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(平5.6.24、裁決事例集No.45 147頁)
《裁決書(抄)》
1 事実
審査請求人(以下「請求人」という。)は、日本語学校を経営する者であるが、昭和60年分、昭和61年分、昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分(以下「各年分」という。)の所得税の確定申告書に別表1のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告した。
原処分庁は、これに対し平成2年9月26日付で昭和60年分以後の所得税の青色申告の承認の取消しをし、同日付で各年分について別表2のとおり更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定をした。
請求人は、これらの処分を不服として平成2年11月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し平成3年3月7日付でいずれも棄却の異議決定をした。
請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成3年4月4日に審査請求をした。
なお、原処分庁は、平成2年6月7日付で平成元年分の所得税について、申告納税額から予定納税額を差し引く更正をしている。
2 主張
(1) 請求人の主張
原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 青色申告の承認の取消しについて
原処分庁は、請求人に対する原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)に際し、請求人が昭和60年分の現金出納帳等の帳簿書類を備え付けていないことから、青色申告に係る帳簿書類等の備付け、記録及び保存(以下「帳簿書類の備付け等」という。)が所得税法第148条第1項《青色申告者の帳簿書類》に定めるところに従っていなかったとして同法第150条第1項第1号《青色申告の承認の取消し》により、昭和60年分以後の青色申告の承認の取消しをした。
しかしながら、請求人は、以下のとおり事業所得を生ずべき業務の全部を廃止しているから、所得税法第151条第2項《青色申告の取りやめ等》の規定により、青色申告の承認の効力を失っている。
(イ) 事業所得を生ずべき業務の開廃業等については、次のとおりである。
A 請求人は、昭和54年2月17日よりP市R町6丁目26番13号において宅地建物取引業を開業したが、知人及び友人の無い中での宅地建物取引業は存続が難しく、昭和55年4月以後は、S市T町3丁目2番8号の請求人の住所地において「○○不動産」の屋号をガラス戸に表示するのみの休業状態となり、昭和57年の宅地建物取引主任者資格登録簿への登録更新を行わず、廃業に至った。
B 請求人は、上記Aのごとき苦境を打開するために、台湾人の訪日観光客への土産物販売を意図したAの開業を企画したが、開業には至らなかった。
なお、昭和55年4月8日に所得税の青色申告承認申請書(以下「当初申請書」という。)が原処分庁に提出されているのは、当時、関与を依頼する予定でいた税理士が提出したためであると推量される。ただし、請求人は、当初申請書を提出した記憶はない。
C 請求人は、上記AないしBの状況を受けて、昭和56年ごろには、当時△△駅南口にあった××という会社に1年ほど勤務し、その間、事業所得を生ずべき業務の全部を廃止した。
その後、昭和57年後半から、◎◎市にある学校法人□□専門学校等への勤務を経て、昭和60年9月に現日本語学校を開業するまで、事業所得を生ずべき業務の廃止は、完全に継続していた。
(ロ) 請求人が当初申請書を提出した時には、宅地建物取引業の継続の意思及び雑貨業の開業の意思を有していたことは明らかであり、所得税法第144条《青色申告の承認の申請》に規定する「承認を受けようとする居住者」としての主観的要件は充たしていたとしても、同法第143条《青色申告》に規定する「事業所得を生ずべき業務を行う居住者」としての客観的要件を充たしていたか否かは疑わしく、当初申請書の承認の効力自体疑わしいものである。
(ハ) 所得税法第229条《開業等の届出》及び同法施行規則第98条《開業等の届出》の規定は、あくまで事実認定に効果を及ぼさない行政上の届出義務にすぎず、宅地建物取引業の廃業及び雑貨業の不開業の効力要件ではないから、同法第151条第2項の規定は、同法第229条の規定を要件としていると解することはできないので、原処分庁が、開廃業届出書の提出の有無によって業務の開廃業の事実認定をすることは失当である。
以上により、請求人は、昭和60年分及び昭和61年分(以下「両年分」という。)については青色申告者以外の者(以下「白色申告者」という。)であり、したがって、原処分庁の行った昭和60年分以後の青色申告の承認の取消しは、事実を誤認したものであり、無効な処分である。
ロ 更正の手続について
(イ) 昭和62年分、昭和63年分および平成元年分の更正について
請求人は、次のとおり昭和62年分から青色申告者である。
A 請求人は、従来、白色申告者であると認識しており、両年分の確定申告書を青色申告書以外の申告書(以下「白色申告書」という。)で申告したが、昭和61年分の確定申告書提出時に、昭和62年分以後の所得税の青色申告承認申請書(以下「本件申請書」という。)を同封の上、簡易書留で原処分庁に郵送した。
B 数日後、原処分庁から昭和61年分の確定申告書の控えのみが返送されてきたので、原処分庁に本件申請書の控えが返送されないことについて確認したところ、女性事務官から「請求人の青色申告の承認申請書は、数年前にすでに提出されており、番号も付与されているのでダブりになるから、今回提出分は受理できない。破棄させてもらうので当該申請書の控えは返送しなかった」との回答があった。
請求人が、原処分庁の収受印のある本件申請書の控えを持っていないのは、以上のような事情からであり、原処分庁は、大量の申請・申告書類を扱うため物証がないことには申請の事実を認定しないという一般論としてではなく、この具体的事実経過及び諸事情との整合性からみて、本件申請書が提出されたことを認めるべきである。
C 原処分庁がいうように、請求人が昭和61年分以前から青色申告者であるならば、原処分庁は、なぜ青色申告書の用紙を事前に送付してこなかったのか、また、なぜ青色申告控除がなされなかったか判断できない。
請求人は、本件申請書が破棄されたとしても、昭和62年分から青色申告書により確定申告ができればよいと思い、原処分庁からその年初めて送付されてきた青色申告書の用紙により昭和62年分の確定申告を行ったのである。
したがって、原処分庁は、所得税法第155条第2項《青色申告に係る更正》の規定により昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分の更正通知書にその更正の理由を付記しなければならないところ、当該更正通知書に更正の理由を付記していないから、昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分の更正は無効な処分である。
(ロ) 両年分の更正について
請求人は、両年分の確定申告について、国税通則法第70条第5項《国税の更正、決定等の期間制限》に規定するような行為は行っておらず、したがって、原処分庁が行った両年分の更正は、同条第1項に規定する期限を経過した処分であり、違法である。
また、原処分庁は、両年分の更正に係る事業所得の金額を昭和63年分の更正に係る事業所得を算定する上で用いた数値等を基に推計の方法により算定しているところ、上記(イ)のとおり、昭和63年分の更正は無効な処分であり取り消すべきであるから、両年分の更正も無効である。
ハ 加算税の賦課決定について
以上のとおり、各年分の更正は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い昭和63年分及び平成元年分の過少申告加算税並びに各年分の重加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。
(2) 原処分庁の主張
原処分は、次の理由により適法である。
イ 青色申告の承認の取消しについて
(イ) 請求人は、当初申請書を昭和55年4月8日に原処分庁に提出しており、これにより請求人は、昭和55年分以後の所得税について確定申告書及びこれに係る修正申告書を青色の申告書により提出することができる者となる。
(ロ) 本件調査において、原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)が、請求人に対し、青色申告に係る各年分の帳簿書類の提示を求めたところ、請求人は、両年分については、現金出納帳等の帳簿書類の備付け及び記録はしていないとして提示しなかった。
このことは、帳簿書類の備付け等が、所得税法第148条に規定する大蔵省令に定めるところに従っていなかったことになるから、同法第150条第1項第1号の規定に基づき昭和60年分以後の青色申告の承認を取り消したものである。
(ハ) 請求人が証拠書類として反論書に添付して提出した「宅地建物取引主任者資格試験の合格通知」、「宅地建物取引主任者資格登録簿登録通知書」及び「宅地建物取引業者免許証」は、その資格及び登録並びに免許証の交付があったことの証明にすぎず、請求人が実際に宅地建物取引業を行っていたことの証明にはならない。
また、請求人から、原処分庁に対し、宅地建物取引業に係る開廃業の届出及び当該事業に係る所得税の確定申告書の提出が一切ないことからも、請求人が宅地建物取引業を行っていたとの主張を信用することができない。
(ニ) 当初申請書にはAという屋号で雑貨業を開業した旨が具体的に記載されており、その後、請求人から青色申告の取りやめの届出書及び雑貨業の事業廃止届出書の提出もないので、当初申請書は有効なものといえる。
そうすると、請求人から提出された当初申請書について所得税法第151条第2項の規定が適用される余地はない。
したがって、青色申告の承認の取消しは適法である。
ロ 更正の手続について
(イ) 昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分の更正について
当初申請書が仮に無効なもので、青色申告の承認の取消しが意味のない処分であったとしても、請求人からは当初申請書以外の青色申告承認申請書は提出されていないから、請求人が青色申告者であるとはいえない。
したがって、昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分の更正に理由を付記しないで更正したとしても、当該更正が違法となるものではない。
なお、当初申請書が提出された後は、請求人に対し青色申告書及び青色申告決算書の用紙を送付している。
(ロ) 両年分の更正について
請求人には、次のような行為があったので、国税通則法第70条第5項の規定により、両年分の更正を行ったものである。
A 請求人は、代理人を通じて受領した選考料、入学金及び授業料をいったん請求人の個人名義の預金口座に入金し、その中から特定の金額を帳簿に記載の上別の預金口座に入金し、当該特定の金額のみを申告し、残余の金額を全く申告していなかったこと。
B 調査担当職員が、請求人が授業料を受領した際に発行した領収証の控えに記載された金額と帳簿に記載された収入金額とを照合したところ、継続して帳簿に記載されていない収入金額があったこと。
ハ 事業所得の金額について
(イ) 総収入金額
各年分の総収入金額は、請求人が各年分の確定申告書に記載した収入金額に次のAないしGの収入除外額等の金額を加算した金額であり、別表3のとおりである。
A 入校生収入除外額
日本国外からの入校生に係る選考料、入学金及び半期授業料収入の除外額(以下「入校生収入除外額」という。)であり、帳簿書類及び入国管理事務所の事前審査許可証等を調査したところ、昭和63年分及び平成元年分について、次表のとおり収入除外が認められた。
年分 項目 |
昭和63年分 | 平成元年分 | ||
---|---|---|---|---|
人数 | 金額 | 人数 | 金額 | |
選考料 | 114人 | 2,280,000円 | 18人 | 360,000円 |
入学金 | 113 | 10,170,000 | 17 | 1,530,000 |
授業料 | 75 | 14,170,000 | 6 | 1,350,000 |
合計 | − | 26,620,000 | − | 3,240,000 |
(注)「人数」は、それぞれ収入除外に係るものである。
ところで、昭和63年分の入校者数163人に対する選考料、入学金及び授業料の各申告漏れ割合(入校者数のうちに占める申告漏れ人数の割合をいい、以下「入校生収入除外に係る申告漏れ割合」という。)は、次表のとおりとなる。
項目
区分 |
選考料 | 入学金 | 授業料 | |
---|---|---|---|---|
入校者数 | ![]() |
163人 | 163人 | 163人 |
申告人数 | ![]() |
49 | 50 | 88 |
申告漏れ人数(![]() ![]() |
![]() |
114 | 113 | 75 |
入校生収入除外に係る申告漏れ割合(![]() ![]() |
0.699 | 0.693 | 0.460 |
上記昭和63年分の各入校生収入除外に係る申告漏れ割合により、両年分及び昭和62年分の入校生収入除外額を算定すると別表4のとおりとなる。
B 入校辞退者収入除外額
入国管理事務所の許可を得て入校する予定であったにもかかわらず入校しなかった者に係る選考料及び入学金の除外額(以下「入校辞退者収入除外額」という。)であり、次表のとおりである。
項目
区分 |
昭和60年分 | 昭和61年分 | 昭和62年分 | 昭和63年分 | |
---|---|---|---|---|---|
入国管理事務所許可人数 | ![]() |
63人 | 161人 | 244人 | 189人 |
入校者数 | ![]() |
23 | 82 | 207 | 163 |
入校しなかった者(![]() ![]() |
![]() |
40 | 79 | 37 | 26 |
選考料単価 | ![]() |
20,000 | 20,000 | 20,000 | 20,000 |
選考料除外額(![]() ![]() |
800,000 | 1,580,000 | 740,000 | 520,000 | |
入学金単価 | ![]() |
90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 |
入学金除外額(![]() ![]() |
3,600,000 | 7,110,000 | 3,330,000 | 2,340,000 |
C 選考料収入除外額
選考料を支払って入学許可通知書の発行を受けたが、入国管理事務所の事前審査許可証が得られなかったため入学しなかった者に係る選考料の除外額(以下「選考料収入除外額」という。)であり、請求人は、「選考料は預り金であり、入校しなかった者については返金した」旨申述したが、帳簿書類等に返金の事実がないこと及び入学案内のパンフレットに選考料の返金はしない旨の記載があることから、選考料は返金しなかったものと認められる。
ところで、昭和63年1月から平成元年1月までの期間における入学許可通知書の発行枚数は638枚であり、このうち昭和63年分は589枚(638枚に13月分の12月を乗じて算定した枚数)となる。これに対して、昭和63年分の入国管理事務所の許可人員は189人であり、したがって、昭和63年分は、400人分(入学許可通知書発行枚数589枚から入国管理事務所の許可189人を差し引いて算定した人数)の選考料の収入除外が認められ、その数は、入国管理事務所の許可人員に対して3.12倍(入学許可通知書発行枚数589枚を入国管理事務所の許可人員189人で除して算定した数値で、以下「選考料漏れ割合」という。)となり、これを基に各年分の選考料収入除外額を算定すると、別表5のとおりとなる。
D 転入生収入除外額
国内に居住している外国人で、他校から転入したと思われる者に係る選考料、入学金及び授業料の除外額(以下「転入生収入除外額」という。)であり、昭和63年分及び平成元年分は、次表のとおりである。
年分 項目 |
昭和63年分 | 平成元年分 | ||
---|---|---|---|---|
人数 | 金額 | 人数 | 金額 | |
選考料 | 29人 | 580,000円 | −人 | −円 |
入学金 | 26 | 2,340,000 | 13 | 1,170,000 |
授業料 | 29 | 5,501,000 | 3 | 600,000 |
合計 | − | 8,421,000 | − | 1,770,000 |
(注)「人数」は、それぞれ収入除外に係るものである。
ところで、上記の転入生に係る昭和63年分の選考料、入学金及び授業料の各収入除外額が、前記Aに記載の入校生に係る昭和63年分の選考料、入学金及び授業料の各収入除外額に占める割合(以下「転入生収入除外額に係る申告漏れ割合」という。)は、次表のとおりとなる。
項目
区分 |
選考料 | 入学金 | 授業料 | |
---|---|---|---|---|
転入生収入除外額 | ![]() |
580,000円 | 2,340,000円 | 5,501,000円 |
入校生収入除外額 | ![]() |
2,280,000 | 10,170,000 | 14,170,000 |
転入生収入除外額に係る申告漏れ割合(![]() ![]() |
0.254 | 0.230 | 0.388 |
上記昭和63年分の各申告漏れ割合により、両年分及び昭和62年分の転入生収入除外額を算定すると別表6のとおりとなる。
E 短期コース収入除外額
短期コース選択者に係る選考料、入学金及び授業料の除外額(以下「短期コース収入除外額」という。)であり、次表のとおりである。
年分 項目 |
昭和62年分 | 昭和63年分 | 平成元年分 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 金額 | 人数 | 金額 | 人数 | 金額 | |
選考料 | 19人 | 380,000円 | 7人 | 140,000円 | 6人 | 120,000円 |
入学金 | − | − | 7 | 630,000 | − | − |
授業料 | − | − | 5 | 935,000 | 4 | 580,000 |
合計 | − | 380,000 | − | 1,705,000 | − | 700,000 |
(注)「人数」は、それぞれ収入除外に係るものである。
F 授業料収入除外額
在籍者に係る授業料の除外額(以下「授業料収入除外額」という。)であり、次表のとおりである。
年分 項目 |
昭和61年分 | 昭和63年分 | 平成元年分 |
---|---|---|---|
授業料収入除外額 | 22,080,000 | 2,235,000 | 1,900,000 |
G あっせん収入金額
他校(○×日本語学校)へ入学をあっせんした者に係る入学金等で当初から収入金額に計上していないにもかかわらず、収入金額から減算している金額であり、昭和63年分10,180,000円である。
(ロ) 必要経費の額
A 昭和60年分の必要経費の額
昭和60年分の必要経費の額は、請求人が申告した事業所得の金額に係る必要経費の額である。
B 昭和61年分及び昭和62年分の必要経費の額
昭和61年分及び昭和62年分の必要経費の額は、後記Cに記載の昭和63年分の一般経費の額(給料賃金、地代家賃、退職金、建物減価償却費、支払手数料及び事業専従者控除以外の必要経費をいう。以下同じ。)を基に算定した一般経費率(別表3に記載の昭和63年分の総収入金額に対する昭和63年分の一般経費の額の割合をいう。以下同じ。)0.3166を乗じて、次表のとおり算定した。
なお、特別経費の額(一般経費の額以外の必要経費の額をいう。以下同じ。)は、請求人が申告した事業所得の金額に係る特別経費の額である。
年分 項目 |
昭和61年分 | 昭和62年分 | ||
---|---|---|---|---|
総収入金額 | ![]() |
94,872,310円 | 128,869,714円 | |
一般経費率 | ![]() |
0.3166 | 0.3166 | |
一般経費の額(![]() ![]() |
![]() |
30,036,573円 | 40,800,151円 | |
特別経費の額 | ![]() |
12,978,035 | 25,460,686 | |
内訳 | 給料賃金 | 11,289,830 | 13,690,360 | |
減価償却費(建物) | 324,000 | 388,800 | ||
支払手数料 | 1,364,205 | 11,381,526 | ||
事業専従者控除額 | ![]() |
450,000 | 600,000 | |
必要経費の額(![]() ![]() ![]() |
43,464,608 | 66,860,837 |
C 昭和63年分及び平成元年分の必要経費の額
請求人が申告した事業所得の金額に係る必要経費の額には、家事上の経費と認められるものが算入されており、これを除いて算定すると昭和63年分及び平成元年分の必要経費の額は、次表のとおりとなる。
年分 項目 |
昭和63年分 | 平成元年分 | ||
---|---|---|---|---|
必要経費の額 | 一般経費の額 | 租税公課 | 155,300 | 221,185 |
荷造運賃 | 7,900 | − | ||
水道光熱費 | 973,205 | 1,247,171 | ||
旅費交通費 | 4,009,829 | 4,716,027 | ||
通信費 | 2,138,947 | 1,188,938 | ||
広告宣伝費 | 18,274,059 | 2,636,517 | ||
接待交際費 | 10,442,650 | 7,305,806 | ||
損害保険料 | 331,511 | 184,900 | ||
修繕費 | 303,000 | 30,964 | ||
消耗品費 | 2,467,652 | 3,393,991 | ||
福利厚生費 | 4,662,380 | 5,715,742 | ||
減価償却費(建物以外) | 1,640,216 | 2,458,639 | ||
教材費 | 4,596,505 | 1,179,788 | ||
燃料費 | 240,797 | 367,690 | ||
新聞図書費 | 429,420 | 450,127 | ||
事務用品費 | 1,366,007 | 632,413 | ||
保証料 | 3,850,000 | 4,276,699 | ||
諸会費 | 297,600 | 99,190 | ||
雑費 | 148,228 | 562,059 | ||
計 | 56,335,206 | 36,667,846 | ||
特別経費の額 | 給料賃金 | 25,677,020 | 31,152,050 | |
地代家賃 | 9,600,000 | 15,000,993 | ||
退職金 | 148,000 | 1,504,855 | ||
減価償却費(建物) | 388,800 | − | ||
支払手数料 | 15,429,200 | 5,694,393 | ||
計 | 51,243,020 | 53,352,291 | ||
事業専従者控除額 | 600,000 | − | ||
合計 | 108,178,226 | 90,020,137 |
(ハ) 事業所得の金額
以上の結果、請求人の各年分の事業所得の金額は、別表7のとおりである。
ニ 給与所得の金額について
平成元年分の給与所得の金額は、株式会社■■からの給与収入に係るもので、1,523,400円である。
ホ 総所得金額について
以上の結果、請求人の各年分の総所得金額は別表8のとおりとなり、これらの金額は、更正に係る総所得金額と同額か又は上回るから、各更正は適法である。
ヘ 加算税の賦課決定について
(イ) 過少申告加算税の賦課決定
請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした昭和63年分及び平成元年分の過少申告加算税の賦課決定は適法である。
(ロ) 重加算税の賦課決定
調査担当職員が請求人の確定申告書及び帳簿書類等を調査したところ、次の事実が認められた。
A 請求人が代理人を通じて受領した選考料、入学金及び授業料は、いったん請求人の個人名義の預金口座に入金され、その中から特定の金額を帳簿に記載の上別の預金口座に入金し、当該特定の金額のみを申告し、残余の金額を全く申告していなかったこと。
B 請求人が授業料等を受領した際に発行した領収証の控えに記載された金額と帳簿に記載された金額とを照合したところ、継続して帳簿に記載されていない収入があること。
C あっせん収入金額を除く収入の申告漏れ額は、昭和60年分13,583,380円、昭和61年分55,489,960円、昭和62年分60,603,620円、昭和63年分49,841,000円及び平成元年分10,110,000円であること。
以上のとおり、請求人は、収入金額の一部を除外して帳簿に記載し、これに基づいて申告していたことが認められ、このことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するので、同項の規定に基づいてした各年分の重加算税の賦課決定は適法である。
3 判断
(1) 青色申告の承認の取消しについて
イ 請求人は、原処分庁の行った青色申告の承認の取消しは、事実を誤認したものであり、無効な処分である旨主張するので審理したところ、以下のとおりである。
(イ) 当初申請書は、職業欄に雑貨と記載され原処分庁に提出されているが、請求人が当審判所に提出した事業所得を生ずべき業務の開廃業等に係る経過説明、これに関する証拠資料及び昭和60年から平成3年まで請求人の関与税理士であったB男(以下「B男」という。)の事務所に保管されていた請求人の昭和59年度の特別区民税・都民税納税証明書の写し等からすれば、請求人が雑貨業を行っていたとは認め難いこと。
(ロ) 請求人は、昭和54年2月17日より宅地建物取引業を開業したが、昭和57年の宅地建物取引主任者資格登録簿への登録更新を行わず廃業となった旨主張し、一方原処分庁は、宅地建物取引業を行っていたとは認められない旨主張するが、双方の主張を認めたとしても、請求人が提出した証拠資料等からすれば、少なくとも請求人は、昭和57年3月以後は宅地建物取引業は行っていなかったと認められること。
(ハ) 請求人の昭和55年分から昭和59年分までの所得税の確定申告書は、提出されていないこと。
ロ ところで、青色申告承認の効力は、その承認を受けた居住者が一定の業務を継続する限りにおいて存続する一身専属的なものと解されるところ、所得税法第151条第2項の規定は、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務のすべてを譲渡し又は廃止した場合には自動的に青色申告の承認の効力を失うものであり、廃業及び青色申告の取りやめ等の届出書の提出の有無により左右されるものではないと解される。
ハ 前記イの事実を上記ロに照らして判断すると、請求人が当初申請書提出時に、事業所得を生ずべき業務を行っていたとしても、前記イの(ロ)からすれば、少なくとも昭和57年には請求人は業務の全部を廃止していると認められるから、所得税法第151条第2項の規定により、その業務を廃止した日の属する年の翌年分以後の年分である昭和58年分以後は、請求人は青色申告の承認の効力を失っていることになる。
したがって、請求人は、昭和60年分は青色申告者ではないから、原処分庁が行った昭和60年分以後の青色申告の承認の取消しは、事実を誤認したものであり無効となる。
(2) 更正の手続について
イ 昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分の更正について
請求人は、昭和62年分以後は青色申告者であるから、原処分庁の行った昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分の各更正には、所得税法第155条第2項の規定による更正の理由付記がされておらず、違法である旨主張するので審理したところ、以下のとおりである。
(イ) B男は、当審判所に対し次のとおり答述している。
A 両年分の確定申告は、請求人が日本語学校を開業して間もない時期であり請求人の帳簿書類等の整備状況からしてまだ青色申告のできるような体制になっていなかったので白色申告書で提出し、昭和62年分から青色申告をしようとしたこと。
B 昭和61年分の確定申告書を提出する際に、当該確定申告書とともに本件申請書及び本件申請書の控え2部を同封の上、簡易書留により原処分庁に郵送したこと。
C 原処分庁から、本件申請書の控えが送付されてこなかったため、原処分庁に確認したところ、女性事務官から「請求人の青色申告の承認申請書は数年前にすでに提出されており番号も付与されているのでダブりになるから今回提出分は受理できない。破棄させてもらうから当該申請書の控えは返送しなかった。」との回答があったこと。
(ロ) 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A B男の事務所には、原処分庁の収受印はないものの本件申請書の控えが保存されていること。
B B男の事務所に保管されている昭和61年分の確定申告書の控えには、原処分庁の昭和62年3月16日付の収受印があること。
C B男の事務所には、昭和62年3月14日付の差出人B男事務所、受取人原処分庁と記載された書留郵便物受領証の控え等が保存されていること。
D 請求人には、本件申請書及びその控えはいまだ返還されていないこと。
E 請求人は、昭和62年分以後の確定申告から青色申告書により申告していること。
F 原処分庁は、本件調査当時、請求人を青色申告者として取り扱っていること。
(ハ) 以上を総合して判断すれば、請求人が本件申請書をその控え2部及び昭和61年分の確定申告書とともに原処分庁に簡易書留により提出したとするB男の答述には、信ぴょう性があると認められ、原処分庁が、本件申請書をどのように処理したかは別としても、請求人は、本件申請書を原処分庁へ提出したものと推認される。
そうすると、請求人は、原処分庁から本件申請書についての書面による却下の通知がないから、所得税法第147条《青色申告の承認があったものとみなす場合》の規定により青色申告の承認があったものとみなされ、昭和62年分以後は青色申告者であるとするのが相当である。
してみると、原処分庁は、所得税法第155条第2項の規定により、昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分の更正に係る更正通知書に更正の理由を付記しなければならないところ、当該更正通知書にはいずれもその更正の理由が付記されていないので、昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分の更正は違法な処分である。
したがって、原処分庁のその余の主張について審理するまでもなく、昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分の更正はいずれもその全部を取り消すべきである。
ロ 両年分の更正について
請求人は、両年分について国税通則法第70条第5項に規定するような行為は行っておらず、また、両年分の更正は、取り消されるべき昭和63年分の更正に係る数値等を基に行われているのであるから取り消すべきである旨主張するので審理したところ、以下のとおりである。
(イ) 国税通則法第70条第5項は、「偽りその他不正の行為」によって国税の全部又は一部を免れた納税者がある場合に、これに対して適正な課税を行うことができるよう、同条第1項ないし第4項に規定する更正決定等の制限期間にかかわらず7年とすることを定めたものである。
この場合の「偽りその他不正の行為」とは、正当な納税義務を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難とするような何らかの偽計その他の工作を伴う社会通念上不正と認められる一切の行為をいうものと解される。
(ロ) ところで、原処分庁は、請求人が代理人を通じて受領した選考料、入学金及び授業料をいったん請求人の個人名義の預金口座に入金し、そのうち帳簿に記載し別の預金口座に入金した特定の金額以外の金額は申告していない旨及び請求人が授業料等を受領した際に発行した領収証の控えに記載された金額について帳簿に記載されていないものがある旨主張するが、当審判所の調査によれば、次のような事実が認められる。
A 請求人は、昭和60年9月にC日本語学校として事業を開始したものの、両年分については学籍簿が、また、昭和61年分については、氏名、日付及び金額が記載されているメモ帳(以下「入金メモ帳」という。)があるのみで、そのほかには帳簿書類の作成がされていないことから、青色申告ができる体制になっていなかったこと。
B 請求人は、銀行取引については、昭和61年7月18日に○△銀行△×支店にC日本語学校D男(請求人)名義の普通預金を、また、同年12月22日に同店にD男名義の普通預金をそれぞれ開設しているのみで、昭和60年には銀行取引がなく、昭和61年においてもD男名義の普通預金には請求人の事業に係る入金はなく、原処分庁が主張するような両預金口座間の入出金は認められないこと。
C 請求人が発行した領収証の控えに記載された金額については、昭和60年分についてはその合計額が請求人の提出した確定申告書に記載された収入金額を下回っており、帳簿書類もないため、それが申告額にどのように反映されているか確認できず、昭和61年分については入金メモ帳に記載されていないものがあるものの、これらの支払者はほとんどが学籍簿に記載のある入学許可者であり、当該入学許可者で授業料を分割払した金額については請求人の申告額に含まれているものもあり、入金メモ帳に記載されていない金額を意図的に収入金額から除外したとする証拠がないこと。
(ハ) 以上を総合して判断すれば、両年分の確定申告について請求人は開業して間もなくのことであり帳簿書類も整備されていなかったため過少に申告したことが認められるものの、当該過少申告について隠ぺい又は仮装の事実は認められず、偽りその他不正の行為を裏付ける証拠もないので、このことをもって、正当な納税義務を免れる意図の下に事実に反する申告書を提出したものとは認められない。
このことは、国税通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為に該当しないから、請求人に対する昭和60年分の更正は同条第1項の規定により法定申告期限から3年を経過した日である平成元年3月16日、また、昭和61年分の更正は同じく平成2年3月17日以後においてはすることができないところ、両年分の更正に係る通知書は、平成3年3月7日に請求人に送達されているから、両年分の更正は違法な処分である。
したがって、請求人のその余の主張について審理するまでもなく、両年分の更正はいずれもその全部を取り消すべきである。
(3) 加算税の賦課決定について
以上のとおり、各年分の更正はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、昭和63年分及び平成元年分の過少申告加算税並びに各年分の重加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。