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(令和7年6月9日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、構造計算適合性判定業務等を行って得た収入に係る所得について、給与所得として所得税等の確定申告とそれに続く修正申告をした後、当該収入に係る所得は事業所得であったとして更正の請求をしたのに対し、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分等を行ったことから、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
イ 所得税法第27条《事業所得》第1項は、事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨規定し、所得税法施行令第63条《事業の範囲》は、当該政令で定める事業には、同条第1号から第11号までにおいて具体的な事業を掲げるもののほか、同条第12号において対価を得て継続的に行う事業が該当する旨規定している。
ロ 所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう旨規定している。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、平成28年○月○日から令和3年○月○日までの期間、D社(以下「本件法人」という。)の取締役であり、同期間における請求人の肩書は、○○部本部長であった(以下、本件法人の○○部を「本件部署」という。)。
ロ 本件法人は、建築基準法に基づき、平成○年○月○日以降、建築確認における確認検査を行う指定確認検査機関の指定を、また、平成○年○月○日から令和○年○月○日までの期間、建築物の構造計算の確認審査を行う指定構造計算適合性判定機関の指定をそれぞれ国土交通大臣から受けていた。
ハ 請求人は、本件部署において、建築基準法第77条の35の9《構造計算適合性判定員》第1項に規定する構造計算適合性判定員(以下「本件判定員」という。)として、同法第6条の3《構造計算適合性判定》第1項に規定する構造計算適合性判定(以下「本件判定」という。)に係る業務を、本件法人に対して行っていた(以下、請求人が、本件法人に対して行っていた本件判定に係る業務を「本件判定業務」という。)。
ニ 本件法人は、請求人に対して、「給与明細書」又は「賞与明細書」と題する各明細書(平成30年1月分から令和2年12月分までのもの。以下「本件各明細書」という。)をそれぞれ交付した。
なお、本件各明細書のうち「給与明細書」においては、支給欄の合計金額がいずれも月○○○○円と記載され、その内訳は、いずれも基本給が○○○○円、執行役等手当が○○○○円、○○手当が○○○○円、特別手当が○○○○円である旨記載されていた。
なお、本件各明細書のうち「給与明細書」においては、支給欄の合計金額がいずれも月○○○○円と記載され、その内訳は、いずれも基本給が○○○○円、執行役等手当が○○○○円、○○手当が○○○○円、特別手当が○○○○円である旨記載されていた。
ホ 本件法人は、請求人に係る平成30年分、令和元年分及び令和2年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の給与所得に対する源泉徴収簿(以下「本件各源泉徴収簿」という。)をそれぞれ作成していた。
なお、本件各源泉徴収簿に記載された総支給金額及び差引徴収税額は、別表1の各年分の「総支給金額」欄及び「差引徴収税額」欄のとおりである。
なお、本件各源泉徴収簿に記載された総支給金額及び差引徴収税額は、別表1の各年分の「総支給金額」欄及び「差引徴収税額」欄のとおりである。
ヘ 本件法人は、請求人に対して、上記ホに基づき作成した本件各年分の「給与所得の源泉徴収票」(以下「本件各源泉徴収票」という。)をそれぞれ交付した。
本件各源泉徴収票の「支払金額」欄には、対応する年分の別表1の「総支給金額」欄の「合計額」欄の金額がそれぞれ記載され、その「源泉徴収税額」欄には、対応する年分の同表の「年末調整年税額」欄の金額がそれぞれ記載されていたが、社会保険料の金額は、本件各源泉徴収票のいずれにも記載されていなかった。
本件各源泉徴収票の「支払金額」欄には、対応する年分の別表1の「総支給金額」欄の「合計額」欄の金額がそれぞれ記載され、その「源泉徴収税額」欄には、対応する年分の同表の「年末調整年税額」欄の金額がそれぞれ記載されていたが、社会保険料の金額は、本件各源泉徴収票のいずれにも記載されていなかった。
ト 請求人は、本件法人から、平成30年中に○○○○円、令和元年中に○○○○円及び令和2年中に○○○○円の収入をそれぞれ得ていた(以下、請求人が本件法人から得たこれらの収入を併せて「本件各収入」という。)。
なお、本件法人と請求人との間に雇用契約又はこれに類する契約が締結されていたか否かについては、争いがある。
なお、本件法人と請求人との間に雇用契約又はこれに類する契約が締結されていたか否かについては、争いがある。
(4) 審査請求に至る経緯
イ 請求人は、本件各年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、本件各源泉徴収票に基づき、本件各収入を給与所得に係る収入金額とするほか、各確定申告書に別表2から別表4までの各「確定申告」欄のとおり記載し、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員による実地の調査を受け、令和3年11月26日に、本件各年分の所得税等について、別表2から別表4までの各「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を原処分庁に対しそれぞれ提出した。
なお、別表2から別表4までのとおり、請求人が、本件各年分の所得税等の各修正申告書に公的年金等以外の雑所得(以下「その他の雑所得」という。)に係る総収入金額として計上した○○○○円(平成30年分)、○○○○円(令和元年分)及び○○○○円(令和2年分)は、いずれも各申告に係る年分の前年分の所得税等の還付金の額(以下、これらの還付金の額を併せて「本件各還付金」という。)であった。
なお、別表2から別表4までのとおり、請求人が、本件各年分の所得税等の各修正申告書に公的年金等以外の雑所得(以下「その他の雑所得」という。)に係る総収入金額として計上した○○○○円(平成30年分)、○○○○円(令和元年分)及び○○○○円(令和2年分)は、いずれも各申告に係る年分の前年分の所得税等の還付金の額(以下、これらの還付金の額を併せて「本件各還付金」という。)であった。
ハ 請求人は、令和5年11月14日に、
本件各収入は、いずれも給与所得に係る収入金額ではなく事業所得に係る総収入金額に該当するほか、
本件各還付金は、いずれも課税の対象ではないなどとして、本件各年分の所得税等について、別表2から別表4までの各「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の各更正の請求(以下「本件各更正請求」という。)をした。
なお、請求人は、本件各更正請求に際し、区分欄に「建築士報酬」と記載された、本件法人が作成した本件各年分の「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」(以下「本件各支払調書」という。)を原処分庁にそれぞれ提出した。
なお、請求人は、本件各更正請求に際し、区分欄に「建築士報酬」と記載された、本件法人が作成した本件各年分の「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」(以下「本件各支払調書」という。)を原処分庁にそれぞれ提出した。
ニ 原処分庁は、令和6年5月8日付で、本件各更正請求のうち、
平成30年分及び令和元年分の各請求については、別表2及び別表3の各「通知処分」欄のとおり、本件各収入のうちこれらの年分の各収入がいずれも給与所得に係る収入金額に該当するとして、更正をすべき理由がない旨の各通知処分をし、また、
令和2年分の請求については、別表4の「更正処分
」欄のとおり、本件各収入のうち同年分の収入が給与所得に係る収入金額に該当し、また、同年分のその他の雑所得に係る総収入金額に計上した○○○○円が課税の対象ではないなどとして、所得税等の還付金の額に相当する税額を増加させる更正処分をした。
ホ 請求人は、令和6年7月10日に、上記ニの各処分に不服があるとして、審査請求をした。
ヘ 原処分庁は、令和6年9月26日付で、
令和元年分の所得税等については、別表3の「更正処分」欄のとおり、同年分のその他の雑所得に係る総収入金額に計上した○○○○円が課税の対象ではないとして、所得税等の納付すべき税額を減少させる更正処分をし、また、
令和2年分の所得税等については、別表4の「更正処分
」欄のとおり、同年分の修正申告書においてその他の雑所得に係る必要経費に計上した金額と同額の必要経費が認められるとして、所得税等の還付金の額に相当する税額を増加させる更正処分をした(以下、上記ニでされた平成30年分の処分を「本件通知処分1」といい、令和元年分の処分(ただし、上記
の令和6年9月26日付の処分によりその一部が取り消された後のもの)を「本件通知処分2」といい、令和2年分の処分(ただし、上記
の令和6年9月26日付の処分によりその一部が取り消された後のもの)を「本件更正処分」という。)。
2 争点
本件各収入に係る所得は、事業所得又は給与所得のいずれに該当するか。
3 争点についての主張
| 請求人 | 原処分庁 |
|---|---|
|
(1) 請求人は、建築士法第24条《建築士事務所の管理》により、本件法人の社員として業務を行うことができないから、本件法人とは、雇用契約ではなく業務委託契約を締結し、請求人の個人事業の一環として本件判定業務を行っていた。
また、請求人は、本件各年分において、本件法人の○○部本部長であったが、実際には、本件法人の経営に一切関与しておらず、取締役としての業務に従事した事実はほとんどなかった。 |
(1) 請求人は、自身の判断で第三者に本件判定業務を補助させることや、本件法人以外の者から業務を受けることを禁止され、本件判定業務を行う対象等については、本件法人の決定に服していた。
また、請求人は、本件各年分において、本件法人の○○部本部長の職に就き、本件判定業務を行うほか、本件法人の役員として役員会に出席するなど、取締役としての業務も行っていた。 |
|
(2) 請求人は、本件法人から本件各支払調書を交付されているところ、このことは、本件各収入が、本件法人から業務委託を受け、その対価として建築士報酬の支払を受けていたことを示すものである。
|
(2) 請求人は、「基本給」、「執行役等手当」等の金額及び給与所得に係る源泉徴収税額が記載された本件各明細書を受け取るとともに、毎月定額の収入を得ていた。
そして、本件各支払調書に記載された支払金額及び源泉徴収税額は、いずれも本件各源泉徴収票に記載された各金額と同額であり、当該源泉徴収税額は、報酬等に係る源泉徴収の規定に基づく金額ではなく、本件各収入が業務委託契約に基づく建築士報酬であるとはいえない。 |
|
(3) 本件部署は本件法人の一部署ではあるものの、建築基準法上、独立性の強い第三者機関であることから、本件判定員である請求人は、本件各年分において本件法人の代表取締役社長であったE(以下「本件前社長」という。)などから業務の内容を指示されたことがなく、業務遂行に必要な判断を独立して行っていた。
そして、請求人の執務場所は、国土交通省の指導により、本件法人の本社とは○○であり、また、請求人の本件部署での業務時間は、名目上午前9時から午後5時30分までであるが、午後5時30分以降の退社時間を自身の判断で決めていた。 |
(3) 請求人は、本件各年分において、本件前社長から業務の内容を指示されて業務を行っていた。
そして、請求人の勤務地である本件部署は、本件法人の「○○○○」であり、また、請求人は、本件法人の就業規則に基づき、週4日程度、午前9時頃から午後5時30分まで勤務していた。 |
|
(4) 請求人は、自身が所有するパソコン等を本件部署に持ち込み本件判定業務に使用するほか、社会保険料や交通費を自身で負担していた。
また、本件判定員が、故意又は過失によって第三者に損害を与えた場合には、建築基準法の規定により、本件判定員の登録抹消や業務禁止などの処分を受けることとなるから、請求人はこれらの危険を負担して本件判定業務を行っていた。 |
(4) 請求人は、本件法人の備品等を使用して本件判定業務を行っていた上、請求人が本件判定業務により第三者に損害を与えた場合の責任は、本件法人に帰属するものとされていた。
これに対し、請求人が本件判定員の登録抹消や業務禁止などの処分可能性に係る責任を負っているとしても、それは本件判定員の資格者としての責任であり、本件判定業務に係る費用が収益を上回るという事業所得の判断要素となる責任を請求人が負担していたとはいえない。 また、社会保険料の負担の有無は、本件各収入に係る所得が事業所得か給与所得かの判断を左右するものではない。 |
|
(5) 上記(1)から(4)までのとおり、本件判定業務は、請求人の個人事業の一環として行われたものであり、自己の計算と危険において独立して営まれ、反復継続してなされた有償行為たる業務である。
したがって、本件各収入に係る所得は、いずれも所得税法第27条第1項に規定する事業所得に該当する。 |
(5) 上記(1)から(4)までのとおり、請求人は、自己の計算と危険において独立して労務の提供を行っているものではなく、本件法人との関係において、雇用契約又はこれに類する契約に基づき一定の空間的、時間的な拘束を受けて継続的ないし断続的に労務の提供をし、その指揮命令に服して提供した労務の対価として本件法人から本件各収入を得ていたといえる。
したがって、本件各収入に係る所得は、いずれも所得税法第28条第1項に規定する給与所得に該当する。 |
4 当審判所の判断
(1) 法令解釈
イ 上記1(2)イのとおり、所得税法第27条第1項は、事業所得について「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定し、この規定の委任を受けた所得税法施行令第63条は、第1号から第12号までにおいて事業の範囲を規定している。そして、ここにいう事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうと解するのが相当である。
ロ これに対し、上記1(2)ロのとおり、所得税法第28条第1項は、給与所得について「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。」と規定しているところ、給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうと解するのが相当であり、給与所得該当性の判断に当たっては、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかを重視するのが相当である。
また、会社とその役員との間の委任契約も上記の雇用契約に類する原因に当たるものであるから、役員が会社から職務執行の対価として受ける報酬も給与所得に当たると解するのが相当である。
また、会社とその役員との間の委任契約も上記の雇用契約に類する原因に当たるものであるから、役員が会社から職務執行の対価として受ける報酬も給与所得に当たると解するのが相当である。
(2) 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 構造計算適合性判定業務規程の定め
建築基準法第77条の35の12《構造計算適合性判定業務規程》第1項の規定に基づき、本件法人が作成した構造計算適合性判定業務規程(以下「本件業務規程」という。)には、要旨、次の事項が定められていた。なお、請求人は、下記(イ)に定める「担当役員」に該当する。
建築基準法第77条の35の12《構造計算適合性判定業務規程》第1項の規定に基づき、本件法人が作成した構造計算適合性判定業務規程(以下「本件業務規程」という。)には、要旨、次の事項が定められていた。なお、請求人は、下記(イ)に定める「担当役員」に該当する。
(イ) 本件判定に係る業務は、他の業務と独立した部署で行い、担当役員を配置する。
(ロ) 指定構造計算適合性判定機関である本件法人は、指定確認検査機関である本件法人に対して申請された建築基準法の規定による建築確認について、本件判定を行わない。
(ハ) 本件判定に係る業務の実施における最高責任者は本件法人の代表者であり、担当役員は、当該業務に係る管理の責任と権限を有し、当該業務に従事する職員が厳正かつ公正に当該業務を行うための措置をとる。
(ニ) 不適格案件(法令に適合しない案件等について、誤って適合判定通知書を交付したものなどをいう。以下同じ。)が発生した場合、担当役員は再発防止措置をとる。
ロ 本件判定業務に係る書類
(イ) 請求人は、本件判定業務に係る個々の事案について、本件法人との間で業務委託契約書を取り交わしたことはなかった。
(ロ) 請求人は、本件判定業務において作成した書類について、個人事業であることを明示した記載をしていなかった。
ハ 請求人の議決権の行使の状況
請求人は、本件法人の取締役であった期間において、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前に本件法人の○○店で開催されたものを除けば、本件法人の取締役会に出席しており、取締役として議決権を行使していた。
請求人は、本件法人の取締役であった期間において、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前に本件法人の○○店で開催されたものを除けば、本件法人の取締役会に出席しており、取締役として議決権を行使していた。
ニ 請求人への支給金額
本件法人から請求人への支給金額は、本件判定業務に係る件数や達成状況によって変動することはなかった。
本件法人から請求人への支給金額は、本件判定業務に係る件数や達成状況によって変動することはなかった。
ホ 請求人の源泉徴収税額
別表1の「差引徴収税額」欄の各金額は、同表の「総支給金額」欄の各金額を支給金額として、所得税法第189条《主たる給与等に係る徴収税額の特例》及び東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(以下「復興財源確保法」という。)第29条《居住者の給与等に係る源泉徴収税額及び源泉徴収特別税額の特例》に規定する方法により計算した給与所得に係る源泉徴収税額(ただし、各年の12月分の「差引徴収税額」欄の各金額は、所得税法第190条《年末調整》及び復興財源確保法第30条《年末調整》に規定する方法により計算した源泉徴収税額)と同額であり、また、別表1及び別表5のとおり、本件各源泉徴収票及び本件各支払調書に記載された各源泉徴収税額は、いずれも対応する年分の本件各源泉徴収簿に記載された年末調整年税額と同額であった。
別表1の「差引徴収税額」欄の各金額は、同表の「総支給金額」欄の各金額を支給金額として、所得税法第189条《主たる給与等に係る徴収税額の特例》及び東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(以下「復興財源確保法」という。)第29条《居住者の給与等に係る源泉徴収税額及び源泉徴収特別税額の特例》に規定する方法により計算した給与所得に係る源泉徴収税額(ただし、各年の12月分の「差引徴収税額」欄の各金額は、所得税法第190条《年末調整》及び復興財源確保法第30条《年末調整》に規定する方法により計算した源泉徴収税額)と同額であり、また、別表1及び別表5のとおり、本件各源泉徴収票及び本件各支払調書に記載された各源泉徴収税額は、いずれも対応する年分の本件各源泉徴収簿に記載された年末調整年税額と同額であった。
ヘ 本件判定業務の実施場所及び実施時間
請求人は、出張する場合を除き、本件部署、すなわち「○○○○」が置かれている事務所で本件判定業務を行い、また、原則として、本件業務規程に定める業務時間に本件判定業務を行っていた。
請求人は、出張する場合を除き、本件部署、すなわち「○○○○」が置かれている事務所で本件判定業務を行い、また、原則として、本件業務規程に定める業務時間に本件判定業務を行っていた。
ト 請求人の費用負担
請求人は、本件法人の備品等を使用する一方、本件部署に持ち込む備品代、社会保険料及び交通費を負担していた。
請求人は、本件法人の備品等を使用する一方、本件部署に持ち込む備品代、社会保険料及び交通費を負担していた。
(3) 検討
イ まず、請求人と本件法人との間の契約関係について検討する。
(イ) 上記1(3)イのとおり、請求人の肩書が本件法人の一部署である本件部署の本部長であったところ、そのような肩書は、通常は法人の従業員に付される肩書といえ、本件法人から独立して業務を請け負う者に対して付されるとは考え難い。また、上記1(3)ニのとおり、本件各明細書には、支給金額の内訳として基本給が○○○○円、○○手当が○○○○円、特別手当が○○○○円である旨記載されているところ、これらの「基本給」や「手当」という支給名目は、支給する者と労務の提供をした者との間に雇用契約があることを前提とする支給名目と考えるのが相当である。
そして、本件法人は、上記1(3)ホ及びヘ並びに上記(2)ホのとおり、本件各年分において本件各収入を給与所得に係る収入金額として源泉徴収に係る経理・事務を行い、これを基に請求人に本件各源泉徴収票を交付していたのであるから、請求人との間で締結した契約は雇用契約であると認識していたと認められる。
さらに、上記(2)ロのとおり、請求人が本件判定業務において作成した書類には請求人の個人事業であることを明示した記載をしていなかった上、本件判定業務が請求人と本件法人との業務委託契約に基づくものであることをうかがわせる事情も見当たらない。
これらのことからすれば、請求人は、本件法人の従業員である○○部本部長としての地位を有していたといえ、請求人と本件法人との間には、雇用契約が成立していたと認められる。
そして、本件法人は、上記1(3)ホ及びヘ並びに上記(2)ホのとおり、本件各年分において本件各収入を給与所得に係る収入金額として源泉徴収に係る経理・事務を行い、これを基に請求人に本件各源泉徴収票を交付していたのであるから、請求人との間で締結した契約は雇用契約であると認識していたと認められる。
さらに、上記(2)ロのとおり、請求人が本件判定業務において作成した書類には請求人の個人事業であることを明示した記載をしていなかった上、本件判定業務が請求人と本件法人との業務委託契約に基づくものであることをうかがわせる事情も見当たらない。
これらのことからすれば、請求人は、本件法人の従業員である○○部本部長としての地位を有していたといえ、請求人と本件法人との間には、雇用契約が成立していたと認められる。
(ロ) また、請求人は、上記(2)イ(ハ)のとおり、担当役員として本件判定の業務に係る管理の責任と権限を有し、当該業務を管理していたと認められるほか、同ハのとおり、一定の場合を除いて本件法人の取締役会に出席して取締役として議決権を行使していることが認められ、これらのことからすれば、請求人と本件法人との間には、委任契約も成立していたと認められる。
(ハ) 以上のとおり、請求人と本件法人との間には、雇用契約及びこれに類する原因である委任契約が成立していたと認められる。
ロ 次に、上記イを前提に、請求人が本件判定業務を行うに当たっての本件法人による指揮命令や請求人に対する空間的、時間的な拘束の有無等について検討する。
(イ) 上記(2)イ(ハ)及び(ニ)のとおり、担当役員であった請求人は、本件業務規程に基づき、本件判定の業務に係る管理の責任と権限を有するとともに、不適格案件が発生した場合には、再発防止措置をとることとされており、本件法人に対する職務上の責務を負っていたといえる。
また、上記(2)ヘのとおり、請求人は、原則、本件部署で、本件業務規程に定める業務時間に本件判定業務を行っていたといえることからすれば、空間的、時間的な拘束を受けつつ、継続的に本件法人に対して労務を提供していたと認められる。
また、上記(2)ヘのとおり、請求人は、原則、本件部署で、本件業務規程に定める業務時間に本件判定業務を行っていたといえることからすれば、空間的、時間的な拘束を受けつつ、継続的に本件法人に対して労務を提供していたと認められる。
(ロ) このような請求人の本件法人に対する責務及び労務提供の態様は、上記イ(イ)で認定判断した雇用契約の存在とも整合するから、請求人は、本件法人との間に雇用契約の関係があることを前提に、本件法人の指揮命令下で、空間的、時間的な拘束を受けて、本件判定業務を行っていたと認められる。
ハ 他方、上記(1)イのとおり、事業所得に該当するためには自己の計算と危険において独立して営まれている業務であることを要することから、本件判定業務がそのような業務に該当するか否かについて検討すると、上記1(3)ニ及び上記(2)ニのとおり、請求人への本件判定業務に係る支給金額は賞与を除いて毎月定額であり、本件判定業務の成果に応じて本件法人から支給される金額が変動する支給形態にはなっていないことから、請求人は、本件判定業務の成果に応じた報酬面でのリスクを負担していたとは認められない。
また、本件判定業務から生じる費用については、上記(2)トのとおり、その一部を請求人が負担していたものの、それ以上に、本件判定業務から生じる費用が収益を上回る場合などの経済的な損失について、請求人が負担する義務を負っていたと認めるに足りる証拠はない。
これらのことからすれば、請求人は、自己の計算と危険において本件法人から独立して本件判定業務を行っていたとはいえない。
また、本件判定業務から生じる費用については、上記(2)トのとおり、その一部を請求人が負担していたものの、それ以上に、本件判定業務から生じる費用が収益を上回る場合などの経済的な損失について、請求人が負担する義務を負っていたと認めるに足りる証拠はない。
これらのことからすれば、請求人は、自己の計算と危険において本件法人から独立して本件判定業務を行っていたとはいえない。
ニ 小括
以上の検討によれば、請求人が自己の計算と危険において本件法人から独立して本件判定業務を行っていたとはいえず、本件各収入は、雇用契約に基づき本件法人の指揮命令に服して、空間的、時間的な拘束の下、提供した本件判定業務の対価や、委任契約に基づき取締役として行った職務執行の対価として、本件法人から受けた給付であると認められる。
したがって、本件各収入に係る所得は、いずれも給与所得に該当する。
以上の検討によれば、請求人が自己の計算と危険において本件法人から独立して本件判定業務を行っていたとはいえず、本件各収入は、雇用契約に基づき本件法人の指揮命令に服して、空間的、時間的な拘束の下、提供した本件判定業務の対価や、委任契約に基づき取締役として行った職務執行の対価として、本件法人から受けた給付であると認められる。
したがって、本件各収入に係る所得は、いずれも給与所得に該当する。
ホ 請求人の主張について
請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、本件判定業務が自己の計算と危険において独立して営まれたものであるから、本件各収入に係る所得が事業所得に該当する旨主張し、その根拠として、
請求人は、建築士法上、本件法人の社員として業務を行うことができないのであるから、本件法人とは雇用契約ではなく業務委託契約を締結したものであり、また、取締役としての業務に従事した事実はほとんどなかった旨、
請求人は、本件法人から本件各収入が業務委託に基づく建築士報酬であることを示すものとして本件各支払調書の交付を受けた旨、
本件部署は、独立性の強い第三者機関であり、また、本件判定員である請求人は、本件前社長などから業務の内容を指示されたことはない上、業務時間についても退社時間を自身が決定していた旨及び
請求人は、自身が所有するパソコン等を本件判定業務に使用し、社会保険料等の費用も負担していたほか、本件判定員として建築基準法上の処分を受ける危険を負担して本件判定業務を行っていた旨などを主張する。
しかしながら、次のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がない。
請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、本件判定業務が自己の計算と危険において独立して営まれたものであるから、本件各収入に係る所得が事業所得に該当する旨主張し、その根拠として、
しかしながら、次のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がない。
(イ) 請求人の上記
の主張については、建築士法第24条は第三者との雇用契約の締結を禁止する旨の規定ではなく、また、上記(2)ロ(イ)のとおり、請求人が本件法人との間で、業務委託契約を締結したとの事実を裏付ける証拠は見当たらず、仮に業務委託契約があったのであれば、本件判定業務の性質に照らすと、本件判定の依頼ごとに報酬が合意されたと考えられるところ、上記1(3)ニ及び上記(2)ニのとおり、本件法人から請求人への支給金額は、本件判定業務の成果にかかわらず定額であったのであるから、そのような業務委託契約が存在したと認めることはできない。
また、請求人が、担当役員として本件判定に係る業務を管理等するほか、本件法人の取締役会へ出席して議決権を行使していたと認められることは上記イ(ロ)のとおりであり、雇用契約に類する原因である委任契約の存在を前提とした業務にも従事していたといえる。
したがって、請求人の上記
の主張には理由がない。
また、請求人が、担当役員として本件判定に係る業務を管理等するほか、本件法人の取締役会へ出席して議決権を行使していたと認められることは上記イ(ロ)のとおりであり、雇用契約に類する原因である委任契約の存在を前提とした業務にも従事していたといえる。
したがって、請求人の上記
(ロ) 請求人の上記
の主張については、上記(2)ホのとおり、本件各支払調書に記載された源泉徴収税額が給与所得に係る源泉徴収税額と同額であったことからすれば、請求人が本件法人から本件各支払調書の交付を受けたことは、本件各収入に係る所得が給与所得に該当することと整合するとはいえても、事業所得に該当することの根拠となるものではない。
したがって、請求人の上記
の主張には理由がない。
したがって、請求人の上記
(ハ) 請求人の上記
の主張については、上記(2)イ(イ)及び(ロ)のとおり、本件部署が、本件法人に対して申請された建築確認について本件判定を行うことができず、また、その他の本件判定に係る業務を他の業務から独立した部署で行っていたことからすれば、本件法人内において一定の独立性を有していたということはできる。
しかしながら、本件部署に部署として独立性があることをもって、上記ロで認定判断した、請求人が本件業務規程に基づく職務上の責務を負い、本件法人の指揮命令下にあったことや、請求人の労務提供の態様が空間的、時間的な拘束を受けたものであったことが否定されるものではない。
したがって、請求人の上記
の主張には理由がない。
しかしながら、本件部署に部署として独立性があることをもって、上記ロで認定判断した、請求人が本件業務規程に基づく職務上の責務を負い、本件法人の指揮命令下にあったことや、請求人の労務提供の態様が空間的、時間的な拘束を受けたものであったことが否定されるものではない。
したがって、請求人の上記
(ニ) 請求人の上記
の主張については、社会保険料等の費用の負担があったとしても、請求人が自己の計算と危険において本件法人から独立して本件判定業務を行っていたといえないことは上記ハの認定判断のとおりであり、また、本件判定業務にパソコン等の私物を用いていたとしても、そのことにより請求人の負担する経済的な危険が著しく増加するものでもないから、当該認定判断は左右されない。
これに加え、請求人が本件判定員として建築基準法上の処分を受ける危険を負担していたとしても、当該負担は、本件判定員の資格を保有することに伴う法律上当然の負担にすぎず、本件判定業務から生じる費用が収益を上回る場合などの経済的な損失に係る負担ではないから、請求人が主張する危険の負担を理由として、本件判定業務が請求人の計算と危険において営まれていたとは認められない。
したがって、請求人の上記
の主張には理由がない。
これに加え、請求人が本件判定員として建築基準法上の処分を受ける危険を負担していたとしても、当該負担は、本件判定員の資格を保有することに伴う法律上当然の負担にすぎず、本件判定業務から生じる費用が収益を上回る場合などの経済的な損失に係る負担ではないから、請求人が主張する危険の負担を理由として、本件判定業務が請求人の計算と危険において営まれていたとは認められない。
したがって、請求人の上記
(4) 平成30年分の申告外の収入とその所得の区分について
イ ところで、請求人は、上記3の「請求人」欄の(5)のとおり、本件判定業務を個人事業の一環として行った旨主張しているところ、当審判所に対し、平成30年中に完了した業務(本件判定業務に当たらない耐震強度確認の調査などの業務。以下「平成30年分業務」という。)から生ずる所得についても事業所得に該当する旨主張する。
ロ しかしながら、請求人提出資料及び原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、平成30年分業務から生ずる所得は、請求人の平成30年分の所得税等の修正申告書に計上されておらずこれを加算する必要があるところ、請求人の主張を前提としても、平成30年分業務に係る取引は4件であり、その収入は合計で○○○○円にとどまることや請求人が主張する必要経費からすれば、平成30年分業務に係る営利性及び反復継続性は、いずれも乏しいといわざるを得ない。加えて、別表2の「修正申告」欄のとおり、平成30年分の本件各収入及び公的年金等に係る収入によって、請求人の同年分の生計を賄うことができていたといえることからすれば、平成30年分業務が請求人の生活の資となっていたとはいえない。
ハ 以上のことからすれば、平成30年分業務に係る所得は、事業所得に該当するとはいえず、また、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも当たらないから、その他の雑所得として加算すべきである。
(5) 本件通知処分1、本件通知処分2及び本件更正処分の適法性について
イ 本件通知処分1
本件各収入のうち平成30年分の収入に係る所得は、上記(3)ニのとおり、給与所得に該当し、平成30年分業務に係る所得は、上記(4)ハのとおり、その他の雑所得に該当する。
また、本件各還付金のうち平成30年分の収入として計上した○○○○円は、上記1(4)ロのとおり、平成29年分の所得税等の還付金の額と認められ、課税の対象ではないことから、平成30年分のその他の雑所得に係る総収入金額に算入することはできない。
これらを前提に、当審判所において請求人の平成30年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表6の「審判所認定額」欄のとおりとなり、本件通知処分1の金額を上回る。
そして、本件通知処分1のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件通知処分1は適法である。
本件各収入のうち平成30年分の収入に係る所得は、上記(3)ニのとおり、給与所得に該当し、平成30年分業務に係る所得は、上記(4)ハのとおり、その他の雑所得に該当する。
また、本件各還付金のうち平成30年分の収入として計上した○○○○円は、上記1(4)ロのとおり、平成29年分の所得税等の還付金の額と認められ、課税の対象ではないことから、平成30年分のその他の雑所得に係る総収入金額に算入することはできない。
これらを前提に、当審判所において請求人の平成30年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表6の「審判所認定額」欄のとおりとなり、本件通知処分1の金額を上回る。
そして、本件通知処分1のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件通知処分1は適法である。
ロ 本件通知処分2及び本件更正処分
本件各収入のうち令和元年分及び令和2年分の各収入に係る所得は、上記(3)ニのとおり、いずれも給与所得に該当し、これらの年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額は、当審判所においても、いずれも本件通知処分2及び本件更正処分の各金額と同額であると認められる。
そして、本件通知処分2及び本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件通知処分2及び本件更正処分はいずれも適法である。
本件各収入のうち令和元年分及び令和2年分の各収入に係る所得は、上記(3)ニのとおり、いずれも給与所得に該当し、これらの年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額は、当審判所においても、いずれも本件通知処分2及び本件更正処分の各金額と同額であると認められる。
そして、本件通知処分2及び本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件通知処分2及び本件更正処分はいずれも適法である。
(6) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 本件各源泉徴収簿の総支給金額及び差引徴収税額(省略)
別表2 審査請求に至る経緯(平成30年分の所得税等)(省略)
別表3 審査請求に至る経緯(令和元年分の所得税等)(省略)
別表4 審査請求に至る経緯(令和2年分の所得税等)(省略)
別表5 本件各源泉徴収票及び本件各支払調書の記載内容(省略)
別表6 平成30年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額(省略)