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(平5.3.31、裁決事例集No.45 87頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産賃貸業を営む者であるが、昭和63年分の所得税の確定申告書に、別表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 請求人は、平成2年1月19日に別表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出したところ、原処分庁は、これに対し平成2年4月18日付で過少申告加算税の額を44,000円とする賦課決定をした。
 その後、原処分庁は、平成2年8月28日付で別表の「更正等」欄のとおり更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。
 これに対し、請求人は、本件更正及び本件賦課決定を不服として平成2年10月25日に異議申立てをした。
 次いで、請求人は、平成2年12月28日に昭和63年分の所得税の修正申告書に別表の「再修正申告」欄のとおり記載して提出した。
 異議審理庁は、上記の異議申立てに対し、平成3年6月20日付で、いずれも棄却の決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成3年7月20日に審査請求をした。
 その後、原処分庁は、平成3年12月24日付で別表の「再更正等」欄のとおり再更正(以下「本件再更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定をしたので、これらについてもあわせて審理する。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 譲渡所得について
(イ) 請求人は、昭和43年12月9日の相続により取得したP市R町2421番1外に所在する4筆の宅地(地積合計1,303.13平方メートル、以下「本件従前地」という。)を所有していたところ、本件従前地は、昭和54年4月1日に開始されたP市を施行者(以下「本件施行者」という。)とする○○土地区画整理事業(以下「本件区画整理事業」という。)の施行地区内にあったため、40.19平方メートル部分は採納地として本件施行者に提供されたほか、252.44平方メートル部分は保留地予定地(以下「本件保留地」という。)とされ、これらを除いた1,010.50平方メートル部分を仮換地(以下「本件仮換地」という。)とする指定が昭和61年4月1日に行われた。
 その後、請求人は、本件保留地について昭和63年8月26日付で本件施行者との間の保留地売買契約書に基づき契約代金を14,111,900円とする売買契約(以下「本件保留地売買契約」という。)を締結し、同日引渡しを受けた。
(ロ) ところで、請求人は、株式会社A(以下「A社」という。)との間で本件仮換地と同土地上の建物を昭和63年4月27日に売買価額を363,670,000円とする譲渡契約(以下「本件仮換地譲渡契約」という。)を締結し、更に、本件保留地と同土地上の建物を同年10月6日に売買価額を90,849,000円とする譲渡契約(以下「本件保留地譲渡契約」という。)を締結してそれぞれ譲渡した。
 そして、請求人は、これらの譲渡による所得(以下「本件譲渡所得」という。)について、昭和63年分の分離課税の長期譲渡所得(以下「分離長期譲渡所得」という。)として申告した。
(ハ) ところが、原処分庁は、本件譲渡所得のうち本件保留地の譲渡については、請求人が本件施行者から本件保留地売買契約により新たな土地を取得し、これを譲渡したものであると認定し、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第32条《短期譲渡所得の課税の特例》に規定する分離課税の短期譲渡所得(以下「分離短期譲渡所得」という。)に該当するとして、本件更正及び本件再更正をした。
 しかしながら、次に述べるとおり、原処分庁が本件保留地の譲渡を短期譲渡所得と認定したことは誤りである。
A 市町村が行う土地区画整理事業の換地計画においては、土地区画整理法(以下「整理法」という。)第96条《保留地》第1項で、土地区画整理事業の施行の費用に充てるため等、一定の目的のために一定の土地を換地として定めないで保留地とすることができるとされているが、同法第104条《換地処分の効果》第11項では、施行者が当該保留地を取得するのは、換地処分の公告があった日の翌日であるとされているから、換地処分があるまでは、当該保留地の所有権は施行者にないことは明らかである。
 したがって、本件保留地に所有権を有しない本件施行者が、これを請求人に譲渡することはできないから、本件保留地売買契約は、将来の換地処分を停止条件とする本件保留地の売買予約であり、その実質は使用収益権の停止の解除により使用収益権を取り戻したにすぎないのであり、かつ、ここにいう使用収益権は、いわゆる借地権のように独立した財産権として社会的に認められたものではなく、一般的取引慣行はないものであるから、これをもって請求人が施行者から本件保留地についての新たな財産権を取得したとすることはできない。
 よって、本件保留地譲渡契約は、請求人が本件従前地として本来有していた所有権の譲渡契約であり、分離長期譲渡所得に該当する。
B なお、以下の事実によっても明らかなとおり、本件施行者は、本件保留地に請求人が本来有していた所有権が継続して存在することを認めており、原処分庁がこれを形骸化された名目的な所有権であるとするのは誤りである。
(A) P市土地区画整理事業保留地処分に関する規則(以下「本件規則」という。)第23条《権利譲渡の制限》及び本件保留地売買契約書の第5条には、「買受人は、換地処分に伴う登記が完了するまでは、この契約の権利を第三者に売り渡してはならない。」旨定められているが、請求人は、換地処分に伴う登記完了前に第三者であるA社に本件保留地を譲渡できたこと。
(B) 本件規則では、保留地を取得できる者は、本件施行者の行政区域内に住民登録を有していることが条件とされ、また、たとえ少量といえども土地を所有している者は買う権利がないとされているが、請求人は本件保留地を取得できたこと。
(C) 保留地は、時価に近い価額で公売することとされているにもかかわらず、請求人は本件保留地を施行者から時価の16パーセントの価額で購入したこと。
 なお、原処分庁は、本件保留地を時価より低額で取得できたのは、施行者が本件保留地上に存在していた建物等の移転補償等を考慮して売買価額を決定したためであるとするが、当該建物等の移転補償等は以下のとおりであり、本件保留地の売買価額の算定に大きく影響を及ぼした事実はない。
a 請求人所有の建物の一部が本件保留地と本件採納地にはみ出していたが、昭和62年2月25日付で本件施行者との物件移転等補償契約により直ちに取り壊し、その補償金として同年4月6日に603,930円を受領したに過ぎないこと。
b 本件保留地売買契約の締結時に、請求人が代表者である株式会社B(以下「B社」という。)所有の物置が本件保留地と本件採納地にまたがり存在していたが、昭和63年10月31日付でB社は、本件施行者との移転等補償契約により、直ちに取り壊してその補償金として同年11月14日に1,668,610円を受領したに過ぎないこと。
c 本件保留地上のC男所有の建物は、昭和62年12月21日に取り壊されており、その取壊代金は本件施行者からC男に支払われていること。
C 本件保留地は、整理法には規定されていないが、本件仮換地に付着したいわゆる付保留地と呼ばれる特殊なもので、次のとおり、一般の保留地とは異なる。
(A) 請求人は、本件保留地の買受け希望を、本件仮換地の指定通知日に先立って行っていること。
(B) 本件保留地の権利移動は、本件従前地の権利移動として行われていること。
(C) 請求人が、本件保留地を本件仮換地に付けてA社に譲渡するに当たっての本件保留地の名義変更には、本件仮換地を譲渡したことを明らかにするため本件仮換地に係る登記簿上の名義変更を行い、施行者に提出しその承認を受ける必要があったのに対して、一般の保留地の場合には印鑑証明書のみが添付書類となる。
ロ 分離長期譲渡所得の金額について
 上記のとおり、本件保留地の譲渡は分離長期譲渡所得に該当するから、請求人の本件譲渡所得は、その全部が分離長期譲渡所得であり、譲渡資産を事業用と非事業用に区分して措置法第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》第1項及び所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第2項の規定を適用して分離長期譲渡所得の金額を算定すれば、次表のとおり214,861,170円となる。
 なお、本件保留地売買契約書に添付した印紙代20,000円は、譲渡所得の計算上取得費となり、また、請求人が本件保留地の使用収益権の停止の解除の対価として本件施行者に支払った金額14,111,900円及び本件保留地の譲渡契約書に添付した印紙代60,000円は譲渡費用となるものである。

(単位:円)
区分
項目
事業用 非事業用 合計額
譲渡価額 1 411,688,000 42,831,000 454,519,000
取得費 2 20,584,400 2,141,550 22,725,950
譲渡費用 3 9,935,609 14,798,251 24,733,860
買換資産の取得価額 4 219,689,911 219,689,911
収入金額(14×0.8) 5 235,936,071 42,831,000 278,767,071
保証債務額 6 25,791,926 2,683,329 28,475,255
必要経費(23)×(5÷1 7 17,490,845 16,939,801 34,430,646
特別控除額 8 1,000,000 1,000,000
分離長期譲渡所得の金額(5678 192,653,300 22,207,870 214,861,170

 

ハ 納付すべき税額について
 請求人の不動産所得の金額及び上記ロによる分離長期譲渡所得の金額から所得控除の額を差し引いた課税長期譲渡所得の金額に措置法第31条の2《優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第3項の規定を適用して請求人の納付すべき税額を算定すると、次表のとおり42,647,200円となり、本件再更正による納付すべき税額は過大となるから、本件再更正の一部は取り消されるべきである。

(単位:円)
項目 金額
不動産所得の金額 352,050
分離長期譲渡所得の金額 214,861,170
所得控除の額 1,976,460
課税長期譲渡所得の金額 213,236,000
納付すべき税額 42,647,200

 

ニ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件再更正は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い本件更正に係る過少申告加算税の賦課決定もその一部を取り消すべきである。
 なお、再更正に係る過少申告加算税の賦課決定については、争わない。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は次の理由により適法である。
イ 譲渡所得について
(イ) 本件保留地売買契約書の第3条によれば、本件施行者は、契約代金の全額の納付を受けたときは、本件保留地を請求人に引き渡すとともに、請求人に使用させる旨が、及び第4条第1項によれば、本件保留地の所有権は、整理法第103条《換地処分》第4項の公告のあった日の翌日に移転する旨がそれぞれ定められていることから、本件保留地売買契約は、本件施行者が原始取得した本件保留地に係る使用収益権を請求人に与えるとともに、将来換地処分の公告がなされることを停止条件とする保留地所有権の譲渡契約であると認められる。
(ロ) ところで、整理法第99条《仮換地指定の効果》第1項の規定によれば、仮換地の指定があった場合には、従前の宅地を権原に基づき使用又は収益をすることができた者は、当該仮換地を、仮換地の指定の効力発生の日から換地処分の公告がある日まで使用又は収益をすることができるものとされ、従前の宅地についての使用又は収益をすることができないものとされている。
 したがって、土地区画整理事業に伴い仮換地の指定があった場合には、従前の土地については使用収益権が停止され、継続的に有していたとする権利は形骸化された名目的な所有権となる。
(ハ) よって、本件保留地は、仮換地の指定の効力発生の日である昭和61年4月10日から施行者が使用収益権を有することとなり、独立して取引の対象となるべき財産的価値が認められるところ、請求人は、当該権利を昭和63年8月26日に施行者から取得し、昭和63年10月6日にA社に対し譲渡していることが認められるから、当該譲渡は分離短期譲渡所得に該当する。
 なお、請求人が本件保留地売買契約に基づき本件保留地を時価より低額で取得できたのは、施行者が本件保留地上に存在していた建物等の移転補償等を考慮して売買価額を決定したためである。
ロ 分離譲渡所得の金額について
 請求人は、本件従前地を昭和43年12月9日に相続により取得していることから、本件仮換地譲渡契約に基づく譲渡は分離長期譲渡所得となるが、前記イの(ハ)により本件保留地譲渡契約に基づく譲渡は、分離短期譲渡所得となる。
(イ) 分離長期譲渡所得の金額
A 譲渡価額
 本件仮換地の譲渡価額は、363,670,000円である。
B 取得費
 措置法(昭和63年法律第4号による改正前のもの)第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》の規定により、上記Aの譲渡価額に5パーセントを乗じて算出した金額18,183,500円である。
C 譲渡費用
 請求人が譲渡費用として確定申告書に記載した金額40,753,860円から、分離短期譲渡所得に係る本件保留地の取得費14,111,900円、昭和56年12月17日にD男に支払った譲渡担保抹消料16,000,000円及び本件保留地売買契約書に添付された印紙代20,000円並びに本件保留地譲渡契約書に添付された印紙代60,000円の合計金額30,191,900円を控除した金額10,561,960円である。
D 買換資産の取得価額
 買換資産の取得価額は、次の(A)、(B)及び(C)の合計金額219,689,911円である。
(A) S市T町3丁目3番14所在の建物275.6平方メートルの取得価額185,080,000円
(B) P市U町1丁目534所在のマンション(建物部分)55.47平方メートルの取得価額25,271,050円
(C) P市W町2丁目1番3外所在のマンション(建物部分)74.23平方メートルの持分の2分の1の37.115平方メートルの取得価額20,601,000円のうち、事業用の部分9,338,861円
E 保証債務額
 昭和63年6月8日及び同年7月19日の2回にわたり請求人が保証債務として履行した額のうち、求償権の行使が不能と認められる金額28,475,255円である。
F 分離長期譲渡所得の金額
 以上により、分離長期譲渡所得の金額を算出すれば、次表のとおり144,589,264円となる。
(ロ) 分離短期譲渡所得の金額
A 譲渡価額
 本件保留地譲渡契約に基づく譲渡価額は、90,849,000円である。
B 取得費
 本件保留地の取得費は、本件保留地売買契約に基づく取得価額14,111,900円に、同契約書に添付された印紙代20,000円を加算した14,131,900円である。
C 譲渡費用
 譲渡費用は、本件保留地譲渡契約書に添付された印紙代60,000円である。
D 分離短期譲渡所得の金額
 以上により、分離短期譲渡所得の金額を算出すれば、次表のとおり76,657,100円となる。

(単位:円)
区分
項目
分離長期譲渡所得金額 分離短期譲渡所得金額
譲渡価額 1 363,670,000 90,849,000
取得費 2 18,183,500 14,131,900
譲渡費用 3 10,561,960 60,000
買換資産の取得金額 4 219,689,911
収入金額(14×0.8) 5 187,918,071 90,849,000
保証債務額 6 28,475,255
必要経費(23)×(5÷1 7 14,853,552 14,191,900
譲渡所得金額(567 8 144,589,264 76,657,100

 

ハ 納付すべき税額について
 請求人の不動産所得の金額及び上記ロによる分離長・短期譲渡所得の金額を基に昭和63年分の所得税に係る納付すべき税額を算出すれば、次表のとおり68,318,900円となり、当該金額は本件再更正を経た後の額と同額であるから、本件再更正は適法である。

(単位:円)
項目 金額
不動産所得の金額 1 352,050
分離短期譲渡所得の金額 2 76,657,100
分離長期譲渡所得の金額 3 144,589,264
所得控除の額 4 1,976,460
課税総所得金額(14 5 0
課税分離短期譲渡所得の金額2−(41 6 75,032,000
課税分離長期譲渡所得の金額 7 144,589,000
納付すべき税額 8 68,318,900

(注)課税分離短期譲渡所得の金額欄及び課税分離長期譲渡所得の金額欄の金額は、1,000円未満の端数を切り捨てた金額である。以下同じ。

 

ニ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件更正及び本件再更正はいずれも適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき平成2年8月28日及び平成3年12月24日付で過少申告加算税を賦課決定したものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件保留地に係る譲渡所得が分離長期譲渡所得又は分離短期譲渡所得のいずれであるかにあるので、以下審理する。

(1) 譲渡所得について

イ 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ) 請求人は、昭和63年8月26日に本件施行者との間で本件保留地売買契約を締結し、その契約代金は14,111,900円であること。
(ロ) 請求人は、昭和63年10月6日にA社との間で本件保留地譲渡契約を締結し、その売買価額は90,849,000円であること。
ロ 本件保留地売買契約書によれば、請求人と本件施行者との本件保留地の売買契約に関しては、次のとおり定めていることが認められる。
(イ) 本件施行者は、本件保留地を契約代金で売り渡し、請求人はこれを買い受けるものとすること。
(ロ) 本件施行者は、契約代金の全額の納付を受けたときは、本件保留地を請求人に引き渡し、請求人に使用させるものとすること。
(ハ) 本件保留地の所有権は、整理法第103条第4項の換地処分の公告のあった日の翌日に請求人に移転するものとし、その移転登記は、整理法第107条《換地処分に伴う登記等》第2項の規定による換地処分に伴う登記完了後に本件施行者が行うものとすること。
(ニ) 本件保留地の引渡し後は、本件保留地に賦課された公租公課は、すべて請求人の負担とすること。
ハ 本件施行者の土地区画整理事業に係る保留地の処分について定めた本件規則によれば、次のとおりであると認められる。
(イ) 保留地の処分には、公売、抽せんのほか随意契約によるものがあること。
(ロ) 保留地の所有権の移転の登記は換地処分に伴う登記が完了した後に本件施行者が行うものとすること。
(ハ) 買受人は、売買契約の締結後換地処分による登記が完了するまでの間は、当該売買契約により取得した保留地に係る権利を第三者に譲渡することができないが、本件施行者が特別の理由があると認めたときは、この限りではないこと。
(ニ) 上記(ハ)により、買受人が権利を譲渡しようとするときは、売買契約名義人変更承認願を施行者に提出し、その承認を受けなければならないこと。
ニ 本件施行者の本件区画整理事業の担当者は、当審判所に対し次のとおり答述している。
(イ) 本件保留地は、仮換地に付随して本件区画整理事業の計画当初から従前地の所有者に買い取ってもらうことを前提として設けられた付保留地に該当すること。
(ロ) 付保留地の買取希望は、従前の土地所有者に優先的に行われるものであり、当該保留地の売れ残りを防ぎ、かつ、土地区画整理事業の費用の捻出のために、一般の保留地の公売価格よりは低額となること。
(ハ) 本件保留地上には、本件区画整理事業の計画時に建物が建っていたので、一般の保留地とはできなかったこと。
(ニ) 一般の保留地は、P市に住所を有しない者は購入することはできないが、本件保留地の場合は、住所を有していなくても請求人が優先的に買い取る権利があったこと。
(ホ) 一般の保留地も付保留地も換地処分の公告があるまでは原則として第三者に転売できないが、その間仮換地が他に譲渡され付保留地だけが残されることを防ぐため、仮換地とともに譲渡する場合に限り付保留地の第三者への転売を認めていること。
(ヘ) 付保留地の価格は評価委員会で決定されるが、建物補償、営業補償等の要素が考慮され、本件保留地には、建物が建っていたので価格が低く設定されていたこと。
(ト) 付保留地の売買価格の算定に当たっては地域ごとに倍率が定まっており、本件保留地の価格は、区画整理によって算定された金額の0.3倍とされ、昭和63年8月19日に決定されたこと。
(チ) 本件施行者により仮換地及び付保留地の指定がなされたとしても、換地処分の公告がなされる以前においては、従前地の不動産登記簿に権利変動等の表示はなされないこと。
(リ) 本件区画整理事業の換地処分の公告は、将来に予定されていること。
ホ 請求人及び原処分庁が当審判所に提出した資料並びに審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件施行者は、昭和58年1月12日付の「付保留地の買受希望申込みについて」により請求人に対し付保留地の買受希望の有無についての照会をなしており、請求人は、同年1月25日付で買受けを希望する旨の回答書を提出していること。
(ロ) 請求人は、本件保留地が処分される際には指定された価格で買い受けたい旨が記載された「保留地買受希望申込書」を昭和61年2月13日付で本件施行者に提出していること。
(ハ) 本件施行者による昭和61年4月1日付の請求人に対する仮換地指定通知によれば、本件従前地の宅地(5筆)の地積の合計1,303.3平方メトールに対し本件仮換地として指定された宅地の地積は、1,010.50平方メートルであり、本件従前地の地積に対し約22.5パーセントが減歩されていること。
(ニ) 本件区画整理事業の第三回事業計画変更書によれば、本件区画整理事業の施行地区全体における整理施行前の地積と換地処分後の地積の対比では、約20パーセントが減歩されると見込まれること。
(ホ) 請求人は、昭和63年4月27日にA社との間で本件仮換地を売買価額363,670,000円で売却することとする本件仮換地譲渡契約を締結したこと。
 なお、当該契約書の特約条項によれば、請求人は本件施行者より本件保留地の払下げを受け、A社に売却することを約していること。
(ヘ) 本件施行者の請求人に対する昭和63年8月26日付の保留地売却決定通知書によれば、本件区画整理事業施行区の121ブロック2号に所在の本件保留地を価格14,111,900円で売り渡すことが通知されていること。
(ト) 請求人は、昭和63年8月26日に本件保留地売買契約による代金14,111,900円を支払っていること。
(チ) 請求人は、本件保留地譲渡契約により、譲渡代金と引き換えに、本件保留地の引渡し及び前記ハの(ニ)による本件施行者に対する本件保留地売買契約の名義人変更届出手続の書類の交付をすることとされていること。
 なお、請求人は、A社から同年10月7日及び19日に代金全額を受領していること。
(リ) 本件仮換地及び本件保留地にあたる本件従前地の宅地(5筆)の登記簿謄本によれば、昭和63年10月7日受付により売買を原因として請求人からA社に所有権の移転登記がなされていること。
(ヌ) 本件施行者は、昭和63年10月21日付で本件保留地売買契約の名義人を売買を理由に請求人からA社へ変更することを承認していること。
ヘ ところで、請求人は、本件保留地に係る譲渡は請求人が従来から有していた所有権の譲渡であり、本件保留地売買契約によって本件施行者から新たに取得した権利を譲渡したものではない旨主張するので審理する。
(イ) 整理法第96条第1項には、施行者は土地区画整理事業の換地計画において、その施行費用に充てる等のため、一定の土地を仮換地として指定せずに保留地として指定することができる旨規定されており、同法第99条第1項により従前地の所有者は、仮換地として指定されなかった保留地を使用収益することができないとされている。
 そして、整理法第100条の2《仮換地に指定されない土地の管理》により施行者は、換地処分の公告があるまでは当該保留地を管理できるとされており、さらに同法第104条第9項において施行者は換地処分の公告の翌日に当該保留地の所有権を取得するとされている。
(ロ) 前記イないしホのことから判断すれば、本件保留地については、次のとおりであると認められる。
A 本件区画整理事業において、請求人の本件従前地に対する換地相当分として本件仮換地が指定されたものであり、本件従前地の地積に比して約22.5パーセント減少しているが、計画によれば、本件区画整理事業施行区全体における減少率も20パーセントであるから、本件保留地は、本件仮換地を補てんする目的で保留地とされたものではなく、いわゆる減歩されたものであり、一般の保留地と何ら異なるものと解されるものではないこと。
B 本件保留地は、請求人の買受希望の申出により請求人が買い受けることを前提に付保留地とされたものと認められ、仮に買受希望がなかったとした場合は付保留地には指定されなかったと見込まれること。
C 本件保留地は、仮換地に指定されても、換地処分の公告前において本件従前地の所有者の移転はないが、従前地の所有者たる請求人が本件保留地を譲渡するときは、本件施行者と本件保留地売買契約を締結しなければならないこと。
D 施行者は仮換処分の公告があった日の翌日に当該保留地を取得するとされていることからすれば、仮に請求人が本件保留地売買契約の締結をなさなかったとした場合には、本件保留地の所有権は、最終的には本件施行者が取得することとなると見込まれること。
(ハ) そうすると、仮換地指定の効力発生の日以後換地処分の公告の日以前における本件施行者による本件保留地の売買契約は、本件施行者が有する本件保留地の使用収益権の譲渡契約であるとともに、換地処分の公告による本件保留地の所有権の取得を停止条件とする所有権の譲渡契約であると解される。
 譲渡所得の基因となる資産は、法律に定めがあるものを除き、たな卸資産、山林及び金銭債権以外の一切の資産をいい、当該資産には、行政官庁の許可、認可、割当て等により発生した事実上の権利も含まれると解されるところ、使用収益権は譲渡所得の基因となる資産に該当し、取引の対象となるべき財産的価値を有するものである。
 また、保留地の所有権は換地処分の公告があるまでは従前地の所有者にあるとはされているが、上記のことからすれば、実質的には、当該所有権は、実体のない形骸化したものに過ぎず、本件保留地売買契約によって初めて実体を伴った権利を取得したものと認められるから、請求人は本件保留地売買契約によって本件施行者から新たに本件保留地に係る権利を取得したものと解するのが相当である。
(ニ) よって、本件保留地の譲渡は、請求人が本件保留地売買契約によって新たに取得した権利の譲渡であり、請求人が従来から有していた所有権を譲渡したものであるとは認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 請求人は、換地処分前に本件保留地をA社に譲渡できたこと、本件施行者の行政区域内に住民登録がなく及び土地を所有しているにもかかわらず本件保留地を取得できたこと、並びに時価の16パーセントの価格で購入できたことから、本件留保地に請求人が本来有していた所有権が継続して存在することを本件施行者が認めており、原処分庁がこれを形骸化した名目的な所有権とするのは誤りであり、請求人は、本件施行者から新たな土地を取得してこれを譲渡したものではない旨主張する。
 しかしながら、1本件施行者は、特別の理由があると認めたときは換地処分の登記以前においても保留地の第三者への譲渡を認めており、本件保留地の譲渡も本件施行者の承諾を得たものであること、2本件保留地は、その売れ残りを防ぎ、かつ、土地区画整理事業の費用の捻出のために、一般の保留地の公売価格よりは低額としたこと、3本件保留地上には、本件区画整理事業の計画時に請求人等の建物が存在したこと、4請求人の買受希望があること、5保留地は、換地処分の公告の翌日に施行者が取得するとされているから、請求人が本件保留地売買契約を締結することなくしては、本件保留地を取得したとはいえず、A社に譲渡することもできなかったものであること等から判断すれば、請求人が本件保留地に有している権利は、事実上の期待権にすぎず、従前の所有に何ら起因するものとは認められないから、請求人は、本件保留地売買契約によって本件施行者から本件保留地の所有権を取得して、これを譲渡したものであると解するのが相当である。
 よって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
チ 請求人は、本件保留地は整理法には規定されていないが、本件仮換地に付着したいわゆる付保留地と呼ばれる特殊なもので、一般の保留地とは異なっており、本件保留地譲渡契約は単独では実行できなかったものであるから、本件仮換地と同様に扱われるべきである旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、1仮換地とともに譲渡する場合に限り第三者への転売が認められるのは、換地処分の公告までの間に仮換地のみが譲渡されて保留地のみが残されることを防止するためであるとされていること、2仮換処分の公告後においては、転売するに際し制限はないこと等からすれば、本件仮換地とともに転売する制限がなされていたとしても、換地処分の公告までの間のことであって、本件保留地と本件仮換地は別個のものであるとするのが相当であるから、本件保留地は本件仮換地と同様に扱うことはできないと認められる。
 よって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
リ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、請求人は本件保留地売買契約により昭和63年8月26日に本件施行者から取得した本件保留地に係る権利を昭和63年10月6日にA社に譲渡したものであり、措置法第32条第3項に規定する所有期間が5年以下であるものの譲渡に該当するから、本件保留地の譲渡による所得は、措置法第32条第1項に規定する分離短期譲渡所得の金額に該当する。

(2) 譲渡所得の金額について

 請求人の本件譲渡所得については、上記(1)により本件保留地に係る譲渡所得は、分離短期譲渡所得となり、本件仮換地に係る譲渡所得は、請求人が本件従前地を昭和43年12月9日に相続により取得していることが認められるから分離長期譲渡所得となる。
 そこで当審判所は、原処分庁が算定した本件譲渡所得の金額について、以下審理する。
イ 分離長期譲渡所得の金額
(イ) 収入金額
 原処分庁は、本件仮換地の譲渡価額を本件仮換地譲渡契約に基づく譲渡価額と同額の363,670,000円と算定しているところ、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ロ) 取得費
 原処分庁は、取得費を措置法第31条の4の規定により、上記(イ)の譲渡価額363,670,000円に5パーセントを乗じて18,183,500円と算定しているところ、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ハ) 譲渡費用
 原処分庁は、譲渡費用を、請求人が譲渡費用として確定申告書に記載した金額40,753,860円から、昭和56年12月17日に支払ったD男に対する譲渡担保抹消料16,000,000円、本件保留地売買契約により本件施行者に支払った14,111,900円及び当該契約書に添付した印紙代20,000円並びに本件保留地の譲渡契約書に添付した印紙代60,000円の合計30,191,900円は、長期譲渡所得の譲渡費用には該当しないとして控除し10,561,960円と算定しているところ、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ニ) 買換資産の取得価額
 措置法第37条第1項による買換資産の取得価額は、次のAないしCの合計額219,689,911円であることに請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
A S市T町3丁目3番14所在の建物275.6平方メートルの取得価額185,080,000円
B P市U町1丁目534所在のマンション(建物部分)55.47平方メートルの取得価額25,271,050円
C P市W町2丁目1番3外所在のマンション(建物部分)74.23平方メートルの持分2分の1の取得価額20,601,000円のうち事業用と認められる部分の取得価額9,338,861円
(ホ) 保証債務額
 請求人が保証債務の履行として本件仮換地の譲渡代金から昭和63年6月8日及び同年7月19日に弁済した28,475,255円が所得税法第64条第2項に該当することについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ヘ) 分離長期譲渡所得の金額
 以上の結果、請求人の分離長期譲渡所得の金額は、次表のとおりとなる。

(単位:円)
項目 金額
譲渡価額 1 363,670,000
取得費 2 18,183,500
譲渡費用 3 10,561,960
買換資産の取得価額 4 219,689,911
収入金額(14×0.8) 5 187,918,071
保証債務額 6 28,475,255
必要経費(23)×(5÷1 7 14,853,552
分離長期譲渡所得の金額(567 8 144,589,264

 

ロ 分離短期譲渡所得の金額
(イ) 収入金額
 原処分庁は、本件保留地の収入金額を本件保留地譲渡契約に基づく譲渡価額と同額の90,849,000円と算定しているところ、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ロ) 取得費
 原処分庁は、本件保留地の取得費を、本件保留地売買契約により支払った14,111,900円と当該契約書に添付した印紙代20,000円の合計14,131,900円と算定しているところ、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ハ) 譲渡費用
 原処分庁は、本件保留地の譲渡費用を、本件保留地譲渡契約の契約書に添付した印紙代60,000円と認定しているところ、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ニ) 分離短期譲渡所得の金額
 以上の結果、請求人の分離短期譲渡所得の金額は、次表のとおりとなる。

(単位:円)
区分
項目
金額
収入金額 1 90,849,000
取得費 2 14,131,900
譲渡費用 3 60,000
分離短期譲渡所得の金額(123 4 76,657,100

(3) 納付すべき税額について

 請求人の不動産所得の金額並びに上記(2)による分離長期譲渡所得の金額及び分離短期譲渡所得の金額を基に、課税分離長期譲渡所得の金額及び課税分離短期譲渡所得の金額を算定し、措置法第31条第3項の規定を適用して昭和63年分の所得税に係る納付すべき税額を算出すれば、次表のとおり68,318,900円となり、当該金額は、本件再更正に係る納付すべき税額と同額となるから本件再更正は適法である。

(単位:円)
項目 金額
不動産所得の金額 1 352,050
分離短期譲渡所得の金額 2 76,657,100
分離長期譲渡所得の金額 3 144,589,264
所得控除の額 4 1,976,460
課税総所得金額(14 5 0
課税分離短期譲渡所得の金額 2−(41 6 75,032,000
課税分離長期譲渡所得の金額 7 144,589,000
納付すべき税額 8 68,318,900

(4) 過少申告加算税の賦課決定について

 以上のとおり、本件更正及び本件再更正はいずれも適法であり、また請求人には修正申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を修正申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした平成2年8月28日付及び平成3年12月24日付の過少申告加算税の賦課決定は、いずれも適法である。

(5)その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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