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(平5.3.15、裁決事例集No.45 171頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、金属機械製造加工業を営む同族会社であるが、平成元年10月1日から平成2年9月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書に所得金額を12,154,339円、納付すべき税額を3,613,600円と記載して法定申告期限までに申告した。
 これに対して、原処分庁は、平成3年7月5日付で所得金額を33,090,307円、納付すべき税額を11,967,200円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の額を835,000円とする賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。
 請求人は、原処分を不服として平成3年9月3日に審査請求をした。
 その後、原処分庁は、平成3年11月14日付で過少申告加算税の額を1,058,000円と変更する賦課決定をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正について
(イ) 原処分庁は、請求人が本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入した日経平均株価指数オプション(以下「本件オプション」という。)の買付取引(以下「本件オプション取引」という。)に係るオプション料(以下「本件オプション料」という。)20,580,000円及びそれに伴い証券会社に支払った手数料(以下「本件手数料」といい、本件オプション料と併せて「本件オプション料等」という。)355,968円の合計20,935,968円について、いずれも本件オプションの取得価額に算入すべきであるから、本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入できないとして本件更正をした。
(ロ) しかしながら、本件オプションは、本件オプションそのものがその権利の行使の有無にかかわらず権利行使期間満了によって当然消滅することから、本件オプション料が返還されないなど有価証券とは全く性格を異にし、資産となり得る性質のものではない。
 そうすると、本件オプション料等は、有価証券の場合と同様に資産の取得価額として処理することは会計処理上妥当ではなく、本件オプション料等の債務が確定する日である契約日の属する事業年度の損金とすべきものである。
(ハ) したがって、本件オプション料等は、本件オプション取引の契約日である平成2年9月27日の属する本件事業年度の損金とすべきである。
ロ 本件賦課決定について
 以上のとおり、本件更正は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 本件更正について
(イ) 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件オプション料は、本件オプションを取得するために支出した費用であること。
B 本件オプションは、証券取引所に上場されており、流動性を有している実情からすれば、有価証券に類似するものであること。
(ロ) したがって、本件オプション料は、本件オプションの権利そのものの取得価額であり、また、本件手数料はその取得に付随して支出した費用であるから、本件オプション料等の額20,935,968円は、その支出した時点において資産の取得価額として資産に計上すべきであり、その後、本件オプションを転売又は権利行使したときは、その収入に係る原価とし、また、権利放棄をしたときは、その時の損失として損金の額に算入すべきである。
 そうすると、本件事業年度の所得金額は33,090,307円となり、本件更正に係る所得金額と同額となるから、本件更正は適法である。
ロ 本件賦課決定について
 以上のとおり、本件更正は適法であり、かつ、請求人には、本件更正により納付すべき税額の計算の基礎とした事実を本件更正前の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税の額を計算すると1,058,000円となり、当該金額は本件賦課決定の額850,000円を上回るから本件賦課決定は適法である。

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3 判断

  本件審査請求の争点は、本件オプション料等が本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入できるか否かであるので、以下審理する。

(1) 本件更正について

イ 当審判所の調査したところによれば、本件オプションに関して、次の事実がが認められる。
(イ) 請求人は、平成2年9月27日に○○証券株式会社××支店との間で本件オプション取引を行い、本件オプション(コールオプション10単位及びプットオプション6単位)を買い付けたこと。
 なお、コールオプションとは日経平均株価(東京証券取引所における市場第一部銘柄のうち225銘柄を対象とする修正株価平均方式の株価指数であって、株式会社日本経済新聞社が算出するものをいう。以下同じ。)を買い付けるオプションをいい、プットオプションとは売り付けるオプションをいい、取引単位は日経平均株価の数値に1,000円を乗じて計算した額を1単位とする。
(ロ) 請求人は、本件オプション料等20,935,968円を本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入したこと。
(ハ) 請求人は、平成2年10月1日に本件オプションの全部を転売したこと。
(ニ) 請求人は、平成2年10月2日に本件オプション料20,580,000円及び本件手数料355,968円(消費税10,368円を含む。)を支払ったこと。
(ホ) 請求人は、前記(ハ)のとおり本件オプションを転売し、平成2年10月4日に転売によるオプション料収入22,620,000円から転売に係る手数料392,012円を控除した残額22,227,988円を受け取ったこと。
ロ 当審判所が調査したところによれば、日経平均株価指数オプションについては、次の事実が認められる。
(イ) 日経平均株価指数オプションは株価指数オプションの一種であり、株価指数オプション取引を行う者は、同取引を執行する大阪証券取引所の定めた規則(以下「大阪証券取引所規則」という。)に従わなければならないこと。
(ロ) 大阪証券取引所規則によれば、日経平均株価指数オプションとは、権利行使により、当事者間において、権利行使を行う場合の株価指数としてあらかじめ設定した権利行使価格と権利行使を行った日における日経平均株価に基づき定められる価格との差に基づいて算定された金銭を授受することになる取引を成立させることができる権利をいうものであること。
(ハ) 大阪証券取引所規則に基づく日経平均株価指数オプション取引は、次の内容のものであること。
A 日経平均株価指数オプションを売手が買手に付与し、買手がこれに対する対価としてオプション料を支払う取引である。
B 4限月取引制(権利行使期間を最長4か月とする制度)である。
C 種類、権利行使期間及び権利行使価格によって区別された銘柄ごとに取引される。
D 権利行使期間は、通常、各銘柄の取引開始日から満了日までである。
E 権利行使期間の徒過により日経平均株価指数オプションは当然に消滅する。
F 自己が買い付けた日経平均株価指数オプションを転売することによって清算することができる。この場合、転売に係るオプション料を転売した者が取得する。
(ニ) オプション料の価額は、日経平均株価の変動に伴い日々変動していること。
ハ 請求人は、本件オプションが有価証券とは全く性格を異にし、資産になり得る性質のものではないから、本件オプション料等を本件事業年度において損金とすべきである旨主張する。
(イ) ところで、本件オプションは、前記ロの(ロ)のとおり権利であることからすると、本件オプション料は、本件オプションを取得するための対価としての権利料又は一種の無形資産たる権利の取得価額を構成するものと解するのが相当である。
 さらに、本件手数料は、一種の無形資産たる権利であるところの本件オプションの取得に付随して支出した費用であることから、本件オプション料と同様に本件オプションの取得価額を構成するものと解するのが相当である。
(ロ) 本件オプション取引は、1前記ロの(ハ)のとおりその転売又は権利行使によって利益の追求ができること及び2前記ロの(ニ)のとおり本件オプションが上場され流通性があることから、損失をオプション料の範囲に限定しながら、転売又は権利行使により利益の追求を目的として行われる投機的取引であり、転売、権利行使又は権利放棄(以下「権利行使等」という。)によって初めて取引が完結し、全体の損益が確定するものと認められるところ、請求人は、前記イのとおり本件事業年度においては、本件オプションを取得したものの権利行使等はしていないことが認められる。
(ハ) そうすると、本件オプション料等は、本件オプションの取得価額として資産に計上すべきであり、本件事業年度の所得の計算上損金の額には算入されない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 以上の結果、請求人が平成2年9月27日に買い付けた本件オプションの対価である本件オプション料等は、本件事業年度の資産に計上すべきものであるとした本件更正は適法である。

(2) 本件賦課決定について

 以上のとおり、本件更正は適法であり、かつ、請求人には本件更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税の額を計算すると1,058,000円となり、当該金額は本件賦課決定の額835,000円を上回るから本件賦課決定は適法である。

(3) その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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