(令和7年10月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の職員から実地の調査に係る事前通知を受けた後に、所得税等の期限後申告書を提出したところ、原処分庁が、当該期限後申告書の提出は、調査があったことによりされたものであるなどとして、無申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該期限後申告書の提出時において調査があったとはいえないなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

イ 行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項本文は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定している。
ロ 国税通則法(令和元年分ないし令和4年分については令和4年法律第4号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項本文及び同項第1号は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、当該期限後申告に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、同項括弧書は、期限後申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、当該納付すべき税額に乗ずる割合は100分の10とする旨規定している。
ハ 国税庁長官発遣の「申告所得税及び復興特別所得税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(平成12年7月3日付課所4−16ほか3課共同。令和元年分ないし令和4年分については令和4年10月25日付課個2−25ほか3課共同による改正前のもの。以下「本件事務運営指針」という。)の第1《過少申告加算税の取扱い》の1の注書は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定を適用する場合において、臨場のための日時の連絡を行った段階で修正申告書が提出された場合には、原則として、「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当しない旨定めている。
ニ 本件事務運営指針の第2《無申告加算税の取扱い》の2は、上記ハの取扱いは、通則法第66条第1項の規定を適用する場合において、期限後申告書の提出が決定があるべきことを予知してされたものである場合の判定について準用する旨定めている。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ 請求人は、H社に勤務し、令和元年ないし令和5年において、H社から給与(以下「本件給与」という。)の支払を受けていた。
ロ 請求人は、J社に対し、顧客の紹介又は情報の提供をすることにより、令和元年ないし令和5年において、J社から報酬(以下「本件報酬」という。)の支払を受けていた。
ハ 請求人は、令和元年分、令和2年分、令和3年分、令和4年分及び令和5年分(以下「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、いずれも法定申告期限までに申告しなかった。
ニ 原処分庁所属の職員(以下「原処分庁職員」という。)は、令和6年5月13日、請求人に対し、電話により、請求人の本件各年分の所得税等に係る納税義務の有無の確認のために実地の調査(以下「本件実地調査」という。)を行う旨の通知(以下「本件事前通知」という。)を行い、同月27日午前10時より請求人の自宅において本件実地調査を実施することとなった。
 また、原処分庁職員は、本件事前通知に併せて、請求人に対し、本件報酬に係る資料を提出するよう依頼した。
ホ 原処分庁職員が、令和6年5月14日、請求人に対し、電話により、本件報酬に係る資料の準備状況を確認したところ、請求人から当該資料の準備ができた旨回答があったことから、同月27日の調査の前に、同月16日に請求人が当該資料を持参し、K税務署内で面接する旨を約した。
ヘ L税理士(以下「本件税理士」という。)は、令和6年5月15日、原処分庁に対し、請求人の税務代理人となる旨の税務代理権限証書を提出した。
ト 原処分庁職員は、令和6年5月15日、本件税理士に対し、電話により、本件事前通知と同旨の通知を行ったところ、本件税理士から同月16日にK税務署内で予定されている請求人との面接を同月27日に変更し、調査場所も請求人の自宅を避けてほしい旨の申出があったことから、同日に延期する旨及び調査場所をK税務署に変更する旨伝えた。
チ 本件税理士は、令和6年5月24日、本件各年分に係る所得税等について、別表の「確定申告」欄のとおり記載した各期限後申告書(以下「本件各期限後申告書」といい、本件各期限後申告書に係る申告を「本件各期限後申告」という。)を原処分庁に提出した。
 本件各期限後申告は、本件給与に係る給与所得及び本件報酬に係る事業所得について申告するものであった。
リ 原処分庁職員は、令和6年5月27日、本件実地調査を実施し、請求人及び本件税理士に対して、本件報酬に係る業務の概要、本件報酬を受けることとなった経緯、本件報酬に係る収入金額及び必要経費等について質問検査を行った。
ヌ 原処分庁は、令和6年10月29日付で、本件各期限後申告について、別表の「賦課決定処分」欄のとおりの本件各年分の所得税等に係る無申告加算税の各賦課決定処分をした。
 また、当該各賦課決定処分に係る各賦課決定通知書(以下「本件各通知書」という。)には、要旨、別紙のとおり、本件各期限後申告書は、調査の結果に基づくものであるため、決定を予知しない期限後申告書には該当しない旨などが記載されていた。
ル 請求人は、本件各年分の所得税等に係る無申告加算税の各賦課決定処分に不服があるとして、令和6年11月7日に審査請求をした。
ヲ 原処分庁は、令和6年11月27日付で、令和元年分及び令和2年分の所得税等につき、税額控除の追加により所得税等が減少するとして、別表の「更正処分等」欄のとおり更正処分をし、併せて無申告加算税の変更決定処分をした(以下、当該変更決定処分後の令和元年分及び令和2年分の無申告加算税の各賦課決定処分並びに令和6年10月29日付の令和3年分ないし令和5年分の所得税等の無申告加算税の各賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」という。)。

2 争点

(1) 本件各賦課決定処分の理由の提示に不備があるか否か(争点1)。

(2) 本件各期限後申告書の提出が、通則法第66条第1項括弧書に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各賦課決定処分の理由の提示に不備があるか否か。)について

原処分庁 請求人
次のことから、本件各通知書における理由の提示には、本件各賦課決定処分を取り消すべき重大な瑕疵は存しない。 次のことから、本件各通知書における理由の提示には、本件各賦課決定処分を取り消すべき重大な瑕疵がある。
イ 本件各通知書には、処分の理由として、令和6年5月24日に本件各期限後申告書が提出されたこと、本件各期限後申告書により納付すべきこととなる所得税等の額を基礎として、通則法第66条の規定により計算した無申告加算税を賦課決定したこと、本件各期限後申告書は、調査の結果に基づくものであるため、決定を予知しない期限後申告書には該当しないこと、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められないこと等が記載されている。 イ 原処分庁は、本件各通知書に、処分の理由として、「調査の結果に基づくものであるため、決定を予知しない期限後申告書には該当せず」と記載しているが、本件各期限後申告書は、本件実地調査の開始日前に自主的に提出したものであるから、原処分庁による調査は行われていない。
ロ 上記イによる理由の提示は、行政手続法第14条第1項本文の趣旨に照らしても、同法の要求する理由の提示として欠けるものではない。 ロ 仮に、原処分庁が本件実地調査の開始前の事実をも含めて「調査」と主張するのであれば、その内容を本件各通知書に記載し、請求人に知らせるべきであるところ、本件各通知書による本件各賦課決定処分の理由の提示にはその記載がない。

(2) 争点2(本件各期限後申告書の提出が、通則法第66条第1項括弧書に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。)について

請求人 原処分庁
次のとおり、本件各期限後申告書の提出は、通則法第66条第1項括弧書に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。 次のとおり、本件各期限後申告書の提出は、通則法第66条第1項括弧書に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しない。
イ 「調査があったこと」について
 次のことから、「調査があったこと」には該当しない。
イ 「調査があったこと」について
 通則法第66条第1項括弧書に規定する「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を含む税務調査全般を指すものと解されている。
 原処分庁職員は、M署職員から、請求人がJ社から本件報酬を受け取っていた旨の連絡を受け、その後、請求人の預金口座における取引内容、源泉徴収票の内容及び所得税等の申告事績を確認した上で、請求人に対し本件事前通知を行っている。
 これらのことからすると、原処分庁職員は、上記の連絡の内容や所得税等の申告事績等を比較検討することにより、請求人には申告すべき収入金額があるにもかかわらず、確定申告書が提出されていないことをあらかじめ把握した上で、請求人に本件事前通知をしたものと推認され、これらは、原処分庁における課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程であると認められる。
(イ) 本件各期限後申告書は、本件実地調査の開始日である令和6年5月27日より前に提出されたものである。
(ロ) 請求人は、原処分庁職員から、本件事前通知の際に、調査の目的を「申告義務の確認」と告げられ、給与以外の収入があるか問われたため、自主的に本件報酬がある旨を回答したが、原処分庁職員から、本件報酬は本件給与と併せて確定申告が必要である旨の指摘(以下「本件指摘」という。)は受けていない。
(ハ) 原処分庁は、本件実地調査の開始日である令和6年5月27日より前に、請求人に対して、課税標準等又は税額等について何ら示していない。
ロ 「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」について
 次のことから、本件各期限後申告書の提出は、決定があるべきことを予知してされたものではない。
ロ 「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」について
 次のことから、本件各期限後申告書の提出は、決定があるべきことを予知してされたものである。
(イ) 本件事務運営指針の第1の1の注書において、「臨場のための日時の連絡を行った段階で修正申告書が提出された場合には、原則として、『更正があるべきことを予知してされたもの』に該当しない。」とされており、本件事務運営指針の第2の2の無申告加算税の取扱いにおいては、第1の1を準用するとされている。
 そして、本件各期限後申告書は、本件事前通知を受けた後、本件実地調査の開始日である令和6年5月27日より前に提出されたものである。
(イ) 原処分庁職員は、請求人には申告すべき収入金額があったにもかかわらず、所得税等に係る確定申告書が提出されていないことを把握した上で、本件事前通知を行っており、後日、K税務署において請求人に対する質問検査等を実施する予定であったことが認められる。
(ロ) 請求人は、原処分庁職員からの質問に対して、上記イの(ロ)のとおり、本件報酬がある旨を回答したが、原処分庁職員から、本件指摘は受けていないし、原処分庁の内部において、どのようなことが行われていたのかは知らない。 (ロ) 請求人は、本件事前通知の際に、本件指摘を受けたことからすれば、請求人は、本件事前通知の時点で、原処分庁職員が請求人の所得税等について本件報酬が申告されていないことを把握している状況を認識していたと認められる。
(ハ) 請求人は、税務の知識に乏しく、本件報酬についても確定申告が必要だとは思っていなかったし、令和3年に、M税務署長所属の職員(以下「M署職員」という。)からJ社の実地の調査に係る反面調査を受けた際に、「これは、J社の税務調査なのであなたは関係ない」と言われた。また、J社の関与税理士にも確認したが、「税務署に言われていないならそのままでよい」と言われたため、確定申告は必要ないものと認識した。 (ハ) 本件指摘の内容は、本件報酬について本件給与と併せて申告すべきである旨の内容であり、また、請求人及び本件税理士は、本件報酬に関する取引及び金額が確認できる資料の提出を求められていたことからすれば、本件各期限後申告書の提出は、本件指摘とは無関係に自主的にされたものと認めることはできない。
(ニ) 上記(ハ)のことから、請求人は、本件報酬について確定申告をする必要はないものと認識し、原処分庁からも数年連絡がなかったため、これが適正な処理であったと判断していた。
(ホ) 本件事前通知は、上記(ニ)の請求人の判断が誤っていたのかもしれないと思った「きっかけ」であり、本件各期限後申告書の提出は、自発的にしたものである。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各賦課決定処分の理由の提示に不備があるか否か。)について

イ 法令解釈
 行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し、又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解されることからすると、当該処分に付された理由が、不利益処分の根拠について、上記の趣旨を充足する程度に具体的に明示するものであれば、同項本文の要求する理由の提示として不備はないものと解するのが相当である。
ロ 当てはめ
 本件各通知書には、別紙のとおり、無申告加算税が賦課されることの基礎となる事実として、期限後申告書の提出年月日、賦課決定の根拠となる法令及び具体的な金額を挙げているほか、本件各期限後申告書の提出は調査の結果に基づくものであるため、決定を予知しない期限後申告書には該当しないことなどが具体的に記載されており、原処分庁による判断結果並びにその基礎とされた根拠法令及び事実関係の内容が具体的に明示されているといえる。
 以上のことからすると、本件各通知書に記載された本件各賦課決定処分の理由は、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるという行政手続法第14条第1項の趣旨を充足する程度に具体的に明示されたものといえる。
 したがって、本件各賦課決定処分の理由の提示に不備はない。
ハ 請求人の主張について
 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、本件各通知書には、原処分庁が主張する本件実地調査の開始前の事実をも含めた調査内容の記載がないことから、本件各賦課決定処分の理由の提示には重大な瑕疵がある旨主張する。
 しかしながら、本件各通知書に記載された処分の理由が、行政手続法第14条第1項の趣旨を充足する程度に具体的に明示されていることは、上記ロで判断したとおりであり、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件各期限後申告書の提出が、通則法第66条第1項括弧書に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 通則法第66条に規定する無申告加算税は、納税申告書を法定申告期限内に提出しなかったことによる納税義務違反の事実があれば、原則として、その違反者に対して課されるものであり、これによって、納税申告書を法定申告期限内に提出した納税義務者との客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、納税申告書を法定申告期限内に提出しないことによる納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 一方、通則法第66条第1項括弧書は、期限後申告書の提出がされた場合であっても、その提出が「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」は、無申告加算税を納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に軽減する旨規定しているところ、これは、納税者による自発的な期限後申告書の提出によって、課税庁においても、その申告に係る国税の調査等の事務負担等を軽減することができることも勘案して、納税者による自発的な期限後申告書の提出を歓迎し、これを奨励することにあると解される。
(ロ) 上記(イ)の通則法第66条第1項括弧書の趣旨などからすると、期限後申告書の提出が、「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」というのは、税務職員がその国税についての調査に着手して申告書の提出がなかったことが不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後の調査が進行し申告漏れの存することが発覚し更正又は決定に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後に、納税者がやがて更正又は決定に至るべきことを認識した上で期限後申告を決意し、期限後申告書を提出したものでないことをいうものと解するべきである。
 そして、上記段階が到来していたか否か、「納税者がやがて更正又は決定に至るべきことを認識した上で期限後申告を決意し期限後申告書を提出したものでない」といえるか否かについては、調査の内容・進捗状況、それに関する納税者の認識、期限後申告に至る経緯、期限後申告と調査の内容との関連性等の事情等を総合考慮して判断すべきである。
(ハ) また、上記(イ)にいう「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を含む税務調査全般を指すものと解され、いわゆる机上調査のような課税庁内部における調査をも含むものと解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) M署職員は、令和3年5月13日、J社に対する実地の調査により、J社から請求人に対して本件報酬が支払われていることを把握した。
(ロ) M署職員は、令和3年5月21日、請求人に対して本件報酬に係る取引先調査を実施し、J社と取引を開始した経緯や取引の流れ、役務提供の内容などを聴取した。
(ハ) M署職員は、令和3年6月17日付で、原処分庁に対し、上記(イ)の実地の調査により収集した次の資料を送付した。また、資料の送付に併せ、上記(ロ)の請求人への取引先調査により、請求人が令和元年10月から令和2年9月までの期間において、本件報酬を受け取っていたことを把握した旨の連絡をした。
A 請求人が平成24年1月13日付でJ社との間で取り交わした○○○○
B J社への顧客の紹介等に対する報酬の金額及び当該報酬の振込先がN銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件口座」という。)である旨記載された、「○○○○」及び「○○○○」と題する書面
(ニ) 原処分庁職員は、N銀行に対し、令和3年1月1日から令和5年7月26日までの期間における本件口座の取引内容を照会し、令和5年8月8日付で回答を得た。
 また、原処分庁職員は、当該回答により、本件口座にJ社からの入金があったことを把握した。
(ホ) 原処分庁職員は、令和6年5月7日、請求人の本件各年分における所得税等の申告事績を確認し、確定申告がされていないことを把握した。
(ヘ) 原処分庁職員は、令和6年5月10日、所得税法第226条《源泉徴収票》の規定に基づきH社から所轄税務署長に提出された給与所得の源泉徴収票の内容を確認し、請求人がH社から本件給与を得ていたことを把握した。
(ト) 本件事前通知の際に、原処分庁職員と請求人との間で、要旨、次のやり取りが行われた。
A 原処分庁職員が給与のほかに何か収入があるか質問したところ、請求人は、J社から本件報酬を受け取っている旨申述した。
B 原処分庁職員は、上記Aの申述を受けて、本件報酬に関する取引及び金額が確認できる資料を提出するよう求めたところ、請求人は、本件報酬に関する帳簿書類はないが、通帳及びJ社が作成している○○○○(以下、これらを併せて「本件報酬資料」という。)がある旨申述した。
C 原処分庁職員は、本件報酬資料を本件実地調査の日までに準備するよう依頼した。
(チ) 原処分庁職員は、本件税理士へ本件実地調査に係る通知を行った際に、本件税理士に対し、本件各年分における本件給与に係る源泉徴収票及び本件報酬資料を準備するよう依頼した。
(リ) 請求人は、本件事前通知の後、本件税理士に税務代理を依頼した。
ハ 当てはめ
(イ) 通則法第66条第1項括弧書に規定する「その申告に係る国税についての調査があった」か否かについて
 原処分庁職員は、上記ロの(ハ)のとおり、M署職員からの資料の送付及び連絡に基づき、○○○○及び○○○○を精査し、同(ニ)ないし(ヘ)のとおり、本件口座の取引内容、J社から請求人へ入金があったこと及び請求人が本件各年分における所得税等の確定申告をしていないことを確認した上で、同(ト)のCのとおり、請求人に本件報酬資料の提出を求めたことが認められる。
 これらのことは、原処分庁における課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程であると認められることから、上記イの(ハ)に照らし、請求人の本件各年分の所得税等について、原処分庁職員による通則法第66条第1項に規定する「その申告に係る国税についての調査」があったことに該当すると認められる。
(ロ) 通則法第66条第1項括弧書に規定する「調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否かについて
A 調査の内容・進捗状況
 原処分庁職員は、上記ロの(ハ)ないし(ヘ)のとおり、請求人に本件給与及び本件報酬が支払われていること並びに請求人の本件各年分の所得税等の確定申告がされていないことを把握した上で、上記1の(3)のニ及びホのとおり、請求人に対して、本件報酬に係る資料を提出するよう依頼するとともに、質問調査等を実施するための日程調整等を行っており、請求人において本件報酬について確定申告をしていないことが不適正であることを発見するに足る程度に調査は進捗していたことが認められる。
B 調査の内容及び進捗に関する請求人の認識
 請求人は、上記ロの(ロ)のとおり、J社の実地の調査に係る取引先調査において、M署職員から、J社と取引を開始した経緯や取引の流れ、J社に対する役務提供の内容などを聴取されており、本件報酬について税務当局に把握されたことにつき一定の認識を持ったものと認められる。
 そして、請求人は、上記1の(3)のニのとおり、原処分庁職員から本件事前通知を受けた際に、本件実地調査の目的が請求人の所得税等の納税義務の有無の確認であることの説明を受け、また、上記ロの(ト)のAのとおり、本件給与以外の所得の有無を問われている。
 そうすると、請求人にとってこれらのことは、原処分庁において本件報酬に関して何らかの調査が行われていたことを伺わせるものであるから、請求人は、本件事前通知の段階において、調査の内容及び進捗に関して一定の認識をしたものと認められる。
C 本件各期限後申告に至る経緯
 請求人は、上記1の(3)のチ及び上記ロの(リ)のとおり、本件事前通知の後、本件税理士に税務代理を依頼し、その後、本件各期限後申告書を提出したものである。
D 本件各期限後申告と調査の内容との関連性
 本件各期限後申告書の内容は、上記1の(3)のチのとおり、本件給与に係る給与所得及び本件報酬に係る事業所得について申告するものであり、原処分庁職員による調査も、上記(イ)のとおり、本件報酬に対するものであるから、原処分庁職員による調査と本件各期限後申告は、いずれも本件報酬を対象とする関連性のあるものであった。
E 小括
 上記AないしDの各事情を踏まえ総合考慮して判断すると、請求人に対する調査は、本件各期限後申告の時点において、請求人が本件報酬について確定申告をしていない不適正なものであることが発覚し決定に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達していたというべきであり、また、本件事前通知を受けて、調査の内容及び進捗に関して一定の認識をし、本件税理士に税務代理を依頼した請求人については、やがて決定に至るべきことを認識した上で本件各期限後申告を決意し、本件各期限後申告書を提出したものと認められる。
 したがって、本件各期限後申告書の提出は、通則法第66条第1項括弧書に規定する「調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しない。
ニ 請求人の主張について
(イ) 「調査があったこと」について
 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のイのとおり、本件各期限後申告書は、本件実地調査の開始日より前に提出されたものであり、原処分庁は、本件実地調査の開始日より前に、課税標準等又は税額等について何ら示していないため、「調査があったこと」には該当しない旨主張する。
 しかしながら、通則法第66条第1項に規定する、その申告に係る国税についての「調査があったこと」に該当すると認められることは、上記ハの(イ)のとおりであり、当該判断は請求人に課税標準等又は税額等が示されていないことにより左右されるものではないから、請求人の主張には理由がない。
(ロ) 「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」について
A 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のロの(イ)のとおり、本件各期限後申告書は、本件事前通知を受けた後、本件実地調査の開始日より前に提出されたものであるから、本件事務運営指針に定めるとおり、決定があるべきことを予知してされたものに該当しないものとして取り扱われるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件事務運営指針は原則的な取扱いの方針を示したものにすぎず、本件各期限後申告書の提出が、「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するかについての判断は、個々の具体的な事案ごとに、上記イの(ロ)のとおり、調査の内容・進捗状況、それに関する納税者の認識、期限後申告に至る経緯、期限後申告と調査の内容との関連性等の事情等を総合考慮して判断すべきものである。
 そして、請求人は、やがて決定に至るべきことを認識した上で本件各期限後申告を決意し、本件各期限後申告書を提出したと認められることは、上記ハの(ロ)のとおりであるから、請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のロの(ロ)ないし(ホ)のとおり、原処分庁職員から本件指摘を受けておらず、原処分庁の内部においてどのようなことが行われていたのかは知らないし、また、本件事前通知があるまで本件報酬について確定申告は必要ないと認識していたのであるから、本件各期限後申告書の提出は、自発的にしたものである旨主張する。
 しかしながら、本件各期限後申告書の提出が、通則法第66条第1項括弧書に規定する「調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しないことは、上記ハの(ロ)のとおりであり、仮に原処分庁が本件指摘をしていないとしても、また、請求人が原処分庁の内部において行われていた具体的な調査内容を知らなかったとしても、それにより当該判断が左右されることはないから、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(2)のハのとおり、本件各期限後申告書の提出は、通則法第66条第1項括弧書に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当せず、また、本件において、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 そして、本件各年分の本件各期限後申告書の提出に係る所得税等の無申告加算税の額は、当審判所においても、本件各賦課決定処分における無申告加算税の額といずれも同額であると認められる。
 また、本件各賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所において提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(4) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

トップに戻る