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(平7.2.17裁決、裁決事例集No.49 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和62年分、平成元年分及び平成2年分(以下「各年分」という。)所得税について、平成5年6月23日に納付すべき税額を昭和62年分142,000円、平成元年分480,300円及び平成2年分743,000円とする修正申告書を提出(以下「本件修正申告」という。)し、平成5年6月28日に本件修正申告による納付すべき税額のうち、平成元年分201,800円及び平成2年分552,600円を納付した。
 原処分庁は、本件修正申告により納付すべきこととなった税額のうち、昭和62年分142,000円、平成元年分278,500円及び平成2年分190,400円について、平成5年8月27日付でそれぞれ督促状の発付(以下「本件督促」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成5年10月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成5年12月17日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年1月18日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、各年分の所得税の確定申告により還付される税額昭和62年分901,100円、平成元年分278,500円及び平成2年分190,400円(以下「本件還付金」という。)を受け取っていないのであるから、本件督促は、請求人に対して二重に所得税の納付を命ずるものであり、違法かつ不当である。
ロ 所得税の確定申告における源泉徴収税額の控除不足額(以下「源泉還付額」という。)または予定納税額の控除不足額(以下「予定納税還付額」といい、源泉還付額と併せて「源泉所得税等還付金」という。)は、修正申告により納付すべき所得税の一部に充当されるべきことは法令上も当然に予定されているのであり、請求人に他の租税債務があったとしても、その租税債務に充当することは許されない。
 殊に、請求人の他の租税債務に延滞税が生じない場合は、その充当する租税を請求人において指定できるものであるから、請求人の租税債務の弁済上、不当・不利益に扱った結果に基づく本件督促は違法である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 源泉所得税等還付金があるとき、税務署長は、国税通則法第56条《還付》第1項、所得税法第138条《源泉徴収税額等の還付》第1項及び同法第139条《予納税額の還付》第1項の規定により還付するが、当該還付を受けるべき者に未納の国税があるときは、国税通則法第57条《充当》第1項の規定により、還付に代えて源泉所得税等還付金を当該未納の国税に充当しなければならないこととされている。
 なお、源泉所得税等還付金の充当に当たっては、所得税法施行令第268条《還付すべき所得税額の充当の順序》第1項の規定により、源泉還付額は、丸1先ず、その年分の未納の所得税で修正申告書の提出により納付すべきものがあるときは、この所得税に充当し、丸2なお、還付すべき税額があるときは、その他の未納の国税に充当することとされている。
 また、所得税法施行令第268条第2項の規定により、予定納税還付額は、丸1先ず、その年分の未納の所得税で修正申告書の提出により納付すべきものがあるときは、この所得税に充当し、丸2なお、還付すべき税額がある場合において、その年分の予定納税額等で未納のものがあるときは、この未納の予定納税額等に充当し、丸3さらに還付すべき税額があるときは、その他の未納の国税に充当することとされている。
ロ ところで、本件還付金を還付又は充当しようとした時点では、本件修正申告に係る所得税についてはまだ発生しておらず、請求人には、請求人の父であるAの昭和57年2月22日相続開始に係る相続税の延納に対する未納の利子税額3,307,300円(以下「未納利子税額」という。)があった。
 そこで、本件還付金については、前記イの規定に基づき、還付に代えてこれを未納利子税額に充当したものである。
 また、平成5年6月23日に請求人が提出した本件修正申告により納付を要することとなった税額が、国税通則法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項に規定する納期限までに納付されなかったので、督促状により当該所得税の納付を督促したものであり、請求人が主張するような二重に所得税の納付を命ずるものではなく、本件督促に何ら違法かつ不当な点はない。

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3 判断

 本件督促の適否について争いがあるので、調査・審理したところ、次のとおりである。
(1)当審判所において、原処分関係資料を基に調査したところ、次の事実が認められる。
イ 請求人は、昭和58年2月3日に昭和57年2月22日相続開始に係る相続税の修正申告書を原処分庁に提出し、その修正申告書の提出により納付すべきこととなった税額140,116,700円を昭和58年4月28日付の延納の許可に基づき昭和62年8月20日までに本税のすべてを納付していること。
 なお、昭和62年8月20日現在における請求人の未納の国税は、上記延納に係る利子税額3,307,300円のみとなったこと。
ロ 請求人は、昭和62年分所得税の確定申告書に、予定納税還付額417,600円及び源泉還付額483,500円の合計金額901,100円を所得税の確定申告により還付される税額として記載し、法定申告期限までに提出したこと。
 原処分庁は、未納利子税額について、昭和62年8月20日以後、請求人から納付がなかったことから、上記源泉所得税等還付金901,100円及び上記予定納税還付額に対する還付加算金13,300円の合計金額914,400円を未納利子税額に充当し、昭和63年4月12日付で、請求人に対して国税充当通知書を通知したこと。
 なお、請求人は、上記の充当について、異議申立てをしていないこと。
ハ 請求人は、平成元年分所得税の確定申告書に、源泉還付額278,500円を所得税の確定申告により還付される税額として記載し、法定申告期限までに提出したこと。
 原処分庁は、未納利子税額に前記ロの充当をした残額2,392,900円について、請求人から納付がなかったことから、上記源泉還付額278,500円を当該残額に充当し、平成2年4月12日付で、請求人に対して国税充当通知書を通知したこと。
 なお、請求人は、上記の充当について、異議申立てをしていないこと。
ニ 請求人は、平成2年分所得税の確定申告書に、源泉還付額190,400円を所得税の確定申告により還付される税額として記載し、法定申告期限までに提出したこと。
 原処分庁は、未納利子税額に前記ロ及びハの充当をした残額2,114,400円について、請求人から納付がなかったことから、上記源泉還付額190,400円を当該残額に充当し、平成3年4月5日付で、請求人に対して国税充当通知書を通知したこと。
 なお、請求人は、上記の充当について、異議申立てをしていないこと。
ホ 請求人は、前記ロの昭和62年分所得税の確定申告書に誤りがあったとして、所得税の確定申告により還付される税額が213,200円である旨記載した修正申告書を平成4年3月16日に自主的に提出し、これに伴って納付することとなった税額270,300円を平成4年8月28日に納付したこと。
ヘ 請求人は、平成5年6月23日に原処分庁の所得税の調査の結果に基づき、本件修正申告をしたが、これに伴って納付を要することとなった税額は、昭和62年分142,000円、平成元年分480,300円及び平成2年分743,000円であること。
ト 前記ヘにより納付すべきこととなった税額について、請求人は、平成5年6月28日に平成元年分201,800円及び平成2年分552,600円を納付していること。
チ 原処分庁は、前記への昭和62年分142,000円並びに前記ヘとトの差額、平成元年分278,500円及び平成2年分190,400円が、納期限を過ぎた平成5年8月27日までに請求人から納付されなかったので、平成5年8月27日付で本件督促をしたこと。
(2)国税通則法第57条第1項において、税務署長は、還付金等がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、同法第56条第1項の規定による還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならない旨規定している。
 また、国税通則法第57条第2項は、同条第1項の規定による充当があった場合には、充当をするのに適することとなった時に、その充当をした還付金等に相当する額の国税の納付があったものとみなす旨規定している。
(3)国税通則法第37条《督促》第1項は、納税者がその国税を納期限までに完納しなかった場合には、税務署長は、その納税者に対して、督促状によりその納付を督促しなければならない旨規定している。
(4)ところで、請求人は、本件還付金を受け取っていないのであるから、本件督促は請求人に対して各年分の所得税を二重に納付することを命ずるものであり、違法かつ不当である旨主張するので、以下検討する。
イ 前記(1)のロないしニの事実によれば、原処分庁は、昭和62年分所得税の法定納期限において、請求人が納付すべき未納利子税額があったことから、昭和62年分所得税の確定申告により還付すべき税額を、還付に代えて未納利子税額に充当した。
 また、上記の充当以後、その未納利子税額の残額について、平成元年分及び平成2年分所得税のそれぞれの法定納期限までに請求人から納付がなかったことから、原処分庁は、平成元年分及び平成2年分所得税の確定申告により還付すべき税額を、還付に代えて未納利子税額の残額に充当したことが認められる。
ロ 原処分庁は、前記イの充当に当たり、その都度、国税充当通知書を請求人に対して通知したが、請求人は、いずれも当該通知を受けた日の翌日から起算して2月以内に、異議申立てをしていないことが認められる。
ハ そうすると、各年分の所得税の確定申告により還付される税額は、未納利子税額に充当したことにより、いずれも利子税の納付があったものとみなされることとなる。
 また、原処分庁は、前記(1)のチのとおり、納期限を過ぎた平成5年8月27日までに昭和62年分142,000円、平成元年分278,500円及び平成2年分190,400円の所得税が納付されなかったことから、国税通則法第37条第1項の規定に基づき本件督促をしたものと認められる。
 したがって、本件督促が、請求人に対して各年分の所得税を二重に納付することを命ずるものであるとする請求人の主張には理由がない。
(5)さらに、請求人は、源泉所得税等還付金は修正申告により納付すべき所得税の一部に充当されるべきことは法令上も当然に予定されているのであり、請求人に他の租税債務があったとしても、これに充当することは許されない旨主張するが、源泉所得税等還付金が発生した場合には、その年分の未納の所得税で修正申告書の提出により納付すべきものがあるときは、その他の未納の国税に優先して充当するものであるところ、請求人には、源泉所得税等還付金の発生時にこれらの事実はなく、原処分庁は、国税通則法第57条第2項に規定する充当適状にあったその他の未納の国税である未納利子税額に充当したことが認められる。
 また、請求人は、請求人の他の租税債務に延滞税が生じない場合は、充当すべき租税を請求人において指定できるものであるから、請求人の租税債務の弁済上、不当・不利益に扱った結果に基づく本件督促は違法である旨主張するが、前記(4)のとおり、充当が確定しており、一度確定した充当による国税の納付をその後に発生した請求人の国税に振り替えて充当する規定はなく、これらはいずれも請求人の独自の見解というべきであり、採用することができない。
 以上のとおり、国税通則法第37条第1項の規定に基づき原処分庁が行った本件督促は適法である。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査・審理したところによっても、これを不相当とする理由は認められない。

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