(令和7年6月17日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、亡母の相続に係る相続税の申告を行った後、原処分庁が、当該相続に係る遺産分割協議において請求人が取得したとする金員が申告されていないとして更正処分等を行ったことに対し、請求人が、当該金員は当該相続に係る相続財産に該当しないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
相続税法第2条《相続税の課税財産の範囲》第1項は、同法第1条の3《相続税の納税義務者》第1項第1号の規定に該当する者(相続により財産を取得した一時居住者でない個人であって、当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するものをいう。)については、その者が相続により取得した財産の全部に対し、相続税を課する旨規定している。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 被相続人及び相続人について
請求人の母であるH(以下「本件被相続人」という。)は、令和3年6月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
なお、本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の長男であるJ(以下「本件長男」という。)、同二男であるK(以下「本件二男」という。)、同長女である請求人の3名である(以下、これらを併せて「本件共同相続人」という。)。
ロ 本件被相続人の夫の相続について
(イ) 本件被相続人の夫であり、本件共同相続人の父であるL(以下「亡L」という。)は、平成28年5月○日に死亡し、その相続(以下「亡L相続」という。)が開始し、本件被相続人及び本件共同相続人の4名は、亡L相続に係る相続財産を取得した。
(ロ) 請求人は、亡L相続に係る相続税について、本件被相続人及び本件共同相続人の4名共同で申告書を提出することにより、法定申告期限までに当該相続税の申告をした(以下、当該申告を「亡L相続に係る当初申告」という。)。
ハ M農業協同組合の本件被相続人名義の口座から合計○○○○円が現金で出金された状況について
亡Lは、生前、M農業協同組合(以下「M農協」という。)の○○支店及び○○支店において、本件被相続人名義で預入れをしていたところ、平成29年1月○日から平成30年2月○日までの間(以下「本件出金期間」という。)、別表1の順号1ないし9のとおり、本件被相続人名義の各口座から合計○○○○円が現金で出金された(以下、本件被相続人名義の各口座からの出金額の合計○○○○円を「本件出金額」といい、出金された現金を「本件現金」という。また、別表1の順号1ないし9の各定期貯金口座及び各普通貯金口座を併せて「本件被相続人各口座」といい、同順号8の普通貯金口座(口座番号○○○○)を「本件被相続人普通口座」という。)。
ニ 亡L相続に係る相続税の調査及び修正申告等について
(イ) G税務署長所属の調査担当職員は、平成31年4月14日、亡L相続に係る相続税の調査を実施して、別表2の「亡L相続に係る追加分の相続財産」欄のとおり、亡Lの相続財産であるにもかかわらず、亡L相続に係る当初申告において申告されていなかった貯金・現金等合計○○○○円(以下「追加分の相続財産」という。)の存在を確認した。
(ロ) 本件被相続人及び本件共同相続人は、令和元年5月30日付で、追加分の相続財産に係る遺産分割協議書を4名連名で作成した。
また、請求人は、令和元年5月31日、亡L相続に係る相続税について、本件被相続人及び本件共同相続人の4名共同で、追加分の相続財産を加算した修正申告書を提出することにより、当該相続税の修正申告をした(以下、当該申告を「亡L相続に係る修正申告」という。)。
ホ 本件相続に係る遺産分割協議等について
(イ) 本件被相続人は、上記イのとおり、令和3年6月○日に死亡し、本件共同相続人は、同年11月2日、本件相続に係る遺産分割協議を行った(以下、同日開催の当該遺産分割協議を「本件遺産分割協議」という。)。
(ロ) 本件遺産分割協議の場には、N税理士、その補助者であるP(以下「P氏」という。)などが同席しており、本件共同相続人は、N税理士が準備した令和3年11月2日付の本件相続に係る遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)にそれぞれ署名押印した。
(ハ) 本件遺産分割協議書には、要旨、次の記載がある。
A 本件被相続人の遺産については、同人の相続人の全員において分割協議を行った結果、各相続人がそれぞれ本件遺産分割協議書の記載のとおり遺産を分割し、取得することに決定した。
B 請求人が取得する財産「現金 F管理口 ○○○○円」(以下、本件遺産分割協議書に記載されていた請求人が本件相続により取得したとする現金○○○○円を「本件金員」という。)
(4) 審査請求に至る経緯
イ 請求人は、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表3の「当初申告」欄のとおり記載した申告書を法定申告期限までに原処分庁へ提出して、申告した。
ロ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当者」という。)は、令和5年8月以降、本件相続税に係る調査を実施し、請求人は、当該調査を受けて、同年12月28日、別表3の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を原処分庁へ提出して、修正申告した。
ハ 原処分庁は、令和6年1月26日付で、請求人に対し、別表3の「賦課決定」欄のとおり、過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ 原処分庁は、本件相続税の計算において本件金員が請求人の課税価格及び本件共同相続人に係る課税価格の合計額に加算されていなかったことを理由として、令和6年3月26日付で、請求人に対し、別表3の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ホ 請求人は、令和6年6月26日、本件更正処分等を不服として、審査請求した。
2 争点
本件金員は、本件相続に係る相続財産に該当するか否か。
3 争点についての主張
| 原処分庁 |
請求人 |
以下のとおり、本件金員は、本件相続に係る相続財産に該当する。
(1) 請求人は、以下の事情から、本件出金期間において、本件被相続人各口座から出金された本件現金を管理・所有していたと認められる。
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以下のとおり、本件金員は、本件相続に係る相続財産に該当しない。
(1) 請求人は、以下の事情から、本件被相続人各口座から出金された本件現金の全部ないし一部を管理・所有していない。
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イ M農協○○支店における本件被相続人の渉外担当者であったQ渉外支店長代理(以下「Q氏」という。)及びR渉外支店長代理(以下「R氏」という。)は、本件被相続人各口座から現金を出金する場合、 請求人が本件被相続人の窓口となって渉外担当者に対し出金依頼を行い、 渉外担当者が請求人の経営する美容室に出金依頼のあった現金を届けており、その際、 本件被相続人はその場に同席することもあれば、同席しないこともあったが、請求人は必ずその場に同席していた旨申述している。
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イ 本件出金額は、そもそも亡Lが「H」名義で貯蓄していたいわゆる「名義預金」であり、亡L相続に係る相続財産であった。
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ロ 本件長男は、 本件被相続人各口座から現金○○○○円が出金された時期、 請求人が本件遺産分割協議書に署名押印していることからすると、請求人が本件現金を管理・所有していたと考えている旨申述している。
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ロ 本件出金額は、平成29年3月7日にした亡L相続に係る当初申告では相続財産として計上されていなかったが、本件被相続人及び本件共同相続人は、亡L相続に係る当初申告から漏れていた本件出金額を含む追加分の相続財産について亡Lの相続財産に追加し、その追加分を踏まえた遺産分割協議書を作成した上で、令和元年5月31日付で亡L相続に係る修正申告をした。
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ハ 上記イの渉外担当者の申述及び上記ロの本件長男の申述は、おおむね整合しており、いずれも信用できると認められることからすると、請求人は少なくとも本件出金期間において、本件被相続人各口座を管理し、本件現金の存在を認識しながら、本件現金を管理・所有していたと認められる。
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ハ 追加分の相続財産を踏まえた亡L相続に係る遺産分割協議書及び修正申告書によれば、本件出金額のうち、平成29年2月○日に出金された合計○○○○円(別表1の順号5及び6)については、本件長男及び本件二男がそれぞれ取得(本件長男が○○○○円、本件二男が合計○○○○円を各取得)していたと認められる。
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ニ なお、追加分の相続財産を踏まえた亡L相続に係る遺産分割協議書が作成された時期において、本件現金が既に出金されていることからすると、同協議書に記載のある個別の各財産を本件長男及び本件二男がそれぞれ直接的に分割取得したものとは認められない。
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ニ そうすると、本件出金額のうち、少なくとも上記ハの○○○○円については、請求人が本件相続により取得したとして課税価格に加算されるべきではない。
また、上記ロ及びハの各事情からすると、本件長男の申述のうち、請求人が本件金員を管理・所有していたと考えている旨の申述は信用できない。
さらに、本件被相続人が自ら本件被相続人各口座を管理しており、請求人が本件被相続人各口座からの出金に関与していたのは本件被相続人の指示・依頼に従ったものであるから、請求人が当該出金に関与していたことを理由として、請求人が本件出金期間において本件現金を所有し、また、本件相続開始日において本件金員を所有していた旨推認することは論理の飛躍がある。
したがって、上記ハの○○○○円だけでなく、本件金員の全額について課税価格に加算されるべきではない。
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(2) 本件遺産分割協議書には、本件共同相続人の署名押印があり、請求人は、本件金員が本件相続に係る相続財産に含まれること及び請求人が本件金員を取得することを自認していたと認められる。加えて、本件相続に関し、本件遺産分割協議書に代わる遺産分割協議書が作成されたとする事情も見当たらない。
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(2) 請求人は、本件遺産分割協議が実施された令和3年11月当時、○○○○にり患するなど○○○○が悪かったところ、本件遺産分割協議を主導したN税理士及びその補助者であるP氏から、その内容について詳細な説明を受けることなく、本件遺産分割協議書への署名押印を強く求められたため、その内容をよく理解しないまま、やむを得ず署名押印した。
請求人は、署名押印した数日後の令和3年11月16日、本件遺産分割協議書の内容について異議を唱えており、こういった経緯からしても、本件遺産分割協議書は請求人の意思に基づいて作成されたものではないから、本件遺産分割協議は無効である。
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(3) 上記(1)及び(2)の各事情からすると、請求人は、本件現金を管理・所有し、これを原資とする本件金員を本件相続開始日において本件相続により取得したものと認められる
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4 当審判所の判断
(1) 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件現金の各出金状況について
(イ) 別表1の順号1ないし4の各出金は、本件被相続人名義の定期貯金4件が解約されたもので、平成29年1月○日付「引渡受領証」の受取人欄には本件被相続人の氏名が記載されていることから、本件被相続人が当該各出金に係る現金を受け取ったと認められる。
(ロ) 別表1の順号5及び6の各出金は、本件被相続人名義の定期貯金2件が解約されたもので、平成29年2月○日付「引渡受領証」の受取人欄には本件被相続人の氏名が記載されていること、M農協の「訪問計画表」には請求人が同席した旨記載されていることから、本件被相続人が請求人同席の下で当該各出金に係る現金を受け取ったと認められる。
(ハ) 別表1の順号7の出金は、本件被相続人名義の普通貯金口座から払戻しがされたもので、平成29年3月○日付で本件被相続人が請求人に対し当該出金を委任する旨の「委任状」が作成されていることから、請求人が当該出金に係る現金を受け取ったと認められる。
(ニ) 別表1の順号8の出金は、本件被相続人普通口座から払戻しがされたもので、平成29年8月○日付「引渡受領証」の受取人欄には本件被相続人の氏名が記載されていることから、本件被相続人が当該出金に係る現金を受け取ったと認められる。
(ホ) 別表1の順号9の出金は、本件被相続人名義の定期貯金1件が解約されたもので、平成30年2月○日付「引渡受領証」の受取人欄には請求人の氏名が記載されていることから、請求人が当該出金に係る現金を受け取ったと認められる。
ロ 追加分の相続財産の分割状況等について
(イ) 上記1の(3)のニの(イ)のとおり、亡L相続に係る当初申告において申告されていなかった追加分の相続財産は合計○○○○円の貯金等であり、その内訳は、別表2の「亡L相続に係る追加分の相続財産」欄に記載のとおりである。
(ロ) また、上記1の(3)のニの(ロ)のとおり、本件被相続人及び本件共同相続人は、令和元年5月30日付で、追加分の相続財産に係る遺産分割協議書を作成したところ、本件被相続人及び本件共同相続人が分割取得した内訳は、別表2の「分割取得者」欄に記載のとおりである。
ハ 「被相続人○○○○氏相続税修正申告に伴う遺産分割やり直しの追加分配額」(原文ママ)と題する書面について
(イ) 「被相続人○○○○氏相続税修正申告に伴う遺産分割やり直しの追加分配額」と題する書面(以下「本件書面」という。)の右上部には「2019/8/14 13:34」と印字されていることから、本件書面は令和元年8月14日に作成ないし印字されたものと認められる。
(ロ) 本件書面には、要旨、別表4のとおり記載されており、本件被相続人及び本件共同相続人は、別表4に沿って、次のAないしDのとおり、追加分の相続財産に関する各自の納税額や各自が最終的に受け取る清算金等を整理したと認められる。
A 本件被相続人については、追加分の相続財産のうち○○○○円を取得し、相続税の本税として○○○○円を納付する。
B 本件長男については、追加分の相続財産のうち○○○○円を取得し、相続税の本税として○○○○円、過少申告加算税として○○○○円、延滞税として○○○○円を納付し、清算金として○○○○円を受け取る。
C 本件二男については、追加分の相続財産のうち○○○○円を取得し、相続税の本税として○○○○円、過少申告加算税として○○○○円、延滞税として○○○○円を納付し、清算金として○○○○円を受け取る。
D 請求人については、追加分の相続財産のうち○○○○円を取得し、相続税の本税として○○○○円、過少申告加算税として○○○○円、重加算税として○○○○円、延滞税として○○○○円を納付し、清算金として○○○○円を受け取る。
ニ 亡L相続に係る修正申告の納税等について
(イ) 請求人名義のM農協○○支店普通貯金口座(口座番号○○○○。以下「請求人普通口座」という。)の取引明細によれば、令和元年5月○日から同月○日までの間の入出金の状況は、要旨、次のA及びB並びに別表5−1の順号1ないし6のとおりである。
A 請求人普通口座には、令和元年5月○日、○○○○円、○○○○円及び○○○○円が入金されているところ、これらの入金は、亡Lが、生前に、M農協の○○支店において、請求人名義の定期貯金口座に預入れしていたもの(別表2の「亡L相続に係る追加分の相続財産」欄の順号19、21ないし24、26ないし31)が同日までに解約されるなどして、その元利金が請求人普通口座に入金されたものである。
B また、請求人普通口座には、令和元年5月○日、○○○○円が入金され、同月○日、請求人普通口座から本件被相続人普通口座に○○○○円が振込送金された。
(ロ) 本件被相続人普通口座の取引明細によれば、令和元年5月○日から同年8月○日までの間の入出金の状況は、別表5−2のとおりであり、別表4の本件書面の内容も考慮すると、亡L相続に係る修正申告に関して、以下の納税及び清算が行われたと認められる。
A 本件被相続人普通口座には、令和元年5月○日から同月○日までに、○○○○円、○○○○円、○○○○円及び○○○○円の計○○○○円が入金され、また、上記(イ)のBのとおり、請求人普通口座から入金された○○○○円を合算すると、合計○○○○円が入金された。
B 亡L相続に係る修正申告の申告手数料(本件被相続人及び本件共同相続人の4名について1人当たり○○○○円)として、令和元年5月○日、○○○○円が支払われた(別表5−2の順号6)。
C 本件被相続人及び本件共同相続人の相続税として、令和元年5月31日、○○○○円、○○○○円、○○○○円及び○○○○円の合計○○○○円が納付された(別表5−2の順号7ないし10)。
D 本件共同相続人の加算税及び延滞税として、令和元年7月1日及び同月29日、○○○○円、○○○○円、○○○○円、○○○○円、○○○○円及び○○○○円の合計○○○○円が納付された(別表5−2の順号11ないし16)。
E 令和元年8月○日に、本件被相続人普通口座から○○○○円が出金されているところ、当該出金は、本件長男、本件二男及び請求人の各清算金(○○○○円、○○○○円及び○○○○円)が送金されるなどしたものである(別表5−2の順号17)。
(2) 本件長男、Q氏及びR氏の各申述について
イ 本件長男は、令和5年8月29日、本件調査担当者に対して、要旨次のとおり申述した。
(イ) N税理士が、本件被相続人各口座からの出金を確認したところ、不明出金の合計は○○○○円であった。
(ロ) 出金の時期等に照らせば、現金○○○○円は、請求人が管理していると考えている。
(ハ) ○○○○円の現金を見たわけではなく、所在も不明である。
ロ Q氏は、令和5年10月30日、本件調査担当者に対して、要旨次のとおり申述した。
(イ) 請求人は、何か用件がある場合、渉外担当者に対して電話を掛けてきた。
(ロ) 現金を届けたのは、請求人が経営する美容室であり、本件被相続人は、その場にいることもあれば、いないこともあった。
ハ R氏は、令和5年10月31日、本件調査担当者に対して、要旨次のとおり申述した。
(イ) 本件被相続人との連絡は、全て請求人が窓口であった。
(ロ) 本件被相続人を訪問する際は、必ず、請求人が経営する美容室に出向いた。本件被相続人は、その場にいることもあれば、いないこともあったが、いるときは、店舗の奥に座っていた。
(3) 検討
イ 問題の所在
本件において、請求人は、本件出金額の全部ないし一部について、亡L相続に係る修正申告の過程で本件長男ないし本件二男が分割取得していることなどを理由として、請求人が本件現金の全部ないし一部を管理・所有していたとは認められない旨主張している。そこで、本件出金額が、亡L相続に係る修正申告の対象として整理されていたと認められるかについて、以下、検討する。
ロ 本件出金額が亡L相続に係る修正申告の対象として整理されていたか否かについて
(イ) 別表1の順号1ないし4の定期貯金に係る口座番号・預入番号4件(口座番号「○○○○」・預入番号「○○○○」、「○○○○」、「○○○○」及び「○○○○」)は、別表2の順号1、6ないし8の口座番号・各預入番号と一致している。
また、別表1の順号5及び6の定期貯金に係る口座番号(「○○○○」及び「○○○○」)は、別表2の順号18及び17の各口座番号と一致している。
さらに、別表1の順号7の普通貯金に係る口座番号(「○○○○」)は、別表2の順号11の口座番号と一致している。
(ロ) 別表1の順号8は、本件被相続人普通口座から現金が出金されたものであり、本件被相続人普通口座の取引明細等によれば、平成29年8月○日、本件被相続人名義の定期貯金10件が解約されて、本件被相続人普通口座に元金合計○○○○円と利息が入金された後、同月○日、本件被相続人普通口座から合計○○○○円が一時払終身共済3件(以下「本件各終身共済」という。)に係る保険料に充てられ、同月○日、本件被相続人普通口座の残高から現金○○○○円が出金されたものである。そして、当該定期貯金10件の口座番号・預入番号は、当該解約までに書替継続(自動継続ではない定期貯金について満期に継続する手続。以下同じ。)が行われたため、解約時点では口座番号・預入番号に異動があったものの、別表2の順号2ないし4、9、10、12ないし16の定期貯金が解約されたものである。
(ハ) 別表1の順号9は、本件被相続人名義の定期貯金(口座番号「○○○○」・預入番号「○○○○」)が解約されて現金で出金されたものであるところ、本件被相続人各口座の取引明細によれば、当該口座番号・預入番号は、別表2の順号5の「口座番号等」欄の預入番号「○○○○」の定期貯金について書替継続が行われ、その預入番号が「○○○○」に変更されたものと認められる。
(ニ) 上記(1)のイのとおり、本件出金額は、平成29年1月から平成30年2月までに現金で出金されており、本件被相続人ないし請求人が、M農協の担当者から受け取ったと認められるものの、上記(イ)ないし(ハ)のとおり、別表1の順号1ないし9の定期貯金・普通貯金は、別表2の「亡L相続に係る追加分の相続財産」欄の貯金に含まれ、亡L相続に係る修正申告の対象として整理されており、別表2の追加分の相続財産の中には、本件出金額が含まれていたと認められる。
ハ 上記ロを踏まえた検討について
(イ) 本件被相続人及び本件共同相続人は、亡L相続に係る相続税の調査を受けて、亡L相続に係る追加分の相続財産を整理しているところ、別表1の順号1ないし9について、いずれも亡Lが本件被相続人の名義で貯蓄していた定期貯金・普通貯金であることを認識し、本件出金額を含む合計○○○○円の追加分の相続財産について4名で分割取得して亡L相続に係る修正申告をすることや、亡L相続に係る修正申告に伴う納税と残余財産の清算を行うことを協議したと認められる。
(ロ) そして、上記(1)のニの(ロ)のとおり、本件被相続人普通口座には令和元年5月○日時点で合計○○○○円が入金されていたところ、追加分の相続財産である○○○○円から、本件被相続人が取得した

本件各終身共済の保険料○○○○円(別表4の順号12)及び

既消費分○○○○円(別表4の順号10)を差し引いた金額(○○○○円)とおおむね同等の金額が、本件被相続人普通口座に入金・集約された上で、別表4の本件書面に沿って、相続税等の納付が行われた後、残余財産が本件被相続人及び本件共同相続人で清算されたと認められる。
(ハ) 以上によれば、本件出金額は、本件相続開始日より前の令和元年5月時点で本件被相続人及び本件共同相続人の下で、亡L相続に係る追加分の相続財産として整理され、納税や残余財産の清算が行われたと認められ、このような客観的状況を踏まえると、請求人が、本件相続開始日である令和3年6月○日時点において、本件現金ないしこれを原資とする本件金員を管理・所有していたと認めることはできない。
また、本件相続開始日において請求人が本件金員の全額を管理・所有していたことを前提とする本件遺産分割協議書については、その内容が上記客観的状況と整合しておらず、その内容の真実性については疑義があるというほかない。
したがって、本件遺産分割協議書に本件共同相続人3名の署名押印があることをもって、本件相続開始日に本件金員が存在し、請求人が本件相続に係る相続財産として取得したことを推認することはできないというべきである。
ニ 請求人による本件被相続人各口座の管理状況について
上記(1)のイの本件現金の各出金状況、上記(2)のロ及びハのR氏やQ氏の申述によれば、別表1の順号1ないし9の各出金について、請求人が現金受領の場に同席し又は現金を受け取るなどしていたことが認められるものの、これら事実関係から、請求人が本件被相続人各口座を管理していたとまでは認められず、また、請求人が本件相続開始日において本件現金ないしこれを原資とする本件金員を管理・所有していたと認めることもできない。
そして、当審判所の調査及び審理の結果によっても、請求人が本件被相続人各口座を管理していたことや、請求人が本件相続開始日において本件現金ないしこれを原資とする本件金員を管理・所有していたことを裏付ける証拠は見当たらない。
ホ まとめ
以上によれば、請求人が、本件現金を原資とする本件金員を、本件相続開始日において、本件相続により取得したものとは認められないから、本件金員は、本件相続に係る相続財産に該当しない。
(4) 原処分庁の主張について
イ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄のとおり、

本件現金の出金に当たり、請求人が出金依頼を行い、現金受領の場に同席していた旨の申述(同(1)イ)、

本件長男の申述(同(1)ロ)、

本件遺産分割協議書に請求人を含む本件共同相続人の署名押印があること(同(2))などを理由として、請求人は、本件現金を管理・所有し、これを原資とする本件金員を本件相続開始日において本件相続により取得した旨主張する。
しかしながら、上記

については、R氏やQ氏の申述から、請求人が本件被相続人各口座を管理し、本件現金を管理・所有していたとまでは認められないことは上記(3)のニのとおりであり、また、上記

については、本件遺産分割協議書に請求人を含む本件共同相続人の署名押印があることをもって、請求人が本件遺産分割協議によって本件金員を取得したと認められないことは上記(3)のハのとおりである。
次に、上記

については、上記(2)のイの(ロ)の申述は、本件長男が、本件現金の各出金時期等に基づいて、請求人が本件現金を管理している旨の推測を述べたものであり、同(ハ)の申述によれば、本件長男が、本件相続開始日時点で本件現金ないしこれを原資とする本件金員の存在を確認していないことが認められる。また、上記(3)のハの(ハ)のとおり、本件出金額を含む追加分の相続財産について、本件被相続人及び本件共同相続人の間で整理・清算されていることを考慮すると、本件長男の申述によって、本件相続開始日に本件現金ないしこれを原資とする本件金員が存在し、請求人が本件相続に係る相続財産として取得したと認めることはできない。
ロ このほか、原処分庁は、上記3の「請求人」欄の(1)の主張に対して、同「原処分庁」欄の(1)のニのとおり、

亡L相続に係る遺産分割協議書が作成された時期において、本件現金が既に出金されていることからすると、同協議書に記載のある個別の各財産を本件長男及び本件二男がそれぞれ直接的に分割取得したものとは認められない旨主張する。
しかしながら、令和元年5月時点で、本件出金額を含む亡L相続に係る追加分の相続財産が、本件被相続人及び本件共同相続人の下で整理され、納税や残余財産の清算が行われたと認められること、本件相続開始日時点で、請求人が、本件現金ないしこれを原資とする本件金員を管理・所有していたと認められないことは、上記(3)のハの(ハ)で判断したとおりであり、亡L相続に係る遺産分割協議書が作成される前に本件現金が既に出金されていることは、当該判断を左右するものではない。
ハ 以上から、原処分庁の上記

ないし

の各主張については、いずれも理由がない。
(5) 本件更正処分等の適法性
上記(3)のとおり、本件金員は、本件相続に係る相続財産に該当するとは認められず、請求人が本件相続により本件金員を取得したとしてされた本件更正処分等は違法であるから、その全部を取り消すべきである。
(6) 結論
よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。
別表1 本件被相続人各口座からの出金状況(省略)
別表2 亡L相続に係る追加分の相続財産及び分割取得者(省略)
別表3 審査請求に至る経緯(省略)
別表4 本件書面の内容(省略)
別表5−1 請求人普通口座の入出金の状況等(省略)
別表5−2 本件被相続人普通口座の入出金の状況等(省略)
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