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(平4.4.22、裁決事例集No.43 142頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、産婦人科医であるが、平成元年分の所得税の青色の確定申告書(分離課税用)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対して、平成2年11月13日付で同表の「更正等」欄のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
項目 確定申告 更正等
総所得金額 13,231,908 13,231,908
内訳 事業所得の金額 0
不動産所得の金額 3,014,408 3,014,408
配当所得の金額 270,000 270,000
給与所得の金額 9,947,500 9,947,500
分離長期譲渡所得の金額 △363,000 17,537,000
納付すべき税額 △482,968 3,169,600
過少申告加算税の額 365,000

(注1)△印は、「分離長期譲渡所得の金額」欄においては、損失の金額を示し、「納付すべき税額」欄においては、還付金の額を示す。

(注2)「更正等」欄の分離長期譲渡所得の金額は、長期譲渡所得の特別控除額を控除した後の金額である。

 

 請求人は、これらの処分に対し平成3年1月10日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月9日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、なお不服があるとして平成3年4月20日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正について
(イ)請求人は、別表1に掲げるP市R町3番地1ほか18筆の土地3,032.41平方メートルを平成元年3月17日に株式会社A(以下「A社」という。)に145,000,000円で譲渡(以下「本件譲渡」という。)した。
(ロ)本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上控除する取得費(以下「本件譲渡に係る取得費」という。)は、別表2の「取得費の主張額・請求人」欄の10のとおり145,363,000円であり、そのうち、昭和52年中に取得した土地(以下「本件土地」という。)の取得費94,280,000円については、次に述べるとおりである。
A 請求人は、昭和52年7月25日にB信用組合S支店から130,000,000円を借り入れて、同支店の請求人名義の預金口座に入金し、同日94,280,000円を引き出し、これを取得費用として、当時、株式会社○○の営業部次長であったC男(以下「C男」という。)及び同社員△△(以下C男と併せて「C男ら」という。)並びに仲介業者を介してD協同組合(以下「D組合」という。)等に一括して支払ったもので、その内訳は、別表2の「取得費の主張額・請求人」欄の1ないし4のとおりである。
 仮に、そのとおり支払われていないとすれば、本件土地の取引には、仲介手数料名目の支払がないこと、また、本件土地は、埋土等の造成が必要であったこと及び当時、本件土地には小屋があり、その代償を必要としていたことから94,280,000円の一部がこれらの費用に充てられたものと思われる。
B 請求人は、所得税の青色申告の承認を受け、複式簿記の方法により継続して記帳しており、昭和52年分の総勘定元帳(以下「元帳」という。)には、本件土地の取得費として94,280,000円が計上されている。
(ハ)したがって、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額は、収入金額145,000,000円から本件譲渡に係る取得費145,363,000円を控除すると363,000円の損失となる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 前記イのとおり、更正は違法であり、その全部が取り消されるべきであるから過少申告加算税の賦課決定も取り消されるべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正について
(イ)本件譲渡に係る取得費は、次に述べることから、別表2の「取得費の主張額・原処分庁」欄の10のとおり126,463,000円である。
A 請求人は、本件土地の取得費について支払金額が確認できる売買契約書及び領収書等の書類を保有しておらず、請求人から提示を受けた伝票及び帳簿等も支払総額が記載されているだけであり、E男(昭和52年当時D組合の理事長、以下「E男」という。)及びF男に対する支払の事実を確認することができない。
B E男に対する調査の結果、同人が請求人から造成費として15,000,000円を受領した事実は認められるが、26,400,000円を受領した事実は認められない。
C F男に対する調査の結果、同人が7,500,000円を受領した事実は認められない。
 また、F男が譲渡物件及びその上に建物を所有していた事実並びに居住していた事実も認められない。
D 仲介業者である有限会社G(代表:H男、以下「H男」という。)及びC男に対する調査の結果、同人らが、請求人から昭和52年7月25日に94,280,000円を預かった事実並びにE男及びF男に支払った事実は認められない。
(ロ)したがって、分離長期譲渡所得に係る収入金額145,000,000円から本件譲渡に係る取得費126,463,000円及び長期譲渡所得の特別控除額1,000,000円を控除すると分離長期譲渡所得の金額は17,537,000円となる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 前記イのとおり、更正は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づく過少申告加算税の賦課決定は適法である。

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3 判断

(1)更正について

 本件土地の取得費について争いがあるので、以下審理する。
イ 請求人及び原処分庁から提出された資料並びに当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、別表1に掲げる土地を平成元年3月17日にA社に145,000,000円で譲渡したこと。
(ロ)請求人は、別表1に掲げる土地を昭和52年及び53年に取得していること。
 なお、請求人は同表の順号1の土地については、取得に係る契約書及び領収書を保存していないこと。
(ハ)D組合は、別表2の順号1及び2に係る土地売買契約書を保存しており、当該契約書に係る売買金額は同表のとおりであること。
(ニ)請求人は、本件土地をH男の仲介で取得したこと。
 なお、H男は、昭和53年2月16日に宅地建物取引業の免許を取得していること。
 また、C男らも本件土地の取得に至るまで、各地の土地を物色する等、請求人のためにあっせんに当たっていること。
(ホ)本件土地の当時の状況は、河川と水路に挟まれた場所にあり、起伏・段差があったこと。
(ヘ)請求人は、昭和52年7月25日にB信用組合S支店から130,000,000円を借り入れて、同支店の請求人名義の普通預金に入金し、同日94,280,000円を払い出していること。
(ト)請求人は、昭和48年5月4日原処分庁に対して所得税の青色申告承認書を提出して承認され、以降青色申告を継続していること。
 また、請求人は、原処分庁から昭和52年以降原処分の基となった調査以外に昭和57年3月及び昭和63年12月の二度にわたって所得税の税務調査を受けているが、本件土地の取得費について特に指摘を受けていないこと。
(チ)請求人が保存する元帳には、昭和52年7月25日に本件土地の取得費として94,280,000円が一括して計上されていること。
 なお、その後、本件土地の取得費について追加計上はないこと。
(リ)請求人の顧問税理士であるJ男(以下「J男」という。)が所有するメモ(以下「J男メモ」という。)によれば、昭和52年7月25日に支払った94,280,000円の内訳は、D組合に対する48,140,000円と12,240,000円、E男に対する26,400,000円及びF男に対する7,500,000円の各支払額である旨の記載があるが、仲介手数料については記載がないこと。
 なお、J男は、当該メモは請求人から提示された契約書に基づき作成した旨答述していること。
(ヌ)請求人は、次のとおり答述していること。
A 請求人が本件土地を取得したのは、当時、請求人が新たに精神科病院の建設を計画中であったところ、C男らが同病院の建築工事受注のために請求人が働き掛けていたので、同病院用地のあっせんを依頼した結果である。
B 本件土地には、当時、D組合の事務所があった。
C 本件土地の時価は、当時、坪当たり140,000円程度のところ、総額94,280,000円では坪当たり約132,000円となるので購入することを決めた。
D 契約は、D組合の事務所において行い、その際、数通の契約書に押印し、担当者に94,280,000円を支払った。
 なお、契約には数名の者が立ち会っていた。
(ル)E男は、次のとおり答述していること。
A 本件土地の売買契約に際し、請求人とD組合との売買契約書のほかに2通の契約書が作成された。
B 上記Aの契約金額の総額は、9千万円を超えていた。
C 本件土地の売買契約に立ち会ったC男、H男及びD組合の担当者であったK男(以下「K男」という。)らは、契約書に基づいて請求人から支払われた金員の一部をそれぞれ受領し、また、自身もD組合が受け取るべき土地代金のほか、土地の造成工事を行うことになっていたことから、その費用として金員を受領した。
(ヲ)本件土地の取引における売主側の仲介人は、本件土地には、当時、D組合の事務所や作業場があった旨答述していること。
ロ 以上の事実を基に判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人の主張についてみると、1本件土地の取得費について、C男らを介して一括して支払ったと主張しながら、他方でD組合の事務所でD組合に直接支払った旨答述するなど矛盾していること、2J男メモは、契約書に基づいて作成されたとなっているが、請求人は、契約書はもちろん領収書も全く保存していないこと、3請求人の帳簿には、本件土地の取得費は一括して計上されているのみで、この内容は明らかにされていないこと、4本件土地にD組合の事務所があったとすれば、本件土地の売買契約に際してその取扱いをどうするかが話し合われていたと考えられるところ、D組合に保存されている契約書には何ら触れられていないこと等の矛盾や不自然な点がある。
(ロ)しかしながら、次に述べる理由から、請求人は本件土地の取得に当たり94,280,000円を支払ったことがうかがえる。
A 本件土地は、河川や水路に挟まれ起伏・段差もあったこと及び造成工事をすることになっていた旨のE男の答述等からすると、病院用地として利用するためには、埋土等の造成工事の必要があったと認められるところ、E男は、造成工事費を請求人から受領したことを認めていること及び請求人の元帳の本件土地の取得費にその後追加計上はないことからすると、本件土地の取得時に造成工事が行われ、請求人は、その費用を支出していたと推認される。
B 本件土地に当時、D組合の事務所が建っていた旨の請求人の答述については、本件土地の取引における売主側の仲介人であったL男が同旨の答述をしていること及び本件土地の取引に係る売買契約は、本件土地にあったD組合の事務所で行われた旨複数の関係人が答述していることから事実と認められ、請求人は、当該事務所の撤去費用を支出したものと推認される。
C 不動産取引において、不動産取引業者が介在する場合は、通常、その取引金額に相応する仲介手数料が支払われるところ、本件土地の取引については仲介業者H男が関与していることから、請求人は相応の仲介手数料を支払ったものと推認されるほか、C男らも請求人のために土地の物色等に当たっているところから、同人らに対する実費補てん等のための費用をも支出したものと推認される。
 なお、本件土地の取得費の内訳を示すとされるJ男メモには、上記仲介手数料に関する記載はない。
D 請求人及び関係人の答述並びにJ男メモ等現存する資料からすると、本件土地の取引に関する契約は、売買当事者と双方の仲介人のほかE男、D組合の担当者K男及びC男の立会いの下に、当時のD組合の事務所で行われ、その際、土地売買に関する契約書のほか数通の契約書が作成されて、本件土地の売主であるD組合以外の立会人もそれぞれいくばくかの金員を受領したものと推認される。
E 請求人は、昭和52年7月25日にB信用組合S支店からの借入金の一部94,280,000円を同支店の普通預金から払い出しており、これに見合う形で、同日、元帳の土地勘定に本件土地の取得費として同額が計上されている。
(ハ)一方、原処分庁の主張についてみると、次のとおりである。
A E男に対する造成工事費を15,000,000円とする根拠は、同人の原処分庁に対する答述によるものと認められるが、同答述は、記録に基づいてなされたものではなく、記憶によったものであり、他方で同人は当審判所に対し、前述のとおり、原処分庁に対するものとは異なる答述をしており、確たるものがない。
 したがって、原処分庁に対する同人の答述のみをもってしては、原処分庁の主張は採用し難い。
B F男に対する建物代はないとする点については、同人自身が金員の受領を否定しているので、その限りにおいて原処分庁の主張は正当である。
 しかしながら、前述のとおり請求人は、D組合の事務所の撤去費用を支出したこと、本件土地の取引に関する仲介手数料及びC男らに対する実費補てん費等を支出したことが推認されるが、これらの費用が本件土地の取得費に計上されていないことから、F男に支払ったとされる金員がこれらの費用に充てられたことが考えられ、前述の請求人の資金手当ての状況、元帳の記載状況等からすると、F男に対する支払がないことのゆえをもって、この支払に相当する部分の取得費がないとすることは、早計といわざるを得ない。
 なお、H男は、当時まだ正式には宅地建物取引業の免許を有していなかったこと、また、C男らは、会社員であった関係上から、それぞれ請求人から報酬又は費用補てん等を受けることは、表面上は避けざるを得なかったことが十分うかがえる。
(ニ)以上を総合すると、請求人の主張を否定するだけの資料はなく、本件土地の取得費は結局、本件土地の売買代金のほか、造成費、建物撤去費、仲介手数料等を含めて全体で94,280,000円と認めざるを得ない。
(ホ)ところで、譲渡所得の金額の計算上控除される取得費については、所得税法第38条《譲渡取得の金額の計算上控除する取得費》第1項に規定されているが、同規定における取得費は、買入原価のほか手数料・登録免許税等の資産の取得に要したすべての費用並びに資産取得後における埋土・造成工事等の資産の量的改善に要した費用及び質的改善に要した費用の合計額(業務上の必要経費に算入された部分を除く。)をいうものと解されている。
(ヘ)そうすると、本件土地の取得費は、上記認定のとおり94,280,000円であり、この認定を覆す他の証拠はなく、本件譲渡に係る取得費は、これに争いのない別表2の「9」欄の金額51,083,000円を加算すると145,363,000円となるから、分離長期譲渡所得の金額は、本件譲渡に係る収入金額145,000,000円から本件譲渡に係る取得費145,363,000円を控除すると、363,000円の損失となる。
 したがって、原処分庁が分離長期譲渡所得の金額を17,537,000円とした更正は、その全部を取り消すべきである。

(2)過少申告加算税の賦課決定について

 前記のとおり、更正の全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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