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(平4.1.17、裁決事例集No.43 452頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は会社員であるが、平成元年分の所得税の確定申告書に給与所得の金額を3,121,000円、住宅取得等特別控除の額を123,000円及び還付される税金の額を123,000円と記載して、平成2年3月15日に申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成2年6月27日付で給与所得の金額を3,121,000円、住宅取得等特別控除の額を零円及び還付される税金の額を零円とする更正(以下「本件更正」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成2年8月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成2年11月22日付で棄却の決定をし、異議決定書謄本は、平成2年11月22日に請求人に送達された。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成2年12月25日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 本件更正は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すべきである。
 請求人は、P市R町2丁目665番地45所在の家屋番号665番45の家屋(軽量鉄骨造スレート葺2階建床面積121.52平方メートル、以下「本件家屋」という。)を〇〇公庫(以下「公庫」という。)からの借入金(以下「本件借入金」という。)12,300,000円及び自己資金7,259,700円の合計19,559,700円で取得し、平成元年11月23日に居住の用に供した。
 そこで、請求人は、租税特別措置法(平成2年法律第13号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第41条《住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除》第1項(以下「住宅取得等特別控除」という。)を適用して、平成元年12月31日における借入金残高の1パーセントに相当する金額123,000円を平成元年分の請求人の所得税額から控除し、同年分の還付金の額に相当する税額を123,000円として申告した。
 これに対し、原処分庁は、本件借入金に係る金銭消費貸借抵当権設定契約(以下「本件契約」という。)は、平成2年2月19日に請求人と公庫との間で締結されているから、本件借入金は平成元年12月31日には存在しないものであり、平成元年分において住宅取得等特別控除をすることはできないと認定し本件更正をしたが、次に述べるとおり、原処分庁のこの認定は誤りである。
イ 措置法第41条第1項に規定する住宅取得等特別控除の対象となる借入金に係る金銭消費貸借契約は、要物契約としてよりむしろ諾成契約としての金銭消費貸借契約であることを前提として、公庫の融資実行日が入居した年の翌年になる場合であっても、年内に入居した者に対し住宅取得等特別控除の適用を認める取扱いを行っていること。
ロ 原処分庁は、むしろ、本件契約に係る契約書作成以前に、既に金銭消費貸借の当事者間で貸借の応諾とその実行がなされているという実態に着目すべきであり、かつ、入居した日と最終資金の交付の日が年をまたがったため、入居年分についての控除が受けられないということでは、納税者の理解が得難いとする国税庁の見解をいっそう重視する立場に立って、金銭消費貸借契約書作成の日が入居の翌年となった場合にも住宅取得等特別控除の適用を認めるべきである。
ハ したがって、請求人の場合、公庫との間における本件契約は平成2年2月19日に行っているが、公庫から平成元年7月13日付の融資予約通知を受け、同年11月27日に融資基本約定書を公庫に差し入れ、中間金4,860,000円の融資金を受領すると同時に融資予約金12,300,000円の金額に係る保証料の支払を行っていることから、請求人が居住の用に供した平成元年分から住宅取得等特別控除の適用を認めるべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 本件更正は、次の理由により適法である。
イ 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人が本件家屋に居住したのは、平成元年11月23日からであること。
(ロ) 請求人は、本件家屋を取得するに当たり、次のとおり借入れを行ったこと。

 

契約年月日 借入先 借入金額 償還期間 償還方法
平成元年11月27日 公庫 4,860,000円 一括償還
平成2年2月19日 公庫 12,300,000円 300月(25年) 割賦償還

 

(ハ) 上記の公庫からの借入金のうち4,860,000円については、公庫と本件契約を締結し、当該契約が実行されるまでのいわゆるつなぎ資金の性格を有するものであり、その償還方法も一括返済となっていること。
 したがって、当該借入金は措置法第41条第1項に規定する「借入金又は債務の額」(契約において償還期間が10年以上で割賦償還の方法で返済するもの)に該当しないこと。
 また、12,300,000円については、平成2年2月19日に請求人と公庫との間に、前記(ロ)のとおり本件契約が締結されたこと。
ロ 住宅取得等特別控除について、措置法第41条第1項は、居住者が住宅の用に供する家屋で措置法施行令第26条《住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除》で定めるものを取得等し、その取得等の日から6月以内に居住の用に供した場合において、その者が当該住宅の取得等に係る借入金又は債務の金額を有するとき、当該居住の用に供した日の属する年以後5年間の各年のうち、合計所得金額が30,000,000円以下である年については、その年分の所得税の額から、その年の12月31日における一定の借入金又は債務の額の合計額(20,000,000円を超える場合には、20,000,000円とする。)の1パーセントに相当する金額を控除すると規定している。
ハ 上記ロで述べた措置法第41条の規定に前記イの事実を照らしてみると、本件家屋を住宅の用に供したのは平成元年であり、また、措置法第41条の適用の対象となる公庫からの借入金の確定日は、本件契約の締結日である平成2年2月19日であることから、請求人の場合、本件家屋について平成元年分から住宅取得等特別控除を適用することはできない。なお、公庫の融資実行日が居住の用に供した日の翌年になる場合において、住宅取得等特別控除の適用を認めるとする取扱いは、居住の用に供した年に措置法第41条の適用の対象となる借入金に係る金銭消費貸借契約を締結したが、融資実行日が翌年となる場合に限られ、本件のように金銭消費貸借契約の締結が入居の翌年となる場合は、これに該当しない。
ニ 以上の理由により、請求人の平成元年分の還付すべき税額は零円となるから、本件更正は適法である。

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3 判断

(1) 本件更正について

 本件借入金が平成元年分の住宅取得等特別控除の適用対象か否かについて、請求人及び原処分庁の双方に争いがあるので、以下審理する。
イ 当審判所に対する請求人の答述及び請求人が当審判所に提出した証拠資料並びに原処分関係資料等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人が取得したP市R町2丁目665番地45に所在する本件家屋は、1種類は居宅、2構造は軽量鉄骨造、スレート葺、3床面積は1階60.28平方メートル、2階61.24平方メートルであり、請求人は、本件家屋を平成元年11月23日から居住の用に供しており、翌24日に同所に住民登録をしていること。
(ロ) 請求人は、本件家屋を取得するに当たり、公庫から次のとおり借入れをしていること。

 

契約年月日 借入先 借入金額 償還期間 償還方法
平成元年11月27日 公庫 4,860,000 一括償還
平成2年2月19日 公庫 12,300,000 300月(25年) 割賦償還

 

(ハ) 請求人が公庫から融資を受けた際の取引の流れは、おおむね次のとおりであること。
 融資申込み(平成元年5月15日付)―融資予約通知書の受領(平成元年7月13日付)―住宅の完成・入居(平成元年11月23日)―融資基本約定書の締結・中間資金の受領(平成元年11月27日)―表示登記(平成元年11月28日)―保存登記(平成2年1月12日)―公庫と本件契約の締結(平成2年2月19日)―抵当権設定登記(平成2年3月5日)―最終回資金の受取(平成2年3月14日)
ロ ところで、措置法第41条第1項は、住宅取得等特別控除が適用される借入金等については、その年12月31日における特定の借入金等と規定し、特定の借入金等とは、公庫等からの借入金で、契約において償還期間が10年以上の割賦償還の方法により返済することとされているものである旨規定している。
 しかして、その年12月31日における借入金等とは、その年12月31日における現実の借入金等の残高と解するのが相当であるが、公庫等からの借入れについては、公庫等の事務の都合上、その実行日の属する年が金銭消費貸借契約日の属する年の翌年になる場合があることから、このような場合には、その年12月31日における現実の借入金等の残高がなくても、当該契約を締結した年についても住宅取得等特別控除の適用があると解するのが相当である。
ハ 請求人は、住宅取得等特別控除の対象となる借入金に係る金銭消費貸借契約は諾成契約とみるべきであり、課税庁は、公庫の融資実行日が居住の用に供した年の翌年になる場合であっても、居住の用に供した年について、住宅取得等特別控除の適用を認める取扱いをしているから、請求人にもその適用を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人のいう課税庁の取扱いは、上記ロの後段にいう解釈を指すものと推認されるところ、請求人の場合には、居住の用に供した年に金銭消費貸借契約の締結、融資の実行がともにないことが認められるから、居住の用に供した年分については借入金等の残高はなく、平成元年分に住宅取得等特別控除の適用はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には、理由がない。
ニ 請求人は、本件契約に係る契約書作成以前に、既に当事者間で金銭消費貸借の応諾とその実行がなされているという実態(融資予約通知の受領、融資基本約定書の差し入れ、中間融資金の受領、融資予約金に係る保証料の支払)に着目して、住宅取得等特別控除の適用を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、公庫からの融資予約通知の受領、公庫への融資基本約定書の差し入れ及び融資予約金に係る保証料の支払は、いずれも本件契約を締結するための準備手続とみるのが相当であること、また、受領した中間融資金は、本契約の締結・実行時に一括償還による返済が義務付けられており、償還期間が10年以上で割賦償還の方法で返済する借入金等という住宅取得等特別控除の適用要件を充足していないものであることから、これらの事実が存することをもって、本件契約が成立していたとみることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ したがって、本件借入金には措置法第41条の適用はなく、本件更正に係る所得金額の計算は適正に行われているから、本件更正は適法である。

(2) その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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