(令和7年4月11日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の職員の調査を受けて、所得税等の修正申告及び消費税等の期限後申告をしたところ、原処分庁が、所得税等及び消費税等に係る重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はないとして、原処分のうち過少申告加算税又は無申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条(令和6年法律第8号による改正前のもの。以下同じ。)《重加算税》第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
ロ 通則法第68条第2項は、通則法第66条(令和5年法律第3号による改正前のもの)《無申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるベき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
ハ 消費税法第5条《納税義務者》第1項は、事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある旨、同法第9条(令和5年10月1日施行の平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項本文は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者については、同法第5条第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨、及び、同法第2条《定義》第1項第14号は、基準期間とは、個人事業者についてはその年の前々年をいう旨それぞれ規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ 請求人は、清掃業を営む個人事業者である(以下、請求人が営む事業を「本件事業」という。)。
ロ 請求人は、平成30年9月10日、本件事業を同月○日に開業した旨を記載した個人事業の開業届出書を原処分庁に提出した。
ハ 請求人は、平成30年9月10日、所得税の青色申告承認申請書を原処分庁に提出し、平成30年分以後の所得税について、青色申告の承認を受けた。
ニ 請求人は、平成30年分、令和元年分、令和2年分、令和3年分及び令和4年分(以下、令和元年分から令和4年分までを併せて「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、青色の各確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、令和元年分及び令和2年分は国税庁長官が定めた期限までに、平成30年分、令和3年分及び令和4年分は法定申告期限までに、原処分庁にそれぞれ提出した(以下、本件各年分の所得税等の各確定申告書を「本件各確定申告書」という。)。
ホ 請求人は、令和3年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「令和3年課税期間」といい、他の課税期間についても同様に表記する。)及び令和4年課税期間(以下、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、いずれも法定申告期限までに確定申告書を提出しなかった。
ヘ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、令和5年11月15日、請求人に対して税務調査(以下「本件調査」という。)を行う旨通知し、同月16日以降、本件調査を実施した。
ト 請求人は、本件調査担当職員から要請を受けたことから、令和5年12月5日、請求人が、平成30年分及び本件各年分に係る本件事業の作業日付、現場名、作業内容、売上げ並びにその入金状況を記載していたノート(以下「本件ノート」という。)及び売上げに係る領収書控を、請求人の税務代理人を通じて本件調査担当職員に提出した。
チ 請求人は、令和5年12月18日、本件各年分の所得税等の各確定申告において売上金額が過少となっていたこと、及び、本件各課税期間において消費税等の課税事業者に該当することなどから、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した本件各年分の所得税等の各修正申告書及び別表2の「確定申告」欄のとおり記載した本件各課税期間の消費税等の各期限後申告書を原処分庁にそれぞれ提出した。
リ 本件調査担当職員は、令和5年12月21日、請求人の自宅に臨場し、本件調査を実施したところ、請求人から本件事業に係る経費の領収書等の提出を受けた。
ヌ 請求人は、令和6年1月26日、本件調査の結果の説明を受けたことから、同年2月2日、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した平成30年分の所得税等の修正申告書を原処分庁に提出した。
ル 原処分庁は、本件調査に基づき、請求人に通則法第68条第1項及び第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったなどとして、令和6年2月29日付で、別表1及び別表2の各「賦課決定処分」欄のとおり、本件各年分の所得税等に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(このうち、重加算税の各賦課決定処分について、以下「本件所得税等各賦課決定処分」という。)並びに本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分(以下「本件消費税等各賦課決定処分」という。)をした。
ヲ 請求人は、上記ルの各処分のうち、所得税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分については争わないものの、本件所得税等各賦課決定処分については過少申告加算税相当額を超える部分を、本件消費税等各賦課決定処分については無申告加算税相当額を超える部分をそれぞれ不服として、令和6年4月18日に審査請求をした。

2 争点

 請求人に、通則法第68条第1項及び第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
以下のとおり、請求人に、通則法第68条第1項及び第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があった。 以下のとおり、請求人に、通則法第68条第1項及び第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はなかった。
(1) 所得税等について (1) 所得税等について
イ 隠蔽又は仮装の行為があったといえることについて
 請求人は、本件事業に係る売上金額を本件ノートに正しく記載しており、本件ノートから売上金額を月ごとに集計し、下書用の所得税青色申告決算書(一般用)(以下「本件下書用決算書」という。)又は本件ノートに記載していたことから、本件各年分の各月の売上金額及び総収入金額を把握していた。また、請求人は、本件事業に係る経費を自ら集計していたことから、本件各年分の確定申告前には、本件事業に係る実際の所得金額を容易に把握し得た。
 それにもかかわらず、請求人は、本件各年分の本件事業に係る総収入金額が実際よりも少額になるよう各月の売上金額を調整して、実際の売上金額よりも過少に申告しており、請求人自身も、このような申告は、納税額を少なくするためという意図的なものであった旨認めている。そのうえ、請求人が、本件事業の開業年から継続して、本件各確定申告書及びこれらに添付された各所得税青色申告決算書(一般用)(以下「本件各決算書」といい、本件各確定申告書と併せて「本件各確定申告書等」という。)に実際の売上金額よりも過少に記載していたことも踏まえると、このような記載は、所得税等の負担を免れることを目的とした意図的な集計違算といえる。
 また、請求人は、本件各決算書を作成した後に、本件下書用決算書を破棄し、正に隠蔽又は仮装と評価すべき行為をしている。
 そうすると、このような請求人の行動は、所得税等の負担の軽減を積極的に意図したことによるものであるといえるから、請求人に、所得税等に関する隠蔽又は仮装の行為があったといえる。
イ 隠蔽又は仮装の行為があったとはいえないことについて
 請求人は、消費税の課税事業者となることを免れるため、本件各年分の本件事業に係る売上金額がいずれも1,000万円超であると認識しながら、これらをそれぞれ1,000万円以下にするという目的にほどよく当てはまるように、適当な金額を減算して本件各決算書を作成したにとどまり、これは意図的な過少申告にすぎず、過少申告行為そのものである。
 また、請求人は、本件各年分において二重帳簿の作成、帳簿の改ざん又は破棄、架空名義の請求書等の作成並びに他人名義の口座に売上金額を入金させる等の行為はしていない上、本件調査において、虚偽答弁をしたり、通常保存する資料を秘匿したりすることなく、真実の所得解明に積極的に協力した。
 さらに、本件下書用決算書は、本件各確定申告書等を作成するためだけに一時的に利用した手控えであり、他者に見せることを予定していなかったことから、作成後は不要なものとして破棄したにすぎず、こうした破棄行為は、隠蔽又は仮装と評価されるものではない。
 そうすると、請求人の行為は、過少申告行為そのものであることから、これとは別の隠蔽又は仮装と評価すべき行為があったとはいえない。
ロ 当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったといえることについて
 仮に上記イの行為が、過少申告行為とは別の隠蔽又は仮装の行為に該当しない場合であっても、請求人は、所得税等の負担の軽減を継続的かつ積極的に意図し、実際の売上金額が記載された本件下書用決算書を破棄するとともに、開業以降、毎年3割から5割前後もの収入金額を脱漏した過少記載行為を続けて内容虚偽の確定申告書を作成し提出していた。
 このような請求人の行動は、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動といえる。
ロ 当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったとはいえないことについて
 上記イのとおり、請求人の行為は過少申告行為そのものであるし、本件調査において、請求人は、虚偽答弁をせずに、本件ノートなどの通常保存する資料を秘匿することなく本件調査担当職員に提出するなど、真実の所得解明に積極的に協力した。また、本件下書用決算書は、本件各確定申告書等を作成するためだけに一時的に利用した手控えであり、その破棄も他者に見せる予定のない不要書類の破棄以上の意味を持たない。
 このような請求人の行動は、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動とはいえない。
(2) 消費税等について (2) 消費税等について
イ 隠蔽又は仮装の行為があったといえることについて
 上記(1)イの事情に加え、請求人は、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務が生じることを認識していたことから、請求人は、本件各課税期間の消費税等の申告納税義務を免れることを積極的に意図し、本件各確定申告書等に実際の売上金額よりも過少に記載することにより、消費税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実である、基準期間中における課税資産の譲渡等の対価の額を故意に脱漏し、免税事業者であるかのように装い続け、確定申告をしなかったものである。
 このような請求人の行動は、消費税等の申告納税義務を免れることを積極的に意図したことによるものであるといえることから、請求人に、消費税等に関する隠蔽又は仮装の行為があったといえる。
イ 隠蔽又は仮装の行為があったとはいえないことについて
 請求人は、消費税の課税事業者になることを免れたいと考え、本件各年分の所得税等について過少申告したものの、この行為は上記(1)イのとおり、所得税等の過少申告行為にすぎない。
 したがって、請求人に、消費税等に関する隠蔽又は仮装の行為があったとはいえない。
ロ 当初から消費税等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったといえることについて
 仮に上記イの行為が、隠蔽又は仮装の行為に該当しない場合であっても、請求人は、本件各課税期間の消費税等の負担の軽減及び申告納税義務を免れることを積極的に意図し、上記(1)ロの行動をした。
 このような請求人の行動は、当初から消費税等を法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動といえる。
ロ 当初から消費税等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったとはいえないことについて
 上記(1)イのとおり、請求人の行為は所得税等の過少申告行為にすぎない。
 このような請求人の行動は、当初から消費税等を法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動とはいえない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第1項及び第2項に規定する重加算税の制度は、納税者が国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽若しくは仮装するという不正手段に基づき過少申告をした場合、又は国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽若しくは仮装するという不正手段に基づき法定申告期限までに申告をしなかった場合に、過少申告加算税又は無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 そして、ここにいう事実の隠蔽とは、故意に事実を隠匿し、あるいは脱漏することをいい、事実の仮装とは、架空取引の申告や他人名義の利用を行い、あたかもそれが真実であるかのように装うなど、故意に事実をわい曲することをいうと解される。
 また、重加算税を課するためには、過少申告行為又は無申告行為そのものが隠蔽又は仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為又は無申告行為そのものとは別に、隠蔽又は仮装と評価すべき行為が存在し、これに基づき過少申告がされたこと、又は法定申告期限までに申告がされなかったことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告すること、又は法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき、過少申告をし、又は法定申告期限までに申告をしなかったような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。

(2) 認定事実

原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ 請求人は、本件各年分における本件事業に係る売上げを本件ノートに正確かつ網羅的に記載していたほか、本件各年分のうち一部期間については、月ごとの集計金額も記載していた。なお、本件ノートに記載された売上げを合計した金額は、別表1の「修正申告」欄の各「本件事業に係る総収入金額」欄と同額であり、また、取引先に交付する請求書の請求金額も本件ノートを基に計算していた。
ロ 令和6年1月10日付の質問応答記録書(以下「本件質問応答記録書」という。)には、請求人の本件調査担当職員に対する任意の申述として、要旨次の内容が記載されている。
 なお、本件質問応答記録書の末尾には、回答者として請求人の署名があり、併せて、本件調査担当職員が本件質問応答記録書の内容を読み上げて請求人に閲読させたところ、請求人は誤りのないことを確認した旨の記載がある。
(イ) 令和元年分以降、本件事業に係る売上金額が1,000万円を超えていることは認識していたが、子供にお金がかかることや、個人事業主なので怪我をしたときにどうするかなどの将来への不安があったことから、支払う税金をできるだけ少なくしたいと考え、また、売上金額が1,000万円を超えると消費税がかかることを知っていたため、消費税を納めなくて済むよう、実際よりも少ない売上金額を記載して本件各確定申告書等を作成し、提出していた。
(ロ) 毎年、確定申告の時期になると、本件ノートに記載の売上げを月ごとに集計し、正しい金額を本件下書用決算書の月別売上金額の欄に記載していたが、年間の売上金額が900万円前後になるように、本件各決算書に書き写すときには各月の売上金額を適当な数字に書き換えていた。月ごとの集計結果は、本件ノートに書いていた月もあった。
(ハ) 本件各決算書が完成したら、それをコピーして手元に置いておけばよく、本件下書用決算書は必要ないと考え、処分した。

(3) 検討及び原処分庁の主張について

イ 本件質問応答記録書に記載された申述の内容について
 上記(2)ロのとおり、請求人は、将来への不安から、支払う税金をできるだけ少なくしたいと考え、また、売上金額が1,000万円を超えると消費税がかかることを知っていたため、消費税を納めなくて済むよう、令和元年分以降、本件事業に係る売上金額が1,000万円を超えていることを認識していながら、売上金額が900万円前後になるように、実際よりも少ない売上金額を本件各決算書に記載して本件各確定申告書を作成し、提出していた旨を申述しており、かかる申述内容は、上記(2)イ並びに上記1(3)ニ及びチのとおり、本件ノート、本件各確定申告書等及び本件各年分の所得税等の各修正申告書の内容と合致している上、上記1(3)ホのとおり、本件各課税期間の消費税等について、いずれも法定申告期限までに確定申告書を提出しなかった事実とも整合し、動機等その申述内容も自然かつ合理的である。また、本件質問応答記録書の作成過程に不自然な点はないから、本件質問応答記録書に記載された請求人の申述は信用できる。
ロ 所得税等について
(イ) 隠蔽又は仮装の行為の有無について
 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)イのとおり、請求人は、本件下書用決算書又は本件ノートに本件事業に係る売上金額を月ごとに集計し、記載しており、本件各年分の確定申告前には、実際の所得金額を容易に把握し得たにもかかわらず、実際の売上金額よりも過少に記載して本件各確定申告書等を提出した上、本件下書用決算書を破棄しており、これらの行為は所得税等の負担の軽減を積極的に意図したことによるものであることから、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があった旨主張する。
A  確かに、請求人は、上記(2)イのとおり、本件各年分における本件事業に係る売上げが正確かつ網羅的に記載されている本件ノートから売上金額を集計しており、また、当該売上金額は、本件各年分の所得税等の各修正申告書記載の金額と一致するから、請求人は、本件事業に係る売上金額及び所得金額を過少に申告していたことが認められる。
 そして、上記(2)ロ(ロ)のとおり、請求人は、本件各決算書の作成に当たり、本件ノートの売上げを月ごとに集計し、本件下書用決算書又は本件ノートに記載していることから、請求人は、本件各確定申告書等に記載した売上金額が、本件事業に係る真実の売上金額よりも過少な金額であることを本件各確定申告書等作成時において認識していたとも認められる。
 もっとも、上記(1)によれば、本件所得税等各賦課決定処分が適法といえるためには、過少申告行為とは別の隠蔽又は仮装と評価すべき行為が存在することが必要であることから、この点について、更に検討する。
B  上記A及び上記(2)ロによれば、請求人は、本件事業に係る真実の売上金額を把握していたにもかかわらず、納税額を少なくしたいという意図に基づいて、本件事業に係る真実の売上金額よりも少額の売上金額を総収入金額として本件各確定申告書等を提出していたこと、及び、請求人は、自ら本件事業に係る真実の売上金額を記載した本件下書用決算書を作成し、本件各決算書の完成後に本件下書用決算書を処分していた事実が認められる。
 しかしながら、上記A及び上記(2)ロ(ロ)のとおり、本件下書用決算書には、本件ノートから集計した売上金額が記載されていたことから、本件下書用決算書の作成は、真実の売上金額を隠蔽又は仮装したものということはできない。
 次いで、本件下書用決算書の処分について検討すると、請求人が、本件事業に係る売上げが正確かつ網羅的に記載されている本件ノートを破棄せず保存し、上記1(3)トのとおり、本件調査において提出していることを踏まえると、本件下書用決算書の処分をもって隠蔽と評価することは困難であり、そのほか、請求人が本件事業に係る真実の売上金額の発覚を防ぐ意図に基づいて何らかの工作をしたことを認めるに足りる証拠はない。
 また、当審判所に提出された証拠資料等を精査しても、請求人が、資料の秘匿等をした事実は認められないほか、本件ノート以外に、申告書に記載するための売上げ等を選別するための帳簿等を別途作成したり、本件事業において架空取引の申告や他人名義の利用を行い、あたかもそれが真実であるかのように装ったりしたなどの行為も認められない。
 以上によれば、所得税等の過少申告行為とは別の隠蔽又は仮装と評価すべき行為が存在したとは認められず、これと異なる原処分庁の上記主張には理由がない。
(ロ) 当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったか否かについて
 もっとも、上記(1)によれば、請求人が、所得税等の納税額を少なくしたいという意図を外部からもうかがい得る特段の行動をし、その意図に基づいて過少申告行為をした場合にも、重加算税の賦課要件が満たされるため、本件でこれらが認められるかについて検討する。
 この点について、原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)ロのとおり、請求人が所得税等の負担の軽減を継続的かつ積極的に意図し、本件下書用決算書を破棄するとともに、開業以降、毎年3割から5割前後もの収入金額を脱漏した内容虚偽の確定申告書を継続して作成し提出していたことから、これらの行動は、請求人が当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動に該当する旨主張する。
 確かに、請求人は、平成30年分及び本件各年分の所得税等について、5年間にわたって継続的に過少申告をするとともに、その過少申告の割合は、本件各年分に関する別表1の「確定申告」欄及び「修正申告」欄の各「本件事業に係る総収入金額」欄を比較すると、真実の売上金額の約26%から約47%程度であるところ、これは、上記(2)ロのとおり、支払う税金をできるだけ少なくしたいとの請求人の意図に基づくものであったと認められることから、請求人は、相当の期間にわたって過少申告行為を継続していたとはいえる。
 しかしながら、上記1(3)トからヌまでによれば、請求人は、本件調査の実施から平成30年分の所得税等の修正申告書を提出するまでの間、本件調査担当職員の要請を受けて本件ノート等を提出するなど本件調査に協力しており、本件調査において、本件事業に係る真実の売上金額が本件各確定申告書のとおりであるなどとして、真実の売上金額を隠蔽又は仮装することを意図して本件調査担当職員に対して虚偽の説明をするなどの具体的な工作を行い、真実の所得金額を隠蔽する態度、行動をできる限り貫こうとしたと評価し得る事情は認められない。
 また、本件下書用決算書の処分についても上記(イ)Bのとおりであるから、これを外部からもうかがい得る特段の行動と評価することは困難である。
 以上によれば、請求人が、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした事実を認めるには足りないというべきであり、これと異なる原処分庁の上記主張には理由がない。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)によれば、本件各年分の所得税等を過少に申告したことについて、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められない。
ハ 消費税等について
(イ) 隠蔽又は仮装の行為の有無について
 上記3の「請求人」欄の(2)イのとおり、請求人は、消費税の課税事業者になることを免れたいと考え、本件各年分の所得税等について過少申告したものの、当該行為は所得税等の過少申告行為にすぎないことから、消費税等に関する隠蔽又は仮装の行為があったとはいえない旨主張する。
A 確かに、上記ロの認定判断によれば、請求人の本件各年分の所得税等に係る申告における一連の行為は、所得税等の過少申告行為であり、上記ロで検討した以外に、請求人が消費税法上の免税事業者であるかのように装うために虚偽の資料を作出するなどした事実は認められない。
 しかしながら、消費税法上の免税事業者に該当するか否かは、基準期間における課税売上高により決せられることから、請求人の本件各年分の所得税等に係る申告における一連の行為が、消費税等における隠蔽又は仮装の行為に直ちに該当しないということはできない。
 そこで、上記(1)を踏まえ、請求人の本件各年分の所得税等に係る申告における一連の行為が、消費税等における隠蔽又は仮装と評価すべき行為に該当するかについて検討する。
B 上記(2)ロ(ロ)のとおり、請求人は、本件事業に係る売上げが正確かつ網羅的に記載されている本件ノートを月ごとに集計していたことから、本件各年分の真実の売上金額がいずれも1,000万円を超えることを認識していたものと認められる。
 また、請求人が作成し、提出した本件各決算書の売上金額は、いずれも1,000万円以下となっていた上、上記(2)ロ(イ)及び(ロ)のとおり、請求人は、本件事業に係る売上金額が1,000万円を超えると消費税がかかることを知っており、消費税を納めなくて済むよう、本件各年分の本件事業に係る売上金額が900万円前後になるように、実際よりも少ない売上金額を記載して本件各確定申告書等を作成し、提出していた。
 そうすると、請求人は、本件各確定申告書等を作成し、提出する時点において、本件事業に係る売上金額が1,000万円を超えると消費税等の納税義務が生じることを知っており、同金額が1,000万円以下となるように調整した所得税青色申告決算書(一般用)及び所得税等の確定申告書を提出すれば、消費税の納税義務がないかのように装うことができると理解した上で、令和元年分及び令和2年分の所得税青色申告決算書(一般用)及び所得税等の確定申告書をそれぞれ提出して、本件各課税期間の消費税等について、法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったものと認められる。
 以上によれば、本件事業に係る売上金額が1,000万円を超えれば消費税等の納税義務が生じること、すなわち同金額が1,000万円以下となるように調整した所得税青色申告決算書(一般用)及び所得税等の確定申告書を提出すれば、消費税等の納税義務がないかのように装うことができると理解していた請求人が、令和元年分及び令和2年分の本件事業に係る真実の売上金額が1,000万円を超えていたにもかかわらず、売上金額を1,000万円以下となるように調整した令和元年分及び令和2年分の所得税青色申告決算書(一般用)及び所得税等の確定申告書をそれぞれ作成し、提出した行為は、消費税法第9条第1項本文の規定の適用を受けるために、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽又は仮装し、本件各課税期間における消費税等の納税義務がないかのように装うものであることから、請求人の令和元年分及び令和2年分の所得税等に係る申告における一連の行為は、消費税等における隠蔽又は仮装と評価すべき行為に該当すると認められる。
 したがって、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる。
(ロ) 当初から消費税等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったか否かについて
 上記(イ)のとおり、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められることから、重加算税の賦課要件を満たす以上、請求人の行為が消費税等の無申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動といえるか否かを検討するまでもない。
(ハ) 請求人の主張について
 上記(イ)のとおり、請求人には消費税等における隠蔽又は仮装と評価すべき行為が存在したと認められることから、これと異なる請求人の主張には理由がない。

(4) 本件所得税等各賦課決定処分の適法性について

上記(3)ロのとおり、請求人が本件各年分の所得税等を過少に申告した行為は、所得税等においては通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たさないが、他方で、通則法第65条第1項及び第2項に規定する過少申告加算税の賦課要件を満たすと認められる上、本件各年分の所得税等の各修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに当該各修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第5項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そして、本件所得税等各賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。したがって、本件所得税等各賦課決定処分は、いずれも過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき違法であり、別紙1から別紙4までの各「取消額等計算書」のとおり取り消すのが相当である。

(5) 本件消費税等各賦課決定処分の適法性について

上記(3)ハのとおり、請求人には、消費税等においては通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められることから、本件各課税期間の消費税等について重加算税の賦課要件を満たすといえる。
 そして、本件各課税期間の消費税等の重加算税の額については、その計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において、重加算税の額を計算すると、いずれも本件消費税等各賦課決定処分と同額となる。
 したがって、本件消費税等各賦課決定処分はいずれも適法である。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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