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(平5.12.8、裁決事例集No.46 197頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和62年7月22日に死亡したA(以下「被相続人」という。)の共同相続人の1人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書に、請求人以外の他の共同相続人(以下「他の共同相続人」という。)とは、申告書を異にして、次表の「申告」欄各欄の上段のとおり記載し法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成元年6月30日付で、次表の「更正等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成元年8月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年11月24日付でいずれも棄却の異議決定をし、異議決定書謄本は同年12月2日に請求人に送達された。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について不服があるとして、平成元年12月28日に審査請求をした。
 その後、原処分庁は、請求人に対し、裁判上の和解による共同相続人間の相続分の異動に基づき、平成3年4月30日付で次表の「再更正等」欄のとおり、減額の再更正処分及び過少申告加算税を変更する賦課決定処分をした。

(単位:円)
区分 項目 請求人 他の共同相続人 合計額
申告 課税価格 47,447,000
(112,187,000)
94,893,000
(224,373,000)
142,340,000
(336,560,000)
納付すべき税額 8,972,800
(37,096,000)
18,217,600
(74,192,000)
27,190,400
(111,288,000)
更正等 課税価格 112,934,000 255,868,000 338,802,000
納付すべき税額 37,482,500 74,964,900 112,447,400
過少申告加算税 3,826,500 76,000 3,902,500
再更正等 課税価格 106,280,000 232,523,000 338,803,000
納付すべき税額 35,983,200 76,464,400 112,447,600
過少申告加算税 3,602,500 76,000 3,678,500

(注)「申告」欄各欄の上段は請求人の申告額、下段は他の共同相続人の申告額である。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 原処分庁は、P市R町3丁目32番9所在の宅地475.04平方メートル(以下「本件全土地」という。)のうち東南部分の333平方メートル(以下「本件土地」という。)が、被相続人に係る相続財産であるとして本件更正処分をした。
 しかしながら、本件土地については、昭和54年7月13日に被相続人と請求人の二男であるB(以下「B」という。)との間で同人を賃借人として建物所有を目的とする賃貸借契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)を作成の上、賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、その後、昭和61年12月13日に被相続人とB及び同人の妻であるC(以下「C」といい、Bと併せて「B夫婦」という。)との間でB夫婦を買主とする売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)を作成の上、売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結しているので、被相続人の生前に本件土地の所有権は、B夫婦に移転しており、本件土地は相続財産ではない。
(イ) 本件賃貸借契約について
A 被相続人は、昭和54年7月13日にBと本件賃貸借契約を締結した。その後、昭和61年8月に本件土地上の被相続人名義の建物を取り壊して直ちにBは自宅の建築に着手し、当該自宅は、同年12月に完成した。このことにより、本件賃貸借契約は借地法第1条《借地権の定義》に規定する建物の所有を目的とするとの要件を充足している。また、Bは、本件賃貸借契約に基づき権利金(以下「本件権利金」という。)及び地代(以下「本件地代」という。)を被相続人に支払っているから、本件土地に係るBの借地権(以下「本件借地権」という。)は成立している。
B 被相続人が本件賃貸借契約に係る権利金及び地代について、所得税の確定申告をしなかったのは、単に無知であったからである。
C Bが本件借地権につき、何らの権利保全手続をとらなかったのは、単に無知であったからである。
D B夫婦が、本件賃貸借契約の締結後にS市T町1丁目141番5所在の土地建物(以下「T町の土地建物」という。)を取得し、これに居住したのは、本件賃貸借契約の締結直後の昭和54年9月に被相続人が胃潰瘍の手術を受けたため、やむを得ず本件土地上にBの自宅の建築を延期することとしたからである。
E 本件賃貸借契約は、もともと被相続人がBと一緒に暮らしたいという強い要望があって本件土地上にBの自宅を建築するために締結されたものであるから、本件賃貸借契約書の第8条(特約条項)第5項で被相続人名義の建物を3年以内に取り壊す旨約定がなされたものである。約定どおり本件土地上の被相続人名義の建物が取り壊されなかったことをもって、本件借地権を否認する理由の一つとすることは誤りである。
F 本件賃貸借契約に係る権利金10,000,000円の内金3,500,000円については、昭和54年7月13日に500,000円、同月26日に3,000,000円をそれぞれ支払っている。
G 本件権利金の残金6,500,000円は、本件賃貸借契約の締結後7年10か月を経過した昭和62年5月27日に支払ったのは、この間に被相続人の手術並びに被相続人及びBのそれぞれの自宅の建築等、双方にとっての大事が続いたからであり、これを不自然なこととはいえない。
H Bが振り込んだ月額30,000円の本件地代は、被相続人の資産形成に寄与していないと原処分庁はいうが、被相続人の資産形成にプラスの作用はしなかったとしても、資産のマイナスを防止する作用をしたという意味では、被相続人の資産形成に寄与したといえる。
(ロ) 本件土地の所有権について
A 本件土地の引渡しは、昭和61年8月にBが自宅の建築に着手した時点で完了したものであり、また、被相続人とB夫婦が本件借地権の存在を前提として本件売買契約を締結した同年12月13日に所有権移転の手続も完了したものというべきである。
B 本件売買契約書には、本件土地の引渡時期は代金支払完了の日となっているが、これは市販の契約書を使用したためであり、被相続人とBとの間では、本件土地の引渡しが代金決済に先行することは当然と考えられていたのである。
C 本件売買契約の証拠金100,000円の授受は、本件売買契約の締結日である昭和61年12月13日に行われている。
D 本件土地の分筆及び所有権移転の登記は、昭和62年6月上旬まで、被相続人及びBの各々の自宅の新築及び引っ越し等で登記に気が回らず、また、上記の登記手続等を司法書士等に依頼したところ、分筆のための測量に相当の日数を要するとのことだったため同年6月10日付でとりあえず本件全土地について司法書士の勧めもあって所有権移転仮登記を、被相続人の承諾を得て行った。その後も登記の準備を進めていたが、同年7月22日に被相続人が急死したため、上記登記申請手続を実行できなかった。
E 被相続人が本件土地の売買に基づく譲渡所得に関する昭和61年分所得税の確定申告書を期限内に提出しなかったのは、何ら作為があったわけではなく、無知のためであり、被相続人に係る相続税の申告の準備の過程でその必要性に気が付き、昭和63年1月23日に期限後申告書を提出したものである。
F 本件土地の引渡しは、昭和61年12月13日の本件売買契約の締結と同時に完了しているから、原処分庁の昭和62年6月10日に本件土地の引渡しが成立したことを前提として、相続税法第7条《贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合ー低額譲受》に規定する低額譲受による贈与があったとする予備的主張には理由がない。
 なお、昭和61年分相続税財産評価基準(以下「財産評価基準」という。)により本件土地の評価額を計算すると、次のとおり50,609,607円となり本件土地の売買代金70,000,000円は当該評価額を上回るから相続税法第7条に規定する低額譲受による贈与は発生しない。
(A) 本件土地の1平方メートル当たりの価額
 (正面路線価)380,000円+(側方路線価)285,000円×(側方路線影響加算率)0.07 = 399,950円
(B) がけ地補正
 がけ地面積 = 27.55m×2m = 55.1平方メートル
 がけ地面積÷総面積 = 55.1÷475.04 = 0.116
 上記の場合の補正率 0.95
(C) がけ地補正後の1平方メートル当たりの価額
 399,950円×0.95 = 379,952円
(D) 本件土地の価額(借地権成立後であるから底地評価による。)
 379,952円×(面積)333.00平方メートル×(底地割合)0.4 = 50,609,607円
(ハ) 課税価格の計算について
 以上のことから、請求人の相続税の課税価格は、申告書に記載したとおり本件土地を相続財産から除いて計算すべきである。
 また、仮に本件土地が相続財産であるとしても、前記(ロ)のFで述べたとおり本件全土地は、その一部ががけ地となっているので、評価上考慮すべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
(イ) 本件賃貸借契約について
A 原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(A) 本件賃貸借契約書は、契約日を昭和54年7月13日として、1本件土地に係る賃貸借の期間を30年とする、2賃料は月額30,000円とする、3権利金は10,000,000円とし、向こう3年間に支払う、4借地権の設定の登記を認める、53年以内に被相続人所有の建物を取り壊し更地に戻すなどを主な内容とし、同契約書には、同日付の公証人役場の確定日付があること。
(B) 被相続人は、本件権利金及び本件地代に係る収入について所得税の確定申告をしていないこと。
(C) Bは、本件賃貸借契約の締結後、本件借地権につき何ら権利保全の手続を行っていないこと。
(D) B夫婦は、昭和55年7月9日にT町の土地建物を取得し、同年8月10日から、Bは昭和62年4月15日まで、また、Cは昭和60年9月27日までそれぞれ当該土地建物に居住していたこと。
(E) 本件土地上にあった建物は、昭和61年8月1日に取り壊されるまで被相続人の名義となっており、同人が当該建物に居住していたこと。
(F) 請求人は、Bが、本件賃貸借契約の締結と同時に本件権利金のうち3,500,000円を支払い、残金6,500,000円を、昭和62年5月27日に、Cの母であるDから借り入れて被相続人名義の口座へ振り込んだ旨申述していること。
(G) Bが、被相続人名義口座に振り込んだ地代が、被相続人の預金に蓄積されておらず、資産形成に寄与していないと認められること。
B 以上の事実を総合すると、本件賃貸借契約書は、昭和54年7月13日に作成された事実はあるものの、1被相続人名義の建物が取り壊されるまで、本件土地が、賃貸借の目的に供されたことはないこと、2B名義の建物の建築着手後の地代が固定資産税程度であり、これは親族間における相互扶助に基づく生活費相当とみるのが妥当であること、3本件権利金のうち6,500,000円は、借入金で支払うのであれば、本件賃貸借契約の締結後7年10か月も経過した日に突如振り込むのは不自然であること等から、本件土地が建物の所有を目的とした社会一般にいわれている賃貸借に供された事実はないとするのが相当である。
(ロ) 本件土地の所有権について
A 原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(A) 本件売買契約書は、契約日を昭和61年12月13日として、1被相続人は、本件土地をB夫婦に70,000,000円で売り渡す、2契約締結時に、B夫婦は売買代金の一部として証拠金100,000円を支払う、3被相続人は、代金支払完了の日までに本件土地を明け渡し、境界を指示する地形図を手交する、4残金は、B夫婦が所有するT町の土地建物を売却し、その代金を充当するなどを主な内容とし、昭和62年6月8日付の公証人役場の確定日付があること。
(B) 本件土地は、本件全土地から分筆登記されておらず、相続開始日現在における本件全土地の登記簿上の名義人は、被相続人であること。
(C) 本件土地の売買に基づく被相続人に係る譲渡所得についての昭和61年分所得税の確定申告書が、法定申告期限までに提出されていないこと。
(D) 本件売買契約は、祖母と孫という親族関係にある当事者間でなされたものであること。
(E) 仮に、本件土地の引渡しが昭和62年6月10日付の本件全土地の所有権移転仮登記時に成立したとして、本件全土地を昭和62年分の財産評価基準に従って計算すると、374,569,040円となるにもかかわらず、被相続人とB夫婦は70,000,000円で売買しているので、相続税法第7条の規定によりB夫婦は当該譲受の利益について贈与税の申告が必要であるところ、その申告がないこと。
B 以上の事実を総合すると、相続開始日において、本件土地の譲渡代金の決済、所有権移転登記手続及び譲渡所得に係る申告手続は完了しておらず、Bが本件土地上に建物の建築に着手したこと及び本件売買契約書が存在することをもって、本件土地の譲渡が完了しているとすることは不合理であるから、本件土地は被相続人に帰属するものと認められる。
(ハ) 債務控除等について
 以上述べたことから、被相続人に係る相続税の課税価格の計算上本件土地は、賃貸借の目的となっている土地とは認められず、何ら権利の設定されていない自用地として評価すべきであり、したがって、本件賃貸借契約書は何ら効果が発生しなかった契約書と認められるので、当該契約に基づき支払われたとする6,500,000円については、被相続人の預り金と解するのが相当であるから、相続財産の価額から控除する。
 更に、本件土地は、相続開始時点において譲渡されていないから本件売買契約に基づく未収入金69,900,000円は、当然に存在しない。また、本件土地について譲渡所得は発生しないので、債務控除の対象となる公租公課もない。
(ニ) 課税価格について
 以上のことから、相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》の規定に従い請求人の相続税の課税価格を計算すると112,934,000円(再更正処分後は106,280,000円)となり、これと同額でされた本件更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人には国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税の賦課決定処分をしたものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件土地に賃借権の設定があったか否か、本件土地が被相続人からB夫婦に譲渡されたか否か及び本件全土地に係るがけ地部分を評価上考慮すべきか否かにあるので、以下審理する。

(1) 本件更正処分について

イ 本件賃貸借契約について
(イ) 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
A 本件賃貸借契約書は、昭和54年7月13日付とされ、同日の確定日付があること。
 なお、本件賃貸借契約書の用紙は市販のものを一部加除して使用しており、その主な内容は、1本件全土地上の東南部分の333平方メートルを賃貸借の対象として、2賃貸借の期間は、昭和54年7月26日から昭和84年7月26日までの30年間とし、3賃料は1か月1平方メートルについて90円で月額30,000円とするなどのほか、第8条(特約事項)にはおおよそ次表のような記載があること。

 

項番号 特約事項
土地賃貸借に関する権利金は 3.3平方米について金10万円也とし合計金10,000,000円也とする。
契約に依る権利金は、契約と同時に三分の一、二年目経過の時三分の一、三年目経過の折残金の分割とし、向う三年間に支払う。
地代はその月より指定銀行口座へ振込み払とする。
借地件設定登記を認める。
契約日より満三年以内にA所有の建物を取壊し、更地に戻す。

 

B 本件全土地上にあった被相続人名義の建物は昭和61年8月ころに取り壊され、直ちにBは本件土地上に自宅の建築に着手し、同建物は、同年12月に完成したこと。
C 被相続人は、本件権利金及び本件地代に係る収入について、所得税の確定申告をしなかったこと。
D Bは、本件賃貸借契約の締結後、本件借地権について、何ら権利保全の手続をとっていないこと。
E B夫婦は、本件賃貸借契約の締結後である昭和55年7月9日に、T町の土地建物を取得してこれを居住の用に供したこと。
F 本件権利金10,000,000円の支払状況は、次表のとおりであり、第3回目は、本件賃貸借契約の締結後7年10か月を経過して支払われていること。

(単位:円)
年月日 金額
54・7・13 1 500,000
54・7・26 2 3,000,000
62・5・27 3 6,500,000

 

(ロ) 当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人の当審判所に対する答述は、要旨次のとおりであること。
(A) 被相続人は、Bと一緒に住みたいと考えていた。
(B) 本件賃貸借契約書は、権利関係を明確にして後日の紛争等を避けるために作成した。
(C) B夫婦が、T町の土地建物を購入したのは、1それまで住んでいた住宅が狭く、子供にとって危険であり、2本件土地上に被相続人名義の建物があり、また、被相続人が、病気をしていて、同人の建物を取り壊してB夫婦の建物を建てることが不可能な状態であったためである。
B Bの当審判所に対する答述は、要旨次のとおりであること。
(A) 本件賃貸借契約を締結した理由は、被相続人は、30年来一緒に暮らしていたため、以前から本件土地をBに対し、売却又は贈与するという話があったが、いずれにしても相続のとき問題となり、贈与を受けるのはいやだったし、売ってもらうにしても購入する資金もなかったためである。
(B) 本件地代を本件売買契約の締結後も、被相続人に支払っていたのは、相続人間でもめ、また、売買による所有権移転登記も済んでいなかったので、借りているということを明らかにするため被相続人の死亡後も支払い続けていた。
C 請求人は、原告を他の共同相続人E(以下「E」という。)ほか2名、被告をB夫婦とするU地方裁判所昭和62年(ワ)第○○○号所有権移転仮登記抹消登記手続請求事件(以下「本件訴訟」という。)で次のとおり証言していること。
(A) 本件賃貸借契約の締結は、被相続人の強い希望によるものであった。
(B) 被相続人がBに100坪の土地を貸すという話は、請求人は、Eに話した記憶はないが、被相続人は話していたのではないか。
(C) 被相続人の銀行預金の出し入れは、全部請求人がしていた。被相続人は通帳と印鑑を保管していて、必要な時に請求人に依頼した。キャッシュカードも持っており、請求人がキャッシュカードで出金したこともあり、頻度はキャッシュカードの方が多かった。
D Bは、本件訴訟で次のとおり証言していること。
(A) 本件権利金の残金6,500,000円の支払が昭和62年5月になった理由は、契約をした昭和54年9月に被相続人が胃の手術を受けたため家を建て直すことを中断せざるを得なかった、また、被相続人は高齢だったため、もしかしたら家は建てられないかもしれないという気持ちもあって、退院してからも、被相続人から残金はいつでもいいからと言われたため、その言葉に甘えて、自分たちが住めることが確実になってから、支払うことにしたからである。
(B) 被相続人は、昭和54年11月に退院したが、しばらくは若干の後遺症が残り、半年くらいして、普通の生活ができるようになった。契約の1年後くらいには以前の健康に近い状態になっていたが、家を壊したり、建てたり、引っ越ししたりするのは大変なことなので、被相続人がその気持ちにならないとできないと思っており、被相続人から言いだすのを待っていた。Bの方から家の改築の話を持ち出したことはない。
(C) 本件権利金の残金6,500,000円は、Cの母から借りて支払った。
E Eは、本件訴訟で次のとおり証言していること。
(A) 被相続人が死亡した前年の夏、Bから手紙が来た。その内容の要点は、被相続人は家を建て替え、また、BとCは共有名義で家を建てるが、完成の1年後に土地50坪をBが入手するということだった。
 その手紙には、100坪を既に賃借しているということは記載してなかった。
 Eは、被相続人に、サラリーマンでは相続税が払えない、土地を残したいのなら、身内にでも50坪を売れば払えると話していたので、被相続人がBに土地を売ることにしたと認識した。
 その時も100坪を貸したということは全然聞いていなかった。
(B) 本件賃貸借契約が締結された昭和54年7月13日ころ、Eは被相続人と同居していたが、同契約がなされたことは全然知らなかった。
 本件賃貸借契約書によると、本件権利金10,000,000円を払うことになっているが、当時被相続人及びBからそのようなことを聞いたことはない。
 昭和54年以降、Bから被相続人の預金に月額30,000円ずつが入っていることは確かであるが、被相続人の話によると、Bは祖母孝行で、小遣いを毎月30,000円くれるとのことだった。
(C) 昭和62年5月、被相続人が発病した後、本件権利金の残金6,500,000円が振り込まれているが、被相続人からそのことを聞いていない。
F Bが本件地代を振り込んでいたF銀行R支店の被相続人名義の普通預金口座(口座番号600579)には、次表のとおりの出金があり、また、同行のB名義の普通預金口座(口座番号291649)には、同表のとおりの入金があり、これら入出金に係る払戻請求書及び入金票の各伝票に記載された氏名等の筆跡は酷似していて、同一人による行為と認められること。

(単位:円)
被相続人名義の口座からの出金 B名義の口座への入金
年月日 時刻 金額 年月日 時刻 金額
58・3・12 11:27 90,000 58・3・12 11:28 90,000
58・5・28 12:07 60,000 58・5・28 12:08 60,000
59・2・25 12:03 90,000 59・2・25 12:04 90,000
59・4・7 11:01 60,000 59・4・7 11:01 60,000
59・7・21 11:48 90,000 59・7・21 11:48 90,000
59・10・6 11:12 90,000 59・10・6 11:12 90,000
60・2・16 10:07 90,000 60・2・16 10:07 90,000
60・5・18 9:39 30,000 60・5・18 9:39 30,000
61・3・22 11:59 90,000 61・3・22 11:59 90,000
62・3・27 15:21 150,000 62・3・27 15:23 150,000

 

G 昭和62年5月に新築し、登記された被相続人名義の建物の一部は、本件土地上にはみ出して建築されていること。
H 本件権利金の算定根拠について、Bは、「固定資産税評価額の60パーセント以上のきりのいい額」としているが、当時の財産評価基準によれば、本件土地に係る借地権価額は、次のとおり28,167,804円となり、本件権利金10,000,000円は、相続税法第7条に規定する低額譲受に該当すること。
(A) 本件土地の1平方メートル当たりの価額
 (正面路線価)140,000円+(側方路線価)120,000円×(側方路線影響加算率)0.07 = 148,400円
(B) 本件土地の価額
 148,400円×(がけ地補正率)0.95×(面積)333平方メートル = 46,946,340円
(C) 本件権利金の価額
 46,946,340円×(借地権割合)0.6 = 28,167,804円
(ハ) 以上の事実を総合すると、次のとおりである。
A 前記(イ)のAの本件賃貸借契約書第8条(特約事項)によれば、1その第二項については、本件権利金は契約締結後3年間に支払うものとされているところ、前記(イ)のFのとおり、本件権利金の残金は契約締結後7年10か月を経過した昭和62年5月に支払われており、2その第四項については、借地権の設定の登記を認めるとされているところ、前記(イ)のDのとおり、Bは何ら権利保全の手続をとっておらず、また、3その第五項については、契約締結後3年以内に被相続人の建物を取り壊すことになっているところ、前記(イ)のBのとおり、被相続人の建物は、契約締結後7年余を経過した昭和61年8月ころに取り壊されており、更には、前記(ロ)のGのとおり、被相続人の新築した建物が本件土地上に一部はみ出して建築されるなどいずれも契約の約定に従った履行がされていない。
B 前記(ロ)のFのとおり、被相続人名義の普通預金口座からの出金と、B名義の普通預金口座の入金は、その入出金の日付及び時刻が接近していること並びにその払戻請求書及び入金票の各伝票に記載された氏名等の筆跡が酷似しており同一人の行為と認められることから、被相続人からBに本件地代の一部が還流されているものと認めざるを得ない。
C 前記(ロ)のAの(B)及びBの(A)のとおり、本件賃貸借契約は後日の相続等における紛争に備えて締結したものであることは認められるものの、前記(イ)のEのとおり、Bは当該契約の締結の1年後には、契約目的に反して自己の居住用の土地建物を取得し、また、前記(ロ)のDの(B)によれば、Bは被相続人に対し積極的に同人名義の家屋を取り壊して契約内容の履行を迫るということも見当たらず、更に、前記(ロ)のEの(A)及び(B)によれば、請求人の兄であるEは本件相続開始後において本件賃貸借契約書の存在を知ったなど極めて不自然なことといわなければならない。
D 請求人は、本件権利金について被相続人が所得税の申告をしなかったのは単に無知であるとしているが、昭和52年に譲渡所得の申告をしたことのある同人の経歴からは到底そのようなことを推認することはできず、また、もし同人の無申告であることが判明した場合は、周囲の者においてその旨注意すべきが当然である。
 なお、本件権利金は、前記(ロ)のHのとおり低額譲受に該当し、贈与税の申告が必要となるが、Bは無申告であった。
E そうすると、前記AからDのとおり本件賃貸借契約書が作成された事実は外形的に認められるもののそれに記載された約定は遵守されず、当該契約は、祖母と孫という特殊な親族関係を基にして何ら第三者の目に触れることなく存在したものであり、その効果の発生が確認できないので本件土地に係る賃貸借が成立していたとは認められない。
ロ 本件土地の所有権について
(イ) 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
A 本件全土地について、昭和61年12月13日売買を原因として昭和62年6月10日受付でB夫婦へ所有権移転仮登記がなされているが、本件相続開始時の名義人は被相続人であること。
B 被相続人に係る本件土地の売買による昭和61年分所得税の確定申告書は、昭和62年3月16日までに提出しなければならないところ、翌年1月23日に提出されていること。
C 本件売買契約書は、昭和61年12月13日付とされているが、当該契約書には昭和62年6月8日付の確定日付があること。
 なお、本件売買契約書の用紙は市販のものを一部加除して使用しており、その主な内容は、1本件全土地の東南部分の333平方メートルを売買の対象として、2証拠金として100,000円を支払い、3代金支払完了の日までに本件土地を明け渡して、境界を指示する地形図を手交した時に残代金69,900,000円を支払うなどとなっていること。
D 本件売買契約に係る証拠金100,000円の領収証の日付は、昭和61年12月13日となっているが、当該領収証には昭和62年6月8日付の確定日付があること。
E 本件売買契約書に係る売買代金の残代金69,900,000円は、本件相続の開始日現在支払われていないこと。
(ロ) 当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
 A Bは、本件訴訟において次のとおり証言していること。
(A) 本件土地上の建物を改築するころ、本件全土地のうち50坪を譲り受けたいから了承してくれという書面を他の共同相続人であるEほか2名に送ったのは、Eから本件全土地の一部を買うつもりがあるかどうかはっきりしてくれという依頼があったためで、同人の提案する50坪を買うことにして覚書を送った。
(B) 本件売買契約書の証拠金100,000円は、大して深い意味ではなくて、ただ売買しましたよということを証拠に残しておこうという程度のことである。
(C) 本件土地をCと共有で買い受けた時、同人が借地権者でないことを見落としていた。
(D) 被相続人の建物が、本件土地にはみ出して建つことに何の疑問も持たなかった。
B Eは、本件訴訟で、本件全土地について、売買を原因とする所有権移転の仮登記がなされていることを知ったのは、本件相続開始後である旨証言していること。
C 本件土地の境界を指示する地形図は、昭和62年10月16日に完成していること。
D Bが本件土地に建物を建築したことに対し、V税務署長が昭和62年12月3日付で「新(増・改)築、買入又は賃借等された家屋等についてのお尋ね」の照会をしたところ、 同人は、同月12日付をもって本件土地の所有者は被相続人である旨回答していること。
(ハ) 以上の事実を総合すると、次のとおりである。
A 請求人は、本件土地の引渡しは、昭和61年8月にBが自宅の建築に着手した日であり、本件売買契約を締結した同年12月13日に所有権移転の手続も完了した旨主張する。
 しかしながら、1前記(イ)のBのとおり、本件土地の売買による被相続人に係る昭和61年分所得税の確定申告が相続開始後にされていること、2前記(イ)のC及びDのとおり、本件売買契約書及び本件売買契約に係る証拠金の領収証の確定日付は、いずれも昭和62年6月8日となっており、これら契約書等の作成日を昭和61年12月13日とする確認ができないこと、3前記(ロ)のAの(D)のとおり、Bは、被相続人の建物が本件土地にはみ出して建つことに何の疑問も持たなかったこと並びに4前記(ロ)のDのとおり、本件売買契約の締結後に提出されたV税務署長に対するBからの回答文書では、本件土地の所有者を被相続人とし、本件土地を被相続人からの借地であるとしていることなど請求人の主張と相反する事実が認められる。
B 本件売買契約書には、引渡しと同時に残代金の支払をする旨の約定があるところ、前記(イ)のEのとおり、本件相続の開始日現在残代金の支払がなく、また、前記(ロ)のCのとおり、境界を指示する地形図は相続開始後に作成されたものと認められるなど本件土地の引渡しは、本件相続の開始日現在なされていないといわざるを得ない。
C 前記(ロ)のAの(C)によれば、Cは、借地権を有しないにもかかわらず、本件土地を著しく低額で取得したことになり、また、前記(ロ)のBによれば、Eが本件売買契約の存在を本件相続の開始後に知るなど極めて不合理なことといわなければならない。
 なお、Cは、相続税法第7条に規定する低額譲受に該当し、贈与税の申告が必要であるにもかかわらず、贈与税の申告をしていない。
D そうすると、前記(イ)のC及びDのとおり、本件売買契約書が作成された事実は外形的に認められるものの、前記Aのとおり、当事者間に本件土地がB夫婦のものとする認識も認められず、また、前記Bのとおり、その契約書に記載された条項も約定どおり履行されていないので契約の効果の発生を確認することもできず、更に、前記Cのとおり、被相続人の死後その事実が露見するなど、当該契約は、祖母と孫という特殊な親族関係を基にして何ら第三者の目に触れることなく存在したものであると認められる。
 したがって、本件土地の所有者は、名義人である被相続人と認められ、Bは、本件土地を使用貸借により使用していたものと解するのが相当であり、本件土地に係る本件売買契約が成立していたとする請求人の主張は採用することができない。
ハ 以上のとおり、本件土地に賃借権の設定はなく、本件土地を相続財産であるとした原処分は相当である。

(2) 課税価格及び納付すべき税額について

イ 本件全土地の評価額について
(イ) 請求人は、前記2の(1)のイの(ハ)のとおり、本件全土地のがけ地部分について評価上考慮すべきであるとして、本件全土地の道路に面した側の反対側の西側部分全面につき長さ27.55メートル、幅2メートルにわたってがけ地となっている旨主張する。
(ロ) 当審判所が調査したところ、本件全土地の評価をするに当たり、相続税財産評価に関する基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか1課共同国税庁長官通達をいい、平成3年12月18日付課評2ー4ほか1課共同による改正前のものをいう。)の20《不整形地、無道路地、袋地等、がけ地等の評価》の定めにしたがって、がけ地等でないとした場合の価額に、その宅地の総地積に対するがけ地部分等の地積の割合に応じた同通達の付表8「がけ地補正率表」に定める補正率を乗じた価額によって評価するのが相当と認められるので、本件全土地の評価額は、次のとおりとなる。
A 本件全土地のうちがけ地がないとした場合の1平方メートル当たりの価額
 (正面路線価)750,000円+(側方路線価)550,000円×(側方路線影響加算率)0.07 = 788,500円
B がけ地補正率
 1がけ地部分の地積
 28.13m×2m=56.26平方メートル
 2総地積に対するがけ地部分の地積の割合
 56.26平方メートル÷475.04平方メートル=約0.12
 3がけ地補正率表に定める補正率 0.10以上0.20未満の場合は0.95
C がけ地補正率を乗じた1平方メートル当たりの価額
 788,500円×0.95 = 749,075円
D 本件全土地の相続税評価額
 749,075円×475.04平方メートル = 355,840,588円
ロ 債務控除等について
 原処分庁は、本件賃貸借契約が認められないとして被相続人に支払われた6,500,000円について、同人の預り金として債務控除することが相当である旨主張する。
 ところで、当審判所が調査したところによれば、前記(1)のイの(イ)のFのとおり、上記預り金6,500,000円のほかにも昭和54年7月13日に500,000円が支払われた旨の領収証が存し、同月26日に3,000,000円の本件賃貸借契約書に基づいて被相続人に振り込まれた金員があると認められるので、当該金員についても被相続人の預り金として債務控除することが相当である。
 更に、前記(1)のロの(イ)のDのとおり、昭和61年12月13日付で100,000円の本件売買契約書に基づいて支払われた旨の領収証が存することから、当該金員についても同様に被相続人の預り金等として債務控除することが相当であると認められる。
 なお、本件賃貸借契約書に基づいて支払われたとされる本件地代については、1前記(1)のイの(ハ)のBのとおり、その一部が、被相続人からBに還流されていること、2その余の部分についても、Eは、本件訴訟において、被相続人に対し同人の夫の死亡した昭和50年4月から昭和61年12月までの間月30,000円、ボーナス時100,000円ないし200,000円を援助していた旨の証言があり、扶養義務のある者間の通常必要と認められる範囲の生活費相当額と解されるから債務控除しないことが相当であると認められる。
 また、原処分庁は、本件土地は売買されていないことから、本件売買契約に基づく未収入金及び本件土地の売買についての譲渡所得に係る公租公課は存在しないとして相続税の課税価額の計算を行っているが、当審判所の調査によっても上記認定は相当と認められる。
ハ 以上の結果、課税価格及び納付すべき税額について、相続税法第55条の規定に基づいて計算すると、別紙のとおりとなり、これらの金額は本件更正処分に係る金額に満たないから、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。

(3) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 請求人には、本件相続に係る相続税の申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額のうち一部取消しにより減額される部分以外の税額に係る事実を相続税の申告の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。

 したがって、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額のうち当該減額される部分以外の税額を基礎とする部分に係る過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

 ところで、過少申告加算税の基礎となる税額は22,890,000円であるから過少申告加算税の額は2,984,500円となるところ、この金額は、賦課決定処分に係る金額3,602,500円に満たないので、賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。

(4) その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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