(令和7年7月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、病院を運営する法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、雇用する医師の定年を定める旨の就業規則の改正を行ったことに伴い、当該改正時、既に定年に達していた医師らに対して退職金として支払った金員について、原処分庁が、当該医師らは退職扱いとなった後も引き続き勤務しており、勤務の内容等に重大な変動はなく、退職の事実又は退職に準じた事実がないことから、当該金員は給与等(賞与)に該当するとして、請求人に源泉所得税等の納税告知処分等をしたのに対し、請求人が、当該金員は、当該医師らの退職という事実に基因して支払ったものであるから、退職手当等に該当するなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

イ 所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
ロ 所得税法第30条《退職所得》第1項は、退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下「退職手当等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
ハ 所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
ニ 所得税法第199条《源泉徴収義務》は、居住者に対し国内において退職手当等の支払をする者は、その支払の際、その退職手当等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ 請求人の概要等
(イ) 請求人は、○○○○法人であり、a市において、H病院(以下「本件病院」という。)、J及びK診療所(以下、本件病院及びJと併せて「本件病院等」という。)を運営している。
(ロ) 請求人の就業規則(令和4年3月31日改正前のもの。以下「本件旧就業規則」という。)及び職員給与規則(同年4月1日改正前のもの。以下「本件旧給与規則」といい、本件旧就業規則と併せて「本件各旧規則」という。)の内容等は、要旨次のとおりである。
A 本件旧就業規則は請求人の業務に従事する全ての職員に適用するが(本件旧就業規則第2条第1項、第2項本文)、病院長又は副院長など一定の者については、本件旧就業規則の全部又は一部を適用しないことがある(本件旧就業規則第2条第2項ただし書)。
 また、本件旧就業規則には、本件旧給与規則が附属する(本件旧就業規則附則30)。
B 職員の退職事由は、死亡したとき、定年に達したとき、退職を願い出て承認されたときなどの場合とし(本件旧就業規則第17条)、退職手当は3年以上勤務した職員に支給する(本件旧給与規則第35条第1項)。
C 職員の定年は60歳とし、定年に達した年度の末日をもって退職とするが、請求人が業務上必要と認め、かつ、本人が希望した職員は、定年延長することができる(本件旧就業規則第16条第1項)。
 なお、本人が希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない者は、65歳まで継続雇用することとし(本件旧就業規則第16条第2項)、定年延長又は再雇用は、1年ごとの契約更新とし、65歳を迎える年度の末日を限度とする(本件旧就業規則第16条第4項)。
 また、65歳を超える場合は、業務の都合により特に必要と認めた者に限り、更に再雇用することができる(本件旧就業規則第16条第5項)。
(ハ) 請求人は、医師には本件旧就業規則の定年の定めを適用していなかったため、医師であるL、M、N及びP(以下、それぞれ「L医師」、「M医師」、「N医師」及び「P医師」といい、これらの者を併せて「本件医師ら」という。)は、60歳を超えてからも本件病院等に勤務していた。
(ニ) L医師は、平成24年4月1日から令和6年6月19日までの間、請求人における代表権及び業務執行権のない理事であった。
ロ 本件各旧規則の改正手続等
(イ) 請求人は、本件各旧規則の一部を改正することとし、その改正案は、令和4年2月10日に開催された請求人の理事会で承認された。
 なお、本件各旧規則の改正案のうち、上記イの(ロ)の記載に係る改正内容は、要旨次のとおりである。
A 上記イの(ロ)のBについて、退職金は勤続5年以上の職員が退職したときに支給する。
B 上記イの(ロ)のCに、医師の定年を65歳とする旨明記する。
 また、定年延長の定めを廃止し、本人が希望し、解雇事由に該当しない者は、65歳まで再雇用する。
(ロ) 本件医師らは、上記(イ)の理事会開催時点において、65歳を超えて本件病院等に勤務していたところ、当該理事会において、上記(イ)の承認に基づき、本件医師らの年俸制職員への移行が承認された。
 なお、本件医師らの令和4年2月10日時点の役職は、別表1の「役職」欄のとおりであった(L医師の役職である本件病院「院長」について、本件旧就業規則では「病院長」と表記されているが、以下「院長」と統一する。)。
(ハ) 上記(イ)の本件各旧規則の改正案は、令和4年3月17日に開催された請求人の臨時社員総会で原案どおり承認され、本件旧就業規則は同年3月31日付で、本件旧給与規則は同年4月1日付で、それぞれ改正された(以下、当該改正後の就業規則を「本件新就業規則」、職員給与規則を「本件新給与規則」といい、本件旧就業規則から本件新就業規則への改正を「本件規則改正」という。)。
(ニ) 請求人は、令和4年3月31日、本件医師らに対し、退職金の名目で、別表1の「支給金額」欄記載の金額の金員(以下「本件一時金」という。)をそれぞれ支払った。
 本件一時金は、本件医師らがそれぞれ65歳に達した年度の末日までの勤続年数(別表1の「65歳に達した年度の末日」欄及び「勤続年数」欄のとおり。)や基本給などを基準に、本件旧給与規則における退職手当の定めに基づき算出されていた。

(4) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、令和4年4月11日、本件一時金が所得税法第30条第1項に規定する退職手当等に該当するとして計算した源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税(以下「源泉所得税等」という。)を納付した。
ロ 請求人は、令和5年1月10日、令和4年分の給与所得の年末調整としてN医師に対して○○○○円、P医師に対して○○○○円をそれぞれ還付するとして計算した結果を踏まえた令和4年12月分の源泉所得税等を納付した。
ハ 原処分庁は、本件一時金は、所得税法第30条第1項に規定する退職手当等に該当せず、一時に支給する臨時的な給与に該当するから、同法第28条第1項に規定する賞与に該当し、また、本件一時金を本件医師らの令和4年分の給与収入に加算したところ、N医師及びP医師について、同年分の給与等の金額が20,000,000円を超えることとなるため年末調整の適用はないとして、令和6年7月9日付で、別表2の「納税告知処分(源泉所得税等の額)」欄及び「賦課決定処分(不納付加算税の額)」欄のとおり、令和4年3月及び同年12月の各月分の源泉所得税等の各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)並びに同年3月分の源泉所得税等の不納付加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、原処分を不服として、令和6年8月9日に審査請求をした。

2 争点

 本件一時金は、所得税法第28条第1項に規定する給与等又は同法第30条第1項に規定する退職手当等のいずれに該当するか。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
(1) 所得税法第30条第1項における退職の事実の有無は、従来の勤務関係からの離脱があったかどうかという実質的な観点から判断されるべきである。
 請求人は、法律的形式的には、退職した本件医師らとの間で新たな雇用契約を締結しているが、1本件医師らが本件新就業規則において再雇用の条件となる「業務の都合により特に必要と認めた者」であることを証する証拠や、請求人においてこれを検討した形跡がないこと、2再雇用とされた前後で本件医師らの賃金は同水準であり、その役職も変動がなかったと推認されること及び3勤務関係が継続しているものとして年次有給休暇が本件医師らに付与されたことからすれば、請求人と本件医師らの間には、退職及び再雇用という実質がなく、従来の勤務関係がそのまま継続していたことが推測される。
 そうすると、本件医師らに退職すなわち従来の勤務関係からの離脱があったものとみるべき事実関係がないから、本件一時金は、所得税法第30条第1項に規定する「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に該当しない。
(1) 本件一時金は、本件医師らが退職したという事実に基因して支払ったものであるから、所得税法第30条第1項に規定する「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に該当する。
 なお、請求人は、本件医師らそれぞれとの間で本件各雇用契約を締結しているところ、1本件各雇用契約は理事会の決議に基づくものであるから、原処分庁の主張は事実に反しており、2国から同一労働同一賃金の考え方に沿った対応が求められる状況において、本件医師らに本件各雇用契約後も従前と同様の業務を担ってもらうこと以外に患者対応を十分に果たすことができないことから、従前の処遇を基本に本件各雇用契約を締結したものであって、3労働基準法における年次有給休暇の付与は最低基準を定めたものであり、医師としての責任や業務負荷に配意し、最低基準を上回り年次有給休暇を付与することは専ら事業主の判断であるから、年次有給休暇の付与をもって従来の勤務関係がそのまま継続していたとするのは論理の飛躍がある。
(2) 本件医師らに対する本件一時金の支給の契機となった医師の定年を定める旨の本件規則改正は、医師の求めに応じて言われるがまま改正したものであるから、本件一時金は、合理的な理由による退職金制度の実質的改変により精算の必要があって支給されたものとは認められない。
 また、請求人と本件医師らの勤務関係は上記(1)のとおりであり、その性質、内容、労働条件等において重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられないなどの特別の事実関係があったとは認められない。
 以上のことからすれば、本件一時金は、課税上、「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものということはできず、所得税法第30条第1項に規定する「これらの性質を有する給与」にも該当しない。
(2) 本件医師らに対する本件一時金の支給の契機となった医師の定年を定める旨の本件規則改正は、請求人における人事給与制度改革の一環で、近隣の同規模の病院に合わせて医師の定年を65歳とし、請求人の理事会及び社員総会の正式な手続を経て行ったものであるから、所得税基本通達30−2《引き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当等とするもの》の(1)に該当する。
 また、本件医師らは定年に達した後引き続き勤務する使用人であり、本件一時金は本件医師らが定年に達する前の勤続期間に係る退職手当として支払われる給与であるから、所得税基本通達30−2の(4)にも該当する。
 そうすると、本件一時金は、所得税法第30条第1項に規定する「これらの性質を有する給与」に該当する。
(3) したがって、本件一時金は、所得税法第30条第1項に規定する退職手当等に該当せず、同法第28条第1項に規定する給与等に該当する。 (3) したがって、本件一時金は、所得税法第30条第1項に規定する退職手当等に該当する。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

所得税法第30条第1項が、退職所得を「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」に係る所得をいうものとし、これにつき所得税の課税上、他の給与所得と異なる優遇措置を講じているのは、一般に、退職を原因として一時に支給される金員は、その内容において、退職者が長期間特定の事業所等において勤務してきたことに対する報償及びその期間中の就労に対する対価の一部分の累積たる性質を持つとともに、その機能において、受給者の退職後の生活を保障し、多くの場合いわゆる老後の生活の糧となるものであって、他の一般の給与所得と同様に一律に累進税率による課税の対象とし、一時に高額の所得税を課することとしたのでは、公正を欠き、かつ、社会政策的にも妥当でない結果を生ずることになることから、このような結果を避ける趣旨に出たものと解される。従業員が退職に際して退職手当又は退職金その他種々の名称で支給を受ける金員が、所得税法にいう退職所得に当たるかどうかについては、その名称に関わりなく、退職所得の意義について規定した同項の規定の文理及び退職所得に対する優遇課税についての立法趣旨に照らし、これを決するのが相当である。
 このような観点から、ある金員が、所得税法第30条第1項にいう「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に当たるというためには、それが、1退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、2従来の継続的な勤務に対する報償又はその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、3一時金として支払われること、との要件を備えることが必要であり、また、同項にいう「これらの性質を有する給与」に当たるというためには、それが、形式的には1から3までの各要件の全てを備えていなくとも、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすると解すべきである。そして、継続的な勤務の中途で支給される退職金名義の金員が、同項にいう「これらの性質を有する給与」に当たるというためには、当該金員が定年延長又は退職年金制度の採用等の合理的な理由による退職金支給制度の実質的改変により精算の必要があって支給されるものであるとか、あるいは、当該勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられないなどの特別の事実関係があることを要するものと解すべきである。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ 請求人を取り巻く状況
 本件病院等においては、医師及び看護師の人数が減少しており、a市の地理的条件から、安定した人材の確保が困難な状況にある。
 また、請求人の職員の全職種で高齢化が進んでおり、役職者の後任とすべき人材も不足している。
ロ 本件旧就業規則の適用
 本件旧就業規則には、上記1の(3)のイの(ロ)のAのとおり、病院長等に適用しないことがある旨の条項(本件旧就業規則第2条第2項ただし書)があるが、当該条項により適用が除外された事実はない。
ハ 本件各旧規則の改正経緯等
(イ) 請求人は、令和2年頃から、事業の安定経営及び適正利益の確保並びにこれに不可欠な労働力の確保及び安定雇用を目的として、人事給与制度改革の検討を開始した。
 令和2年当時、請求人においては、医業収益の減少・収益の悪化、職員の全体的な高年齢化に伴う給与費・退職金の増加、雇用環境悪化や働き方改革・同一労働同一賃金等の施策に伴う人件費の高騰、少子高齢化が進む中での新卒採用・中途採用の確保・職員の定着などの課題が認識されていた。
(ロ) 請求人は、上記(イ)の人事給与制度改革の一環として、上記1の(3)のロの(イ)のとおり、本件各旧規則の一部を改正することとした。
(ハ) 上記1の(3)のロの(イ)のBの改正案における医師の定年年齢は、近隣の総合病院と同様に65歳であった。
(ニ) 本件医師らの年俸制職員への移行は、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、令和4年2月10日に開催された請求人の理事会で承認されているところ、当該移行後の具体的な本件医師らの処遇については、1同年3月31日をもって退職扱いとし、同年4月1日から年俸制の契約職員とすること、2これまでと同じ役職、業務等を同水準で引き続き担うことを前提に、直近の年収を保証すること、3退職金については、65歳に達した年度末を基準に算出し、同年3月31日に支払うこと、4年次有給休暇については、雇用が継続しているものとして付与すること、5福利厚生制度等は、基本的にこれまでと同様の取扱いとすることとされた。
ニ 本件医師らの雇用に係る手続等
(イ) 請求人は、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、本件医師らの年俸制職員への移行が理事会において承認された後、令和4年3月10日までに、本件医師らそれぞれに対し、当該移行後の処遇について、上記ハの(ニ)の1から5までの事項の説明をし、本件医師らと合意した。
(ロ) 請求人は、令和4年3月18日までに、本件医師らそれぞれから同月31日付で退職事由を定年とする旨記載された退職願の提出を受けた。
(ハ) 本件各雇用契約に係る各雇用契約書の記載内容は、要旨次のとおりである。
A 本件医師らは請求人に被用され医師として労務を提供し、別表1の「役職」欄の職責をそれぞれ遂行する(第1条)。
B 雇用期間は令和4年4月1日から令和5年3月31日までの期間とし、契約期間満了3か月前までに契約当事者双方から何らの意思表示がないときは、契約期間を12か月延長できる(第3条)。
C 上記Bの期間中、請求人が本件医師らに支払う賃金は年俸制とし(月払・年2回賞与含む)、退職金は支給しない(第4条)。
D 本件新給与規則に定める通勤手当、時間外手当等の各種手当は、上記Cの年俸額とは別に実績に応じて支給する(第5条)。
ホ 本件各雇用契約後の本件医師らの処遇等
(イ) 本件医師らが令和4年3月31日現在で有していた残余年次有給休暇は、同年4月1日に20日を限度に繰り越され、それぞれ新たに20日付与された。
(ロ) 本件各雇用契約前後において、請求人から本件医師らに対して支給される賃金の総額に大きな変動はなかった。
(ハ) 本件医師らの業務内容等については、本件各雇用契約の前後において変更はなかったが、L医師は、令和5年4月に後任の院長に院長業務を引き継ぎ、本件病院の名誉院長として診療に従事している。
 また、N医師は、令和6年4月1日付の新たな雇用契約により、同月に○○○○の役職を退任し、同○○○○の医師として業務に従事しており、役職を退任する際に、年俸が減額された。
ヘ L医師に係る事情等
(イ) L医師は、平成3年、○○職員の身分を持ちながら、請求人において使用人である医師として勤務を開始し、引き続き平成19年3月31日まで○○職員の身分を持ちながら請求人において使用人として勤務していた。L医師は、同年4月1日付で○○職員の身分を失ったが、その後も常時請求人の使用人として職務に従事していた。
 なお、L医師は、平成9年、本件病院の院長に就任し、同年から令和5年3月31日まで本件病院の院長として職務に従事していた。
(ロ) L医師は、上記1の(3)のイの(ニ)のとおり、平成24年4月1日に請求人における代表権及び業務執行権のない理事に就任したところ、その際、それまでの使用人としての勤続期間に対応する退職金は支払われなかった。
(ハ) 請求人は、請求人の「役員及び会計監査人の報酬及び費用の取り扱い規程」において、役員の報酬年額を定めており、L医師に対し、使用人としての職務に係る給与とは別に、理事報酬として年額120,000円を支払っていた。
 また、請求人において、役員に対する退職金の定めはない。
(ニ) L医師に係る本件一時金は、上記1の(3)のロの(ニ)のとおり、本件旧給与規則における退職手当の定めに基づいて、請求人における使用人としての勤続期間に対応する金額として算出された○○○○円に、年収相当額の退職功労金○○○○円が加算されたものであった。
 なお、上記の退職功労金については、平成19年3月26日に開催された請求人の定時社員総会において、上記(イ)のとおり、L医師が同年4月1日付で○○職員から請求人の職員へ身分変更になることに伴い、退職金等において不利益となること及び本件病院に対する功績並びに今後の活躍を考慮し、L医師の本件病院退職時に加算して支給することが承認されており、その金額は、令和3年分の使用人としての給与を基礎として算出されたものであった。
 また、L医師に係る本件一時金算出の基礎となる基本給等の金額に上記(ハ)の理事報酬は含まれておらず、ほかにL医師に係る本件一時金が理事報酬の性質を有することをうかがわせる事情はない。

(3) 検討

上記1の(3)のイの(ニ)のとおり、L医師は、平成24年4月1日に請求人の理事に就任して以降、令和6年6月19日まで引き続き理事であったことから、M医師、N医師及びP医師(以下「本件医師3名」という。)とは事情が異なるので、以下、それぞれ検討する。

イ 本件医師3名に係る本件一時金について
 ある金員が、所得税法第30条第1項に規定する「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に該当するかについては、上記(1)のとおり、1退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、2従来の継続的な勤務に対する報償又はその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、3一時金として支払われることとの要件を満たす必要があるので、本件医師3名に係る本件一時金がこれらの要件を充足するか、以下検討する。
(イ) 「1退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること」について
A 上記1の(3)のイの(ロ)のAのとおり、本件旧就業規則第2条第1項及び第2項本文において、本件旧就業規則は請求人の業務に従事する全ての職員に適用する旨定められ、また、上記(2)のロのとおり、請求人において、同条第2項ただし書を適用した事実もないことからすれば、本件旧就業規則の定めは医師を含む職員に適用され、上記1の(3)のイの(ロ)のCの職員の定年を60歳とする旨の定めも、形式的には全ての医師に適用されるのは明らかである。しかしながら、請求人においては、上記1の(3)のイの(ハ)のとおり、本件医師3名を60歳を超えて65歳まで継続して雇用した上、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、65歳を超えても再雇用せずに継続して雇用し、また、本件医師3名もこれを受け入れて本件病院等に継続して勤務していたことからすると、請求人と本件医師3名の間において、医師の雇用には、本件旧就業規則の上記定年の定めを形式的に適用することなく、当該医師が60歳を超えても期間の定めのない雇用契約を継続する旨の合意があったとみるのが自然である。その上で、請求人の理事会は、上記1の(3)のロの(ロ)及び上記(2)のハの(ニ)のとおり、本件医師3名を退職扱いとし年俸制の契約職員とする旨を承認し、本件医師3名は、上記(2)のニの(イ)のとおり、請求人からその旨の説明を受けてこれに合意し、同(ロ)のとおり、令和4年3月31日付で退職したい旨の退職願を提出したと認められる。
 そして、上記1の(3)のロの(ホ)のとおり、請求人と本件医師3名は、令和4年4月1日付で本件各雇用契約を締結しているところ、本件医師3名に係る本件各雇用契約は、上記(2)のニの(ハ)のBのとおり、雇用期間を1年とする有期雇用契約であった。また、本件医師3名に係る本件各雇用契約は、上記(2)のニの(ハ)の各雇用契約書の記載内容のほか、上記(2)のホの(ハ)のとおり、本件医師3名の業務内容等については、本件各雇用契約の前後において変更はなかったが、その後、N医師が、令和6年4月に○○○○の役職を退任した際に年俸が減額されたなどの事実に照らせば、契約更新の際に、労務の内容及び年俸が見直され得る契約であると認められる。
 上記の事情に加え、上記(2)のニの(ハ)のCのとおり、令和4年4月1日以降の本件各雇用契約の期間に係る職務について退職金の支給はないことを併せ考えると、本件医師3名に係る本件各雇用契約は、同年3月31日までの期間の定めのない雇用契約とは雇用形態の法的性質が大きく異なるものであるということができる。
 なお、本件医師3名は、上記(2)のホのとおり、本件各雇用契約期間中も本件各雇用契約前と同様の業務を行い、賃金の総額にも大きな変動はなく、年次有給休暇も繰越等がなされていたところ、請求人においては、同イのとおり、a市の地理的条件から、医師等の安定した人材の確保が困難な状況にあり、役職者の後任とすべき人材も不足していたことに照らせば、本件病院等の運営のために、本件医師3名を本件各雇用契約前の役職及び業務等で勤務させなければならないことに相当の理由があったと認められ、本件各雇用契約の前後で業務内容及び賃金等の変動がなく、年次有給休暇の繰越等がなされたことをもって、本件医師3名と請求人の間において従来の勤務関係が終了していないとみるのは相当ではない。
B また、上記(2)のハの(イ)及び(ロ)のとおり、本件規則改正は請求人が令和2年頃から検討を開始した人事給与制度改革の一環として位置付けられていたこと、同年当時、請求人に上記(2)のハの(イ)の課題があったことを踏まえて、本件規則改正に至ったこと、上記(2)のハの(ハ)のとおり、本件規則改正のうち医師の定年年齢については、近隣の総合病院と同様に65歳と定められたもので一定の合理性を有することからすると、本件規則改正は、請求人の事業の安定経営及び適正利益の確保並びにこれに不可欠な労働力の確保及び安定雇用の目的があったものと認められる。そして、本件規則改正が上記1の(3)のロの(イ)及び(ハ)のとおり、請求人の理事会及び社員総会の決議を経てなされたものであり、適正な手続を経ていることもこれを裏付ける。
 さらに、本件規則改正により医師の定年を65歳と明示した点についても、本件規則改正の一環であったほか、これまで医師の雇用には本件旧就業規則の定年の定めを適用していなかった取扱いを是正する目的もあったと認められる。
 そして、請求人は、本件規則改正に伴い、事業の安定経営及び適正利益の確保等の目的で、本件医師3名と本件各雇用契約を締結したものと認められ、他方、本件医師3名も、このような人事給与制度改革を受け入れて、退職願の提出及び本件各雇用契約の締結に応じたものとみることができる。
 そうすると、本件規則改正及び本件医師3名の雇用の目的には合理的な理由があり、税負担の軽減の意図があったとは認められない。
C 以上のことから、本件医師3名は、令和4年3月31日付で、請求人における期間の定めのない雇用契約である従来の勤務関係が終了し、退職した上で、新たに有期雇用契約が締結されたものと認めるべきであり、本件医師3名に係る本件一時金は、上記退職を原因として給付されたものと認められる。
 したがって、本件医師3名に係る本件一時金は、請求人における本件医師3名のこれまでの勤務関係の終了という事実によって初めて給付されたものと認められる。
(ロ) 「2従来の継続的な勤務に対する報償又はその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること」及び「3一時金として支払われること」について
 本件医師3名に係る本件一時金は、上記1の(3)のロの(ニ)のとおり、本件旧給与規則に基づき、基本給等の金額を基準に、勤続期間に対応する金額として算出されていることからして、本件医師3名のこれまでの継続的な勤務に対する報償又はその間の労務の対価の一部の後払の性質を有するものと認められ、令和4年3月31日に、毎月の給与以外の一時金として支払われたものと認められる。
(ハ) 小括
 上記(イ)及び(ロ)のとおり、本件医師3名に係る本件一時金は、上記(1)の1から3までの各要件を満たすことから、所得税法第30条第1項に規定する「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に該当すると認められる。
ロ L医師に係る本件一時金について
(イ) 「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」該当性
 L医師は、上記1の(3)のイの(ニ)のとおり、平成24年4月1日から令和6年6月19日までの間、請求人の理事であり、令和4年3月31日の前後を通じて理事の身分に変更はなく、同日をもって請求人における勤務関係が終了したとはいえないため、L医師に係る本件一時金は、請求人におけるL医師の退職という事実によって給付されたものとは認められない。
 したがって、L医師に係る本件一時金は、上記(1)の「1退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること」との要件を満たさないため、所得税法第30条第1項に規定する「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」には該当しない。
(ロ) 「これらの性質を有する給与」該当性
 上記(1)の1から3までの各要件を備えていない金員が、所得税法第30条第1項に規定する「これらの性質を有する給与」に該当するかについては、上記(1)のとおり、それが、形式的には上記の各要件の全てを備えていなくとも、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、上記「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすると解すべきであるところ、以下、L医師に係る本件一時金につき、検討する。
A L医師は、上記(2)のヘの(イ)及び(ロ)のとおり、平成3年から令和4年3月31日までの間、平成24年の理事就任後においても、常時使用人としての職務に従事していたと認められるところ、L医師は、上記1の(3)のイの(ニ)のとおり、令和4年3月31日の前後を通じて理事の身分に変更はなく、同日をもって請求人を退職したとはいえないが、L医師についても、本件医師3名に係る上記イの(イ)のA及びBが当てはまるから、本件医師3名と同様に、使用人としては、同日をもって従来の勤務関係が終了し、それまでの使用人としての身分を喪失したと認められる。
 そして、上記(2)のヘの(ニ)のとおり、L医師に係る本件一時金のうち○○○○円は、本件旧給与規則に基づき、その基礎となる基本給等の金額に理事報酬を含めず、L医師の請求人における使用人としての勤続期間に対応する金額として算出された退職手当であり、かつ、L医師に係る本件一時金のうち○○○○円は、L医師が理事に就任する以前である平成19年3月26日に開催された請求人の定時社員総会により、L医師の身分変更による退職金上の不利益及びL医師の本件病院に対する功績等を考慮して支給されることとなったもので、その金額は、令和3年分の使用人としての給与を基礎とし、理事報酬を含めず算出された退職功労金であること並びに上記(2)のヘの(ロ)のとおり、L医師が請求人の理事に就任した際に、それまでの使用人としての勤続期間に対応する退職金が支払われていないことからすれば、L医師に係る本件一時金は、理事としての職務に対するものではなく、使用人としての勤務や労務に対するものであると認められる。
 なお、L医師に係る本件一時金は、上記1の(3)のロの(ニ)のとおり、令和4年3月31日に、毎月の給与以外の一時金として支払われたものと認められる。
 そうすると、L医師に係る本件一時金は、L医師の請求人における使用人としての勤務関係の終了という事実によって初めて給付されるとともに、L医師のそれまでの使用人としての継続的な勤務に対する報償又はその間の労務の対価の一部の後払の性質を有する一時金であると認められる。
B また、上記(2)のニの(ハ)のCのとおり、令和4年4月1日以降の本件各雇用契約の期間に係る職務について、退職金の支給はないこと及び上記(2)のヘの(ハ)のとおり、L医師が理事を辞した場合であっても請求人において役員に対する退職金の定めはないことから、将来において真に請求人でのL医師の勤務関係が終了する際には、L医師は、請求人から退職手当等を受ける余地がなく、L医師の同年3月31日までの使用人としての継続的な勤務や労務に対する退職手当等が再度請求人から支払われることもないと認められる。
C 以上のことからすると、L医師に係る本件一時金は、請求人における使用人としての関係においては、形式的には1退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、2従来の継続的な勤務に対する報償又はその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、3一時金として支払われることの各要件の全てを備えていなくとも、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、所得税法第30条第1項に規定する「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことが相当と認められるから、同項に規定する「これらの性質を有する給与」に該当すると認められる。
ハ まとめ
 上記イの(ハ)及び上記ロの(ロ)のCのとおり、本件医師3名に係る本件一時金は、所得税法第30条第1項に規定する「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に、L医師に係る本件一時金は、同項に規定する「これらの性質を有する給与」にそれぞれ該当するから、本件一時金は、いずれも同項に規定する退職手当等に該当する。

(4) 原処分庁の主張について

イ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のとおり、本件医師らに退職すなわち従来の勤務関係からの離脱があったものとみるべき事実関係がないから、本件一時金は所得税法第30条第1項に規定する「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に該当しない旨主張する。
 しかしながら、本件医師3名については、上記1の(3)のロの(ロ)及び上記(2)のハの(ニ)のとおり、請求人の理事会において退職扱いとし年俸制の契約職員とする旨が承認されたこと、また、上記(3)のイの(イ)のAのとおり、本件医師3名に係る本件各雇用契約は、令和4年3月31日までの期間の定めのない雇用契約とは雇用形態の法的性質が大きく異なるものであること及び本件病院等の運営のために、本件医師3名を本件各雇用契約前の役職及び業務等で勤務させなければならない相当の理由があったことからすれば、本件各雇用契約の前後で本件医師3名の業務内容及び賃金等の変動がなく、年次有給休暇の繰越等がなされたことをもって、本件医師3名と請求人の間において従来の勤務関係が終了していないとみるのは相当でない。
 そして、上記(3)のイの(イ)のCのとおり、本件医師3名は、令和4年3月31日付で請求人における従来の勤務関係の終了があったと認められ、上記(3)のイの(ハ)のとおり、本件医師3名に係る本件一時金は所得税法第30条第1項に規定する「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に該当するから、本件医師3名については、原処分庁の主張には理由がない。
 また、L医師は、上記(3)のロの(ロ)のAのとおり、令和4年3月31日の前後を通じて理事の身分に変更はなく、同日をもって請求人を退職したとはいえないが、上記(3)のロの(ロ)のCのとおり、L医師に係る本件一時金は、実質的にみて上記(1)の1から3までの各要件の要求するところに適合し、課税上、所得税法第30条第1項に規定する「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことが相当であり、同項に規定する「これらの性質を有する給与」に該当すると認められるから、L医師についても、原処分庁の主張には理由がない。
ロ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、本件一時金は、その支給の契機となった本件規則改正が、医師の求めに応じて言われるがまま改正されたものであるから、合理的な理由による退職金制度の実質的改変により精算の必要があって支給されたものとは認められない旨主張する。
 しかしながら、本件規則改正のきっかけが、請求人の事務局長が医師から定年を尋ねられたことにあったとしても、本件規則改正の経緯及び手続は上記(3)のイの(イ)のBのとおりであり、本件規則改正が医師の求めに応じて言われるがまま改正されたものであるとは認められず、本件規則改正には合理的な理由があるから、原処分庁の主張には理由がない。
ハ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、請求人と本件医師らの勤務関係に、その性質、内容、労働条件等において重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられないなどの特別の事実関係があったとは認められないことからすれば、本件一時金は所得税法第30条第1項に規定する「これらの性質を有する給与」に該当しない旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のイの(イ)のCのとおり、本件医師3名は、令和4年3月31日付で請求人における従来の勤務関係の終了があったと認められ、本件医師3名に係る本件一時金は、所得税法第30条第1項に規定する「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に該当するから、原処分庁の主張には理由がない。
 また、上記(3)のロの(ロ)のCのとおり、L医師に係る本件一時金は、所得税法第30条第1項に規定する「これらの性質を有する給与」に該当すると認められるから、L医師についても、原処分庁の主張には理由がない。

(5) 本件各納税告知処分について

上記(3)のハのとおり、本件一時金は所得税法第30条第1項に規定する退職手当等に該当するから、本件一時金が同法第28条第1項に規定する給与等に該当するとしてされた本件各納税告知処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。

(6) 本件賦課決定処分について

上記(5)のとおり、本件各納税告知処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。

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