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(平5.5.21、裁決事例集No.45 267頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成元年分の贈与税の申告書に次表の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年2月29日付で次表の「更正等」欄のとおりとする更正(以下「本件更正」という。)並びに重加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。

(単位:円)
区分
項目
申告 更正等
課税される財産の額の合計額 1 12,772,268 12,772,268
配偶者控除額 2 12,772,268 0
基礎控除額 3 600,000 600,000
課税価格(123 0 12,172,000
納付すべき税額 0 4,759,600
重加算税の額 1,662,500

(注)表中の課税価格は1,000円未満を切り捨てた金額である。

 請求人は、これらの処分を不服として平成4年3月16日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し平成4年6月24日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成4年7月21日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次のとおり事実誤認に基づくものであるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正について
(イ) 請求人は、平成元年2月22日に、P市R町3丁目759番61所在の宅地231.40平方メートル(以下「本件土地」という。)及び本件土地上の建物63.76平方メートル(家屋番号759-61、以下「本件家屋」といい、本件土地と併せ「本件資産」という。)の各2分の1の持分を請求人の夫A男(以下「A男」といい、請求人と併せ「請求人夫婦」という。)から贈与(以下「本件贈与」という。)され、平成元年3月18日に贈与登記を完了した。
(ロ) 請求人夫婦及び同人の次男B男(以下「B男」といい、請求人夫婦と併せて以下「請求人夫婦ら」という。)は、本件資産を平成元年2月22日から居住の用に供していたのであるから、本件贈与に係る贈与税の計算上、相続税法第21条の6《贈与税の配偶者控除》(以下「本件特例」という。)の規定を適用して贈与税の申告をした。
(ハ) ところが、原処分庁は、本件資産が本件特例に規定する居住の用に供している資産(以下「居住用不動産」という。)に該当しないとして本件更正を行った。
(ニ) しかしながら、本件資産は、次のとおり居住用不動産に該当する。
A 本件土地は、A男が昭和38年3月に取得し、その後昭和47年10月に永住する目的で本件家屋を建築し、それ以来、昭和56年4月まで本件資産を請求人夫婦ら及び請求人の長男C男(以下「C男」といい、請求人夫婦らと併せ「請求人ら」という。)の生活の本拠としていたが、C男及びB男に対する音楽の特別教育の必要性から、本件資産のほかに、昭和49年11月にS市T町2丁目20番11号に家屋を新築(以下「S市旧家屋」という。)し、請求人らは、この家屋に転居したものであり、同家屋は、子供の音楽の特別教育のために仮住まいとして建築したものである。
B 本件資産は、請求人らがS市旧家屋に転居した後の、昭和56年5月に賃貸した。
 その後、昭和63年6月にA男の仕事及びB男の通学等の関係から、請求人夫婦らが本件家屋に居住することを決め、入居者を立ち退かせた。
 そして、A男は、本件資産に居住するために、昭和63年9月から同年12月に補修工事を行ったものである。仮に、本件資産を仮住まいとして使用するのであれば、このような補修工事はしなかった。
C S市旧家屋は、使用に不便であったため取り壊して新家屋に建て替える(以下「S市新家屋」という。)こととし、その契約を昭和63年10月30日に締結したが、C男に結婚の話があったので、結婚後1、2年間はC男夫婦をS市新家屋に居住させる予定であったため、それを考慮して着工日を平成元年6月1日とし、完成時期を結婚予定日の平成元年11月末日とした。
 しかし、C男の結婚話が破談になったので、同人を入居させなかった。
D A男がS市新家屋の建築資金の借入れに当たり、平成元年2月10日に住宅金融公庫へ提出した「昭和63年度個人住宅建設資金借入申込書」(以下「本件借入申込書」という。)に「自ら居住するために建設する住宅の所要資金」と記載したのは、本人夫婦の居住が住宅金融公庫の申込条件となっていたため、本件借入申込書の文書の体裁上このような文言としたものであって、実際はC男夫婦を居住させる予定であった。
E 請求人夫婦らは、S市旧家屋の住所(以下「S市住所」という。)から本件資産の住所(以下「P市住所」という。)に平成元年2月12日に引っ越しをするとともに、住民登録は同月22日に異動した。
 また、平成元年に、請求人夫婦の婚姻25周年の銀婚式を迎えるに当たり、請求人はこの記念のために同人の満50歳の誕生日を過ぎた平成元年2月22日付で、A男から本件資産の2分の1の持分の本件贈与を受けた。
 なお、請求人夫婦らが実際に本件資産に居住する日は身の回り品を整える必要があったので平成元年2月26日としていた。
F しかし、平成元年2月25日に、突然、請求人の実母D女(以下「D女」という。)が腹痛を訴え入院し、急きょ手術を行ったため、長女である請求人が看病のほとんどを行うこととなった。
 D女の発病は、突発的なやむを得ない予期できなかった後発的事情であり、もし、事前にわかっていたなら、請求人夫婦らは本件資産への転居を中止していたはずである。
G 請求人は、D女を看病するため平成元年4月4日までは病院に通い、D女の退院後は同人の通院付き添いのために週のうち水曜日及び日曜日を本件家屋において、それ以外の日はD女宅で寝泊まりした。
 そこで、これらの事情からS市旧家屋の建て替え時期を平成元年5月ころに早め、請求人1人が平成元年12月11日に引渡しを受けたS市新家屋に翌12日から居住し、同家屋からD女宅に通っていた。
 なお、A男は、本件資産に平成2年3月20日まで居住した。
H ところで、A男が平成元年3月14日にE株式会社○○センター(以下「E社」という。)と本件資産の売却に係る一般媒介契約(以下「本件媒介契約」という。)を締結したのは、上記Fのとおり、請求人がD女の看病をする必要があったことから、A男が、仮に、本件資産を売却する場合は、その価格が幾らぐらいになるのか軽い気持ちでE社に相談したところ、E社の営業担当者F男(以下「F男」という。)から熱心な説明を受け、A男は、その時は全く売却する意思がなかったにもかかわらず、F男が「査定するだけでもよいから、本件媒介契約の書面に押印して欲しい。キャンセルはいつでもできますから。」と言うので、A男は、請求人が看病疲れから風邪でダウンしたこともあり、気持ちが動揺してF男の勧めるまま本件媒介契約の書面に押印してしまったものである。
I 請求人は、平成元年5月11日に株式会社G(以下「G社」という。)との間で本件資産の不動産売買契約(以下「本件不動産売買契約」という。)を締結したが、その時は、D女の病気の回復状況がわからなかったため売却する意思が固まっていなかったので、本件不動産売買契約を解除することを考慮して、その解除期限を平成元年7月31日とした。
J S市旧家屋の平成元年3月分の電気の使用量が昭和63年10月分から平成元年2月分までの月と大差がないのは、請求人は平成元年3月26日まで、S市旧家屋からD女の看病に通っていたためである。
 また、本件家屋の平成元年3月分及び4月分の電気の使用量がその後の月より極端に少ないのは、A男が平成元年3月1日から11日までの間はほとんど外食したからであり、同月12日から4月14日までの間は前記Hのとおり請求人が看病疲れから風邪でダウンしたため、A男が交替で看病のためS市旧家屋、病院及びD女宅に寝泊まりして、本件家屋には不在であったことによる。
 ところで、S市旧家屋が本件家屋に比較して電気の使用量が多いのは、請求人はぜいたくな性格であり、一方、A男は極端な節約型の性格が強かったためである。
(ホ) したがって、本件資産は仮住まいとして使用していたものではなく、あるいは、本件特例の規定の適用を受けるためのみの目的で居住していたものでもなく、かつ、引き続き居住の用に供する見込みであったから居住用不動産に該当する。
 よって、本件贈与に係る課税される財産の額12,772,268円に本件特例を適用すると課税価格及び納付すべき贈与税額は零円となるので、本件更正の全部の取消しを求める。
ロ 重加算税の賦課決定について
 前記イのとおり、原処分は、請求人の実情を考慮せず真実を誤認した違法なものであるから、その全部を取り消すべきであり、これに伴い重加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正について
(イ) 請求人は、平成元年2月22日から平成2年3月20日までの間、本件資産を請求人夫婦らの居住の用に供していたが、D女の病気、入院手術というやむを得なかった後発的理由により本件譲渡した旨主張するが、次のとおり請求人の主張は信用できないものである。
A 請求人は、平成元年2月22日から平成2年3月20日までの間、本件資産を請求人夫婦らの居住の用に供していた旨主張していながら、一方において、平成元年2月12日に本件資産に引っ越しをした、あるいは、同月26日に引っ越しを予定していた旨主張するなど、請求人の主張には一貫性がみられないこと。
B 本件借入申込書によれば、親族の居住の用に供するため自ら居住する住宅以外に住宅を必要とする者に対しても貸付けを行うことができ、請求人夫婦らがS市新家屋に居住することを予定していたにもかかわらず、請求人は本件借入申込書の文書の体裁上、このような文言とした旨主張していること。
C 請求人は、本件資産を売却する意思が固まっていないのに不動産業者に売却依頼し、売買契約を解除することを考慮して本件不動産売買契約を締結した旨主張するところ、そのような契約は通常考えられないことであり、請求人夫婦は、本件資産を売却する意思を有していたからこそ、本件不動産売買契約を締結したものと考えられること。
(ロ) 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、本件贈与により取得した本件土地の2分の1の持分に相当する課税される財産の額を12,148,500円、同じく本件建物の2分の1の持分に相当する価額を623,768円と記載するとともに、本件特例を適用して申告期限までに課税価格及び納付すべき贈与税額を零円と記載した平成元年分贈与税申告書(以下「本件申告書」という。)を平成2年2月1日にP税務署長に提出しているが、その際、P市長が平成2年1月30日付で発行した請求人の住民票(以下「本件住民票」という。)を添付していること。
B A男が平成元年2月10日に住宅金融公庫に提出した本件借入申込書には、次の事項が記載されていること。
(A) 私は、自ら居住するため住宅の建築所要資金として、公庫の融資に関する資格、条件及び手続を了承して借入れの申込みを行う。
(B) 現住所は、S市住所である。
(C) 建設地は、S市T町2丁目951番3所在の宅地154平方メートルである。
(D) 敷地内の既存建物は取り壊すが、取り壊す建物は自ら住んでいた住宅であり、建築後15年である。
(E) S市新家屋の工事請負業者は、H株式会社(以下「H社」という。)である。
C A男は、平成元年3月14日にE社との間で本件資産の売却に係る本件媒介契約を締結していること。
D 本件確定申告書に添付した平成3年1月25日付のP市長が発行した請求人夫婦の住民票(除票)(以下「本件除票」という。)によれば、請求人夫婦は、平成元年2月22日にS市住所からP市住所に、平成2年3月20日にP市住所からS市住所に住民登録を異動していること。
E 請求人夫婦は、平成元年5月11日に本件不動産売買契約を締結していること。
F A男は、H社に対し、平成元年12月11日にS市新家屋の引渡しを受けた旨記載した建物引渡受領書を交付していること。
G I電力P営業所、○○水道局△△営業所並びにI電力××営業所及びS市水道課の回答によれば、本件家屋、S市旧家屋及びS市新家屋に係る電気及び水道の使用量等は、次のとおりである。

(A) 使用状況等
区分
項目
電気の使用状況 水道の使用状況
開始年月日 終了年月日 開始年月日 終了年月日
本件家屋 元年3月1日 2年3月20日 元年3月10日 2年3月20日
S市旧家屋 昭和62年以前 元年4月14日 昭和58年以前 元年6月まで
S市新家屋 元年12月12日 現在に至る 元年12月9日 現在に至る

(B) 使用量の状況
使用年月 電気(キロワット) 水道(立方メートル)
S市旧家屋 S市新家屋 本件家屋 S市旧家屋 S市新家屋 本件家屋
昭和63年10月 699
昭和63年11月 865 }      89
昭和63年12月 850
平成元年1月 1,177 }      89
平成元年2月 978
平成元年3月 836 2 }      83 0
平成元年4月 0 }      3
平成元年5月 60 }      16
平成元年6月 68 }      9
平成元年7月 81
平成元年8月 93 }      9
平成元年9月 153
平成元年10月 96 }      9
平成元年11月 96
平成元年12月 755 81 }      6
平成2年1月 1,399 25 }      87
平成2年2月 840 22 }      3
平成2年3月 492 17

 

(ハ) 請求人は、本件家屋に平成元年2月22日以後居住していた旨主張するところ、前記(ロ)のF及びGのとおり、請求人夫婦らは、S市旧家屋の電気の使用を終了した平成元年4月14日ころからS市新家屋が完成した同年12月11日ころまでの間、本件家屋に居住していたことが認められる。
 しかしながら、前記(ロ)のC及びEのとおり、請求人夫婦らが本件資産に居住を開始する約1か月前に本件資産の売買に係る本件媒介契約を締結し、かつ、本件資産に居住してから約1か月後に本件不動産売買契約を締結していることからみると、請求人夫婦らは、S市新家屋が完成するまでの間、本件資産を仮住まいとして使用したものであるから、本件資産は、本件特例に規定する居住用不動産に該当せず、本件贈与に係る贈与税の課税価格の算定上、本件特例の適用を認めることはできない。
(チ) したがって、本件贈与に係る課税価格は12,172,000円、納付すべき贈与税額は4,759,600円となり、これらの金額は更正と同額であるから、本件更正は適法である。
ロ 重加算税の賦課決定について
(イ) 請求人は、平成元年2月22日にS市住所からP市住所に住民登録を異動し、同年3月1日から電気及び水道の使用を開始するなど、実際に平成2年3月20日まで本件家屋に居住していた旨主張するところ、請求人は、S市旧家屋を取り壊してS市新家屋を建築後、同家屋に居住予定であったことが、当該建築工事請負契約を締結した昭和63年10月には決まっていたものと認められる。
 また、前記イの(ハ)のとおり、本件資産は、請求人夫婦らが本件資産に居住したと認められる約1か月前に本件媒介契約に基づき売却依頼し、かつ、本件資産に居住を開始してから約1か月後に本件不動産売買契約を締結していることを考え併せると、請求人の主張は信用できない。
(ロ) 請求人は、本件資産がS市新家屋が完成するまでの仮住まいとして使用していたにもかかわらず、本件贈与に係る登記を行う平成元年3月18日以前から本件資産に居住していたかのように装うために、平成元年2月22日にP市住所に転入した旨の届出を行い、更には、本件資産をあたかも引き続き居住の用に供する見込みであるかのように装うため、実際にはS市新家屋の引渡しを受けた平成元年12月11日ではなく、平成2年3月20日にS市住所に転居予定である旨の転出届を同年3月19日に行い、本件特例を適用して請求人の納付すべき贈与税額をことさらに過少にした内容虚偽の申告書を作成し、住民票を添付したうえでP税務署長に提出したことは、請求人には正当な納税義務を免れる意図があったものと認められる。
 このことは、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するから、同項の規定に基づき重加算税を賦課決定した処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件資産が本件特例に規定する居住用不動産に該当するかどうかにあるので、以下審理する。

(1) 本件更正について

イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ) 請求人は、平成元年2月22日にA男から本件贈与を受けたこと。
(ロ) A男は、昭和63年10月30日にH社との間で、S市新家屋に係る建築工事請負契約を締結していること。
(ハ) 請求人夫婦らは、平成元年2月22日にS市住所からP市住所に住民登録を異動し、平成2年3月20日にP市住所からS市住所に住民登録を戻していること。
(ニ) A男は、平成元年2月10日に住宅金融公庫に対して本件借入申込書を提出しており、当該申込書には自ら居住するための住宅の建築所要資金の借入れである旨の記載があること。
(ホ) A男は、平成元年3月14日にE社との間で本件媒介契約を締結していること。
(ヘ) 請求人夫婦は、平成元年5月11日に本件不動産売買契約を締結したこと。
(ト) A男がS市新家屋の引渡しを受けたのは、平成元年12月11日であること。
(チ) 本件資産は、平成2年3月30日に引き渡していること。
ロ 当審判所に請求人が提出した資料及び原処分関係資料等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件資産の近隣居住者は、原処分庁の調査担当職員に対して、請求人夫婦は、本件資産に月1、2度来る程度で、それ以外は住んでいるようには見えなかった旨の申述をしていること。
(ロ) A男が、昭和63年分所得税の確定申告書(以下「昭和63年分確定申告書」という。)に添付して平成元年3月14日に◎◎税務署長に提出した昭和63年分収支内訳書(不動産所得用)(以下「本件内訳書」という。)には、次の記載があること。
A 本件内訳書の不動産所得の収入の内訳欄には、本件資産を賃借人K男(以下「K男」という。)に、賃貸料を月額80,000円、賃貸契約期間を昭和62年4月から昭和63年6月までとして賃貸しており、昭和63年中の収入金額は6か月で合計480,000円であること。
B 本件内訳書の特殊事情欄には、K男が昭和63年6月30日に本件資産から立ち退き、請求人夫婦らが平成元年2月にS市旧家屋より入居したこと。
(ハ) K男は、平成元年2月1日にP市R町3丁目53番13号から同市S町2丁目24番3号Uマンション102号に、住民登録を異動していること。
(ニ) A男が退職前の勤務先である□□相互会社に届け出た昭和63年9月1日から平成2年12月31日までの間の住所はS市住所であること。
(ホ) E社の本件媒介契約に係る不動産取引台帳には、本件資産を売却する理由として、資金繰りのためであることが記載されていること。
ハ K男の妻M女(以下「M女」という。)は、当審判所に対して次のように答述していること。
(イ) 本件資産からP市U町2丁目24番3号Wマンション102号に引っ越したのは、平成元年1月末である。
 ただし、電話が同年2月6日まで設置されていたので、それまでの家賃を日割りで支払った。
(ロ) 昭和63年の秋ころに、A男からS市旧家屋を建て替える資金が多くかかり、本件資産を売却したいので、平成元年4月までは居住してよいが、その後は立ち退いて欲しいと言われた。
(ハ) 本件家屋の家賃は、平成元年1月分まで月額80,000円を支払い、同年2月分は、前記(イ)のとおり2月1日から6日までの分を日割り計算し、その分16,000円を敷金から差し引かれた。
 なお、M女は、証拠として当審判所に対して、A男が発行した16,000円の領収書及び敷金からの差引き計算書と題するメモを提出した。
ニ 前記イないしハの事実等に基づき総合判断すると、次のとおりである。
(イ) 本件特例に規定する居住用不動産とは、その年において贈与によりその者と婚姻期間が20年以上である配偶者から専ら居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利若しくは家屋を取得した場合の当該不動産をいい、当該不動産を取得した者が本件特例の適用を受けるためには、当該取得の日の属する年の翌年3月15日までに当該居住用不動産をその者の居住の用に供し、かつ、その後引き続き居住の用に供する見込みのある場合に限るとされているところ、その趣旨は、夫婦間における贈与が将来の生存配偶者の生活保障を目的として行われることが多いこと、税制面における妻の座の優遇などの面が考慮されて設けられたものであり、その趣旨に照らし、その控除の対象財産として居住用不動産が最も適当であると考えられるところから、控除対象財産が居住用不動産に限定されているのである。
 したがって、居住の用に供するための家屋の新築期間中だけの仮住まい及び引き続き居住の用に供する見込みのない場合の不動産については、本件特例の規定の適用はないものというべきである。
(ロ) 請求人は、A男の仕事の関係及びB男の教育上のため、昭和63年6月にそれまで賃貸していた本件資産の居住者を立ち退かせ、請求人夫婦らが本件資産に居住するため昭和63年9月から同年12月にかけて補修工事を施した旨主張する。
 しかしながら、前記ハのとおり、賃借人が本件資産から現実に引っ越したのは平成元年1月であり、賃借料も同年2月6日まで支払い、A男からその領収書を受領していること、賃借人が居住中の資産に賃貸人が自ら居住するために補修工事を施されることは通常考えられないこと及び補修工事に関する領収書等の提出もないこと等からすると、請求人夫婦らが居住するため昭和63年9月から12月に補修工事を施したとの事実は認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) A男は、S市新家屋を建築するため、昭和63年10月30日にH社と建築工事請負契約を締結したが、S市新家屋はC男の結婚後の居住の用に供するためであって、請求人夫婦が居住するつもりはなく、同人の結婚予定日に合わせて建築着工日を平成元年6月1日、建築完成予定日を平成元年11月30日としたものである。ところが、C男の結婚が取りやめとなったため、S市新家屋の引渡しを受けた平成元年12月11日の翌日からD女が病院に通院するのに付き添うため請求人だけが居住したものであって、そして、本件譲渡は、D女の病気、入院手術というやむを得ない予期できなかった後発的理由によるものであり、請求人夫婦らは、本件資産に引き続き居住するつもりであった旨主張する。
 しかしながら、前記イの(ニ)のとおり、本件借入申込書には、A男自ら居住するために建設する住宅の建築所要資金としての申込みであることが記載されていること、また、前記イの(ロ)及び(ホ)のとおり、A男は、昭和63年10月30日にS市新家屋を建築する建築工事請負契約を締結し、その約5か月後の平成元年3月14日にE社との間で本件資産の売却に係る本件媒介契約を締結していること並びに前記イの(ヘ)のとおり、本件媒介契約を締結した約2か月後の平成元年5月11日に本件資産をG社に売却する本件不動産売買契約を締結していること及び前記ハの(ロ)のとおり、A男は、昭和63年秋ころに本件資産の賃借人に対し、本件資産を売却する目的はS市新家屋の建築資金を得るためである旨申し立てていること等が認められる。
 これらの事実を併せ考慮すると、請求人夫婦は、同人夫婦らが居住するためにS市新家屋の建築を計画し、その建築資金を得るために本件資産を売却することを決め、そして、S市新家屋が完成するまでの間、本件資産に仮住まいしたものと認めるのが相当であるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ) 請求人は、請求人夫婦らが平成元年2月22日にP市住所に住民登録を異動したが、D女の急病により請求人は看病のため、P市住所、S市住所及びD女宅との間を行き来していた。A男は、本件資産に平成2年3月20日まで居住し、B男は通学等の日以外はS市新家屋に居住していた。そして、本件家屋の平成元年3月分及び4月分の電気の使用量が通常の月より少ないのは、A男が平成元年3月1日から11日まではほとんど外食であったこと、同月12日から4月14日までは請求人に代わってD女の看病のためS市旧家屋、病院及びD女宅に寝泊まりし、本件資産には不在であったことによる旨主張する。
 しかしながら、前記2の(2)のイの(ロ)のGの(B)のとおり、本件家屋の平成元年3月から平成2年3月までの電気の使用量は、S市旧家屋の昭和63年10月から平成元年3月まで及びS市新家屋の平成元年12月から平成2年3月までの各電気の使用量と比較すると極端に少ないことが認められる。
 仮に、請求人の主張する事実が存したとしても、本件資産の電気の使用量は極端に少なく、請求人夫婦らが主に居住の用に供したのは平成元年3月まではS市旧家屋であり、平成元年12月以降はS市新家屋であったものと認められ、本件資産は、S市新家屋を建築するまでの仮住まいであったとみるのが相当であり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ) 以上のとおり、本件資産は、昭和63年秋ころにS市新家屋の建築資金を得るために売却することを決め、昭和63年10月30日にS市新家屋に係る建築工事請負契約を締結するとともに、平成元年3月14日に本件資産を売却するための本件媒介契約を締結し、そして、平成元年5月11日に本件不動産売買契約を締結して本件譲渡をしたものであり、請求人夫婦らは、S市新家屋を建築するまでの間、本件資産に仮住まいしたものと認めるのが相当である。
 したがって、本件資産は、本件贈与を受けた平成元年2月22日の翌年の平成2年3月15日までに請求人夫婦らの居住の用に供し、かつ、その後引き続き居住の用に供する見込みであったものとは認められず、本件特例に規定する居住用不動産に該当しないことは明らかであるから、本件贈与に係る贈与税の計算上、本件特例を適用することはできない。
 よって、本件資産は本件特例に規定する居住用不動産に該当しないとして、本件贈与に係る贈与税の計算上、本件特例を認めなかった本件更正は適法である。

(2) 重加算税の賦課決定について

 以上のとおり、更正は適法であるので、以下、重加算税の賦課決定の適否について審理する。
イ 当審判所が前記(1)で認定したとおり、次の事実が認められる。
(イ) 本件資産は、、昭和63年秋ころにS市新家屋の建築資金を得るために売却することを決め、昭和63年10月30日にS市新家屋の建築工事請負契約を締結するとともに、平成元年3月14日に本件媒介契約に基づき売却依頼し、平成元年年5月11日に本件不動産売買契約を締結していること。
(ロ) 請求人夫婦らが本件資産に居住したのは、平成元年4月ころであるにもかかわらず、約2か月前の平成元年2月22日にP市住所に住民登録を異動し、更に、S市新家屋の引渡しを受けた平成元年12月11日の翌日には同家屋に居住しているにもかかわらず、約3か月後の平成2年3月20日に住民登録をS市住所に異動する等、約1年以上にわたり本件資産に居住していたように装い、本件確定申告書にそれにそう住民票を添付していること。
(ハ) A男は、本件資産に平成元年1月まで賃借人を居住させ、同年2月6日までの賃貸料を得ているにもかかわらず、昭和63年6月30日に賃借人を立ち退かせたこと、賃貸料は昭和63年6月分までであることを記載した昭和63年分確定申告書を提出していること及び、本件資産を昭和63年9月から同年12月にかけて補修工事をしたこと等の虚偽の申立てをしていること。
ロ 以上のとおり、請求人夫婦は、同人夫婦らの居住の用に供するためにS市新家屋の建築を計画するとともに、その建築資金を得るために本件資産を売却することを決め、そして、S市新家屋を建築するまでの仮住まいとして本件資産を使用したものであって、このことについて請求人夫婦は、S市新家屋の建築工事請負契約を締結した時点において承知していたとみるのが相当である。
 それにもかかわらず、請求人は、本件資産に居住する約2か月も前に住民登録をP市住所に異動し、更に、平成元年12月11日にS市新家屋の引渡しを受けた翌日には同家屋に居住しているにもかかわらず、本件特例の適用を受けるために、本件贈与に係る申告期限である平成2年3月15日に本件資産に居住し、かつ、その後も引き続き居住する見込みであるかのように装い、そして、申告期限を過ぎた平成2年3月20日には住民登録をS市住所に異動する等、本件資産に約1年以上にわたり居住していたかのように仮装し、それに沿う住民票を確定申告書に添付するとともに、本件特例を適用して、請求人の納付すべき税額をことさらに過少に記載し、内容虚偽の本件確定申告書を提出したものであり、このことは、通則法第68条第1項に規定する課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに該当するものというべきである。
 よって、原処分庁が、通則法第68条第1項の規定を適用して本件賦課決定をしたことは適法である。

(3) その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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