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(平5.12.10、裁決事例集No.46 6頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 本件審査請求に至る経緯は、次のとおりである。
(1) 審査請求人(以下「請求人」という。)は、建売・土地売買業を営む同族会社であるが、昭和48年10月5日に、A市B町2丁目3番28号所在のC株式会社との間で、D市E町字○○等所在の山林、田等260,149平方メートルを3,856,055,000円で売却する契約を締結した。
 しかしながら、昭和53年9月28日に、上記売買契約に係る土地のうち254,595平方メートルに相当する部分(以下「本件土地」という。)について、売買契約の合意解除(以下「本件契約解除」という。)が行われ、同日付で本件土地を1,538,261,183円で売却する契約を再度C株式会社と締結した。
 請求人は、本件契約解除により昭和48年10月5日にそ及して本件土地に係る売買契約の効力が消滅し損失が生じたとして、昭和53年11月27日に別表1の「更正の請求」欄に記載のとおり、法人税及び会社臨時特別税について、昭和48年5月1日から昭和49年4月30日までの事業年度(以下「昭和49年4月期)という。)にそ及して課税を修正すべきであるとして更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
(2) 原処分庁は、昭和58年5月24日付けで、本件更正の請求に対していずれも更正すべき理由がない旨の通知処分(以下「法人税に係る原処分」、「会社臨時特別税に係る原処分」といい、これらを併せて「原処分」という。)をした。
(3) 請求人は、原処分を不服として、昭和58年7月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が異議申立て後3か月を経過しても、なお異議決定をしなかったので、平成3年8月6日に審査請求をした。
 なお、請求人は、昭和59年12月28日にF株式会社からG株式会社に商号変更(昭和60年1月9日登記)をした。
 また、請求人は、次のとおり本店所在地を移転しており、現在の本店所在地はH市I町1丁目1番45号であるので、当該所在地を管轄するJ税務署長が原処分庁となった。

 

移転年月日等
(登記年月日)
本店所在地 原処分庁
昭和45年3月23日
(昭45.4.11)
K市L町4番31号 K税務署長
昭和51年11月1日
(昭51.11.15)
M市N町62番地 N税務署長
昭和54年5月1日
(昭54.5.8)
M市P町15番地 P税務署長
昭和59年12月30日
(昭60.1.11)
H市I町1丁目1番45号 J税務署長

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2 主張

(1) 請求人の主張

原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分の理由附記について
 原処分の通知書は、請求人の更正されるべき理由に対応して、その判断・結論を示すべきであるにもかかわらず、「いずれも更正すべき理由がない」との結論を示すのみで、何らの理由附記もなされておらず違法である。
ロ 本件更正の請求について
 本件更正の請求は、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項の規定に基づいて適法に行われたものであり、これを認めない原処分は違法である。
(イ)請求人は、昭和53年9月28日付の本件契約解除の結果、本件土地に係る売買契約がそ及して効力を失ったため、2,092,140,630円の損失(以下「本件損失額」という。)を被った。
 この事実は、通則法第23条第2項第3号及び同法施行令第6条《更正の請求》第1項第2号の規定にいう「当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、又は取り消されたこと。」に該当するから、本件損失額については、上記法令の適用による更正の請求が認められるべきである。
(ロ)本件損失額は、次の理由により、昭和48年10月5日に発生したものであり、昭和49年4月期にそ及して課税所得の金額の計算を修正すべきである。
A 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第4項の規定によれば、各事業年度の収益の額及び損失の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算することとされている。
 これは、法人税法が継続企業の原則を前提としていることから、損益計算の基本原則に従って会計処理をすべき旨を定めているものであり、後発的事由によって既往事業年度にそ及して課税を修正すべき事態が生じた場合であっても、継続企業の経常的損益の範囲内のものは、課税所得の計算上、既往事業年度にそ及して減額更正が認められない趣旨と解され、損益計算の基本原則を遵守している限り、継続企業でない場合で通年の経営損失の状況に比して異常に多額な損失の額にまで通則法第23条第2項の規定の適用ができないと言及したものではない。
 上記のように異常な状態にある場合、更正の請求を認めたとしても、上記損益計算の基本原則を遵守している限り、納税者の担税力の適応性、所得の適正課税の実現を基礎としている法人税法の考え方に反するものではない。
 また、法人税法においては、継続企業の原則に従い後発的事由による損失の額が、すべて既往事業年度にそ及して減額更正が認められないとすれば、法人にあっては、通則法第23条第2項第3号及び同法施行令第6条第1項第2号の規定が意味をなさない。
B 所得税においても、所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第1項及び同法第152条《各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例》の規定によれば、事業所得者等の所得であっても、棚卸資産以外の資産に係る譲渡所得については、収入金額の全部又は一部を回収することができないこととなった場合、更正の請求により、課税所得の計算上、既往年分にそ及して修正ができることを認めている。
 これは、事業所得者が課税所得の計算に当たって、通年の経営損益に比して異常に多額の損失の発生があった場合において、担税力に適合した課税が行われることの趣旨に基づき規定されたものと解される。
 また、所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第2項及び同法施行令第141条《必要経費に算入される損失の生ずる事由》第3号の規定によると、事業所得、不動産所得及び山林所得を生ずべき事業について、その事業遂行上生じた課税所得の計算の基礎となった行為の無効又は解除等による損失の額は、その損失の生じた日の属する年分の所得金額の計算上、必要経費に算入する旨を定めている。
 この規定の趣旨は、事業所得は継続的に発生するものであるから、その課税の在り方を導いたものであり、過年分損益を修正すべき事態であっても、経常的損益の範囲内のものは過年分にそ及して修正することは認めないとしたものと解され、損失の発生原因の所在やその損失額が非経常的であって、これに課税をすれば不当な負担を強いるような場合にまで言及しているものではない。
C 請求人は、1本件損失額は、請求人の通年の経営損失の状況に比して異常に多額であること、2昭和50年以降は、請求人が本来の事業活動を遂行していく上で必要とされる宅建業の業者登録・建設業の業者登録を返上させられ、事業の継続が実質上断たれた状態にあり、本件契約解除のあった日の属する昭和53年5月1日から昭和54年4月30日までの事業年度(以下「昭和54年4月期」という。)では全く収益がないことから、本件損失額を当該事業年度の収益から控除する余地はなく、また、法人税法第81条《欠損金の繰戻しによる還付》及び同法第57条《青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し》の規定による救済を受けることもできない。
 したがって、法人税法の趣旨に立てば、同法第22条第4項の規定においても、本件損失額については、通則法第23条第2項の規定の適用による更正の請求が認められるべきである。

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(2) 原処分庁の主張

原処分は、次の理由により適法である。
イ 原処分の理由附記について
 更正の請求に対する通知は、その通知書に理由を附記すべきことを定めた法律上の規定はないから、更正をすべき理由がない旨の通知書にその処分理由が附記されていなくても何ら違法ではない。
ロ 本件更正の請求について
 本件更正の請求は、次の理由により、通則法第23条第2項の規定の適用はなく、原処分は適法である。
(イ)通則法第23条の規定は、もともと国税一般についての更正の請求の手続を包括的に定めたものにすぎず、所得金額の計算の基礎となった事実に同条第2項各号に規定する事実の発生があった場合でも、この規定によって直ちに減額更正するものではなく、課税の実体的要件である課税標準等は各税法がこれを定めているので、更正の請求をすべき理由があるかどうかは、各税法の規定ないしはその解釈によって判断すべきである。
(ロ)法人税法第22条第4項の規定によれば、各事業年度の収益の額及び損失の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算することとされている。
 いわゆる、法人税法における所得金額の計算は、継続企業の原則に従い、期間損益課税を建前としており、当該事業年度において生じた収益と費用・損失とを対応させて行い、その収益及び費用・損失については、その発生原因を問わず、すべて当該事業年度に属する損益として認識するものと解されている。
 したがって、所得金額の計算の基礎となった事実に後発的事由に基づき変更が生じたとしても、既往の事業年度にそ及して会計処理を変更すべきでなく、当該事由の生じた日を含む事業年度で処理すべきである。
 なお、所得税法においても事業所得については、所得税法第51条第2項及び同法施行令第141条第3号の規定によれば、後発的事由により生じた損失の額は、その事由の生じた年分の必要経費として算入すると明記しており、継続企業である法人と同様の所得計算の方法が示され、通則法第23条の規定の適用が排除されている。
(ハ)請求人は、本件損失額が異常に多額であり、法人税法第81条及び同法第57条の規定によっても救済することができないと主張するが、上記(ロ)のとおり、法人税法が、いわゆる権利確定主義をとっていることから、他に別段の定めがない以上救済されない結果となるとしてもやむを得ないものである。
(ニ)したがって、本件契約解除に伴い生じた本件損失額は、法人税における課税所得の計算上、本件契約解除のあった日の属する昭和54年4月期における損失の額として処理されるべきである。

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3 判断

(1) 原処分の理由附記について

 請求人は、更正の請求に対する通知書に理由が附記されておらず、原処分は違法であると主張するが、更正の請求に対する通知書にその理由を附記すべき旨を定めた法令の規定はないから、その理由が附記されていなくても原処分が違法となるものではなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 本件更正の請求について

 本件の争点は、通則法第23条第2項の規定に基づき、昭和49年4月期にそ及して所得金額を減額更正すべきか否かにあるので、以下検討する。
イ 通則法は、同法第1条《目的》で「この法律は、国税についての基本的な事項及び共通的な事項を定め」と規定しているとおり、各国税を通じて共通する手続を中心にした一般法であり、同法第4条《他の国税に関する法律との関係》では「この法律に規定する事項で他の国税に関する法律に別段の定めがあるものは、その定めるところによる。」と規定されている。
 ところで、通則法第23条第2項の規定も国税一般についての更正の請求の手続を包括的に規定したものである。
 したがって、通則法第23条第2項の各号に該当する後発的事由が発生しても、個々の税法の課税要件の実体規定に基づき、課税標準等の変動をどう処理すべきかその内容を検討し判断すべきであり、後発的事由が同項の各号に該当することのみをもって当然に更正の請求ができると解すべきではない。
ロ 現行の法人税法は、期間損益課税を前提としていると解され、法人の各事業年度の所得金額の計算に関し、法文上、同法第22条第1項で「各事業年度の所得金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額」と定め、同法第22条第4項の規定によれば、当該事業年度の益金である収益の額及び損金である費用・損失の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきであるとされている。
 一般に、法人の所得については、法人自体が継続企業であることから、継続性の原則に従い、一定の期間を単位としてその期間内に生じた収益と費用・損失を対応させて算定しているところであり、税法上、別段の定めがあるものを除き、収益及び費用・損失の額は、私法上の法律効果によることなく経済的に発生した時点で認識すべきものと解され、当期において生じた損失は、その発生事由が既往の事業年度に対応するものであっても、当期に生じた益金と対応させて会計処理することになり、この発生主義による期間損益計算が原則とされている。
 したがって、このような会計処理を前提とする法人税においては、後発的事由によって損失が生じたからといって既往の事業年度にそ及してこれを修正すべきでなく、法人税法第22条の所定の事業年度の損金として計上されることになる。
ハ ところで、所得税法においては、所得税法第152条及び同法施行令第274条《更正の請求の特例の対象となる事実》の規定で更正の請求の特別の規定を定め、これらの規定並びに同法第51条第2項及び同法施行令第141条第3号の規定によれば事業所得については、後発的事由に基づく更正の請求は認めておらず、後発的事由により生じた損失の額は、その発生した年分の必要経費に算入することとされている。
 これらの規定の趣旨は、事業所得が継続的に発生するという点にあることから、期間損益課税を前提としたものと解され、事業所得における後発的事由による更正の請求については、前記ロのとおり、法人税の場合と同様に取り扱われるものとされている。
ニ 請求人は、本件契約解除による本件損失額は、請求人の事業の継続性が実質上断たれた状況の下で発生し、通年の損益の状況に比し異常に多額な損失であるから、法人税法第22条第4項の規定においても通則法第23条第2項の規定が適用されるものであると主張するので、以下この点について検討する。
 請求人及び原処分庁の提出資料・答述並びに当審判所の検討したところによれば、次のとおりである。
(イ)請求人の事業は、建売・土地売買及び貸金等の業務を目的としており、請求人の昭和49年4月期以降、本件契約解除のあった日の属する昭和54年4月期までの法人税の確定申告等の状況によれば、別表2に記載のとおり各事業年度においてこれらの事業に係る収益の計上があり、昭和54年4月期で所得金額が欠損であるものの、請求人が当期において事業の継続性を断ったとする客観的事実は認められない。
(ロ)請求人は、本件契約解除のあった日の属する昭和54年4月期末現在において、債務超過の状態にあることは認められるが、解散又は清算等の事実を認めるに足りる証拠はない。
(ハ)本件契約解除は、昭和53年9月28日付で、R公社と本件土地等の売買交換当事者であるC株式会社ほか6社との間において、S地域並びに本件土地等に係る係争解決のため、売買交換契約の合意解除の基本契約書を締結したことに基づき、同日付で請求人とC株式会社との間で、本件土地の売買契約を合意解除する旨の契約書を締結したものであることが認められる。
(ニ)以上のことから、本件契約解除に伴い生じた本件損失額は、非経常的で多額なものであるが、昭和54年4月期において請求人の事業の継続性が実質上失われた状態とはいえず、かつ、これが期間損益計算になじまないものとする特段の根拠も認められないことから、後発的事由による更正の請求の余地があるとする請求人の主張は当たらない。
ホ 以上により総合して判断すると、本件損失額は、法人税法第22条第4項の規定による一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従い、本件契約解除のあった日の属する昭和54年4月期の所得金額の計算上、損金の額に算入すべきものであるから、通則法第23条第2項の規定を適用し、昭和49年4月期にそ及して所得金額を減額修正すべきものではない。
ヘ したがって、法人税に係る原処分は相当であり、請求人の主張には理由がない。
 また、これに伴う会社臨時特別税に係る原処分も相当である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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