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(平5.12.15、裁決事例集No.46 156頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成元年2月1日から平成2年1月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書に所得金額を82,495,321円、納付すべき税額を32,922,700円と記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成2年12月26日付で所得金額を192,167,261円、納付すべき税額を80,554,000円とする更正処分及び過少申告加算税の額を5,405,500円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号に基づき、異議申立てをすることなく、平成3年2月15日に本件審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、平成元年11月14日、甲リース株式会社(以下「甲リース社」という。)から、乙株式会社(以下「乙社」という。)製電話回線自動選択アダプター(Xタイプ)1,506台(以下「本件物件」という。)を、割賦販売により総額121,437,816円で買い受け(以下「本件割賦販売取引」という。)、同物件を同日、甲リース社に、賃貸借期間(以下「リース期間」という。)を6年、賃貸料(以下「リース料」という。)総額を112,805,424円とする条件で賃貸した(以下「本件リース取引」といい、本件割賦販売取引と併せて「本件取引」という。)。
 請求人は、本件物件の個々の単価が200,000円未満であることから、法人税法施行令第133条《少額の減価償却資産の取得価額の損金算入》の規定を適用し、本件物件の買入価額121,437,816円を本件事業年度の損金の額に算入するとともに、本件事業年度に係る未収のリース料3,133,484円を益金の額に算入した。
 原処分庁は、これに対し、本件取引はその経済的実質からみて不自然、不合理で実態のない取引であり、法人税の負担を不当に減少させる結果となるから、本件取引に係る請求人の行為計算は認められないとして、本件取引をなかったものとして更正処分をした。
 しかしながら、本件取引は、次のとおり、経済的実質からみて通常の割賦販売契約とリース契約による取引であり、実態のない取引などではなく、また、会計上も何ら不自然、不合理な取引ではない。
A 本件取引によって請求人には8,632,392円の損失が生じるが、本件物件については、甲リース社から本件物件を賃借している丙株式会社(以下「丙社」という。)が、本件リース取引によるリース期間の経過後も、長期間にわたり賃借を継続する(以下、リース期間経過後、リース物件を再び賃貸借することを「再リース」という。)ことが確実であるから、請求人と甲リース社の間においても再リースされることは確実である。
 ところで、本件物件の再リース料については、仮に再リース期間を本件物件の法定耐用年数10年からリース期間6年を差し引いた残りの4年とし、再リース料を本件リース取引に係るリース料の8分の1として計算すると、再リース料の合計は9,400,452円となる。
 請求人は、この再リース料を本件リース取引によるリース料総額(112,805,424円)に加算すると、本件物件の買入価額121,437,816円を上回ることになると判断し、本件取引を行ったものである。
 リース期間の当初においては、リース物件の減価償却費等がリース料収入を上回るために損失が先行計上され、リース期間中は減価償却費等が漸減していき、リース期間全体を通じると、リース料収入の合計がリース物件の買入価額等を上回り、利益を生じることとなるリース取引は、本件リース取引に限ったことではなく、リース取引本来の特性であるといえ、また、本件取引については、本件リース取引によるリース料と再リース料の合計が本件物件の買入価額を上回り、利益を生じることになるから、本件取引に係るリース期間だけをみれば損失取引となるからといって経済的に不合理であるということはできない。
B 原処分庁は、本件取引を実態のない取引であるとする理由として、本件取引における賦払金の支払とリース料の受領とが相殺され、第1回を除いては資金移動が生じないことを挙げているが、相殺することとしたのは、第1回を除いては賦払金の額とリース料の額とが同額となることから資金移動を生じさせないことによる経済的合理性を追求したものであり、会計上何ら不自然な点はない。
C 原処分庁は、請求人が本件物件の実質的な所有権を有していないから、本件取引は実態のない取引である旨主張するが、請求人は、次のとおり、本件物件の実質的な所有権を有しているから、原処分庁の判断は誤りである。
(A)本件物件については、丙社が、甲リース社との間に締結したリース契約(以下「転リース契約」という。)に基づき、善良なる管理者の立場で、物件の製造番号に基づき1台ごとに設置場所も含めて管理を行っている。
 請求人は、甲リース社から交付された納品台帳(以下「本件納品台帳」という。)を所持しているから、本件物件の設置場所を明確に知ることができ、また、これを回収することも可能である。
(B)請求人は、リース期間の経過後に本件物件が再リースされない場合には同物件の処理を甲リース社に一任することとしているが、その際に発生する費用及び収入については、請求人と甲リース社とが協議して決定することになっているから、このことをもって請求人に本件物件の処分権がないとはいえない。
(ロ)本件リース取引は、昭和53年7月20日付直法2ー19、直所3ー25国税庁長官通達「リース取引に係る法人税及び所得税の取扱いについて」(以下「53年通達」という。)において、当該通達の適用の前提となるリース取引の基準に該当するから、課税上の弊害の有無については、53年通達を適用して判断すべきであるところ、53年通達には、所有する中古資産をいったんリース会社に譲渡した上でこれをリース会社から賃借する取引についての取扱いはあるものの、本件物件のように新品の資産がリース物件となる取引の取扱いについては定めていないから、本件リース取引は、53年通達に掲げる課税上弊害のある取引には該当しない。
 また、昭和63年3月30日付直法2ー7、直所3ー7、直調4ー5国税庁長官通達「リース期間が法定耐用年数よりも長いリース取引に対する税務上の取扱いについて」(以下「63年通達」といい、53年通達と併せて「リース通達」という。)は、リース期間が法定耐用年数よりも短い本件リース取引には適用されない。
 したがって、リース通達に照らしてみても、本件リース取引は、課税上弊害があるとされるリース取引には該当しない。
(ハ)以上のとおりであるから、請求人が本件物件を取得し、賃貸に供しているという実態に即して、請求人の所得金額を計算すべきであり、本件物件の買入価額121,437,816円を法人税法施行令第133条の規定により本件事業年度の損金の額に算入し、本件事業年度に係る未収のリース料3,133,484円を益金の額に算入して計算すると、請求人の本件事業年度の所得の金額は82,495,321円となる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正処分について
(イ)法人税法は、法人が経済人として経済的、合理的に行為計算を行うべきことを前提として、このような合理的行為計算に基づき、生ずべき所得に対し課税し、租税収入を確保しようとするものであるから、法人が経済的合理性を無視した不自然、不合理な取引を行うことによって、法人税の負担を不当に減少させた場合には、法人税法に内在する実質課税の原則に基づき、その法人の当該事業年度の所得金額は、当該法人が通常とったであろう合理的な計算に引き直して計算することができると解されている。
(ロ)本件取引は、次の理由により、経済的実質からみて不自然、不合理で、実態のない取引であり、法人税の負担を不当に減少させる結果となるため、税務上、請求人の本件取引に係る行為計算は認められず、これをなかったものとするのが相当である。
A 請求人の場合、本件取引によって、本件物件に係るリース料収入の総額と買入価額との差額の損失を被るのであるから、請求人に生ずる課税の繰延べという経済的効果を考慮しなければ、請求人が本件取引を行う経済的合理性はなく、経済人の行為としては不自然、不合理なものといえる。
 なお、請求人の主張する再リース料については、不確実な仮定に基づいて算定されているから、到底容認できるものではない。
B 本件取引は、次の理由により、本来的には取引の当事者ではない請求人が、甲リース社との間において本件取引を行うことにより、あたかも取引の当事者であるかのように仕組まれたものであり、取引の実態がない。
(A)請求人は、上記Aのとおり、本件取引を行うことにより経済的に損失を被る。
(B)本件取引に係る賦払金の支払とリース料の受領とは、第1回を除き、第2回以降は同額に設定され、かつ、その決済は相殺されて資金移動が生じない。
(C)本件取引は、契約上、甲リース社が本件物件を乙社から取得し、これを請求人に譲渡すると同時に請求人から借り受けるという、いわゆるリースバックの形態となっているが、甲リース社は、同物件を丙社に転貸しており、この一連の取引の流れからすると、請求人に関する部分を除いた流れが経済取引としては自然であり、この流れの中に経済的に損失を被る請求人が介在することは不自然であるといわざるを得ない。
 しかも、本件物件は、乙社から丙社の指定する場所に直送されており、請求人がこれをいったん取得したという事実はない。
(D)請求人は、次のとおり、本件物件を実質的に所有して常時自らの管理下に置くことができるとはいえず、自己の所有物を賃貸する一般的なリース取引とはかけ離れたものである。
a 請求人は、甲リース社が本件物件をその設置場所から移動させ、丙社に転貸することを事前に承諾している。
b 請求人は、リース期間の経過後に本件物件が再リースされない場合に、本件物件の処理を甲リース社に一任している。
c 本件物件の本来の意味でのエンドユーザーは、丙社から同物件を借り受けている個々の使用者であり、1,506台もの物件が国内に散在していることからすると、除去ないし再設置に多額の費用を要することになるから、回収を行うことについての経済的合理性はなく、回収は事実上不可能であるといわざるを得ない。
d 請求人は、原処分の調査時において、本件物件の個々の使用者名、その設置場所等を明らかにする資料を所持していないなど、本件物件がどこに設置されているかについて全く知り得る状況にはなかった。
(ハ)ところで、請求人は、本件リース取引は、リース通達に照らしてみても、課税上弊害のある取引には当たらない旨主張する。
 リース通達は、リース取引の中に、その経済的実質において一般の賃貸借と異なる面を有しているものがあり、これを一般の賃貸借と同様に取り扱うと課税上の弊害を生じることから、実質課税の原則に基づき、これら課税上の弊害を生じる取引については、個々の取引の経済的実質に即して売買取引等と取り扱うこととするものである。
 リース通達において示されているリース取引を売買取引等とみる条件を満たさないリース取引であっても、直ちに課税上の弊害が全くないとはいえず、課税実務上は、そのリース取引を賃貸借と取り扱うと課税上の弊害を生じる取引については、実質課税の原則に基づき、その経済的実質に即して取り扱うべきである。
 本件取引により、請求人は、リース通達において示されている条件と法人税法施行令第133条の規定に沿う内容の取引を組成することにより課税の繰延べを図り、税負担を不当に減少させているので、本件取引は到底公正な経済取引とはいえず、当然にその経済的実質に即した取扱いがなされるべきである。
(ニ)以上のとおりであるから、本件取引については税務上なかったものとするのが相当であり、本件物件の買入価額121,437,816円は損金の額に算入されず、本件事業年度に係るリース料収入3,133,484円は益金の額に算入されないが、請求人は、本件取引を行うことにより、リース料収入の総額と本件物件の買入価額との差額8,632,392円の損失を被っているから、これを雑損失として控除して計算すると、請求人の本件事業年度の所得の金額は192,167,261円となる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1) 更正処分について

 本件取引に係る益金の額及び損金の額に算入すべき金額について争いがあるので、以下検討する。
イ 請求人提出資料、原処分関係資料、請求人及び原処分庁の各答述並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成元年11月14日に、甲リース社との間で、次の要旨の契約(以下「本件割賦販売契約」という。)を締結し、その契約内容を記載した割賦販売契約書を取り交したこと。
A 甲リース社は、本件物件を請求人に割賦で売り渡し、請求人はこれを買い受ける。(第1条)
B 本件物件の割賦販売代金総額は、121,437,816円であり、その賦払金の額は、第1回が18,032,844円、第2回から第12回が9,400,452円である。(第2条)
C 請求人は、本件物件の納入後6か月目末日以降6か月ごとに賦払金を甲リース社に支払う。(第3条)
D 本契約に基づく取引に課される消費税額は請求人の負担とし、請求人は3,643,128円を賦払金とともに分割して甲リース社に支払う。(第4条)
E 本件物件の所有権は、甲リース社が留保し、請求人がこの契約に基づく一切の債務を完済した時に請求人に移転する。(第5条)
F 本件物件が損傷を受けた時は、その原因のいかんを問わず、請求人の負担で修理する。(第10条第1項)
G 本件物件自体又は本件物件の設置、保管若しくは使用によって、第三者に損害を与えたときは、請求人が賠償責任を負う。(第10条第3項)
H 請求人は、本件物件を他に譲渡し、使用させ、担保に入れるなど甲リース社の所有権を害する一切の行為をすることができない。(第14条第1項)
I 請求人は、本件物件が原因のいかんにかかわらず滅失し、若しくは損傷して修理が不可能となり、又は盗難等によって請求人が本件物件の占有を失ったときは、代金支払の期限の利益を失い、直ちに残存割賦販売代金全額及び残存消費税額全額を一括して甲リース社に支払う。(第15条第1項)
J 請求人は、本件物件について、保険契約を締結する。(第16条第1項)
K 甲リース社又はその代理人は、いつでも本件物件をその保管場所で点検することができる。(第18条第2項)
L 契約条項は、他の条項に優先して適用される。(第24条)
M 本件物件の所有権は、前記Eにかかわらず、本件物件の納入と同時に甲リース社から請求人に移転する。(特約条項)
N 請求人は、前記Jにかかわらず、本件物件について、保険契約を締結しない。(特約条項)
(ロ)請求人は、平成元年11月14日に、甲リース社との間で、次の要旨の契約(以下「本件リース契約書」という。)を締結し、その契約内容を記載したリース契約書を取り交したこと。
A 請求人は、乙社から本件物件を買い受け、これを甲リース社にリースし、甲リース社はこれを借り受ける。(第1条第1項)
B この契約は、この契約に定める場合のほか、解約し、又は解除することができない。(第1条第2項)
C 甲リース社は、本件物件をその引渡しの日から72か月間使用することができる。(第3条第1項)
D 甲リース社は、本件物件が損傷を受けたときは、その原因のいかんを問わず、甲リース社の負担で修理する。(第3条第3項)
E 甲リース社は、本件物件自体又は本件物件の設置、保管若しくは使用によって、第三者が人的、物的の損害を受けたときは、その原因のいかんにかかわらず、賠償責任を負う。(第3条第5項)
F 甲リース社は、リース期間中、リース料9,400,452円、消費税額282,013円、合計額9,682,465円を12回支払う。(第4条)
G 請求人は、本件物件について、保険契約を締結する。(第7条第1頁)
H 甲リース社は、本件物件が原因のいかんにかかわらず滅失し、若しくはき損、損傷して修理が不可能となり、又は盗難等によって甲リース社が物件の占有を失ったときは、直ちに規定損害金を請求人に支払う。(第9条第2項及び同条第3項)
I 甲リース社は、請求人の書面による事前の承諾がある場合を除き、本件物件について、担保に入れること、第三者に譲渡すること、第三者に転貸することなど請求人の所有権を害する一切の行為をすることができない。(第10条第2項)
J 請求人は、本件物件、この契約に基づく権利又はこの契約における地位を、金融機関その他の者に担保に入れ、又は譲渡することができる。(第15条第2項)
K 甲リース社は、請求人又はその指定した者が本件物件の点検、調査を求め、又は本件物件について報告を求めたときは、いつでもこれに応じる。(第15条第3項)
L 特約条項は、他の条項に優先して適用される。(第23条)
M 請求人は、前記Gにかかわらず、本件物件について、動産総合保険契約を締結しない。(特約条項)
N 請求人は、前記Iにかかわらず、甲リース社が本件物件を顧客に転貸すること及び設置場所から移動させることを承諾する。(特約条項)
O 請求人は、前記Jにかかわらず、甲リース社の承諾がなければ、請求人の契約上の地位の譲渡及び債権譲渡を行うことができない。(特約条項)
(ハ)請求人は、平成元年11月14日に、本件リース契約に関し、再リース契約が締結されなかった場合、本件物件に係る処理を甲リース社に一任し、その際発生する費用及び収入については甲リース社と協議の上決定する旨を記載した確約書(以下「本件確約書」という。)を甲リース社に差し入れたこと。
(ニ)請求人は、平成元年11月14日に、甲リース社との間で、本件割賦販売契約、本件リース契約及び転リース契約の相互関係に関し、次の事項を記載した確認書(以下「本件確認書」という。)を取り交したこと。
A 本件割賦販売契約に基づく請求人の債務と本件リース契約に基づく甲リース社の債務を支払日ごとに相殺する。
B 本件割賦販売契約について期限の利益喪失事由の発生したときは、本件割賦販売契約及び本件リース契約はともに失効し、この場合、甲リース社と丙社間の転リース契約には何らの影響も及ぼさず、請求人は一連の取引から離脱し、転リース契約が甲リース社と丙社間の独自のリース契約に転化する。
(ホ)甲リース社は、平成元年11月15日に、本件物件を含む電話回線自動選択アダプター(Xタイプ及びYタイプ)5,500台を乙社から買い受け、本件物件を請求人に売り渡し、本件物件を請求人から借り受け、その電話回線自動選択アダプター5,500台を丙社に賃貸したこと。
(ヘ)本件物件は、平成元年11月15日に、乙社から、請求人及び甲リース社を経由することなく、直接、丙社に納品、引き渡され、その後、丙社から個々のエンドユーザーに貸与され、丙社により管理されていること。
 なお、丙社とエンドユーザーとの間には、使用貸借契約が結ばれていること。
(ト)請求人は、本件物件の丙社への納品後、甲リース社が丙社からの通知に基づいて作成した本件納品台帳を交付されたが、本件納品台帳には、物件の名称、製造番号及び出荷日が記載されているのみで、エンドユーザーの名称及び所在地、物件の設置日等についての記載はないこと。
 また、本件納品台帳には、本件物件のうち600台について記載されておらず、これと同数の本件物件とは関係のない電話回線自動選択アダプターについて記載されていたが、請求人は、原処分の調査を担当した職員から指摘されるまでこの事実に気付かなかったこと。
(チ)請求人は、本件物件の取得価額121,437,816円を本件事業年度の損金の額に算入する一方、リース料3,133,484円を本件事業年度の益金の額に算入したこと。
(リ)請求人は、平成2年5月31日に、第1回の賦払金18,032,844円とリース料9,400,452円の差額8,632,392円を甲リース社に支払ったこと。
ロ 以上の認定事実に基づき、本件取引について、以下検討する。
(イ)請求人は、本件取引によっては損失が生じるとしても、本件物件が甲リース社に対し再リースされることは確実であり、その再リース料と本件リース取引によるリース料の合計額が本件物件の買入価額を上回ることになるから、本件取引は経済的に不自然、不合理な取引ではない旨主張する。
 しかしながら、請求人は、再リース料の収入見込みを主張するが再リース契約そのものが不確実な仮定に基づいたがい然性に乏しいもので、他に請求人と甲リース社との間で有償の再リース契約の締結を予定していると認めるに足りる証拠はない。
 さらに、再リース契約を求めるか否か判断すべき賃借人である甲リース社は、前記イの(ハ)のとおり、本件確約書において、再リース契約が締結されなかった場合の本件物件の処理を、一任されていることからすると、甲リース社においては再リース契約をしても利益を得ることを必ずしも想定していないとみるのが相当であり、したがって、本件取引が再リース契約の締結を前提として行われたとみるのは不自然であるから、請求人にとって本件取引は、法人税法施行令第133条の規定を適用し、課税の繰延べを図るという意図がなければ了解し得ない取引であるといえる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ロ)次に、請求人は、本件取引における賦払金とリース料との相殺は、資金移動を生じさせないことの経済的合理性を追求したものであるから、会計上何ら不自然ではなく、また、請求人は本件物件の実質的な所有権を有しているから、本件取引は実態のない取引ではない旨主張する。
 本件割賦販売契約では前記イの(イ)のM及び本件リース契約では前記イの(ロ)のAのとおり契約書上では、請求人に所有権があるようにみれる。しかしながら、検討すると、次のとおりである。
A 前記イの(ハ)のとおり、請求人は、本件確約書において再リース契約が締結されなかった場合の本件物件の処理を、甲リース社に一任していることからすると、本件物件の処理に際し発生する収入及び費用について請求人と甲リース社の両者が協議して決定することになっていても、請求人が独自の判断で本件物件を回収、処分等をすることができないことは否定できない。
 また、前記イの(ヘ)のとおり本件リース期間経過後においては、エンドユーザーが丙社との回線使用契約を存続させる限り、請求人が本件物件の返還を求めることは事実上不可能であると認められる。
 更に、物件の所在、分布からみても本件物件の本来の意味でのエンドユーザーは、丙社から同物件を借り受けている多数の個々の使用者であり、除去ないし再設置に多額の費用を要することになるから、回収を行うことの経済的合理性はなく、回収は事実上不可能であるといわざるを得ない。
B 本件割賦販売契約と本件リース契約の契約条項についてみると、本件割賦販売契約の前記イの(イ)のFないしI及びK記載の本件物件の修理費用の負担、本件物件に起因する損害の賠償責任、本件物件の譲渡等の禁止、本件物件が修理不可能等となった場合の措置及び本件物件の点検に関する各条項と本件リース契約の前記イの(ロ)のD、E、H、I及びK記載の同じ事項に関する各条項が対応することから、請求人と甲リース社は、本件物件の所有にかかる権利義務に関し、互いに同一の内容の権利義務を認める規定が設けられていることが認められる。しかし、その条項の経済的効果をみると、本件リース契約の前記イの(ロ)のD及びE記載の甲リース社が本件物件の修理費用を負担する旨及び甲リース社が本件物件に起因する損害の賠償責任を負う旨の各条項により、請求人は特段の事情もないのに一切の危険を負担しないこととされている。
 また、本件リース契約の前記イの(ロ)のMの条項により、請求人は本件物件の保険契約を締結しない旨定めており、これは前述の危険負担の不存在の規定を経済的に補完するもので、請求人は保険料の負担も要しないこととなっている。
C 本件リース契約の前記イの(ロ)のN及びO記載の請求人が甲リース社の本件物件の転貸及び移設を承諾する旨並びに請求人が甲リース社の承諾なしに契約上の地位を譲渡等できない旨の各条項により、請求人は本件物件の所有権を著しく制限されていることが認められる。したがって、前記のように、請求人に所有権があるという契約条項があるからといって、請求人に完全な所有権があるというには程遠く、請求人が本件物件を所有していることが明らかであるとはいえない。
 また、本件物件は、前記イの(ヘ)のとおり丙社により管理されており、前記イの(ト)のとおり、請求人は、物件の名称、製造番号及び出荷日の記載があるだけの本件納品台帳を甲リース社から交付されたが、これには、エンドユーザーの名称、所在地、物件の設置日等の記載はない。更に、本件納品台帳には本件物件以外の電話回線自動選択アダプターについて記載されていたにもかかわらず、請求人は、原処分の調査を担当した職員から指摘されるまで、この事実に気付かなかった。したがって、請求人が本件物件を自己の資産として有効に管理、支配していたとは認められない。
D 本件確認書によれば、第1回の賦払金及びリース料の支払日である平成2年5月31日以降は、請求人と甲リース社との間において、一切の資金移動が生じないことが認められる。
 なお、期限利益喪失の場合は、請求人が一連の取引から離脱し、転リース契約が甲リース社と丙社間の独自のリース契約に転化することとなっており、更に、前記イの(ロ)のとおり本件リース契約で譲渡が制限されていることも併せ考えると、甲リース社と丙社間の契約はいかなる場合においても、実質的に維持され、一連の取引のなかで、請求人の存在は、リース料の設定等を除き、本質的なものとはいえないことが明らかである。
E 前記イによれば、請求人、甲リース社、乙社及び丙社間における一連の取引が、いずれも、平成元年11月14日ないし同月15日に行われており、上記AないしDを併せると、上記4者間の一連の取引は、結局、甲リース社が本件物件を丙社に賃貸するに当たり、実質的には本件物件を取得することのない請求人を介在させ、請求人と甲リース社との間で、請求人において少額減価償却資産の取得価額の一時損金算入の規定を適用し損失の先出しという経済的効果を生じさせることを目的として、請求人が本件物件を取得しこれを賃貸するという法形式を採ることを約し、その対価として請求人が甲リース社に8,632,392円を支払ったものとみるのが自然であり、実態に即したものといえる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ハ ところで、請求人は、本件リース取引が、リース通達に照らしてみても課税上弊害のある取引には当たらない旨主張する。
 しかしながら、本件取引の実態は上記ロの(ロ)のEのとおりであり、本件リース取引は、その経済的実質において賃貸借とは認められないから、本件リース取引にリース通達を適用することは相当ではなく、その経済的実質に即して課税すべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張も採用できない。
ニ 以上の結果、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件取引については、請求人が本件物件を取得し、これを賃貸しているという実態は認められず、その経済的実質は前記ロの(ロ)のEのとおりであると認められるから、請求人が本件事業年度の益金の額及び損金の額にそれぞれ算入した未収のリース料3,133,484円及び本件物件の買入価額121,437,816円を共に算入せず、本件取引に伴う請求人の支払額8,632,392円を損金の額に算入した更正処分は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当すると認めるに足りる資料はないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3) 原処分のその他の部分については双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもこれを不相当とする理由はない。

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