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(平5.3.24、裁決事例集No.45 9頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 審査請求人(以下「請求人」という。)は、海運業を営む同族会社であるが、平成元年4月1日から平成2年3月31日までの事業年度(以下「当期」という。)の青色の法人税確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおりの所得金額等を記載して、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 その後、請求人は、平成3年8月22日に同表の「修正申告」欄のとおりの所得金額等を記載した修正申告書を原処分庁に提出した(以下「本件申告」という。)。

(単位:円)
区分 所得金額 納付すべき税額
確定申告 114,250,827 44,259,200
修正申告 336,855,590 138,053,600

 

(2) 本件申告に対し、原処分庁は、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項及び第2項の規定に基づき、平成3年8月30日付で過少申告加算税11,769,500円の賦課決定(原処分)をした。
(3) 請求人は、原処分を不服として、平成3年10月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成4年1月27日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、なお不服があるとして、平成4年2月27日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件申告の原因について
(イ) 確定申告の内容等
A 請求人は、平成元年5月24日、その所有する内航汽船「□□丸」(以下「本件船舶」という。)を○○株式会社に対し代金総額418,446,602円で譲渡しているところ、この代金総額のうち278,300,000円は、いわゆる建造引当権(貨物船等の船腹調整のために現有船の解体等を引き当てとして新船の建造等を認めるという業界の取扱いに基因して、現有船に生じている習慣上の財産権)に係る対価であり、その余が船舶本体に係る対価であった。
B 請求人は、当期の法人税の確定申告(以下「当初申告」という。)に当たり、代替の資産を取得する予定であったため、この代金総額について租税特別措置法(平成2年法律第13号改正前のもの。以下「措置法」という。)第65条の8《特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例》第1項の規定(以下「本件特例」という。)の適用を受けることとし、この場合において、建造引当権についても船舶本体と同様に本件特例の適用があるものとして計算(ただし、本件船舶のほか別件の土地譲渡に係るものも含めた合計額で計算)した損金繰入限度額241,890,097円を基礎として、所得金額を算出していた。
(ロ) 本件申告の内容等
 その後、国税庁においては、建造引当権の税務上の処理に関し、本件特例を適用しない旨、すなわち「船舶」に当たらず「営業権」に当たる旨の取扱いがなされていることを知るに及んだため、請求人は、平成3年8月22日に、本件特例による損金繰入限度額について建造引当権の対価(278,300,000円)を除いたところで再計算し、これを19,285,334円とする(したがって、この金額と当初申告に係る当該金額241,890,097円との差額222,604,763円につき所得金額を増額する)申告書を自発的に提出した。
ロ 通則法第65条第4項又は第5項の適用について
(イ) 本件申告の原因、すなわち建造引当権が本件特例の対象とならない資産であるとしていることについては、法令上に規定がなく、昭和53年7月6日付国税庁長官通達「内航船舶の買換えに伴う建造引当権の取扱いについて」(以下「本件個別通達」という。)により定められているところ、これは、単に課税庁内部の取扱いを定めたものであって、その存在は広く知られておらず、また、請求人も知らなかった。したがって、本件申告は、訂正申告か、又は正当な確定申告に相当するものである。
 ところで、通則法第65条第4項の規定は、修正申告書の提出があった場合に、そのすべてが過少申告であったとはみないための規定であり、過少申告加算税をみだりに課させないための規定であるから、本件申告のような場合には、同項にいう「正当な理由」があると認められる場合に該当する。
(ロ) 仮に、上記に理由がないとしても、請求人は、請求人の法人税調査を担当した職員(以下「調査担当者」という。)が、調査の段階において、建造引当権が本件特例の対象とならない資産である旨の指摘を行っていなかったにもかかわらず、自発的に本件申告を行ったものである。
 したがって、本件申告は、通則法第65条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、適法である。
 請求人の主張は、次のとおり、いずれも理由がない。
イ 通則法第65条第4項の適用について
 通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められる場合とは、納税者の責めに帰することができない外的事情(例えば、災害等)による場合をいうのであり、請求人の主張する本件個別通達を知らなかったことは「正当な理由」には当たらない。
 ちなみに、次の各事実から、請求人は、建造引当権に係る正当な税務処理を認識していたものと思われる。
(イ) 請求人は、本件船舶の売買契約に当たり、その目的物を船舶本体と建造引当権(ただし、契約書には「内航営業引当権利」と記載)とに区別した上で、それぞれの対価の額を定めている。
(ロ) 請求人は、平成3年3月25日に、本件船舶に係る買換え船舶として、××株式会社からその所有に係る内航汽船「△△丸」(請求人においては、A丸と命名)を代金総額750,000,000円で譲り受けているところ、この契約においても、船舶本体と建造引当権(ただし、契約書には「本船の営業権の取扱い価額」と記載)とに区分してそれぞれの対価の額を定めている。
 また、請求人は、平成2年4月1日から平成3年3月31日までの事業年度の法人税の確定申告書において、この建造引当権の対価の額(500,121,359円)については、これが営業権の取得に当たるとして法人税法施行令第48条《減価償却資産の償却の方法》第1項の規定(ただし、第5号該当)により、その全額を一時償却している。
ロ 通則法第65条第5項の適用について
 請求人は、請求人の法人税調査に際し、調査担当者から、当初申告に係る所得金額及び法人税額が過少であるとの指摘を受け、これを認めて本件申告を行ったものであり、通則法第65条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には該当しない。

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3 判断

(1) 通則法第65条第4項の適用について

 請求人は、本件申告が本件個別通達に従ったものであって、このような通達は法令に当たらず、かつ、請求人が不知のものであった旨及びこれらの事由が通則法第65条第4項にいう「正当な理由」に当たる旨主張するので、これについて検討する。
イ 請求人及び原処分庁の各提出資料並びに当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 1P総連合会(以下「総連合会」という。)は、昭和42年12月から昭和44年12月までの間、建造引当権については当事者間の売買代金の授受を認めず、総連合会を通じて対価の授受をさせる「船腹調整交納付金制度」を導入していたが、その後これを廃止し、当事者間の自由な相対取引を認めることにしてから、この建造引当権の税務上の処理について業界における統一した解釈が存在せず、事実上区々の処理がなされていた。2このため、総連合会は、昭和53年6月に、建造引当権の対価について、「営業権として取り扱うこと。従って、これについては任意償却が認められるが、租税特別措置法の規定による船舶の買換えの場合の課税の特例の対象にはならないこと。」として取り扱うことの当否を国税庁に照会し、3国税庁は、同年7月6日付で、総連合会の意見どおりでよい旨を回答するとともに、このように回答している旨を下級庁に通達(本件個別通達)した。4一方、総連合会においても、そのころ傘下の組合連合会に対してこの旨を各組合員に周知するよう伝達した。
(ロ) 上記の結果、組合員間の船舶売買に当たり、船舶本体の対価と建造引当権の対価を区分し、建造引当権の対価について税務上営業権として処理すべきことについては、ほとんど問題がなくなったが、船舶本体と建造引当権のそれぞれに割り当てるべき対価の額については、売主と買主とで意見が異なったり、また、その異なったままで記帳処理することによる税務上の問題等が生じていた。
 そこで、総連合会は、昭和60年8月に文書をもって、船舶の売買に当たり営業権(建造引当権)の対価の額を取り決める場合に、「出来るだけ売主の立場を尊重すること。双方折り合いがつかぬ場合は、総連合会の買上げ価格を目安とすること。また、価格を契約書に記載する等当事者間で差異のないよう」に、組合員の指導をされたい旨を傘下の組合連合会に伝達した。
(ハ) 上記の伝達を受けてS組合連合会(以下「S連合会」という。)は、昭和60年8月21日付文書をもって、S連合会の各役員及び傘下の各組合(地区連合会等)に、上記の趣旨を伝達した。
 この当時、請求人の代表者は、S連合会の役員(理事)であり、また、傘下組合であるT組合の理事長でもあった。
(ニ) 請求人は、平成元年5月24日に本件船舶を売買しているところ、その代金を船舶本体と内航営業引当権利とに区分し、それぞれの金額を買主との間で取り決めている。
 また、請求人は、平成3年3月25日にA丸を買い受けているところ、その代金を船舶本体と本船の営業権の取扱価格とに区分し、それぞれの金額を売主との間で取り決めている。
ロ 上記イの(イ)に認定の事実によれば、本件個別通達は、措置法第65条の7《特定の資産の買換えの場合の課税の特例》第1項に掲げる表の第16号又は17号にいう「船舶」の意義に関して、建造引当権が船舶に当たらないとの解釈を示したもの(解釈通達)とみるのが相当であり、国税庁において法令にない取扱いを新たに定めたものとみることはできない。
 また、建造引当権は、内航海運業界の船腹調整を目的とする自主規制に基因して商慣習上発生した無体財産権の一種であり、これが有体物である船舶と区別してその価値を把握すべきものであることは当然であって、この場合に、営業上の無体財産権一般に用いられる営業権と観念することについても何ら不合理な点はない。
 そうすると、本件個別通達に従った税務処理は、納税者が税法の規定に従って当然になすべき処理と一致しているものであって、本件申告が法令の規定に従ったものでないとする請求人の主張は、この点においてその基礎を失うことになる。
 さらに、上記イの(ロ)ないし(ニ)に認定の事実によれば、請求人は、遅くとも昭和60年8月ころには、建造引当権に関する正当な税務処理を知り得る立場にあり、平成元年5月ころ又は平成3年3月ころ以降には、これを承知していたものと推認することができる。そうすると、これを調査担当者による調査がなされたころまで知らなかったことを前提とする請求人の主張は、この点においてもその基礎を失うことになる。
ハ ところで、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」とは、災害その他納税者の責めに帰することができない真にやむを得ない事由をいうものであり、納税者の法令の不知や誤解はこれに当たらないものと解するのが相当である。
 これを以上の検討内容に照らして判断すると、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは、到底言い難いところである。

(2) 通則法第65条第5項の適用について

 請求人は、調査担当者から本件船舶に係る建造引当権が本件特例の対象とならない資産であるとの指摘を受けていない段階で、自発的に本件申告をしたことが通則法第65条第5項の規定に該当する旨主張するので、これについて検討する。
イ 当審判所の調査の結果によれば、1調査担当者は、平成3年7月23日に請求人の関与税理士に請求人の法人税の調査を行う旨事前通知し、2翌24日に、請求人の本店において請求人の帳簿の検査等を行ったこと、及び、3本件船舶に係る建造引当権の処理についての問答がなされたことが認められるが、4この際に、請求人のした処理ないし計算が本件個別通達による取扱いに反したものであるとの具体的かつ明確な指摘がなされたか否かについては、これを認定するに足りる資料がない。
ロ ところで、通則法第65条第5項の規定は、「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない」場合に適用されるものであり、ここにいう「調査」とは、所得金額の計算の基礎となった事実や法令の解釈適用に係る誤りの個別具体的な指摘を意味するものでなく、これらの有無を確認する目的でする質問、検査等のすべてを意味するもの、すなわち調査全般を指すものと解するのが相当である。
 そうすると、上記イの1及び2の事実をもって、通則法第65条第5項にいう「その申告に係る国税についての調査があったこと」に当たると判断すべきことになる。
 よって、次に、請求人が「当該国税について更正があるべきことを予知して」いたか否かを検討すべきことになるところ、上記イの2及び3の事実、並びに、このころ請求人が建造引当権に係る正当な税務処理を承知していた事実をこれに照らして検討すると、請求人は、平成3年7月24日には、本件申告をしない場合には、原処分庁により当期の法人税の更正がなされるであろうことを当然に予知していたものと推認するのが相当である。したがって、本件申告に先立って調査担当者が本件個別通達に反する旨の明確な指摘をしたか否かにかかわらず、本件申告について、通則法第65条第5項の規定は適用できないことになる。

(3) 原処分のその余の部分については、当事者間に争いはなく、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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