○○○円のマイナスであり、事業が好転しなければ○か月後には返済不能となることを考慮して判断すべきである旨主張する。
しかしながら、本件猶予申請において、つなぎ資金として相当と認められる金額は上記ロのとおりであり、仮に、当該金額の3月分をつなぎ資金としても納付困難な額が算定されないことは、上記ハのとおりであるところ、更に猶予申請が認められ得る最大の期間である1年分で計算した場合、つなぎ資金は○○○○円となるが、その場合であっても納付困難な額は算定されないのであるから、請求人が主張する事情は、上記判断を左右するものではない。
(4) 原処分の適法性について
上記(3)のとおり、本件不許可処分は、猶予取扱要領に従って判断されており、それが不合理であるという特段の事情は認められないから、その判断は相当である。また、本件不許可処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件不許可処分は適法である。
(5) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 本件国税の明細(省略)
別表2 現金及び預貯金(省略)
別表3 今後の平均的な収入及び支出の見込金額(月額)の要旨(省略)
別表4 借入金(省略)
別表5 本件債権の明細(省略)
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