(令和7年6月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)が売却した車両は「使用又は期間の経過により減価する資産」であるから譲渡所得が生じているとして所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該車両は「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当しないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

イ 所得税法第2条《定義》第1項第19号は、減価償却資産とは、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の用に供される建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう旨規定している。
 そして、所得税法施行令第6条《減価償却資産の範囲》柱書は、上記の政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち同条各号に掲げるもの(時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする旨規定し、同条第6号において、車両及び運搬具を掲げている。
ロ 所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定している。
ハ 所得税法第38条第2項は、譲渡所得の基因となる資産が家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産である場合には、同条第1項に規定する資産の取得費は、同項に規定する合計額に相当する金額から、その取得の日から譲渡の日までの期間のうち同条第2項第1号及び第2号に掲げる期間の区分に応じ当該各号に掲げる金額の合計額を控除した金額とする旨規定し、同項第1号は、その資産が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の用に供されていた期間については、同法第49条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項の規定により当該期間内の日の属する各年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるその資産の償却費の額の累積額とし、同法第38条第2項第2号は、同項第1号に掲げる期間以外の期間については、同法第49条第1項の規定に準じて政令で定めるところにより計算したその資産の当該期間に係る減価の額とする旨それぞれ規定している。
ニ 所得税法第49条第1項は、居住者のその年12月31日において有する減価償却資産につきその償却費として同法第37条《必要経費》の規定によりその者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその者が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかった場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする旨規定している。
ホ 所得税法施行令第85条《非事業用資産の減価の額の計算》第1項は、所得税法第38条第2項に規定する資産の同項第2号に掲げる期間に係る減価の額は、当該資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額につき、当該資産と同種の減価償却資産に係る所得税法施行令第129条《減価償却資産の耐用年数、償却率等》に規定する耐用年数に1.5を乗じて計算した年数により同令第120条《減価償却資産の償却の方法》第1項第1号イ(1)に規定する旧定額法に準じて計算した金額に、当該資産の当該期間に係る年数を乗じて計算した金額とする旨規定している。
ヘ 所得税基本通達(平成26年12月19日付課個2−20ほかによる改正前のもの。以下同じ。)2−14《書画、骨とう等》は、書画、骨とう(複製のようなもので、単に装飾的目的にのみ使用されるものを除く。以下同じ。)のように、時の経過によりその価値が減少しない資産は減価償却資産に該当しないのであるが、1古美術品、古文書、出土品、遺物等のように歴史的価値又は稀少価値を有し、代替性のないもの、2美術関係の年鑑等に登載されている作者の制作に係る書画、彫刻、工芸品等のようなものは原則として書画、骨とうに該当する旨定めている。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ 請求人は、平成4年10月17日、D社から、車両(平成3年式の○○○○(車台番号「○○○○」)。以下「本件車両」といい、本件車両と同種の○○○○を「本件同種車両」という。)を130,000,000円で購入した。
ロ 請求人は、令和元年10月1日、E社に対し、本件車両を○○○○円で売却した(以下、この売却を「本件売却」という。)。
ハ 請求人は、本件車両について、道路運送車両法の規定による登録の申請をしておらず、自動車登録番号標の交付を受けていなかった。
ニ 本件車両が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の用に供されていた期間はない。
ホ 本件車両は、令和3年にF国に所在する世界的なオークション会社であるG社がアメリカ合衆国(以下「米国」という。)で開催したオークションに出品されているところ、本件車両の説明文では、本件同種車両の特長として、平成2年の発売から平成4年の生産終了までの総生産台数は53台であること及び高性能のエンジンを搭載し、レーシングカーとしての機能をもって公道を走行できることが掲げられている。
ヘ 本件同種車両の発売当時の価格は500,000スターリング・ポンド(米国ドル換算で約980,247米国ドル、円換算で126,550,000円)であり、近年までのG社等のオークションにおける本件同種車両の落札価格の推移は次表に記載のとおりである。
 なお、次表における「落札価格」欄の「GBP」はスターリング・ポンドを、「USD」は米国ドルをそれぞれ示し、「円換算額」欄は、落札日(オークション開催地の現地時間とし、その日に為替相場がない場合には、同日前の最も近い日)における対顧客直物電信売相場と対顧客直物電信買相場の仲値(以下「TTMレート」という。)により落札価格を日本円に換算した金額(1円未満の端数は切上げ)である。
順号 落札年月日 落札価格 円換算額 TTMレート
1 平成26年9月8日 GBP  218,400 37,248,120円 170.55円
2 平成29年9月9日 GBP  270,833 38,474,536円 142.06円
3 令和3年8月14日 USD 1,902,500 210,150,150円 110.46円
4 令和4年8月18日 USD 1,380,000 186,175,800円 134.91円
5 令和4年8月20日 USD 1,270,000 173,113,700円 136.31円
6 令和4年11月5日 GBP  972,500 161,250,225円 165.81円
7 令和5年3月4日 USD 1,270,000 173,609,000円 136.70円
8 令和6年8月16日 USD  907,000 135,260,910円 149.13円

(4) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、令和元年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を法定申告期限までに提出した。
 なお、上記確定申告書において、本件売却に係る譲渡所得に関する記載はなかった。
ロ 請求人は、令和5年11月28日、令和元年分の所得税等について、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出した。
 なお、上記修正申告書において、本件売却に係る譲渡所得に関する記載はなかった。
ハ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、令和5年12月27日付で、別表2の「更正処分等」欄のとおり本件売却に係る譲渡所得の金額を算定し、別表1の「更正処分等」欄のとおり令和元年分の所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ 請求人は、上記ハの更正処分及び賦課決定処分を不服として、令和6年3月28日に再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、当該更正処分における取得費の金額に誤りがあるとして、別表2の「再調査決定」欄のとおり譲渡所得の金額を算定し、同年8月6日付で別表1の「再調査決定」欄のとおりこれらの処分の一部を取り消す再調査決定をし(以下、この再調査決定によりその一部が取り消された後の更正処分を「本件更正処分」、賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)、その決定書謄本は同月22日に請求人に対し送達された。
ホ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分に不服があるとして、令和6年9月21日に審査請求をした。

2 争点

 本件車両は、所得税法第38条第2項に規定する「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当するか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
本件車両は、以下の理由から、所得税法第38条第2項に規定する「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当する。 本件車両は、以下の理由から、所得税法第38条第2項に規定する「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当しない。
(1) 本件車両は、レーシングカーとしての機能をもって公道を走行できることや、価値を維持するために定期的にメンテナンスを受けていたことを踏まえると、請求人が本件車両を保有していた期間において、本件車両は、すぐに走行し得る状態であったと認められ、自動車の有する本来的な機能があったことは明らかである。 (1) 請求人は、本件車両を専ら観賞用として取得して製造当時の状態のまま保管しており、取得から売却までの間、維持及び補修のためのメンテナンスを一切行わなかった。また、請求人は、道路運送車両法に基づく登録の申請をしなかったことから、自動車登録番号標の交付を受けておらず、本件車両は公道を走行することができなかった。このように、本件車両は、いつでも走行し得る状態にはなく、自動車の本来の効用を果たさなかったことが客観的に明らかである。
(2) 本件車両は、本件売却時点においても製造から30年程度経過したにすぎないものであることに加えて、本件同種車両が53台製造されていることからすれば、本件車両は、歴史的価値又は希少価値を有し、代替性のないものであるとまではいえず、これに上記(1)の事実も踏まえると、本件車両の価値が、自動車に求められる本来的な目的・効用とは異なる面に置かれていることが社会通念上確立しているといえるような例外的な場合に該当するとはいえない。 (2) 本件車両は、本件同種車両の総生産台数が53台のみであることから、極めて高い希少価値を有し、代替性のないものであり、美術品と同様の性格を有している。また、本件車両のようにスーパーカーと呼ばれるものの価値は、主として希少性の原理によって定まり、自動車としての本来の価値以外の部分、すなわち、希少性により決定される価格がそのものの価値として定着している。そして、スーパーカーのコレクターは世界中に多数存在し、主として希少性に基づき決定される著しく高い価格で取引されることは社会通念化している。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

イ 所得税法第38条第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、原則として、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定するとともに、同条第2項において、その価値が使用又は期間の経過により目減りする性質の資産である場合には、課税の場面においてもその資産の価値の目減りを反映させるのが相当であるとの趣旨で、当該合計額から価値の目減り分を控除した金額とする旨規定している。そして、所得税法第38条第2項第1号は、業務用資産の場合に当該控除がされるべき金額は、同法第49条第1項の規定により必要経費に算入される減価償却資産の償却費の額の累積額である旨規定しており、同法第38条第2項第2号及び所得税法施行令第85条は、非業務用資産についても、所得税法第49条第1項に準じて控除額を計算するものとしている。このことからすれば、同法第38条第2項に規定する「家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産」と、同法第49条第1項の減価償却資産(その意義及び範囲は、同法第2条第1項第19号及び所得税法施行令第6条各号(上記1の(2)のイ)に規定されている。)の範囲は一致すると解すべきである。
 この所得税法第49条第1項は、費用収益対応の原則の観点から、業務用資産の価値のうち使用により目減りする分を数値化し、当該目減りする分に対応する取得費用分のみをその年分の必要経費に算入するという趣旨の規定であるが、資産の価値の目減り分の数値化を個々の資産ごとに正確に行うことは不可能であることから、同項は、資産を類型化し、その類型ごとに、耐用年数、耐用年数経過後の残存価値及び当該耐用年数内における価値の減少の仕方を擬制して、必要経費を計算する旨を定めたものであり、このことは、業務用資産だけでなく、非業務用資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額から価値の目減り分を控除する場面においても同様に妥当することとなる。
ロ そして、資産の価値とは、その資産が有する、何らかの目的の実現に役立つ性質や程度を指すところ、その資産の価値の目減りの程度を計算することの前提として、その資産の「価値」の定義、すなわち、何が当該資産の「価値」といえるかという点についても、原則として、個別具体的な事情や当該資産に対して納税者の置く主観的な意義付けを離れて、その類型ごとに社会通念上想定される本来的な目的・効用という観点から、一定の擬制を置かざるを得ないものというべきである。換言すれば、ある資産が、使用又は期間の経過により減価しない資産(すなわち、所得税法第38条第2項の規定の適用のない資産であり、上記イのとおり、その範囲は、所得税法施行令第6条に規定する「時の経過によりその価値の減少しない資産」の範囲と同じであるものと解される。)に該当するか否かの判断も、その資産が、その属する類型において、社会通念上想定される本来的な目的・効用を前提に、当該目的・効用が期間の経過により減少していくか否かという点から行われるべきであり、ただ、個別の資産につき、その価値が、当該類型の資産に求められる本来的な目的・効用とは異なる面に置かれていることが社会通念上確立しているといえるような例外的な場合に、これと異なる判断がされるにすぎないものと解するべきである。
ハ この点、所得税基本通達2−14は、上記1の(2)のへのとおり、時の経過によりその価値の減少しない資産について、古美術品、古文書、出土品、遺物等のように歴史的価値又は希少価値を有し、代替性のないもの等がこれに当たる旨定めている。これは、美術品は、社会通念上その目的として鑑賞以外のものが想定されないこと、又は鑑賞以外の目的や機能が形式的には想定されるとしても、当該目的や機能の部分が形骸化し、鑑賞対象としての部分がその価値のほとんどを占めるものとして社会通念上確立しているために、価値の目減りが将来にわたり生ずる余地がないことから、上記の美術品等に該当すれば「時の経過によりその価値の減少しない資産」に当たる旨を定めたものと解される。何を「美術品」等とするかを個々の主観に委ねることは、美的感覚が人により大きく異なる以上、極めて安定性を欠く結論となることを踏まえると、この取扱いは、「時の経過によりその価値の減少しない資産」の一定の判断基準として、当審判所においても相当であると認められる。
ニ かかる所得税基本通達2−14の存在にも照らせば、所得税法施行令第6条各号に該当する資産が、鑑賞対象としての卓越性に係る価値をも併せて有するような場合に、それをもって「時の経過によりその価値の減少しない資産」に該当するといえるか否かは、上記ハのような価値の目減りが将来にわたり生ずる余地がないものという評価が社会通念上確立しているかどうかによって判断すべきである。このことは、物に対する価値の見いだされ方には時代ごとに差があり得ることに加え、鑑賞対象としての部分以外に実用的な機能を有する資産の場合は、技術が進歩する以上、当該資産の実用的な機能としては古い物より新しい物の方が優れていることを前提に、長い時代の変遷を経ても、また、実用的な機能自体は新しいものに大きく劣っていても、なお当該資産に高い価値が付けられているようなものは、社会通念上、当該資産の実用的な機能以外の部分(すなわち、鑑賞対象としての部分)が、その物の価値として確立した(すなわち、歴史的価値又は希少価値がその本来的効用として定着した)ものと判断することができるとの解釈に基づくものである。
ホ そうすると、社会通念上「美術品」に該当しない資産、すなわち、当該資産の類型上、鑑賞以外の実用的な目的又は機能が想定される資産が、なお、「時の経過によりその価値の減少しない資産」に該当するといえるような例外的な場合(上記ロ)とは、当該資産が、「骨とう」すなわち「古美術品、古文書、出土品、遺物等」に類するといえる程度の長期間を経てもなお確立した高い価値を維持しているような場合等に限られるというべきである。そして、上記ハの「希少価値」や「代替性のない」との文言もかかる文脈において理解されるべきであり、単に市場における希少性等によってその価格が高騰しているにすぎないような場合を含むものではない。

(2) 当てはめ

イ まず、本件車両は、自動車であるから、所得税法施行令第6条第6号に掲げる「車両及び運搬具」に該当する。そして、自動車の本来の効用は、人や物を乗せ、原動機の動力によって車輪を回転させて路上を走ることにあるところ、経年や使用によって原動機の性能が低下したり、その構成部品が劣化したりすることによって、その機能は一般的・類型的に逓減していくものであり、逆に、およそ自動車である以上、かかる機能の劣化が一切発生しないとか、使用によってむしろ機能が向上するといった事態が生じ得ないことは、社会通念上明らかであるといえる。そうすると、自動車は、原則として「時の経過によりその価値の減少しない資産」には該当しないものというべきである。
ロ 次に、上記1の(3)のホのとおり、本件車両は、出品されたオークションの説明文において、本件同種車両の特長として、総生産台数は53台であること及び高性能のエンジンを搭載し、レーシングカーとしての機能をもって公道を走行できることが掲げられていることからすると、その希少性にも相当程度着目して価格が形成されていることはうかがえるものの、希少性のみではなく、その搭載するエンジンや走行性能といった自動車本来の機能にも価値が置かれていることは明らかである。
ハ さらに、上記1の(3)のイ、ロ及びホからすれば、本件車両は、請求人が購入した当時では、製造から長くても2年程度、本件売却時でみても製造から28年程度しか経過していない。
 加えて、上記1の(3)のヘのとおり、近年までのオークションにおける本件同種車両の落札価格の推移によれば、円換算額ベースにおいて、平成26年においては発売時の価格の0.3倍程度の価格であったところ、同年から令和3年にかけてその5倍程度の価格に高騰した後、令和6年にはその0.6倍程度の価格へ値下がりしているのであって、本件同種車両の今後の価格推移についてはいまだ不確定な面があるといわざるを得ない。
ニ 以上のことからすると、本件車両が、「骨とう」すなわち「古美術品、古文書、出土品、遺物等」に類するといえる程度の長期間を経てもなお確立した高い価値を維持しているような場合に当たると解することはできないから、上記(1)のロ及びホに照らし、鑑賞以外の実用的な目的又は機能が想定される本件車両が、なお、「時の経過によりその価値の減少しない資産」に該当するといえるような例外的な場合、すなわち、その価値が、当該類型の資産に求められる本来的な目的・効用とは異なる面に置かれていることが社会通念上確立しているといえるような例外的な場合には該当しない。そして、当審判所の調査及び審理の結果によっても、ほかに本件車両が「時の経過によりその価値の減少しない資産」であることをうかがわせるような事情は認められない。
 したがって、本件車両は、所得税法第38条第2項に規定する「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当する。

(3) 請求人の主張について

イ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、1本件車両を専ら観賞用として取得して製造当時の状態のまま保管しており、メンテナンスを一切行わなかった旨及び2本件車両について、自動車登録番号標の交付を受けておらず、公道を走行することができなかった旨それぞれ主張する。
 しかしながら、上記(1)のロのとおり、資産の価値は、原則として、個別具体的な事情や当該資産に対して納税者の置く主観的意義付けを離れて、その類型ごとに社会通念上想定される本来的な目的や効用という観点から判断すべきであるところ、請求人が本件車両を購入した目的、その保管状態、メンテナンスの有無及び自動車登録番号標の交付を受けていなかったことといった各事情は、いずれも請求人の主観的意義付けや個別具体的な事情といわざるを得ず、当該各事情は、本件車両が「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当しないといえるか否かの判断に影響するものではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のとおり、1本件車両が希少価値を有し、代替性のないものであり、美術品と同様の性格を有している旨、2本件車両のようなスーパーカーの価値は希少性により決定される価格がそのものの価値として定着している旨及び3スーパーカーのコレクターは多数存在し、希少性に基づき決定される著しく高い価格で取引されることは社会通念化している旨主張する。
 しかしながら、上記1については、上記(1)のホのとおり、「希少価値」や「代替性のない」との文言は、「骨とう」すなわち「古美術品、古文書、出土品、遺物等」に類するといえる程度の長期間を経てもなお確立した高い価値を維持しているような場合等の文脈において理解されるべきであるところ、本件車両が上記のような場合に当たると解することはできないことは上記(2)のニのとおりである。
 また、上記2及び3については、本件同種車両は、その総生産台数が53台(上記1の(3)のホ)と少ないことから、その希少性にも相当程度着目して価格が形成されていることはうかがえるものの、希少性のみではなく、自動車本来の機能にも価値が置かれていると認められることは上記(2)のロのとおりである。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 本件更正処分の適法性について

上記(2)のとおり、本件車両は、所得税法第38条第2項に規定する「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当することから、これに基づき、請求人の令和元年分の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、いずれも本件更正処分の金額と同額となる。
 また、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件更正処分は適法である。

(5) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(令和4年法律第4号による改正前のもの)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所においても、請求人の令和元年分の過少申告加算税の額は、本件賦課決定処分における金額と同額であると認められる。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(6) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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