(令和7年3月7日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、原処分庁が、同族会社と特殊の関係のある審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、請求人の当該同族会社に対する金員の無利息貸付けについて、いわゆる同族会社の行為計算否認の規定により、当該貸付けにより請求人が収受すべき利息相当額が雑所得の総収入金額に算入されるとして所得税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
イ 所得税法第157条(令和3年12月31日以前は令和3年法律第11号による改正前のもの。以下同じ。)《同族会社等の行為又は計算の否認等》第1項柱書及び同項第1号は、税務署長は、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の各年分の総所得金額及び所得税の額等を計算することができる旨規定している。
ロ 所得税法施行令第275条《同族関係者の範囲》柱書は、所得税法第157条第1項に規定する株主等と政令で定める特殊の関係のある居住者は、所得税法施行令第275条各号に掲げる者とする旨規定し、同条第1号は、当該株主等の親族を掲げている。
ハ 法人税法第2条第10号は、同族会社とは、会社の株主等の3人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資の総数又は総額の100分の50を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合におけるその会社をいう旨規定している。
ニ 租税特別措置法第41条の15《先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除》第1項は、確定申告書を提出する居住者が、その年の前年以前3年内の各年において生じた先物取引の差金等決済に係る損失の金額を有する場合には、当該先物取引の差金等決済に係る損失の金額に相当する金額は、政令で定めるところにより、当該確定申告書に係る年分の先物取引に係る雑所得等の金額を限度として、当該年分の当該先物取引に係る雑所得等の金額の計算上控除する旨規定している。
ホ 租税特別措置法第41条の15第3項は、同条第1項の規定は、同項に規定する居住者が先物取引の差金等決済に係る損失の金額が生じた年分の所得税につき当該先物取引の差金等決済に係る損失の金額の計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している場合であって、同条第1項の確定申告書に同項の規定による控除を受ける金額の計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する旨規定している。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件の関係者及び関係法人について
(イ) L社は、平成29年4月○日に株式及び出資持分の保有等を目的として設立された法人である。
(ロ) 請求人は、L社の設立以来、同社の取締役を務め、令和5年4月○日以後は、同社の代表取締役を務めている。
(ハ) 請求人の父であるM(以下「本件父」という。)は、L社の設立から令和5年4月○日までの間、同社の代表取締役及び取締役を務めていた。
(ニ) L社は、その設立以後、その発行済株式の全てを請求人の長男であるN(以下「本件長男」という。)が保有していることから、法人税法第2条第10号に規定する同族会社に該当する(以下、L社を「本件同族会社」という。)。
(ホ) P社は、平成15年7月○日に不動産の売買、仲介、賃貸及び管理並びに有価証券の保有及び運用等を目的として設立された法人である。
(ヘ) Q社は、昭和53年7月○日に○○を目的として設立された法人であり、その発行済株式の全部をP社が保有している。
ロ P社の第一種株式の譲渡について
請求人は、平成29年6月7日に、本件同族会社との間で、請求人が保有するP社の第一種株式3,100株を、代金2,944,590,800円で本件同族会社に譲渡する旨の契約を締結した。
ハ 本件同族会社によるR銀行からの借入れ等について
(イ) 本件同族会社は、平成29年6月29日に、R銀行との間で、要旨次の約定で、特殊当座借越契約(以下「本件融資契約1」という。)を締結し、Q社及びP社は、本件融資契約1に基づく債務を連帯保証した。
A 契約極度額 2,944,590,000円
B 契約期限 平成29年7月31日
C 利率 年○%(年365日の日割り計算)
(ロ) 本件同族会社は、平成29年6月29日に、本件融資契約1に基づき、請求金額を上記(イ)のAの契約極度額と同額、資金使途を株式取得資金、入金希望日を同月30日、利息支払方法を一括先払いとして、特殊当座借越の利用を請求し、R銀行は、同日に、本件同族会社に2,944,590,000円を支払った。
(ハ) 本件同族会社は、平成29年6月30日に、請求人に対し、上記ロの株式の代金として2,944,590,800円を支払った。
(ニ) 請求人は、平成29年6月30日に、R銀行○○支店において請求人名義の定期預金口座(口座番号○○○○)を開設し、次の約定で2,344,590,000円を預け入れた(以下「本件定期預金」という。)。
A 満期日 平成30年6月29日
B 利率 ○%
ニ 本件同族会社によるR銀行及びS銀行からの借入れ等について
(イ) 本件同族会社は、平成29年7月28日に、R銀行及びS銀行との間で、要旨次の約定で、シンジケートローン契約(以下「本件融資契約2」という。)を締結し、Q社及びP社は、本件融資契約2に基づく債務を連帯保証した。
なお、シンジケートローンとは、顧客の資金調達需要に応じ、複数の金融機関が協調してシンジケート団を組成して融資を行う資金調達手法である。
A 個別貸付Aの貸付要項
(A) 貸付金額 600,000,000円
(B) 実行日 平成29年7月31日
(C) 満期日 令和4年9月30日
(D) 資金使途 本件融資契約1による借入金の借換資金
(E) 適用利率 基準金利に○%を加算した利率
(F) 金利期間 利払日に支払う利息の計算期間
(G) 基準金利
各金利期間について、その直前の金利期間に係る利払日の2営業日前の日の午前11時又は午前11時に可及的に近い午前11時以降の時点において一般社団法人全銀協TIBOR運営機関が公表する日本円TIBOR(以下、単に「日本円TIBOR」という。)のうち、6か月に対応した利率(ただし、第1回の金利期間については、R銀行が合理的に決定する利率)
(H) 利払日
a 第1回 平成29年9月29日
b 第2回から最終回の直前回まで 平成30年3月から令和4年3月までの3月及び9月の各月末日
c 最終回 令和4年9月30日(満期日)
B 個別貸付Bの貸付要項
(A) 貸付金額 2,344,590,000円
(B) 実行日 上記Aの(B)に同じ
(C) 満期日 平成30年6月29日
(D) 資金使途 上記Aの(D)に同じ
(E) 適用利率 上記Aの(E)に同じ
(F) 金利期間 上記Aの(F)に同じ
(G) 基準金利
各金利期間について、その直前の金利期間に係る利払日の2営業日前の日の午前11時又は午前11時に可及的に近い午前11時以降の時点において公表された日本円TIBORのうち、3か月に対応した利率(ただし、第1回の金利期間については、R銀行が合理的に決定する利率)
(H) 利払日
a 第1回 平成29年9月29日
b 第2回 平成29年12月29日
c 第3回 平成30年3月30日
d 最終回 平成30年6月29日(満期日)
(ロ) 請求人は、平成29年7月28日に、本件同族会社、R銀行及びS銀行との間で、「預金債権質権設定に関する協定書」を締結し、同月31日に、R銀行及びS銀行との間で、同協定書に基づき、本件同族会社が負担する本件融資契約2の個別貸付Bの元本、利息その他一切の債務の担保として、本件定期預金に質権を設定する旨の契約を締結した。
(ハ) 本件同族会社は、平成29年7月28日に、本件融資契約2のアレンジャー兼エージェントであるR銀行に対し、アレンジメントフィーとして55,503,144円を、エージェントフィーとして10,800,000円(合計66,303,144円)を支払った。
(ニ) R銀行及びS銀行は、本件融資契約2に基づき、平成29年7月31日に、本件同族会社に対し次のとおり支払った。
A R銀行 1,944,590,000円
B S銀行 1,000,000,000円
C 合計 2,944,590,000円
(ホ) 本件同族会社は、R銀行に対し、平成29年6月30日に○○○○円を、同年7月31日に2,944,590,000円をそれぞれ支払い、本件融資契約1に基づく上記ハの(ロ)の債務全額を弁済した。
ホ 請求人の本件同族会社に対する貸付け等について
請求人は、平成30年6月29日に、本件定期預金を解約して2,344,590,000円の払戻しを受け、同日に、本件同族会社に対し、要旨次の約定で、当該払戻しと同額を貸し付けた(以下「本件貸付け」という。)。
(イ) 貸金の利息は、無利息とする。
(ロ) 元金の返済は、随時とする。
ヘ 本件融資契約2及び本件貸付けに係る債務の弁済について
(イ) 本件同族会社は、平成29年9月29日から平成30年6月29日までの間に、R銀行及びS銀行に合計○○○○円を支払い、本件融資契約2のうち上記ニの(イ)のBの個別貸付Bに係る債務全額を弁済した。
(ロ) 本件同族会社は、平成29年9月29日から令和4年9月30日までの間に、R銀行及びS銀行に合計○○○○円を支払い、本件融資契約2のうち上記ニの(イ)のAの個別貸付Aに係る債務全額を弁済した。
(ハ) 本件同族会社は、令和元年12月9日に、本件貸付けに係る上記ホの借入金2,344,590,000円のうち、344,590,000円を請求人に弁済した。
ト 本件同族会社によるR銀行からの借入れ等について
(イ) 本件同族会社は、令和5年3月13日に、R銀行との間で、要旨次の約定で、金銭消費貸借契約(以下「本件融資契約3」といい、本件融資契約1及び本件融資契約2と併せて「本件各融資契約」という。)を締結し、Q社、P社及び請求人は、本件融資契約3に基づく債務を連帯保証した。
A 借入金額
2,000,000,000円
B 資金使途
貸借清算
C 借入日
令和5年3月24日
D 最終弁済期限
令和14年9月15日
E 基準金利
各利率適用期間開始日の2営業日前に、R銀行が短期金融市場等において利率適用期間につき調達可能な金利
F 借入利率
基準金利に○%を加算した利率
G 利率適用期間
利率適用期間開始日から次回の利率適用期間開始日まで
なお、初回の利率適用期間開始日は借入日、第2回の利率適用期間開始日を令和5年6月15日とし、以降、3か月ごとに各月15日を次回の利率適用期間開始日とする。
(ロ) R銀行は、令和5年3月24日に、本件融資契約3に基づき、本件同族会社に対し、2,000,000,000円を支払い、本件同族会社は、同日に、請求人に対し、本件貸付けに係る借入金の残債務2,000,000,000円を弁済した。
(4) 審査請求に至る経緯
イ 請求人は、平成30年分ないし令和4年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、各確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載し、いずれも法定申告期限までに提出した。
ロ 請求人は、令和4年7月25日に、平成30年分ないし令和2年分の所得税等について、別表1の「修正申告1」欄のとおりとする各修正申告書を提出した。
ハ 請求人は、令和4年7月25日に、令和3年分の所得税等について、別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
ニ これに対し、原処分庁は、令和4年9月9日付で、別表1の「更正(減額)処分」欄のとおりの更正処分をした。
ホ 請求人は、令和4年11月9日に、令和3年分の所得税等について、別表1の「修正申告2」欄のとおりとする修正申告書を提出した。
ヘ 原処分庁は、令和6年2月27日付で、調査の結果に基づき、所得税法第157条第1項の規定を適用し、本件貸付けにより請求人が収受すべき利息相当額(以下「本件貸付けの利息相当額」という。)が雑所得の総収入金額に算入されるとして、本件融資契約3の利率に準じ、日本円TIBORのうち3か月に対応した利率に○%を加算した利率を基礎として本件貸付けの利息相当額を計算し、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
なお、別表1の「確定申告」欄及び「修正申告1」欄の各「翌年へ繰り越す先物取引に係る損失の金額」欄のとおり、上記イの平成30年分ないし令和2年分の所得税等の各確定申告書及び上記ロの平成30年分ないし令和2年分の所得税等の各修正申告書には、いずれも「翌年へ繰り越す先物取引に係る損失の金額」として○○○○円が記載されていたところ、別表1の「更正処分等」欄の各「翌年へ繰り越す先物取引に係る損失の金額」欄のとおり、本件各更正処分のうち、平成30年分ないし令和2年分の所得税等の各更正処分の更正通知書の別表の「翌年へ繰り越す先物取引に係る損失の金額」欄は、いずれも空欄であった。
ト 請求人は、令和6年5月24日に、原処分に不服があるとして、その全部の取消しを求めて審査請求をした。
2 争点
(1) 本件貸付けを無利息としたことは、所得税法第157条第1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するか否か(争点1)。
(2) 原処分庁が本件貸付けの利息相当額の計算の基礎とした利率は適正か否か(争点2)。
3 争点についての主張
(1) 争点1(本件貸付けを無利息としたことは、所得税法第157条第1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するか否か。)について
原処分庁 |
請求人 |
本件貸付けの約定は、無利息、無担保で、返済期限の定めもないところ、本件各融資契約の約定に照らしても、本件貸付けの約定は、本件同族会社にとって優遇されたものであり、社会通念上許容される好意的援助と評価できるものでもなく、通常の経済活動としては不自然又は不合理である。
また、本件貸付けを無利息にすることについて、合理性が推認できるような特段の事情は認められない。
したがって、本件貸付けにより、独立当事者間であれば請求人において当然収受できたであろう受取利息相当額の収入が発生しないこととなるから、本件貸付けを無利息としたことは、所得税法第157条第1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当する。
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本件同族会社には、本件融資契約2の個別貸付Bによる借入金の弁済期(満期日)において、当該借入金を弁済する資力がなく、弁済期の延長や弁済資金の調達もできなかったことから、請求人は、本件同族会社の倒産や本件定期預金に設定された質権の実行による請求人を含むJ家グループの信用失墜に伴う多額の損失を回避するための緊急かつ暫定的な対応として本件貸付けを行ったものであり、本件貸付けに租税回避の目的はなく、その貸付金額も多額ではなかった。
本件貸付けを無利息としたのは、役員の同族会社に対する貸付けは無利息で行われるのが一般的であったこと、請求人の自己資金を用いて実行したものであること、本件同族会社は、平成30年2月末日時点で○○○○円の債務超過であったこと、本件同族会社の主な収入源は、P社からの配当金であったところ、当時の事業環境は急速に悪化しており、安定して多額の配当金が支払われることを見込める状況になかったことを考慮したものであって、請求人が本件同族会社から利息を受け取らなかったとしても不自然又は不合理とはいえない。
したがって、本件貸付けを無利息としたことは、所得税法第157条第1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当しない。
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(2) 争点2(原処分庁が本件貸付けの利息相当額の計算の基礎とした利率は適正か否か。)について
原処分庁 |
請求人 |
本件貸付けの利息相当額の計算は、通常の利息付き消費貸借契約のうち、本件貸付けの契約内容に類似するものにおける利率を基準とするのが相当である。
そこで、本件同族会社が実際に独立当事者間で締結した本件各融資契約についてみると、本件融資契約1は、借入期間が1か月程度と短いため、弁済期が定められていない本件貸付けに類似するといい難く、また、本件融資契約2については、担保として本件定期預金に質権が設定されているため、担保権が設定されていない本件貸付けに類似するとはいい難い。そうすると、借入期間が9年6か月と最も長く、担保権が設定されていない本件融資契約3の契約内容が本件貸付けの契約内容に類似するから、本件融資契約3の利率を本件貸付けの利息相当額の計算の基礎とするのが適正である。
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仮に、本件貸付けを無利息としたことが所得税法第157条第1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するとしても、本件貸付けの利息相当額の計算に当たっては、次のイ又はロの利率を基礎とすべきであり、本件貸付けから約5年後に締結された本件融資契約3の利率を用いることは、独立当事者間で通常行われるべき金銭消費貸借の利率よりも不相当に高く、適正でない。
イ 請求人は、本件定期預金の払戻金を用いて本件貸付けを行ったところ、仮に、請求人が本件貸付けを行わず本件定期預金を解約しなかった場合に得られる利益は本件定期預金の利率である○%であるから、これを本件貸付けの利息相当額の計算の基礎とすべきである。
ロ 仮に、金融機関による貸付けの利率を参考にするとしても、本件貸付けは本件融資契約2の個別貸付Bの弁済原資とすることを目的として実行されたものであるから、本件融資契約2の個別貸付Bの利率を、本件貸付けの利息相当額の計算の基礎とすべきである。
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4 当審判所の判断
(1) 争点1(本件貸付けを無利息としたことは、所得税法第157条第1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するか否か。)について
イ 法令解釈
所得税法第157条第1項は、同族会社等において、これを支配する株主等の所得税の負担を不当に減少させるような行為又は計算が行われやすいことに鑑み、税負担の公平を維持するため、株主等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、これを正常な行為又は計算に引き直して当該株主等に係る所得税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものである。このような同項の趣旨、内容からすれば、同項にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、所得税の負担を減少させる結果となるものをいうと解するのが相当である。
そして、株主等からの同族会社等に対する金銭の無利息貸付けが経済的合理性を欠くものであるかどうかについては、当該貸付けの目的、金額、期間等の融資条件、無利息としたことの理由等の諸事情を総合的に考慮して判断すべきである。
ロ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件同族会社の財務状況について
A 本件同族会社の平成29年4月○日から平成30年2月28日までの事業年度(以下「平成30年2月期」という。)ないし令和4年3月1日から令和5年2月28日までの事業年度(以下「令和5年2月期」といい、本件同族会社の他の事業年度及び本件同族会社以外の会社の事業年度についても同様に表記する。)における財務状況は、別表2のとおりである。
B 別表2の「受取配当金」欄の各金額は、いずれもP社から支払われた配当金の額であり、同表の「雑収入」欄の各金額は、いずれも所得税等の還付金及びその還付加算金の額である。
(ロ) P社の財務状況について
P社の平成27年6月期から令和4年6月期における財務状況は、別表3のとおりである。
(ハ) P社の第二種株式の導入等について
A 平成29年9月7日の臨時株主総会、普通株主総会及び第一種種類株主総会
P社は、平成29年9月7日に、臨時株主総会、普通株主総会及び第一種種類株主総会を開催し、当該臨時株主総会において、要旨、下記(A)及び(B)の各議案が可決され、当該普通株主総会及び当該第一種種類株主総会において、要旨、下記(A)の議案が可決された。
また、P社の普通株式を有する株主(以下「普通株主」という。)及び第一種株式を有する株主(以下「第一種株主」という。)の全員は、同日に、下記(B)に同意した。
(A) 定款一部変更の件
第二種株式を導入するため、定款の一部を変更する。
a 発行可能種類株式総数に、第二種株式1万株を追加する。
b 剰余金の配当について、第二種株式を有する株主(以下「第二種株主」という。)に対しては、普通株主及び第一種株主に先立ち、1株につき年41,000円を支払う。
(B) 第一種株式を第二種株式に変更する件
本件同族会社の保有する第一種株式3,100株全部を第二種株式3,100株に変更する。
B 令和元年6月3日の臨時株主総会、普通種類株主総会及び第一種種類株主総会
P社は、令和元年6月3日に、臨時株主総会、普通種類株主総会及び第一種種類株主総会を開催し、これらの総会において、普通株主及び第一種株主に先立ち、第二種株主に対して配当する剰余金の額を、1株につき年41,000円から年83,000円に変更する旨の定款変更の議案が可決された。
(ニ) P社の議決権の状況について
平成30年6月29日当時、P社の発行済株式の種類及び数は、普通株式4株、第一種株式3,895株及び第二種株式3,100株であったところ、普通株主、第一種株主及び第二種株主のうち、株主総会における議決権を有するのは普通株主のみであり、請求人、本件父、本件長男及び請求人の母であるTが、それぞれ1株ずつ普通株式を保有していた。
ハ 検討
(イ) 上記1の(3)のホ及びヘの(イ)によれば、本件貸付けは、本件融資契約2の個別貸付Bに係る債務の弁済を目的に行われたものと認められるところ、同ホのとおり、本件貸付けは、2,344,590,000円という多額に及ぶ金銭を、無利息、無期限、無担保で貸し付けるものであって、その融資条件は、独立かつ対等で相互に特殊の関係のない当事者間で通常行われる取引とは大いに異なるというべきである。
(ロ) また、上記1の(3)のイの(イ)、上記ロの(イ)のB及び別表2のとおり、設立から令和5年2月期までにおける本件同族会社の収入は、そのほとんどがP社の株式の配当金であるところ、上記1の(3)のニの(ハ)及び別表2のとおり、本件同族会社は、平成30年2月期は、本件融資契約2の組成に伴う合計約6,600万円のアレンジメントフィー等の支払によって○○○○円余りの経常損失を計上したものの、上記ロの(ハ)のAのとおり、平成29年9月7日に開催されたP社の臨時株主総会等において、本件同族会社の保有する第一種株式3,100株全部が第二種株式に変更されるとともに、第二種株主には、普通株主及び第一種株主に先立ち、1株につき年41,000円の剰余金を配当することとされたことにより、本件貸付けの日である平成30年6月29日当時においては、本件同族会社にP社から127,100,000円の配当金が支払われることが見込まれており、現に、別表2のとおり、本件同族会社は、平成30年6月29日を含む平成31年2月期に、P社から127,100,000円の配当金の支払を受けている。また、令和2年2月期以降は、上記ロの(ハ)のBのとおり、P社において、第二種株式1株につき普通株主及び第一種株主に先立って配当する剰余金の額が、年41,000円から年83,000円におよそ倍増されたことに伴い、別表2のとおり、本件同族会社の受取配当金は年間257,300,000円になっている。これに対して、本件同族会社は、別表2のとおり、支払利息として平成30年2月期に○○○○円、平成31年2月期に○○○○円を計上しているが、令和2年2月期以降は、○○○○円から○○○○円程度にとどまっており、その結果、平成31年2月期以降は、年約○○○○円から約○○○○円の経常利益を計上していた。これに伴って、別表2のとおり、本件同族会社の純資産合計は、平成30年2月末日時点では○○○○円の債務超過であったものの、平成31年2月末日時点には○○○○円の資産超過に転じて、その後は大幅に増加し、令和5年2月末日時点では、○○○○円の資産超過であった。このような本件同族会社の財務状況を踏まえると、本件貸付けの当時、本件貸付けを無利息としなければ本件同族会社に倒産の危険があったとはいえず、請求人が本件同族会社に対して無利息で本件貸付けをすることに合理的な理由を見出すことはできない。
(ハ) 以上の諸事情を総合すると、本件貸付けを無利息にしたことは、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、請求人の所得税の負担を減少させる結果となるものであると認められるから、所得税法第157条第1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するというべきである。
ニ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、本件同族会社の倒産や本件定期預金に設定された質権の実行等により請求人を含むJ家グループの信用失墜に伴う多額の損失を回避するための緊急かつ暫定的な対応として本件貸付けを行った旨主張する。
しかしながら、本件同族会社の倒産や本件定期預金に設定された質権の実行(本件融資契約2の個別貸付Bの債務不履行)を回避するために、請求人が本件同族会社に弁済資金を貸し付ける必要があったとしても、本件同族会社の財務状況を踏まえると、これを無利息とする合理的な理由が見出せないことは上記ハの(ロ)のとおりである。
(ロ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、本件貸付けを無利息としたのは、@役員の同族会社に対する貸付けは無利息で行われるのが一般的であったこと、A請求人の自己資金を用いて実行したものであること、B本件同族会社は、平成30年2月末日時点で○○○○円の債務超過であったこと、CP社から多額の配当金が支払われることが見込める状況になかったことを考慮したものであり、無利息としても不自然又は不合理とはいえない旨主張する。
しかしながら、上記@及びAについて、23億円余りという多額の金銭を無期限、無担保で貸し付けるに当たり、利息付きとすれば本件同族会社に倒産の危険があるとはいえないにもかかわらず、本件貸付けを無利息とすることに経済的合理性がないことは上記ハのとおりであり、同族会社の役員が当該会社に無利息で貸付けを行う事例が存在することや、本件貸付けの原資が請求人の自己資金であることは、この判断を左右するものではない。
また、上記Bについて、本件同族会社が、平成30年2月末日時点で債務超過であったとしても、別表2のとおり、本件貸付けの日である平成30年6月29日を含む平成31年2月期において、1億円を超える配当金を得て約○○○○円の経常利益及び約○○○○円の資産超過額を計上するとともに、令和2年2月期以降も○○○○円を超える経常利益を計上し、資産超過額も年々増加していることからすれば、本件同族会社は、本件貸付けの時点において、本件貸付けを無利息としなければ倒産の危険がある財務状況にあったとはいえない。
さらに、上記Cについて、P社は、別表3のとおり、平成27年6月期は約○○○○円、平成28年6月期は約○○○○円、平成29年6月期は約○○○○円と多額の利益剰余金を計上していること、平成29年6月期の経常利益の額は○○○○円以上であること、平成29年6月末日時点において現金及び預金を○○○○円以上保有していたことなどからすると、本件貸付けの時点において、相当額の剰余金を株主に配当できる財務状況であったといえ、その後もP社の経常利益は堅調に推移していることからしても、本件貸付けの時点において、数年以内に剰余金の配当が不可能になるほどP社の財務状況が悪化するとは具体的に見込まれていなかったものと認められる。そして、上記1の(3)のイの(ロ)ないし(ニ)及び上記ロの(ニ)のとおり、本件貸付けの時点において、P社の株主総会における議決権の4分の3を、本件同族会社の取締役である請求人、本件同族会社の代表取締役である本件父、本件同族会社の全株式を保有する本件長男が保有していたことも踏まえると、本件貸付けの時点において、本件同族会社は、本件貸付けを利息付きとしてもその利息を賄える程度の配当金を、P社から得られる見込みが十分にあったというべきである。
(ハ) 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がない。
(2) 争点2(原処分庁が本件貸付けの利息相当額の計算の基礎とした利率は適正か否か。)について
イ 法令解釈
所得税法第157条第1項に規定する同族会社の行為又は計算とは、同族会社と株主等との間の取引行為を全体として指し、その両者間の取引行為が客観的にみて経済的合理性を有しているか否かという見地から判断すべきことからすれば、本件貸付けを引き直すべき標準的な行為又は計算としても、相互に特殊の関係のない個人の法人に対する貸付行為全体と解すべきであるところ、通常の個人が特殊の関係のない法人に金員を貸し付けるに当たり、当該法人が金融機関から当該金員を借り入れる際に必要な利率と同様の利率を付することは、経済的合理性が認められるから、同族会社が実際に金融機関から借り入れた際の金利を基礎として個人の雑所得を計算することには、合理性が認められるものというべきである。
ロ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) Q社の平成29年6月期ないし令和4年6月期の財務状況は、別表4のとおりである。
(ロ) 日本円TIBORは、本邦無担保コール市場の実勢を反映した利率であり、本邦無担保コール市場とは、日本において、民間金融機関が短期的な資金の過不足を調整する無担保での貸し借りの場である。
(ハ) 日本円TIBORは、1週間、1か月、2か月(平成31年3月29日までで公表終了)、3か月、6か月及び12か月に対応した利率が公表されているところ、3か月に対応した利率は、本件貸付けの日である平成30年6月29日時点で0.06909%であり、その後、本件融資契約3の借入日である令和5年3月24日までの間、上限0.08727%から下限0.05364%の範囲で推移した。
ハ 検討
(イ) 参照すべき本件各融資契約の利率について
A 上記イによれば、本件貸付けの利息相当額を、本件同族会社が金融機関から本件貸付けに係る元本を借り入れる際に必要な利率と同様の利率(以下「本件貸付けの標準的な利率」という。)を基礎として計算することには合理性が認められるところ、本件同族会社は、実際に金融機関と本件各融資契約を締結していることから、本件貸付けの標準的な利率の検討に当たり、本件貸付けと本件各融資契約の各融資条件等を比較検討してみるに、まず、貸付金額及び貸付期間についてみると、上記1の(3)のハの(イ)及び(ロ)、ニの(イ)並びにトの(イ)のとおり、本件融資契約1に基づく貸付金額は2,944,590,000円で貸付期間は1か月、本件融資契約2の個別貸付Aの貸付金額は600,000,000円で貸付期間は5年2か月、本件融資契約2の個別貸付Bの貸付金額は2,344,590,000円で貸付期間は11か月、本件融資契約3の貸付金額は2,000,000,000円で貸付期間は約9年6か月である。
これに対し、上記1の(3)のホのとおり、本件貸付けの貸付金額は2,344,590,000円で、貸付金額の点では本件融資契約1、本件融資契約2の個別貸付B及び本件融資契約3と類似していると認められ、本件貸付けには弁済期の定めがなく、同トの(ロ)のとおり、本件貸付けに係る債務が完済されたのは貸付けから約4年9か月後であったことに鑑みると、貸付期間の点では、相応の長期間の貸付けである本件融資契約2の個別貸付Aや本件融資契約3と類似していると認められる。そうすると、本件貸付けの融資条件は、貸付金額及び貸付期間の点で、本件各融資契約のうち、本件融資契約3との類似性が高いものと認められる。
B 次に、担保の状況を踏まえて検討するに、本件貸付けは無担保であるところ、上記1の(3)のトの(イ)のとおり、本件融資契約3の担保は、Q社、P社及び請求人の連帯保証である。
Q社は、上記1の(3)のイの(ヘ)のとおり、○○を目的として設立された法人であるところ、別表4のとおり、Q社の売上高の9割以上を○○売上高が占めており、○○売上高は平成29年6月期には○○○○円を超え、令和4年6月期には○○○○円程度にまで減少したものの、依然として非常に大きな事業規模を維持し、経常利益についてみても、平成29年6月期には○○○○円以上、令和4年6月期においても○○○○円程度が計上されており、純資産合計は平成29年6月期から令和4年6月期までの間に約148億円から約180億円の資産超過で推移している。
また、P社は、上記1の(3)のイの(ホ)のとおり、不動産の売買、仲介、賃貸及び管理並びに有価証券の保有及び運用等を目的として設立された法人であるところ、別表3のとおり、P社の売上高の8割程度を賃貸料収入が占めており、賃貸料収入は平成29年6月期が○○○○円以上、令和4年6月期が○○○○円以上とその事業規模は大きく、平成29年6月期から令和4年6月期まで約○○○○円から約○○○○円の経常利益が計上され、純資産合計は同期間で約41億円から約66億円の資産超過で推移している。
以上によれば、Q社及びP社の信用力は高く、両社による連帯保証がなく、無担保である本件貸付けの標準的な利率は、両社の連帯保証が付されている本件融資契約3の利率と比較して、相当程度高くなるというべきである。
C さらに、本件同族会社の信用力について検討するに、本件同族会社の純資産合計は、別表2のとおり、本件貸付けが行われた平成30年6月に近い同年2月末日時点では○○○○円の債務超過であるのに対し、本件融資契約3が締結された令和5年3月に近い同年2月末日時点では○○○○円の資産超過であり、本件貸付け当時の本件同族会社の信用力は、本件融資契約3の締結時よりも低いと考えられることから、本件貸付けの標準的な利率は、本件融資契約3の利率よりも一般的に高くなるといえる。
D 以上のとおり、本件貸付けの融資条件は、貸付額及び貸付期間の点で、本件各融資契約のうち本件融資契約3の融資条件との類似性が高く、本件貸付けの担保の状況及び本件同族会社の信用力を考慮すると、本件貸付けの標準的な利率は、本件融資契約3の利率を下回ることはないものといえるから、本件貸付けの利息相当額の計算に当たり、本件融資契約3の利率を参照することには合理性があるものと認められる。
(ロ) 日本円TIBORのうち3か月に対応した利率を用いたことについて
A 上記1の(3)のトの(イ)のとおり、本件融資契約3の利率は、各利率適用期間開始日の2営業日前に、R銀行が短期金融市場等において利率適用期間につき調達可能な金利に、○%を加算した利率であるところ、同(4)のヘのとおり、原処分庁は、日本円TIBORのうち3か月に対応した利率に○%を加算した利率を本件貸付けの利息相当額の計算の基礎としているから、この合理性について以下検討する。
B 上記ロの(ロ)のとおり、日本円TIBORは、日本において、民間金融機関が短期的な資金の過不足を調整する無担保での貸し借りの場である本邦無担保コール市場の実勢を反映した利率であるから、「各利率適用期間開始日の2営業日前に、R銀行が短期金融市場等において利率適用期間につき調達可能な金利」は、日本円TIBORの利率と近似したものになると考えられる。
そして、上記1の(3)のトの(イ)のGのとおり、本件融資契約3の利率適用期間は、利率適用期間開始日から、そのおおむね3か月後である次回の利率適用期間開始日までであることからすれば、日本円TIBORのうち、3か月に対応した利率を用いるのが相当である。
C 以上によれば、原処分庁が、本件貸付けの利息相当額の計算の基礎として、日本円TIBORのうち3か月に対応した利率に○%を加算した利率を用いたことは、本件融資契約3の利率に準じる利率を用いたものとして、合理性があるものと認められる。
(ハ) 小括
以上のことから、原処分庁が本件貸付けの利息相当額の計算の基礎とした利率は適正である。
ニ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、本件貸付けの利息相当額の計算に当たっては、本件定期預金の利率又は本件融資契約2の個別貸付Bの利率を基礎とすべきであり、本件貸付けから約5年後に締結された本件融資契約3の利率を用いることは適正でない旨主張する。
(ロ) しかしながら、本件貸付けは、上記1の(3)のイの(ロ)及び同ホのとおり、請求人が役員を務める会社に、無担保かつ無期限で多額の金銭を貸し付けるものであって、金融機関との間の預金契約である本件定期預金と比べて、回収不能となるリスクが高いというべきであるから、本件貸付けの標準的な利率を本件定期預金の利率と同様とすることは相当でない。
また、上記ハの(イ)のAのとおり、本件融資契約2のうち、個別貸付Aは貸付金額の点で、個別貸付Bは貸付期間の点で本件貸付けと融資条件が異なっており、本件貸付けの標準的な利率を検討するに当たり、本件融資契約2の利率を参照することは相当でない。
さらに、上記ロの(ハ)のとおり、平成30年6月29日(本件貸付けの日)から令和5年3月24日(本件融資契約3の借入日)までの間の日本円TIBORの3か月に対応した利率は、上限0.08727%から下限0.05364%という低い利率で推移し、特段の変動がみられないことからすると、本件貸付けの標準的な利率も、同期間において特段の変動がなかったものと認められるから、本件融資契約3が本件貸付けから約5年後に締結されたものであることを踏まえても、上記ハの(イ)のDのとおり、本件貸付けの標準的な利率は、本件融資契約3の利率を下回らないと認められる。
(ハ) したがって、請求人の主張は理由がない。
(3) 本件各更正処分の適法性について
イ 上記(1)のとおり、本件貸付けを無利息としたことは、所得税法第157条第1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するから、同項の規定が適用され、また、上記(2)のとおり、原処分庁が本件貸付けの利息相当額の計算の基礎とした利率は適正と認められる。
これらに基づき、請求人の本件各年分の総所得金額、先物取引に係る雑所得等の金額、一般株式等の譲渡所得の金額及び所得税等の納付すべき税額を計算すると、いずれも本件各更正処分の金額と同額となる。
ロ なお、上記1の(4)のヘのとおり、本件各更正処分のうち、平成30年分ないし令和2年分の所得税等の各更正処分の更正通知書の別表の「翌年へ繰り越す先物取引に係る損失の金額」欄はいずれも空欄であったところ、当審判所の調査によれば、請求人は、平成30年分の所得税等について「先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書」の添付がある確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して令和元年分及び令和2年分の所得税等の確定申告書を提出しており、平成30年分ないし令和2年分の所得税等の各確定申告書に、それぞれ、「平成30年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表〔先物取引に係る繰越損失用〕」、「令和1年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表〔先物取引に係る繰越損失用〕」及び「令和2年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表〔先物取引に係る繰越損失用〕」の添付があるなど、租税特別措置法第41条の15に規定する要件を満たしており、平成30年分において生じた先物取引に係る損失の金額をその年の翌年以後3年以内の各年分に繰り越すことができない事情はみられない。
したがって、請求人の平成30年分ないし令和2年分の所得税等における「翌期へ繰り越す先物取引に係る損失の金額」は、いずれも○○○○円と認められるから、本件各更正処分のうち、平成30年分ないし令和2年分の所得税等の各更正処分の一部を別紙1ないし別紙3の各「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
ハ また、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
ニ したがって、本件各更正処分のうち、令和3年分及び令和4年分の所得税等の各更正処分はいずれも適法である。
(4) 本件各賦課決定処分の適法性について
イ 上記(3)のイのとおり、本件各更正処分における所得税等の納付すべき税額の計算に誤りはなく、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第5項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。
ロ そして、当審判所の調査によれば、請求人は、令和3年12月31日分及び令和4年12月31日分において、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第6条の2(令和4年法律第4号による改正前のもの)《財産債務調書の提出》第1項に規定する財産債務調書を提出しておらず、請求人が提出した平成30年12月31日分、令和元年12月31日分及び令和2年12月31日分の各財産債務調書には、本件貸付けに係る貸付金の記載がない。そのため、請求人の過少申告加算税については、同法第6条の3(平成30年分及び令和元年分については令和2年法律第8号による改正前のもの。令和2年分、令和3年分及び令和4年分については令和4年法律第4号による改正前のもの)《財産債務に係る過少申告加算税又は無申告加算税の特例》第2項の規定により計算した額が、国税通則法第65条第1項に基づき計算した額に加算されることになる。
ハ 以上に基づき、請求人の本件各年分の所得税等に係る過少申告加算税の額を計算すると、いずれも本件各賦課決定処分の金額と同額となる。
したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
(5) 結論
よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。
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別表1 審査請求に至る経緯(省略)
別表2 本件同族会社の財務状況(省略)
別表3 P社の財務状況(省略)
別表4 Q社の財務状況(省略)
別紙1から別紙3(省略)