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(平4.3.19、裁決事例集No.43 219頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産売買業を営む同族会社であるが、昭和62年3月1日から昭和63年2月29日までの事業年度(以下「当期」という。)の法人税の青色の確定申告書に次表の「確定申告額」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し平成2年6月29日付で当期について次表の「更正額及び賦課決定額」欄のとおり、更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
項目 確定申告額 更正額及び賦課決定額
所得金額 10,105,161 57,715,161
課税土地譲渡利益金額 33,753,000 51,253,000
納付すべき税額 9,899,000 34,069,800
過少申告加算税の額   3,123,500

 

 請求人は、これらの処分を不服として、平成2年8月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年11月28日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成2年12月27日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 更正について
(イ) 示談金の損金算入について
 請求人がその社屋(以下「本件社屋」という。)の敷地等として使用していたP市R町2丁目3346番地5号所在の土地(地積1,246平方メートル、以下「甲土地」という。)及び同番地23号所在の土地(地積247平方メートル、以下「乙土地」といい、甲土地と併せて「本件土地」という。)に関し、請求人と本件土地の地主○○及び△△(以下「本件地主」という。)との間で争われた本件土地の明渡し等を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)の結果、昭和62年12月7日に和解(以下「本件和解」という。)が成立し、請求人は、示談金63,570,000円(以下「本件示談金」という。)を支払うこととなった。
 本件示談金については、次の理由から、その全額が本件和解の成立日の属する当期において債務が確定しているから、本件示談金のうち支払期日が到来していない分割支払金の額47,610,000円(以下「本件否認額」という。)の損金算入を認めなかった原処分は違法である。
A 本件和解は本件訴訟における裁判官の和解勧告に従って、第18回口頭弁論調書(和解)(以下「本件和解調書」という。)に基づき、請求人と本件地主との間で成立したものであるから、本件和解の効力は確定判決と同一であり、本件和解の成立によって、本件示談金は分割払による支払期日が未到来の金額を含む総額63,570,000円についてその債務が確定する。
B 本件和解調書では、請求人が権原なく本件土地を占有していたことを認め、本件土地の明渡しと本件示談金の支払を余儀なくされたものであるところ、本件和解時に請求人の社屋の敷地になっていた乙土地について、明渡し猶予期間を設けることを和解の条件としたものであり、その間地代を支払うというものではない。
 また、本件示談金63,570,000円のうち、分割支払金48,070,000円(以下「本件分割支払金」という。)を209回の分割払(月額230,000円)としたのは、単にその支払方法として当事者双方が合意したにすぎないものである。
 したがって、仮に、本件示談金の算定基礎が地代であり、本件分割支払金の月額230,000円が地代相当額と同額であったとしても、各月の分割支払金は地代ではなく、本件和解により債務が確定している損害金の一部であるから、それらの債務が各月ごとに確定することはない。
C 本件示談金の算定基礎の中に、乙土地の明渡しまでの将来の逸失利益に対する補てん部分が含まれているとしても、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第3項第2号及び法人税基本通達(以下「基本通達」という。)2ー2ー12《債務の確定の判定》に照らし、本件否認額は本件和解が成立した昭和62年12月7日を含む当期の損金の額に算入されるべきである。
D 法人税法第22条第3項に規定する「別段の定めがある」場合とは、同法第11条《実質所得者課税の原則》及び同法第132条《同族会社等の行為又は計算の否認》に該当する例外的な場合のみであり、この2つの規定は本件更正に適用されないから、本則の法人税法第22条第3項により、原処分庁は本件示談金債務の確定日を本件和解調書の日付によるべきであるのに、これによらず、実質認定で決めることは違法である。
E 以上により、本件示談金の損害計上時期は、法律上の債務確定日、すなわち、本件和解の成立日を含む当期であるから、本件否認額は、当期の損金の額に算入されるべきである。
(ロ) 所得金額について
 以上の結果、請求人の当期の所得金額は、確定申告書に記載したとおり、10,105,161円である。
(ハ) 課税留保金額について
 請求人の当期の課税留保金額は、上記(ロ)の所得金額を基に計算すると、零円である。
(ニ) 課税土地譲渡利益の額について
 請求人の当期の課税土地譲渡利益の額は、原処分庁の認定額が相当であり、争わない。
(ホ) 以上により、本件更正は違法であるから、その一部の取消しを求める。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件更正は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い当期の過少申告加算税の賦課決定もその一部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正について
(イ) 示談金の損金算入について
 本件示談金のうち本件分割支払金48,070,000円は、次に述べるとおり、請求人が昭和63年1月1日から平成17年5月31日までの間に乙土地を明け渡さず使用することについての対価と認められ、その債務は、支払期日である各月末日において明渡しを了していないことを条件に当該各月の支払額(230,000円)ごとに順次確定することになるから、本件示談金のうち当期末においてその支払期日が未到来の期間に対応する部分の金額である本件否認額47,610,000円については、当期の所得金額の計算上損金の額に算入することはできない。
A 本件更正及び異議申立てに係る調査により認められた事実から、本件分割支払金48,070,000円の実質的性格は、乙土地の昭和63年1月1日から平成17年5月31日までの地代を毎月230,000円支払うこととしたものと同一と認められる。
B 請求人は、本件示談金の全額が本件和解の成立日をもって債務確定する旨主張するが、本件和解調書の第5条の3によれば、請求人が乙土地の明渡し期限である平成17年5月31日までの中途において、任意に本件社屋を収去し乙土地を明け渡したときは、本件示談金のうちその時における残額、すなわち、明け渡した日から上記明渡し期限までの月数に230,000円を乗じた額を免除することとされているから、本件示談金のうち昭和63年1月1日以後の各月末を支払期日とする額は、当該各月末において明渡しを了していないことを条件にその月の支払額230,000円が確定するものであり、まさしく、本件土地の各月の使用の対価といえるのであって、請求人の上記主張には理由がない。
(ロ) 所得金額について
 以上の結果、請求人の当期の所得金額は、申告に係る所得金額10,105,161円に、本件示談金の本件否認額47,610,000円を加算した57,715,161円となる。
(ハ) 課税留保金額について
 請求人の当期の課税留保金額は、上記(ロ)の所得金額を基に計算すると、6,746,000円となる。
(ニ) 課税土地譲渡利益の額について
 請求人の当期の課税土地譲渡利益の額は、51,253,000円である。
(ホ) 以上により、請求人の当期の所得金額は57,715,161円、課税留保金額は6,746,000円及び課税土地譲渡利益の額は51,253,000円となり、これらの金額は、本件更正に係る金額と同額であるから、本件更正は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件更正は適法であり、かつ、請求人の主張には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき当期の過少申告加算税の賦課決定をしたものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件示談金のうち本件否認額の当期における損金算入の適否にあるので、以下審理する。

(1) 更正について

 イ 示談金の損金算入について
(イ) 請求人及び原処分庁から提出された資料等によれば、次の事実が認められる。
A 本件地主と請求人は、昭和60年5月24日、請求人が本件土地を昭和60年6月1日から昭和80年(平成17年)5月31日までの20年間賃借し、当面の月額地代を50万円とする旨の土地賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結したこと。
B 請求人は、昭和60年6月、本件土地のうち乙土地上に本件社屋(木造平家建)を建築し、甲土地については駐車場等として転貸したこと。
 なお、本件社屋は、昭和63年4月、2階建に増築されたこと。
C 昭和60年11月22日、本件地主は、本件賃貸借契約が無効であり、請求人が本件土地を権原なく使用しているとして、本件社屋の収去及び本件土地の明渡し等を求める本件訴訟を提起したこと。
D 請求人は、本件賃貸借契約に基づく月額地代を昭和60年6月分から同年11月分まで本件地主に毎月支払っていたが、本件地主による上記Cの本件訴訟提起に伴い、同年12月分以降の月額地代については毎月○○地方法務局△△支局に供託していたこと。
 なお、請求人は、これらの月額地代を支払の都度地代家賃として計上していたこと。
E 本件訴訟において、昭和62年12月7日に本件地主と請求人との間で、次に記載する内容の本件和解が成立したこと。
(A) 請求人は、本件土地を権原なく占有していたことを認め、甲土地を昭和62年12月31日限り明け渡す(本件和解調書第1条)。
(B) 昭和80年(平成17年)5月31日限り、本件社屋を請求人の負担において収去し、乙土地を明け渡す(同第2条の1)。
(C) 本件地主は、本件土地の公租公課を負担する(同第2条の2)。
(D) 請求人は本件地主に対し、本件示談金として63,570,000円の支払義務があることを認め(ただし、15,000,000円は支払済み)、残金48,570,000円については昭和62年12月末日に500,000円を支払い、その余の残額48,070,000円を昭和63年1月1日から昭和80年(平成17年)5月31日まで、各月末限り230,000円ずつ209回に分割して支払う(同第4条)。
(E) 請求人が、本件示談金の支払を2回以上遅延したときは、前記(D)に関する定めは無効とし、前記(D)に定める期限の利益を失い、その時における残額を損害金として一時に支払い、乙土地を即時に明け渡す(同第5条の1)。
(F) 前記(B)にかかわらず、その期限の途中において請求人が任意に本件社屋を収去して乙土地を明け渡したときは、本件示談金の支払につき、その時における残額を免除する(同第5条の3)。
(G) 前記(B)において乙土地の明渡しをしないときには、昭和80年(平成17年)6月1日から明け渡す日まで、1日19,863円の遅延損害金及び同金員に対する年利30パーセントの割合による違約金を支払う(同第6条)。
(H) 本件社屋をその構造に反しない限度で増改築(ただし、取壊しによる全面改築、その他同一性を害しないものとする。)することを妨げないが、遅滞なく、その内容を本件地主に報告する(同第8条の1及び2)。
F 本件分割支払金以外に、本件和解の後、乙土地の明渡し猶予期間中、請求人がこれを使用することに伴う地代等の支払はしないこと。
G 請求人は、本件和解が成立した直後の昭和62年12月25日、本件分割支払金のうち昭和63年1月から同年12月までの12か月分2,760,000円を支払い、これをいったん地代家賃に計上した後、昭和63年2月29日付でこれを戻し入れるとともに、改めて、本件分割支払金の全額48,070,000円を損金(示談金勘定)に計上したこと。
H 本件地主は、原処分庁の調査担当職員に対し、次のとおり申述していること。
(A) 本件示談金は、本件土地の使用収益を得る権利を侵されている損害金として受け取っているものである。
(B) 本件分割支払金48,070,000円は、月230,000円で209回の分割払となっているが、その確定は和解成立日に全額が確定したものではなく、各月ごとに確定するものと認識している。
(C) 請求人によって、本件土地は利用されているのであるから、本来であれば地代として収受すべきであるが、地代として収受すると請求人に借地権が生ずるため、本件分割支払金は受取地代ではなく、明渡し猶予期間に相当する損害金として認識している。
(D) 本件示談金の金額は、毎月の支払額及び支払期間を基に算定したものであり、毎月の支払額については、当初、本件地主側は、乙土地の賃料に係る鑑定評価の結果に基づいて算定した250,000円ないし300,000円とするよう要求したが、請求人からの要望により230,000円となり、また、その支払期間(明渡し猶予期間)は、本件賃貸借契約の賃貸借期間の末日までとしたものである。
(ロ) 以上の事実に基づいて審理したところ、次の理由から、本件分割支払金は、その分割払の支払期日の到来する都度その月額の支払義務が確定するものと認められるから、請求人の各事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入される金額は、当該各事業年度において支払期日の到来する金額とすることが相当であり、本件分割支払金のうち当期末においてその支払期日が到来していない本件否認額相当額を、当期の所得金額の計算上損金の額に算入しなかった原処分に違法は認められない。
A 法人税法第22条第3項第2号は、法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入すべき販売費、一般管理費その他の費用について、償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く旨規定している。
 これは、課税の公平を図るという見地から、恣意性が入り込みやすい費用の見越計上や引当金の設定は原則的に認めないという考え方に基づくものであり、これにより、対外的に債務確定に至らない単なる費用の見越計上や引当金の設定は、法令に別段の定めがない限りこれを認めないこととしたものと解されるところである。
B ところで、各事業年度の販売費、一般管理費その他の費用の額については、法人税法第22条第4項により、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定されるのみで、それらの費用等の債務確定の具体的な判断基準に係る法令上の規定はないが、請求人が援用する基本通達2ー2ー12により、各事業年度終了の日までに債務が確定しているものとは、当該事業年度終了の日までに、1当該費用に係る債務が成立していること、2当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること及び3当該債務の金額を合理的に算定することができるものであることのすべての要件に該当するものとする旨の取扱いが示されているところ、この取扱いは、上記法律の趣旨に照らし、妥当なものと解される。
C 本件示談金の内訳は、本件和解調書の記載及び請求人の経理の状況から、次表のとおりと認められるところ、これらの金額が請求人の支出すべき一般管理費その他の費用であることについては請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても相当と認められるから、本件分割支払金を含む本件示談金63,570,000円の債務の確定時期については、上記A及びBの規定及び取扱いに基づいて判断するのが相当である。

(単位:円)
項目 金額
本件和解以前の支払済金額(昭和60年6月〜昭和62年11月分、@500,000×30月) 1 15,000,000
昭和62年12月分(@500,000) 2 500,000
本件分割支払金(@230,000×209月) 昭和63年1〜2月分 3 460,000
昭和63年3月分以降分(本件否認額) 4 47,610,000
本件示談金の総額(1234 63,570,000

 

D すなわち、本件和解調書第4条により、請求人に本件示談金の支払義務があること及びそのうち本件分割支払金相当額を明渡し猶予期間209か月の分割払とすることが合意された(前記(イ)のEの(D))が、一方、同第5条の3により、乙土地をその明渡し猶予期間の中途において明け渡したときは本件分割支払金のうち明渡し時点における残額の支払を免除する旨の合意がなされていること(前記(イ)のEの(F))が認められる。
 このことは、本件分割支払金の各月の支払金額230,000円の支払義務が、その月の末日の現況において乙土地の明渡しを了していないことを条件に確定すること、換言するならば、本件分割支払金は、明渡しが完了するまで明渡し猶予期間の経過に応じてその支払月額ごとに支払義務が確定するものと解される。
 そうすると、本件分割支払金のうち、当期末においてその支払期日が到来していない金額(本件否認額)については、本件和解により本件示談金の一部として支払債務が成立し、その金額も明示されているものと認められるから、前記Bで述べた基本通達2ー2ー12の取扱いの1及び3の要件を満たしていると認められるものの、当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実、すなわち、その後に到来する各支払期日の現況において明渡しが未了であるということは、将来において確認されるべき事実であって、当期末において発生していないことが明らかであり、上記取扱いの2の要件を欠くことになるから、本件否認額は、当期末において債務が確定しているものとは認められない。
E また、本件和解による実質的な効果について、次の各事由を併せ考えると、本件和解の効果は、本件賃貸借契約の賃貸物件である本件土地のうち甲土地が本件和解により明け渡される結果、請求人の使用部分が乙土地のみになることに伴い、月額地代を500,000円から230,000円に改定することと実質において異ならず、本件分割支払金の支払月額は、その名目にかかわらず、事実上、請求人が乙土地を利用することの対価、すなわち、地代にほかならないものと認められるから、この点からも、本件分割支払金は明渡し猶予期間の経過に応じて債務が順次確定するものとするのが相当である。
(A) 乙土地の明渡し期限は、本件賃貸借契約の賃貸期間の末日と同じであること(前記(イ)のA及びEの(B))。
(B) 本件和解の後も、請求人が本件社屋を増築できることが合意され(前記(イ)のEの(H))、現実に本件社屋が増築されていること(前記(イ)のB)。
(C) 本件和解調書に、本件地主の意思により明渡し猶予期間を短縮できる旨の条項がないことから、請求人は、明渡し猶予期間中、本件和解に基づく権原の下に乙土地を本件社屋の敷地として使用し、かつ、収益を得ることができるにもかかわらず、当該期間中、本件分割支払金以外に地代等の支払は予定されていないこと(前記(イ)のF)。
(D) 本件示談金については、その総額自体に合理的な算定根拠があるものではなく、甲土地を明け渡すまでの本件賃貸借契約の月額地代500,000円及び本件分割支払金の支払月額230,000円を基に算定されたものと認められること(前記(イ)のHの(D))。
(E) 本件地主は、原処分庁に対して、本件分割支払金については、受取地代とすると請求人に借地権が生ずるため、地代ではなく、明渡し猶予期間に相当する損害金として認識している旨答述しているが、一方で、当該損害金は各月ごとに確定するものと認識している旨答述していること(前記(イ)のHの(A)ないし(C))。
(F) 請求人も本件和解の直後に支払った本件分割支払金の一部をいったん地代家賃に計上する(前記(イ)のG)など、これを地代と認識していたものと推認されること。
F 請求人は、本件示談金が、確定判決と同一の効力を持つ本件和解の成立により支払うべきことが確定したものであるから、法人税法第22条第3項第2号の規定及び基本通達2ー2ー12の取扱いに照らして、本件示談金の債務の確定した日は法律上の債務確定日である本件和解調書の日付によるべきであって、実質認定によるべきではない旨主張する。
 しかしながら、和解は当事者間の契約であり、示談金あるいは損害金などの金銭支払の名目及び支払方法などは当事者間で任意に定められるものであるから、課税上の判断をするに当たっては、契約の内容の実質に着目してこれを行わざるを得ないものであるところ、法人税法第22条第4項においては、前記Bのとおり、同条第3項の各号に掲げる各事業年度の損金の額に算入すべき金額については、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定されており、また、請求人の援用する基本通達2ー2ー12に示されている債務の確定時期の判断基準も、その債務の実質的内容に即して判断すべきことを示したものと解される。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 所得金額について
 以上の結果、請求人の当期の所得金額は、申告に係る所得金額10,105,161円に、本件示談金の本件否認額47,610,000円を加算した57,715,161円となる。
ハ 課税留保金額について
 請求人の当期の課税留保金額は、上記ロの所得金額を基に計算すると6,746,000円となる。
ニ 課税土地譲渡利益の額について
 請求人の当期の課税土地譲渡利益の額が、51,253,000円であることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
ホ 以上により、請求人の当期の所得金額は57,715,161円、課税留保金額は6,746,000円及び課税土地譲渡利益の額は51,253,000円となり、これらの金額は本件更正に係る金額と同額であるから、本件更正は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 以上のとおり、本件更正は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定は適法である。

(3)その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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