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(平5.6.23、裁決事例集No.45 312頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年分の所得税について、確定申告書(分離課税用)に納付すべき税額を零円と記載した上、これを法定申告期限までに原処分庁に提出した後、次表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を平成4年4月2日に原処分庁に提出した。
 その後、請求人は、平成4年5月8日に次表の「更正の請求」欄のとおり記載した更正の請求書を提出したところ、原処分庁は、当該請求の一部を容認し、同年6月2日付で次表の「原処分」欄記載のとおり更正を行った。

(単位:円)
区分 修正申告 更正の請求 原処分
総所得の金額 2,964,919 2,964,919 2,964,919
分離課税の短期譲渡所得の金額 12,138,134 3,109,200 12,104,761
納付すべき税額 4,911,500 1,852,500 4,897,900

 

 請求人は、上記処分を不服として平成4年7月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年10月28日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成4年11月28日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、妻E女(以下請求人と併せて「請求人ら」という。)とともに次表の順号1ないし順号4の宅地及び居宅(以下順号1を「A土地」、順号2を「B土地」、順号3を「C建物」、順号4を「D建物」といい、これらを併せて「本件土地建物」という。)を所有し、居住の用に供していたが、請求人らは、平成3年3月19日付の不動産売買契約書(以下「本件譲渡契約書」という。)に基づき本件土地建物を第三者に120,000,000円で一括して譲渡した。

 

順号 所在 地番又は家屋番号 地目又は種類 地積又は床面積 共有持分等
請求人
1 P市R町1丁目 611番31 宅地 平方メートル
191.03
3分の2 3分の1
2 P市R町1丁目 611番2 宅地 19.72 4分の1
3 P市R町1丁目611番2 92番3 居宅 54.94 全部
4 P市R町1丁目611番2 611番2の4 居宅 1階 19.81
2階 17.39
全部

 

 請求人は、本件土地建物に係る分離課税の短期譲渡所得の金額の計算に当たり、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定を適用して、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出していたが、平成4年5月8日、請求人ら夫婦がそれぞれ同条第1項に規定する特別控除額30,000,000円の全額が適用できるよう別表1の「更正の請求」欄記載のとおり請求人の譲渡所得の金額を算定して更正の請求をした。
 これに対し、原処分庁は、請求人の主張する計算方法は採用できないとした上で、本件土地建物が一括して譲渡及び取得されており、請求人に係る譲渡収入金額等が不明であることから、譲渡収入金額等を固定資産税評価額に基づいて請求人の譲渡所得の金額を別表1の「原処分」欄記載のとおり算定し、更正の請求額の一部を認める更正をした。
ロ しかしながら、次に述べるとおりであるから、更正の請求額は全額認められるべきである。
(イ) 共有の居住用財産に係る譲渡益のあん分方法については法律に規定がないから、その方法について税務署が介入すべきでない。
(ロ) 夫婦が共有で居住用財産を所有し、かつ、一緒に生活していた場合には、夫婦がそれぞれ措置法第35条第1項に規定する特別控除額30,000,000円の全額が適用できるよう譲渡所得の金額を算定すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 所得税法第33条《譲渡所得》第3項は、譲渡所得の計算方法を、当該譲渡所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除すると規定しており、更に、同法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、その年において収入すべき金額と規定している。
ロ したがって、請求人は、請求人ら夫婦がそれぞれ措置法第35条第1項に規定する特別控除額30,000,000円の全額が適用できるよう請求人の譲渡所得の金額を計算すべきであると主張するが、この主張は所得税法に定める譲渡所得の計算に基づかない方法であるから、請求人の主張には理由がない。
ハ そこで、所得税法第33条第3項及び同法第36条第1項の規定に基づき、請求人の分離課税の短期譲渡所得の金額を計算すると別表1の「原処分」欄記載のとおりとなる。
 この計算過程は、次のとおりである。
(イ) 譲渡収入金額について
 本件土地建物は、平成3年3月19日に一括して譲渡されており、請求人に係る譲渡収入金額が不明であることから、譲渡価額の総額を本件土地建物の各資産の平成3年分の固定資産税評価額を基に算定すると別表2の「9」欄記載の77,901,261円となる。
(ロ) 取得費について
A 本件土地建物の取得に係る総額は、請求人が平成3年分の所得税の修正申告書に添付した譲渡資産などの内訳書に記載された本件土地建物の購入価額50,000,000円、登記費用等441,400円を合計した50,441,400円である。
B 本件土地建物は、昭和61年7月30日に一括して取得されており、請求人に係る取得価額が不明であることから、上記Aの総額50,441,400円を本件土地建物の各資産の昭和61年分の固定資産税評価額を基に算定すると、請求人に係るA土地及びB土地の取得価額は29,960,760円、C建物の取得価額は2,608,911円となる。
C 更に、C建物に係る取得費は、上記Bの2,608,911円に請求人が本件土地建物の取得後に支払った浴室改造費567,560円を加算した金額3,176,471円から、所得税法第49条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》に規定する減価償却費1,086,353円を控除した2,090,118円(以下「C建物に係る未償却残高」という。)である。
D したがって、取得費は、前記Bの土地と上記Cの建物の金額を合計した32,050,878円となる。
(ハ) 譲渡費用について
 請求人が平成3年分の所得税の修正申告書に添付した譲渡資産などの内訳書に記載された譲渡費用の合計額5,769,800円に譲渡価額の総額120,000,000円のうち前記(イ)の請求人に係る譲渡収入金77,901,261円の占める割合を乗じた3,745,622円である。
(ニ) 特別控除額について
 特別控除額は、措置法第35条第1項に規定する30,000,000円である。

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3 判断

 分離課税の短期譲渡所得の金額について争いがあるので、以下審理する。
(1) 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人らは、本件譲渡契約書に基づき本件土地建物を第三者に120,000,000円で一括して譲渡しているが、本件土地建物の各資産の価額は明らかでないこと。
 なお、本件譲渡契約書の(7)特約には、残金決済後2週間以内に売主が建物2棟を解体し更地にして引き渡し、解体費用は売主の負担とする旨記載されており、請求人らは、C建物及びD建物の解体に伴う費用として1,900,000円を平成3年5月21日に支払っていること。
ロ 請求人らは、譲渡する直前まで本件土地建物を居住の用に供していたこと。
 なお、請求人らは、C建物及びD建物を一体として居住の用に供していたこと。
ハ 請求人らは、昭和61年7月30日、本件土地建物を第三者から50,000,000円で一括して取得しているが、本件土地建物の各物件の価額は明らかでないこと。
 また、請求人らは、その取得に伴い登記費用等441,400円を支払っており、更に、請求人は、本件土地建物の取得直後にC建物に係る浴室改造費567,560円を支払っていること。
 なお、請求人らは、昭和61年7月30日の取得に伴い、A土地の全部、B土地及びC建物については請求人の名義で、D建物については妻E女の名義でそれぞれ所有権の登記をし、その後、請求人は、昭和62年11月16日にA土地の3分の1を妻E女に贈与したこと。
ニ 請求人らは、本件土地建物を譲渡するために前記イ記述の建物の解体に伴う費用を含めて5,769,800円を支払っていること。
ホ 請求人が平成4年4月2日の修正申告において算定した譲渡収入金額、取得費、譲渡費用及び譲渡所得金額は、本件土地建物の譲渡及び取得等に係る総額に請求人のA建物の共有持分である3分の2を乗じて算定していること。
ヘ 請求人が平成4年5月8日の更正の請求において算定した譲渡収入金額、取得費、譲渡費用及び譲渡所得金額は、請求人が、妻E女の措置法第35条第1項に規定する特別控除額を控除する前の譲渡益の金額が30,000,000円になるように調整して算出したものであること。
(2) ところで、所得税法第33条第3項は、譲渡所得の計算方法を、当該譲渡所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除すると規定し、更に、同法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、その年において収入すべき金額とする旨規定している。
 また、措置法第32条《短期譲渡所得の課税の特例》第1項は、かっこ書において分離課税の短期譲渡所得の金額は所得税法第33条第3項に規定する譲渡所得の特別控除額の控除をしないで計算した金額であると規定しており、更に、措置法第35条第1項は、個人が居住の用に供している家屋及び土地等を譲渡した場合には一定の要件の下に居住用財産の譲渡に係る特別控除額30,000,000円を分離課税の譲渡所得の金額から控除するとしているが、同項第2号において当該譲渡所得の金額が30,000,000円に満たない場合には、当該譲渡に係る部分の金額を控除した金額を同法第32条第1項中の短期譲渡所得の金額とする旨規定している。
(3) したがって、請求人は、本件土地建物に係る分離課税の短期譲渡所得の計算に当たり、共有の居住用財産の譲渡益のあん分方法については法律に規定がないから、その方法について税務署が介入すべきではなく、夫婦が共有で居住用財産を所有し、かつ、一緒に生活していれば、夫婦がそれぞれ措置法第35条第1項に規定する特別控除額30,000,000円の全額が適用できるよう譲渡所得の金額を計算すべきであると主張するが、かかる主張は請求人独自の見解であって、また、その算定方法に合理性があるものとも認められないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(4) そこで、原処分関係資料及び当審判所の調査に基づき原処分庁が算定した分離課税の短期譲渡所得の金額を検討したところ、次のとおりである。
イ 譲渡収入金額について
 原処分庁は、本件土地建物が本件譲渡契約書に基づいて一括して譲渡されており、請求人に係る譲渡収入金額が明らかでないことから、請求人に係る譲渡収入金額の計算に当たり、平成3年分の固定資産税の評価額に基づいて土地及び建物の価額を算定しているが、前記(1)のイの事実によれば、本件譲渡契約書の特約事項において、請求人らがC建物及びD建物を解体した上でA土地及びB土地を更地にして引渡すことが条件とされており、また、請求人らがその解体に伴う費用として1,900,000円を支払っていることから、C建物及びD建物に係る譲渡対価の算定方法について検討するまでもなく、本件譲渡契約書に記載された売買代金総額120,000,000円は、すべてA土地及びB土地の譲渡対価とみるのが相当である。
 次に、A土地及びB土地のうち請求人に係る譲渡収入金額は、請求人らが譲渡した土地の総面積のうち請求人が譲渡した土地の面積の占める割合を譲渡価額の総額に乗じて計算するのが相当であるから、これに基づいて算定すると次のとおりとなる。


区分 金額又は面積
請求人らが譲渡した譲渡価額の総額 1
120,000,000
請求人らが譲渡した土地の総面積 2 平方メートル
195.96
2のうち請求人が譲渡した土地の面積 3 132.28
請求人の譲渡収入金額(1÷2×3 4
81,004,286

 

ロ 取得費について
(イ) 原処分庁は、請求人らが、昭和61年7月30日、本件土地建物を第三者から一括して取得しているために、請求人に係る取得価額が明らかでないことから、請求人に係る取得費の計算に当たり、昭和61年の固定資産税評価額に基づいて算定していることが認められる。
 ところで、本件のように、一括して土地と建物が取得されたことから各資産の価額が不明であって、更に、その所有者が複数いる場合において、各所有者の取得価額を算定する場合には、それぞれの資産の取得時の価額の比により区分して計算するのが合理的であると解されるところ、1原処分庁は、更正の請求に係る原処分において、その請求する計算方法は採用できないとしているにもかかわらず、あえて新たに固定資産税評価額に基づく方法を採用することにより更正の請求額の一部を容認していることが認められるから、この点において、請求人に格別の不利益をもたらしたものとはいえないこと、また、2固定資産税に係る土地課税台帳及び家屋課税台帳に登録される価額は、地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第5号において「適正な時価をいう。」と規定されており、その評価は、土地にあっては売買実例価格、建物にあっては再建築価格を基準としてなされていることから、固定資産税評価額はその時における時価を反映した金額に基づくものといえること、更に、3他に本件土地建物の取得時における価額を算定するに足りる証拠資料もないことを併せ考えると、本件において、固定資産税評価額に基づいて請求人に係る取得費を算定したことがあながち不合理なものとはいえない。
(ロ) なお、原処分庁は、C建物に係る未償却残高2,090,118円を取得費に算入しているが、前記イで述べたとおり、C建物は取り壊されていることから、C建物に係る未償却残高は資産の取壊しによる損失とするのが相当であるから、譲渡費用に算入するのが相当である。
 したがって、請求人に係る取得費は、原処分庁が算定した32,050,878円からC建物に係る未償却残高2,090,118円を控除した29,960,760円とするのが相当である。
ハ 譲渡費用について
 原処分庁が、譲渡費用について、前記(1)のニの譲渡費用の総額5,769,800円に譲渡価額の総額のうち請求人に係る譲渡収入金の占める割合を乗じて算定したことは相当であるところ、当審判所において前記イで算定した請求人に係る譲渡収入金に基づき算定すると3,894,821円となり、これに、上記ロの(ロ)で述べたC建物に係る資産の損失2,090,118円を加算した5,984,939円を請求人に係る譲渡費用とするのが相当である。
ニ 以上により、請求人の分離課税の短期譲渡所得の金額を計算すると別表1の「当審判所の認定額」欄記載のとおりとなる。
(5) 以上審理したところによれば、請求人の分離課税の短期譲渡所得の金額は原処分の金額を上回るから、原処分は相当であり、請求人の主張には理由がない。
(6) 原処分のその余の部分について
 原処分のその余の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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