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(平4.6.25、裁決事例集No.43 507頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産売買業を営む同族会社であるが、昭和63年10月1日から平成元年9月30日までの事業年度の青色の法人税確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 つぎに請求人は、原処分庁に対し平成2年11月30日に次表の「更正請求」欄のとおり更正の請求をしたところ、原処分庁は、平成3年3月30日付で、その更正をすべき理由がない旨の通知をした。

(単位:円)
区分 確定申告 更正請求
所得金額 0 0
課税土地譲渡利益金額 71,923,000 0
納付すべき税額 14,321,700 0

 請求人は、この処分を不服として、平成3年5月3日に審査請求をした。

 請求人は、この処分を不服として、平成3年5月23日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 次の理由により、原処分の全部の取消しを求める。
イ 請求人は、請求人とP農業協同組合(以下「P農協」という。)及びP県A株式会社(以下「A社」という。)ら利害関係人との間で、平成元年8月22日になされた即決和解(以下「本件和解」という。)に基づき、B団地(以下「B団地」という。)の土地9,551.91平方メートル(以下「本件土地」という。)を、A社へ743,797,785円で譲渡したとして確定申告をした。
 しかしながら、当該譲渡価額には、P市R町土地区画整理組合(以下「区画整理組合」という。)との合意に基づいて、同組合が施行している土地区画整理事業地の保留地のうち、約4,700坪(以下「譲受予約地」という。)を、請求人が同組合から安価で譲り受ける権利(以下「本件譲受権」という。)の価額相当部分が含まれている。
ロ 本件譲受権については、請求人が譲受予約地の購入予約申込者(以下「寄託者」という。)47名から、将来、当該予約地の売買代金の一部に充当することが予定されている事業協力金(以下「寄託金」という。)を預かっていた関係で、和解調書に記載できず、本件和解に付帯する覚書(以下「和解時の覚書」という。)により、和解成立の前提としてA社へ承継されたものである。
ハ 請求人は、本件譲受権の価額を、譲受予約地の販売による利益相当額約300,000,000円と見込んでいたが、和解を成立させるためやむなく、見込利益金額の約半分である上記寄託金を返還すべき債務(以下「寄託金返還債務」という。)151,017,000円相当額で譲渡したもので、前記譲渡価額743,797,785円の中にはこの価額が含まれている。
 このように、譲渡価額の中に本件譲受権の対価が含まれている結果、本件土地の3.3平方メートル当たり(以下「坪当たり」という。)の譲渡価額は256,967円となり、この価格は、他のB団地の一般への坪当たり販売価格220,000円に比し割高となっている。
ニ A社が、本件和解により寄託金返還債務を引き受けたのは、原処分庁が主張するように、本件土地の譲渡代金の決済手段としてなされたものではなく、単に預り金の返還を肩代わりしてもらっただけであり、A社が寄託者に対してこの寄託金返還債務を土地代金の一部と相殺したり、あるいは返却したりしているのは、本来請求人が行うべき事務を代行しているにすぎないものである。
ホ したがって、本件譲受権の価額151,017,000円は、本件土地そのものの対価ではなく、雑収入的性格のものである。
 そうすると、本件土地の譲渡価額は、743,797,785円から151,017,000円を差し引いた592,780,785円となり、この金額から譲渡原価669,855,359円を差し引くと、租税特別措置法(平成3年法律第16号による改正前のもの)第63条《土地の譲渡等がある場合の特別税率》(以下「措置法第63条」という。)の対象となる譲渡利益金額はないから、原処分は違法である。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 請求人が主張する本件譲受権は、和解時の覚書に基づき本件和解に付随して請求人からA社へ承継されたものではあるが、請求人と区画整理組合が昭和63年12月10日締結した土地購入についての覚書(以下「63年覚書」という。)における請求人が有していた地位(以下「請求人の地位」という。)としてA社へ承継されたものにすぎず、和解調書の記載内容によれば、請求人がA社へ譲渡したのは本件土地と建物のみである。
ロ 和解時の覚書によれば、上記請求人の地位をA社が承継する旨の記載はあるが、それに伴う金銭の授受について一切言及していないことから、当該地位の承継は無償で行われたものと認められる。
ハ A社が請求人の寄託金返還債務を引き受けたのは、本件和解に基づく本件土地及び建物の売買代金の支払手段の一部をなすものである。
 また、A社が寄託者に対して寄託金返還債務を土地代金の一部と相殺したり、あるいは返却したのは、和解時の覚書により同社本来の業務として、寄託金返還債務を履行しているにすぎないものである。
ニ 以上のとおり、本件譲受権は本件和解に付随して「請求人の地位」として無償で承継されたものであることから、本件土地の譲渡価額は743,797,785円であり、この金額から譲渡原価669,855,359円を差し引くと譲渡利益金額は73,942,426円となり、この額から他の譲渡損失の金額2,019,087円を差し引いた71,923,339円が措置法第63条の対象となる。

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3 判断

 本件土地の譲渡価額に本件譲受権の対価の額が含まれているか否か、また、含まれているとした場合に措置法第63条の規定が適用されるか否かについて争いがあるので、以下審理する。

(1) 当審判所が、請求人及び関係人並びに原処分関係資料等を調査したところによれば、次の事実が認められる。

イ 請求人は、本件土地に係る譲渡収入金額を743,797,785円、譲渡原価を669,855,359円、譲渡利益金額を73,942,426円とし、この譲渡利益金額から本件土地以外の土地の譲渡に係る損失の金額2,019,087円を差し引き、措置法第63条の対象となる課税譲渡利益金額を71,923,000円として確定申告をしていること。
ロ 本件土地は、昭和59年11月に取得したもので、その取得原価等の額は669,855,359円であること。
ハ 請求人は、平成元年7月31日債務者P農協の申立てにより、P地方裁判所から本件土地に対する不動産競売開始決定通知を受け、同年8月22日に本件和解をしており、その和解の主な内容は次のとおりであること。
(イ) 請求人は、A社へ本件土地及び本件土地上の建物を759,255,500円で売り渡す。
(ロ) A社は、売買代金の支払に代えて請求人が負っている次表に掲げる債務(以下「借入金等」という。)を引き受ける。

(単位:円)
借入先等 金額
P農協に対する借入金債務 574,943,900
寄託金返還債務 151,017,000
○○株式会社に対する借入金債務元本 9,000,000
区画整理組合に対する土地売買代金の未払残金 24,294,600
合計 759,255,500

 

ニ 上記ハの譲渡価額759,255,500円のうち15,457,715円は、建物の対価であること。
ホ P農協は、請求人に対する上記貸付債権を回収するため、関連会社であるA社に、これを肩代わりさせる形で本件和解に応じたものであること。
ヘ 和解時の覚書の主な内容は次のとおりであり、金銭の授受に関する記載はないこと。
(イ) A社は、譲受予約地についての請求人の地位を承継して、当該予約地を区画整理組合から買い受けるものとし、請求人はこれに同意し何ら異議を申し立てない。
(ロ) A社は、請求人と寄託者47名との間で取り交わされた念書(以下「念書」という。)の内容を引き継ぐものとし、その内容に係る事務手続は、請求人とA社両者が協力して対応する。
(ハ) 請求人の地位がA社に承継されず、区画整理組合とA社との間において、譲受予約地の土地売買契約が締結されなかった場合は、本件和解及び和解時の覚書に定める約定は無効とする。
ト 請求人は、譲受予約地について、区画整理組合との間で昭和62年6月24日に土地譲渡に関する覚書(以下「62年覚書」という。)を締結しているが、その締結の経緯及びその主な内容は、次のとおりであること。
(イ) 請求人は、昭和59年11月株式会社××が開発を計画していた△△団地(仮称)用地を購入の上、B団地として開発することとした。
(ロ) B団地は、区画整理組合が施行している土地区画整理事業地内の団地(以下「R町ニュータウン」という。)と隣接していることから、P市の指導により共同開発方式とし、請求人と区画整理組合は、次の事項について合意した。
A 区画整理組合は、取付道路を計画のとおり完成させ、請求人はそれを利用する。
B 境界沿いの造成工事は、同時着工とする。
C 区画整理組合は、保留地処分に当たり請求人から仮給水を受ける。
(ハ) 区画整理組合の事情により上記(ロ)のA及びBの工事着工が遅れたため、請求人と区画整理組合とでその処理についての話し合いの結果、譲受予約地をB団地と隣接するR町ニュータウンの土地に特定の上、請求人が区画整理組合から買い入れる予約をし、その譲渡価格については、双方の協議価格によることを主な内容とする62年覚書を締結した。
チ 譲受予約地に関して、請求人と区画整理組合とが締結した63年覚書の主な内容は、次のとおりであること。
(イ) 譲受予約地は97区画とし、確定測量及び工事竣工検査をもって確定する。
(ロ) 譲受予約地の売買の正式契約については、国土利用計画法の売買価格の許可を得た後及び工事竣工検査済証を取り付けた後とする。
(ハ) 本書をもって、請求人と区画整理組合との間の懸案事項はすべて解決したものとする。
リ 区画整理組合は、請求人への譲受予約地の坪当たり処分予定価格について、R町ニュータウン建設共同企業体運営委員会の助言により、約4,200坪については165,000円、約500坪については170,000円としたこと。
ヌ 区画整理組合は、R町ニュータウン内の土地の坪当たり処分予定価格を、245,547円としていたこと。
ル 譲受予約地の地積及び処分価格は、本件和解時において、地積97区画15,646.83平方メートル(4,741.46坪)、処分価額783,496,930円(坪当たり平均価格165,243円)と予定されていたこと。
 なお、15,646.83平方メートルのうち、6区画486.75平方メートルは、請求人が、区画整理組合から購入の上、B団地の旧地主に無償で交付すべきものであるため、一般に分譲できるのはそれを除外した15,160.08平方メートル(4,594坪)であること。
ヲ 請求人は、62年覚書が締結される前の昭和62年4月ころから譲受予約地をB団地として売り出し、平成元年7月までの間にその大部分について、場所(区画)、地積及び坪当たり単価を取り決めた上、寄託者47名との間で念書を取り交わして売買予約するとともに、寄託金151,017,000円を預かっていたこと。
 なお、念書によれば、当該予約地の坪当たり単価は170,000円ないし263,000円となっており、平均単価は227,153円であること。
ワ A社は、和解時の覚書により請求人の地位を承継するとともに、区画整理組合から譲受予約地を購入の上、承継した念書の内容を履行していること。

(2) 以上の事実から総合して判断すると、次のとおりである。

イ 請求人は、前記(1)のトの(ハ)のとおり区画整理組合の工事着工の遅れにより、両者が負担すべき費用を結果的に請求人が先行して多く負担したこと等のため、両者が話合いの上、これらを一括して清算する方法として、62年覚書及び63年覚書に基づき、区画整理組合から譲受予約地を、区画整理組合の坪当たり処分予定価格245,547円のところを165,000円又は170,000円で購入できるという権利、すなわち本件譲受権を取得したものと認められる。
ロ 請求人は、譲受予約地を取得する前に、当該譲受予約地をB団地として売り出し、本件和解時にはその大部分を寄託者47名と念書により土地売買の予約をするとともに、寄託金として151,017,000円を預かっていたことが認められる。
ハ 念書からみた土地売買の予約による見込粗利益金額は、譲受予約地の分譲可能地積4,594坪に、前記(1)のヲの平均単価227,153円を乗じて算定してみると、その譲渡見込収入1,043,540,882円から、譲受予約地の買受予定価額783,496,930円を差し引いた約260,000,000円となる。
 したがって、請求人は、本件譲受権を行使して譲受予約地を取得の上、これを分譲したとすれば上記粗利益を得たであろうことが推認される。
ニ 本件和解調書と和解時の覚書との関係についてみると、請求人は、P農協からの借入金の返済ができないまま本件土地を競売されたのでは事業継続が困難となり、請求人において寄託者47名との念書の内容も履行できなくなることから、やむなく本件和解に応じたものと認められる。
 一方、P農協は、請求人に対する貸付債権の早期整理の必要に迫られていたが、本件土地の競売代金のみでは貸付金の全部の回収ができないため、本件土地のほかに譲受予約地を安価で取得してその売却利益でもって債権回収を図ることとし、P農協とA社(以下「A社等」という。)は、本件土地のほかに、本件譲受権を承継することを前提に寄託金返還債務を含む借入金等を引き受けることで本件和解が成立したものと認められる。
 そうすると、A社等は、本件譲受権の承継を当然の前提として寄託金返還債務の引受けに応じたものであるから、本件和解調書と和解時の覚書は、一体のものとみるのが相当である。
ホ 原処分庁は、譲渡したのは本件土地及び建物であり、寄託金返還債務の引受けは本件土地及び建物の売買代金の一部である旨主張する。
 しかしながら、上記のとおり、和解調書と和解時の覚書とは一体のものであって、和解調書に本件譲受権について記載がないからといって、本件譲受権の対価が含まれていないということにはならず、A社は、本件和解により本件土地、建物及び本件譲受権の売買代金の一部として寄託金返還債務を引き受けたと解すべきであるから、原処分庁の主張には理由がない。
ヘ また、原処分庁は、本件譲受権は請求人からA社へ「請求人の地位」として、無償で承継された旨主張する。
 しかしながら、本件譲受権は、前述のとおり、1相当の利益が見込まれること、2本件和解により寄託金返還債務と一体で請求人からA社へ承継されており、対価性があると認められることから、和解時の覚書において金銭の授受について言及していないことをもって地位の承継は無償で行われたとは言い難く、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
ト そこで、本件譲受権の価額についてみると、前記ハのとおり、請求人自身が本件譲受権を行使して譲受予約地を取得して販売した場合の見込粗利益金額は約260,000,000円であるところ、請求人はその価額を約300,000,000円と認識していたことが認められ、また、A社等も、寄託金返還債務151,017,000円を引き受けて本件譲受権を行使した場合に得られる見込利益金額は、当該債務額以上はあるものと認識していたことがうかがわれる。
 したがって、これらのことから、本件譲受権の価額は、少なくとも寄託金返還債務相当額151,017,000円を下回ることはないと認められる。
 そうすると、請求人が本件土地の譲渡代金として確定申告している743,797,785円には、本件土地の対価のほかに、少なくとも151,017,000円を下回ることはない本件譲受権の対価が含まれているものと認められる。
チ また、本件譲受権は、前記イの事由により請求人が区画整理組合から取得した債権と認められ、譲受予約地の場所や買受価額は予定されているものの、あくまで譲受けの予約であってまだ売買契約の締結もなされていないこと等から、土地又は土地の上に存する権利には当たらないものと解される。
リ ところで、措置法第63条第1項の規定によれば、他の者から取得した土地又は土地の上に存する権利で、短期所有土地等に該当するものの譲渡が同法の適用の対象となるところ、本件土地については昭和59年11月に取得し、平成元年8月22日に譲渡していることから、本件土地の譲渡については、同条に規定する譲渡に該当することは明らかである。
 しかしながら、本件譲受権は、上記チで述べたとおり、同条第1項に規定する他から取得した土地又は土地の上に存する権利のいずれにも該当しないから、当該譲受権の譲渡は、同条の土地等の譲渡には当たらないものと認められる。
 したがって、同条の規定の対象となる本件土地の譲渡価額は、確定申告の譲渡価額743,797,785円から前記トで述べた本件譲受権の価額を差し引くと、その取得原価等669,855,359円を上回ることはないことになる。
 以上の結果、本件土地の譲渡に係る利益金額はなく、また、他に措置法第63条の対象となる譲渡利益金額もないことから、同条の対象となる金額はないこととなり、原処分は、その全部を取り消すべきである。

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