(令和7年5月20日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、自己の所有する土地の借地権及び当該土地上の建物を裁判上の和解によって取得し、当該建物の賃借人らに移転補償料を支払って明渡しを受け、当該建物の取壊しを行った上、不動産所得の金額の計算において、当該建物の未償却残高及び取壊し費用、当該建物の賃借人らの移転補償料並びに当該裁判に係る弁護士報酬を必要経費に算入して所得税等の申告をしたところ、原処分庁が、当該各費用は、借地権の取得費に算入すべきであり、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないなどとして所得税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

イ 所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、不動産所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他不動産所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする旨規定している。
ロ 所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定している。
ハ 所得税法第50条《繰延資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項は、居住者のその年12月31日における繰延資産につきその償却費として同法第37条の規定によりその者の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その繰延資産に係る支出の効果の及ぶ期間を基礎として政令で定めるところにより計算した金額とする旨規定している。
ニ 所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第1項は、居住者の営む不動産所得を生ずべき事業の用に供される固定資産その他これに準ずる資産で政令で定めるものについて、取壊し、除却、滅失その他の事由により生じた損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入する旨規定している。
ホ 所得税基本通達38−1《土地等と共に取得した建物等の取壊し費用等》は、自己の有する土地の上に存する借地人の建物等を取得した場合又は建物等の存する土地(借地権を含む。以下この項において同じ。)をその建物等と共に取得した場合において、その取得後おおむね1年以内に当該建物等の取壊しに着手するなど、その取得が当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときは、当該建物等の取得に要した金額及び取壊しに要した費用の額の合計額は、当該土地の取得費に算入する旨定めている。

(3) 基礎事実

イ 請求人及び請求人が所有する土地
(イ) 請求人は、不動産賃貸業を営む者である。
(ロ) 請求人は、a県b市d町○−○の土地(以下「本件土地」という。)及び本件土地に隣接する同○−○の土地(以下「本件隣接土地」といい、本件土地と併せて「本件各土地」という。)を所有している。
ロ 本件土地に係る賃貸借契約の締結等
(イ) 請求人の父であるDは、昭和52年10月○日、Eとの間で、所有する本件土地を貸し付ける旨の賃貸借契約を締結した。
(ロ) 昭和59年9月○日、本件土地上に共同住宅(以下「本件建物」という。)が新築された。
(ハ) 平成3年10月○日、本件建物につき、Eの弟であるFを所有者として所有権保存登記がされた。
(ニ) 請求人は、Dが平成○年○月○日に死亡したことで相続により本件各土地を取得した。
(ホ) 請求人は、平成○年○月○日、Fに対し、主位的に本件土地に係る賃借権の無断譲渡による解除消滅を理由として、予備的に賃借期間の満了及び更新拒絶を理由として、本件土地及び本件建物につき、建物収去土地明渡しを求める訴え(以下「本件訴訟」という。)を提起した。
ハ 本件訴訟に係る和解成立及び本件建物の賃借人との立退交渉等
(イ) 請求人は、令和○年○月○日、本件訴訟において、Fとの間で、Fが本件土地について本件建物の所有を目的とする借地権(以下「本件借地権」といい、本件建物と併せて「本件建物等」という。)を有していること及び本件建物について賃借人のための借家権が存在していることを確認し、本件建物等を売買代金○○○○円(内訳は、本件借地権が○○○○円、本件建物が○○○○円(消費税相当額を含む。))で買い受ける旨の訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)をした。
(ロ) 請求人は、本件建物を取得したことにより、別表1の「賃借人名」欄記載の本件建物の賃借人(以下、本件建物の賃借人をまとめて「本件賃借人ら」という。)との間の各賃貸借契約に係る賃貸人たる地位を承継した。
(ハ) 請求人は、令和○年○月○日、本件訴訟の代理人弁護士に対し、本件訴訟に係る報酬として○○○○円を支払った(以下、請求人が支払った当該報酬を「本件弁護士報酬」という。)。
(ニ) 請求人は、本件賃借人らとの間で、別表1の「解除合意日」欄記載の日に、同表の「合意解除効力発生日」欄記載の日において本件賃借人らとの間の各賃貸借契約を合意解除すること及び移転補償その他借家に関する一切の権利の対価として金銭を支払うことを合意し、当該合意に基づき、別表1の「移転補償料」欄に記載された各金額を支払った(以下、請求人が支払った当該移転補償料の合計金額を「本件移転補償料」という。)。
ニ 本件建物の取壊し
(イ) 請求人は、令和2年6月、G社に対し、本件建物の解体工事及び本件隣接土地上に設置されていた駐車場のアスファルトの撤去工事を発注した。
(ロ) 請求人は、G社に対し、上記(イ)の各工事の工事代金として、合計○○○○円の請求を受けた。
 なお、当該工事代金の内訳は、本件建物の解体工事につき○○○○円(以下「本件建物解体工事費用」という。)、駐車場のアスファルトの撤去工事につき○○○○円(以下、本件建物解体工事費用と併せて「本件工事費用」という。)であった。

(4) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、令和元年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、本件弁護士報酬を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した上で、青色の確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、令和2年分の所得税等について、本件建物の令和元年分の期末における未償却残高を固定資産除却損として不動産所得の金額の計算上必要経費に算入するとともに、本件移転補償料及び本件工事費用を繰延資産(開業費)として資産計上した上で、青色の確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ハ 請求人は、令和3年分の所得税等について、令和2年分の確定申告において繰延資産として資産計上した本件移転補償料及び本件工事費用を繰延資産償却として不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した上で、青色の確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ニ 原処分庁は、本件建物の令和2年5月末時点での未償却残高(以下「本件未償却残高」という。)、本件建物解体工事費用、本件移転補償料(以下、本件未償却残高及び本件建物解体工事費用と併せて「本件未償却残高等」という。)及び本件弁護士報酬(以下、本件未償却残高等と併せて「本件各費用」という。)は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできず、本件借地権の取得費に算入すべきこと等を理由として、令和6年7月8日付で、別表2の「更正処分等」欄のとおり、令和元年分、令和2年分及び令和3年分(以下、併せて「本件各年分」という。)の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人は、これらの処分を不服として令和6年7月26日に審査請求をした。

2 争点

 本件各費用は、本件借地権の取得費に算入すべきものか、又は請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきものか。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
以下のとおり、本件各費用は、本件借地権の取得費に算入され、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。 以下のとおり、本件各費用は、本件借地権の取得費には算入されず、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。
(1) 本件各費用を本件借地権の取得費に算入すべきことについて (1) 本件各費用を本件借地権の取得費に算入すべきではないことについて
イ 建物の存する土地(借地権を含む。)をその建物と共に取得した場合において、その取得が当初からその建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかである場合には、当該建物の取得に要した金額、取壊しに要した費用及び建物の賃借人の立ち退きに要した費用の額の合計額は、所得税法第38条第1項により、当該土地の取得費に算入すべきものである。また、弁護士報酬も、それが土地を利用するために要したものである場合には、当該土地の取得費に算入される。 イ 所得税基本通達38−1は、当初から建物を取り壊して土地を利用する目的で土地と建物を取得する場合、買主は売買価額の交渉過程において建物の価値を評価せず、また取壊しを織り込むことになり、当該建物の取得価額及び取壊し費用等は実質的に借地権の取得価額を構成することを踏まえた定めであるところ、本件建物等については、本来の機能を有する個別の固定資産として不動産取引業者の査定額である客観的交換価値により取得しており、請求人の本件建物を取り壊して本件土地を使用するという目的は本件建物及び本件借地権の売買価額の決定に一切反映されていないという特別の事情がある。
ロ 請求人は、当初から本件建物を取り壊して本件土地を保育園用地とするために本件借地権を利用する目的で本件建物等を取得したことが明らかであると認められ、本件各費用は、請求人が本件借地権を利用するために要したものといえる。したがって、本件各費用はいずれも本件借地権の取得費に算入される。
 なお、請求人が本件建物を取得後に不動産賃貸業の用に供していたのは、本件賃借人らとの間の立退交渉期間及び立退猶予期間にすぎないことからすると、同事実をもって本件建物の取得が、本件建物を取り壊して本件土地を利用する目的でなかったとは認められない。
ロ 本件各費用を本件借地権の取得費に算入すると、本件借地権の取得費は客観的交換価値を超過することとなり、本件土地の譲渡により投下資本を回収できないこととなるから合理的とはいえない。
(2) 本件未償却残高について
 上記(1)のロのとおり、請求人は、当初から本件建物を取り壊して本件借地権を利用する目的で本件建物等を取得したことが明らかであると認められるから、本件建物を取得するための費用に相当する本件未償却残高は、本件借地権の取得費に算入される。
 当初から取壊しを予定し、取り壊した建物は、所得税法第51条第1項に規定する固定資産に当たらないから、その取壊しによる損失は、同項により不動産所得の金額の計算上必要経費に算入される損失に当たらない。
(2) 本件未償却残高について
 本件建物は独立の固定資産として、短期間とはいえ事業の用に供しており、所得税法第51条の資産損失の必要経費算入については、貸家の取得時期及び取壊し時期にかかわらず貸家が事業用資産としての実態を有していたかどうかという経済的な実質に基づき客観的に判断されるべきである。
 これに、上記(1)の事情を併せると、本件未償却残高は所得税法第38条第1項による本件借地権の取得費には該当せず、令和2年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。
(3) 本件建物解体工事費用及び本件移転補償料について
 上記(1)のロのとおり、請求人は、当初から本件建物を取り壊して本件借地権を利用する目的で本件建物等を取得したことが明らかであると認められ、本件建物解体工事費用及び本件移転補償料は、請求人が本件借地権を利用するために要したとものといえるから、本件借地権の取得費に算入される。
 当初から取壊しを予定していた建物の解体撤去費用は、所得税法第37条第1項にいう不動産所得を生ずべき業務について生じた費用には当たらず、本件移転補償料も同様である。
(3) 本件建物解体工事費用及び本件移転補償料について
 上記(1)の事情に加え、本件建物解体工事費用及び本件移転補償料は、土地に対する地盛りや地ならしのために支出する資本的支出とは異なり、本件借地権の客観的な交換価値が増加する支出ではなく、新たな収益性の高い貸家事業を始めるための環境を整えるための支出であるから、費用収益対応の観点から、所得税法施行令第7条《繰延資産の範囲》第1項第1号に規定する「開業費」に準ずる費用として令和2年分の繰延資産に計上し、その償却費として令和3年分の必要経費に算入することが合理的である。
(4) 本件弁護士報酬について
 上記(1)のロのとおり、請求人は、本件建物等の取得の時点において、本件建物を取り壊して本件土地を保育園用地とするために本件借地権を利用する目的を有していることが明らかであり、本件弁護士報酬は、請求人が本件借地権を利用するために要したものであるから、本件借地権の取得費に当たる。
 また、請求人が本件訴訟を提起した時点において、本件借地権はFが有していたことからすると、本件借地権の取得は、請求人の本件土地の正常な利用を回復するための費用とは認められないから、不動産所得の金額の計算上必要経費には算入されない。
(4) 本件弁護士報酬について
 本件弁護士報酬は、本件土地の賃貸借契約違反を原因とする契約解除に伴う土地明渡請求に係る弁護士費用である。本件土地の所有権や借地権には争いはなく、基本的に土地の正常な利用を回復し、不動産賃貸事業を運営管理するための費用であった。
 これに、上記(1)の事情を併せると、本件弁護士報酬は、所得税法第37条第1項に規定する一般管理費その他不動産所得を生ずべき業務について生じた費用として、請求人の令和元年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈等

イ 所得税法第37条第1項は、その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額として、その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする旨規定し、同法第51条第1項は、居住者の営む不動産所得を生ずべき事業の用に供される固定資産について、取壊し、除却、滅失その他の事由により生じた損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すると規定している。
 一方、所得税法第38条第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定しているところ、所得税基本通達38−1は、建物の存する土地(借地権を含む。以下この項において同じ。)をその建物と共に取得した場合において、その取得が当初からその建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときは、当該建物の取得に要した金額及び取壊しに要した費用の額の合計額は、当該土地の取得費に算入する旨定めている。
 これは、当初から建物を取り壊して土地を利用する目的で、建物の存する土地を、その建物と共に取得した者は、建物の商品価値に着目しておらず、むしろ、建物除却後の土地の更地価値に着目して取得に係る売買金額の意思決定等をしているとみられるから、建物の取得に要した金額と取壊しに要した費用の額の合計額を土地の取得費に算入することとしたものであり、この取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
 また、当初から建物を取り壊して土地を利用する目的で、建物の存する土地をその建物と共に取得し、当該建物に居住していた賃借人を退去させるために費用を支払った場合も、上記と同様、当該費用は当該土地を利用するために要する費用であり、実質的には当該土地の取得の対価的性質を有するものと認められるから、当該費用も土地の取得費に算入するのが相当である。
 そして、不動産所得の金額の計算上、このように当初から取壊しを予定していた建物の解体撤去費用及び当該建物に居住していた賃借人を退去させるための費用は、所得税法第37条第1項にいう不動産所得を生ずべき業務について生じた費用には当たらないし、取り壊した建物は、同法第51条第1項にいう不動産所得を生ずべき事業の用に供される固定資産には当たらないから、その取壊しによる損失も、同項により不動産所得の金額の計算上必要経費に算入される損失に当たらないと解するのが相当である。
ロ 土地の所有権等の存否に争いのある訴訟において、一方が土地を買い受ける旨の和解が成立し、当該訴訟の代理人弁護士に対して弁護士報酬を支払った場合、当該報酬は土地の取得に関連して発生した費用であるから、所得税法第38条第1項の規定により、土地の取得費に算入されることになる。また、土地と同時に、当該土地上の建物を取得した場合において、当初から当該建物を取り壊して当該土地を利用する目的であることが明らかである場合は、上記イのとおり、建物の取得に要した金額は実質的には土地の取得の対価的性質を有するものと認められるから、当該土地及び当該建物の取得に関連して発生した弁護士報酬は、全て当該土地の取得に関連するものとして当該土地の取得費に算入するのが相当であり、同法第37条第1項にいう不動産所得を生ずべき業務について生じた費用には当たらないと解される。
ハ なお、所得税法第37条第1項及び同法第50条第1項の規定によれば、ある支出が繰延資産に該当するためには、その支出の効果が及ぶ業務について、同法第37条第1項の必要経費該当性の要件を満たさなければならないものと解される。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ 請求人は、平成31年3月の時点で本件土地を保育園の敷地として利用することを考えていた。
ロ 請求人の顧問税理士であるH税理士は、請求人の上記イの意向を受けて、平成31年4月から令和元年6月にかけて、本件土地の近隣で保育園を運営しているJ社に対し、本件訴訟が係属している状況を説明した上で、本件各土地上に保育園を設置する提案を行った。
ハ J社は、令和元年6月○日付で、本件各土地を一体として利用して保育園を設置することを検討するために、本件土地に関する紛争の早期の解決を要望する旨の書面を請求人に対して交付した。
ニ 請求人は、令和○年○月○日、本件建物の賃借人であるK、L及びMに対して、本件建物をFから譲り受けた旨及び本件建物の譲受けは保育園の設置の準備の一環である旨を通知した。
ホ 請求人は、令和○年○月○日、本件賃借人らに対し、保育園設置の意向を明示した上で、令和2年6月末までに本件建物からの転居を依頼する旨の通知を行った。
ヘ 本件賃借人らは、別表1の「解除合意日」欄記載の日に、請求人との間で、別表1記載の「合意解除効力発生日」欄記載の日(Nのみ合意解除効力発生日によらず令和2年5月○日)までに本件建物の各居住部分を明け渡す旨を合意し、その後、当該各合意に基づいて退去した。
ト 本件建物は、令和2年7月○日までに解体された。
チ 請求人は、令和4年3月○日、請求人が代表取締役を務めるP社との間で、J社に賃貸する保育園用建物の敷地として、本件各土地を令和4年4月○日から賃貸する旨の契約を締結した。

(3) 検討

イ 請求人の本件建物等の取得目的について
 請求人は、上記(2)のイないしハのとおり、遅くとも平成31年3月には本件土地を保育園の敷地として利用することを計画していたものであり、本件建物等を取得した令和○年○月○日の本件和解成立時点において、本件建物に居住する本件賃借人らを立ち退かせた上、本件建物を取り壊して本件土地を含めた本件各土地を保育園の敷地とするために、本件借地権を利用する目的を有していたと認められる。このような本件建物等の取得時点の請求人の目的は、上記(2)のニないしチのとおり、請求人が、本件賃借人らに対し、本件和解成立後2か月以内である令和○年○月○日及び令和○年○月○日にFからの本件建物の譲受けは保育園設置の準備の一環であることを明示して転居を依頼する通知を行い、本件賃借人らを転居させた上、令和2年7月○日までに本件建物を解体し、実際に令和4年4月○日からP社に対し、本件和解前から交渉していたJ社に対して賃貸する保育園用建物の敷地として、本件土地の賃貸を開始したことからも裏付けられる。
 以上から、請求人の本件建物等の取得は、当初から本件建物を取り壊して本件借地権を利用する目的でされたものであることが明らかであると認められる。
ロ 本件未償却残高等について
 上記イのとおり、本件建物等の取得は、当初から本件建物を取り壊して本件借地権を利用する目的でされたものであることが明らかであると認められ、本件建物の取得に要した金額の一部、本件建物の取壊しに要した費用及び本件建物の賃借人を退去させるための費用である本件未償却残高等は、上記(1)のイのとおり、請求人が本件借地権を利用するために要したものといえるから、本件借地権の取得費に算入すべきものであり、所得税法第37条第1項及び同法第51条第1項に基づき不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
ハ 本件弁護士報酬について
 上記1の(3)のロの(ホ)のとおり、請求人は主位的に本件土地に係る賃借権の無断譲渡による解除消滅を理由として、予備的に賃借期間の満了及び更新拒絶を理由として、Fに対して本件土地及び本件建物につき、建物収去土地明渡しを求める本件訴訟を提起したものであり、本件訴訟においては、過去に本件土地について借地権が存在していたことを前提として、本件借地権の存否が争いとなっていたと認められる。そして、上記1の(3)のハの(イ)のとおり、本件和解において請求人は、Fが本件借地権を有していることを確認した上で、本件借地権を買い受けることに合意していることからすれば、請求人が本件訴訟の代理人弁護士から受けた役務の提供は、借地権という権利の買戻しのためのものと認められ、また、請求人は、本件借地権とともに本件建物を買い受けており、上記イのとおり、本件建物は、当初から本件借地権を利用するために取壊しが予定され、その予定に従って取り壊された建物であるから、上記(1)のロのとおり、本件弁護士報酬は、全て本件借地権の取得に関連して発生した費用であるといえる。したがって、本件弁護士報酬は、本件借地権の取得費に算入されるべきであり、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきものとは認められない。

(4) 請求人の主張について

イ 請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、1本件建物の取壊し目的は、本件建物等の売買価額の決定に一切反映されていないこと(同欄(1)のイ)、本件各費用を本件借地権の取得費に算入すると、本件借地権の取得費は客観的交換価値を超過することとなり、本件土地の譲渡により投下資本を回収できないこととなること(同欄(1)のロ)、本件建物は短期間とはいえ事業の用に供していること(同欄(2))及び本件建物解体工事費用と本件移転補償料は、土地に対する地盛りや地ならしのために支出する資本的支出とは異なり、本件借地権の客観的な交換価値が増加する支出ではないこと(同欄(3))から、本件各費用は本件借地権の取得費に算入すべきではなく必要経費に算入すべきである旨、並びに2本件建物解体工事費用及び本件移転補償料については新たな収益性の高い貸家事業を始めるための環境を整えるための支出であり、費用収益対応の観点から開業費に準ずる費用として繰延資産に計上すべき旨(同欄(3))主張する。
 しかしながら、当初から取り壊す目的で建物を取得した場合における建物の取得に要した金額及び建物の取壊しに要した費用を土地の取得費に算入するとした趣旨は、請求人が主張するように、売買当事者間の価額交渉の過程において、建物を取り壊す目的を売買価額に織り込むことになることから、建物の取得に要した金額及び取壊し費用等が実質的に借地権の取得費を構成することを踏まえたことによるものではなく、上記(1)のイのとおり、当初から建物を取り壊して土地を利用する目的で、建物の存する土地(借地権を含む。)を建物と共に取得した者は、建物の商品価値に着目しておらず、むしろ、建物除却後の土地の更地価値に着目して売買価額の意思決定等をしているとみられるから、建物の取得に要した金額及び建物の取壊しに要した費用の額の合計額を土地の取得費に算入することとしたものであって、請求人による本件建物等の取得が、当初から本件建物を取り壊して本件借地権を利用する目的でされたものと認められる以上、本件和解において、本件建物の取壊しの目的が売買価額に反映されていたか否かは、本件各費用が本件借地権の取得費に該当するとの判断に影響しない。
 また、所得税法第38条第1項に規定する「資産の取得に要した金額」には、当該資産の売買代金の額のほか、登録免許税、仲介手数料等の当該資産を取得するために通常必要と認められる付随費用の額も含まれると解されており、「資産の取得に要した金額」が当該資産の売買代金の額を上回ることは法の予定するところである。このことからすれば、本件各費用を本件借地権の取得費に算入すると本件借地権の取得費が不動産取引業者の査定額である客観的交換価値を超過することとなること並びに本件建物解体工事費用及び本件移転補償料の各支出が本件借地権の客観的交換価値を増加させるものではないといった請求人の主張は、本件各費用を本件借地権の取得費に算入すべきかどうかの判断に影響するものではなく、上記(2)のニないしヘのとおり、請求人が本件建物を本件賃借人らに賃貸していたのは、立退交渉及び立退猶予期間にすぎないことからすれば、同事実も本件各費用を本件借地権の取得費に算入すべきとの判断を左右しない。
 そして、上記(3)のロ及びハのとおり、本件各費用は本件借地権の取得費に算入すべきであり、本件建物解体工事費用及び本件移転補償料は所得税法第37条第1項の必要経費に算入すべきものとは認められない以上、上記(1)のハのとおり、繰延資産に計上すべき費用にも該当しない。
 したがって、請求人の主張は理由がない。
ロ また、請求人は、上記3の「請求人」欄の(4)のとおり、本件弁護士報酬について、本件訴訟において本件土地の所有権や借地権には争いはなく、本件弁護士報酬は土地の正常な利用を回復し、不動産賃貸事業を運営管理するための費用であるから、必要経費に算入すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のハのとおり、本件訴訟は借地権の存否が争いとなった上、本件和解により本件借地権の取得に至ったものであるから、本件弁護士報酬は、本件借地権の取得費に算入すべきものである。
 よって、本件弁護士報酬は、請求人の不動産所得を生ずべき業務について生じた費用ではないから必要経費とは認められず、請求人の主張は理由がない。

(5) 本件各更正処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件各費用は、いずれも本件借地権の取得費に算入され、本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入されない。

これに基づき、本件各年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、いずれも原処分における額を下回らない。

そして、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

(6) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(5)のとおり、本件各更正処分に取り消すべき違法はなく、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第5項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所においても、本件各年分の所得税等に係る過少申告加算税の額は、本件各賦課決定処分における金額といずれも同額であると認められる。

したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(7) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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