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(平4.4.8、裁決事例集No.43 439頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和57年1月1日相続開始に係る被相続人A女及び同月23日相続開始に係る被相続人B男の共同相続人の1人であるが、別表1に記載の相続税を滞納していた。
 原処分庁は、上記滞納国税を徴収するため、平成3年6月20日付で、同族会社であるC株式会社(以下「C社」という。)に対して請求人が有する同社の株式120,120株(以下「本件株式」という。)の株券交付請求権(以下「本件株券交付請求権」という。)を差し押さえ(以下「本件差押え」という。)、同月22日に差押調書謄本を滞納者である請求人に送達し、また、同月24日に債権差押通知書を第三債務者であるC社に送達した。
 請求人は、この処分を不服として、平成3年8月22日に異議申立てを経ないで審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 次の理由により、原処分の一部の取消しを求める。
イ 本件差押えにより原処分庁が徴収すべき請求人の相続税に係る滞納国税(本税)は、24,950,510円(以下「本件滞納国税」という。)であるにもかかわらず、本件株式の価額は、別表2の(1)ないし(3)の「株式の価額」欄のとおりであり、本件滞納国税の額をはるかに上回るものである。
ロ したがって、原処分庁が、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第63条《差し押える債権の範囲》ただし書(その全額を差し押える必要がないと認めるときは、その一部を差し押えることができる。)の規定に基づき、本件株券交付請求権のうち本件滞納国税を充足する部分を差し押さえれば足るにもかかわらず、この規定を無視し漫然とその全部を差し押さえた本件差押えは、違法、不当なものであるから、その一部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 次の理由により、原処分は適法である。
イ 債権の価値は名目上の額によるのではなく、第三債務者の資力、その他の要素を勘案した実質的価値によって定まるものであり、このため、徴収法第63条は、債権を差し押さえる場合にはその全額を差し押さえることを原則とし、第三債務者の資力等からみてその全額を差し押さえる必要がないと認められるときに限り、その一部を差し押さえることができる旨を規定しているのである。
 本件株券交付請求権についても、その実質的価値は、C社の資力、経営状態等によって変動するものであることは、上記一般の債権の場合と同様である。
 また、本件株券交付請求権については、その一部について既に株券を発行済みであるが、その発行済株券数が不明であること等を理由にC社と請求人との間で訴訟が係属中であり、差押財産の権利が及ぶ範囲は未確定の状況にある。
ロ そうすると、本件株券交付請求権の実質的価値は極めて浮動的要素が強く、未確定のものであるということができ、したがって、本件差押えは徴収法第63条ただし書の規定に該当せず、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件差押えが徴収法第63条ただし書の規定に該当するか否かにあるので、以下検討する。
(1) 請求人、関係人及び原処分庁関係職員の各答述、原処分庁及び請求人から提出された各資料並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件差押え時点での滞納国税等は別表1のとおりであるが、同表に記載の加算税(合計2,711,000円)の賦課決定は、〇〇税務署長により、いずれも平成3年6月28日付でその全額が取り消されていること。
ロ C社の本件差押え直前期に当たる平成2年3月21日から平成3年3月20日までの事業年度の法人税確定申告書別表二「同族会社の判定に関する明細書」欄によれば、請求人が所有する株式数は120,120株であること。
ハ 本件差押え時点において、本件株式に係る株券(以下「本件株券」という。)の発行状況はC社において不明であり、本件株式のうち未発行の株券数を確定させることが困難な状況であったこと。
ニ 請求人は、平成2年11月29日付で、C社に対していまだ本件株券の交付を受けていないとして「株券交付請求書」を郵送したこと。
 その後、請求人は、C社が上記請求に応じないため、同社を被告として、平成3年1月31日付で、P地方裁判所に本件株式に対応する株券の発行を求める訴訟を提起したこと。その結果、現在、同裁判所において、本件株券の発行請求権の有無をめぐって係争中であること。
ホ 本件株式の平成元年9月時点におけるP地方裁判所の競売手続における同年12月27日付鑑定評価人の「株価鑑定評価報告書」に基づく評価額によれば、本件株式の価額は本件滞納国税の約10倍に当たる258,978,720円となり、本件滞納国税の額を大幅に超えていること。
(2) ところで、徴収法は、国税の滞納処分における財産の差押えに関する通則として、同法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》第1項において、国税を徴収するために必要な財産以外の財産は差し押さえることができないと規定し、超過差押えを禁止しているが、債権の差押えについては、上記の特則として、同法第63条の規定により滞納国税の額にかかわらず全額差押えを原則としている。
 これは、債権の性質上、その実質的な価値は名目上の額によって定まるものではなく、第三債務者の支払能力や抗弁権の有無、その他種々の事情に左右されるものであって、どれほどの債権額を差し押さえれば国税徴収に支障がないかをあらかじめ知り難いという債権特有の事情から、その全額を差し押さえることを原則とし、ただ、徴収職員が差押債権の実質的な価値を把握し、一部差押えによっても国税徴収に支障がなく、全額差押えの必要がないと認めるときには、一部差押えができることを認めたものと解される。
 したがって、徴収法第63条ただし書にいう「その全額を差し押える必要がないと認めるとき」とは、差し押さえる債権について、1第三債務者の資力が十分で履行が確実と認められ(たとえば第三債務者が地方公共団体等の公的機関や銀行その他の金融機関等である場合)、かつ、2その弁済期日が明確であり、更に3租税に優先する質権等の目的となっておらず、また、その弁済につき抗弁事由がなく、一部差押えによっても差押えに係る滞納国税の徴収が確実であると認められる場合等を指すものと解するのが相当である。
 この場合において、差し押さえるべき債権の範囲を全部とするか、その一部とするかの判断は、当該徴収職員のいわゆる自由裁量行為というべきであるから、その裁量権の行使が濫用にわたると認められない限り、これを違法行為とすることはできない。
(3) そこで、本件について前記(1)の認定事実に基づいて判断すると、次のとおりである。
イ 請求人は、徴収すべき本件滞納国税の額をはるかに上回る本件差押えは違法、不当である旨主張するが、C社において本件株式の発行済株券数が不明であり、請求人に対する未発行の株券数を確定させることが困難であること及び請求人とC社の間で、本件株券の発行請求権の有無をめぐって訴訟係属中であることからすると、本件株式のうち、未発行の株券数の特定ができなかったことが認められるから、原処分庁が主張するとおり、本件株券交付請求権の及ぶ範囲は未確定の状況であったといわざるを得ない。
 また、上記事情からすると、本件株券が原処分庁へいつ交付可能となるのか、その時期が特定できない状況にあるといえる。
 以上のような状況の下では、本件差押えに係る本件株券交付請求権について、上記(2)で説示した2のその弁済期日が明確であるとも、3のその弁済につき抗弁事由がないともいえないから、一部差押えによっては本件滞納国税の徴収が確実であるとは認められないというべきである。
 その他、本件において、徴収法第63条ただし書の規定に該当する事由の存在を認めるに足りる資料は存しない。
 したがって、請求人が主張するとおり前記(1)のホに記載の事実が認められるとしても、原処分庁が国税徴収の確実を期するため、徴収すべき滞納国税の額にかかわらず本件株券交付請求権の全部を差し押さえたことは、何ら違法、不当な点はないというべきである。
ロ そうすると、本件差押えは徴収法第63条ただし書の規定に該当せず、原処分庁が行った本件差押えは適法である。
(4) 原処分のその余の部分については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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