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(平4.5.29、裁決事例集No.43 427頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は会社役員であるが、原処分庁が請求人の父である〇〇(以下「滞納者」という。)の別表の滞納国税を徴収するため、平成2年12月15日付で次表の番号1及び番号2の建物(以下「本件不動産」という。)の共有持分10分の5について、職権により保存登記をした上、差押え(以下「本件滞納処分」という。)をしたので、この処分を不服として平成3年4月2日に異議申立てをした。

番号
所在地
P市R町
2564番地1、2562番地2
P市R町
1284番地4、1284番地5、
1284番地6、1526番地、
1526番地3、1526番地4
家屋番号 2564番1 1284番4
種類 居宅 居宅
構造 鉄筋コンクリート造亜鉛鍍金鋼板二階建 鉄筋コンクリート造亜鉛鍍金鋼板二階建
床面積 一階119.58平方メートル 二階75.22平方メートル 一階112.03平方メートル 二階82.46平方メートル

 

 異議審理庁は、異議申立ての日から3か月を経過したことから、請求人に対して、平成3年8月21日付で国税通則法第111条《教示》の規定に基づき本件滞納処分に対し審査請求ができる旨の教示をした。
 請求人は、この教示を受けて平成3年8月27日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 本件滞納処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件不動産の所有権に係る持分は、請求人の共有持分が10分の9及びA女の共有持分が10分の1(以下「請求人主張の共有持分」という。)であり、次に述べるとおり、滞納者は本件不動産の所有権に係る共有持分を有していない。
(イ) 原処分庁は、本件不動産の建築に係る請負契約の発注者及び建築確認の申請者が滞納者であることから、滞納者は本件不動産の所有権に係る共有持分を有しているとしているが、請負契約の発注者及び建築確認の申請者を家長である滞納者にしたのは、便宜上窓口者としたにすぎない。
(ロ) 滞納者は、本件不動産の工事の請負者であるB株式会社(以下「B社」という。)に工事代金として50,000,000円を支払っているが、これは、滞納者が請求人に代わって一時的に立て替えたものであり、請求人は、当該立替金を平成2年2月10日付の支払手形をもって滞納者に返済している。
 このことは、C株式会社(以下「C社」という。)及び手形の振出人であるD株式会社(以下「D社」という。)の会計帳簿において明白である。
(ハ) A女名により平成元年12月25日付でP市役所に提出した固定資産税の家屋建築における納税義務者の申請書(以下「固定資産税の申請書」という。)には、本件不動産の所有権に係る持分について、滞納者の共有持分を10分の5、請求人の共有持分を10分の4及びA女の共有持分を10分の1(以下「原処分庁認定の共有持分」という。)と記載したが、これはP市役所の要請により、A女が当該申請書の「参考事項」欄に当該申請書を提出した時点における資金の流れを基にして記載したものであり、本件不動産の所有権の共有持分を認定する根拠にはならない。
 なお、請求人は、本件不動産の共有持分は請求人主張の共有持分である旨の変更申請書を、平成3年10月15日にP市役所へ提出している。
(ニ) 原処分庁は、本件不動産の使用状況から滞納者に共有持分があるとしているが、不動産の使用者が必ずしもその不動産の所有者である必要はない。
ロ 原処分庁は、A女が平成2年7月19日に原処分庁に提出した「新(増・改)築された家屋についてのお尋ね」(以下「新築家屋のお尋ね」という。)に対する回答書に記載した請求人主張の共有持分は、虚偽ないしは本件滞納処分を免れるためのものとの誤った認識をしている。
 税務署長に提出した回答の内容と持分登記が相違する場合には贈与税等の課税問題が生じることから、そのような整合性のない回答はしない。
ハ 請求人は、本件不動産の所有権を請求人主張の共有持分で保存登記する旨を本件滞納処分の担当職員(以下「徴収担当職員」という。)に対し説明したが、原処分庁はこれを認めず一方的に職権により登記し本件滞納処分をしたものであり、このことは、請求人に対する財産権の侵害行為である。

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(2) 原処分庁の主張

 本件滞納処分は、次のとおり適法である。
イ 本件不動産の実体的権利関係において、原処分庁認定の共有持分が存することは次のとおり明白である。
(イ) 本件不動産に係る工事請負契約は、滞納者を発注者とし、B社を請負者として締結していること。
(ロ) 本件不動産の建築確認申請書は、滞納者が提出していること。
(ハ) 本件不動産の建築代金100,000,000円のうち、滞納者50,000,000円、請求人40,000,000円及びA女が10,000,000円を支払っていること。
(ニ) 本件不動産に係る固定資産税の申請書において、その持分を原処分庁認定の共有持分でP市長に申請し、固定資産税は当該申請に基づいた持分により賦課されていること。
(ホ) 本件不動産の建築に係る請負契約は、滞納者及び請求人の両世帯が居住する家屋を建築する目的でなされたものであり、本件不動産の完成後は、前記1の表の番号1の建物を滞納者、A女及び滞納者の長女が居住の用に供しており、前記1の表の番号2の建物を請求人、請求人の妻、同長女及び同次女が居住の用に供していること。
ロ 請求人は、平成2年7月19日付でA女が原処分庁に提出した「新築家屋のお尋ね」の回答をもって、本件不動産の所有権が請求人主張の共有持分のとおりであると主張するが、当該回答における共有持分は、前記イの実体的権利関係に反する虚偽ないしは本件滞納処分を免れる意図の下になされたものであるから、実体的権利関係に基づく不動産登記を左右するものではない。

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3 判断

(1) 本件滞納処分について

 本件不動産に係る滞納者の共有持分10分の5の存否について争いがあるので、当審判所において調査・審理したところ次のとおりである。
イ 次の事実については、当事者間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ) 本件不動産は、昭和63年12月21日に滞納者を発注者とし、B社を請負者として工事請負契約を締結して新築したものであること。
(ロ) 本件不動産に係る建築確認申請書に記載された建築主は、滞納者であること。
(ハ) 本件不動産に係る工事請負契約書(以下「工事請負契約書」という。)によれば、工事名は〇〇(請求人及び滞納者らの名字)邸新築であり、工事場所はP市R町2564―1他11筆であり、また、工事代金は100,000,000円であること。
(ニ) 本件不動産の完成後に、前記1の表の番号1の建物を滞納者、A女及び滞納者の長女が居住の用に供しており、前記1の表の番号2の建物を請求人、請求人の妻、同長女及び同次女が居住の用に供していること。
(ホ) 請求人は、C社及びD社の代表取締役であり、また、滞納者は、C社及びD社の取締役であること。
ロ 請求人提示資料、原処分関係資料等及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件不動産の建築代金100,000,000円は、次表のとおり、C社が振り出したE銀行P支店(以下「E銀行」という。)の小切手及びD社が振り出したF銀行P支店(以下「F銀行」という。)の小切手で支払われていること。
 なお、B社が発行した本件不動産の建築代金に係る請求書は、すべて滞納者あてである。

 

番号 支払年月日 支払金額 支払方法 支払場所 領収書あて名
1 昭和63年12月21日 10,000,000円 小切手 E銀行 滞納者
2 平成元年1月30日 10,000,000円 小切手 E銀行 滞納者
3 平成元年2月28日 10,000,000円 小切手 E銀行 滞納者
4 平成元年3月27日 10,000,000円 小切手 E銀行 滞納者
5 平成元年5月30日 10,000,000円 小切手 F銀行 請求人
6 平成元年6月29日 10,000,000円 小切手 F銀行 A女
7 平成元年8月1日 10,000,000円 小切手 F銀行 請求人
8 平成元年8月31日 10,000,000円 小切手 F銀行 請求人
9 平成元年10月3日 10,000,000円 小切手 F銀行 請求人
10 平成元年10月31日 10,000,000円 小切手 F銀行 滞納者

 

(ロ) C社の会計帳簿によれば、上記(イ)の番号1ないし番号4の振り出した小切手については、滞納者への借入金の返済であるとして会計処理がされていること。
(ハ) D社の会計帳簿によれば、上記(イ)の番号5ないし番号10の振り出した小切手については、請求人、滞納者及びA女への借入金の返済であるとして会計処理がされていること。
 また、D社は請求人に対して次表の約束手形(以下「本件手形」という。)を振り出しており、これについては、請求人への借入金の返済であるとして会計処理がされていること。

 

手形番号 No.×××
振出人 D社
振出日 平成2年2月10日
受取人 請求人
支払金額 50,000,000円
支払期日 平成3年2月10日
支払場所 F銀行

 

(ニ) D社の会計帳簿の補助簿(以下「補助簿」という。)によれば、上記(ハ)の借入金の返済(50,000,000円)に係る記帳は、個人別借入金請求人の口座の「平成2年5月30日の借方」欄の上部に平成2年2月10日で挿入記帳されているとともに、「平成2年5月30日の残高」欄は35,256,214円を抹消し、△22,743,786円と訂正記帳されていること。
 なお、訂正前の平成2年5月30日の訂正前の残高35,256,214円は、8,000,000円の計算誤りがあり、正当額は27,256,214円と認められる。
 また、事業年度末において、上記借入金返済の超過額である22,743,786円は、請求人に対する貸付金に振替処理している。
(ホ) 上記(ハ)の本件手形は、請求人から滞納者に対して裏書譲渡していること。
 なお、本件手形の「裏書年月日」欄は空欄となっており、裏書譲渡された日は不明である。
(ヘ) 本件手形の50,000,000円は、平成3年2月12日にF銀行の滞納者名義の普通預金口座において取り立てられ、その取り立てられた50,000,000円は、同日同普通預金口座から出金されていること。
(ト) 滞納者は、平成3年2月12日にD社に対して50,000,000円を貸し付けていること。
 また、D社は、同日付で滞納者からの長期借入金として50,000,000円を記帳していること。
(チ) 工事請負契約書によれば、本件不動産の完成引渡時において、残金10,000,000円を支払うこととなっており、平成元年10月31日に10,000,000円と記載された領収書が滞納者あてに発行されていること。
(リ) 固定資産税の申請書の「氏名(名称)」欄には、「A女外2名」と記載され、「参考事項」欄には、共有名義A女10分の1、請求人10分の4及び滞納者10分の5」と記載されていること。
 また、当該申請書の変更申請が、請求人主張の共有持分により平成3年10月15日にP市役所へ提出されていること。
ハ 請求人は、当審判所に対して、固定資産税の申請書に原処分庁認定の共有持分を記載したことについて、上記ロの(ハ)の本件手形の振出し前に当該申請書を提出したため、当該申請書の提出時における本件不動産の建築代金の負担割合に基づいて記載した旨答述している。
 なお、請求人は、原処分の徴収担当職員に対して、D社が本件手形を「平成2年2月10日」に振り出した理由はない旨申述している。
ニ 上記イ及びロの各事実並びに上記ハの答述を基に、本件不動産に係る共有持分について判断すると次のとおりである。
(イ) 請求人は、本件不動産に係る請負契約の注文者及び建築確認申請の建築主を滞納者としたのは、家長である滞納者を便宜上窓口者としたにすぎない旨主張するが、建築基準法第2条《用語の定義》第16号に規定する建築主とは、建築物に関する工事の請負契約の注文者をいい、同法第6条《建築物の建築等に関する申請及び確認》第1項の規定に従い建築確認申請をなし、監督官庁の検査を受ける者であり、また、民法第632条《請負》の規定は、請負の当事者を請負者及び注文者とし、同法第634条《請負人の担保責任ー瑕疵の修補》ないし第640条《担保責任を負わない旨の特約》の規定において請負者の義務を定め、同法第633条《報酬の支払時期》に注文者の義務を定めるとともに、同法第641条《注文者の解除権》に注文者の解除権を認めている。
 更に、建物を請負により新築した場合において、注文者が主たる材料を提供したときは建物の所有権が注文者に帰属するが、請負者が主たる材料を提供した場合には所有権はまず請負者に帰属し、その後注文者に移転すると解され、注文者及び注文者以外の者が所有権を主張し第三者に対抗するためには、登記を要するものと解されている。
 そうすると、本件不動産の請負契約の注文者及び建築申請の建築主は、前記イの(イ)及び(ロ)のとおり滞納者であり、また、滞納者は、前記ロの(チ)のことから、本件不動産の引渡しを受けているものと認められること及び本件不動産の請負契約及び建築申請において、滞納者を実質的に持分を有しない形式上の名義人としての注文者及び建築主としなければならない特段の事情も見当たらず、登記もないことから、本件不動産に係る法律上の一切の権利義務は、形式的にも実質的にも滞納者に帰属すべきことは明らかであり、この点に関する請求人の主張は失当である。
(ロ) つぎに、請求人は、滞納者が支払った建築代金50,000,000円は滞納者が請求人に代わって一時的に立て替えたものであり、当該立替金は本件手形をもって返済している旨主張するが、手形法第二編《約束手形》の規定によれば、手形の性格は、手形の種類、支払金額、支払期日、支払地、受取人、振出日、振出地及び振出人を表象した有価証券であり、その振出し又は裏書譲渡の原因となった債権債務の影響を受けず、また、その債権債務が何たるかを証明するものではないと解されている。
 したがって、請求人から滞納者へ本件手形が裏書譲渡されているとしても、その裏書譲渡をもって滞納者が請求人に代わって一時的に当該建築代金50,000,000円を立て替えたものであることを証明するとはいえないこと、また、本件手形は、前記ロの(ハ)及び(ニ)のとおり、D社が請求人に対し借入金の返済として振り出されたものと記帳されているが、補助簿の個人別借入金請求人の口座の「平成2年5月30日の借方」欄の上部に平成2年2月10日で挿入記帳されているとともに、「平成2年5月30日の残高」欄は35,256,214円を抹消し△22,743,786円と訂正記帳されていること、また、その借入金の返済は返済超過額が生じるなど、その記帳は不自然であり信ぴょう性が認められないこと、更に、前記ロの(ホ)ないし(ト)のとおり、本件手形は請求人から滞納者に裏書譲渡され、平成3年2月12日に滞納者により取り立てられ、当該取立金は同日本件手形の振出人であるD社へ貸し付けられていることからみると、本件手形に係る請求人は、滞納者及び同族会社であるD社の三者間における一連の取引は、滞納者が支払った建築代金50,000,000円が立替金であるがごとく見せかけるために行われたものと認められること、また、滞納者が支払った建築代金50,000,000円が立替金であるとすれば、その領収証のあて名は請求人でなければならないにもかかわらず、当該建築代金50,000,000円に係る領収証のあて名は、前記ロの(イ)のとおり滞納者であること、加えて、請求人と滞納者の間に当該立替金に係る金銭消費貸借契約書は作成されていないことなど、他に滞納者が支払った建築代金50,000,000円が一時的に滞納者が立て替えたものであることを認めるに足りる証拠資料もないことから、この点に関する請求人の主張も採用することができない。
(ハ) 請求人は、固定資産税の申請書には原処分庁認定の共有持分によって記載して提出したものの、その後請求人主張の共有持分により当該申請書の変更申請を行っている旨主張するが、固定資産税の課税庁であるP市は、当初の固定資産税の申請書に基づき、原処分庁認定の共有持分により固定資産税課税台帳を作成して、平成2年度及び平成3年度の固定資産税を賦課していること、また、本件不動産に係る不動産取得税も原処分庁認定の共有持分によって課税されていることからすると、本件不動産に係る共有持分は、本件滞納処分がされた平成2年12月15日以降である平成3年10月15日に、請求人主張の共有持分により固定資産税の変更申請をするまでの間は原処分庁認定の共有持分の状態が続き、滞納者及び請求人ともこれを認諾していたとみるのが相当であり、この点に関する請求人の主張についても採用することができない。
 そうすると、原処分庁が、本件不動産の建築代金100,000,000円の負担額を滞納者50,000,000円、請求人40,000,000円及びA女10,000,000円であると認定した上、本件不動産に係る共有持分は、原処分庁認定の共有持分であると認定したことは相当である。
 なお、請求人は「新築家屋のお尋ね」の回答書に記載した本件不動産に係る請求人主張の共有持分が真実である旨、また、請求人主張の共有持分によって保存登記することを徴収担当職員に説明済みである旨主張するが、「新築家屋のお尋ね」の回答書は、実質的に不動産等の所有権を確定する書類とは認められないこと、また、保存登記について説明済みであったとしても、前記判断に何ら影響がなく、この点に関する請求人の主張は失当である。
 したがって、原処分庁が原処分庁認定の共有持分に基づき職権により保存登記をした上、差押えをした本件滞納処分は適法である。

(2) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査・審理したところによっても、これを不相当とする理由は認められない。

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