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(令和7年3月17日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、原処分庁が、納税者F(以下「本件滞納者」という。)の滞納国税を徴収するため、審査請求人(以下「請求人」という。)が占有していた動産(○○○○)の引渡命令処分を行ったのに対し、請求人が、当該動産は参加人の所有物である可能性があるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
また、本件滞納者は、参加人の設立者であり、唯一の株主及び唯一の取締役(○○○○では「○○○○」という。)であったが、令和○年○月○日付のH高等裁判所の命令により、Jらが、参加人の株式の共同管財人となり、また、取締役となって、以後、同人らが参加人を経営している。
そのため、本件滞納者は、令和○年○月○日に取締役を解任された。
請求人及び参加人は、平成25年○月○日付で、請求人を受寄者、参加人を寄託者とする要旨次のとおりの寄託契約(以下「本件寄託契約」という。)を締結した。
なお、本件寄託契約の契約書(以下「本件寄託契約書」という。)には、寄託物が参加人に帰属する旨の記載も、所有者についての定めもない。
また、本件寄託契約書の別紙「寄託物目録」には、寄託物目録は別途作成するものとするとのみ記載されている。
参加人は、請求人に対し、別紙「寄託物目録」記載の物件(以下「本件寄託物」という。)を寄託し、請求人は、参加人に代わってその保管をするためにこれを受領した。
請求人は、本件寄託物を、Gにおいて保管する。
請求人は、本件寄託物を、G又は参加人及び請求人が合意する場所において、○○することができるものとする。これにより、請求人は、参加人に対して、本件寄託契約に基づく寄託料及び本件寄託物の保管に要する費用(○○料を含む。)を一切請求しないものとする。
本件寄託契約に基づく本件寄託物の保管期間は、平成25年○月○日から平成○年○月○日までとする。ただし、保管期間の満了1か月前までに参加人及び請求人いずれかからの申出がない場合には、更に期間を1年間延長し、その後も同様とする。
(4) 審査請求に至る経緯
2 争点
本件各動産は、本件各引渡命令処分時において本件滞納者の所有財産であるか否か。
3 争点についての主張
(1) 原処分庁の主張
本件各動産は、次のイ及びロの理由から、本件各引渡命令処分時において本件滞納者の所有財産である。
(2) 請求人の主張
請求人は、本件滞納者が本件各動産の所有権を取得したか否かや、本件滞納者から参加人に本件各動産の所有権が移転したか否かについては、不知である。
しかしながら、本件各動産は、請求人が、本件寄託契約に基づき、参加人から寄託を受けてGで保管していたことからすると、本件各動産は参加人の所有財産である可能性がある。
(3) 参加人の主張
本件各動産は、次のとおり、本件各引渡命令処分時において参加人の所有財産である。
このような参加人やGの設立経緯等からすれば、Gに寄託された○○○○の一部のみ本件滞納者の個人所有とすることは不合理であり、本件寄託契約の成立後も、参加人が○○○○を取得する度に随時、○○○○が寄託されたと考えられるから、Gの所蔵する○○○○は全て参加人の所有物である。
また、本件各動産のうち別表2の項番1から項番12までの各動産以外の各動産が上記寄託物目録等に記載されていないのは、その取得時期が上記寄託物目録等の作成時期の後であったからである。したがって、本件各動産のうち上記寄託物目録等に記載されていないものについて、本件滞納者の所有が推認されることはなく、本件寄託契約の存在や内容、購入時期や上記イの参加人設立等の経緯に照らすと、これらも全て参加人の所有物である。
4 当審判所の判断
(1) 認定事実
請求人及び参加人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
なお、本件平成23年○月売買契約に係る契約書には、売却する○○○○の目録等は添付されていない。
また、参加人は、平成25年1月1日から同年12月31日まで及び平成26年1月1日から同年12月31日までの各事業年度の各財務諸表においても、参加人の資産(長期投資)として「○○○○」を○○○○ドルと計上した。
本件寄託契約書では、上記1の(3)のロのとおり、寄託物目録は別途作成するものとするとされており、具体的な○○○○の名称や点数等は本件寄託契約書上記載されていない。
本件取引先1は、本件動産1を、本件滞納者の自宅又は本件滞納者の指示によりGに納品した。
本件取引先1は、本件動産1の売買について、契約書を作成しておらず、納品後、時期を見て上記請求書を作成した。
本件取引先1は、上記の支払を受け、本件滞納者に対し、本件滞納者を宛名とする別表3の「売買代金領収日」欄記載の各日付の各領収書を交付した。
本件取引先2は、本件動産2を、主に本件滞納者の自宅へ納品したが、後日、本件滞納者の指示で、Gに移動したこともあった。
上記のクレジットカードの利用料金の引落口座は、本件滞納者名義の預金口座である。
本件動産2の売買につき、契約書は作成されていない。
本件滞納者は、参加人に対し、平成27年○月から平成29年○月にかけて、別表5の「契約日」欄記載の各日に同表の「貸付金額」欄記載の金員を貸し付けた。
本件滞納者は、本件各引渡命令処分前の令和5年2月16日、原処分庁所属の徴収担当職員に対し、「説明書」と題する書面を提出して、本件平成23年○月売買契約により本件滞納者は参加人に対して平成23年○月○日に○○○○を売却しており、また、上記ホの貸付金が参加人による○○○○の購入原資に充てられた可能性があるため、本件各動産を含めてGに所蔵されている○○○○は全て参加人の所有物であると主張し、その裏付け資料として、平成24年○月○日付、平成25年○月○日付及び平成26年○月○日付の本件確認書を提出した。
本件確認書は、いずれも、書面の上段において、参加人が請求人に対し、本件確認書作成日時点において、「当社の○○○○(別紙付表参照)がGに所蔵されていたことをご確認ください。」との確認を求め、書面の下段において、請求人が、参加人記載の内容は請求人の記録等と一致している旨記載するものである。
平成26年○月○日付の本件確認書の次葉には、「Gで保管されている○○○○リスト」と題する書面(以下「本件○○○○リスト」という。)がつづられていた。本件○○○○リストには○点が記載されており、本件各動産のうち別表2の項番1から項番12までの各動産(ただし、「Gによる保管時の○○○○」による。)は、本件○○○○リストに含まれている。
Gにおいて所蔵していた○○○○は、全てがGの○○○○までに納品されたものではなく、その後追加で納品されたものもあるが、請求人においては、どの○○○○がいつ納品されたかの記録は作成しておらず、本件各動産が所蔵されるようになった時期も不明である。○○○○のGへの納品については、業者が行っており、請求人は関与していなかった。
請求人は、本件各動産を含むGに所蔵されている○○○○は、本件○○○○リスト作成後に所蔵されることになったものも全て、本件寄託契約の対象となっていたと認識している。
(2) 検討
本件の争点である本件各動産の帰属につき、原処分庁は、上記3の(1)のとおり、@本件滞納者が本件各動産を本件各取引先から購入しており、Aその後に本件滞納者が参加人に対してその所有権を移転させたとは認められないから、本件各引渡命令処分時において本件滞納者に帰属すると主張し、これに対し、請求人及び参加人は、@については具体的に争わず、参加人が本件各動産の所有者である又はその可能性があると主張している。
そこで以下、まず、本件滞納者が本件各取引先から本件各動産を購入した事実が認められるか否かを検討し、次いで、当該事実が認められる場合、本件滞納者が、本件各引渡命令処分までの間に、参加人などの第三者へ本件各動産の所有権を移転した事実が認められるか否かを検討する。
このような本件動産1の購入経緯や請求書等の宛名、支払名義等に照らせば、本件取引先1から本件動産1を購入したのは、本件滞納者であると認められる。
なお、本件動産1については、請求書の作成に先立って納品が行われており、契約書も作成されていないため、納品に先立つ売買契約成立の日は明確ではないが、請求書は一番時期が早いもので平成25年○月に作成されており、売買契約締結から請求書作成までに1年以上が経過することは考え難いため、本件動産1の売買契約が成立したのは、少なくとも本件平成23年○月売買契約によって本件滞納者が参加人に○○○○を売却した平成23年○月○日より後であると認めるのが相当である。
このような本件動産2の購入経緯や支払方法等に照らせば、本件取引先2から本件動産2を購入したのは、本件滞納者であると認められる。
上記イの(イ)のとおり、本件滞納者が本件動産1を購入したのは、平成23年○月○日より後であり、本件動産2を購入したのは、別表4の「売買契約日」欄記載のとおり、平成26年○月以降であるから、本件各動産は、本件平成23年○月売買契約の対象に含まれていたとは認められない。
そして、上記(1)のイの(ハ)のとおり、参加人の設立時から平成26年12月31日までの合計○期の財務諸表に計上されていた○○○○の金額は、本件平成23年○月売買契約の売買代金である○○○○ドルから変動がなかったのであるから、当該事実は、平成26年12月31日までの間に、参加人の所有する○○○○に変動がなかったことを示すものである。また、上記(1)のホの本件滞納者が参加人に対し平成27年○月○日以降に貸し付けた金員が、○○○○の購入に充てられたことを裏付ける客観的な証拠はない。さらに、上記1の(3)のロのとおり、本件寄託契約書には、寄託物の帰属に関する定めはなく、そのほか、本件平成23年○月売買契約以外に本件滞納者と参加人との間で作成された○○○○に関する売買契約書は見当たらず、参加人から本件滞納者へ○○○○の対価が支払われたことを示す入金記録等も見当たらない。
以上によれば、本件滞納者が、本件各引渡命令処分までの間に、本件各動産の所有権を参加人に移転したとは認められない。
なお、上記(1)のヘのとおり、平成26年○月○日付の本件確認書の次葉につづられていた本件○○○○リストには、別表2の項番1から項番12までの各動産が記載されており、本件確認書には、「当社の○○○○(別紙付表参照)」との表現が用いられている。また、上記(1)のトのとおり、請求人は、本件各動産を含めてGで所蔵する○○○○は全て本件寄託契約に基づいて保管していると認識していた。
しかしながら、本件確認書は、その内容に照らせば、その目的はGが○○○○を保管している事実を確認することにあり、○○○○の所有権の帰属の確認を目的とするものとは認められないし、また、上記1の(3)のイの(ハ)のとおり、令和5年まで、本件滞納者が参加人の唯一の株主及び唯一の取締役であったことに鑑みると、本件滞納者、請求人及び参加人が、○○○○について参加人所有か本件滞納者所有かを厳密に区別することなく取り扱っていたとしても不自然とはいえないから、上記のとおり、本件平成23年○月売買契約以外の売買契約の締結を裏付ける客観的証拠がない本件において、これらの事実をもって、本件各動産の所有権が本件滞納者から参加人に移転した事実を認定するには足りないといわざるを得ない。
そのほか、本件滞納者が、本件各引渡命令処分時までの間に、本件各動産の所有権を参加人以外の第三者に移転したと認めるに足りる証拠もない。
以上によれば、本件滞納者が、本件各引渡命令処分までの間に、本件各動産の所有権を移転したとは認められない。
以上のとおり、本件各動産は、本件滞納者が取得したものと認められ、その後、参加人を含む第三者に譲渡したとは認められないから、本件各動産は、本件各引渡命令処分時において本件滞納者の所有財産であったと認められる。
(3) 請求人の主張について
請求人は、上記3の(2)のとおり、参加人から本件寄託契約に基づき本件各動産の寄託を受け、Gにて保管しているとして、本件各動産は参加人の所有財産である可能性がある旨主張する。
しかしながら、本件滞納者と参加人との関係性からして、本件滞納者の所有物と参加人の所有物を厳密に区別していなくても不自然とはいえないこと等に照らせば、請求人が本件各動産について本件寄託契約に基づいて保管している又はその認識があるとしても、これをもって本件各動産が参加人の所有財産であると認めるに足りないことは、上記(2)のロのとおりである。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(4) 参加人の主張について
参加人は、上記3の(3)のとおり、@本件滞納者が収集した○○○○を所有及び管理させる資産管理会社として参加人を設立したことやGの設立経緯等からすれば、Gに寄託された○○○○の一部のみ本件滞納者の個人所有とすることは不合理であること、A本件寄託契約において別途作成することとされていた寄託物目録には、本件各動産の一部が含まれており、本件確認書においてこれを含む○○○○が「○○○○」と表現されていること、それ以外の本件各動産は同目録等作成の後に取得されたものであることなどから、Gの所蔵する○○○○は全て参加人の所有物であると主張する。
しかしながら、@については、仮に参加人主張のとおりの参加人やGの設立経緯等があったとしても、本件滞納者が取得しGに所蔵されていた○○○○の全てを参加人の所有物としなくても、不合理とまではいえない。また、Aについては、参加人は、本件○○○○リストが本件寄託契約の目録であると主張するようであるが、上記1の(3)のロのとおり本件寄託契約書には寄託物の帰属に関する記載はなく、本件滞納者と参加人との関係性も踏まえると、本件○○○○リストの記載や本件確認書の文言をもって、本件各動産の所有権が本件滞納者から参加人に移転したと認めるに足りないことは、上記(2)のロのとおりである。
したがって、参加人の主張には理由がない。
(5) 原処分の適法性について
以上のとおり、本件各動産の所有権は、本件滞納者に帰属するところ、本件各引渡命令処分は、@請求人が原処分時において徴収法施行令第14条に規定する本件滞納者を判定の基礎として同族会社に該当する会社に当たらないこと(上記1の(4)のロ)、A請求人は、原処分庁所属の徴収担当職員が本件各動産を引き渡すように求めたところ、これを拒んだこと(上記1の(4)のホ)、B本件滞納者は、本件各動産の他に換価が容易であり、かつ、本件滞納国税の全額を徴収することができる財産を有していたとは認められないこと(上記1の(4)のヘ)から、徴収法第58条の規定に照らして適法になされている。
また、本件各引渡命令処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件各引渡命令処分はいずれも適法である。
(6) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 本件滞納国税の明細(令和5年9月19日現在)(省略)
別表2 本件各動産の明細(省略)
別表3 本件取引先1と本件滞納者の本件動産1に係る売買契約の概要(省略)
別表4 本件取引先2と本件滞納者の本件動産2に係る売買契約の概要(省略)
別表5 本件滞納者を貸主、参加人を借主とする金銭貸付契約の概要(省略)