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(令和7年10月29日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人E、同G及び同H(以下、順に「請求人E」、「請求人G」及び「請求人H」といい、これら3名を併せて「請求人ら」という。)が、請求人らの父を被相続人とする相続(一次相続)の後に相続が開始した請求人らの母を被相続人とする相続(二次相続)の相続税において、一次相続に係る遺産を民法に規定する相続分の割合で取得したものとして二次相続の遺産に含めて申告していたが、その後、請求人らが一次相続に係る遺産の分割について協議し、請求人らの母が一次相続に係る遺産を取得しないことを内容とする遺産分割を成立させたため、二次相続に係る課税価格が減少したとして相続税法に規定する更正の請求の特則による各更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該各更正の請求は当該特則による更正の請求に該当しないとして更正をすべき理由がない旨の各通知処分をしたことから、請求人らがその処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
また、相続税法第35条第3項ただし書は、同項本文の規定の適用について、当該請求があった日から1年を経過した日と国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》の規定により更正をすることができないこととなる日とのいずれか遅い日以後においては、この限りでない旨規定している。
また、相続税法第55条ただし書は、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは同法第32条の更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることを妨げない旨規定している。
(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
なお、本件第1次相続に係る遺産について、請求人Hは、本件被相続人が法定相続分の割合で取得していたものとして当該遺産を申告したが、請求人E及び請求人Gは、当該遺産を申告していなかった。
当該修正申告及び当該更正処分の結果(以下、これらを併せて「本件申告等」という。)、別表1の「修正申告」欄及び別表2の「更正処分」欄のとおり、本件第1次相続に係る遺産を含む請求人らの取得財産の価額の合計額並びに債務及び葬式費用の合計額が一致し、本件第2次相続に係る取得財産の価額の合計額から債務及び葬式費用の合計額を控除した金額(以下「遺産の総額」という。)は、○○○○円となった。
請求人らは、本件第1次相続及び本件第2次相続に係る遺産の分割について協議し、令和6年3月22日付で、要旨次のとおりの各遺産分割協議書を作成して、本件第1次相続及び本件第2次相続に係る遺産分割を成立させた。
なお、本件被相続人に相続させる遺産はない。
なお、請求人E及び請求人Gは、令和6年12月11日、請求人Eを総代として選任する旨を当審判所に届け出た。
おって、請求人らは、令和7年1月23日、請求人Eを総代として選任する旨を当審判所に届け出た。
2 争点
本件各更正の請求は、相続税法第32条第1項第1号に規定する事由を理由とした更正の請求ができる場合に該当するか否か。
3 争点についての主張
| 請求人 | 原処分庁 |
|---|---|
| 次のとおり、原処分庁の法令解釈には誤りがあるから、本件各更正の請求は、相続税法第32条第1項第1号に規定する事由を理由とした更正の請求ができる場合に該当する。 | 次のとおり、本件各更正の請求は、相続税法第32条第1項第1号に規定する事由を理由とした更正の請求ができる場合に該当しない。 |
| (1) 相続税法第32条第1項第1号の適用に当たっては、同法第55条の規定が判断のポイントとなるところ、同条本文に規定する「相続により取得した財産」に一次相続に係る未分割の遺産が含まれ、ただし書に規定する「当該財産」には、一次相続に係る未分割の遺産が含まれないと解釈することは、恣意的な解釈である。 なお、原処分庁が引用する静岡地裁平成26年3月14日判決は、相続財産の「範囲」の変動について、「過誤の是正」を求めることを目的とするものではないとして更正の請求を認めなかったのであって、相続財産に係る各人の「取得割合」が変動し、相続財産の「範囲」の変動がない本件は、「過誤の是正」に当たらない。 |
(1) 相続税法第32条第1項第1号は、更正の請求について国税の法定申告期限から一定期間の期間制限を設けている国税通則法第23条第1項の特則として置かれており、未分割の遺産につき、一旦相続税法第55条の規定による計算で税額が確定した後、遺産の分割が行われ、その結果、既に確定した相続税額が過大になるという後発的事由について特別に更正の請求を許したものと解され、当初の申告に存在するとされる「過誤の是正」を求めることを目的とするものではない。そうすると、相続税の申告の前提となる相続財産の価額は、申告(その後に更正があった場合にはその更正)により確定した価額を基礎とするべきであって、当該遺産に関する先行の相続について上記申告後に遺産分割が成立し、その結果上記申告に係る相続財産が変動したという場合には、相続税法第32条第1項第1号に基づく更正の請求をすることは許されないものと解される(静岡地裁平成26年3月14日判決)。 そして、請求人らは、本件第1次相続に係る遺産分割が本件第2次相続に係る申告後に成立した結果、本件第2次相続の相続財産が変動したことを理由として本件各更正の請求をしているのであるから、相続税法第32条第1項第1号に該当する事由はない。 |
| (2) 相続税法第32条第1項第1号に規定する「同法第55条の規定により分割されていない財産」に一次相続と二次相続を区別する文言は入っておらず、「その後当該財産の分割が行われ」る場合に、二次相続財産の一部となっている未分割の一次相続財産に関する分割を排除する文言も入っていない。 したがって、本件第1次相続に係る未分割財産について、本件第2次相続に係る相続税の申告に当たり法定相続割合で取得した財産について、相続税法第32条に該当しないという文言はどこにも存在しない。なお、相続税法が、相続が連続して生じている場合に、それぞれの相続の前の相続において遺産分割が成立していない状況が生じることを想定せず制定されたとは到底考えられない。 |
(2) 相続税法第32条第1項の規定は、遺産分割の前後で「課税価格の合計額」に変動がない場合の規定であるから、一次相続に係る遺産分割の成立によって、二次相続に係る相続税の課税価格が異なることとなった場合は、同項の要件を満たさない。 また、相続税法第32条第1項第1号の規定は、分割されていない財産について民法の規定による相続分の割合に従って課税価格が計算されていた相続税の申告について適用されるのであるから、数次相続がある場合において、成立した遺産分割が一次相続に係る相続財産の分割である場合、当該申告に当たるのは、一次相続に係る相続税の申告以外にない。 そして、一次相続と二次相続は理論上別個独立に発生するものであり、相続税法上、相続税は、それぞれの相続について独立に課税されるものであるから、二次相続に係る相続税の申告が、一次相続に係る相続財産について相続税法第55条に基づく申告を含むと解することもできない。 |
4 当審判所の判断
(1) 争点(本件各更正の請求は、相続税法第32条第1項第1号に規定する事由を理由とした更正の請求ができる場合に該当するか否か。)について
相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に行わなければならないものとされているところ(相続税法第27条第1項)、遺産の全部又は一部が分割されていないときは、課税の遅滞を防止するなどの観点から、分割されていない財産については各共同相続人又は包括受遺者が民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算して申告をするものとされている(相続税法第55条)。
ただし、その後、当該財産の分割が行われ、当該分割により取得した財産に係る課税価格が民法の規定による相続分等に従って計算された課税価格と異なることとなったとの事由により上記申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、上記申告を行った者は、当該事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、更正の請求をすることができるものとされている(相続税法第32条第1項第1号)。
さらに、税務署長は、相続税法第32条第1項第1号等の規定による更正の請求に基づき更正をした場合において、当該請求をした者の被相続人から相続等により財産を取得した他の者の申告に係る課税価格又は相続税額が当該請求に基づく更正の基因となった事実を基礎として計算した場合におけるその者に係る課税価格又は相続税額と異なることとなるとの事由があるときは、当該事由に基づき、その者に係る課税価格又は相続税額の更正をするが、この更正は、当該請求があった日から1年を経過した日と国税通則法第70条の規定により更正をすることができないこととなる日とのいずれか遅い日以後においてはすることができないものとされている(相続税法第35条第3項第1号)。
以上によれば、相続税法第32条第1項第1号に基づく更正の請求は、同号に規定する事由に該当した場合に限って認められるものであり、同号は、未分割の遺産につき、一旦同法第55条の規定による計算で税額が確定した後、遺産の分割が行われ、その結果、既に確定した相続税額が過大になるという相続税に固有の後発的事由について規定したものであって、当該規定に基づく更正の請求は、当初の申告に存在するとされる過誤の是正を求めることを目的とするものではないと解するのが相当である。
しかしながら、上記イの(ハ)のとおり、申告により確定した遺産の価額を前提としない更正の請求は、相続税法第32条第1項第1号に基づく更正の請求に該当しないところ、請求人らは、本件申告等により確定した遺産の総額である○○○○円を前提とせずに、上記(イ)のとおり本件各更正の請求を行っているのであるから、同号に規定する事由に基づく更正の請求には該当しないというべきである。
請求人らは、一次相続及び二次相続に係る遺産が未分割であり、いずれも法定相続分により申告した後、一次相続による遺産が分割され、二次相続に係る被相続人が一次相続について取得した遺産の割合が、一次相続における同人の法定相続分を下回った場合に、二次相続に係る申告について更正の請求が認められないとすれば、二重課税が生じることになるのであるから、そのような事態を放置する法令解釈とはなり得ない旨主張する。
しかしながら、相続税法第32条第1項第1号の法令解釈は既に上記イで述べたとおりであり、また、念のために付言すると請求人らに生じた当初の申告に存在するとされる過誤の是正を求める場合には、所定の期限内において国税通則法第23条に基づく更正の請求が予定されているところである。
したがって、請求人らの主張には理由がない。
なお、請求人らの主張を上記イのような法令解釈となる法令そのものに不合理がある旨を主張するものと解しても、当審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であって、その処分の基となった法令自体の適否又は合理性を判断することはその権限に属さないことであるので、規定自体の合理性については、当審判所の審理の限りではない。
(2) 本件各通知処分の適法性について
本件各通知処分は、上記(1)のとおり、争点についてこれを取り消すべき理由はなく、また、本件各通知処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件各通知処分は適法である。
(3) 結論
よって、審査請求には理由がないから、これを棄却することとする。
別紙 共同審査請求人(省略)
別表1 審査請求に至る経緯(請求人E及び請求人G)(省略)
別表2 審査請求に至る経緯(請求人H)(省略)