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(平4.4.23、裁決事例集No.43 459頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は団体職員であるが、平成元年分の所得税の確定申告書(分離課税用)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁はこれに対し、平成2年7月31日付で、次表の「更正等」欄のとおり、更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
区分
項目
確定申告 更正等
給与所得の金額 7,148,007 7,148,007
分離長期譲渡所得の金額 51,073,138 80,207,691
納付すべき税額 5,730,900 18,121,700
過少申告加算税の額 1,537,500

 

 請求人は、これらの処分を不服として、平成2年9月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁はこれに対し、平成2年12月27日付で棄却の異議決定をし、異議決定書謄本は、平成2年12月28日に請求人に送達された。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成3年1月28日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 更正について
 請求人は、昭和62年9月に居住の用に供していた家屋(以下「本件家屋」という。)を取り壊し、本件家屋の敷地の用に供されていたP市R町4丁目158番5に所在の宅地209.02平方メートルのうち西側道路に接する部分99.174平方メートル(以下「先発契約物件」という。)を、同年10月3日にA株式会社(以下「A社」という。)に売買価格96,000,000円で譲渡する契約(以下「先発契約」という。)を締結した。
 ところが、先発契約物件の隣接地(私道)の地主が申請した道路位置指定申請に対するS県からの道路位置の指定通知が、当初の予定より大幅に遅れたため、先発契約物件を先発契約に定める引渡期限までに買主であるA社に引渡しをすることができなかったことが原因し、請求人は、A社から先発契約の解除の申出を受けたため、やむを得ず違約金を支払い先発契約を解除した。
 その後、S県から道路位置の指定通知があったため、請求人は、本件家屋の敷地の用に供されていた土地から分筆したP市R町4丁目158番10所在の宅地95.87平方メートル、同番9所在の宅地(私道)1.21平方メートル及び同番11所在の宅地(私道)1.16平方メートル(これら3筆併せて98.24平方メートルを以下「本件土地」という。)を平成元年3月11日に株式会社B(以下「B社」という。)に売買価格90,000,000円で譲渡する契約(以下「後発契約」という。)を締結し、同年4月14日に買主に引き渡して譲渡(以下「本件譲渡」という。)した。
 請求人は、本件譲渡に係る分離課税の譲渡所得金額(以下「本件譲渡所得金額」という。)の計算に当たっては、租税特別措置法(平成3年法律第16号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項に規定する居住の用に供されていた財産(以下「居住用財産」という。)を譲渡した場合の30,000,000円の特別控除(以下「居住用特別控除」という。)を適用し、更に、本件譲渡所得金額に対する所得税額の算出に当たっては、措置法第31条の4《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第1項に規定する税率(以下「軽減税率」という。)を適用の上確定申告をした。
 これに対し、原処分庁は、後発契約は本件家屋を取り壊した日から1年6か月後に締結されたものであるから、「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」通達(昭和46年8月26日付直資4ー5ほかのものをいい、以下「措置法通達」という。)の35ー2《居住用土地等のみの譲渡》に定める「当該土地等の譲渡に関する契約が、その家屋を取り壊した日から1年以内に締結され」という要件を満たしていないため、居住用特別控除及び軽減税率の規定を適用することはできないとして更正をした。
 しかしながら、次に述べるとおり、本件譲渡にはこれらの規定はいずれもその適用が認められるべきである。
(イ) 原処分庁は、先発契約とその後の後発契約とは別個の契約であるとしているが、次の理由から、これらは一連一体のものであるところ、本件家屋の取壊し後1年以内に先発契約が締結されており、また、措置法通達の35ー2には、家屋の取壊し後1年以内に締結した土地等の譲渡に関する契約の相手先と3年以内に譲渡した相手方が同一人でなければならない旨の定めはないから、先発契約の相手先と後発契約により譲渡した相手先が相違していても差支えはなく、本件譲渡は措置法通達の35ー2に定める要件に適合している。
A 先発契約及び後発契約ともに、譲渡の対象とした土地は同一の物件であること。
B 後発契約を締結したのは、道路位置の指定が大幅に遅れたという請求人の責めに帰さない不可抗力に起因して先発契約の解除をせざるを得なかったことによるものであるから、先発契約と後発契約は因果関係があること。
(ロ) 措置法第35条の制定の趣旨は、居住用財産を譲渡した場合は、通常新たに居住用代替資産の取得がされること及び通常の居住用の財産であれば居住用特別控除の範囲内で取得できるであろうとの配慮から、免税制度とし居住用の代替資産の取得を容易にすることにあるといわれており、また、措置法通達の35ー2の定めが1年あるいは3年という時間的経過を容認していることからも、同条は極力適用される方向にあることは明らかである。
 しかるに、原処分庁は、措置法通達の35ー2の定めを単に形式的にのみ解釈して、本件譲渡は居住用財産の譲渡には該当しないとするが、法令適用に当たり運用される通達は一指針であり、上記措置法第35条の制定の趣旨からすれば、本件譲渡は居住用財産の譲渡に該当するものであるから、本件譲渡所得金額の算出に当たっては措置法第35条第1項の規定は適用されるべきである。
(ハ) また、本件譲渡所得金額に対する所得税の算出に当たっては、本件譲渡は措置法第31条の4第1項に規定する要件を満たしていることから、軽減税率が適用されるべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は違法であり、その一部が取り消されるべきであるから、これに伴って過少申告加算税の賦課決定もその一部が取り消されるべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正について
(イ) 措置法第35条第1項の規定は、個人がその居住の用に供している家屋、若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地、若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡をした場合に適用するものとされている。
 ただし、居住の用に供している家屋を取り壊し、その家屋の敷地の用に供されていた土地等を譲渡した場合であっても、1当該土地等の譲渡に関する契約がその家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、その家屋を居住の用に供さなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡したものであり、2その家屋を取り壊した後譲渡に関する契約を締結した日まで、貸付けその他業務の用に供していない当該土地等の譲渡である場合には、措置法第35条第1項の規定を適用することとされている。
(ロ) ところで、本件家屋の取壊しから本件譲渡に至るまでに関しては、次の事実が認められる。
A 請求人は、昭和62年9月に本件家屋を取り壊したこと。
B 先発契約に係る売買契約書の第3条(取引期日及び売主の引渡義務)では、売主は買主又は買主の指定する者に対し、昭和63年4月末日までに先発契約物件を引き渡す旨約定されていること。
C A社は、請求人に対し昭和63年6月8日付内容証明郵便により先発契約の解除を通告したこと。
D 請求人は、昭和63年9月2日にA社に対し違約金を支払い、売買価格を96,000,000円とする先発契約を合意解除したこと。
E 請求人は、平成元年3月11日にB社と本件土地について売買価格を90,000,000円とする後発契約を締結したこと。
(ハ) 請求人は、先発契約が解除となったのは隣接地主の申請に対するS県からの道路位置の指定通知が遅れたことによるものであること及び先発契約と後発契約は一連のものである旨等を主張するが、前記(ロ)の事実から判断すると、先発契約が解除となったのは、請求人が先発契約に係る売買契約書の第3条の約定を履行しなかったことによるものであり、また、先発契約と後発契約は買主や売買価格等の異なる全く別個の契約である。
(ニ) したがって、先発契約と後発契約は請求人が主張するような一連一体のものとは認められないところ、後発契約は本件家屋を取り壊した日から1年6か月後に締結されたものであるから、本件譲渡所得金額の計算上、措置法第35条第1項の規定を適用することはできない。
(ホ) よって、本件譲渡所得金額は次表のとおりとなる。

(単位:円)
項目 金額
譲渡収入金額 1 90,000,000
取得費の額 2 4,500,000
譲渡に要した費用の額 3 4,292,309
長期譲渡所得の特別控除額 4 1,000,000
本件譲渡所得金額(1234 80,207,691

 

(ヘ) 本件譲渡所得金額に対する所得税の計算については、本件譲渡が前記(イ)の1及び2の要件を満たしておらず、したがって、本件土地が措置法第31条の4に規定する居住用の財産に該当しないことから、軽減税率はその適用がない。
(ト) 以上により、本件譲渡について措置法第35条第1項及び第31条の4の規定を適用しないで行った更正は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税の賦課決定をしたものである。

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3 判断

(1) 更正について

 本件審査請求の争点は、居住用特別控除及び軽減税率の適用の可否にあるので、以下審理する。
イ 当審判所が原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、居住の用に供していた本件家屋を、C株式会社に依頼し昭和62年9月に取り壊したこと。
(ロ) 請求人は、昭和62年10月3日に、本件家屋の敷地の用に供されていた土地の一部99.174平方メートルをA社に譲渡する旨の先発契約を締結したこと。
(ハ) 請求人とA社は、昭和63年9月2日に先発契約の解除についての合意書を作成の上、先発契約を解除したこと。
(ニ) その後、請求人は、平成元年3月11日に本件土地をB社に譲渡する旨の後発契約を締結し、同年4月14日に本件土地を引き渡し、譲渡したこと。
ロ ところで、措置法第35条第1項の規定(居住用特別控除)は、土地等の譲渡にあっては、居住の用に供されていた家屋が現存し、かつ、その家屋とともに譲渡される場合のその家屋の敷地の用に供されていた土地等の譲渡に限り適用されることになっており、土地等のみの譲渡については、災害によりその家屋が滅失した場合を除いては、同項の規定は適用されないとされているところ、措置法第35条第1項の法意の解釈上、土地等が重要視される不動産売買の実情からみて、居住の用に供している家屋を取り壊し、その家屋の敷地の用に供されていた土地等を譲渡した場合において、1当該土地等の譲渡に関する契約が、その家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、その家屋を居住の用に供されなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡したものであり、かつ、2その家屋を取り壊した後譲渡に関する契約を締結した日まで、貸付け等の用に供していない当該土地等の譲渡である場合には、同項の適用が認められると解するのが相当である。
ハ 請求人は、先発契約及び後発契約ともに、譲渡の対象とした土地は同一の物件であること及び先発契約は道路位置の指定通知の遅れという請求人の責めに帰さない不可抗力のため解除せざるを得なかったものであることから、先発契約と後発契約は因果関係があり一連一体のものであるところ、先発契約は本件家屋の取壊し後1年以内に締結されており、また、措置法通達の35ー2には、家屋の取壊し後1年以内に締結した土地等の譲渡に関する契約の相手先と3年以内に譲渡した相手先が同一人でなければならない旨の定めのないことから、本件譲渡は居住用特別控除及び軽減税率の適用の要件に適合する旨主張する。
 しかしながら、先発契約は本件家屋を取り壊した日から1年以内に締結されてはいるものの、前記イで認定したとおり、その後解除されているのであるから、先発契約に基づいては本件土地の譲渡が行われていないことは明らかである。
 後発契約は、契約の時期、譲渡の相手先、売買金額ともに先発契約のそれとは異なる別個の契約であることは明らかであって、たとえ売買の対象とした土地が同一の物件であったとしても、また、先発契約が請求人の責めに帰さない事由に起因して契約解除されたものであったとしても、先発契約と後発契約を同一のものであるということはできない。
 よって、本件土地の譲渡は、本件家屋の取壊し後1年を経過した後に締結された後発契約に基づいて行われたものであるから、本件譲渡は居住用財産の譲渡に該当しないこととなり、よって、本件譲渡所得金額の計算上居住用特別控除を適用することはできず、また、本件土地が軽減税率を適用する場合の要件とされている居住の用に供されていた財産に該当するかどうかの判断は、居住用特別控除を適用する場合の要件とされている居住の用に供されていた財産に該当するかどうかと同様に判断すべきであると解されるところ、上記のとおり本件土地は居住用特別控除を適用する場合の要件とされている居住の用に供されていた財産には該当しないから、本件譲渡所得金額に軽減税率を適用することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 以上のとおり更正は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定は適法である。

(3) その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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