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(平4.6.22、裁決事例集No.43 336頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和58年12月21日に死亡した○○(以下「被相続人」という。)の相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)の開始に係る相続税の申告書に課税価格を39,930,000円、納付すべき税額を15,705,000円と記載して昭和62年12月26日に申告した。
 原処分庁は、これに対し昭和63年8月31日付で相続税の課税価格を95,000,000円、納付すべき税額を37,384,200円とする更正(以下「本件更正」という。)をした。
 請求人は、本件更正を不服として昭和63年10月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し平成元年1月27日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成元年2月23日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 課税価格について
(イ) 請求人、△△及び××(以下この3名を併せて「請求人ら3名」という。)は、被相続人の死後認知された相続人であるが、被相続人の遺産(以下「本件遺産」という。)の分割についてP家庭裁判所に調停の申立てをしたところ、申立て当時、既に被相続人の嫡出子である長男A男(以下「A男」という。)、三女及び四女並びに養子である2名(以下この5名を併せて「他の相続人5名」という。)による本件遺産の全部の分割が終了していたことから、他の相続人5名が請求人ら3名の各人に対し本件遺産の調停時の時価2,470,000,000円の26分の1の額に相当する95,000,000円の価額弁償金(以下「本件価額弁償金」という。)を交付することなどを調停条項とする調停(以下「本件調停」という。)が昭和62年12月25日に成立した。
(ロ) 請求人は、本件調停の成立により、本件価額弁償金95,000,000円の交付を受けたのであるが、相続税の申告に当たり課税価格を39,930,000円として申告したのは、本件価額弁償金の額95,000,000円に、本件調停時における本件遺産の時価2,470,000,000円に他の相続人5名が負担した被相続人の債務の額及び葬式費用の額を加算した後の金額2,662,000,000円(1,000,000円未満の端数の金額を切捨て後の金額)に対する相続税の課税価格を計算する際の相続人全員に係る取得財産の価額の合計額1,118,905,000円(1,000円未満の端数の金額を切捨て後の金額)の占める割合を乗じて算出した金額を取得財産の価額としたからである。
 なお、請求人が課税価格の算出に当たり用いた本件調停時における本件遺産の時価2,470,000,000円は、不動産鑑定評価を踏まえた上での調停という客観的、法的手続を経て決められた価額であり、かつ、当事者同士が同意した価額であるから妥当なものである。
(ハ) しかるに、原処分庁は、本件更正において、本件価額弁償金の額95,000,000円をそのまま請求人に係る相続税の課税価格とするとともに、この金額に基づいてあん分割合の計算を行い、請求人の納付すべき相続税額を算定している。
 しかしながら、相続税法第17条《各相続人等の相続税額》の規定の適用に当たっては、相続税の総額をあん分する際の除数(相続人全員の課税価格の合計額)と被除数(各相続人ごとの課税価格)は、いずれも同じ価値水準の上にあるべきところ、原処分庁の計算方法によれば、他の相続人5名に関しての除数と被除数はいずれも相続開始時における昭和39年4月25日付直資56ほかの国税庁長官通達「相続税財産評価に関する基本通達」(平成3年12月18日課評2ー4ほかによる改正前のものをいう。)の定めにより評価した額(以下「相続税評価額」という。)の価値水準の上にあるが、請求人に関しての除数は他の相続人5名の場合と同じく相続開始時の相続税評価額という価値水準の上にあるものの、被除数については、本件調停時における通常取引されると認められる価額(以下「通常取引価額」という。)という価値水準の上にあることとなって極めて不合理であり、その結果、各相続人の納付すべき税額を各相続人が取得した財産の通常取引価額で除して算出される実質的な相続税負担率は、他の相続人5名が11.5パーセントであるのに対して、請求人については39.3パーセントとなり、本件更正は、公平を著しく欠く違法なものである。
ロ 更正の手続について
 請求人は、本件調停に基づき本件価額弁償金の交付を受けたので申告をしたところ、原処分庁は本件更正を行ったものであるが、原処分庁が本件更正の理由としている相続税法第35条《更正及び決定の特則》第3項の規定は、同法第32条《更正の請求の特則》第1号から第4号の規定による更正の請求に基づき更正をした場合を前提とする規定であるところ、他の相続人5名は、かつて相続人の数が5人から8人に異動したこと及び遺産分割が終了していることを理由として更正の請求をし、原処分庁は、当該更正の請求に基づいて、昭和60年8月31日付で他の相続人5名の納付すべき税額を減少させる更正を既に了しているのであるから、他の相続人5名が再度行った本件更正の基因となった更正の請求は、同法第32条第1号ないし第4号の事由のいずれにも該当せず、したがって、本件更正は法律上の根拠がなく違法なものである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 課税価格について
(イ) 相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額は、どのような遺産分割の方法をとった場合においても、被相続人の遺産の価額の合計額と一致すべきものであるから、代償分割が行われた場合の各相続人に係る相続税の課税価格は、1代償財産の交付を受けた者については、相続又は遺贈により取得した財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額となり、一方、2代償財産を交付した者については、相続又は遺贈により取得した財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額となる。
(ロ) また、遺産分割が代償分割の方法によって行われ、その代償財産として金銭が交付されたときは、1当該金額の額が代償財産を交付した者の遺産分割により取得した財産の相続税評価額を超える場合、又は2上記1以外の場合で、共同相続人及び包括受遺者の全員の合意がある場合に限って、当該金銭の額を代償分割の対象となった財産の相続税評価額と通常取引価額との比により圧縮計算することとして取り扱っている。
(ハ) ところで、請求人が交付を受けた本件価額弁償金の相続税の課税価格の計算に当たっては、代償分割における代償財産に準じて取り扱うのが相当であると認められるところ、本件価額弁償金の額は、他の相続人5名が本件価額弁償金を交付する対価として取得した財産の相続税評価額を超えておらず、また、他の相続人5名は、本件価額弁償金の額を圧縮計算することに合意していないので、前記(ロ)の1及び2のいずれにも該当しないから、その取扱いを適用することはできない。したがって、請求人の課税価格は、請求人が交付を受けた本件価額弁償金の額と同額の95,000,000円である。
ロ 更正の手続について
(イ) 本件調停の調停条項の2によれば、請求人が他の相続人5名から交付を受ける本件価額弁償金は、遺留分減殺請求に基づくものであるとしていることから、他の相続人5名が、本件価額弁償金を請求人ら3名に対して交付したことを理由として原処分庁に対して行った更正の請求は、相続税法第32条第3号に該当するので、これに伴い同法第35条第3項第1号の規定に該当するものとして、同条項に基づいて行った本件更正は適法である。
(ロ) 仮に、本件更正が相続税法第35条第3項の規定に該当しないとしても、国税通則法第24条《更正》の規定では、税務署長は納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定していること及び本件更正が同法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項に規定する期限内に行われていることから、本件更正は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、課税価格の多寡及び更正の手続の適否にあるので以下審理する。

(1) 課税価格について

イ 当審判所が請求人提出資料及び原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) 相続税の計算における取得財産の価額の合計額は1,118,905,578円であり、債務及び葬式費用の合計額は192,785,228円であることから純資産価額は926,120,350円となり、これに、相続人A男が相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産の価額1,200,000円を加算して算出すると、課税価格の合計額は927,318,000円となること。この結果、相続税の総額は、364,724,200円となること。
(ロ) 請求人は、本件相続の開始に係る相続税の申告書に、請求人に係る課税価格を39,930,000円、納付すべき相続税額を15,705,000円と記載して申告していること。
(ハ) 本件更正は、請求人に係る相続税の課税価格を95,000,000円とし、その額が相続税の課税価格の合計額927,318,000円の10.25パーセントの割合に相当することから、その割合により相続税の総額364,724,200円をあん分して、請求人が納付すべき相続税額を37,384,200円と算定していること。
(ニ) 本件遺産の中にはR市○○町及び同市△△町に所在する宅地が含まれているところ、本件調停において、不動産鑑定士が当該不動産について鑑定評価していること。
(ホ) 請求人は、昭和62年12月25日に成立した本件調停により、本件価額弁償金の交付を受けることになったところ、本件相続開始の時は昭和58年12月であるから、この時から本件調停の成立の時までの期間は、P県市部における地価の異常な上昇が生じた時期に当たること。
(ヘ) 本件調停に係る調停調書の調停条項の2及び同調書の財産目録によれば、被相続人の遺産から債務及び葬式費用の額を控除した後の正味遺産の額の26分の1に相当する金額として本件価額弁償金の額95,000,000円が算出され、これを請求人が取得することで各相続人は合意していること。
(ト) 本件調停に係る調停調書の調停条項の4によれば、本件価額弁償金の授受に伴う相続税の申告、更正の請求及び修正申告等の手続は法の定めるところに従い、各相続人がそれぞれの責任において行うことで、各相続人が合意していること。
ロ ところで、民法第910条《分割後の被認知者の請求》に基づき、相続開始後の認知によって相続人となった者からの請求により価額弁償金が交付されるときは、各相続人が取得する実質的な相続財産の額が変動することになる。
 そうすると、遺産の現物の取得者から価額弁償金の交付を目的とする債権(以下「価額弁償債権」という。)を取得した相続人については、その価額弁償債権も、実質的には、相続又は遺贈により取得した財産と解され、相続税の課税対象となるものと解するのが相当である。
 しかして、価額弁償金を交付した者及び価額弁償金の交付を受けた者に係る相続税の課税価格の計算をどのようにするかについては、相続税法において特に規定されていないが、次によるのが相当である。
(イ) 相続税法第11条の2《相続税の課税価格》第1項において、相続又は遺贈により取得した財産の価額の合計額をもってその者の相続税の課税価格とする旨規定されていることから、価額弁償金が交付された場合の各人の相続税の課税価格の計算は、次によるのが相当である。
A 価額弁償金の交付を受けた者に係る相続税の課税価格は、遺贈により取得した財産の価額と交付を受けた価額弁償金の価額の合計額とする。
B 価額弁償金の交付をした者に係る相続税の課税価格は、相続又は遺贈により取得した財産の価額から交付をした価額弁償金の価額を控除した金額とする。
(ロ) もっとも、価額弁償金が交付された場合、その交付をした者に係る相続税の課税価格を計算するに当たり、その者が相続又は遺贈により取得した財産の価額からその交付をした価額弁償金の価額をそのまま控除して計算するものとすると、その金額いかんによっては、その交付をした者の相続又は遺贈により取得した財産の価額が当該価額弁償金の価額を下回ることにより、共同相続人及び包括受遺者全員の相続税の課税価格の合計額が被相続人の遺産の価額を上回るという不合理が生ずる場合があり得る。
 したがって、このような不合理を生ずる場合においては、価額弁償金の交付を受けた者及び価額弁償金の交付をした者に係る相続税の課税価格の計算上、価額弁償金の価額は、当該交付される価額弁償金の金額に、価額弁償の対象となった財産の相続開始の時における相続税評価額と価額弁償金が交付されることになった時における通常取引価額との比を乗じて計算するのが合理的である。
(ハ) また、前記(ロ)のように、価額弁償金の交付をした者の相続又は遺贈により取得した財産の価額が当該価額弁償金の価額を下回る場合でなくても、共同相続人及び包括受遺者全員の協議に基づいて、当該交付される金額を上記の方法又はこれに準ずる方法その他の合理的と認められる方法により計算し、課税価格を算出することも認められると解される。
(ニ) 更に、前記(ロ)及び(ハ)に該当しない場合であっても、相続開始時と価額弁償時との間の遺産の価額が著しく変動している場合において、裁判所における判決、和解、調停等により価額弁償が行われ、かつ、価額弁償の対象となった財産及びその財産の通常取引価額が既に明らかになっており、その価額弁償時の価額を明確に把握することができる場合は、次の算式により、価額弁償金の額を圧縮計算して課税価格を計算することが相当と認められる。

 

価額弁償金の額 × 価額弁済金の交付者が遺産分割により取得した財産で価額
弁償の対象となったものの相続開始時の価額(相続税評価額)
価額弁償金の交付者が遺産分割により取得した財産で価額
弁償の対象となったものの価額弁償時の通常取引価額

 

ハ これを前記イの各事実に照らしてみると、1本件の価額弁償は裁判所の調停において行われていること、2本件価額弁償金の額は鑑定評価を基礎とする本件遺産の全部に係る本件調停時の時価を基として算定されているところ、本件遺産の大部分を占める不動産については、本件相続開始の時から本件調停の成立の時までの間に、価額が著しく上昇していることなどの事実が認められる。
 そうすると、本件の場合、本件価額弁償金の額は、価額弁償の対象とされた不動産の価額の著しい上昇を反映し、しかも、その相続税評価額とは異なる時価認識の下に合意されたものと認められるから、請求人ら3名と他の相続人5名の間で本件価額弁償金について圧縮計算することの合意がなくとも、本件価額弁償金の額を圧縮計算の上、相続税の課税価格を算出することが合理的であり、その算出方法としては、前記ロの(ニ)の算式によることが相当である。
ニ よって、前記イの各事実に基づき、請求人の相続税の課税価格を計算すると、次のとおりとなる。
(イ) 前記ロの(ニ)の算式中、価額弁償金の額は、請求人が本件調停により交付を受けた金額95,000,000円である。
(ロ) 前記(イ)の価額弁償金の額95,000,000円は、被相続人の遺産から債務及び葬式費用の額を控除した後の正味遺産の26分の1に相当する金額として算出されたことから、本件調停の成立時における正味遺産の総額は95,000,000円に26を乗じた額の2,470,000,000円と認められるので、前記ロの(ニ)の算式の分母の「価額弁償金の交付者が遺産分割により取得した財産で価額弁償の対象となったものの価額弁償時の通常取引価額」は、2,470,000,000円となる。
(ハ) 本件価額弁償金の対象となった財産は、前記(ロ)のとおり、被相続人の正味遺産であり、当該正味遺産に相当する相続開始時の相続税評価額は、926,120,350円であると認められるから、前記ロの(ニ)の算式の分子の「価額弁償金の交付者が遺産分割により取得した財産で価額弁償の対象となったものの相続開始時の価額(相続税評価額)」は、926,120,350円となる。
(ニ) したがって、請求人が本件価額弁償金95,000,000円の交付を受けたことによる取得財産の価額の具体的計算は次のとおりとなる。

95,000,000円 × 926,120,350円2,470,000,000円 = 35,620,013円

ホ そうすると、請求人に係る相続税の課税価格は35,620,000円となり、この金額は請求人の申告に係る課税価格に満たないから、本件更正はその全部の取消しを免れない。

(2) その他

 以上のとおりであるから、更正の手続等の適否については判断するまでもなく、原処分はその全部を取り消すべきである。

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