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(平5.10.15、裁決事例集No.46 169頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、船用品輸出入業を営む非同族の同族会社であるが、平成元年4月1日から平成2年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書に所得金額を365,767,509円、納付すべき税額を140,897,900円と記載して法定申告期限までに申告した。

 これに対し、A税務署長は、B国税局の職員の調査に基づき、平成3年7月30日付で所得金額を502,289,707円、納付すべき税額を195,502,400円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を5,272,000円、重加算税の額を196,000円とする賦課決定処分をした。

 請求人は、これらの処分を不服として平成3年9月26日に審査請求をした。

 その後、A税務署長は、B国税局の職員の調査に基づき、平成4年3月9日付で所得金額を500,887,707円、納付すべき税額を194,941,600円とする減額の再更正処分及び重加算税の額を零円と変更する賦課決定処分をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件現物出資の経緯は、次のとおりである。
A 請求人は、平成元年11月13日にC国D州E郡FストリートGセンターにH・コーポレーション(以下「本件新設子会社」という。)を資本金零米ドルで設立した。
B その後、請求人は、平成2年3月30日に請求人が保有していたC国I州Jプラザ所在のK(C国)インク(以下「K・C社」という。)の株式(以下「本件株式」という。)を帳簿価額により本件新設子会社に現物出資(以下「本件現物出資」という。)をした。
C 本件現物出資に係る内容は、次のとおりである。
(A)請求人の出資割合      100パーセント
(B)現物出資の内容
 a 出資資産の種類           株式
 b 出資資産の帳簿価額        4,820,000円
 c 出資資産の時価          43,131,788円
 d 本件新設子会社の受入価額    4,820,000円
 e 現物出資の年月日       平成2年3月30日
(ロ)本件現物出資は、法人税法第51条《特定の現物出資により取得した有価証券の圧縮額の損金算入》に規定されている、及び法人税基本通達(以下「基本通達」という。)10ー7ー1《現物出資に代えて金銭出資の形式により資産を譲渡した場合の圧縮記帳》に定められている次の要件を満たしているものであり、法人が新たに法人を設立するため現物出資をすることに代えて金銭を出資し、その有する金銭以外の資産を新設法人に対して設立後に譲渡した場合(以下「変態現物出資」という。)に該当するとみなし、請求人が本件新設子会社に現物出資した株式の時価と帳簿価額との差額については、課税の繰延べが認められるべきである。
A 請求人は、前記(イ)のCの(A)のとおり、本件新設子会社の設立時における発行済株式の総数を有していること。
B 本件新設子会社に対する本件現物出資は、本件新設子会社の設立時においてあらかじめ予定されていたものであり、かつ、同社の設立後遅滞なく一時に行われていること。
C 本件新設子会社は、本件株式について、法人税法施行令第93条《特定の現物出資の要件》第2号に規定する当該出資の直前の帳簿価額に相当する金額以下の金額(以下「受入限度価額」という。)に準ずる金額を帳簿価額としていること。
(ハ)請求人は、K・C社及びC国L州Mアベニユー所在のN・インク(平成2年2月1日に本件新設子会社が買収した後にK(L州)・インクに商号変更。以下「K・L社」という。)の2社を本件新設子会社を介して統括し、一括した管理体制を敷くことを目的として、本件株式を本件新設子会社へ現物出資した。このことは平成2年1月9日付「役員会議事録」により明白であり、本件現物出資が法人税法第51条に則しているものであるにもかかわらず、原処分庁は、本件新設子会社の設立の経緯及び理由の説明を聴取、しんしゃくすることなく増資のための現物出資と認定しているが、請求人は本件新設子会社に係る増資の意思等はもとよりなく、そのような取引行為は実行していない。
 原処分庁は、本件現物出資は増資であるとの既存概念に捕らわれた恣意的判断を行い、本件現物出資による本件株式の時価と本件株式の帳簿価額との差額(以下「株式譲渡益」という。)について、その株式譲渡益38,311,788円の計上漏れとして本件更正処分を行った。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分の一部は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件新設子会社は、平成元年11月13日に設立されたこと。
B 請求人は、本件新設子会社に対し、平成2年1月26日に同社の株式を取得するため337,500米ドルを払い込んでおり、当該払込みに係る大蔵大臣に対する「対外直接投資に係る外貨証券取得に関する届出書」には、同社の資本金は1米ドルと記載されていたことが認められること。
C 上記払込みにより、請求人は平成2年1月31日に本件新設子会社の株式100株を取得したこと。
D 請求人は、本件新設子会社の資本金が1米ドルとなった後の平成2年3月30日に、本件新設子会社に対し、本件株式を現物出資することにより、更に本件新設子会社の株式100株を取得しており、この出資は明らかに増資と認められること。
(ロ)法人税法第51条に規定する特定の現物出資により取得した有価証券の圧縮額の損金算入の制度は、土地建物等の現物を出資する法人がその現物出資により、新たに設立される法人(以下「新設法人」という。)の発行済株式のほとんどすべてを保有するような場合には、実質的にはその株式の保有を通じ、その出資をした土地や建物等を引き続き保有しているとみることができるから、いわば、出資財産が株式に転化しただけであるという点に着目し、一定の条件の下に現物出資により子会社を設立したときには、出資の対象となる資産を帳簿価額で新設法人に移転することを認め、将来、その現物出資により取得した株式を第三者に譲渡したり、あるいは新設法人が現物出資により受け入れた資産を譲渡するまで課税を猶予しようとする制度である。
(ハ)これらのことから、法人税法第51条は、具体的に次のように規定している。
 内国法人(清算中のものを除く。)が、新たに法人(人格のない社団等を除く。以下同じ。)を設立するためその有する金銭以外の資産の出資をした場合において、次のすべての要件に該当する出資(以下「特定出資」という。)であるとき、その特定出資により生じた差益金の額の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額したときは、その減額した金額に相当する金額は、その事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入する。
A 新たに法人を設立するために現物出資をするものであること。
B 現物出資をした法人が新設法人の設立時の発行済株式の総数又は出資金額の95パーセント以上を有すること。
C 新設法人の出資者のうち、現物出資をした法人以外の出資者がその設立に際して払い込んだ1株(出資については1口)当たりの払込金額が、現物出資をした法人の1株当たりの払込金額に比し著しく低くないこと。
D 新設法人が、その設立に際して現物出資をした法人から出資を受けた各資産につき、現物出資法人の出資直前の帳簿価額以下の金額をその受入価額としたこと。
(ニ)更に、基本通達10ー7ー1では、法人が変態現物出資をした場合については、次のすべての要件に該当するときは、その譲渡した資産を、当該法人については法人税法第51条に規定する特定出資とみなし、新設法人についてはその特定出資により受け入れた資産とみなして、同条に規定する特定現物出資の圧縮記帳の適用を定めている。
A 当該法人が新設法人の設立時における発行済株式の総数又は出資金額の全額を有すること。
B その資産の譲渡が出資の時においてあらかじめ予定されていたものであり、新設法人の設立後遅滞なく一時に行われたこと。
C 新設法人が譲渡を受けた資産について受入限度価額に準ずる金額をその帳簿価額としていること。
(ホ)ところで、法人税法第51条第1項においては、内国法人が「各事業年度において新たに法人を設立するために」と規定しているのみであり、新設法人は必ずしも内国法人に限られず、外国法人を設立する場合にも同条は適用されるものと解される。
 更に、同条第1項は新たに法人を設立するための現物出資についてのみ適用され、増資のための現物出資については適用されないことは、法文上明らかである。
(ヘ)したがって、本件現物出資は、前記(イ)の各事実からみると、新たに法人を設立するための現物出資とはいえず、また、変態現物出資とも認められないから、法人税法第51条の規定は適用されないこととなる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 前記イのとおり、本件更正処分は適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件現物出資が法人税法第51条に規定する特定出資に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1) 本件更正処分について

イ 次の事実については、請求人と原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)本件新設子会社の設立許可証が、平成元年11月13日にC国D州の総務長官より交付されていること。
(ロ)本件新設子会社は、平成元年11月13日付でC国D州の法律に基づいて設立されていること。
(ハ)本件新設子会社の所在地は、C国D州E郡FストリートGセンターであること。
(ニ)請求人は、本件新設子会社の発行済株式の総数を有していること。
(ホ)本件株式の帳簿価額等については、次のとおりであること。
 A 請求人の出資時の帳簿価額  4,820,000円
 B 請求人の出資時の時価    43,131,788円
 C 差益金の額              38,311,788円
 D 現物出資の年月日    平成2年3月30日
ロ 当審判所が原処分関係資料等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成2年1月26日に本件新設子会社がK・L社を買収する資金として337,500米ドルを送金したこと。
(ロ)本件新設子会社は、上記(イ)により送金を受けた後の平成2年1月31日付で1株0.01米ドルの100株券(総額1米ドル)を発行し、資本金を零米ドルから1米ドルとするとともに、発行した株式の全部を請求人に交付したこと。
(ハ)本件新設子会社は、平成2年2月1日に前記(イ)の337,500米ドルを資金としてK・L社を買収したこと。
(ニ)本件現物出資については、次の事実が認められること。
A 請求人は、平成2年3月26日に、本件新設子会社に対し、本件株式を現物出資し、同社の新株式100株を取得した後、同月31日付で次の仕訳を行っている。

 

借方 貸方
関係会社株式・出資  3,160,000円
(本件新設子会社)
換算額        1,660,000円
関係会社株式・精算 4,820,000円
(K・L社)

 

 なお、換算損については、更正処分により所得に加算されている。
B 請求人は、本件新設子会社に前記(イ)の送金以外の金銭の出資を行った事実は認められない。
(ホ)本件新設子会社は、本件現物出資を受けたことにより、資本金が1米ドルから2米ドルになったこと。
ハ 我が国で法人を設立する場合は、商法第57条《設立の登記》の規定により本店の所在地を管轄する法務局・地方法務局において法人の設立の登記がされた時をもって当該法人は設立されたものとされるが、我が国以外の国で法人を設立する場合にはそれぞれの国で定められた法律に基づいて設立されることとなる。本件新設子会社はC国D州で設立されているところ、C国では法人の設立については州法が適用されるので、本件新設子会社の設立についてはC国D州の法律が適用されることとなる。
 また、当審判所においてC国D州における法人の設立に関する法制を調査したところによれば、1同州においては法人の設立登記の法制はないこと、2法人の設立については認可制度が採られていること及び3法人の設立に際し授権資本の制度はあるものの資本金の最低限度の定めはないことがそれぞれ認められるから、本件新設子会社は前記イの(イ)のとおり、平成元年11月13日に設立許可証の交付を受けており、同社は、同日をもって資本金の額には関係なく正式に設立されたことが認められる。
ニ 法人税法第51条は、現物出資により子会社を新たに設立した場合、本来、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項の規定により現物出資をした法人に資産の譲渡益が計上されるべきところ、法人が新たに法人を設立するために現物出資をして、その新設法人の株式の95パーセント以上を保有し、かつ、前記2の(2)のイの(ハ)のC及びDに定める要件を満たす場合には、現物出資によって取得した株式に現物出資をした資産の帳簿価額に相当する金額を付すことによって、課税時期の延期を図ることとしている。
 しかしながら、本件現物出資は、本件新設子会社の設立日である平成元年11月13日以後に出資されていること及び前記ロの(イ)ないし(ハ)のとおり、本件新設子会社が、C国において他社を買収する等、事実上も法人として機能してから出資されていることから、法人設立のための出資とは考えられない。
 したがって、本件現物出資は法人税法第51条に規定する「新たに法人を設立するために」という特定出資には該当しないとみるのが相当である。
ホ 請求人は、本件現物出資が我が国の変態現物出資に該当する旨主張するので、当審判所において本件現物出資について調査したところ、前記ロの(ニ)及び(ホ)の各事実がそれぞれ認められる。
 ところで、基本通達10ー7ー1に定める変態現物出資は、法人が新たに法人を設立するため現物出資することに代えて金銭を出資し、その有する金銭以外の資産を新設法人に対して設立後に譲渡した場合をいうものであるが、本件現物出資については、前記ロの(ニ)のとおり、1本件現物出資を行うための前提条件となる金銭出資が行われていないこと、2本件現物出資は譲渡による方法で行われていないこと及び3請求人の経理処理も、現物出資により新規に発行された本件新設子会社の株式を取得した処理となっていることが認められるほか、前記ロの(イ)ないし(ハ)のとおり、本件新設子会社は、本件現物出資前に既に会社としての実質的活動を行っていることが認められるから、本件現物出資は、基本通達10ー7ー1に定める変態現物出資には該当しないとするのが相当と認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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