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(平5.6.18、裁決事例集No.45 132頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 本件審査請求に至る経緯は、次のとおりである。

(1) 本件確定申告書提出の経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成元年4月17日、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第37条の11《上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離選択課税》第1項の規定(以下「本件特例」という。)の適用を受けるため、「上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離課税の選択申告書」をA證券株式会社(以下「A證券」という。)を経由して当時の納税地を所轄するB税務署長に提出した。
ロ 請求人は、平成2年中にA證券を通じて、別表1の「本件各取引」欄に記載のとおりの信用取引による株式の各売買(以下「本件各取引」という。)を行い、A證券は、同表の「源泉徴収税額等」欄に記載のとおり、本件各取引のうち譲渡利益金額が生じたもの5件について、それぞれ、譲渡利益金額の100分の20に相当する所得税を源泉徴収して、これらを国に納付した(以下、これら源泉徴収税額の合計821,657円を「本件源泉徴収税額」という。)。
ハ 請求人は、平成3年3月15日、本件特例の適用を受けている場合においても、本件特例に係る所得の範囲内では年間の損益通算ができることを前提として、別表2の「確定申告」欄に記載のとおり計算した平成2年分の所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)をB税務署長に提出した。

(2) 原処分及び不服申立ての経緯

イ B税務署長は、平成3年7月9日付で、本件源泉徴収税額は源泉分離課税の効果により確定申告書に記載できる源泉徴収税額には当たらないから、別表2の「更正」欄に記載のとおり計算した税額が正当であるとして、本件確定申告書に係る納付すべき税額を更正(以下「本件更正」という。)するとともに、本件更正により納付すべき税額821,600円を基礎として計算した過少申告加算税86,000円の賦課決定をした(以下「本件賦課決定」という。)。
ロ 請求人は、平成3年9月6日、本件更正及び本件賦課決定(各原処分)を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月8日付で、いずれも棄却する旨の異議決定をし、この謄本は、同月14日に請求人に送達された。
 請求人は、異議決定を経た後の各原処分になお不服があるとして、平成3年12月12日に本件審査請求に及んだものである。
 なお、請求人は、平成4年3月6日、その納税地をP市R町86番地の51から現在地に変更したため、以後、請求人の所得税の納税地を所轄する税務署長は○○税務署長となっている。

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2 主張

(1) 請求人の主張

イ 本件更正について
 次の理由により、請求人には、本件各取引に基因して納付すべき、又は源泉徴収されるべき所得税額がないから、本件確定申告書の内容は正当である。
 したがって、これが誤っているものとしてなされた本件更正は、その全部を取り消すべきである。
(イ) 本件特例の解釈について
 本件特例は、「他の所得と区分し、その上場株式等の譲渡による譲渡利益金額に対し百分の二十の税率を適用して所得税を課する。」と規定するが、ここにいう「譲渡利益金額」について、措置法は、個々の譲渡に係る損益金額に限ることまでは規定していないのであるから、納税者に有利なように年間を通じての損益金額を含めて解すべきである。また、ここにいう「所得税を課する。」について、この文言を課税関係を確定的に終了させるという意味にまで解するのは相当でない。
 したがって、本件特例に係る譲渡所得の金額及び所得税額に関して、少なくとも当該所得金額の相互間でする年間損益の通算は許されるものと解し、この場合において当該金額が赤字(損失額)となるときは、その赤字額についてする他の所得金額との通算に限り、これを許さないものと解するのが相当である。
 ところで、請求人は、本件各取引により平成2年中に10,812,060円の損失を被っているから、以上の解釈により、請求人の同年分の譲渡利益金額及びこれに対する所得税額は、いずれも零円が正当である。
(ロ) 本件通達について
 原処分庁は、本件特例の適用を受けた場合の税法上の効果について、平成元年3月28日付国税庁長官通達「租税特別措置法に係る所得税の取扱い《源泉所得税関係》について」(以下「本件通達」という。)の37の11ー10《源泉分離選択課税の適用を受けた場合の効果》で準用する本件通達の3ー1《源泉分離課税の効果》の(2)において、「源泉徴収された所得税の額は、確定申告書を提出して所得税法第120条《確定所得申告》第1項第3号に掲げる所得税の額から控除することはできない。」と定められていることを解釈上の根拠にして本件更正をしているのであるが、本件通達は、損失が生じ得ない利子所得についての取扱いを、損失が生じ得る株式等の譲渡所得についての取扱いに準用している点で、明らかに不当な解釈を示すものである。
(ハ) 法的根拠の説明について
 原処分に係る調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)は、本件更正に先立って請求人と面接した際に、本件更正の法的根拠について的確な説明をしなかった。
 また、原処分に係る異議審理を担当した職員(以下「異議担当職員」という。)は、異議審理中に請求人に対して、本件更正の法的根拠について請求人が納得できるような説明をしなかった。
 これらの行為は、いずれも不当であり、本件更正を違法とするに足りるものである。
ロ 本件賦課決定について
 以上のとおり、本件更正により納付すべき税額は、その全部を取り消すべきものであるから、本件賦課決定は、その全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、いずれも適法である。
 請求人の主張は、次のとおり、いずれもその理由がない。
イ 本件更正について
(イ) 本件特例の解釈について
 措置法第37条の11第2項は、譲渡利益金額に係る所得税の源泉徴収を行う時期について「当該上場株式等の譲渡の対価の支払をする際」と規定しているのであるから、本件特例にいう「譲渡利益金額」とは、その対価の支払がなされる個々の譲渡に係る譲渡利益金額をいうものと解すべきである。
 また、本件特例は、所得税法第22条《課税標準》及び同法第89条《税率》並びに措置法第37条の10《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》の規定にかかわらず、他の所得と区分して譲渡利益金額の20パーセントに相当する所得税を課する旨規定しているのであるから、本件特例にいう「所得税を課する」とは、本件特例に係る譲渡所得等に対する所得税と総所得金額に対する所得税とは、これを切り離して、それぞれの課税関係を確定的に終了させる趣旨に解すべきである。
 したがって、本件確定申告書において、所得税法第120条第1項第3号に掲げる所得税の額から本件源泉徴収税額を控除していることは誤りである。
(ロ) 本件通達について
 本件通達の37の11ー10は、措置法第37条の11の正当な解釈を示したものである。
 したがって、本件更正の内容は、措置法第37条の11の規定に適合しているものである。
(ハ) 法的根拠の説明について
 調査担当職員及び異議担当職員は、いずれも、請求人に対し法的根拠について説明したが、請求人の理解が得られなかったものである。
 しかし、これらの事実は、原処分の効力とは何ら関係がないものである。
ロ 本件賦課決定について
 以上のとおり、過少申告加算税の額の計算の基礎になっている所得税額は正当であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由が存する部分もないから、同条第1項及び第2項に基づいて行った本件賦課決定は正当である。

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3 判断

(1) 本件更正について

イ 本件特例の解釈について
 請求人は、本件各取引に係る所得税として、本件源泉徴収税額は確定的なものでなく、それらの年間損益を通算した譲渡利益金額を課税標準とする確定申告ができるものである旨主張し、その根拠として、本件特例の文言をもってしては、本件特例の適用を受ける所得につきその相互間でする損益の通算を禁じているとまではいえないから(すなわち、その旨の明文の規定がないから)、納税者に有利なように、これを許す趣旨に解すべき旨主張するので、この点について、多角的に順次検討する。
(イ) 所得税法による源泉徴収制度一般について
A 所得税法は、所得税の納税義務(実体規定により当然に生じている暦年の所得税額をいう。以下同じ。)が申告納税制度によって適正に履行されるべきことを基礎としつつ、一定の場合(すなわち、所得税法第4編に規定する場合)には、その所得の基因となる対価の支払者(源泉徴収義務者)が、その支払の際に、当該対価の金額を基礎として一定の方法により計算した「徴収すべき所得税の額」を徴収(天引き)し、これを一定の期限までに国に納付させるという制度、すなわち源泉徴収制度を設けている。
B ところで、所得税の課税標準(ただし、原則)について、所得税法第22条は、納税義務者の暦年ごとの1総所得金額、2退職所得金額及び3山林所得金額であるとしており、かつ、これらに適用する税率については同法第89条に規定するとおり、いわゆる超過累進方式が採用されている。
 そうすると、所得税の納税義務に対して、源泉徴収により履行された所得税額に過不足が生じ得ることは、制度上当然に予想されることとなり、これに対処すべく所得税法は、1納税義務者が確定申告書を提出して過不足額の精算を行う(具体的には同法第120条、第122条及び第123条に規定する)方法と2源泉徴収義務者(ただし、給与所得の場合に限る。)が同法第190条以下に規定する年末調整により過不足額の精算を行う方法をそれぞれ設けている。
C 以上のように、所得税の納税義務は、まず概算、前払的性格をもつ源泉徴収制度によってその全部又は一部が履行され、次いで確定申告書の提出等により適正な納税義務が履行されるのであるが、源泉徴収に係る法律関係を租税債権債務関係として検討した場合には、次のような特徴が認められるのである。
 すなわち、所得税法が源泉徴収により履行を求める所得税額(同法が「徴収すべき所得税の額」と規定する金額)については、源泉徴収義務者が現実にこれを徴収し又は納付したか否かにかかわらず、納税義務者は当該「徴収すべき所得税の額」に相当する金額の納税義務を履行したものとして税法上の処理が行われる(すなわち、所得税法第120条第1項第5号などの関連規定が設けられている)のである。
 したがって、源泉徴収に係る所得税については、原則として、国と源泉徴収義務者の間でのみ租税債権債務関係を生じ(したがって、「徴収すべき所得税の額」の不履行等に対する加算税、延滞税等も源泉徴収義務者に対して課される。国税通則法第2条第5号、第60条第1項第5号及び第67条第1項。)、納税義務者は、源泉徴収義務者との関係において、源泉徴収を受認すべき義務を負うにとどまり、別段の規定がない限り、国との関係では租税債権債務の当事者とはならないのである。
D 源泉徴収に係る租税債権債務関係について上記のような構成を採用している限り、その関係に納税義務者を介在させようとするときには、格別の規定を要することになる。
 そこで、所得税法は、前記Bで述べたとおり、納税義務者は、精算のための確定申告書を提出できる旨を規定するとともに、その確定申告書に係る「納付すべき税額」又は「還付を受くべき金額」の計算に当たり控除することができる源泉徴収税額について、同法第120条第1項第5号に「第1号に掲げる総所得金額若しくは退職所得金額又は純損失の金額の計算の基礎となった各種所得につき源泉徴収された又はされるべき所得税の額」を掲げているのである。
(ロ) 株式等の譲渡所得に対する課税特例について
A 所得税法第33条は、「資産の譲渡による所得」を譲渡所得と規定し、同法第22条及び第120条第1項第1号にいう総所得金額には、この譲渡所得が含まれる。したがって、別段の規定がない限り、株式等の譲渡に係る所得は、原則的な課税標準である総所得金額に含まれることになる。
 しかし、税法は、有価証券の譲渡による所得に対し、沿革的に特別の取扱い(原則として非課税所得扱い)を行ってきたが、平成元年4月1日以後においては、株式等の譲渡による所得について以下のような特例課税が行われるようになった。
B 措置法第37条の10は、株式等(同条第2項に規定するものをいう。以下同じ。)の譲渡による所得については、暦年の「株式等に係る課税譲渡所得等の金額」を課税標準として、その20パーセントに相当する金額の所得税を申告納税すべき旨(いわゆる申告納税方式)を規定する。
 この場合には、1株式等の譲渡による所得の相互間では、年間損益の通算ができるが、2他の所得との間の損益通算はできない(いわゆる分離課税方式)とされ、また、3所得税のほか、これと同じ課税標準の6パーセントに相当する金額の住民税が課されることになる。
C 上記特例課税(措置法第37条の10)は、法律上の原則であるところ、他方、株式等の譲渡のうち、一定の場合には、納税義務者が、源泉徴収方式を選択することもできる制度を同時に導入したものであって、これが措置法第37条の11並びに措置法施行令第25条の9及び第25条の10及び措置法施行規則(以下「規則」という。)第18条の10ないし第18条の13の各規定であり、これら、すなわち本件特例に係る制度の内容を要約すると次のようになる。
(A) 本件特例の適用を受けようとする場合には、その受けようとする譲渡の時までに規則18条の10に定める「上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離課税の選択申告書」(以下「選択申告書」という。)を、また、本件特例の適用を受けることをやめようとする場合には、そのやめようとする譲渡の時までに規則18条の11に定める「上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離課税の廃止申告書」(以下「廃止申告書」という。)をいずれの場合も、その譲渡に係る証券業者の営業所を経由して所轄税務署長に提出するだけで足りる。
 したがって、本件特例は、その適用を受ける期間について、納税義務者に任意の選択を許すものであり、選択申告書及び廃止申告書の提出を重ねることにより、究極的には、個別の譲渡ごとに適用を受けることも受けないことも可能な制度とされている。
(B) 本件特例の適用を受ける場合の課税標準は、「譲渡利益金額」であり、これは、1原則として、「当該上場株式等の譲渡の対価の額の百分の五に相当する金額」(実際の所得金額と大きく異なる場合も有り得る)とされ、2信用取引の場合には、決済差益に相当する金額(実際の所得金額に近い金額である)とされている。また、その税率は、いずれの場合も100分の20であり、住民税は課されない。
(C) 本件特例の適用を受ける場合の当該納税義務の履行については、源泉徴収方式による。すなわち、選択申告書の提出を受けた証券業者は、当該株式等の譲渡に係る対価を納税義務者に支払う際に、上記により計算した所得税相当額(すなわち「徴収すべき所得税の額」)を徴収して、これをその翌月10日までに国に納付するものとされている。
(ハ) 本件特例の効果について
 このように株式の譲渡等については、二本建の制度が選択的に用意されているのであるが、本件特例の適用を受けた場合の効果について、以上に検討の諸規定を基礎にして判断すると、次のとおりである。
A 前記(イ)で検討したとおり、税法は申告納税と源泉徴収を区分し、別異の租税債権債務関係が生じるものとしており、そのため源泉徴収に係る所得税を確定申告等により精算すべき(又は、精算できる)場合には、その旨の明文の規定を設けているのである。
 ところが、同じく源泉徴収方式による納税義務の履行を規定する本件特例に関しては、請求人が主張するような精算のための申告手続等については別段の規定を設けていないのである。
 したがって、この点から判断すると、本件特例は、後日の精算を予定していないものとみるのが相当である。
B 前記(ロ)で検討したとおり、1源泉徴収方式による本件特例は、年間の損益通算を認める申告分離課税方式との選択ができる制度として、すなわち、両者を対照的な制度として設けられたものである。
 しかして、双方ともに、総合所得課税の例外に当たる分離課税方式を採用しているなかで、さらにそれぞれの特徴を求めるとすれば、申告分離課税方式がより所得税の理念に則して暦年の所得金額(厳密には、所得に近似する金額)を対象とする税負担を求める(その代わりに、納税申告という手続も求める。)のに対し、本件特例は、源泉徴収という国及び納税義務者にとって便宜的な手段で課税目的の達成を図っている点にあるとみなければならない。
 そうすると、本件特例は、暦年の所得金額いかんについてはこれを重要視することなく、源泉徴収のみをもって課税関係の終了を意図したものとみるのが相当ということになる。
 また、申告分離課税の場合には、住民税の負担分を加えて、その税率が26パーセントになるところ、本件特例は20パーセントの所得税の負担だけを求めているものであって、本件特例につき、さらに損益通算まで認めるものとすれば、両者間のバランスは大きく崩れてしまうとみるべきである。
 もっとも、このような検討を試みる場合においては、両者間の課税対象の差異にも注目すべきところ、いずれも基本的には株式等の譲渡による所得を対象としており、その余の相違点は、主として源泉徴収方法に適しているか否かの点から生じているものとみるべきであって、両者の課税対象について、以上の判断に影響するほどの実質的差異はないといえる。
C 前記(ロ)のCの(A)で検討したとおり、本件特例は、その適用を受ける期間(すなわち課税期間)を納税義務者が任意に設定できるものとしており、課税標準は暦年の所得であるという原則から全くかけ離れたものとなっているが、これは、本件特例において損益通算を認めないこと(これは、所得税の一般原則に反することである。)の見返りとして、課税期間に任意性を認めた(すなわち「暦年」原則の例外を許した)ものと解した場合においてのみ合理性をもつことになる。
 したがって、この点からみても、本件特例は、損益通算を認めないことを前提としているものと判断するのが相当である。
D 前記(ロ)のCの(B)及び(C)で検討したところに敷延して、措置法第37条の11は、1納税義務者に対しては、「その上場株式等の譲渡による譲渡利益金額に対し百分の二十の税率を適用して所得税」を課し(同条第1項)、2源泉徴収義務者に対しては、「当該上場株式等の譲渡による譲渡利益金額に百分の二十の税率を乗じて計算した金額の所得税」の徴収及び納付義務を課しているのである。すなわち、両者の課税標準額及び税額は完全に合致しているのである。
 そうすると、このような源泉徴収税額について精算すべき理由はないとみるのが相当である。
E 措置法は、申告分離課税方式(措置法第37条の10)による場合について、所得税法第22条が所得税の課税標準について3種のものを規定する(前記(イ)のBに既述)のに対処して、これらに、例えば「株式等に係る譲渡所得等の金額」を加える(措置法第37条の10第6項)等の所要の整備規定を設けているのに対して、本件特例の適用を受ける場合については、確定申告ができることを前提とした整備規定は、全く存しないのである。この点からみても、本件特例は、確定申告を予定しないものとみることができる。
 ちなみに、措置法第37条の11第3項には、本件特例により源泉徴収した税は「所得税法第2条第1項第45号に規定する源泉徴収に係る所得税とみなして、同法、国税通則法及び国税徴収法の規定を準用する。」との文言があるが、これは、前記(イ)のCに述べたような源泉徴収に係る租税債権債務関係を、本件特例の場合にも生じさせる意図であって、この規定により、申告書に記載できる源泉徴収税額(前記(イ)のDに既述)に本件特例に係る源泉徴収税額が含まれるというような解釈を導き出すこともできないのである。
F 以上に加えて、本件特例の適用がある場合の源泉徴収義務として、措置法第37条の11第2項は、「上場株式等の譲渡の対価の支払をする証券業者若しくは銀行又は発行法人は、当該上場株式等の譲渡の対価の支払をする際、当該上場株式等の譲渡による譲渡利益金額に百分の二十の税率を乗じて計算した金額の所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。」と規定しており、本件特例に係る源泉徴収義務は、「譲渡の対価の支払をする際」に限り、すなわち個別の譲渡利益金額ごとに証券会社等に生じるものとされている。
 この規定は、本件特例と表裏一体の関係を有するものであるから、本件特例にいう「譲渡利益金額」についても、個別の譲渡利益金額であると解するのが相当であり、これを年間を通じての譲渡利益金額等と解する余地はないというべきである。
(ニ) 以上のとおりであるから、本件特例は、上場株式等の譲渡に係る所得について、当該譲渡利益金額が生じた場合にのみ、その都度所得税を源泉徴収し、損失の生じた他の取引があるときにおいても、その損失額を控除して精算することを許さない制度であると解するのが相当である。
 よって、この点に関する請求人の主張は、採用できない。
ロ 本件通達について
 本件通達は、その結論において、以上と同じ解釈を示すものであるから、これを不当視することはできない。
 ちなみに、請求人は、損失が生じ得ない利子所得と同じに取り扱われていることに不満の意を表明するが、前記イの(ハ)のCに述べた点に照らして、これを不合理とみることもできないところである。
ハ 法的根拠の説明について
 調査担当職員及び異議担当職員がそれぞれ請求人に対して的確又は納得のいく説明をしたか否かは、専ら行政サービスに係る事実であって本件更正の効力に影響しない事実である。
 よって、この点に関する請求人の主張は、これらに係る事実を認定するまでもなく、失当として採用できない。
ニ その他の部分について
 本件更正のその他の部分については、請求人が争わないところ、本件全資料によっても格別に違法、不当と目すべき点はない。

(2) 本件賦課決定について

 以上に判断したとおり、本件更正により納付すべき税額には取り消すべき部分がなく、また、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由が存する場合にも該当しないから、過少申告加算税の計算の基礎となっている金額(821,600円)は正当である。
 また、本件賦課決定のその他の部分については、請求人が争わないところ、本件全資料によっても、格別に違法、不当と目すべき点はない。

(3) 以上のとおり、各原処分には、いずれもこれを取り消すべき理由がない。

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