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(平5.10.21、裁決事例集No.46 215頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 原処分庁は、審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、平成3年1月31日付で昭和62年分贈与税の課税価格を7,523,600円、納付すべき税額を、2,566,500円とする決定処分及び無申告加算税の額を384,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成3年4月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月27日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成3年7月24日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 決定処分について
(イ)贈与の認定
 原処分庁は、請求人が昭和62年1月31日に請求人の母a(平成元年10月6日死亡、以下「a」という。)から、同人名義のP市R区S町1861番の1所在の土地330.58平方メートル(以下「本件土地」という。)の売却代金の一部7,523,600円(以下「本件金員」という。)を受領したことについて、贈与により取得したものと認定しているが、原処分庁は、次のとおり事実の認定を誤ったものであり、本件金員は、昭和37年10月30日に死亡した請求人の父b(以下「b」という。)から相続により取得したbの遺産の代償金である。
A 原処分庁は、請求人から、本件金員がbの遺産の代償金であることを証明する書類の提出がないというが、それを証明する書類である1bの相続に係る遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)、2同協議書に添付した請求人の印鑑登録証明書及び3昭和62年1月31日付の受領書(以下「本件受領書」という。)など関係書類の一切は、bの長男で、共同相続人であるc(以下「c」という。)が隠ぺいしている。
B 原処分庁は、bの二男で、共同相続人であるd(以下「d」という。)の特別代理人であったe(以下「e」という。)の陳述を採用して、本件遺産分割協議書が正式の手続を経て作成され、同協議書はbの相続人全員に渡されていると主張するが、次のとおり事実と相違する。
(A)c以外の相続人は、本件遺産分割協議書を受け取っていない。
(B)bの七女で、共同続続人であるf(以下「f」という。)は、本件遺産分割協議書に押印したことがない。
(C)請求人、f及びbの二女で共同相続人であるg(以下「g」という。)の3名は、当時、印鑑登録をしていなかったので、仮に、これらの3名の印鑑登録があり、その届出印が本件遺産分割協議書に押印されていたとすれば、誰かが印鑑登録の届出をしたものである。
C 原処分庁は、bの三女で、共同相続人であるh(以下「h」という。)の申述を全面的に採用して、本件金員の授受を贈与によるものと判断しているが、同申述は虚偽である。
 なお、hの申述が「土地売却代金につきaも加えた4人で分けた」とのことであれば、このことは、本件土地は、aが単独で相続した土地でないことを前提としており、本件金員の授受はbの遺産の一部分割となる。
D 原処分庁は、cの申述についても全面的に採用して、本件金員の授受を贈与によるものと判断しているが、本件金員の受領の際、本件受領書に請求人が署名押印したということはなく、それはcが偽造したものである。
 また、原処分庁は、本件受領書の印影が請求人の印鑑登録証明書の印影と同様の印影であると主張するが、請求人はそれらの原本を確認していない。
(ロ)贈与税の課税価格
 aから受領する金額は、当初7,523,600円の予定であったが、aの年金が支給されなくなるとの理由から200,000円を差し引かれ、実際に受領した金額は7,323,600円である。
 したがって、仮に、前記(イ)の主張が認められなかったとしても、請求人の贈与税の課税価格は、7,323,600円であり、原処分庁は、課税価格を過大に算定している。
ロ 無申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い無申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 決定処分について
(イ)贈与の認定
 請求人は、本件金員はbの遺産に係る代償金であり、aから贈与により取得したものではない旨主張するが、次のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がない。
A 原処分庁の調査によれば、本件金員がbの遺産の代償金であることを示す関係書類をcが隠ぺいしている事実は認められない。
B cは、異議審理庁の異議審理担当職員(以下「異議審理担当職員」という。)に対し、本件遺産分割協議書はeが作成したもので、自己の管理下に存在する旨の申述をしており、また、1eが、aにbの遺産分割の書類の作成を依頼され同協議書を作成したこと、2その内容は、請求人の場合、現金10,000円を相続するということ及び3eは、同協議書を相続人全員に一通ずつ渡している旨陳述していることなどから判断すると、相続人らにおいて遺産分割協議がなされたことは事実と認められる。
C hが「土地売却代金をaも加えた4人で分けた」と申述したからといって、その土地が未分割であったことにはならず、単にaが請求人に現金を贈与するに当たり、bから相続により取得した土地を売却して、その売却代金の4分の1を贈与したというにすぎない。
 また、原処分庁の調査によれば、hの申述が虚偽であることを証するものは認められない。
D 本件受領書について、本件金員の授受が行われた当時aの代理人であったcは、異議審理担当職員に対して次のとおり申述している。
(A)本件受領書は、cが自ら考えた文案を請求人に示し、請求人が納得の上で署名、押印したものであること。
(B)本件受領書は、cが保管していること。
(C)本件受領書の請求人の筆跡は、hにも確認してもらったが、請求人の特徴をよく表していること。
 また、本件受領書に押印されている印影は、昭和62年1月31日付P市R区長発行の印鑑登録証明書の印影と同様である。
 これらの事実を併せると、本件受領書は偽造されたものとは認められない。
 以上のとおり、本件金員は、請求人がaから贈与により取得したものであり、これをbの遺産の代償金と認めることはできない。
(ロ)贈与税の課税価格
A 異議審理担当職員に対するhの申述によれば、同人、請求人及びgの3人(以下「請求人ら」という。)は、本件金員を受領した後にcから「aが土地を譲渡したことにより多額の収入が発生し、年金が支給されなくなるのでaの年金の4分の1相当を各自200,000円ずつ負担して欲しい」と言われたところ、全員が理解を示し、そのようにした旨申し述べていることから、各自は自分の意思で200,000円を出したものと認められるから、請求人らが、aから贈与された金額は7,523,600円である。
B 以上の結果、請求人の贈与税の課税価格は、7,523,600円となり、この金額と同額でした決定処分は適法である。
ロ 無申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、決定処分は適法であり、かつ、請求人には国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条同項の規定に基づき無申告加算税を賦課したことは適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、贈与の認定の適否及び課税価格の多寡にあるので、以下審理する。

(1) 決定処分について

イ 贈与の認定
(イ)当審判所が、原処分関係資料を調査したところによれば、次の事実が認められる。
A bは、昭和37年10月30日に死亡したこと。
B 本件遺産分割協議書は、昭和38年1月20日付で作成されていること。
C 本件遺産分割協議書には、aが本件土地を相続する旨記載されていること。
D 本件土地に係る所有権移転登記は、登記簿謄本によると昭和38年4月12日付で、昭和37年10月30日相続を原因としてaに名義変更されていること。
E その後、aは、本件土地を譲渡し、その全額を自己の所得として昭和62年分の所得税の確定申告及び納税をしていること。
 また、所得税確定申告書に添付した財産及び債務の明細書に、本件遺産分割協議書においてbから相続したとされているP市R区S町1814番の1所在の宅地837.45平方メートル(以下「本件土地以外の土地」という。)を、自己の財産として記載していること。
F c及びd(以下「cら」という。)は、cらが本件遺産分割協議書においてbから相続したとされている土地の一部を譲渡し、それぞれ所得税の確定申告及び納税をしていること。
G fは、cから、同人が本件遺産分割協議書においてbから相続したとされている前記F以外の土地の一部を夫i、長女j及び長男kと共に贈与を受け、贈与税の申告及び納税をしていること。
H 本件金員は、aが本件遺産分割協議書において相続したとされている本件土地の売却代金42,000,000円から、当該譲渡に係る所得税等を差し引いた残額の一部であること。
 また、g及びhも請求人と同額の金員を取得したこと。
I 本件受領書は、昭和62年1月31日付で、請求人がaから本件金員を贈与として受領した旨の内容のものであり、その作成名義人は請求人であること。
 また、本件受領書には、請求人の印鑑登録証明書が添付されていること。
J hは、前記Hにより取得した金員に係る贈与税の申告書を提出し、納税していること。
K aは、昭和62年2月12日に、本件土地以外の土地をc及び同人の妻で、aの養女であるm(以下「m」という。)に相続させる旨の遺言公正証書を作成していること。
L 請求人は、g、f及びdの3名と共に、平成2年4月12日付で、cを相手方として、aの相続に係る遺留分減殺請求権行使による金員支払請求調停の申立て(以下「遺留分減殺請求調停事件」という。)及び平成3年3月11日付で、本件遺産分割協議書は無効であるとして、c、m、h及びbの長女で、共同相続人であるnを相手方とし、適正な分割を求める遺産分割調停の申立てをP家庭裁判所にしていること。
M eは、前記Lの遺留分減殺請求調停事件で、P家庭裁判所に、要旨次の内容の陳述書を提出していること。
(A)本件遺産分割協議書は、eがaに頼まれ相続人の人数分だけ作成したこと。
(B)遺産分割の内容は大部分をaが決め、それを他の共同相続人に話して承諾を受けていたこと。
(C)本件遺産分割協議書には、相続人全員(dについては未成年につき特別代理人であるe)が押印したこと。
 なお、fは目の前に座っていたが、印鑑を手渡されたので、eが代って押印したこと。
(D)押印してもらった印鑑は、全部印鑑登録されたものであること。
(E)本件遺産分割協議書は、相続人全員に渡したこと。
(ロ)cは、異議審理担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
A 本件受領書の文案は、cが考え、同人は本件金員の受渡しに立ち会ったこと。
B 本件受領書は、aが請求人に本件金員を渡すのと引換えに同受領書に請求人が署名押印し、請求人の印鑑登録証明書を添付したこと。
C 本件受領書は、aの代理でcが保管していること。
D aの代理でcが請求人らに本件金員を渡した後、同人は、aに土地売却代金の所得があると年金(約800,000円)が止められるかもしれないので、請求人らに各自200,000円を出して欲しい旨要請したところ、全員が理解を示し、いったん受領した本件金員の中から、請求人らは、各自200,000円をaに渡したこと。
(ハ)hは、異議審理担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
A 本件金員を受領した原因は、遺産分割協議の手続完了後に、cがfに土地を贈与したことが請求人らに知れ、それを不満とした請求人らがaに、これに見合う財産を要求した結果、土地の値上がりを待って相続した土地を売却し、現金を贈与してもらうことになったこと。
B 昭和62年1月31日、本件金員を受領した際に、本件受領書に署名押印し、印鑑登録証明書を添付したこと。
C 同人は、いったん、本件金員を受領したものの、「以前、実家に大変世話になった」という理由で、数日後、その一部をaの代理人であるcに預ける形で返却したが、その後、aの病状が悪化したことなどから、cから「預かっているものを渡したい」と言われ、返却分を受領した際に改めて全額の贈与を受けたとして贈与税の申告をしたこと。
D 本件金員を受領した後、cから、aに多額の収入が発生したため、年金が止められるので200,000円を負担してくれといわれ、そのようにしたこと。
(ニ)請求人は、異議審理担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
A bの死亡後1年以内の間に、請求人は、cから、相続の手続の文書に押印してくれと強硬に頼まれ、やむなくcに印鑑を渡したことがあること。
B 請求人は、bの遺産分割に関連して、昭和38年か39年ころ、aとの間で、後日土地を売却した際には、代償財産として現金を分配するとの口約束をしていたこと。
C 本件金員は、前記Bの口約束を実行してもらったものであること。
D 請求人は、本件金員を受領した際に、受領書に署名押印したが、その受領書は本件受領書とは書式が違うこと。
 また、その受領書の金額は、記憶していないこと。
E 本件受領書に記載されている署名は、請求人の署名に非常によく似ているが、請求人が署名押印した受領書とは違うので、偽造されたものであること。
F cは、aの年金が止められると同人の生活が困るとの理由で、本件金員から200,000円を差し引くと強引に迫ったので、やむを得ずそれを承諾したこと。
 その際、当初7,523,600円を受領し、その中から200,000円を渡したのか、当初から200,000円を差し引かれた後の7,323,600円を受領したのか、記憶していないこと。
(ホ)前記(イ)の事実及び前記(ロ)ないし(ニ)の申述を基に審理すると、次のとおりである。
A 請求人は、本件金員はbの遺産の代償金であり、それを証明する書類の一切をcが隠ぺいしている旨主張する。
 しかしながら、請求人が、本件金員がbの遺産の代償金であることを証明する関係書類であるとする本件遺産分割協議書及び本件受領書には、本件金員がbの遺産の代償金であることが読み取れる文言の記載はない。
 また、cが、請求人の主張する関係書類以外に本件金員が遺産の代償金であるということを証明する書類を隠ぺいしている事実も認められない。
B 請求人は、本件遺産分割協議書にfは押印したことがなく、また、cを除くbの相続人全員は、本件遺産分割協議書を受け取っておらず、更に、請求人、f及びgの3名は、当時、印鑑登録をしていなかったので、仮に、これらの3名の印鑑登録があり、届出印が同協議書に押印されていたとすれば、誰かが印鑑登録の届出をしたものであり、事実と相違する旨主張する。
 しかしながら、fが、本件遺産分割協議書に直接押印しなかったことについては、前記(イ)のMのeの陳述書によれば、fは本件遺産分割協議書の作成場所に他の共同相続人と同席し、同協議書に押印するためにeに印鑑を渡し、その印鑑をeが押印したとのことであり、このことをもって、直ちに本件遺産分割協議書の作成手続が違法であるとはいえない。
 また、c以外のbの相続人が本件遺産分割協議書を受け取っていないかどうか及び請求人ほか2名の者の印鑑登録が、これらの者以外の者によってなされたかどうかなどについては、それに関する証拠はなく、当審判所においてもその事実を明確にすることはできないが、前記(イ)のBないしMの事実によれば、現実に本件遺産分割協議書に記載された内容の遺産の分割が行われ、その後二十数年を経過していること及びその間にこれら相続財産の一部の処分が行われていること並びに前記(ロ)ないし(ニ)の申述の内容を総合して判断すると、本件遺産分割協議書が相続人全員の合意に基づかないで違法に作成されたものと認めるに足る証拠はない。
C 請求人は、hの「土地売却代金につきaも加えた4人で分けた」との申述は、本件土地をaが単独で相続した土地でないことを前提としたもので、本件金員の授受はbの遺産の一部分割となる旨主張する。
 しかしながら、hは、前記(ハ)のAのとおり、請求人らがaに対し財産を要求し、同人がこの要求に応じて、土地の値上がりを待って相続した土地を売却し、同人から現金を贈与してもらうことになったものである旨申述したのであって、本件土地の売却代金を4名で分けたからといって、このことにより、本件土地が未分割であったことにはならない。
 また、請求人は、hが本件金員をaから贈与によって取得したことを否定するが、前記(ハ)のhの申述内容には信ぴょう性があり虚偽であるとは認められない。
D 請求人は、本件受領書に署名押印したことはなく、cが偽造したものである旨主張する。
 しかしながら、本件受領書には、前記(イ)のIのとおり、受領日付の請求人の印鑑登録証明書が添付され、その登録印鑑が本件受領書に押印してあること及び前記(ロ)のBのcの申述、前記(ハ)のBのhの各申述等から、本件受領書は、cが偽造したものであるとの事実は認められない。
 以上のことを総合して判断すると、本件金員をaからの贈与と認定した原処分は相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 贈与税の課税価格
(イ)請求人は、aから受領する金額は当初7,523,600円の予定であったが、aの年金が支給されなくなるとの理由で200,000円を差し引かれ、実際に受領した金額は7,323,600円である旨主張する。
 しかしながら、7,523,600円から200,000円を差し引かれた理由は、c、h及び請求人の各申述によれば、本件金員の贈与が履行された際、立会人であるcの申し出を了承し、請求人の意思に基づいて、aの当面の生活費等の原資とするために200,000円をaに渡したものと認めるのが相当であり、負担附贈与、あるいは贈与の一部の取消しにも当たらない。
 そうすると、請求人がaから贈与により取得した金額は、本件受領書に記載した金額7,523,600円とするのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)以上の結果、請求人の贈与税の課税価格は7,523,600円となり、この金額は決定処分に係る金額と同額であるから、決定処分は適法である。

(2) 無申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、決定処分は適法であり、また、請求人には、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした無申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3) その他

  原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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